科学技術のアネクドート

2017年の科学の画期的成果、ヒトを知ることにつながる発見が続々と


米国科学振興協会(AAAS:American Association for the Advancement of Science)は、発行する雑誌『サイエンス』で、「2017年の科学における画期的成果」(2017 Breakthrough of the Year)を12月21日に発表しました。

きのうこのブログで紹介した第1位「宇宙における合体」のほかに、「次点」として九つの成果が選ばれています。

「生命を原子の寸法で」。クライオ電子顕微鏡とよばれる顕微鏡が研究者たちのあいだで本格的に使われるようになり、相互作用している最中の複雑な分子群の画像が得られるようになりました。「クライオ」とは「超低温の」といった意味。この顕微鏡は、対象物をありのままの姿で凍らせて、分子の相互作用などが起きている瞬間を捉えることができます。

「恥ずかしがりの素粒子を見つける小さな検出器」。電子レンジぐらいの大きさしかないニュートリノ検出器を研究者が使うようになりました。自然界には電子をふくめ数種類の素粒子が存在しますが、ニュートリノはとりわけ見つけづらい素粒子とされます。2017年81人が協力して結成した「コヒーレント」が、ニュートリノのコヒーレント散乱という現象を、この小さな検出器で観察することに成功しました。この検出器には、ナトリウムを混入したヨウ化セシウムでつくった結晶が使われています。

「ホモ・サピエンスのより深遠な源流」。1961年にモロッコの洞窟で発見されていたホモ・サピエンス、つまりヒトの頭の化石が、発掘されたなかでは最古のものであるとわかりました。研究者たちは、30万年前のものと決定。これは、前にエチオピアで発掘されたホモ・サピエンスの頭の化石より10万年も古いものとなります。

「ピンポイントのゲノム編集」。6万以上の遺伝子異常が人間の病気にかかわり、そのうち3万5000近くは、ただ1個の塩基の異常により引きおこされているとされます。こうした遺伝子異常により生じる病気の治療に向けて、2017年、研究者たちは「塩基編集」とよばれる技術を進歩させました。デオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)またはリボ核酸(RNA:RiboNucleic Acid)のなかに含まれる1個の塩基の異常を正常に直すことができるといいます。遺伝子に対して高い精度で切ったり、新たな塩基を入れたりする「ゲノム編集」とよばれる技術が進んでいますが、「塩基編集」はゲノム編集の新たな一種と位置づけられます。

「生物学のプレプリントが発進」。これは科学の制度についての話。生物学者たちは「プレプリント」とよばれるしくみを使いはじめました。プレプリントとは、研究者が書いた論文の原稿を、ピアとよばれる査読者たちに読まれるまえに、インターネットのサーバに上げ、より多くの人たちに読んでもらって指摘を受けるしくみを指します。発端は2013年に、米国のコールド・スプリング・ハーバー研究所が「バイオアーカイブ」というリプリントのサーバを設置したこと。発表論文のデータベースである「パブメド」上にある約10万本の生物学の論文のうち、1.5パーセントが「バイオマーカー」をふくむサーバにリプリントとして上げられているそうです。なお、物理学では7割という高割合でプレプリントを通しているとのこと。

「がん治療薬の幅広い打撃」。がん治療薬は、これまで「からだのどの部位に効き目があるか」をもとにつくられてきました。新たに「デオキシリボ核酸(DNA)のどの部分に効き目があるか」という考えかたにもとづく治療薬が開発されました。この薬はメルクが開発した「ペムブロリズマブ」。商品名は「キイトルーダ」。2017年5月に米国食品健康局が承認しました。がん細胞が免疫にブレーキをかける「免疫チェックポイント阻害剤」とよばれる新型のがん治療薬です。

「大型類人猿の新種」。大型類人猿の新種がひさびさに見つかりました。インドネシアのスマトラ島内、人間のきわめてすくない場所でのこと。「ポンゴ・タパヌリエンシス(タパヌリ・オランウータン)」と名づけられました。大型類人猿が発見されたのは1929年のボノボ。それから88年後の発見となります。解説記事では「家族にようこそいらっしゃい」としています。

「270万年前の地球の空気」。米国のプリンストン大学とメイン大学の研究者たちは2017年8月、南極で270万年前に凍った氷を取りだしたと発表しました。これまでに取り出されていた最古の氷よりも170万年前も古いもので、地球の気候史上、きわめて重要な期間における「直接的な空気の記録」となります。研究者たちは、500万年前の氷を取ることにも期待しているようです。

「遺伝子治療の躍進」。致死性の遺伝性神経筋疾患をもって生まれた赤ちゃんたちが、欠損していた遺伝子を脊髄神経に加える治療によって救われました。もし、治療が施されなければ、2歳で死んでいただろうとのこと。この治療は、血液感染性の病原体や毒素から、脳や脊髄を保護する膜を貫通して新たな遺伝子を届けることがでいたという点でも画期的だったと、記事は評しています。

2017年は、自然人類学の分野での成果や、遺伝子にかかわる分野での成果が目立ちます。広くは、ヒトのことをより深く知ることにつながる成果ともいえそうです。

なお、今年は「失敗」(Breakdowns)という項目も用意されています。選ばれたのは、ドナルド・トランプ大統領と米国の研究者の関係悪化を示した「トランプと科学者、やばい隔絶」、また、コガシラネズミイルカが絶滅の危機に貧している状況などを伝える「鯨類にとっての厄年」、そして、9月に2人の女性研究者が米国のソーク研究所に性的嫌がらせをめぐって訴えを起こしたことを伝える「私も! 科学における性的ハラスメント」の三つ。これらも言及せずにはいられなかったのでしょう。

2018年は、どのような1年になるのでしょうか。

『サイエンス』2017年の科学における画期的成果と失敗を伝える記事はこちらです(英文)。
http://vis.sciencemag.org/breakthrough2017/finalists/#cosmic-convergence

参考資料
ブリタニカ国際大百科事典「素粒子」
https://kotobank.jp/word/素粒子-90424
エナゴ学術英語アカデミー「生命科学分野は『プレプリント』を導入すべき?」
https://www.enago.jp/academy/preprint/
国立がん研究センターがん情報サービス「免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html
| - | 17:50 | comments(0) | trackbacks(0)
2017年の科学の画期的成果、第1位は「宇宙での合体」


米国科学振興協会(AAAS:American Association for the Advancement of Science)は(2017年)12月21日、「2017年の科学における画期的成果」(2017 Breakthrough of the Year)を同協会が発行する科学雑誌『サイエンス』に発表しました。

毎年、『サイエンス』では、第1位の成果を一つと、次点の成果を九つ挙げ、解説を加えています。

第1位の成果は、「宇宙での合体」(Cosmic convergence)と題したもの。中性子からなる星であり、1立方センチメートルの質量が1千万トン以上になる「中性子星」の合体を観測したという成果です。

2017年8月17日、130億光年の距離にある二つの中性子星が、大爆発のなかで、らせんを描くようにぶつかりあったのを世界中の研究者が観測したといいます。

同誌が「特筆すべきこと」としているのは、このできごとの発見のされかた。宇宙そのものの微小なさざなみである「重力波」を地球上の観測設備で検出したのです。

重力波は、重力場が波動のかたちとなって光速で伝播するもの。アルバート・アインシュタイン(1879-1955)が理論的にその存在を推論していました。この重力波は2016年、米国ルイジアナ州にある「レーザー干渉計重力波観測所」(LIGO:Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)で実際に観測され、これが2016年の「科学における画期的成果」の第1位となっていました。そのとき検出された重力波は、巨大な二つのブラックホールが合体したときのものでした。

同誌は「(2016年の)観測が発見のクラリオンであるとすれば、今年の成果は科学の交響曲のようなものだ」としています。クラリオンとは金管楽器のこと。ブラックホールは巨星が崩壊して一点になったときに残りつづける幽霊のような重力場であり、熱くなることも、ものを放出することもありません。対象的に、中性子星は、ほぼ中性子からなる球状のものであり、極めて高密度な物質がそこに詰まっています。ブラックホールの合体は重力波によってのみ検出されたのに対して、2017年の中性子星の合体はガンマ線から電波まで、光のすべての波長において観測されました。これを「クラリオン」と「交響曲」のちがいとしているようです。

観測技術の発達によって、これまで観測されたことのなかった宇宙における現象が、これからも観測されていくかもしれません。『サイエンス』はその一例として、中性子星とブラックホールの合体を挙げています。

そして、スタンフォード大学で研究する英国の理論物理学者ロジャー・ブランドフォードの「もっとも刺激的なのは、天文物理学者が予想だにしていなかったような信号。期待に反するようななにかを見ることができたらいい」という談話を紹介して、解説記事をしめくくっています。

『サイエンス』2017年の科学における画期的成果の第1位の記事「宇宙における合体」はこちらです(英文)。
http://vis.sciencemag.org/breakthrough2017/finalists/#cosmic-convergence

あす31日(日)は、次点に選ばれた九つの成果を紹介する予定です。

参考資料
EurekAlert! 2017年12月21日付「サイエンス誌の2017年ブレークスルー・オブ・ザ・イヤーは2つの中性子星の合体の観測に決定」
https://eurekalert.org/pub_releases_ml/2017-12/aaft-4121817.php
| - | 15:22 | comments(0) | trackbacks(0)
往復したら「いち」「に」と声に出してみる

写真作者:ICTE-UQ

プールで水泳をする人のなかには、「自分が何メートル泳いだか」を把握することがちょっとした課題という人もいるかもしれません。

短水路とよばれるプールの長さは25メートル。長水路のほうは50メートル。ふつう、この25メートルか50メートルを行ったり来たりするわけです。短水路では1往復すれば50メートル、長水路では1往復で100メートルとなります。

ちょっとした課題となるのは、自分が何往復したかをつい忘れてしまうということ。といっても、まったく忘れてしまうわけではなく、「どっちだっけ」と迷う程度に忘れるということです。たとえば、5往復して250メートル泳いだのか、それとも4往復して200メートルしか泳いでいないのかが記憶のなかであいまいになってしまうというわけです。

とくに、「自分はかならず1500メートル泳ぐ」などと距離の目標を課している人にとっては、距離を把握しておくことは大切となります。

自分の泳いだ距離をいちいち把握しておくには、距離を数えることもふくめ、泳ぎに集中することが大切なのでしょう。しかし、泳者たちの経験話からすると、泳ぎながら考えごとをしていたり、となりのコースの人が気になったりしがちのもよう。すると「あれ250メートルだっけ、200メートルだっけ」となってしまうそうです。

ある泳者は、つぎのような方法を考えつき、実践しているといいます。

「1往復するたびに、『いち』『に』『さん』って声に出すんです。これで、距離がわからなくなることが減った気がしますね」

プールのなかで、何往復目であるのかを自分で発生するというわけです。おそらく、音として耳に入ってくるために、記憶に残りやすいのでしょう。

「ただし、一点だけ注意が必要」と、この泳者はつづけます。

「水中で発する声は、こもりがちですからね。近くで泳いでいる人におかしく聞こえて誤解されないようにしないと。『よん』と言ったのが『おい!』と聞こえたみたいで、私の前を泳いでいた人が、振りむいて『なにか言いましたか』と聞かれてしまったこともあったので」

できるだけ、人に聞こえないように、それでも声には出して、水のなかで自分の泳いだ距離を数える、ということが大切なようです。
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大学の授業を受けて資格を得る、資格に近づく

