科学技術のアネクドート

過去には地平線のすぐ上の月食も……
きょう(2018)年1月31日(水)は日本で「皆既月食」が観察できる日です。

「月食」とは、太陽の光の通りみちに地球があることで、月面が欠けて見える現象のこと。さらに「皆既月食」は、月の全体が地球の影のなかに入ってしまう現象を指します。

2018年1月31日の月食は20時48分から始まり、21時51分には月がすべて地球の影に入る皆既月食となり、それが23時8分まで続きます。そして、翌2月1日の0時11分に月食が完全に終わります。

月の位置がわりかし高いのが、今回の月食の特徴とされます。東京で食が最大になるときの月の高度は63度。首をかなり上げて眺める必要がありそうです。

よく知られているのは、高い位置にある月とは逆に、低い位置にある月は大きく見えるように感じる、というもの。これは目の錯覚にすぎないことがわかっています。

では、今回の月食とは逆に、低い位置で観測された月食にはどのようなものがあったのでしょう。目の錯覚とはいえ、やはり迫力のある景色にうつるのでしょうか。

インターネットの画像検索で、「地平線」「月食」をそれぞれ意味する[”horizon” “lunar eclipse”]と入れて検索をかけると、それなりの写真が出てきます。さらに適当な画像を選んで「もっと見る」に進むと、地平線のすぐ上に位置で月食が起きているの撮った写真な多くでてきます。



それらの写真に写っている地上物は森などの自然であるため、規模感がつかみづらいはずですが、それにもかかわらず、大きく見えます。

上の画像の左上つまり最上位にある記事では、2006年9月7日に北アイルランド地方で観測された月食であるという説明があります。そしてこれは、月の上部が欠ける部分月食だったようです。撮影者は「東から月が昇っていく、私の選んだ場所は完璧だった……」と満足そうです。

きょう、夜の天気が曇りがちな場所は多いようですが、雲の合間などから月食は見られるでしょうか。

参考資料
国立天文台「皆既月食(2018年1月)」
https://www.nao.ac.jp/astro/sky/2018/01-topics04.html
AstroArts「2018年1月31日 皆既月食」
https://www.astroarts.co.jp/special/20180131lunar_eclipse/index-j.shtml
Nightskyhunter.com “September 7th Partial Lunar Eclipse 2006”
http://www.nightskyhunter.com/Sept%207th%20Partial%20Lunar%20Eclipse.html
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ゲノムの情報を大量に得て創薬にいかす

写真作者:Adam Nieman

「医療の進歩のために大切なものは」と医療に携わる人に聞いたら、どんな答えがかえってくるでしょうか。研究予算でしょうか。医用器具の開発でしょうか。

かなりの人は「情報」と答えるのではないでしょうか。医療において、情報を得て、その内容を明らかにすることは、治療法を築いたり新しい薬を創ったりするために、とても大切だということです。

かつてから、医療に携わる人は、「患者についての情報」を得ようと努めてきました。たとえば、医師が患者の脈や血圧などの生命兆候を診ることは医療の基本中の基本とされています。

そして現代になり、「患者についての情報」の対象は、患者のゲノムつまり遺伝子情報の総体にも及んでいます。患者のゲノムの情報を解析することにより新たな薬の開発をしようとする研究がおこなわれています。ゲノムの情報を活かした創薬の方法を「ゲノム創薬」といいます。

たとえば、ある特定の病気の患者たちに協力してもらい、それぞれのゲノムの情報を得るとします。具体的には、デオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)を構成する「アデニン(Adenine)」「チミン(Thymine)」「グアニン(Guanine)」「シトシン(Cytosine)」という4種類の塩基の並びかたの情報を得ます。あるいは、デオキシリボ核酸に含まれる遺伝子の部分からつくられるたんぱく質の情報を得ます。

その結果、患者のゲノムやたんぱく質の情報と、健康な人たちのゲノムやたんぱく質の情報とのあいだに、傾向のちがいを見つけられるかもしれません。そして、その傾向のちがいが、患者に病気をもたらす原因となっているかもしれません。

遺伝子の情報をもとにつくられるのはたんぱく質ですから、問題の遺伝子によりつくられるたんぱく質が、体のなかではたらくのを妨げる物質を用意して患者にあたえれば、理屈のうえではその病気を防げるはずです。そんな物質を薬として生みだすことが、ゲノム創薬にほかなりません。ゲノムの情報から、標的となる遺伝子の部分やたんぱく質を絞りこめるため、ゲノム創薬では効率よく薬を開発できるともいわれます。

ヒトゲノム解析計画の完了が宣言されたのが2003年。それから15年間でゲノムを読みとる速度は格段に高まりました。1日や2日で一人のゲノムすべてを読みとれる時代です。

そのため、最近では、特定の病気をもつ患者だけでなく、たとえば医療機関で診断を受けるたくさんの人のゲノムの情報を網羅的に集めて、そこからなにかの病気の原因となる遺伝子の部分を探ったりして、ゲノム創薬につなげようとする考えかたも現れてきました。いわゆるビッグデータの活用です。

情報技術が進歩することにより、昔よりはるかに多くの情報を得たり、その内容を明らかにしたりすることが簡単になりました。このことが医療の歩みを進めているというわけです。情報の扱いかたがより洗練されていけば、さらにその歩みは速まることでしょう。

参考資料
中外製薬「よくわかるバイオ・ゲノム ゲノム創薬とは?」
https://chugai-pharm.info/bio/genome/genomep12.html
中外製薬「よくわかるバイオ・ゲノム ゲノム創薬のメリットってなあに?」
https://chugai-pharm.info/bio/genome/genomep13.html
Top Researchers 2017年1月17日付「創薬は、ビッグデータ活用で激変する」
http://top-researchers.com/?p=333
科学技術振興機構「研究開発の俯瞰報告書 ライフサイエンス・臨床医学分野(2017年)」
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2016/FR/CRDS-FY2016-FR-06/CRDS-FY2016-FR-06_05.pdf
ブリタニカ国際大百科事典「ヒトゲノム解析計画」
https://kotobank.jp/word/ヒトゲノム解析計画-155531
イルミナ製品紹介
https://jp.illumina.com/content/dam/illumina-marketing/apac/japan/documents/pdf/primer_sequencing_introduction_microbiology.pdf
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開発した「基本的なしくみ」を他者に使わせて利を得る

写真作者:Dan DeLuca

産業や工業の分野では「プラットフォーマー」とよばれる社会的役割が重要だといわれることがあります。

「プラットフォーム」とは「立つための台」を意味することば。中世のフランス語「プレート・フォルメ」(plateforme または  platte fourme)に由来するとされ、1550年台の英語では「高さのある水平の表面」という意味で記されており、また19世紀になると「政策の声明」といった意味でも使われたとされます。

現代になり、「プラットフォーム」は産業や工業の分野で「基本的なしくみ」といった語感で使われるようにもなりました。そして、その「基本的なしくみ」を提供することでなんらかの利益を得ようとしている立場の者を「プラットフォーマー」とよぶことがあるのです。より日本語にすれば「基本技術提供者」とでもなるでしょうか。

たとえば、ある企業あるいは研究機関が、ものづくりに広く活かせるような優れた技術の基本的なしくみを開発したとします。その基本的なしくみを自分たちで独占して使い、自分たちのものづくりによって利益を上げるというのも手です。いっぽうで、自分たちがプラットフォーマーとなり、その基本的なしくみを自分たち以外の者にも提供するというのも手です。つまり、企業あるいは研究機関が開発した基本的なしくみを、広く社会で使いあえるものにするわけです。

「せっかく開発した技術を、自分たち以外にも使わせるなんてもったいない」という考えもあるでしょう。しかし、技術の開発に成功した組織がプラットフォーマーになることの利点もあります。

企業や研究機関が開発した基本的なしくみを、ほかの者にも使ってもらえば使用料を求めることができます。これは、特許の実施料のようなもの。使用料を得られれば基本的なしくみを運営するための費用を抑えることもできます。

それだけではありません。プラットフォーマーは、基本的な技術のしくみをほかの者に使ってもらうとき、契約次第では、ほかの者が使うことで得られたデータを知として貯めこむこともできます。

データがつぎつぎと貯まっていけば、自分たちで基本的なしくみを使うだけの場合より、「こういうときにはこういう設定をすればうまくいく」といった知見を早く得られるようになります。基本的なしくみを使う回数が増えるからです。そうした知見を貯めていき、それを基本的なしくみにふたたび還元していけば、基本的なしくみはより優れたものになっていきます。

こうした知見を貯めていけるという利点を、プラットフォーマー自体も感じるでしょう。しかし、その基本的なしくみが、政府系の機関などの研究開発費で実現したとすれば、その政府系の機関はより大きな利点を感じるかもしれません。「国の競争力を総じて高めることにつながる」からです。政府系の出資機関などが技術開発の事業を募集するときは、はじめから「委託先の企業にはプラットフォームを築いてもらう」ということを計画に入れておくこともあります。

技術のプラットフォームは構築することが目的でなく、構築したプラットフォームを使って利を上げていくことが目的となります。利を上げられるかは、プラットフォーマーがどんな意識をもってプラットフォームを運営していくかにかかっています。

参考資料
Dictionary.com “platform”
http://www.dictionary.com/browse/platform
ものづくり.com「技術プラットフォームの重要性」
https://www.monodukuri.com/jirei/article/316
科学技術振興機構 研究開発戦略センター「次世代ものづくり 基盤技術とプラットフォームの統合化戦略 中間とりまとめ」
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2014/RR/CRDS-FY2014-RR-04.pdf
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「森」は「盛る」から、「林」は「生やす」から


「むこうには森があります」というときと「むこうには林があります」というときがあります。「森」「林」という語に長く接してきた人は、なんとなく「森」を使えばよいか「林」を使えばよいかは感じられるものかもしれません。

しかし、どちらを使うか迷うようなときには、この二つの語の由来を考えてみるとよいかもしれません。

「森」は、もともと「盛る」という用言を体言にした「盛り」からきているといいます。「盛る」には、高く積みあげるといった語感がありますから、「森」はまわりの場所よりも木々が高く積みあがっている、つまり盛りあがっているようなところをどちらかといえば指すようです。

いっぽう「林」も、もとは用言にさかのぼれるといいます。それは「生やす」。これが体言となって「生やし」。「生やす」には、植物が生じるようにするといった語感がありますから、「林」は一様に木が揃っているようなところをどちらかといえば指すようです。

字のなりたちも、「森」のほうはふたつの「木」のうえにもうひとつ「木」が盛られていて、「森」っぽさがあります。また「林」のほうは「木」が横並びになっていて「林」っぽさがあります。これも「森と木、どちらを使うか」と迷ったときに、決める材料になるかもしれません。

どことなく、日本人は「森」というと、手つかずの木々が植わっているところを、また
「林」というと、人が管理した木々が植わっているところを、想像する向きもあるようです。これも、手つかず状態であれば、木々がこんもりしているところがあるだろうから「森」が想起され、管理した状態であれば、木々が似た高さに揃っているだろうから「林」が想起されるといった点で、想像にあまり反しません。

「森」の語源の「盛る」も、「林」の語源の「生やす」も、目的語がつく他動詞です。おそらく「木を盛る」や「木を生やす」といった使われかたがふさわしいのでしょう。では、盛ったり生やしたりする主体はだれなのでしょうか。

人ではない主体が考えられそうです。

参考資料
森林・林業学習館「『森』と『林』の違い」
https://www.shinrin-ringyou.com/topics/mori-hayashi.php
違いがわかる事典「『森』と『林』『森林』の違い」
https://chigai-allguide.com/森と林と森林/
NHKラジオ深夜便 2018年1月16日放送「気になる日本語」
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地球外生命体の可能性も、見つける方法も『Rikejo』で

理系進学をめざす高校生などの女子を応援する講談社の会員誌『Rikejo』の第49号が、(2019年)1月に発行されました。

『Rikejo』は登録をした会員に紙で配られますが、同時に、会員でない人も講談社のデジタル版サービス「codigi」で、かんたんな手つづきをすれば見ることができます。メールアドレスやパスワードを決める手つづきをして、codigiの「電子書籍登録」のページで、今回の第49号のコード番号「r449 j8f7 psyh」を入力すると、紙のものとまったくおなじ内容を全編にわたって見ることができます。

科学特集の「リケジョサイエンス」では、今回の第49号で「いるのかな? どうみつける? 地球外生命体を探せ!」という特集が組まれています。「広い宇宙に、地球の生き物とは異なる生命体は果たしているのでしょうか。研究者たちは、そんな『地球外生命体』を見つけようと研究に取り組んでいます。『見つかるのは時間の問題』という研究者も! でも、どうやって見るけるんでしょう……」とあります。



