10億分の1グラムで1個とすると、60キログラムで60兆個――ヒトの細胞の個数を求める(1)
書誌学的かつまた数学的な計算法から、3.72×10の13乗個――ヒトの細胞の個数を求める(2)
用いた方法は、書誌学的調査、形態学的評価、数学的計算――ヒトの細胞の個数を求める(3)
文献からは10兆個から10京個、では細胞の種類ごとの数は――ヒトの細胞の個数を求める(4)
写真作者:Mike Knell
エヴァ・ビアンコーニらの2013年の論文「人体の細胞数の推定」(An estimation of the number of cells in the human body)によると、下記がヒトの体の各組織・器官における細胞の個数として算出された数といいます。これらの数は、それぞれ計算した結果として生じたばらつきを平均化したものです。
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脂肪組織
脂肪細胞 5.00×10の10乗個、つまり500億個
関節軟骨
大腿骨軟骨細胞 1.49×10の8乗個、つまり1億4900万個
上腕骨頭軟骨細胞 1.23×10の8乗個、つまり1億2300万個
距骨軟骨細胞 8.06×10の7乗個、つまり8060万個
胆管系
胆管細胞 7.03×10の7乗個、つまり7030万個
胆嚢上皮細胞 1.61×10の8乗個、つまり1億6100万個
胆嚢内皮カハール様細胞 4.94×10の5乗個、つまり49万4000個
胆嚢平滑筋細胞 1.58×10の9乗個、つまり15億8000万個
胆嚢間質細胞 8.48×10の6乗個、つまり848万個
血液
赤血球 2.63×10の13乗個、つまり26兆3000億個
白血球 5.17×10の10乗個、つまり517億個
血小板 1.45×10の12乗個、つまり1兆4500億個
骨
皮質骨細胞 1.10×10の9乗個、つまり11億個
小柱骨細胞 7.11×10の8乗個、つまり7億1100万個
骨髄
核細胞 7.53×10の11乗個、つまり7530億個
心臓
結合組織細胞 4.00×10の9乗個、つまり40億個
心筋細胞 2.00×10の9乗個、つまり20億個
腎臓
糸球体細胞 1.03×10の10乗個、つまり103億個
肝臓
肝細胞 2.41×10の11乗個、2410億個
クッパー細胞 9.63×10の10乗個、つまり963億個
星細胞 2.41×10の10乗個、つまり241億個
肺、気管支、細気管支
1型肺胞上皮細胞 3.86×10の10乗個、つまり386億個
2型肺胞上皮細胞 6.99×10の10乗個、つまり699億個
肺胞マクロファージ 2.90×10の10乗個、つまり290億個
基底細胞 4.32×10の9乗個、つまり43億2000万個
繊毛細胞 7.68×10の9乗個、つまり76億8000万個
内皮細胞 1.41×10の11乗個、つまり1410億個
杯細胞 1.74×10の9乗個、つまり17億4000万個
細気管支細胞 3.30×10の9乗個、つまり33億個
間質細胞 1.37×10の11乗個、つまり1370億個
気管支分泌細胞 4.49×10の8乗個、つまり4億4900万個
プレシリエーティッド細胞 1.03×10の9乗個、つまり10億3000万個
神経系
グリア細胞 3.00×10の12乗個、つまり3兆個
神経細胞 1.00×10の11乗個、つまり1000億個
膵臓
島細胞 2.95×10の9乗個、つまり29億5000万個
骨格筋
筋繊維 2.50×10の8乗個、つまり2億5000万個
サテライト細胞 1.50×10の10乗個、つまり150億個
皮膚
皮膚線維芽細胞 1.85×10の12乗個、つまり1兆8500億個
皮膚肥満細胞 4.81×10の7乗個、つまり4810万個
表皮角質細胞 3.29×10の10乗個、つまり329億個
表皮核細胞 1.37×10の11乗個、つまり1370億個
表皮ランゲルハンス細胞 2.58×10の9乗個、つまり25億8000万個
表皮メラノサイト 3.80×10の9乗個、つまり38億個
表皮メルケル細胞 3.62×10の9乗個、つまり36億2000万個
小腸
腸細胞 1.67×10の10乗個、つまり167億個
胃
G細胞 1.04×10の7乗個、つまり1040億個
壁細胞 1.09×10の9乗個、つまり109億個
副腎
髄質細胞 1.18×10の9乗個、つまり118億個
束状帯細胞 6.67×10の9乗個、つまり667億個
球状帯細胞 1.77×10の9乗個、つまり177億個
網状帯細胞 7.02×10の9乗個、つまり702億個
甲状腺
明細胞 8.70×10の5乗個、つまり87万個
濾胞細胞 1.00×10の10乗個、つまり100億個
血管
血管内皮細胞 2.54×10の12乗個、つまり2兆5400億個
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これらを足し算すると、著者ビアンコーニらによると「3.72×10の13乗個」つまり「37兆2000億個」になるとのことです。
そしてビアンコーニらは、論文をつぎの1文でしめくくっています。
「われわれの最初となる人体における細胞数参照表は、共通努力で完成したとき、量的な測定を必要とするすべての生物医学分野における多くの有用なアプリケーションをもつだろうし、それはヒトの組織と全体の、構造的で、機能的で、病理的な比較モデルをつくるのに役立つものになるだろうと信じている」
これは、ヒトの総細胞数の数えあげが完成したということでなく、さまざまな人の努力によって、これから完成するものであることを示唆しているものと捉えられます。
日本でいわれてきた「ヒトの細胞数は60兆個」というのは、ヒトの体重と、推定されている細胞1個の重さから算出されたものでした。
いっぽう、ビアンコーニらはおもに、ヒトの体に存在するさまざまな臓器・器官ごとに細胞の数を推定し、それを足し算して「ヒトの細胞数は37兆2000億個」という「最初」の結論に達したのでした。了。
参考資料
Eva Bianconi et al. “An estimation of the number of cells in the human body”
https://www.researchgate.net/publication/248399628_An_estimation_of_the_number_of_cells_in_the_human_body