写真作者:Masashige MOTOE

工学院大学が、2019年4月より先進工学部に「航空理工学専攻」という新たな専攻を設けることを(2017年)12月14日(日)に発表しました。

この専攻に進むと、学生は自家用機を操縦できる米国連邦航空局(FAA:Federal Aviation Administration)の資格や、事業用機を操縦できる国土交通省航空局の資格などを取得することもできるようです。

大学の学びのなかで「資格を得る」ことの意義は大きいでしょう。具体的で形のある目標に向けて挑むことになるからです。

大学の学びと資格の取得のかかわりには、いくつかの型に分けることができます。

まず、「特定の授業を受けて単位をとることによって得られる」資格があります。上にあるような航空機を操縦する資格もその例。大学の工学部についていえば、電気・電子工学関連の学科で特定の授業の単位を得れば、「陸上特殊無線技士」や「海上特殊無線技士」などの資格を得ることができます。

「特定の授業を受けて単位をとり、さらに実務経験を積むことで得られる」資格もあります。たとえば、電気関連の工事や運用を監督する「電気主任技術者」という資格は、大学で定められた科目の単位を得て、さらに実務経験が加われば得られるというもの。また「測量士」については、資格試験に合格して資格を得る以外に、大学で測量についての科目をおさめ、卒業後1年以上の実務をこなすことで得ることもできます。ちなみに「測量士補」は大学の授業のみで得ることができます。

「特定の授業を受けて単位をとれば、受験する資格を得られる」という資格もあります。建築にかかわる学科では、「一級建築士」や「二級建築士」、また「木造建築士」といった資格を得られる場合があります。

また、「特定の授業を受けて単位をとれば、試験の一部を免除される」資格もあります。たとえば「無線従事者」という資格では、「陸上無線技術士」の試験のうち、「無線工学の基礎」という科目が免除されます。

また、授業で単位をとることが、試験に合格することに直接つながるわけではありませんが、「授業を受けておけば、試験で有利になる」といった資格もあります。たとえば、情報処理や情報システムなどの授業で学んでいれば、得た知識が「基本情報技術者」や「応用情報技術者」といった資格の試験に有利にはたらくといったこともありそうです。

資格には「その仕事をするうえではもっていて当然」あるいは「もっていないとその仕事ができない」といったものもあります。

なお、資格の取得につながる授業を設けているかどうかは、各大学、各学部、各学科の方針や制度によって異なります。具体的に得たい資格がある場合、直接その大学の総務部などの担当者に問いあわせたり、ホームページで確かめたりするとよいでしょう。

参考資料
工学院大学 2017年12月14日発表「2019年4月先進工学部に新専攻を開設、〜大空へ、さらに宇宙へ〜工学院大学が航空理工学専攻と宇宙物理学専攻を新設」
http://www.kogakuin.ac.jp/press_release/2017/121401.html
福井大学 工学部・工学研究科「取得可能な免許・資格」
http://www.eng.u-fukui.ac.jp/education/department/license.html
神奈川県「測量士又は測量士補になるには」
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f211/p3662.html
総務省「九州における無線従事者国家試験科目の一部免除認定校」
http://www.soumu.go.jp/soutsu/kyushu/press/pdf/080319-1-2.pdf
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将来への希望を「幸せ」の要素に入れる


「幸せ」の度合いをどのように測るか。これは、社会学者や経済学者たちが、長いこと考えてきた問題です。

多くの学者は、「幸福度」あるいは「満足度」というもので、その人の幸せの度合いを表現しようとしてきました。たとえば、英国の経済学者リチャード・レイヤード(1934-)は、幸福に影響をあたえる7つの要素として「家族関係」「家計の状況」「雇用状況」「コミュニティと友人」「健康」「個人の自由」「個人の価値観」を挙げ、これらが幸福感の全体像を示すとしています。

ただし、家族関係に問題がなくても、家計の状況が潤っていても、雇用状況に不満がなくても、コミュニティや友人とのつながりがあっても、健康であっても、個人の自由が保たれていても、個人の価値観が守られていても、「自分は幸福だ」とは感じない人もいることでしょう。

これらの幸福度の要素は、だいたいにおいて客観的な数値として示すことができるものです。しかし、「幸福を感じる」かどうかは、多分に主観的な要素がふくまれるもの。いかに、「あなたは幸せですか」と聞かれた人の主観をとり入れて幸福度を求めるかが、研究者たちの大きな課題となっていたようです。

そこで、現状の評価だけで満足度を決めるのでなく、将来への希望や期待も幸福度の要素に入れてはどうかという考えかたが出てくるようになりました。たとえ「いま」は幸福度につながる要素が足りなくても、「未来」の自分は幸せになるはずという希望をもっていれば、その人の幸福度は高いといってよいのではないか、ということです。

「幸福度」をめぐっては、「主観的幸福度」という考えかたが近ごろ、よくもち出されているようです。学者のあいだでの共通的な定義はないながらも、将来に対する期待から得られる幸福感が、主観的幸福度を割りだすうえでの大きな要素と考える学者もいるようです。

参考資料
袖川芳之・田邊健「幸福度に関する研究 経済的豊かさは幸福と関係があるのか」
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis182/e_dis182.html
内閣府 幸福度に関する研究会「幸福度に関する研究会報告(案)幸福度指標試案」
http://www5.cao.go.jp/keizai2/koufukudo/shiryou/4shiryou/2.pdf
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
「デザイン」の使われかたが広まっているのかもしれない

画像作者:andy in cube

「デザイン」という外来語は、日本語として非常に定着したことばのひとつです。

デザインの同義語として「意匠」「図案」といった日本語もあります。インターネットの世界で、この3語がどれだけ検索されるかというと、「意匠」が約489万件、「図案」が約612万件であるのに対して「デザイン」は約2億6300万件にものぼります。

「デザイン」もともと、ラテン語の“designare”に由来するといいます。その意味は「計画を記号に表す」とされます。この原義をもつことばとして、ほかにフランス語の「デッサン」(dessin)もあります。

統計がとられているわけではありませんが、「デザイン」ということばの使われかたは、ほかのことばがそうであるのとおなじく、変容しているともいわれます。正確には、拡大といったほうがよいかもしれませんが。

昭和の時代ごろ「デザイン」といえば「考え、意図、ねらいを物理的なかたちに表す」といった意味あいが強かったのではないでしょうか。たとえば、印刷によって大量に複製されるデザインを意味する「グラフィック・デザイン」や、大量生産による工業製品のデザインを意味する「インダストリアル・デザイン」は昭和時代にさかんに話題にされてきましたが、これらには二次元であれ三次元であれ、物理的なかたちにするという意味がふくまれています。

いっぽう、近年では物理的なかたちを伴わないものを「デザイン」の対象にするという場合が増えているというのです。

たとえば、インターネットで”をデザインする”ということばで検索をかけるとどうでしょう。

一番目に「コミュニケーションをデザインするための本」という書名が、また二番目に「シェアをデザインする」という書名が出てきます。これらはネット書店による、デジタル・マーケティングの結果かもしれませんが。

ところが、さらに上位の四番目には「可能性をデザインする」、五番目には「そもそもをデザインする」と出てきます。これらも物理的なものを伴わないものに対して「デザイン」が使われている例といえましょう。上位五番のなかで唯一、三番目に「駅をデザインする」という、物理的なものを対象とした「デザインする」が出てきます。

より抽象的な対象についても「デザイン」が使われる傾向の表れかもしれません。そうした使われかたは、昔は皆無だったわけではないでしょうが。

これからも「デザイン」ということばは、日本で使われつづけることでしょう。日本語にした「意匠」や「図案」よりも、より抽象的で使い勝手がよいからです。

参考資料
世界大百科事典第2版「デザイン」
https://kotobank.jp/word/デザイン-100877
ウィキペディア「デザイン」
https://ja.wikipedia.org/wiki/デザイン
| - | 23:24 | comments(0) | trackbacks(0)
禁煙表示板の下半分が謎めいている
公共施設には、さまざまな設備があります。それらの設備とは、たいてい、その施設を使う人の役に立つように設計されたもの。

しかし、そうした設備のなかには、「どういう意図で設計されたのだろう」と謎に感じるようなものもあるものです。



写真の中央にあるのは、都営地下鉄のある駅の階段おどり場の角に置かれた設備。ぱっと見、禁煙のピクトグラムに「構内は禁煙です。ご協力ください。No Smoking」と書かれていることから、禁煙を伝える表示であることは明らかです。

しかし、謎が残されます。この設備の下半分は、禁煙の表示とは関係なさそうな鏡張りになっているからです。

近づいてみると、明らかに下半分が鏡張りになっていることがわかります。この鏡は禁煙の表示板に10か所、釘が刺さるかたちで張られています。



駅のなかを見わたしてみると、おなじように禁煙の表示板の下半分が10か所の釘で刺さっている金属板を見ることができます。



しかし、こちらの金属板は、光をくっきりと反射させるものでなく、鏡の役割を果たしていません。



壁の角に設置された禁煙表示板の下半分は鏡のようなっていて、壁面に沿って設置された禁煙表示板の下半分は鏡のようにはなっていない。このふたつのちがいから、禁煙表示の下半分にはなにかの役割や意味がありそうだと考えるのがふつうでしょう。

この、禁煙表示板の下半分にはどのような役割があるのか。すぐに知る術は、駅員に聞くことです。しかし、その駅員は「ちょっとわからないですね。姿見に使われるということではないでしょうかね」と自信なさげ。もし、姿見であるのなら、身をかがめなければ見られないような位置には鏡を置きますまい。

この謎の鏡はなんなのか。意味があるのか。その答えは、このブログでいつか伝えることになるでしょう。
| - | 23:50 | comments(0) | trackbacks(0)
「強」が立てば「靭」が立たず、「靭」が立てば「強」が立たず

写真作者:Yusuke Kawasaki

「あの人は強靭な肉体をしている」などというときがあります。「強靭」とは、「しなやかで強いこと。柔軟でねばり強いこと。また、そのさま」(デジタル大辞泉)のこと。

しかし、実際には「強」と「靭」を両立させることは、とてもむずかしいこととされます。

「強度」とは、その材料がもっている、変形や破壊に対する抵抗力を指します。たとえば、金属には、炭素の量がすくなく、ニッケルとコバルトの量が多い「マルエージング鋼」とよばれる特殊鋼がありますが、とても強度が高いことで知られます。強度にはいくつかの尺度がありますが、そのひとつ「引張強さ」でいうと、マルエージング鋼は2403メガパスカル。これは、ガラスのおよそ50倍、純鉄のおよそ12倍となります。

いっぽう、強度とは異なる材料の性質として「靭性」があります。靭性は、粘り強さのことを指すもの。たとえば、材料の亀裂の生じにくさや、亀裂が入ったときの伝わりにくさなどを示します。

強度と靭性のちがいは理解しづらいものですが、インターネットには、わかりやすい喩えを使って説明するサイトもあります。Archstructure.netというサイトでは、建てものの耐震設計に対する考えかたとして、「強度型」と「靭性型」があるとして、つぎのような説明をしています。
_____

普通のせんべい・・・なかなか曲がらないが、ある時一気にパキッと2つに割れる
湿気ったせんべい・・・すぐに曲がり始めるが、なかなか2つにはちぎれない
これが先ほど出てきた「強度型」と「靭性型」に相当します
_____