実際、特集では「地球外生命体を見つけるための最新技術」として、太陽系の外側にある恒星のもとにある惑星を探す方法をまず紹介し、さらにその惑星に生命体がいそうかを推測する方法を紹介しています。惑星の大気の成分を、恒星からの光を観測して調べる方法や、惑星表面の色をマッピングする方法、さらに探査機を遣って惑星を直接的に調べる方法などがあります。



そして「生命がいるかもしれない天体コレクション」という記事では、地球外生命体がいるのではと研究者たちのあいだで注目されている6個以上の天体を紹介しています。太陽系では、土星の衛星「エンセラダス」、太陽系外では「トラピスト」という星のもとにある惑星などです。

観測技術が高くなるにつれ、宇宙の天体のことがよく分かるようになってきました。人は、なにかについて知れば知るほど、そのことが詳しくなります。もし「地球外生命体を見つけたい」という希望があれば、天体を詳しく知ることが「見つかるのではないか」という期待を高めるもんかもしれません。

特集では全般にわたり、アストロバイオロジーセンターの特任助教をつとめる堀安範さんが解説しています。

紙媒体の『Rikejo』とおなじ内容のデジタル版は、「codigi」の会員登録をして、コード番号を入力することで見ることができます。デジタル版を読むための方法について、詳しくは「リケジョ」のウェブサイトの記事をご覧ください。

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組織、器官、細胞種類の細胞個数を合計すると37兆2000億個――ヒトの細胞の個数を求める(5)
10億分の1グラムで1個とすると、60キログラムで60兆個――ヒトの細胞の個数を求める(1)
書誌学的かつまた数学的な計算法から、3.72×10の13乗個――ヒトの細胞の個数を求める(2)
用いた方法は、書誌学的調査、形態学的評価、数学的計算――ヒトの細胞の個数を求める(3)
文献からは10兆個から10京個、では細胞の種類ごとの数は――ヒトの細胞の個数を求める(4)


写真作者:Mike Knell

エヴァ・ビアンコーニらの2013年の論文「人体の細胞数の推定」(An estimation of the number of cells in the human body)によると、下記がヒトの体の各組織・器官における細胞の個数として算出された数といいます。これらの数は、それぞれ計算した結果として生じたばらつきを平均化したものです。
_____

脂肪組織
 脂肪細胞 5.00×10の10乗個、つまり500億個

関節軟骨
 大腿骨軟骨細胞 1.49×10の8乗個、つまり1億4900万個
 上腕骨頭軟骨細胞 1.23×10の8乗個、つまり1億2300万個
 距骨軟骨細胞 8.06×10の7乗個、つまり8060万個

胆管系
 胆管細胞 7.03×10の7乗個、つまり7030万個
 胆嚢上皮細胞 1.61×10の8乗個、つまり1億6100万個
 胆嚢内皮カハール様細胞 4.94×10の5乗個、つまり49万4000個
 胆嚢平滑筋細胞 1.58×10の9乗個、つまり15億8000万個
 胆嚢間質細胞 8.48×10の6乗個、つまり848万個

血液
 赤血球 2.63×10の13乗個、つまり26兆3000億個
 白血球 5.17×10の10乗個、つまり517億個
 血小板 1.45×10の12乗個、つまり1兆4500億個


 皮質骨細胞 1.10×10の9乗個、つまり11億個
 小柱骨細胞 7.11×10の8乗個、つまり7億1100万個

骨髄
 核細胞 7.53×10の11乗個、つまり7530億個

心臓
 結合組織細胞 4.00×10の9乗個、つまり40億個
 心筋細胞 2.00×10の9乗個、つまり20億個

腎臓
 糸球体細胞 1.03×10の10乗個、つまり103億個

肝臓
 肝細胞 2.41×10の11乗個、2410億個
 クッパー細胞 9.63×10の10乗個、つまり963億個
 星細胞 2.41×10の10乗個、つまり241億個

肺、気管支、細気管支
 1型肺胞上皮細胞 3.86×10の10乗個、つまり386億個
 2型肺胞上皮細胞 6.99×10の10乗個、つまり699億個
 肺胞マクロファージ 2.90×10の10乗個、つまり290億個
 基底細胞 4.32×10の9乗個、つまり43億2000万個
 繊毛細胞 7.68×10の9乗個、つまり76億8000万個
 内皮細胞 1.41×10の11乗個、つまり1410億個
 杯細胞 1.74×10の9乗個、つまり17億4000万個
 細気管支細胞 3.30×10の9乗個、つまり33億個
 間質細胞 1.37×10の11乗個、つまり1370億個
 気管支分泌細胞 4.49×10の8乗個、つまり4億4900万個
 プレシリエーティッド細胞 1.03×10の9乗個、つまり10億3000万個

神経系
 グリア細胞 3.00×10の12乗個、つまり3兆個
 神経細胞 1.00×10の11乗個、つまり1000億個

膵臓
 島細胞 2.95×10の9乗個、つまり29億5000万個

骨格筋
 筋繊維 2.50×10の8乗個、つまり2億5000万個
 サテライト細胞 1.50×10の10乗個、つまり150億個

皮膚
 皮膚線維芽細胞 1.85×10の12乗個、つまり1兆8500億個
 皮膚肥満細胞 4.81×10の7乗個、つまり4810万個
 表皮角質細胞 3.29×10の10乗個、つまり329億個
 表皮核細胞 1.37×10の11乗個、つまり1370億個
 表皮ランゲルハンス細胞 2.58×10の9乗個、つまり25億8000万個
 表皮メラノサイト 3.80×10の9乗個、つまり38億個
 表皮メルケル細胞 3.62×10の9乗個、つまり36億2000万個

小腸
 腸細胞 1.67×10の10乗個、つまり167億個


 G細胞 1.04×10の7乗個、つまり1040億個
 壁細胞 1.09×10の9乗個、つまり109億個

副腎
 髄質細胞 1.18×10の9乗個、つまり118億個
 束状帯細胞 6.67×10の9乗個、つまり667億個
 球状帯細胞 1.77×10の9乗個、つまり177億個
 網状帯細胞 7.02×10の9乗個、つまり702億個

甲状腺
 明細胞 8.70×10の5乗個、つまり87万個
 濾胞細胞 1.00×10の10乗個、つまり100億個

血管
 血管内皮細胞 2.54×10の12乗個、つまり2兆5400億個
_____

これらを足し算すると、著者ビアンコーニらによると「3.72×10の13乗個」つまり「37兆2000億個」になるとのことです。

そしてビアンコーニらは、論文をつぎの1文でしめくくっています。

「われわれの最初となる人体における細胞数参照表は、共通努力で完成したとき、量的な測定を必要とするすべての生物医学分野における多くの有用なアプリケーションをもつだろうし、それはヒトの組織と全体の、構造的で、機能的で、病理的な比較モデルをつくるのに役立つものになるだろうと信じている」

これは、ヒトの総細胞数の数えあげが完成したということでなく、さまざまな人の努力によって、これから完成するものであることを示唆しているものと捉えられます。

日本でいわれてきた「ヒトの細胞数は60兆個」というのは、ヒトの体重と、推定されている細胞1個の重さから算出されたものでした。

いっぽう、ビアンコーニらはおもに、ヒトの体に存在するさまざまな臓器・器官ごとに細胞の数を推定し、それを足し算して「ヒトの細胞数は37兆2000億個」という「最初」の結論に達したのでした。了。

参考資料
Eva Bianconi et al. “An estimation of the number of cells in the human body”
https://www.researchgate.net/publication/248399628_An_estimation_of_the_number_of_cells_in_the_human_body
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文献からは10兆個から10京個、では細胞の種類ごとの数は――ヒトの細胞の個数を求める(4)

10億分の1グラムで1個とすると、60キログラムで60兆個――ヒトの細胞の個数を求める(1)
書誌学的かつまた数学的な計算法から、3.72×10の13乗個――ヒトの細胞の個数を求める(2)
用いた方法は、書誌学的調査、形態学的評価、数学的計算――ヒトの細胞の個数を求める(3)


画像作者:Jimmie

エヴァ・ビアンコーニらの2013年の論文「人体の細胞数の推定」(An estimation of the number of cells in the human body)では、ヒトの細胞の総数を求めるため「書誌学的調査」「形態学的評価」「数学的計算」をしたといいます。そして、論文内の「結果」という箇所で、これらの検討結果を報告しています。

まず、これまでの文献情報などの書誌をもとにした調査では、パブメドで3704記事を検索できたものの、全体的な細胞数について述べた記事に出合ったのは2本のみだったといいます。また、米国国立生物工学情報センターが提供するインターネット上で閲覧可能な本やグーグルブックスで見つけた細胞数についての数値は、根拠や出典情報のないものだったといいます。なお、グーグルの検索では、上位100件の情報では5×10の12乗個から7×10の16乗個の範囲にまたがり、例外的に2×10の20乗個という記述のサイトもあったといいます。つまり、5兆個から2垓個までにわたることになります。

これらからビアンコーニらは、文献的調査ではヒトの総細胞数は10の12乗個から10の16乗個、つまり10兆個から10京個の範囲になるとし、平均では10の13乗個、つまり100兆個という平均値を出しました。なお、長らく日本で言われてきた個数は、約60兆個です。

つぎに、ビアンコーニらは、哺乳類の細胞の大きさや容積からヒトの細胞の個数を求めるべく概算しました。

哺乳類の細胞1個の平均重量は1ナノグラムとされており、これからすると70キログラムのヒトでは70兆個の細胞があることになるとビアンコーニらは述べます。

また、哺乳類の細胞1個の平均容積は4×10のマイナス9乗とされており、いっぽう、ヒト1人の平均容積は63.83リットルとも66.61リットルともいわれています。これらからすると、ヒトの総細胞数は平均では1.63×10の13個、つまり16兆3000億個ということになります。

いっぽうで、ヒトの体の容積は60×10立方センチメートルとする論文もあり、これに従うと、1.5×10の13乗個、つまり15兆個ということになります。

ただし、ヒトの細胞のなかで比率のとても高い赤血球の容積は1個90フェムトリットルと小さいことを考えに入れると、ヒトの総細胞数は7.24×10の14乗個、つまり724兆個にもなるといいます。

これらの数値を示したうえで、ビアンコーニらは「結果」のなかに「特定の組織、器官、細胞種類からの総細胞数の評価」という小見出しを設け、ヒトの体を構成する細胞を種類ごとに分けて、それぞれの合計数を計算した結果を述べます。「胆嚢の細胞数は何個」「骨髄の細胞数は何個」といった具合に。この詳細な計算の積みかさねこそが、この論文における真骨頂といえそうです。

算出のしかたとして「関節軟骨」を例にとると、大腿骨の上腕頭骨や距骨という部分の軟骨の容積については、2004年のベイサルらの論文で、2503±568立方ミリメートル(横方向の大腿骨軟骨)、2770±536立方ミリメートル(中央の大腿骨軟骨)となっており、2004年のヴァンワンシールの論文で、4200立方ミリメートル±1120となっており、2007年のミリントンらの論文で、3320±550立方ミリメートルになっていると述べます。また、大腿骨、上腕頭骨、距骨の部分の軟骨の密度は、1971年のストックウェルの論文でそれぞれ、1立方ミリメートルあたり14000±3200個、14600個、12150個となっていると述べます。

これらのデータから、ヒトにある2個の大腿顆、2個の大腿骨、上腕骨頭、2個の距骨の部分の軟骨における細胞数は、それぞれ「1.49±0.46×10の8乗個」「1.23±0.35×10の8乗個」「8.06±1.56×10の7乗個」になるとしています。

また、べつの例として「胆嚢内部表面」の細胞数の計算も紹介しています。2007年のアーヴィングらの論文でこの部位の容積が、また、2005年のボールレイの論文で寸法が示されているため、これらから胆嚢内部表面は「47.03平方センチメートル」になると述べます。そして、これを、2012年のウォルフとスカボローの論文に掲載されている表皮の画像を使って「形態学的評価」で算出した胆嚢内部表面細胞1個あたりの面積「29.20±4.21平方マイクロメートル」で割り算すると、胆嚢表面の細胞個数は「1.61±0.23×10の8乗個」になったといいます。

ビアンコーニらは、このような詳細な計算の過程を、骨、骨髄、肝臓、神経系、膵臓、皮膚、小腸、副腎を構成する各種類の細胞についても述べています。つづく。

参考資料
Eva Bianconi et al. “An estimation of the number of cells in the human body”
https://www.researchgate.net/publication/248399628_An_estimation_of_the_number_of_cells_in_the_human_body

