さまざまな情報媒体があるなかで、ラジオの重要な役目に、災害関連情報があります。たとえば大地震が起きて、停電によりテレビが使えなくなったときも、ラジオには電池にうよりしばらく使いつづけることができる、といった利点があります。各ラジオ局は、防災や災害についての情報を伝えることに力を入れています。
近ごろでは、スマートフォンなどからインターネット経由でラジオを聴けるようにもなっており、災害のとき使える機会は増えてきています。
しかし、ラジオで災害情報を伝えるうえでの根本的な問題もあります。インターネットラジオでは放送の遅延が生じるため、地震が生じた直後の「緊急地震速報」の意味をほぼなさないという問題です。
インターネットのラジオでは、音声が途切れることを防ぐため、ある程度の音声データを貯めておき、それを途切れないようにして流す「バッファ」とよばれるしくみがあります。これは、放送がすこし遅延することを犠牲にして、放送が途切れないことを選ぶ、といった状況といえます。
スマートフォンの「Radiko」でのバッファ時間設定
インターネットでラジオを聴ける機能のひとつ「Radiko」には、「メニュー」のなかに「バッファ設定時間」という項目があり、これにより標準の「1分」よりも、遅延時間を短くすることはできます。しかし、もっとも短い設定にしても「15秒」の遅延が生じることを余儀なくされます。さらに、パーソナルコンピュータで使うRadikoには、このバッファ設定の機能が見あたりません。
緊急地震速報は、地震が起きて揺れが大きくなる前の数秒の人びとの対応のしかたや心がまえを促すもの。インターネットラジオを聴いていると、従来のAM(Amplitude Modulation)波やFM(Frequency Modulation)波よりも、緊急地震速報が耳に届くのは、いくら早くても15秒後ということになります。
大地震のときの災害情報は緊急地震速報から始まるとすると、インターネット経由がさかんになってきているラジオは、その役割を果たせていないことになります。
そこで、これから期待されるのは、インターネットで「第5世代移動通信システム」とよばれる通信のしくみが使われようとしていることです。このしくみではいま使われている「第4世代」よりも100倍、通信速度が高まるというふれこみ。2020年には社会で本格的に使われはじめるとされています。
通信速度とは、1秒間などのある時間に送受信することのできるデータの量のこと。Radikoなどのインターネットラジオでも、音声が途切れないようにつぎつぎと音声データを送受信できれば、しばらくの時間データを貯めておくといったことは不要あるいは、より短時間に縮められるかもしれません。
しかし、いまのところ、ラジオ各局や、民間局が集まった日本民間放送連盟が、第5世代移動通信システムの時代を迎えてインターネットラジオでの放送遅延をどれほど短くするかの見解は見あたりません。
さらに、日本民間放送連盟は、2019年ごろより、FM放送とインターネットラジオのふたつを兼ねそなえた「ラジスマ」という機器を開発したとして、大きく宣伝をしています。「遅延がない」FM放送を「ラジスマ」で聴けることを宣伝するということは、第5世代通信移動通信システムが始まってもインターネットラジオの放送遅延の問題解決は期待するなという意味あいがあるのでしょうか。
第5世代移動通信システムでは、デジタル情報の送受信を「低遅延」でおこなうことができることも売りとなっています。これにより遅延の度は、いまの通信規格「LTE(Long Term Evolution)」の10分の1になるとも。インターネットラジオにも生かせそうな技術ではあります。
参考資料
読売新聞オンライン 2018年3月26日付「通信速度100倍! 次世代通信『5G』とは?」
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20180323-OYT8T50015/
IT media Mobile 2018年11月17日付「『5G』は『LTE』と何が違う? 歴史と共に振り返る」
https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1811/17/news012_2.html
日本民間放送連盟 2019年3月27日発表「ラジオの意義と課題」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000610221.pdf
KDDI「次世代モバイル通信『5G』で低遅延を実現」
https://iot.kddi.com/column/5g_business/