たしかに、ふつうの乾いたせんべいは力を入れてもなかなか曲がりません。しかし、ある程度以上の力を入れると、一気に真っ二つに割れてしまいます。これは「強度は高いが靭性は低い」といったところでしょう。

いっぽう、湿気ったせんべいは力を入れるとすぐに曲がってしまいます。しかし、力を入れていっても、真っ二つに割れてしまうことはあまりありません。これは「強度は低いが靭性は高い」といったところ。

せんべいとおなじように、材料はたいてい「強度をとれば靭性がたたず。靭性をとれば強度がたたず」といった具合に、ふたつの条件を同時に満たすことはむずかしいとされています。

ちなみに、「強靭な肉体」で思いうかぶのはどのような人物でしょうか。インターネットの画像検索では、有名人では映画俳優だったブルース・リー、サッカー選手のクリスチアーノ・ロナウド、プロレスラーの中西学などが出てきます。どの人も、胸板が筋肉で厚く覆われています。いっぽう、体の柔らかい体操選手のような人物の肉体はなかなか出てきません。「強靭」ということばは、「しなやかさ」よりも「力強さ」という語感のほうが優先されているようです。

参考資料
ウィキペディア「強度」
https://ja.wikipedia.org/wiki/強度
「砥石」と「研削・研磨」の総合情報サイト。「金属の引張強さの一覧|金属材料の引張強さを比較する」
http://www.toishi.info/metal/tensile_list.html
ウィキペディア「マルエージング鋼」
https://ja.wikipedia.org/wiki/マルエージング鋼
三省堂大辞林「靭性」
https://www.weblio.jp/content/靭性
Archstructure.net「大地震への抵抗:強度型と靭性型 / metaphor」
http://www.archstructure.net/metaphor/senbei/index.html
| - | 00:49 | comments(0) | trackbacks(0)
「マトリクス」、「行列」と「母材」で大ちがい
おなじことばでありながら、意味が大きく異なり誤解しやすいものはあるもの。とくに外来語では多くあります。「ライト」のように、もともと“right”と“light”の綴りがある外来語では、「正しい」「右」「光」などのさまざまな意味があります。

しかし、“right”と“light”のような綴りが異なる外来語でなくても、「どうしてこんな意味があるのか」と考えこんでしまうようなことばはあるものです。

「マトリクス」(matrix)ということばは、日本でもさまざまな分野で使われています。

数学者たちは「マトリクス」といえば「行列」のことを思いうかべるでしょう。

「行列」といっても、多くの人が並んでいるという意味での「行列」でなく、数字を横方向の行と縦方向の列に並べたものを指すので、ややこしくはありますが。


数学の「マトリクス」の例
写真作者:stuartpilbrow

この「行列」という意味での「マトリクス」という表現を就職活動のときに知った人も多いのではないでしょうか。『絶対内定』という就職活動本で、「学生生活マトリクス」や「人間関係マトリクス」といった、行と列からなる表が出てきたからです。

しかし、「マトリクス」を「行列」という意味で使うのは、「マトリクス」の本義からすると例外的であるようです。もともと「マトリクス」は、ラテン語の「子宮」を意味するもので、そこから「母体」「基盤」「なにかを生み出すもの」といった意味で使われるようになりました。映画の『マトリックス』も「子宮」の意味で使われているといいます。

材料の研究者は「マトリクス」を、この本義に近い意味で使います。

たとえば、複数の材料を組みあわせた「複合材料」とよばれる材料がありますが、「この複合材料のマトリクスは樹脂でできていて」などと話します。ここでの「マトリクス」とは「母材」つまり基本になる材料のことを指します。この「マトリクス」に、母材とは異なる材料を組みあわせることで複合材料となるわけです。母材と異なる材料には、たとえば繊維などがあります。


複合材料の一種、炭素繊維強化プラスチック
写真作者:CORE-Materials

「マトリクス」を数学の「行列」の意味で知りはじめた人にとっては、樹脂のような母材よりも、縦や横に編まれた繊維のほうを「マトリクス」と考えてしまいがちです。しかし、マトリクスは母材のほう。注意が必要です。

なお、数学で「行列」を「マトリクス」とよぶのは、英国の数学者ジェームズ・シルベスター(1814-1897)が、「行列式」という意味で使われていた「デターミナント」(determinant)ということばに対して、「行列式の母体になる概念が行列である」という考えにもとづいて、「行列」を「マトリクス」と命名したことで広まったとされています。

参考資料
ウィキペディア「マトリックス」
https://ja.wikipedia.org/wiki/マトリックス
ブリタニカ国際大百科事典「複合材料」
https://kotobank.jp/word/複合材料-161509
三省堂ワードワイズ・ウェブ「10分でわかる『マトリックス』の意味と使い方」
http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/topic/10minnw/010matrix.html
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栄養を渡したり、はたらきを強化したり、傷を修復したり
「脳の細胞」というと、多くの人は神経細胞を思いうかべるかもしれません。神経細胞はニューロンとみょばれ、刺激を近くにあるべつの神経細胞に伝えるはたらきをします。

しかし、脳の細胞の数でいうと、神経細胞は1割にも満たないといいます。では残りの9割以上をどんな細胞が占めているかというと、神経膠細胞 (しんけいこうさいぼう)という細胞です。

神経膠細胞は、脳における神経細胞以外の細胞を総じて指します。「膠」は「にかわ」ともよびます。にかわは本来、獣や魚の骨や皮などを煮てから冷やしかためたもの。神経膠細胞は「グリア細胞」ともいわれますが、この「グリア」(glia)はギリシャ語で膠を意味しています。

脳における神経細胞以外の細胞がすべておなじ性質の細胞かというとそういわけではありません。神経膠細胞はおもに3種類の細胞に分けられます。

まず、「星状膠細胞」。アストロサイトともいいます。この名前は、細胞が星のようなかたちをしているから。画像を見てみると、たしかに星に見えなくもありません。星状膠細胞のおもな役割は、神経細胞に栄養を渡したり、神経細胞から代謝物を受けとったりするもの。

脳に張りめぐらされている毛細血管に絡みついているため、栄養になるブドウ糖を血管から受けとって神経細胞に渡したり、また神経細胞が出した代謝物を受けとって血管に送ったりすることができるのです。

つぎに、「希突起膠細胞」。オリゴデンドロサイトともいいます。「希」や「オリゴ(oligo)」というのは「すくない」という意味で、「デンドロ(dendro)」というのは「樹木」を指します。日本語では「突起」という表現を使っています。

希突起膠細胞は、神経細胞のまわりにいるいわば“とりまき”。神経細胞を支えます。また、希突起膠細胞は「ミエリン」という脂質とタンパク質の複合体をつくります。ミエリンが膜状になったものを髄鞘といいます。刺激信号の伝わり方が速い神経細胞には髄鞘がよく見られることから、希突起膠細胞は神経細胞の情報伝達をすばやくする側面でも神経細胞を支えているようです。

また、「小膠細胞」もあります。これはミクログリアともよばれます。小膠細胞は、神経細胞を修復するはたらきをもっているとされます。たとえば、神経細胞が傷つくと、小膠細胞は伸ばしていた自分の突起をちぢめて大きくなり、死んでしまった神経細胞を食べるなどして、生き残っている神経細胞の修復が早く進むように促します。


青い部分が神経細胞。そのほかが神経膠細胞。
画像作者:NICHD/J. Cohen

ということで、神経細胞に対して、栄養を渡したり、はたらきを強化したり、傷ついた部分を修復したりと、神経膠細胞はさまざまなかたちで神経細胞を支援しています。脳では9割の細胞が1割の細胞を助けているのです。

参考資料
ウィキペディア「グリア細胞」
https://ja.wikipedia.org/wiki/グリア細胞
日本大百科全書「星状膠細胞」
https://kotobank.jp/word/星状膠細胞-689200
日本大百科全書「希突起膠細胞」
https://kotobank.jp/word/希突起膠細胞-763914
栄養・生化学辞典「ミエリン」
https://kotobank.jp/word/ミエリン-773043
日本大百科全書「小膠細胞」
https://kotobank.jp/word/小膠細胞-767250
| - | 17:18 | comments(0) | trackbacks(0)
人工多能性幹細胞を使った創薬、進む

写真作者:Jamie

人工多能性幹(iPS:induced pluripotent stem)細胞には、なくなったり機能が失われたりしたからだの組織を元に戻す再生医療の期待が高まっています。

再生医療とはべつに、iPS細胞を使った医療としては創薬つまり薬の開発への応用があります。

iPS細胞は、からだのどんな組織の細胞にもなる能力をもっています。肝臓にもなりうるし、皮膚にもなりうるし、神経にもなりうるわけです。

いっぽう、薬の開発では、候補となっている化学物質に効き目はあるか、また副作用などの影響はないかを調べるため、生きもののからだにその化学物質を触れさせたり含ませたりすることがあります。

ただし、人の生身でそれをやると、候補の化学物質に毒性があるとき、その人に被害がでてしまうため、マウスなどの実験動物で調べられてきました。しかし、人とマウスは生きものとしての種がちがいます。マウスのからだで調べられた結果が、人のからだに当てはまるかというと、かならずしもそうではありません。

人を対象にはできないけれど、人のからだを対象に薬の候補の化学物質の効き目や安全性を調べたい。そこで、iPS細胞の登場となるわけです。

たとえば、iPS細胞から肝臓の細胞をつくります。その細胞は、人のからだに属していないけれど、人の肝臓の細胞とおなじ性質をもつ細胞です。この細胞に、薬としての効き目や安全性があるかどうかを調べたい化学物質を触れさせます。

もし、この、肝細胞とおなじようなiPS細胞由来の細胞に薬としての作用が出れば、それは、人の肝臓にも効き目がありそうだと考えることができます。また、この細胞の安全性が保たれれば、人の肝臓の安全性も保たれそうだと考えることができます。

その逆もいえます。この細胞に効き目がなければ、人の肝臓に対しても効き目は期待できないし、この細胞に悪影響が出れば、人の肝臓に対しても悪影響が出そうです。

つまり、iPS細胞を使うことで、人への害をあたえることなく、人の細胞がどのような作用や影響を受けるか調べることができるわけです。

また、ヒトiPS細胞は、だれかのからだからとってきた細胞を使ってつくるわけですが、つくられたiPS細胞は、その人の遺伝子をひきつぐことになります。

もし、遺伝によって子どもに伝わる遺伝病とよばれる病気をもった人からiPS細胞をつくれば、そのiPS細胞は遺伝病の原因となる遺伝子をもっていることになります。

このiPS細胞の性質を遺伝病を治療する薬の開発に利用することもできます。遺伝病の患者からiPS細胞をつくったり、さらにそのiPS細胞から薬の候補である化学物質の効き目や安全性があるかを調べたい組織の細胞をつくったりして、細胞をその化学物質に触れさせるのです。

この細胞も、患者のからだのなかにあるものではありません。よって、化学物質に効き目があるか、また安全かということを、患者のからだとは離れたところで調べることができるわけです。

実際、京都大学iPS細胞研究所は(2017年)8月、筋肉のなかに骨ができてしまう進行性骨化性線維異形成症という病気に対して、iPS細胞を使ってつくった候補薬で治験を始めることを発表しました。