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用いた方法は、書誌学的調査、形態学的評価、数学的計算――ヒトの細胞の個数を求める(3)

10億分の1グラムで1個とすると、60キログラムで60兆個――ヒトの細胞の個数を求める(1)
書誌学的かつまた数学的な計算法から、3.72×10の13乗個――ヒトの細胞の個数を求める(2)

エヴァ・ビアンコーニらの2013年の論文「人体の細胞数の推定」(An estimation of the number of cells in the human body)では、体系的に計算したところ、ヒトの細胞総数は「3.72×10の13乗個」つまり「37兆2000億個」となったと書かれています。

では、どのような計算をしたのでしょうか。論文の要約では「書誌学的かつまた数学的な方法でおこなわれた」とあります。そして本文では「書誌学的調査」「形態学的評価」「数学的計算」という三つの見出しが並んでいます。

まず「書誌学的調査」。これは、ヒトの細胞の数をめぐって世の中に出まわっている文献を調べるというもの。米国国立衛生研究所が運営している「パブメド」というデータベースをおもな調べ先としています。

パブメドに掲載されている論文には「Mesh(Medical Subject Headings)」とよばれる医学用語の見出しがあたえられています。このMeshを使って検索すると、自分の探したい文献上の似たことばをより的確に拾うことができます。

実際、ビアンコーニらは、「“Cell Count”[Mesh]または“cell number”」そして「“Body Weights and Measures”[Mesh]または“Body Size”[Mesh]または“Body Constitution”[Mesh]または“Body Composition”[Mesh]」などの検索式を入れて検索をかけたといいます。さらに「ヒト」の情報に限定して得るために、論文名や要約に「Human」が入っているものなどの検索式も加えたようです。

検索の期間の範囲は1809年から2012年にかけて。さらに、紙で入手できる生物学などの資料や、米国国立生物工学情報センターが提供するインターネット上で閲覧可能な本、またグーグルブックスについても調査の対象にしたといいます。

つぎに「形態学的評価」。これは、おもに各器官によって異なる細胞の体積を求めようとするもの。

まず、細胞または器官が写っている写真資料を集めてきます。そして、縮尺棒が載っていて、細胞または器官がよく拡大されていて、端まできれいに写っている写真のみを評価の対象として絞りこみます。

ここで、縦軸と横軸からなる座標軸を用意し、細胞または器官の写真のうえに被せます。このとき、座標軸の原点が細胞または器官の端に合うようにします。

そして、細胞または器官のふちとできるだけ重なるように、幅のおなじ長方形の棒を置いていきます。そして、このグラフから得られる関数を項にふくむ加算式を使って、調べている細胞または器官のだいたいの体積を求めていきました。グラフと加算式の関係はつぎのようなものです。


Eva Bianconi et al. “An estimation of the number of cells in the human body”より

そして「数学的計算」。この見出しのブロックでは、ヒトまたは特定の組織や器官の細胞数を求めるには入念な数学的計算を要したことが書かれています。

計算が必要だったときは、論文の「結果」の部分にそれを明記したことを述べています。さらに、大人のヒトの体の容積を、平均的なヒトの細胞の容積で割り算することで、ヒトの細胞の推定総数を得られるといったことを述べています。

これらの方法についての記述をまとめると、「これまでの文献に載っているヒトの体や器官における細胞数についての情報を可能なかぎり集めること」「各器官における細胞の容積を割りだすこと」「それらの情報を使って計算すること」により、ヒトの細胞の総数を求めていったことになります。つづく。

参考資料
Eva Bianconi et al. “An estimation of the number of cells in the human body”
https://www.researchgate.net/publication/248399628_An_estimation_of_the_number_of_cells_in_the_human_body
日本医科大学図書館「MeSHから検索する PubMed検索マニュアルV」
http://libserve.nms.ac.jp/manual5/pubmed/pubmedmanual5.pdf

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書誌学的かつまた数学的な計算法から、3.72×10の13乗個――ヒトの細胞の個数を求める(2)


画像作者:Mike Goad

10億分の1グラムで1個とすると、60キログラムで60兆個――ヒトの細胞の個数を求める(1)

英国に本部を置く「ヒト生物学会」(Society for Study of Human Biology)が2013年7月12日に発行した『ヒト生物学紀要』(Annals of Human Biology)に、「人体の細胞数の推定」(An estimation of the number of cells in the human body)という論文が掲載されました。筆頭著者は、イタリアのボローニャ大学の実験・診断・専門医学部に所属するエヴァ・ビアンコーニです。

リサーチゲートというサイトの情報によると、ビアンコーニの専攻は、生命情報学、分子生物学、遺伝学となっています。また、この論文にはビアンコーニのほかに11人の共同執筆者がいます。

論文には、冒頭に内容の要約がついています。多くの論文では要約は1段落ほどの文になっていますが、この論文では「背景」「目的」「結果」「結論」がそれぞれ端的に書かれています。要約の部分のみを訳します。
_____

背景
すべての生物は個々の識別できる細胞で構成されており、その細胞数は、大きさや種類によるが、組織の構造や機能を決めるおおもととなっている。下等生物の総細胞数はよく知られているものの、高等生物の総細胞数はまだはっきりと定められていない。とくに、報告されているヒトの総細胞数の範囲は、10の12乗個から10の16乗個までにわたり、明確な出典もなく流布されているものである。

目的
標準的な大人のヒトの体を構成する細胞総数を理論的に研究し、議論すること。

対象と方法
ヒトの体と組織の細胞総数の体系的計算が、書誌学的かつまた数学的な方法でおこなわれた。

結果
ヒトの細胞総数の現時点での見積もりが、体のさまざまな組織と細胞の種類について計算されて出た。個々のデータを合計すると、3.72×10の13乗個という総数になった。

結論
個々の器官と同様、ヒトの体の細胞総数を知ることは、文化的に、生物学的に、医学的に、そして比較モデリングの観点からして重要である。提示した細胞の数えあげは、全計算を完了する共通努力に向けての出発点となりうるものだ。
_____

ビアンコーニらは「結論」で、ヒトの総細胞数を数えあげたことは「出発点」(starting point)であるとし、断定するような表現をしていません。しかし、いっぽうで「結果」では、「3.72×10の13乗個」つまり「37兆2000億個」という具体的な個数を示しています。

「書誌学的かつまた数学的な方法」とはどのような方法でしょうか。論文の中身を見ていきます。つづく。

参考資料
Eva Bianconi et al. “An estimation of the number of cells in the human body”
https://www.researchgate.net/publication/248399628_An_estimation_of_the_number_of_cells_in_the_human_body
ResearchGate「Eva Bianconi」
https://www.researchgate.net/profile/Eva_Bianconi

| - | 23:45 | comments(0) | trackbacks(0)
10億分の1グラムで1個とすると、60キログラムで60兆個――ヒトの細胞の個数を求める(1)



このブログで、もっともよく読まれている記事が、2014年10月28日(火)付の「人体の細胞の数はおよそ37兆2000億個」という記事です。ヒトの細胞の数は「およそ60兆個」といわれてきたものの、イタリアの生物学者たちがあらためて検討したところ「およそ37兆2000億個」となり、それを論文で発表したという内容です。フェイスブックのシェア数も300を超えました。

これまで、どうしてヒトの細胞数は「およそ60兆個」といわれてきたのでしょう。そして、どうして新たに「およそ37兆2000億個」という数があらわれたのでしょう。

まず、「およそ60兆個」について、その経緯や根拠を求めてみます。

「研究者の誰々氏が論文で使いはじめた」といった証拠が見つかればよいのですが、なかなか見つかりません。テルモ生命科学芸術財団の「生命科学なんでも質問箱」でも、「根拠となる研究や論文も見当たりません。不十分な回答で申し訳ありません」と答えています。

ただし、細胞1個の大きさと比重を定めることにより、ある人の体重に対する細胞の個数を計算で求めることはできます。この計算方法は、同財団のサイトにも書いてあるほか、名古屋大学環境医学研究所の加納安彦さんによるサイト「生理学の扉」にも書いてあるものです。それは、つぎのようなもの。

まず、1個の細胞を、1辺が1マイクロメートル(1μm)の立方体、つまりサイコロのような正六面体と見立てます。

そして、細胞というものはほとんど水でできているものと考えると、細胞の比重はほぼ「1」となります。

これらから、1個の細胞の重さは10億分の1グラムとなります。

さて、ここに60キログラム(60000グラム)の体重の人がいるとします。この人の1個の細胞の重さが10億分の1グラムであるとすれば、(人の体がすべて細胞でできていると仮定して)この人は細胞を60兆個もっていることになります。

この計算法で行くと、体重80キログラムの人は80兆個の細胞をもち、体重40キログラムの人は40兆個の細胞をもっていることになります。

2015年時点での日本人の成人の平均体重は男性で66.5キログラム、女性で52.9キログラムといいますから、「60キログラムの人」というのは、日本人の成人の体重をまずまずいい当てているといえそうです。

ただし、ヒトの細胞の総数が「およそ60兆個」という数は、さほど欧米ではいわれていないようです。「60兆個」は「60 trillion」。そこでグーグルで[number of human cells “trillion”]のように1〜9の数字抜きで検索してみると、「60 trillion」の記述は最上位から58番目に出てきました。ただし、この記述の主は日本人の研究者です。その次に出てきたのは最上位から97番目でした。

すくなくとも欧米では、「ヒトの細胞の数といえば60兆個」といった定まった数値は共有されていはいないようです。

では、そうした状況のなかで、イタリアの生物学者たちは、どのように、「およそ37兆2000億個」という数値を出すに至ったのでしょうか。エヴァ・ビアンコニを筆頭著者とする2013年の論文「人体の細胞数の推定」(An estimation of the number of cells in the human body)の内容を詳しく見ていきます。つづく。

参考資料
テルモ生命科学芸術財団 生命科学なんでも質問箱「ヒトの体をつくる細胞の数は、約60兆個といろいろな資料などで、言われています……」
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/question/11.html
生理学の扉「人体を構成する細胞数は、本当はいくつか?」
http://physiol.poo.gs/blog-10/files/93976ccd06b92c718709f530d5e2d90c-343.html
厚生労働省「身体状況調査 体重」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21/eiyouchousa/keinen_henka_shintai.html
JSPS “Funding Program for Next Generation World-Leading Reseaarchers”
https://www.jsps.go.jp/english/e-jisedai/data/life/LS054_e-outline.pdf
The Science of Light Medicine “60 Trillion Cells, The Human, Photonic Being”
http://www.biolightmedicine.com/page/page/4861747.htm

| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)
間接光を入れて品質管理を安定的に


写真作者:Michael Coghlan

工場を象徴するかたちといえば、のこぎりの刃のようなかたちをした屋根ではないでしょうか。工場のピクトグラムでも、たいてい屋根のかたちはのこぎりの刃のかたちになっています。

工場でつとめている人や、工場に入ったことにない人は、「なぜ工場の屋根は、こうものこぎりの刃のかたちになっているんだろう」と思うかもしれません。ものごとのかたちの多くには、やはり理由があるもの。工場の屋根のかたちも多分に漏れません。

工場の屋根がのこぎりの刃のかたちをしている理由は「採光をよくするため」とされています。垂直の面をガラス張りにし、そこから光を採り入れるわけです。

のこぎりの刃のかたちをした屋根は、19世紀の英国で考案されたといいます。技師で建築家のウイリアム・フェアバーン(1789-1874)が、工場内に自然光を入れることは、ものをつくる工程に欠かせないことと考え、導入したとされます。

日本では1883(明治16)年、いまの東洋紡の前身にあたる大阪紡績の三軒屋工場で、初めてのこぎりの刃のかたちをした屋根の工場が建てられたとされます。これは、実業家の山辺丈夫(1851-1920)が1877年から3年ほど英国に留学したときに得た知識を日本に帰国後、実践したものといわれます。

三軒屋工場は、いまの大阪市大正区にありました。大阪市のサイトには、大阪紡績の当時の工場の絵があり、屋根の短辺がガラス張りになっているようすがうかがえます。

19世紀後半から20世紀前半にかけて、日本では絹織りが大きな産業のひとつでした。直射日光が入ると、時間帯や天候によって、織りものの色が変わって見えてしまい、品質を確かめるのに支障をきたすことから、ガラス張りにする面は北側に向くようにするという工夫もありました。

