新型コロナウイルス感染症「COVID-19」(COronaVirus Disease 2019)をめぐって、このところ「抗体検査」をおこなえるようになることに向けて期待する声が上がっています。たとえばロイター通信は、(2020年)3月29日付で「焦点:新型コロナの局面変えるか、抗体検査に希望の光」という記事を出しています。日本でも、3月28日(土)未明に放送されたテレビ朝日系「朝まで生テレビ」で話題になりました。
一般的に、ウイルス感染症に関する抗体検査とは、特定の感染症に対する免疫をからだがすでに備えているかどうかを確かめるための検査です。抗体とは、ウイルスの侵入を受けたからだが、その刺激でつくりだすたんぱく質のことを指します。抗体がつくられるとそのウイルスをやっつけようとするしくみがはたらき、からだを防御するようになります。これも一般的な話ですが、一度その感染症にかかるか、ワクチンを接種するかで、その感染症に対する抗体がつくられます。
新型コロナウイルスをめぐっては、若い人などでは感染しても症状が出ない場合も多いとされています。いつのまに感染していて、とりたてて症状がないまま日々を過ごし、抗体による免疫のしくみがすでにできていた、といったような人がいることも考えられます。
すると、「自分がすでに新型コロナウイルスに対する抗体をすでにもっているか」を検査で確かめて、検査の結果「すでに抗体をもっている」とわかれば、その人は未感染の人にくらべて、すでに感染はしづらい状態になっている可能性があります。ただし、下記で議論する「再感染」の危険性がなければという条件つきなので、いまはまだ可能性の話になりますが。
いまのところ、「新型コロナウイルスに感染しているかどうか」を確かめる方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)検査法という方法があります。インフルエンザウイルスの遺伝子を増やして、検出する方法です。新型コロナウイルスがからだに存在するかどうかを調べることが唯一といってよいでしょう。
しかし、ポリメラーゼ連鎖反応検査法は、基本的に発熱やせきなどの症状が出ている人に対して、「いまかかっているか」を確かめるために使われています。また、検査では専門家が対象者ののどの奥から慎重に試料を採りださなければならず、新型コロナウイルスに感染しているかどうかがわかるまでに数日はかかるとされます。
これに対して、抗体検査法では、もし実現すれば調べたい人がみずからで血を採取して調べることも可能とされます。そして、すでに抗体があるかどうかの結果は、検査から15分ほどでわかるとされます。
つまり、発熱やせきなどの症状が出ていない人は、抗体検査法で「感染していたかどうか」を調べることができれば、「自分はこれからも感染に注意すべきか、それほどでもないのか」がわかるわけです。
ただし、いまのところ新型コロナウイルスの正体が未解明な点があるがゆえの課題もあります。
ひとつは「再感染」しないという確証がまだ得られていないという点です。たとえ、新型コロナウイルスに感染して、このウイルスに対する抗体ができたとしても、さらに抗体の能力をウイルスの能力が上まわってふたたび感染するようなことがあれば、すでに抗体ができているからといって感染しない確証はありません。
また、一般的にポリメラーゼ連鎖反応検査法にくらべて、抗体検査法の精度は劣るとされます。調べたい人が自分で抗体検査キットを入手して自分で血液採取し、自分で判断したところで、果たして「自分は抗体があるのだから感染する心配をせずに社会活動をしても大丈夫」となるのかは、なんともいえません。ほかの医療機器が使われるときとおなじく臨床試験の段階を踏む必要があることはいうまでもありません。製造や販売が承認されても、希望者が一斉に検査を始めるというよりも、徐々に検査が広まっていくほうが、危険性や混乱はすくなくなるでしょう。
新型コロナオイルの抗体検査キットの開発をめぐっては3月17日(火)塩野義製薬が「新型コロナウイルス IgG/IgM 抗体検査キット製品の導入に向けたマイクロブラッドサイエンス社との業務提携について」という発表をしています。医療検査器具の開発や検査サービスをおこなっているマイクロブラッドサイエンス社と業務提携して、抗体検査キットの導入を急ぐというもの。
ただし、この検査キットが使われる状況として、塩野義製薬は「空港や港で検疫官(医師)の判断の下で行う入国者の検査」や「COVID-19 患者が勤務、登校していた事業所や学校、その他、クラスターでの接触者等の検査」などにとどめています。広く万人が気軽に使うことまでは考えていないようです。
世界でも、複数の学術研究機関や医療関係企業が、採血による抗体検査法の開発を急いでいると、ロイター通信は伝えています。
感染拡大を抑えることと、経済活動を保つことの両方の均衡をはかるべきとする議論のなかで、今後さらに、抗体検査を実現させることの重要性はいわれていくことでしょう。
なお、経済産業研究所上席研究員の関沢洋一さんが、「新型コロナウイルスに対する抗体検査への期待」という特別コラムで、抗体検査の利点や課題などを整理してわかりやすく説明しています。こちらです。
https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0553.html
参考資料
ロイター 2020年3月29日付「焦点:新型コロナの局面変えるか、抗体検査に希望の光」
https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-immune-test-idJPKBN21E0F3
東京都感染症情報センター「インフルエンザウイルスの検査法」
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/flu/news/1998-2002/pro/p7/
経済産業研究所 特別コラム 2020年3月27日掲載「新型コロナウイルスに対する抗体検査への期待」
https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0553.html
塩野義製薬 2020年3月17日発表「新型コロナウイルス IgG/IgM 抗体検査キット製品の導入に向けたマイクロブラッドサイエンス社との業務提携について」
http://www.shionogi.co.jp/company/news/2020/qdv9fu000001o1fv-att/200317.pdf