この病気の患者からiPS細胞をつくり、培養皿のなかでこの病気を再現し、骨化が発生する引き金となる物質を定め、その物質を詳しく調べることで、引き金が引かれなくする効き目のある候補薬を探しだすことができたのです。

iPS細胞を使った再生医療にくらべれば地味目ではありますが、確実にiPS細胞を使った創薬も歩みを進めています。

参考資料
京都大学iPS細胞研究所 2017年8月1日発表「進行性骨化性線維異形成症(FOP)に対する医師主導治験の開始について」
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/170801-140000.html
| - | 02:28 | comments(0) | trackbacks(0)
はまって、伝わって、変わる
ヒトなどの生きもののからだは、「伝わる」ことでなりたっているようなものです。たとえば痛みについても、皮膚にある繊維が傷ついたという信号が末梢神経という線を伝わり脳に届けらることで感じるものです。

「伝わる」しくみはほかにもあります。細胞の膜や内部には受容体とよばれる物質があり、この受容体に結合することのできるリガンドとよばれる物質が受容体にはまると、体内でのさまざまな変化が起きます。

たとえば、レクチンとよばれるリガンドがレクチンの受容体にはまると、細胞の凝集や分裂などを引きおこしたりします。

しかし、受容体の現場でリガンドがはまるだけでは、そうした体内での変化は起きないはずです。たとえば、東急ハンズで買ってきたコンセントとブラグを手に持ってはめたとしても、電線や電気がなければ、電球はつかないし、扇風機はまわらないのとおなじ。その作用が、変化の起きる場所まで「伝わる」ための手段が必要ということです。

受容体にリガンドがはまったとき、「二次伝令分子」とよばれる分子が「伝わる」ためにはたらきます。

たとえば、環状アデノシン一リン酸(cAMP:cyclic Adenosine MonoPhosphate)とよばれる二次伝令分子があります。アデノシン一リン酸という分子のリン酸の部分が環状に結びついている物質です。環状アデノシン一リン酸は、標的となるタンパク質に結合して、さまざまな反応を起こさせます。


環状アデノシン一リン酸の化学構造式

環状アデノシン一リン酸がつくられる場所は、Gタンパク質共役受容体(GPCR:G Protein-Coupled Receptor)という受容体。細胞膜を7回、貫通するという特徴をもった受容体です。この受容体には、さまざまなリガンドがはまりるのですが、グアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)とよばれるタンパク質のうち、GαsまたはGsとよばれるタンパク質がリガンドとしてはまると、アデニル酸シクラーゼとよばれる酵素が活性化して、環状アデノシン一リン酸がつくられるのです。

環状アデノシン一リン酸のほかにも、二次伝令物質としては、環状グアノシン一リン酸(cGMP:cyclic Guanosine MonophosPhate)、イノシトールリン酸、カルシウムイオンなどがあり、それぞれ「伝わる」ための役割を果たしています。

参考資料
薬学用語解説「セカンドメッセンジャー」
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?セカンドメッセンジャー
生物学用語辞典「二次メッセンジャー」
https://www.weblio.jp/content/二次メッセンジャー
自宅で学ぶ高校生物「細胞内のタンパク質 神経細胞」
http://manabu-biology.com/archives/42019713.html
デジタル大辞泉「サイクリック-エーエムピー」
https://kotobank.jp/word/サイクリックAMP-67789
生物学用語辞典「アデノシン一リン酸」
https://www.weblio.jp/content/アデノシン一リン酸
薬学用語解説「GPCR」
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?GPCR
ウィキペディア「Gタンパク質共役受容体」
https://ja.wikipedia.org/wiki/Gタンパク質共役受容体
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ひんぱんに傘が倒れる

写真作者:Tatsuo Yamashita

都会の雑音や風景のなかではあまり目立ちませんが、公共的な場で傘が倒れることは相当ひんぱんに起きるようです。

とくに雨の日の電車のなかで注意して観察していると、かなり高い確率で、傘の倒れる「ばたん」という音がしてきます。

まず、席に座っている人にとって、傘ほど扱いにくいものはありません。床に溝があるわけではないので、手で持っていなければなりません。片ほうの手でスマートフォンなどをいじっていると、傘を持つ手のほうへの注意が薄れ、傘を倒してしまうようです。

また、立っている人にとっても、傘はじゃまな存在となります。とくに、傘を手で持たず柄を腕や肘に引っかけている人は、自分の膝やほかの人の動きで、柄とは逆の先端が浮いて、傘を倒してしまうようです。

過去にこのブログでは「両手を使う方法を開発する人々」という記事で、電車内でじゃまになる自分の傘への対処法が論じられました。ある人の「取っ手のついたかばんをひざの上に乗せ、その取っ手を自分のほうでなく、ひざ先のほうに出して、取っ手の“輪”に傘を刺している」といった技も示されましたが、そうした技を使っている人はめったに見られません。

折りたたみ傘のほうが、傘を倒す確率は低そうです。かばんなどのなかに入れることも多く、手に持っていても倒れるほど長くはないからです。

気象予報を提供するウェザーニューズが2015年6月・7月に実施した「傘調査 2015」によると、「あなたがよく使う傘は」という問いに、「折り畳み傘」と答えたのは25パーセントだったそうです。「長傘」が56パーセント、「ビニール傘」が18パーセント。

“倒れづらい傘”といえる折りたたみ傘の使用率はあまり高くないようです。

“倒れにくい傘”で画像検索すると画像はいろいろと出てきます。しかし、たいていは、傘立ての工夫が示されたもの。傘の倒れにくさを追求する余地は、まだまだありそうです。

参考資料
ウェザーニューズ 2015年7月23日付「ウェザーニューズ、『傘調査2015』の結果発表」
https://jp.weathernews.com/news/5699/
| - | 22:46 | comments(0) | trackbacks(0)
登壇者の発言を音声認識ソフトが即時に文字起こし


きのう(2017年12月17日)付けのこのブログで伝えたシンポジウム「AIは記者にとってかわるか?」では、登壇者たちによる議論とはべつに、ひとつの試みがおこなわれました。音声認識ソフトを使って登壇者たちの発言を即時的に文字に起こし、投影するというものです。

これは、登壇者の一人だった新聞記者が、所属する新聞社で採用している音声認識ソフト「AmiVoice」の導入に携わっていたことを機に、シンポジウムでも実験的にとりいれたもの。AmiVoiceは、アドバンスト・メディアが開発したソフトウェアで、かんたんいえば人が話した音声を文字にしてくれます。

一般的に、新聞記者をふくむ記者たちは、取材対象者の話した声を文字に起こすことをひとつの作業とします。録音機に記録してあとで文字に起こす人もいれば、記者会見などの場で音声をコンピュータにそのまま打ち込んで文字に起こす人もいます。この作業を人間でなく、音声認識ソフトがするということになります。

シンポジウムでは進行役をふくめ5人が登壇し、議論しました。1人が話している途中でべつの人が言葉を差しはさむことはなかったため、基本的には発話が錯綜しない状況でAmiVoiceが音声を認識していったことになります。だれの発言も、おなじ色の文字で示されていきます。また会場の音でなく、マイクが拾った音を直接AmiVoiceが認識するという手法でした。

実際のAmiVoiceの“成果”を見てみると、たとえばこのようなものです。

「そうすると、働き方の点からいっても単純作業は減らしたいという人の話が出ましたけど」

「マスメディアというその装置と、それから営みとしてのジャーナリズムってのちょっと分けて、私は考えていたのですね」

「ちゃんと文章の意味を汲み取ってそれで、国が、例えば統計データから取ってきてこれ等ですかみたいなもので?とかつけてくれるようなものが入るだけで、相当変わりますよね」

これらは、登壇者の発言をほぼ狂いなく文字に起こすことができた例といえます。

いっぽうで、つぎのような文字起こしの例もありました。

「こういう立派なところに嫁いただけて光栄です」

これは「こういう立派なところにお呼びいただけて光栄です」のことと考えられます。

「先ほど御紹介した2億タイムズのケースでも、そういうふうに振り分けた過去のデータを食わせてて」

この文字起こしにある「2億タイムズ」は、「ニューヨーク・タイムズ」のことと考えられます。

このように音声を完全にまちがいなく文字に起こせるわけではありません。しかし、それは生身の人間とておなじこと。AmiVoiceが文字起こしをしていく速さとかなりの正確さに、シンポジウム会場はかなり感心していたようすでした。

AmiVoice自体には人工知能のような技術は入っていませんが、今後そうした技術が入っていけば、それまでに蓄積してきた音声認識データから学習して、より精度の高い文字起こしをしていくようになるかもしれません。

情報技術や人工知能を使う利点として「いままで人がしてきたことを機械がしてくれるので、人はより人らしいことをできるようになる」といったことがよくいわれます。取材の音声をきちんと文字起こししようとすれば、すくなくとも取材とおなじ時間が必要になります。

文字起こしに使ってきた時間を、機械がやってくれる分、原稿の組みたてに使うことができます。そこに機械を使う価値を見いだす記者はいることでしょう。いっぽうで、文字起こしを自分自身ですることも、原稿の質の向上につながると信じている記者もいることでしょう。

大きな流れとしては、技術の進歩によって、音声の文字起こしは機械がおこなうと行った方向に進んでいくことになりそうです。そして「音声の文字起こしって、昔は人間がやっていたんだ」と驚かれる時代がくることになりそうです。
| - | 22:19 | comments(0) | trackbacks(0)
たとえ人工知能が“良心的ビッグブラザー”を実現したとしても……


きょう(2017年)12月17日(日)東京・戸塚町の早稲田大学大隈小講堂で、「AIは記者にとってかわるか?」という主題のシンポジウムが開かれました。早稲田ジャーナリズム大学院(J-School)などが主催したもの。

「AI」とは、Artificial Intelligence、人工知能のこと。社会では、人のしてきた作業が人工知能による作業に代わっていくといわれますが、ジャーナリズムの世界ではどうなのか。この主題に対して、ジャーナリストや研究者などが登壇し、議論をくりひろげました。

すでにマスメディア業界では、通信社が発信する記事を人工知能がつくるといったことがおこなわれています。では、この先、ジャーナリズムに関わることがらに、人工知能はどのように入りこんでいき、人はどのような影響を受けるのでしょうか。

議論のひとつとなったのは、「人工知能が“良心的ビッグブラザー”を実現したときジャーナリストはどうなるのか」という主題をめぐってのもの。

「ビッグブラザー」とは、英国の作家ジョージ・オーウェルの小説「一九八四年」に登場する独裁者のこと。この小説から、国民を過度に監視しようとする政府などの主体のことを指して、ビッグブラザーとよぶことがあります。これに「良心的」がついて「良心的ビッグブラザー」。つまり、社会的に「よいこと」と導かれることを人びとに強制するような主体のことを指します。

人工知能の発達により、“良心的ビッグブラザー”が現れるのか。これはまだわかりません。しかし、そうした予想シナリオが現実のものとなったら、ジャーナリストのあり方はどうなるのでしょうか。シンポジウムで提示されたシナリオでは「ジャーナリストには目的の範囲内に限って、収集データの利用が許容されている。……『ジャーナリスト』であるかどうかが、AIによって厳格に審査される」とあります。