いまでは、照明設備も発達し、のこぎりの刃のかたちをした工場の屋根は、むかしほど見かけなくなりました。希少価値は高まってきています。

参考資料
wikipedia “Saw-tooth roof”
https://en.wikipedia.org/wiki/Saw-tooth_roof
ウィキペディア「のこぎり屋根工場」
https://ja.wikipedia.org/wiki/のこぎり屋根工場
デジタル版 日本人名大辞典+Plus「山辺丈夫」
https://kotobank.jp/word/山辺丈夫-144312
大阪市「公文書・刊行物からみた大阪市の産業」
http://www.city.osaka.lg.jp/somu/page/0000244917.html

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膨大な観測データから、オーロラ写真を画素にオーロラを表現


オーロラの生中継プロジェクトなどを手がけている古賀祐三さんの作品展「Beyound the sky 時とデータで紡ぐオーロラ」が、東京・銀座のソニーイメージングギャラリー銀座で開かれています。東京での開催は(2018年)2月1日(木)まで。

オーロラは、太陽からの電気を帯びた粒子が地球の極地などの上空に入ったとき見られる発光現象。古賀さんは1993年3月、旅先のアラスカでオーロラの大爆発を目にし、この現象にとりつかれたそうです。

1999年に起業し、オーロラを世界のだれもが、どこからでも体感できるしくみをつくることを目標のひとつにし、アラスカに観測拠点を設け、オーロラ生中継などにとりくんできました。こうした活動に対して2008年には「科学ジャーナリスト賞」も贈られています。

展覧会では、古賀さんが撮りためてきた膨大な写真や映像のデータから、古賀さんがとくに好きなオーロラの写真を展示。「幻のオーロラ」ともよばれる赤く発光したオーロラが空一面を覆っている写真や、オーロラと火球がいっしょに写った写真などが掲げられています。

また、アラスカの観測所でどのようなシステムを入れて、観測・撮影をしているのか、技術面の解説展示もあります。古賀さんが日本にいても、アラスカの観測所で半自動的にオーロラの観測が続いており、近年は観測装置がオーロラを捉えると、その方向に動画と静止写真の撮影機器が振りむいて撮影するといった技術もとり入れているとのこと。

とりわけ、“魂心ぶり”の伝わる作品が、展示室の正面に掲げられている大パネルのものです。



一見ではわかりませんが、近づいてみると展示作品の1画素ずつが、オーロラの写真になっています。1万8000枚のオーロラ写真を配置することで、大パネルの右下にある小パネル内の写真とおなじ画像となるようにしたとのこと。



10年余年にわたり高精度の観測を続けてきた古賀さんだからこそ実現できた作品です。

展覧会では、2015年に上梓した著書『僕がオーロラを世界にシェアできたわけ 世界初! 10万人で一緒に見られる生中継つくりました』(誠文堂新光社刊)の販売もしています。



古賀さんは展覧会に寄せて「科学技術と自然は相反するものではないと信じています」「未来の子供たちへ、科学技術の意義と同時に自然との共生や畏怖の想いを伝えられることができたら、一人のエンジニアとして嬉く思います」というメッセージを発しています。

古賀祐三作品展「Beyond the sky 時とデータが紡ぐオーロラ」は(2018年)2月1日(木)まで、東京・銀座4丁目の交差点の日産ギャラリーのあるビルの6階「ソニーイメージングギャラリー銀座」にて。11時から19時まで。ソニーによる案内はこちらです。
https://www.sony.co.jp/united/imaging/gallery/detail/180119/

また、2月3日(土)から3月にかけて、福島県郡山市内でも作品展を開催する予定とのこと。今後、古賀さんのツイッターに詳細が出るでしょうから、興味ある方は確認してみてはいかがでしょうか。
https://twitter.com/Live_Aurora?lang=ja
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免疫細胞に“ねらい撃ち”の機能をもたせてがん治療
ヒトのもつ免疫というしくみをたくみに使って、がんを治療しようとする研究が進んでいます。「がん免疫療法」ともよばれ、このブログのおととい(2018年)1月17日(水)の記事「チェックポイントの作用を阻害し、がんを治療」と、きのう18日(木)の記事「T細胞とがん細胞を擬人化して絵解き」では、「免疫チェックポイント阻害剤」という薬を使った療法をとりあげました。

もうひとつ、高く注目されているがん免疫療法に「キメラ抗原受容体T細胞療法」(CAR-T細胞療法)があります。2017年8月、スイスの製薬大手企業ノバルティスファーマが、この療法に使われる薬の承認を米国で世界で初めて得ました。このとき承認されたのは「B細胞急性リンパ白血病」とよばれる血液のがんを治療する目的のもの。同社はこの薬を「キムリア」と名づけました。

がん免疫療法では、免疫のしくみに携わる細胞のなかでも“主役級”である「T細胞」をうまく活かすことが大きな目標のひとつとなっています。T細胞にはいろいろな役目があるのですが、そのひとつとして「がん細胞を攻撃する」というがん治療で決定的なはたらきを担っているからです。


T細胞
画像作者:NIAID

もし、T細胞に、がん細胞を“ねらい撃ち”するような優れた能力をもたせられたら、がん治療の効果は高まることになります。これを、実現させようとしたのが、キメラ抗原受容体T細胞療法です。

キメラ抗原受容体は、がん特有の目印を見つけるはたらき、それに細胞に傷をあたえるはたらきを結びつけたような受容体。「キメラ」とは「ひとつのなかにいくつも」という語感をもつギリシャ神話由来のことばですが、この受容体では起源の異なるいくつもの遺伝子が使われることから「キメラ」ということばが冠されているわけです。

B型急性リンパ白血病の患者に対するキメラ抗原受容体T細胞療法では、まず、患者血液からT細胞をとりだして、キメラ抗原受容体を導入します。導入するにあたっては、かねてから医療や生命科学で使われてきたレトロウイルスという“運び屋”を使う手段などがあります。

キメラ抗原受容体をT細胞に導入することを、ノバルティスは「T細胞の再プログラム化」とも表現しています。この新たにキメラ抗原受容体が備わったT細胞を患者のからだに戻してやると、T細胞はがん細胞をねらい撃ちするようになるわけです。

では、キメラ抗原受容体T細胞がどんながん細胞をねらうようになるというと、B細胞急性リンパ白血病に対しては、がん細胞の表面にある「CD19」というたんぱく質が標的となります。

ノバルティスファーマは「キムリア」の承認を得るために医療機関に委託した臨床試験で、有効性があるかの評価対象となった患者63人のうち、83パーセントにあたる52人で、この薬をあたえられてから3か月いないに「完全寛解」または「血球数回復が不完全な完全寛解」を達成したと、2017年9月に発表しました。この成功率の高さに、多くの研究者が注目しています。

いっぽうで、ノバルティスファーマは、この臨床試験では「サイトカイン放出症候群」や「ガンマグロブリン血症」といった有害事象も観察されたことも発表しています。この新薬についても、有害な事象を抑えることと、治療の効果を高めることの療法が求められています。

キメラ抗原受容体T細胞療法のように、がん患者のT細胞をとりだして、がん細胞を攻撃する性質にして増やし、患者のからだに戻す療法は「養子免疫療法」ともよばれています。

参考資料
ノバルティスファーマ 2017年9月13日付「ノバルティス、難治性または2回以上の再発を認めるB細胞性急性リンパ芽球性白血病の小児および若年成人の患者さんの治療薬として、CAR-T細胞医療CTL019が初めてFDAの承認を取得」
https://www.novartis.co.jp/news/media-releases/prkk20170913
ノバルティスファーマ「がん領域の研究・開発」
https://www.novartis.co.jp/research-development/our-approach-to-drug-discovery/oncology
毎日新聞 2018年1月11日付「CAR-T細胞療法とは 遺伝子操作、がん攻撃力強化」
https://mainichi.jp/articles/20180111/dde/012/040/003000c
日本経済新聞 2017年8月31日付「新型がん免疫薬、米で承認 ノバルティス 小児の難治性白血病」
https://www.nikkei.com/article/DGXLASGN30H2I_Q7A830C1000000/
ウィキペディア「キメラ抗原受容体」
https://ja.wikipedia.org/wiki/キメラ抗原受容体
タカラバイオ「遺伝子医療事業」
http://www.takara-bio.co.jp/kaisha/medicine.htm
PDQ®がん用語辞書「養子免疫療法」
https://www.weblio.jp/content/養子免疫療法
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T細胞とがん細胞を擬人化して絵解き

きのう(2018年)1月17日(水)のこのブログの記事「チェックポイントの作用を阻害し、がんを治療」は、がんの新しい治療薬として2014年から使われだした「免疫チェックポイント阻害剤」のしくみを紹介するものでした。

「免疫チェックポイント阻害剤」のしくみは、さまざまな情報源が絵解きでも説明しています。とくに日本でつくられた絵解きは、免疫細胞であるT細胞とがん細胞を擬人化して表現する工夫が見られます。

日本の擬人化した免疫チェックポイント阻害剤の絵解きの多くは、「がん細胞がT細胞に悪だくみをしている状態」と「阻害剤が使われてT細胞ががんに反撃をしかける状態」、つまり「使用前」と「使用後」が描かれています。

ただし、「免疫チェックポイント阻害剤がどうはたらいているか」を表す部分については、創作性のちがいが若干ながら見られます。

免疫チェックポイント阻害剤が、T細胞にあるPD-1(Programmed cell Death1)という部分と強く結びついて、がん細胞のPD-L1(Programmed Death-Ligand 1)という部分がPD-1と結びつくのを邪魔するわけですが、PD-1とPD-L1を擬人のどの部分として描き、またどこに阻害剤が割って入るかあたりが、絵解きの要点となっています。

まず、少数派ですが、PD-1をT細胞についた“頭頂部の突起”のように描き、この突起にはまるものを、がん細胞のPD-L1とするか、阻害剤とするかによって、「使用前」「使用後」を表そうとするものがあります。毎日新聞医療プレミアの「ニボルマブの作用の仕組み」や、湘南メディカルクリニックの「T細胞によるがん細胞への攻撃」などは、この描きかた。

いっぽう、T細胞のPD-1や、がん細胞のPD-L1を“手”のように描き、握手しているときはT細胞が弱った表情となり、阻害剤によって握手が解かれたときはT細胞が元気をとり戻しているという描きかたも見られます。こちらのほうが“頭頂部の突起”より多数派でしょうか。

さらに、この“手”のたとえによる描きかたでは、「T細胞が阻害剤を“手”で持っている描きかた」と、「T細胞とがん細胞のあいだに阻害剤が立ちはだかっている描きかた」とが見られます。前者はたとえばAERA dot.の「免疫チェックポイント阻害剤のしくみ」、また後者は、じんラボの「免疫チェックポイント阻害薬のしくみ」などに見られます。

では、免疫チェックポイント阻害剤を開発し、販売する“本家本元”はどう描いているのでしょう。「オプジーボ」(一般名「ニボルマブ」)を製造・販売している小野薬品工業の「オノ オンコロジー」というサイトでは、T細胞を“正義の味方”のような人物に、がん細胞を“鬼”にたとえていますが、詳しいしくみについてはべつの図解を使って紹介するという二段構え。

「抗体(免疫チェックポイント阻害薬:PD-L1とPD-1の結合を阻害する抗体など)を用いて、がんが免疫細胞に対してかけているブレーキを解除し、はたらきが弱くなったT細胞が再び活性化してがん細胞を攻撃」という絵解きでは、まず上のほうで“正義の味方”が“鬼”にパンチを食らわせている絵を描いています。そして、下のべつの図解では、PD-1とPD-L1のあいだに、先端が矢印型に、後端がY字型になった棒状のものが存在し、これが結合しようとするPD-L1の邪魔をしているといった描きかたをしています。後端のY字型は、おそらく薬の本体にあたる「抗PD-1抗体」のかたちが全体として「Y」に似ていることからのものでしょう。

英語で「免疫チェックポイント阻害剤」を意味する“immune checkpoint inhibitors”を画像検索しても、T細胞やがん細胞を擬人化している絵は見られません。


“immune checkpoint inhibitors”の画像検索結果

日本の情報源の、どうにか擬人化をして表現しようとする姿勢が見てとれます。こうした努力は、がん治療の方法についての一般の人びとの理解を進めることにつながります。

参考資料
毎日新聞医療プレミア「革命的ながん新薬、免疫チェックポイント阻害剤とは」
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20150917/med/00m/010/003000c
湘南メディカルクリニック「免疫チェックポイント阻害剤 ニボルマブ(抗PD-1抗体)」
https://www.immunotherapy.jp/opujibo.html
AERA dot.「新抗がん剤『オプジーボ』が胃がんでも国内承認 がんの縮小効果を確認」 
https://dot.asahi.com/print_image/index.html?photo=2017091300031_1
じんラボ基礎知識「腎がんの治療 最適な治療を選択するために」
http://www.jinlab.jp/basic/basic_13cancer5treat.html
オノ オンコロジー「免疫チェックポイント阻害療法」
https://www.ono-oncology.jp/contents/patient/immuno-oncology/step3_05.html

