中学生、高校生、大学生などの就学生たちは「試験」を受けます。中学生や高校生は中間テストや期末テスト、さらに入学試験に臨みます。大学生も大学院試験などに臨みます。
だれもが、試験に臨むわけですが、なかには不正をはたらいたとして、受験する権利をその場で奪われる人もいます。
では、つぎの場合は不正となるでしょうか。
ある“中学生経験者”は、中学校での期末試験で、社会科の試験をほぼ“一夜づけ”で臨もうとしていました。
社会科の試験では、地名などの固有名詞を問われる問題が出されるものです。たとえば、「732年、フランク王国とウマイヤ朝のあいだで起きた戦いをなんというか」といった問題が出されました。答は「トゥール・ポワティエ間の戦い」です。
一夜づけで臨んだこの中学生は、試験当日までべつのことを考えていたのでしょう。この戦いについての知識を得ていませんでした。
しかし、この中学生はねばりました。社会科の試験直前まで教科書を読み、「トゥール・ポワティエ間の戦い」が試験で出るかもしれないと感じたのでした。そこで、この中学生は、試験官の先生から「では、準備するように」と言われてからも、「トゥール・ポワティエ」「トゥール・ポワティエ間」「トゥール・ポワティエ」と、口で呟きつづけ、この固有名詞を忘れないようにしました。
「では教科書や参考書をしまって」と試験官から言われ、試験用紙が配られ、いざ試験開始。すると、この中学生はまっさきに、試験用紙に鉛筆で「トゥール・ポワティエ」と書いたそうです。この戦いの場所のよび名が、うろ覚えにならないために。
ところが、この中学生は、試験官の先生から「おい、お前。なにやってるんだ。いかんぞ」と、たしなめられたそうです。試験を受ける権利を奪われることはなかったそうですが。
この中学生は、試験直前まで教科書を見て、問題に出そうな「トゥール・ポワティエ」という地名を覚えようとしていたわけです。そして、その地名を忘れないため、試験開始後すぐ問題用紙に「トゥール・ポワティエ」と書いたわけです。
この“中学生経験者”は、「これのどこが『いかんぞ』なのでしょうか」と憤ります。「『直前に得た知識を、問題用紙に記してはいけない』といった規則が、その試験で課せられていないかぎり、この方法は不正とはいえないでしょう。『おい、お前。なにやってるんだ。いかんぞ』といってきた先生が、試験を受ける権利を奪わなかったことも、それを表しています」。
試験を受ける側の就学者は、めったに「試験を受けているとき、この行為は不正となる」といった規則を示されることなく、試験を受けます。なにをしてもよいか、悪いかは、常識の範囲とされているのでしょう。しかし、人により不正かどうかの判断が分かれる行為もあるもの。先生が「これは不正だ」と判断したら、不正となってしまうことはよくあることです。