ジャーナリストとは、「ジャーナル」とよばれる定期刊行物の発行に携わることにより、社会をよくしていこうとする主義をもつ人、と説明されることがあります。

このジャーナリストの定義からすると、人工知能によって“良心的ビッグブラザー”が出現するような社会では、ジャーナリストはいなくてもよいことになります。

しかしながら、登壇者の一人は、人工知能による“良心的ビッグブラザー”の実現に対して、つぎのように反論をします。

「言論の自由はなにによってもたらされたのでしょうか。それは英国に置ける市民革命のなかで、人間としての意見を言う自由を得ることにより成立したものです」

たとえ、社会をよくすることにつながる“良心的ビッグブラザー”の存在があったとしても、「社会をよくする」ための導き、あるいは説得を強制的におこなうような主体に対して、「私はこの意見を言いたい」と表明する権利を確保しなければならない。登壇者はこういう主張を声高に言いました。

「私はこの意見を言いたい」と表明することが、社会をよくすることにつながるかどうかはわからない。むしろ、人工知能は「そんな意見が社会にでることは、社会を悪くすることにつながる」と判断するかもしれません。

たとえ、そうであっても「私はこの意見を言いたい」と表明する権利を確保しなければならない。こうした考えから、この登壇者はこうつづけるのでした。「人工知能と協力関係を築くことはできないのではないか」と。

未来の社会が人工知能によってどうなるのか、わかりません。しかし、こうした議論をいまの段階から重ねていくことには人間にとっての意義がありそうです。
| - | 22:16 | comments(0) | trackbacks(0)
数10万種あるにおい物質を嗅覚のしくみで処理

写真作者:Endlisnis

においを放つ物質を「におい物質」といいます。におい物質は、分子量300以下といった揮発性の低分子でできていて、身のまわりには数10万種類があるとされます。身のまわりにあるほとんどのものは、特有のにおいをもっているといってよいでしょう。

すべてのにおいの種類に対して、生体が個別対応で「これはバラのにおい」「これはおならのにおい」などと対応していてはきりがありません。生体は、かぎられた体の資源によって、無限ともいえるさまざまなにおいを感じわけるしくみをもっているわけです。

におい物質を受けるのは、鼻の穴の上のほうにある「嗅上皮」という皮膚です。この嗅上皮には「嗅細胞」とよばれる神経細胞があります。ヒトではおよそ500万個、また鼻がよいといわれる動物、イヌではおよそ2億個の嗅細胞をもっているといいます。

ヒトの嗅細胞500万個それぞれには、嗅覚受容体が備わっています。嗅覚受容体はにおい物質を待ちうけていて、結合します。1対1対応になっているのでなく、受容体とにおい物質のはまるかたちが合えばはまる、といったかなりあいまいな対応ぶりのようです。

しかしながら、「1神経・1嗅覚受容体の原則」というものはあります。嗅覚受容体には1000種類ほどがありますが、1個の嗅細胞では、その1000種類のうちたった1種類の嗅覚受容体しか発現していないのです。もし、1個の細胞が、いくつもの種類の嗅覚受容体をもっていると、どのにおい分子が結合したのかがわからなくなりますから、「1神経・1嗅覚受容体の原則」は、その混乱を防ぐためのしくみだと考えられています。

さて、嗅覚受容体とにおい物質がはまると、嗅細胞から脳に向けて伸びている軸索という線を伝って、その信号が送られます。

送られた先にあるのは、嗅球という脳の一部です。嗅球は脳の前方にあるといいますから、嗅球と嗅細胞は“目と鼻の先”ぐらいに近い位置にあります。

嗅球の表面には「糸球体」とよばれる、球状の突起物がおよそ1000個あります。じつは、嗅覚受容体には1000種類あるといいましたが、この嗅覚受容体の種類の数と、糸球体の数が対応しているのです。これを「1糸球体・1受容体の原則」といいます。

この1000個の糸球体の集まりは、まるで1000画素の画面のようなしくみになっています。それぞれの嗅覚受容体から送られてくるそれぞれの信号に応じて、発火する糸球体と発火しない糸球体があって、嗅球表面全体ではパターンが描かれるといいます。におい物質の組みあわせによって、そのパターンは変わってくるわけです。

脳はその都度、このパターンを読みとって「どういうにおいが入ってきたのか」といったことを認識していると考えられています。

参考資料
大瀧丈二「におい受容のしくみ 嗅上皮から嗅球まで」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/35/4/35_4_170/_pdf
ライフサイエンス新着論文レビュー「糸球体モジュールにおける多様な匂い応答の表現」
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6852
デジタル大辞泉「嗅球」
https://kotobank.jp/word/嗅球-681193
坂野仁「嗅覚研究によってヒトの心をのぞく」
http://www.toray-sf.or.jp/activity/lecture/pdf/63-h25_2.pdf
| - | 19:54 | comments(0) | trackbacks(0)
「日本よ、“食料を失う日”のために備えよ」



ウェブニュース「JBpress」で、きょう(2017年)12月15日(金)「日本よ、“食料を失う日”のために備えよ マッキンゼー『食料争奪時代』報告書を読む(後篇)」という記事が配信されました。

コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーが、2017年12月6日(水)「『グローバル食料争奪時代』を見据えた日本の食料安全保障戦略の構築に向けて」という報告書を発表しました。記事では、この報告書の内容について、あらためて執筆者の一人に話を聞いています。

外部から受ける影響に対して国の安全を請けあうことを「安全保障」といいます。安全保障というと、他国に武力攻撃を受けることを想定する軍事的なものの印象が強くあります。しかし、食料自給率が熱量換算で4割にも満たない日本では、食料をどう確保するかも、安全保障の大きな課題のひとつとなるわけです。

報告書にある「グローバル食料争奪時代」には、「将来に向けて国どうしが食料を争奪しあうような状況が世界的に起きうる」といった意味が込められているようです。そうした状況のなかで、日本という国がどう対処すべきかの指針が報告書に示され、今回の記事でも伝えています。「食料安全保障は総合安全保障の一部である、という共通認識に基づいてトップダウンの戦略が描かれ」ることや、「国内農業だけでなく、輸入戦略も総合的に検討されている」ことなどです。

食料の安全保障については、日本政府も分析をしています。農林水産省は2014年度から毎年「食料供給に係るリスクの分析・評価」を実施しており、米、小麦、大豆、飼料用とうもろこし、畜産物、水産物を対象とする分析・評価の結果を発表しています。また外務省も2017年7月に「日本と世界の食料安全保障」という報告書を公表しました。

こうした分析結果があるなかで、民間のコンサルティング企業が、おなじく日本の食料安全保障を主題とする報告書を出すことの意義とはどのようなものでしょう。

政府が出す報告書は、政府が政策を打ちだすなかでの情報の一部分にならざるをえません。そのため政府の方針が色濃く反映されたものになりがちです。食料安全保障政策の説得材料のひとつであると位置づけることもできます。

これに対して、民間企業が報告書で示す指針は、政府が進めるべき政策を政府と異なる立場から示すもの。政府への提言という意味がふくまれています。実際、記事では、報告書執筆者が「政府は、全体像を描きつつ食料安全保障実行体制をつくっていただきたい」と提案をしています。

政府のほかに、国民、農業者、民間企業、地方自治体といった、食料安全保障にかかわるそれぞれの立場の人に向けても、もっておくべき意識や視野が述べられています。このあたりの踏みこんだよびかけも、民間コンサルティング企業による報告書だからこそ特徴といえるかもしれません。

「備える」というのは地味な行為ではあります。しかし、地道な発信、提言、議論が、“その時”がやってきたときの“備え”となります。

JBpressの記事「日本よ、“食料を失う日”のために備えよ」はこちらです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51835

前篇の「中国に奪われる可能性のある日本の食料」では、日本がもっている食糧確保をめぐるリスクとはどのようなものか、報告書や取材をもとに、事例や将来シナリオを踏まえて紹介しています。前篇はこちら。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51791

また、マッキンゼー・アンド・カンパニーの報告書「『グローバル食料争奪時代』を見据えた日本の食料安全保障戦略の構築に向けて」が掲載されている同社のページはこちらです。
https://www.mckinsey.com/japan/our-insights/ja-jp

| - | 15:36 | comments(0) | trackbacks(0)
前段階の形を経て完成形に
製品が完成した形になるまでには、完成する“前”の工程を経るはずです。たとえば、カレーも、カレーという形になるまえには、カレールゥを入れずに具材を煮込む段階があります。

ものづくりの世界では、こうした完成前の段階にあるものを「プリフォーム」とよぶことがあります。「完成形にするために予備成形したもの」といった意味のことばで、英語では“preform”と綴ります。ただし“Preform”が載っていない英語辞書もあります。

プリフォームの工程を踏む身近な製品のひとつがペットボトルです。ペットボトルの完成形は、キャップの部分が狭く、お茶やジュースが入る部分は太くなっています。しかし、プリフォームでは、キャップの部分の形は完成形とおなじですが、お茶やジュースが入る部分は膨らんでいません。


ペットボトルのプリフォーム
写真作者:Haijia mc

このプリフォームを加熱したうえで金型に入れて伸ばし、空気を入れることによって膨らませるのです。すると、よく見るペットボトルの形になります。

軽さや強さが特徴で、運動用具などに使われている炭素繊維強化樹脂にもプリフォームがあります。圧縮機などでプリフォームを立体状につくっておき、それを金型に入れておきます。その金型に、さらに液体状の樹脂を注入します。これを加熱すると、硬化します。こうして、炭素繊維強化樹脂をつくる方法は「RTM(Resin Transfer Molding)成形」といいます。

製品を完成させる過程では、かならずしもプリフォームを経なければならないわけではありません。利点があるからこそ、プリフォームを経ているともいえます。その利点とは、容積が小さいこと。たとえば、ペットボトルのプリフォームの容積は完成形の容積の5分の1から10分の1ほど。プリフォームで運搬すれば、運送にかかる費用やエネルギーを減らすことができます。

ただし、プリフォームは完成形よりも収縮されているわけですから、製品として完成したときの機能をプリフォームで保っておく必要があり、これが製品によっては技術的な課題となっているようです。

参考資料
大日本印刷「プリフォームってなに?」
http://www.dnp.co.jp/taqs/preform/whatspre/index.html
日経テクノロジーオンライン 2014年10月30日付「東邦テナックスがCFRPプリフォームの生産性を高める技術、自動車で一部実用化」
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20141030/385931/?rt=nocnt
アルテック「プリフォーム事業」
http://www.altech.co.jp/work/81
CYBERNET「CFRP織物複合材料への樹脂含浸成形(RTM)解析」
http://www.cybernet.co.jp/ansys/case/analysis/333.html
炭素繊維協会「用語解説」
http://www.carbonfiber.gr.jp/tech/glossary.html
中里直史ら「プリフォーム高密度化処理によるSiC/SiC複合材料の微細組織および強度特性への影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jinstmet/75/3/75_3_146/_pdf
| - | 20:03 | comments(0) | trackbacks(0)
「光学」に「幾何」「物理」「量子」が冠される


「光学」という熟語に「的」がつき、「光学的」と表現されることがよくあります。「光学的に測定する」「高度な光学的表現」「物質の光学的性質を知る」といった具合です。

では、そもそも「光学」という学問はどのようなものなのでしょうか。

字のとおり「光」を対象とする学問であることにちがいありません。ただし、光というものをどのように見なすかで、光学はさらに細かく分けることができます。

まず、光の進む“線”に注目し、その反射、屈折、結像などを研究する「幾何光学」という光学の一分野があります。「光の進む“線”に注目」するというのは、べつの言いかたをすれば、光のもつ波としての性質や量子としての性質などは無視するということ。