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チェックポイントの作用を阻害し、がんを治療

免疫細胞の一種「T細胞」
写真作者:Dr. Triche

がんの治療法として、手術、放射線、抗がん剤につぐ「第4の方法」と注目されているのが「免疫療法」です。ヒトは、体の外から入ってきたウイルスなどの異物や、体のなかで生じたがん細胞などの異常な細胞に対して、何種類もの細胞がそれぞれ役割をもって攻撃をしかける「免疫」というしくみをもっています。がんになると免疫のはたらきが弱まってしまうのですが、免疫療法では、本来の免疫のはたらきをとり戻してあげて、がん細胞を攻撃をしかけることをめざします。

がん免疫療法にはいくつかの種類がありますが、いまのところの代表的な方法が「免疫チェックポイント阻害剤」とよばれる薬を使った治療法です。

免疫チェックポイント阻害剤とは、「免疫のチェックポイントを阻害する薬」のこと。「免疫のチェックポイント」とはどういうものであり、それを「阻害する」とはどういうことでしょう。

チェックポイントとは検問所のこと。「どうぞ進んでください」と許されたり、「進ませないですからね」と止められたりします。そして、もしチェックの対象となるものに異常が見つかれば、当然「これ以上は先に行かせませんよ」となります。

免疫のチェックポイントというのは本来、免疫が過剰にはたらくときに「進ませないですからね」と、そのはたらきを止める役割をもつしくみをさします。免疫がはたらきすぎると体にアレルギーなどの異常をきたしてしまうので、このチェックポイントは大切です。

いっぽう、がん細胞というものは悪だくみをする道具をいろいろもっているもの。免疫チェックポイントに対しても「進ませないですからね」と、免疫のはたらきを止めさせる悪だくみをするのです。

がん細胞が使うその道具とは「PD-L1」(Programmed Death-Ligand 1)とよばれるもの。がん細胞はPD-L1を発現し、T細胞とよばれる免疫細胞に備わっている「PD-1」(Programmed cell Death1)という部分に結合させます。

PD-1に結合したPD-L1からは、PD-1が活性化することを抑える信号が発せられます。これにより、免疫チェックポイントでは、T細胞がはたらきすぎてもいないのに「進ませないですからね」と判断がくだされます。T細胞はがん細胞を攻撃する力を奪われてしまうわけです。これにより、がんは攻撃されることなく増えていくことに。

つまり、免疫チェックポイントの従来の作用とはちがい、がん細胞の悪だくみによって、免疫チェックポイントが、がん細胞にとって都合のよいように作用してしまうわけです。

この免疫チェックポイントが、がんにとって都合よいように作用してしまうのを「阻害」する薬が、免疫チェックポイント阻害剤です。

この阻害剤は、がん細胞が発現するPD-L1と免疫細胞のPD-1が結びつかないように邪魔をします。これにより、免疫細胞はチェックポイントで何者からも「進ませないですからね」と言われなくなり、はたらきをとりもどします。これにより、がん細胞を攻撃するようになるわけです。

免疫チェックポイント阻害剤の代表的な薬として、「ニボルマブ」が知られています。商品名は「オブジーボ」で、2014年に小野薬品工業から発売されました。

ニボルマブは、T細胞が備えているPD-1に強く結びついて、がん細胞のPD-L1がPD-1と結びつくことを邪魔します。これでPD-L1は、PD-1が活性化することを抑える信号を発せられなくなりますから、T細胞は元気に。ニボルマブのような、がん細胞に悪だくみさせぬよう、T細胞のPD-1に結びつく薬を「抗PD-1抗体」ともいいます。

免疫チェックポイント阻害剤は、どんな種類のがん細胞にも治療効果が認められているわけではなく、また、単独で使った場合にがん細胞が3割以上小さくなる率は10〜30パーセントだといいます。

ある病気に対する治療法つまり選択肢が増えるというのは、いろいろな患者を治療することを考えれば基本的にはよいこと。製薬会社どうしの薬の開発競争が進むなどして、薬の価格が安くなれば、より多くの患者が新たな治療薬を試せることになります。

参考資料
国立がん研究センター がん情報サービス 2017年3月31日更新「免疫療法 まず、知っておきたいこと」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu01.html
apital 2017年8月6日付「広がる、がんの免疫療法 大きく分けて2タイプ」
https://digital.asahi.com/articles/ASK835QZPK83UBQU018.html
apital 2017年11月13日付「オプジーボは夢の薬? そのメカニズム、教えます」
https://digital.asahi.com/articles/SDI201711086974.html
オプジーボ「オプジーボ作用機序」
https://www.opdivo.jp/basic-info/action/
日本大百科全書「免疫チェックポイント」
https://kotobank.jp/word/免疫チェックポイント-1701066
伊崎聡志 、葉山惟大、照井正「ニボルマブの作用機序、効果、副作用と日本大学医学部附属板橋病院皮膚科での使用経験」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/75/4/75_156/_pdf
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複写受付時刻にまにあわなかった人に「後日郵送複写」の選択肢
国立国会図書館は、自治体が運営する多くの図書館とちがって、資料を貸しだすことをしていません。そのため利用者は、雑誌や本などの資料を館内で閲覧し、複写しておきたいページについては館内のスタッフに複写してもらうことになります。

東京・永田町にある東京本館では、その日のうちに複写した資料を得るためには、平日は18時までに複写申込用紙に必要な情報を書いて、資料とともにスタッフに渡す必要があります。

しかし、混んでいて請求した資料がなかなかこなかったり、利用者自身が館に入る時間帯が遅かったりして、18時の受けつけ締めきりにまにあわないこともあります。

その場合の救済策というわけではないでしょうが、18時30分まで受けつけている「後日郵送複写」というサービスがあります。即日複写にぎりぎりまにあわなかったし、翌日以降も国会図書館に来れないという人は、このサービスを使うかもしれません。

複写を申しこみたい資料については、利用者が「後日郵送複写申込書」という書類を印刷機で出して、巻数・号数やページなどの必要な情報を書きます。「後日郵送複写申込書」には、目印でしょうか、ふちに太い斜め点線が入っています。



そして、複写申込カウンターに行き、申込書と資料をスタッフに渡します。すると、後日郵送複写をはじめて利用する人に向けて「後日郵送複写をお申込みの方へ」というメモが渡されます。料金について、従来の複写料金のほか、送料と発送事務手続料が加えられることなどが記されています。



受付のスタッフによると「3営業日後に発送しています」とのこと。

そして、後日郵送複写を申しこんだ日から5日後、東京都のとなりある県の家に「国立国会図書館複写受託センター」と印刷された茶封筒が届くのでした。



開けたなかには、ビニール袋に入った資料があります。そして複数の資料の場合、複写開始ページの先頭に資料名が手書きされています。こうした手間が「発送事務手続」なのでしょう。



そして茶封筒のなかには、請求書と振込取扱表が。多くのコンビニエンスストア、ゆうちょ銀行、郵便局で支払うことができます。



即日受付の締めきり時刻に資料複写の申しこみがまにあわなかった人は、翌日以降にふたたび国会図書館を訪れてふたたび申しこみ作業をするか、入手までの日数とお金が余分にかかる後日郵送複写を申しこむか、選択となります。

参考資料
国立国会図書館「利用時間・休館日」
http://www.ndl.go.jp/jp/service/tokyo/time.html
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金融リテラシーは必要だけれど、学校教育であまり習わない



ある分野についての知識や、その知識を活用する能力のことを、「リテラシー」といいます。「科学リテラシー」とか「情報リテラシー」とか、その分野のことばを冠して表現することもあります。

「金融リテラシー」も言われているようです。グーグル検索では62万5000件。それほどまで言われているということは金融リテラシーもリテラシーとして大切なのでしょう。金融とはお金の貸し借りのことであり、「金融リテラシー」は、お金を貸し借りすることについての知識や、その知識を活用すること、といった意味になりそうです。

金融庁は「最低限身に付けるべき金融リテラシー(知識・判断力)」を公表しています。「1 家計管理」「2 生活設計」「3 金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択」「4 外部の知見の適切な活用」という4分野を設け、「1」「2」「4」については1項目だけを示し、「3」については12項目を示しています。

たとえば「3」の項目には、「契約にかかる基本的な姿勢の習慣化」といった素養もあれば、「(金利、インフレ、デフレ、為替、リスク・リターンなどの)金融経済教育において基礎となる重要な事項や金融経済情勢に応じた金融商品の利用選択についての理解」といった知識、また「(死亡・疾病・火災などの)自分にとって保険でカバーすべき事象が何かの理解」といった自己把握力などが挙げられています。

金融庁は内閣府の外局。つまり国の行政機関のひとつです。しかし、金融庁が「最低限身に付けるべき金融リテラシー」を掲げておきながら、その最低限の金融リテラシーを学校教育で国民が身につける機会は多くありません。

文部科学省は、小学校や中学校での義務教育のなかでも「消費者教育・金融経済教育」にとりくんでいることを示してはいます。たとえば、小学校の家庭科では「身近な物の選び方、買い方を考え、適切に購入できるようにすること」を、また中学校の社会科(公民)で「契約の重要性やそれを守ることの意義、個人の責任に気付かせること」を、学習指導要領にもとづいて実施しているとしています。

しかし、実際のところどうでしょうか。

2014年4月、金融経済教育を推進する研究会が、「中学校・高等学校における金融経済教育の実態調査」という報告書を公表しました。中学校の社会科と技術家庭の教諭、高校の公民科、家庭科、商業科の教諭あわせて3万2220人に質問したところ、4462通の回答があったそうです。そして、教科書の金融経済教育に関する記述について「不十分」「やや不十分」という答は、37.8パーセントだったそうです。不十分な分野としては、「クレジット、ローン、証券など」「年金制度」「株式市場の役割」「保険の動き」を挙げた人が3割以上だったとも。

「お金のことに疎い人」は大人にもいるものです。義務教育や高校の教育を受けた大人たちでも「ローンってどうなってるんだっけ」「国民年金ってなに」「株ってどうなってんの」「国保税って税金なの」などと、疑問を抱いている人はすくなからずいるはず。

そういう人たちのことを指して「お金を使うことに対するセンスがない」という人もいるでしょう。「あの人は買いもののセンスがないな」と。

 

しかし、センスとはべつに「お金を使うことに対する知識がない」という人も「お金のことに疎い人」に含まれているのではないでしょうか。「科学に疎い」人のなかには、「科学のセンスがない」人だけでなく「科学の知識がない」人も多くいるのとおなじように。

株式などは興味がなければ手を出さなければよいだけですが、税金や家計のように自分の生活にかならずかかわるようなお金のこともあります。しかし、その多くは義務教育や高校の教育だけで身につけられるようにはなっていません。

学校教育に金融やお金の教育をあまり入れないのは、それを入れてしまうと国民のお金に対する知識が増えてしまい、国が金融行政を制御しづらくなるからだという説もあるようです。真偽は不明ながら。

小中高校の理科教育の実践によって、科学リテラシーを身につけた人たちが増え、税金がもととなり使われる研究費の使われかたに対して社会全体の監視力が高まったという話は聞くものです。監視のしすぎでお金の使いかたががんじがらめになるのはよくないとしても、ある程度「国民が見ている」という状況があることは大切でしょう。

科学リテラシーでそうした実例がもしあるのであれば、人びとの金融リテラシーが学校教育で高まり、お金の使いかたや使われかたにより敏感な社会がつくられるとしても不合理ではありません。

参考資料
日本証券業協会 金融・証券用語集「金融リテラシー」
http://www.jsda.or.jp/manabu/word/word73.html
金融庁「最低限身につけるべき金融リテラシー」
http://www.jsda.or.jp/manabu/word/images/common/415.pdf
金融経済教育を推進する研究会 2014年4月発表「中学校・高等学校における金融経済教育の実態調査報告書」
http://www.jsda.or.jp/manabu/kenkyukai/content/jittai_rep.pdf
文部科学省 2014年11月11日発表「文部科学省における金融経済教育の取組について」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/saimu/kondankai/dai04/siryou7.pdf

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階段をのぼってのぼって改札へ
東京・道玄坂にある渋谷駅とその周辺は、東京五輪が開かれる2020年の目標に再開発がおこなわれています。

7路線が入っている乗りかえ駅であるため、乗りかえのパターンはさまざまあります。

東急東横線のホームが地上にあった2013年3月まで、東横線から東京メトロ銀座線への乗りかえといえば、東横線のホームから改札を出て階段を上がり、銀座線ホームに入るというものでした。