じつは幾何光学では、フランスの数学者で「フェルマーの最終定理」で知られるピエール・ド・フェルマー(1607-1665)の功績が光っています。フェルマーが1661年、「光は最短時間で進むことができる軌道をとる」とする原理を唱えました。これによって、直線、反射、屈折といった、幾何光学で大切な光の現象が説明されるということです。

いっぽうで、光の“波動”としての性質、つまり波が伝えられていく現象の性質に注目し、その干渉、回折、偏光、分散などを研究する「物理光学」という分野も、光学の一分野となっています。波の性質を扱うため、物理光学は「波動光学」ともよばれます。

光の正体のひとつである波は、電磁波であると捉えることもできます。そこで、英国の物理学者ジェイムズ・マクスウェル(1831-1879)が導いた「マクスウェル方程式」という電磁誘導を表す基本的な式にもとづいて、光の性質を研究する分野があり、「電磁光学」とよばれます。電磁波は波の一種であるので、電磁光学は波動光学の一部と考えることもできます。

幾何光学も物理光学も、光学機械のレンズの性能を高める技術などに応用されます。

また、量子力学で扱われる極小の世界における光の振るまいや、物質との相互作用など研究する光学を「量子光学」といいます。

大学の工学部では、おもに電磁気学と物理光学を学ぶようです。このあたりが、やはり光学の基礎的な分野と考えられているのでしょう。

参考資料
ブリタニカ国際大百科事典「光学」
https://kotobank.jp/word/光学-61584
ブリタニカ国際大百科事典「幾何光学」
https://kotobank.jp/word/幾何光学-50030
ウィキペディア「幾何光学」
https://ja.wikipedia.org/wiki/幾何光学
wikiwand「光学」
http://www.wikiwand.com/ja/光学
ウィキペディア「量子光学」
https://ja.wikipedia.org/wiki/量子光学
| - | 18:21 | comments(0) | trackbacks(0)
研究者の拘留・懲役刑は、社会にとっての損失

写真作者:Thomas Haynie

技術が進歩すると、社会はその影響を受けます。「恩恵」といえる影響も「害悪」といえる影響もあるでしょうが、一般的には「技術の進歩が社会を幸せにする」と考えられているようです。

では、技術進歩の担い手が、法律を破って逮捕されたり、起訴されたり、さらには懲役を受けたりしたら、どうなるでしょう。

研究者も人間なので、罪の容疑をかけられることはありえます。容疑者として逮捕されたら、状況によっては、拘留されたり、また裁判所に出頭したりすることに。さらに、罪状によっては懲役刑を受けることもありえます。

つまり、逮捕後の一連の境遇に置かれている期間、その研究者は本来すべきだった研究をすることができなくなります。

もし、逮捕された研究者が有罪となれば、その研究者にとっては自業自得といわざるをえません。「研究で自分は世界一になりたかったのに、研究する時間を奪われるなんて」と恨んでも、研究を滞らせる原因をつくったのは自分の行為となるわけですから。

しかし、社会からすれば、その研究者が拘留や懲役刑によって研究をする日数を奪われているのは損失にもなります。

たとえば、難病の治療法の開発にとりくんでいる研究者は、病気を治したい患者の期待を背負っています。その研究者が、自分の非によって研究できないことになれば、「研究が滞ったことにより失われる命」も生じえます。

たとえ、その研究者が拘留されたり懲役刑を受けたりしていても、共同研究者がおなじ知見や技術をもって、その研究を進めることができれば、その研究がまったく進まなくなってしまう事態は避けられるかもしれません。しかし、実際のところは、その人物でなければ進められない研究というものもあるものであり、重要人物であればあるほど、その研究分野は進まなくなってしまうおそれがあります。

ここからは思考実験の域に入ってしまいますが、もし人類が滅亡するような問題の唯一の解決法を知っている研究者が、論文に発表する前に逮捕され、懲役刑を受けたとしたら、国家や社会は「あの人が研究できる状況にないのはしかたない」と諦めるでしょうか。それとも「人類滅亡の危機を解決できるのはあの人しかいない」と研究に復帰することを望むでしょうか。

研究者が裁きや刑を受けている期間、研究が滞ります。研究が滞ることにより、社会が損失を受けることもあります。「研究者が拘留されたり懲役刑を受けたりして、進まなくなった研究をどうするか」という社会の課題があります。
| - | 17:52 | comments(0) | trackbacks(0)
「金谷ホテル クラフトラウンジ」の100年カレー――カレーまみれのアネクドート(104)


カレーが日本にどう入ってきたのか。明治時代に英国から伝わったとされるが、だれがどのように携わったのか。こうした謎が謎のままである以上、カレーの源流を探訪したい人にとっては、昔から供されているカレー、もしくは復刻されたカレーというものが気になるものでしょう。

「百年ライスカレー」と銘うつ、復刻カレーがあります。栃木県日光市に構える「日光金谷ホテル」のレストラン「クラフトラウンジ」が供しているライスカレーです。

日光金谷ホテルは、1873(明治6)年、日光東照宮の楽師だった金谷善一郎が自宅の一部を外国人の宿泊施設とし、「金谷カッテージ・イン」として開業したことに端を発します。1893(明治26)年には、大谷川にかかる神橋の近くに「金谷ホテル」を開業しました。いまの日光金谷ホテルがある場所です。

金谷ホテルの説明では、「百年ライスカレー」は、2003年にホテルの蔵から大正時代のカレーのレシピが発見されたことを受けて再現したもの。

また、べつの取材記事では、善一郎のひ孫にあたる井上槙子氏が蔵から料理のつくりかた集の写真があります。そこには「chiken Curry 金谷特製カレー」の文字が。この写真だけでも、鶏肉が具材とされていたこと、また「特製」とあることからライスカレーは広く食べられてはいたことなどがうかがえます。

「百年ライスカレー」は、銀色のソースポットにソースが入り、平たい皿にアーモンドスライスを載せたライスが上品な量で盛られ、福神漬とらっきょうが小皿に入って出てきます。ライスの量にくらべて、鶏肉の分量は多め。また、カレーソースの辛さは抑えめです。

井上氏は「幼い頃の記憶と照らし合わせながら何度も試食して、復刻することができた」と、取材記事で述べています。

大正時代となれば、カレーが日本に入ってきて、すくなくとも40年が経過したころ。そのころのライスカレーの味に思いを馳せ、いまのカレーライスとのちがいを探しながら食べることが、「百年ライスカレー」のふさわしい食べかたといえるかもしれません。

「百年ライスカレー」を食べられる日光金谷ホテルのクラフトラウンジの紹介ページはこちら。
http://www.kanayahotel.co.jp/nkh/restaurant/maple/

参考資料
金谷ホテル「歴史」
https://www.kanayahotel.co.jp/appeal/history/
NIKKEI STYLE 2017年2月24日付「百年洋食を味わい、時間旅行に浸る 日光金谷ホテル」
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO12614840X00C17A2000000?channel=DF140920160963
| - | 19:39 | comments(0) | trackbacks(0)
運輸部門エネルギー消費のうち航空の割合は約4パーセント


航空機を飛ばすにはエネルギーが必要です。では、社会で使われるエネルギーのどのくらいが航空用に使われるのでしょうか。

エネルギーの使いみちとして、「家庭」「企業・事業所など」「運輸」という三つの部門に分けてみることがよくあります。資源エネルギー庁が年ごとに出している「エネルギー白書」でも、この分けかたをしています。

3部門でのエネルギー消費の構成比を見ると、2014年度では「企業・事業所など」が62.7パーセント、「運輸」が23.1パーセント、「家庭」が14.3パーセントとなっています。全体では、1億3558ペタジュールとなっています(ペタは1000兆を表す接頭辞)。

航空機のジェットエンジンに使われる燃料は「ジェット燃料」とよばれます。運輸部門では、「石炭」「ガソリン」「軽油」「潤滑油」「液化石油ガス」「都市ガス」「電力」そして「ジェット燃料」というエネルギー源に分けられています。

同庁の「総合エネルギー統計」にある、運輸部門のエネルギー源ごとの消費推移によると、2014年での「ジェット燃料」が占める率は4.8パーセントでした。

飛行機のエネルギー源になるのはジェット燃料ですが、ほかの見かたもできます。「航空」という産業が、どのくらいのエネルギー消費をしているかという視点です。

運輸部門は「旅客」と「貨物」の部門に分けられます。うち、旅客部門では、「自家用自動車」「営業用自動車」「バス」「鉄道」「海運」そして「航空」の6部門にわけられています。うち、2014年度の「航空」が占めるエネルギー消費は、12京5900兆ジュール。6部門全体のうちの6.2パーセントとのことでした。

また、貨物部門は、「営業用トラック」「自家用トラック」「鉄道」「海運」そして「航空」の5部門に分けられています。うち、2014年度の「航空」が占めるエネルギー消費は、2京3400兆ジュール。5部門全体のうちの1.8パーセントだったといいます。

旅客部門と貨物部門における「航空」のエネルギー消費を足し算すると、14京9300兆ジュール。一方、旅客部門と貨物部門における各部門をすべて足した運輸部門全体でのエネルギー消費は、330京2200兆ジュール。 これを分母とすると「航空」の用に使われているエネルギーの比率は、運輸部門全体のうち4.19パーセントということになります。

参考資料
資源エネルギー庁「エネルギー白書2016」
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2016html/2-1-2.html
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
炭化ケイ素、パワー半導体の材料だけでなく……

「炭化ケイ素」という化合物があります。ケイ素の元素記号はSi、炭素の元素記号はCなので「SiC」とも書かれます。


炭化ケイ素(SiC)の構造

注目を集めている炭化ケイ素の用途のひとつが「パワー半導体部品」。電気の交流を直流にしたり、直流を交流にしたりするための電子部品です。直流を交流に変換する電車のインバータ装置などで実際に使われており、従来のケイ素だけからなるパワー半導体よりも、省エネルギー効果が大きいとされています。

この炭化ケイ素が、パワー半導体とはまったく異なる用途で使われることが期待されています。「セラミック・マトリクス複合材料」(CMC:Ceramic Matrix Composites)とよばれる新しい材料の原料として炭化ケイ素が使われることが期待されているのです。

セラミック・マトリクス複合材料とは、セラミックスという原料を、さらにセラミックスでできた繊維と混ぜあわせてつくる材料のこと。強靭性、つまり、強くてしなやかな性質に優れるといいます。

セラミックスというのは一般的に、無機物質を原料として熱処理によりつくられる材料を指します。炭化ケイ素はセラミックスの一種。そして、セラミック・マトリクス複合材料の原料として有力視されているのは、炭化ケイ素のほかに酸化アルミニウム(Al2O3)くらいといいます。なので、セラミックス・マトリクス複合体とは「炭化ケイ素と炭化ケイ素マトリクスの複合体」とだいたいおなじ意味だと考えてもよさそうです。

セラミックスを用いた材料を、セラミック材料といいます。セラミック材料は高温の環境で使うことが期待され、飛行機やロケットのエンジンなどへの応用が考えられてきました。しかし、割れてしまいやすいなどの課題もあり、実際にこうしたエンジンに使われることがむずかしいとされてきました。

いっぽう、セラミックスをセラミックス繊維で強化した複合材料であれば、飛行機やロケットのエンジンといった過酷な条件で使われる製品にも使えるようになるわけです。

従来の飛行機やロケットのエンジンにはニッケルという金属が含まれる合金が使われてきました。セラミック・マトリクス複合材料は、ニッケル合金よりも軽いため、機体としての燃費性能もよくなると期待されています。将来、エンジンの主役級になるでしょうか。

参考資料
NEDO実用化ドキュメント「次世代の電力社会を担う『SiCパワー半導体』が、鉄道車両用インバーターで実用化」
http://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201706sic/index.html
中村武志ら「航空機エンジン用CMCタービン部品の開発」
https://www.ihi.co.jp/var/ezwebin_site/storage/original/application/3e4c35d3dc5b96f43c0c5eebf43f8eaa.pdf
神戸工業試験場グループ「セラミック基複合材料(CMC)の加工技術を確立しました」
http://www.kmtl.co.jp/ja/archives/596
ファインセラミックスセンター 2017年6月28日発表「次世代航空機エンジン用CMCの耐環境性セラミックスコーティング」
http://www.jfcc.or.jp/25_press/press20170628_CMC.pdf
宇宙航空研究開発機構「航空機エンジン用CMC」
http://www.aero.jaxa.jp/research/basic/structure-composite/cmc/

| - | 18:52 | comments(0) | trackbacks(0)
直接つかんだり、手に持たず読みとったり

画像作者:tombi aburage

コンビニエンスストアのレジカウンターは、客と店員のあいだの、ちょっとした“やりとり”の場といえます。すくなくとも、客が製品を渡し、店員が金額を提示し、客が支払いをするという行為があります。

昔にくらべてどうでしょうか、客が買おうとする品を、店員が直接、手でつかむという場面が多くなっているのではないでしょうか。

昔からよくある行為は、客がレジカウンターのうえに一旦、品を置いてから、それを店員が手に持ってバーコード読みとり機をかざす、といったものです。

しかし、客がレジカウンターに置こうとする品を、店員がひょいとつかんでバーコード読みとりに移る、といった場面を見ることが多くなってきました。

これとは、べつの様式として、客がカウンターに置いた缶ジュースや缶ビールを、店員が手に持たずにバーコード読みとり機をかざす、という光景も見られるようになりました。

店員側からすれば、それなりの言い分はありそうです。

品を直接つかむ行為については、「お客さんだって、早く買いたいでしょ。時間短縮につながるんですよ」といったところでしょうか。また、「お客さんはおつりを受けとるときは、直接もらおうとするじゃないですか。あれとおなじだと思ってください」という言い分も考えられそうです。

また、品を手に持たずバーコード読みとり機をかざす行為については、「缶に私の手の菌をつけずに済むわけですから、衛生的ではありませんか」といったところでしょう。

しかし、客の側からすれば、「いったん品をカウンターに置いて、その品を店員が手に持って、バーコード読みとり機をかざす」という一連の行為があたりまえと思っている人はいるはず。そういう客にとっては、店員のどちらの行動も不意をつかれたような感じになるのではないでしょうか。

直接つかむ、あるいは手に持たずバーコード読みとりをする、という行為がすこしずつ増えていく傾向であれば、いつかはこれらが、やって当然の行為になっていくのかもしれません。
| - | 17:15 | comments(0) | trackbacks(0)
空気汚染は屋外より室内で、先進国より途上国で……

写真作者:Jesus Rodriguez

空気がなんらかの化学物質によって汚染されてしまうことを「空気汚染」といいます。「空気が汚染される」と聞くと、工場からの煙灰や光化学スモッグなどを思いうかべる人も多いことでしょう。

しかし、実際のところ、空気の汚染によって人体に影響が生じる危険性は、屋外での空気汚染よりも、屋内での空気汚染のほうがはるかに高いようです。

よく引かれるのが、世界保健機関(WHO:World Health Organization)が1999年に発行した「空気の質についてのガイドライン」という手引におけるデータです。このなかでは、毎年、世界では300万人が空気汚染で死亡し、そのうちの9割を超える280万人が室内での空気汚染で命を落としている、ということが述べられています。

考えてみれば、室内での空気汚染のほうが危険性は高いのは明らかです。屋外であれば、汚染源の化学物質は拡散されていきますが、室内ではとなると化学物質はこもりがちです。おなじ容積あたりの汚染物質の濃度は、室内のほうが高くなりやすいわけです。

とりわけ室内での空気汚染を指して、「室内空気汚染」ということばも使われています。具体的に、どんな化学物質が室内空気汚染のもとかというと、暖房や調理で生じることのある一酸化炭素、たばこの煙にふくまれる発がん性物質のベンゾピレンやアクロレイン、家具などにも使われる塗料や接着剤にふくまれるトルエンやホルムアルデヒド、さらに建材に使われていたアスベストなどがあります。

なお、厚生労働省などでは、「シックハウス(室内空気汚染)」という表現をしていることから、室内空気汚染とシックハウスはほぼ同義ともいえそうです。

たばこの煙などの室内にいる人の行為による空気汚染はべつとして、質の高い換気装置や燃料などを使うことができない途上国では、とりわけ室内空気汚染の被害は深刻であるようです。室内空気汚染で死ぬ人の割合は、開発途上国で9割、先進国で1割といった統計もあります。

人によって、特定の化学物質に過敏であるということもあるので、多くの人が共通に「問題だ」と認識しづらいという課題もありそうです。

参考資料
栄養・生化学辞典「空気汚染」
https://kotobank.jp/word/空気汚染-764373
知恵蔵「室内空気汚染」
https://kotobank.jp/word/室内空気汚染-182502
住まいの科学情報センター「発展途上国における室内空気汚染」
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Nov2001/011126.htm
厚生労働省「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku.html?tid=128714
厚生労働省「2012年9月28日 第11回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会 議事録」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002nh6k.html
CNN 1999年8月30日付 “Air pollution kills, but deaths can be prevented”
http://edition.cnn.com/NATURE/9908/30/air.pollution.enn/
| - | 22:04 | comments(0) | trackbacks(0)
書評『入門 環境経済学』
(2017年)11月24日(金)、環境省のカーボンプライシングのあり方に関する検討会が今後の議論の方向性をまとめました。そうした政策の基本となる考えかたが盛りこまれています。

『入門 環境経済学 環境問題解決へのアプローチ』日引聡・有村俊秀著、中公文庫、2002年、224ページ


経済学は金儲けのための学問ではない。著者らは経済学を「望ましい社会を実現するための市場の役割や、政府の役割を明らかにするための学問」とする。そして、経済学の知見を、さまざまな環境問題の解決に役立てようとしている。この本では定義を明確にはしていないが、書名にある「環境経済学」は、望ましい環境のありかたを実現するための経済学といったところだろう。

環境経済学の基本的な部分を説明するところから始まる。たとえば、「価格=限界費用(売上を1単位増加するのに必要な追加的費用)=限界効用(財1単位から得られる効用)」のとき社会的利益は最大化されるといった説明などだ。

また、環境と経済の関係性については、「環境問題は市場の外部にあるため、市場メカニズムだけでは解決できない」というこれまでの現状を述べたうえで、政府がとるべき政策として「規制的手段」と「経済的手段」をあげる。

前者は政府が直接的に汚染排出量などに制限をかける方法。後者は環境税を課すことなどによって企業が利潤追求する姿勢を利用し、汚染量を減少させようとする方法だ。

規制的手段か。経済的手段か。著者らの結論は、経済的手段、なかでも環境税を導入することが望ましいとするものだ。環境税が課された状況では、各企業が自発的に決定する生産量は、市場全体の生産費用を最小にするかたちになるという。つまり、社会的な“むだ”のようなものが出ないわけだ。いっぽう、規制的手段をとるとなると、政府による各企業への生産量の割りあてが不正確になりやすく、社会的利益を最大にしづらくなるなどの難点があるという。

さらに、経済的手段のなかでも、汚染物を出す生産を抑える企業などにお金をあたええる補助金制度の導入は、環境税よりも劣るとする。補助金という利潤を求めて企業が参入するようになり、長い目では環境後負荷型の社会をつくりだす効果をもつからだ。

この本が発行された2002年には、まだあまり知られていなかった経済的手段のひとつ「排出量取引」についても詳しく解説をしている。排出量取引とは「政府が発行した排出する権利を市場で取引することで、取引費用を軽減しながら汚染物質の排出量を削減しようという試み」のこと。

じつは、ある特定の方式による排出量取引と環境税は、どちらを用いても排出削減を達成するための費用は最小化されるのであり、「経済学的にはまったく同じ制度」なのだという。この結論に、驚いた読者も多いのではないだろうか。

地球温暖化対策をめぐる政府間の状況などは発行年の2002年から大きく変わってしまった。だが、環境経済学の基本的な考えかたやしくみについては、いまの各国政府の政策などで使われているもの。書名のとおり、環境経済学の入門者にとっては、適した一冊になることだろう。

『入門 環境経済学』はこちらでどうぞ。
https://www.amazon.co.jp/dp/4121016483
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「べつのよびかたである」といえない語釈も

写真作者:hiroaki maeda

文を書く人は、国語辞典を使うことが多いのではないでしょうか。紙のもの以外に、コンピュータのアプリケーションとなっているもの、またインターネット上で検索できるものなどがあり、むかしより便利になりました。

国語辞典において、大切になるのは「語釈」、つまり見出し語の意味の解釈や説明がされてある部分です。出くわしたことばの意味を知りたいと思って辞典を引くことが多いので、当然といえば当然ですが。

では、語釈の部分に載っている語句とは、なにを表しているのでしょうか。

「語釈」とは「見出し語の意味、解説、説明」であるという以上、「語釈」には見出し語の、意味、解説、説明が記されているはずです。「なにあたりまえのことを言っているのだ」と言われそうですが……。

多くの見出し語については、節や句からなる語釈がまず載っています。そして、とくに体言の見出し語においては、その後さらにべつの体言が添えられることがあります。

たとえば、「コンピューター」という見出し語には、つぎのような語釈が載っています。

「電子回路を用い、与えられた方法・手順に従って、データの貯蔵・検索・加工などを高速度で行う装置。科学計算・事務管理・自動制御から言語や画像の情報処理に至るまで広範囲に用いられる。電子計算機。」(『大辞林第三版』より)

「用いられる。」までを、節や句からなる語釈の部分とすれば、「電子計算機。」はべつの体言が添えられた語釈の部分といえます。

では、この「電子計算機」とは、「コンピューター」という見出し語にとってなんなのでしょうか。

国語の授業で習うかはわかりませんが、多くの人は「べつのよびかた」と認識していることでしょう。

しかし、「べつのよびかた」とするには、やや違和感を覚えるような見出し語もあります。たとえば、「ES細胞」という見出し語に対する語釈はどうでしょうか。

「受精卵が分化を始める前の段階の胚はいである胚盤胞の内部細胞塊から取り出した細胞。生体のさまざまな組織に分化する可能性があるため、再生医学において重要な役割を果たすと期待されている。胚性幹細胞。万能細胞。」(同)

さらに、「iPS細胞」という見出し語に対する語釈はどうでしょう。

「受精卵や卵子を用いず、体細胞に遺伝子を導入することでつくり出した万能細胞。生体のさまざまな組織に分化する可能性があるため、再生医学において重要な役割を果たすと期待されている。誘導多能性幹細胞。新型万能細胞。人工多機能性幹細胞。」(『スーパー大辞林』より)