いまも、「東横線ホームから改札を出て階段を登り銀座線ホームへ」という過程は変わりありません。しかし、東横線も銀座線もホームの位置が変わり、さらに銀座線ホームの移設工事の影響を受け、乗りかえの経路は複雑になっています。乗りかえかたの一例は……。

いまの東横線ホームは地下5階にあります。ここから階段で上がり地下4階、さらに地下3階へとのぼり改札口へ。改札を出て、銀座線への乗りかえ案内表示に従って進むと、のぼって地下1階へ。さらに進むと地上の東口バスターミナル近くに出ます。

ここで商業施設ヒカリエを右に、工事現場を左に見ながら屋外を歩き、地上3階のホームから出ている銀座線のガードをくぐって案内表示どおり左へ。

すると、エレベータの入った塔のような縦長の建てものが見えてきます。



しかし、この建てものはエレベーターの施設にあらず。「こちらは、銀座線への専用階段です」とあります。



概観からもわかるように、階段は角らせん状に進んでいく長いもの。77段あるそうです。



のぼりきったところに、ホームの改札が。浅草行きの銀座線が出発を待っています。



いまの銀座線ホームは2020年の工事完了までの過程における仮のもの。工事が完成すると、銀座線ホームは東へおよそ130メートル移り、東口バスターミナルや接する明治通りの真上に。そして、これまでの降車専用ホームと乗車専用ホームが分かれていた相対式ホームから、島式ホームへと変わる予定です。

東京メトロはこの銀座線渋谷駅工事について、「(従来の駅は)幅の狭いホームやわかりにくい通路、上下の移動が多い構造でありながらそのほとんどが階段、東京メトロで 唯一『トイレ』の無い駅であるなど、安全、サービスの面で大きな課題を抱えています。この状況を改善するため、東京メトロでは渋谷駅街区基盤整備と連携して、銀座線渋谷駅の『リニューアル』に着手いたしました」としています。

仮ホームが設置される前、銀座線ホームは半分ほど東急百貨店のビルのなかに入っているかたちでした。2020年に完成する予定のホームは従来の1.7倍の幅になるとのこと。この幅をとるには、広いバスターミナルや明治通りの直上にホームを置くことが妥当策だったのでしょう。

銀座線の渋谷駅が開業したのは1938(昭和13)年。渋谷駅の利用客はいまにくらべればはるかに少なかったことでしょう。街が大きくなり、人が増えていくことに対応するための工事であるともいえそうです。

参考資料
東京メトロ2016年10月26日付「未来をつくる2回の運休。11月、銀座線は渋谷〜表参道間、青山一丁目〜溜池山王間を運休します」
https://www.tokyometro.jp/ginza/topics/20161026_71.html
東京メトロニュースレター「『銀座線渋谷駅改良工事』編」
http://www.tokyometro.jp/corporate/newsletter/images/newsletter20140717_koji.pdf
アーバンウォッチング! 2017年12月29日付「銀座線渋谷駅の移設工事 浅草方面用の線路架設の準備進む 主桁をスライドさせる『送り出し工法』の仕組み」
http://machicarrot.com/blog/26324
nippon.com 2017年5月30日付「変貌を続ける街、渋谷:再開発で2020年前後に大きく進化」
https://www.nippon.com/ja/views/b07801/
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
画像処理ソフトとレーザー加工機で「デジタル版画」


凸版や凹版や平版などの版を用いて刷った絵は「版画」とよばれます。木を材料とする木版画を、一般に「版画」とよぶことが多いようです。

日本では古くは平安時代後期に版画が刷られていたとされます。仏の姿を人びとに多く行きわたらせる目的で、「印仏」や「摺仏」とよばれる仏の絵の版画が出まわりました。

それからおよそ800年後のいま、加工技術の進歩により、版画に新たな製法が使われだしています。「デジタル版画」あるいは「デジタル・エングレービング版画」などとよばれる技法です。「エングレービング」(engraving)は「彫ること」という意味。

従来の版画では、絵師が描いた絵を見本に、彫師が色ごとの版を彫り、刷師が色ごとの版を重ねていくように刷っていきました。

これらの工程のうち、「色ごとの版を彫る」工程を手作業でおこなうかわりに、現代の機械でおこなうのが「デジタル版画」。使う機械は、画像処理ソフトウェア、それにレーザー加工機という装置です。

彫師は、見本となる絵を色ごとに分けます。いっぽう、デジタル版画では「フォトショップ」などの画像処理ソフトで色分解をおこない、色ごとのデータにします。

そして彫師は、色ごとに分ける版それぞれに対して、刷ったときに色が出る部分と出ない部分に分かれるよう彫っていきます。いっぽう、デジタル版画では、レーザー光を使って対象物を加工する機械、つまりレーザー加工機で、色ごとの版を彫る作業をおこないます。


デジタル加工機の例
写真作者:Osamu Iwasaki

レーザー光とは、自然光にくらべてはるかに波長が一定で、広がらずに進み、密度高く集めることのできる光のこと。加工対象物がレーザー光を吸収することにより、表面が削られていきます。そのまま対象物がレーザー光を吸収し続ければ切断されますが、レーザー加工機の設定次第で、彫師が版を彫るのとおなじように版を加工することができます。

レーザー加工機で版をつくる動画を見ると、版の天側から地側へ、レーザー光線を1本ずつ入れていくようにして彫っていくようすがわかります。

こうして、画像処理ソフトウェアとレーザー加工機を使って「彫る」作業をしたら、その後は従来の工程とおなじく、馬連や絵の具を使って刷っていきます。

彫師が版を彫る場合は、いくら職人とはいえ、細かい作業に限界があります。しかし、デジタル画像処理技術とレーザー加工技術を組みあわせば、とても細かい作業も可能に。そのため、従来の版画ではできなかったような小さな寸法の版画もつくることができるようです。

「彫師の職人仕事を機械が代替する」となると、穏やかでいられない人もいるかもしれません。しかし、伝統的表現技術と現代的加工技術の融合により、版画による表現力がいっそう高まったと考えることもできそうです。

参考資料
すみだ北斎美術館「デジタル版画で北斎を刷ろう」
http://hokusai-museum.jp/uploads/fckeditor/uid000008_2015062609293681d4de5e.pdf
竹笹堂「日本の木版印刷・木版画の歴史 創成の飛鳥時代から室町時代」
http://www.takezasa.co.jp/mokuhan/mokuhan02_1.html
レーザ・ネット「レーザ加工の基礎」
http://www.lasernet.co.jp/about/general3.html
北野裕之「現代版画技法、レーザー・エングレービング版画の試み」
http://www.kyoto-seika.ac.jp/researchlab/wp/wp-content/uploads/kiyo/pdf-data/no36/kitano_hiroyuki.pdf
| - | 17:22 | comments(0) | trackbacks(0)
「“自給的”肉食を2年間続けた女性が発見したこと」


ウェブニュース「JBpress」で、きょう(2018年)1月12日(金)「“自給的”肉食を2年間続けた女性が発見したこと 『生き物を殺して食べる』で食の方法を見つめ直す」という記事が配信されました。

記事の題にある『生き物を殺して食べる』は、英国人女性の環境ジャーナリストであるルイーズ・グレイさんの著書。訳者は宮崎真紀さんで、2017年12月に亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズの1冊として出版されました。

帯には「ある女性環境ジャーナリストが、自ら撃ち、釣り、屠り、味わった2年間の驚くべき“肉食体験記”」「工場で生産された肉を死ぬまで食べる人生でいいのか?」とあります。本の内容は、まさにこのとおり。著者自身が狩りをしたときのようすと、食肉工場で業者が動物たちを屠畜するようすの両方が生き生きと描写されています。

自分で生き物を殺して食べるには、スーパーマーケットで食品を買って食べることの何十倍や何百倍もの手間がかかることが本からうかがい知れます。こうした経験を通じて、著者は肉を食べることのよろこびや、動物に対する感謝の気持ちを深くするのでした。

本の紹介を中心とする記事では、本を見つけることが大切になります。一般的な話として、編集担当者から「この本を紹介してみては」と記者に本が届けられる場合もあれば、本を出した出版社や著者から「なにかの媒体に紹介してください」と送られてくる場合もあります。

この記事については、これらの場合とはちがい、単純に食を主題とする記事をつくっている記者が、本を探して「こんな新刊が出たのか。読みたい」と思って読んで、伝えようとしたものです。

著者のルイーズさんの本のなかでのメッセージは、「自分で生き物を屠らなくても、せめてそれがどうやってそこにたどりついた肉なのか知る努力をすべきだ」というもの。社会も個人もここからなにかが変わるかもしれません。

「“自給的”肉食を2年間続けた女性が発見したこと 『生き物を殺して食べる』で食の方法を見つめ直す」はこちらです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52054

この記事の執筆をしました。

また、ルイーズ・グレイさんの著書『生き物を殺して食べる』(宮崎真紀訳、亜紀書房刊)はこちらで。
https://www.amazon.co.jp/dp/4750515337
| - | 15:58 | comments(0) | trackbacks(0)
冬の雷、夏よりエネルギーが高くなることも



石川県のテレビ局MRO北陸放送と石川テレビ放送がともに放送するテレビ番組が、(2018年)1月10日(火)夜から県内の広域で見られなくなりました。

MRO北陸放送では、京村英二社長が「この度は、送信機器の不具合により長時間にわたり県内の広い範囲で放送が中断する事態となり、誠に申し訳ありません」と声明を出しました。

また、石川テレビ放送の根布寛社長も「この度は、放送が長時間にわたり中断する事態となり、視聴者の皆様に大変なご迷惑をおかけしております。出来るだけ早い完全復旧を目指し、全力をあげております。誠に申し訳ございません」と声明を出しました。

社員や作業者たちの懸命の復旧作業があったのでしょう、11日(水)午後までに、大半の視聴者が2局のテレビ番組を見られるようになったようです。

放送中断の原因は、電波送信用の鉄塔に落雷が直撃したのではないかという見方が強まっています。

一般的に雷といえば夏に生じるもの。けれども、石川県をはじめとする日本海側の地方では、「冬の雷」も多発します。日本海側では冬、日本海を北上する温かい対馬暖流と、大陸から吹きよせる冷たい季節風によって、海面と上空に温度差が生まれ、対流が起きます。すると、雷をもたらす雷雲が生じやすくなる。このため、日本海側では冬にも雷が生じやすいと説明されます。

今回の鉄塔が受けた衝撃がそうかはわかりませんが、冬の雷は夏の雷とちがって、エネルギーの大きなものになりやすいようでもあります。

夏に多い通常の雷は、雷雲の底部が負の電荷を帯び、地上にある正極めがけて落ちるもの。しかし、冬の雷はこの正負が逆になり、雷雲の頂の正の電荷を帯びた部分と地上の負極の間で放電が起きることがあるのです。この手の雷は、エネルギーが大きな“一発雷”となることがあります。

金沢市周辺の上空は、雷雲が集まってきやすく、落雷数は12月を頂点としているといいます。

これらのことを総合すると、電波を送信する鉄塔に、相当なエネルギーをもった雷が直撃すれば、電波の送信ができなくなるというのも不思議な話ではありません。

今回の自然災害を受けて、MRO北陸放送と石川テレビ放送はもとより、放送業界全体が、落雷対策を検討することになるでしょう。それは、放送の技術をよりよくすることにもつながります。

参考資料
MRO北陸放送「絶好調ブログ」
http://www.mro.co.jp/programs/z-kocho/2018/01/10/224005/
石川テレビ放送「視聴者の皆様へ」
http://www.ishikawa-tv.com
科学散歩 いにしえの心「天雲に近く光りて鳴る神し見れば恐し見ねば悲しも」
http://sciencewindow.jst.go.jp/html/sw37/sr-stroll

| - | 23:40 | comments(0) | trackbacks(0)
推定総文字数674万字、「科学技術のアネクドート」12周年

写真作者:Eric Fischer

このブログ「科学技術のアネクドート」はきょう(2018年)1月10日(水)で始まりから12周年を迎えました。

ブログの管理者ページには、「いままでに書いた記事 4389件」とあります。では、このブログではいままでに使われた字は何文字になるのでしょう。

インターネットには、貼りつけた文字の数を数えるサイトがあります。また、文書ソフトウェアのワードにも文字数を数えうきのうがあります。しかし、ブログではすべての記事を1スクロールで見られるわけでないため、いちいちコピーして貼りつけていくと長大な時間がかかってしまいます。