「ES細胞」の語釈には「万能細胞」とあり、「iPS細胞」の語釈には「新型万能細胞」とあります。たしかに、ES細胞には、生体のさまざまな組織に分化する可能性があるため、それを「万能性」と捉え「ES細胞は万能細胞である」と解釈することはできなくありません。そして、ES細胞のあとにiPS細胞が開発されたことからすれば、「iPS細胞は新型万能細胞である」と解釈することもできなくなりません。

けれども、たとえば科学記者が山中伸弥さんに取材で「先生、万能細胞と新型万能細胞のちがいをどのように捉えていますか」と聞いても、山中さんにすぐには理解してもらえないのではないでしょうか。

つまり、国語辞典の語釈には「べつのよびかたである」と、断言することのできない語句もふくまれているわけです。上の「ES細胞」についていえば、「胚性幹細胞」という語釈の部分は「べつのよびかた」といえますが、「万能細胞」はそうはいえなさそうです。また「iPS細胞」については「誘導多能性幹細胞」と「人工多能性幹細胞」という語釈の部分は「べつのよびかた」といえますが、「新型万能細胞」はそうはいえなさそうです。

語釈の表現のしかたに関連して、辞書編纂者の飯間浩明さんは、「国語辞典の語釈は、見出し語と入れ替えて文章の中で使っても、そのまま意味が通じるようになっているのが理想です」と述べています。

「理想」ということは、すべての語釈が「そのまま意味が通じるようになっている」というわけではないということ。辞書編纂者たちが、最善を尽くして語釈を用意してくれることを畏敬しつつも、語釈からことばを選ぶときには「べつのよびかた」といえるか、注意が大切です。

参考資料
『大辞林第三版』「コンピュータ」
https://kotobank.jp/word/コンピューター-3554
『大辞林第三版』「ES細胞」
https://kotobank.jp/word/ES+細胞-417731
『スーパー大辞林』「iPS細胞」
三省堂ワードワイズ・ウェブ 飯間浩明「国語辞典入門:語釈(意味説明)のしかた 文末の形式と品詞」
http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp/tag/国語辞典入門
| - | 20:53 | comments(0) | trackbacks(0)
「国政に関する権能を有しない」ながら「基本的人権の享有を妨げられない」


皇室会議が(2017年)12月1日(金)に開かれ、天皇陛下が2019年4月30日に退位することが固まったと、日本放送協会(NHK)などが伝えました。

これを機に、天皇陛下を「日本国の象徴」と憲法で定めていることをふくむ、天皇制のありかたについての議論が多くなっているようです。

日本国憲法の第1条には「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」とあります。ただし、「象徴」という表現についての定義は、この憲法ではなされていません。国語辞典では、「象徴」とは、「抽象的な思想・観念・事物などを、具体的な事物によって理解しやすい形で表すこと」としています。

今回の天皇陛下の退位は、2016年8月8日に天皇陛下がみずから発した「おことば」を機に政府や国会などで議論され、皇室会議での意向に至ったものとされます。この「おことば」には、つぎのような文言がふくまれています。

「天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます。更にこれまでの皇室のしきたりとして、天皇の終焉に当たっては、重い殯もがりの行事が連日ほぼ2ヶ月にわたって続き、その後喪儀そうぎに関連する行事が、1年間続きます。その様々な行事と、新時代に関わる諸行事が同時に進行することから、行事に関わる人々、とりわけ残される家族は、非常に厳しい状況下に置かれざるを得ません。こうした事態を避けることは出来ないものだろうかとの思いが、胸に去来することもあります」

ただし、この「おことば」は、政治的な意向をふくんだものではないという見解を宮内庁の風岡典之長官は明らかにしているといいます。そのように言うのは、憲法の第4条に、つぎの文言があるからでしょう。

「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」

天皇は「国政に関する機能を有しない」と定めているかぎり、「おことば」が政治を動かすようなものであってはならないというわけです。天皇陛下みずからも「おことば」の冒頭で、「天皇という立場上、現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら、私が個人として、これまでに考えて来たことを話したい」と述べています。

いっぽうで、天皇が「国政に関する権能」を有しないということは、同じ日本国憲法で定められている基本的人権の存在と矛盾するのではないかという考えもあります。憲法第11条にはつぎのように書かれてあります。

「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」

天皇陛下が「国民」の一人であるかについては、東京高等裁判所が1989年7月19日に、つぎのような判断を下しています。

「天皇といえども日本国籍を有する自然人の一人であって、日常生活において、私法上の行為をなすことがあり,その効力は民法その他の実体私法の定めるところに従うことになる……」

この判例は、天皇陛下に民事訴訟権が及ぶかということが判断されたものですが、上の引用は、その後の「直ちに、天皇も民事裁判権に服すると解することはできない」とする結論の前に、示されたものです。

一般的に「国民」とは、その国の国籍をもつものであるので、天皇陛下は「国民」の一人であり、憲法が定めるところの基本的人権をもっているものと考えられます。日本国憲法には、基本的人権の定義はないものの、一般的には基本的人権には、参政権、つまり国民が国の政治に参加する権利がふくまれていると解釈されます。

日本国憲法には、「天皇は(略)国政に関する権能を有しない」という条文と、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」という条文が存在し、この二つは、天皇陛下を国民の一人と考えた場合に、かなりの矛盾をはらんでいるとみなせそうです。天皇陛下においては、基本的人権の一部である参政権の制限を相当に受けているとも捉えることができます。

かつては、天皇制のありかたをめぐる社会での議論は、いわば禁忌のように捉えられていた向きもありました。しかし、天皇の退位が現実のものとなったいま、天皇制をめぐる議論は活発になってきています。

参考資料
NHK 2017年12月1日付「天皇陛下 再来年4月30日退位 皇太子さま5月1日即位 固まる」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171201/k10011242551000.html
法庫「日本国憲法」
http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM
デジタル大辞泉「象徴」
https://kotobank.jp/word/象徴-79528
宮内庁 2016年8月8日発表「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」
http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/12
東洋経済オンライン 2016年8月9日付「天皇陛下『おことば』が国民に投じた重い宿題」
http://toyokeizai.net/articles/-/131068?page=2
「憲法の主要判例」
http://shimijimibunko.up.seesaa.net/image/E686B2E6B395E381AEE4B8BBE8A681E588A4E4BE8BE7ACACEFBC91E99B86E38386E382ADE382B9E38388.pdf
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師走に花火、秩父夜祭


埼玉県秩父市で「秩父夜祭」が、2017年は12月2日(土)から6日(水)にかけておこなわれています。


秩父神社

秩父夜祭の起源については、秩父市番場町にある秩父神社とゆかりが深いとされます。

秩父神社は、記紀所伝の第10代とされる崇神天皇の時代、知知夫国の初代国造に任命された八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)の10世の子孫である知知夫彦命(ちちぶひこのみこと)が神を祀ったことに始まるとされている神社。知知夫国の総鎮守でありつづけています。

知知夫彦が神を祀ったとされる時代か、あるいはそれより前から行われてきた武甲山への信仰を、秩父夜祭の起源とする説があるようです。いずれにしても、とても古い時代に源流をもつ祭であることにちがいなさそうです。

3日(日)には、午前の10時30分より、神社の本殿で、この一連の祭のなかでもっとも重要な祭祀である「例祭」がおこなわれました。この例祭は、秩父神社の解説によると「皇室の弥栄と国の隆昌を祈念し、神恩への感謝の誠を捧げる」ためのもの。

そして、18時ごろから、秩父の中心街で「御神幸祭」がおこなわれました。神輿1基、神馬2頭、神事に用いる樹を意味する大真榊(だいまさかき)などからなる行列を先頭に、笠鉾2台や屋台4台などが、神霊を仮に安置するところを指す「お旅所」まで巡行します。


屋台の巡行

また、行列が御旅所に着いた22時ごろからは「御旅所斎場祭」が執りおこなわれました。代参宮神楽が神の前で奉納されたり、子どもたちにより「三番叟」とよばれる舞踊も演じられます。

秩父市街は、数多くの通りに、食べものや飲みもの、また遊戯などを提供する屋台が並びます。そして、間髪入れず、夜空が花火の光で明るくなり、すこしして、どかーん、どかーんと大きな音が聞こえてきます。


屋台ごしに聞こえる花火に音

4日(月)からは、養蚕にちなんだ祭である「蚕糸祭」がおこなわれ、6日(水)には新穀感謝祭と例祭完遂奉告祭がおこなわれ、一連の秩父夜祭は終りとなります。

参考資料
秩父神社「催事・神事 10月・11月・12月」
http://www.chichibu-jinja.or.jp/saiten/10_12.htm#125
父分神社「ご祭神・由緒」
http://www.chichibu-jinja.or.jp/saijin/index.htm
ウィキペディア「秩父夜祭」
https://ja.wikipedia.org/wiki/秩父夜祭
秩父観光協会 プラッとちちぶ「秩父夜祭」
http://www.chichibuji.gr.jp/?page_id=6
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工業地域がマンション建設を拒む


千葉県内の街を歩いていると、「マンション建設絶対反対」と書かれた看板が掲げられているのが見られます。

看板の掲げ主は、地域で工業を営む企業からなる工業会。看板がある場所のまわりは、工場が多く建ちならんでいる工業地域。つまり、工業地域にマンションが建てられることに対して、「絶対反対」を表明しているわけです。

マンションが多く建ちならぶ住宅地域に「工場建設絶対反対」などと書かれた看板が掲げられるのはよく見ますが、逆に工場が多く建ちならぶ工業地域でマンション建設を拒むかっこうとなっています。

この看板が立てられている自治体の会議録によると、この工業地域は1965(昭和40)年、市の工業誘致を受けて100社を超える企業が進出することで始まったもの。

ところが、経営がうまくいかないなどの理由で、複数の会社が工業地域から撤退すると、跡地がマンション建設をもくろむ不動産会社の手に渡っていきました。

工場は、一般的に立場の弱い建てものです。近隣に住宅が建てられると、住民たちは工場から出る騒音や悪臭を嫌がるもの。たとえ工場が建てられるよりもあとに住宅が建ったとしても、住宅のほうが多くなれば住民の声もだんだん大きくなっていきます。

この地域でも、工業を営む企業がつぎつぎとマンションなどに変わっていくことにより、残された企業は危機感を募らせているようです。

この自治体では2004年、「工業地域等における大型マンション等建築事業の施行に係る事前協議の手続等の特例に関する条例」を制定しました。「事業区域に居住することとなる住民の良好な居住環境の形成及び事業区域周辺の環境との調和を図ること」を目的としたものです。マンション業者は、計画内容についてあらかじめ市長に相談することなどを定めています。

しかし、この条例の効力をめぐっては、議員から疑問視もされているようです。

「棲みわけ」や「周辺環境との調和」とは、“言うは易し、行うは難し”の部分が多分にあるものです。

参考資料
市川市会議録2004年9月22日付
http://www.city.ichikawa.lg.jp/cgi-bin/kaigi.cgi?filename=kaigi_040922.txt&count_c=94
市川市「市川市工業地域等における大型マンション等建築事業の施行に係 る事前協議の手続等の特例に関する条例」
http://www.city.ichikawa.lg.jp/common/000060582.pdf
市川市「市川市宅地開発事業に係る手続及び基準等に関する条例」
http://www.city.ichikawa.lg.jp/common/000203540.pdf
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