厳密な字数を数えることはできないものの、おおよそのブログ総文字数をファイルの情報量から求めることはできます。

ブログの原稿のファイルは、標準テキストファイルで「原稿-ブログ何々」のような名前になっているので、コンピュータで「原稿-ブログ」と検索すれば、ブログ原稿のためのファイルだけを並べることができます。

そしてそれらのファイルをすべてコピーして別のフォルダに入れれば、ブログ原稿のファイルだけを集めることができます。

そしてそのフォルダの「情報を見る」機能でサイズを見れば、すべてのブログ原稿をあわせたデータ容量をみることができます。実際におこなうと、「12,256,168バイト」と出ました。

さて、「バイト」というのは、情報量を示す単位。通常、全角1文字には2バイト、半角1文字には1バイトが使われます。

ブログには、漢字やかななどの全角文字と、参考資料のURL(Uniform Resource Locator)をふくむ英数字が使われています。このブログでは、参考資料のURLが1記事につきいくつか貼られており、ここで半角文字が多く使われます。このことも含めて、1記事の全角文字と半角文字の比率を「9対1」と仮定します。

つまり、12,256,168バイトのうち、9割にあたる11,030,551バイトが2バイトの全角文字に、また1割にあたる1,225,617バイトが1バイトの半角文字に使われているとします。

すると、全角文字は2バイトで1文字ですから、11,030,551だと5,515,276文字となります。また半角文字は1バイト1文字ですから、1,225,617バイトだと1,225,617文字となります。

というわけで、全角の5,515,276文字と半角の1,225,617文字を足し算すると、「674万893文字」という数値が出てきました。なお、これを記事数の「4389」で割り算すると、1記事あたりに使われている平均字数を概算できます。結果「1536字」となりました。

文字も積もればブログとなる……。13年目もよろしくお願いします。

参考資料
COBOL2002使用の手引 手引編「基本機能」
http://itdoc.hitachi.co.jp/manuals/3000/30003D0800/GD080421.HTM
| - | 18:33 | comments(0) | trackbacks(0)
「交ぜ書き」は「問題」


漢字とかなを使う日本語には、「交ぜ書きの問題」があります。交ぜ書きとは、漢字で書くことのできる熟語を、漢字と仮名を混ぜて書くことを指します。

科学や技術にかかわる熟語でも、しばしば交ぜ書きは見られます。

「皮ふ」。これは、もし“交ぜ書き選手権”があれば、第1位になってもよいくらいの典型的な交ぜ書きによる熟語です。漢字のみの場合は「皮膚」となります。

「覚せい」。目をさますことや、目がさめることをいいます。これは漢字では「覚醒」。「覚せい剤」と書いたり「覚醒剤」とも書いたり。

「排せつ」。生きものが体のなかに生じた不用なものを体の外に出すこと。漢字では「排泄」となります。

「いん石」。天文学の分野からの交ぜ書きの登場です。漢字のみでは「隕石」となります。2文字のうちの1文字目がひらがなという例。

「転てつ」。これは、鉄道に詳しい人にはなじみある熟語かもしれません。線路の分岐において、短いレール2本の向きを変えることを指します。漢字では「転轍」と書きます。

交ぜ書きは「問題」なのでしょうか。文化庁は「情報機器の発達とこれからの国語施策の在り方」という文書のなかで「交ぜ書きの問題」のように「問題」という表現を使っています。では、どのあたりを問題視しているのかというと……。

「文脈によっては読み取りにくかったり、語の意味を把握しにくくさせたりすることもある」

この文書では、上にあるように「読みとりにくさ」と「把握のしにくさ」が交ぜ書きにおける問題だとしています。「違和感を覚えるから」とか「美しくないから」といったほかの問題点は述べられていません。実用するうえで問題があるという、立場なのでしょう。

熟語を扱う機会のきわめて多い、新聞はどう対応しているのでしょう。新聞、通信、放送各社の用語担当者たちからなる新聞用語懇談会が編集し、日本新聞協会が発行した『新聞用語集追補版』には、つぎのように書かれてあります。

「漢字熟語の漢字と仮名の交ぜ書きは、定着していると見られるものを除いて、できるだけ避ける」

多くの場合、交ぜ書きが生じる背景には、1946年に「当用漢字表」が公表されたことがあるようです。国語政策について審議する国語審議会の答申にもとづき、政府は、日常的に使われる範囲としての漢字1850字を示しました。これにより使っていたのに範囲外となる漢字があらわれ、それが交ぜ書きの発生に影響したということです。なおその後、1981年には1945字からなる「常用漢字」が、また2010年には2136字からなる「改定常用漢字表」が公表されています。

ただし、「皮ふ」の「膚」は当用漢字表に載っていますから、ただ単に書くのがたいへんなため、だれかが交ぜ書きをはじめたという熟語もありそうではあります。

文化庁は交ぜ書きの問題の対応策として、「交ぜ書きによって、読み取りが困難になったり、語の意味が把握しにくくなったりする場合には、言換えなどの工夫や必要に応じて振り仮名を用いて漢字で書くなどの配慮をする必要があろう」と示しています。

参考資料
futuremix 2003年10月1日付「交ぜ書きは意味が伝わりにくいから、漢字制限をやめよう!」
https://futuremix.org/2003/10/kanjiseigen
文化庁「情報化への対応に関すること 情報機器の発達とこれからの国語施策の在り方(2)交ぜ書きの問題」
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kakuki/20/tosin04/03.html
『2010年「改定常用漢字表」対応 新聞用語集 追補版』日本新聞協会
http://www.pressnet.or.jp/publication/book/pdf/shimbun_yogo.pdf
当用漢字・常用漢字 一覧(あ-か行)
http://www15.atpages.jp/sa2700v/tojo-all1.htm
| - | 16:58 | comments(0) | trackbacks(0)
教授たちの講義動画で大学の授業を疑似体験


高校生や中学生は、大学の授業を経験していません。いくら「大学の授業は高校にはないレベル」といったことを説いたとしても、高校生たちには実感がわかないかもしれません。

しかし、インターネットによる情報提供が発達した時代です。講義とおなじような内容を、大学生以外の人たちも見ることができるようになっています。

ユーチューブで「大学講義」と入れると、たとえば慶應義塾大学の「物理情報数学A」という授業の動画や、おなじく「半導体工学」という授業の動画などが見つかります。これらの動画発信者名は「慶應義塾」となっているので、大学が用意したものでしょう。

ユーチューブに授業の動画をあげるほかに、各大学や学部がウェブのサイトを開設しているものもあります。

巷での評判が高いのは「東大テレビ」。授業そのままを動画にしたものでなく、公開講座や講演会を動画にしたものですが、各動画での登壇者は東京大学の研究者たち。「くるくるまわるタンパク質分子を見てみよう&超解像顕微鏡」や「錯覚とVR技術」「ロボットの歴史」といった題名が並んでいます。大学の研究者が自分の研究について、どのように説明をするのかを実感することはできます。

早稲田大学は「早稲田コースチャンネル」という公開授業動画サイトを開設。「学部で絞り込み」ができるので、たとえば早稲田大学の理工系3学部「基幹理工学部」「創造理工学部」「先進理工学部」を選べば、理工系の教授たちによる講義を見ることができます。「ディジタルシステム設計」「交通システム工学」「環境工学」といった、大学の授業にふさわしい内容の講義名が並んでいます。

東京工業大学の「オープン・コース・ウェア」は、講義の動画に加えて「講義ノート」も公開しています。「アクセスランキングTOP10」や「最新/アップデート公開講義TOP10」などのランキングが充実。ただし、講義のシラバスだけを掲げて講義ノートを公開していない授業があったり、講義名がない動画が多かったりする点にやや難はあります。

米国では、こうした大学の講義を大学生以外の人が視聴できるサービスを、“Massive Open Online Course”の頭文字をとって“MOOC”とよんでいます。たとえば、スタンフォード大学のコンピュータ科学の教授たちが設立した「コーセラ」では、スタンフォード大学のほか、ミシガン大学、プリンストン大学、ジョン・ホプキンス大学など、理工系に強い大学の多数の講義を動画で無料で視聴することができます。

米国の充実ぶりにくらべたら、日本のサービスはまだ未熟といえなくもありません。しかし、大学生ではない人が、大学の教授たちによる授業を体験するには有効な方法といえそうです。

参考資料
しゃこメモ「自宅にいながら、大学の講義を視聴。日本語で観れる12の講座動画サイト」
http://www.shaco-o.com/lecture-movie
ウィキペディア「MOOC」
https://kotobank.jp/word/MOOC-191345
| - | 22:39 | comments(0) | trackbacks(0)
習慣は力

イラスト作者:Xavier Vergés

現在というものを“未来への準備期間”と捉える考えかたがあります。「下積み時代」や「大器晩成」といったことばがあるのは、未来に対する期待のあらわれといえるかもしれません。

では、未来のために現在なにをしておくべきか。「すべての経験が未来のためになる」と考えたら、しておくべきことはいろいろあるでしょう。本を読んで知識を得たり、旅に出て経験を積んだり、いろいろなことが考えられます。

「よい習慣をつけておく」というのも未来のためにしておくべきことのひとつとなりそうです。ここでいう「習慣」とは、長い間くりかえしおこなっていて、そうすることが決まりのようになっていることがらのこと。

人の行動には、「これをやろう」という意思によるものもあれば、「これをやるのは当然」という習慣によるものもあります。意思による行動を起こすには、精神的なエネルギーが必要だけれど、習慣による行動が起きるうえでは、精神的エネルギーはさほど必要ない。なので、自分の未来のためになる習慣づけを積極的にしておくべきだ、という理論がなりたちそうです。

脳科学的にも、習慣づけの好影響は説明されているようです。

食べものを見ると食べたくなる衝動を活性化する脳の部位があるといいます。しかし、脳には自分で自分の行動や欲望を抑えることにつながる別の部位があるともいいます。ひとたび習慣づけが起きると、神経のパターンが変わり、衝動的な行動より、理性的な行動のほうが上まわるというわけです。

しかしながら、どうよい習慣をつけるかは、人にとっての大きな課題でもあります。この課題に対して、米国のジャーナリストで『習慣の力』の著者チャールズ・デュヒッグ (1974-)は、「ルーチンを特定する」「報酬を変える」「きっかけを見つける」「計画を立てる」という四つの手順を示しています。

デュヒッグはまた、人のすべての行動の4割は「習慣」によるものだとも述べます。いわく、「悪い習慣」を減らし「よい習慣」を増やすことで人生は好転する、と。

人には気性というものがありますから、「よい習慣をつけるとよい」と言われても、なかなかそうならないものではあります。しかし、意思の力を用いるよりも、よい習慣が自然とおこなわれることのほうが、はるかに楽なのはたしかなことでしょう。

参考資料
ウェブ現代 2013年5月9日付「『習慣の力 The Power of Habit』著者:チャールズ・デュヒッグ 翻訳:渡会圭子 プロローグ3〜13ページより抜粋」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35619
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中学・高校のすべての主要教科が理系進路に深く関わる


中学校や高校での教科には、国語、数学、理科、社会、英語があります。これらは「主要教科」ともよばれ、授業の数も多め。中学生や高校生のなかには、「どうして、これらを習わなければならないの」と、ピンとこないまま授業を受けている人、あるいはそんなことを考えるまでもなく授業を受けている人もいるかもしれません。

とくに、高校卒業後、理系の路へと進むことを考えると、これら主要教科のすべてが、直接的あるいは間接的に役立つものとなります。大学で卒業研究にとりくんだり、さらにその先、就職先での理系職に就いたり、あるいは大学院で研究を続けたりするするうえで、どの教科もなにかしらの形で活かされるわけです。

まず、数学と理科は、大学以降の理系の学びや仕事を、直接的に支えることになる教科といえます。

数学については、大学以降の理学、工学、医学、薬学、農学といった理系のあらゆる分野で使われる場面が出てきます。もちろん分野によって使われる数学の中身はちがってきます。しかし、高校までの数学は、数学全体のなかでは基礎的な部分なので、中学・高校で学ぶ内容の多くが、大学以降でも活かされると考えてよいでしょう。

理科については、高校では物理、化学、生物、地学の科目があり、理系コースでは2教科以上を習うことになるのではないでしょうか。その後、大学で物理学を研究する学部に進めば、当然、高校物理の知識は活かされますし、化学でも化学が、医学や生命科学でも生物が、地球科学でも地学が活かされます。加えて、大学には「物理化学」「生物化学」「生物物理学」「地球物理学」「地球化学」のような、高校での科目をまたぐような名前の講義や研究分野があります。高校で選んだ複数の科目が、大学以降に活きてくることは大いにあるわけです。

間接的ながら、国語で学ぶことも大学以降の学びや仕事でとても重要となります。研究したことを発表するにしても、知りたい情報を得るにしても、言語を介してすることになります。「この資料はどういう展開がなされているのか」「著者の伝えたかったことはなにか」。高校の国語を深く学んでおけばおくほど、自分がものごとを伝えたり、自分がものごとを受けとったりするとき活きてくるでしょう。この点では、古典や漢文より、現代文のほうが重要になりますが。

おなじように英語も重要です。論文に載っている知識を得ようとするとき、日本語の論文だけでなく、英語の論文まで読みあさることができれば、得たい知識にたどりつく確率は高まります。また、学会などでは研究成果が英語で発表されることもあります。研究の段階が進めば、自分が論文を書いたり、学会で発表したりするときにも「英語で」という条件があたりまえのようになってきます。高校までの英語で習うことが、かならずしも理系の研究をするときの英語での意思疎通に対応しているわけではないものの、“無駄になることが確実な内容”はなさそうです。

社会という教科は、主要教科のなかではもっとも理系の学び、研究、仕事から遠い存在に思われがちかもしれません。しかし、多くの理系の研究は、時代が進むにつれて、社会との結びつきが重視されてきています。「研究を進めるうえで守るべき法律にはどのようなものがあり、どういう経緯でそれがつくられたのか」「研究者は研究に必要なお金を、どういうしくみのなかで得ているのか」「外国の研究者が、日本人には考えにくいような研究に突き進むことには、どういう国民性があるのか」。そうした、研究にかかわる「背景」の多くを、社会という教科で得ておくことができます。

主要教科に入らなくても、「情報」という教科は、理系の情報工学系の分野には直結するし、授業でパーソナルコンピュータに触れておくことは、大学以降でレポートや論文を書いたりという点で役立つことでしょう。

ひとつひとつの教科は、すべて大学以降の、とくに理系での学び、研究、その後の仕事に深くかかわっているものと考えることができます。また、そう考えて中学校や高校の授業にのぞむほうが、実のある時間を過ごせることになります。
| - | 20:45 | comments(0) | trackbacks(0)
2080年に「自動運転車が普及」98.1パーセント「核兵器ゼロ」15.1パーセント


日本科学技術ジャーナリスト会議が2017年12月に発行した会報『JASTJ News』で「未来予測アンケート」という特別企画を組み、2030年と2080年の未来に「実現していること」のアンケート結果を載せています。記事を同会議のホームページで見ることができます(会報の2〜3ページ)。

アンケートは、同会議に入会している科学技術ジャーナリストや科学技術ライターなどの会員によびかけ、53人から回答を得たもの。

20項目のなかで、2080年に起きていることとして率がもっとも高かったのは「自動運転車が普及している」で98.1パーセント。ついで「電気自動車が普及し、ガソリン車は影を潜めている」の92.5パーセント、「自動翻訳機の活躍で通訳の仕事がきわめて限られたものになっている」の88.7パーセント。

いずれも機械系の技術の進歩によりもたらされるもの。報道でもよく伝えられるもののためでしょうか、「2080年には実現しているでしょう」と考える人が多かったようです。

逆に、2080年に起きていることとして率がもっとも低かったのは「核兵器ゼロの世界が実現している」で15.1パーセント。ついで「地球外知的生命との交信に成功している」の18.9パーセント、「地球に小惑星が衝突して深刻な人的被害、環境破壊が起きている」の20.8パーセントとなっています。

「核兵器ゼロ」という世界的に望ましいことには悲観的であるとともに、核兵器よりも影響が強い「小惑星の衝突」については楽観的であることを示すような結果です。悪いほうに影響をおよぼす事象については、天変地異へのおそれよりも人為への不審が強いということかもしれません。

2030年と2080年でポイントの差がもっとも大きかったのは、「再生医療の進歩で臓器移植の必要はなくなっている」。2030年での「はい」9.4パーセント
に対して、2080年では73.6パーセント。その差は64.2パーセント。近い将来にはまだ、安全性への課題などが解決されないとして、長期的に見れば医療の進歩は確実に起きるだろうという予想の表れと捉えることができます。

「AI記者の記事が科学ジャーナリスト賞を受賞している」は、2030年では18.9パーセント。2080年では32.1パーセント。これらの数値を低いと見るか高いと見るかは分かれるところでしょうか。「賞に値するかを評価をするのは人間だから、答えるのはむずかしい」という声もありそうですが、評価者が人間のみである保証さえありません。

2080年は62年後。この会議のいま若き20歳の会員が、82歳になっていることになります。アンケートの予想と現実の結果は照合されているでしょうか……。

日本科学技術ジャーナリスト会議の会報『JASTJ News』第85号「特別企画 未来予測アンケート 想像力は将来の現実に迫れるか」は、こちらで読むことができます(2〜3ページ)。
http://jastj.jp/wp-content/uploads/2018/01/kaihou85.pdf
| - | 22:58 | comments(0) | trackbacks(0)
2018年、鋭くないアネクドートも多々……



2018年も三が日を過ぎ、街が人がいつもどおり動きはじめてきました。2018年の「科学技術のアネクドート」もよろしくお願いします。

このブログのよび名にある「アネクドート」とは「逸話」や「一口噺」を意味するロシア語。本当のアネクドートは、政治体制などに対する鋭い風刺が利いたものを指すといいますが、このブログのアネクドートが鋭くなるのはまれです。

新年あらためて、このブログの連載記事について紹介しますと……。

「カレーまみれのアネクドート」。カレーにまつわる記事を集めたもので、おもにカレーを出すお店のカレーひと品の紹介です。2017年10月に100回を超えました。また、ライスにかかるカレーを「カレールゥ」でなく「カレーソース」と表現することの宣言(ほぼ誤用の訂正)もありました。

「立体視への挑戦」。人は、自分がその場で目にした立体の光景を、いかに平面で再現しようとしてきたのか。これを主題に、古代から現代へという流れで、その歴史を一歩ずつ紐といています。しばらく記事の更新がありませんが、没になったわけではありません。

「法則古今東西」。自然科学、社会科学、そのほかの分野をふくめ、「法則」とよばれているものをひとつずつとりあげていきます。記事の頻度は低めですが、膝を打つような法則を伝えています。

「sci-tech世界地図」。世界各地の“科学技術ゆかりの地”をバーチャルに訪れ、その場所で起きたできごとを紹介しています。こちらも頻度は低めです。

「書評」。科学・技術の分野にかかわる本を中心に、内容はどんなものか、どんな人が読むとよさそうかなどを伝えていきます。昔の本も、新しい本も。

単発記事が多いなかで、これらの連載記事がちょびちょびと掲載されることになります。

| - | 15:54 | comments(0) | trackbacks(0)
工学部や理工学部のある大学に機械工作室


工学部や理工学部、あるいは理学部をもっている大学には、「機械工作室」とよばれる共用の部屋が設けられているところがあります。

大学によって異なりますが、回転させているものに刃を当てて前後左右に動かし、もの切削するための「旋盤」、フライスとよばれる切削工具を回転させて、テーブルを動かしてものを切削するための「フライス盤」、コンピュータ制御によりさまざまな加工を自動でおこなう「マシニングセンター」、金属などの材料の一部を溶かして継ぎあわせるための「溶接機」などの工作機械が置かれているところが多いようです。

大学が機械工作室を設ける目的はおもにふたつあるようです。

ひとつは、研究に必要な道具や装置を自分たちでつくるため。いまは事情がすこしちがうかもしれませんが、昔は道具や装置をそうかんたんには手に入れにくかった時代。そこで、自分たちで道具や装置をつくって、それを使おうとしたわけです。いまも、市販品ではしっくりこない、あるいは特注するのがむずかしいといった道具や装置をつくることがあります。

機械工作室には、工作を担当する職員が詰めており、大学内の研究者から「こういうものをつくってほしい」と要望を受けると、それに従って道具や装置をつくります。工作が得意な工学部の教授たちには、自分自身で道具や装置をつくってしまう人もいることでしょう。

もうひとつの目的は、学生への教育です。工学部の本分は「ものづくりを実現すること」にあるといわれます。しかしながら、今日日、大学生世代が自分で工作をするといったことは、昔にくらべて減りました。学生がみずから工作をすることで、材料の種類による性状の変化などを実感を伴って体験することができます。

ただし、昔にくらべて「工作実習」を課している大学の工学部は減ってきているともいいます。インターネットで検索したところ、工学部で工作実習がおこなわれているのは、富山大学の機械知能システム工学科など、兵庫県立大学の機械・材料工学科、東京理科大学の機械工学科、大阪産業大学の機械工学科、東海大学の機械システム工学科、近畿大学の機械工学科、東京都市大学の機械システム工学科などなど。やはり、「機械」と名のつく学科でおこなわれることが多いようです。

自分で部品を買ってきてラジオなどをつくることに興じていた世代の大学教員からすれば、いまの学生が工作の経験の乏しいまま工学部や理工学部に入学してくるのは心もとないかもしれません。しかし、そうした学生に対して、工作実習の授業で手を体を動かして学ばせることが“教育”として求められている時代なのかもしれません。機械工作室で工作を経験させるということです。

参考資料
富山大学工学部「授業科目(カリキュラム)」
http://enghp.eng.u-toyama.ac.jp/department/curriculum/
兵庫県立大学工学部「機械・材料工学科 機械工学コース カリキュラムマップ」
http://www.eng.u-hyogo.ac.jp/eng/kikai/pdf/map01.pdf
大阪産業大学工学部機械工学科「教育・カリキュラム」
http://www.osaka-sandai.ac.jp/fc/en/mech/curriculum.html
東海大学工学部「機械システム工学科で学べる科目一覧」
http://www.u-tokai.ac.jp/academics/undergraduate/industrial_engineering/mechanical_systems_engine/curriculum/
近畿大学工学部「機械工学科カリキュラム」
http://www.hiro.kindai.ac.jp/faculty/mechanical/curriculum.html
東京都市大学工学部「機械システム工学科 講義の紹介」
http://www.mse.tcu.ac.jp/faculty/lecture
| - | 19:32 | comments(0) | trackbacks(0)
2018年はなんの「国際年」でもない年

写真作者:JasonParis

国際連合は、年ごとに世界規模でとりくむべき課題を総会で決め、その年の「国際年」を定めています。過去3年では、2015年が「国際土壌年」と「光および光技術の国際年」、2016年が「国際マメ年」、2017年が「開発のための持続可能な観光の国際年」でした。

2018年はというと、なんの国際年でもありません。広報センターの国際年のページも、2017年までの表で止まっています。暦についての情報を提供する「タイム・アンド・デート・ドットコム」も「慣例に反して、国連は2018年の特定の課題の国際年であると謳っていない」と説明しています。

国際年の課題が上げられない年は21年前の1997年以来。その後の20年では48個、1年あたり2.4個の国際年が定められていたため、きわめてまれといってよいでしょう。

国連に、国際年を提案した国がなかったわけではないようです。インドで発行されている電子媒体「ジェネラル・ナレッジ・トゥデイ」によると、インドは国連に「2018年は国際雑穀年(International Year of Millets)」とすることを提案していたといいます。世界における飢餓や気候変動に対する啓発の意識を高めようとするねらいがあったようです。しかし、2018年が2日ほど過ぎた時点で、国連による国際年の宣言はありません。

国際年はたいてい、実施する年の2年ほど前には、総会で決まっているもの。「タイム・アンド・デート・ドットコム」によると、来年2019年の国際年はすでに「国際先住民諸語年」(UN International Year of Indigenous Languages)とすることが決まっています。

国連は、国際年とはべつに「国際の10年」という10年単位での国際課題を設けており、2018年は「国連砂漠と砂漠化に反対するための10年」「第3次植民地撤廃のための国際の10年」「国連生物多様性に関する10年」「交通安全のための行動の10年」「すべての人のための持続可能なエネルギーの国連の10年」「アフリカ系の人々のための国際の10年」「栄養に関する行動の10年」となっています。

ここ数年は、国際年の課題が複数あることが多くありました。2018年はその反動というわけではないでしょうが、世界の人びとが課題を分かちあうという目的から、1個は国際年の課題があってもよかったかもしれません。

参考資料
ブリタニカ国際大百科事典「国際年」
https://kotobank.jp/word/国際年-158002
国際連合広報センター「国際年」
http://www.unic.or.jp/activities/international_observances/years/
time and date.com “UN International Year 2018”
https://www.timeanddate.com/year/2018/
General Knowledge Today 2017年11月24日付 “India asks UN to declare 2018 as International Year of Millets”
https://currentaffairs.gktoday.in/india-asks-declare-2018-international-year-millets-11201750230.html
time and date.com “UN International Year 2019”
https://www.timeanddate.com/year/2019/
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