「ユーキャン新語・流行語大賞2017」の候補語が、(2017年)11月9日(木)発表されました。『現代用語の基礎知識』を出版する自由国民社と大賞事務局が選んだものです。
このブログでは、毎年の候補語について、科学や技術の分野とかかわりのある候補語をとりあげています。今年は、科学・技術にかかわる候補語の数そのものはすくないものの、これらの分野に直結するような内容の濃い候補語が見られます。
「AIスピーカー」
「AI」とは、Artificial Intelligence、つまり人工知能のこと。人工知能の技術が使われた「AIスピーカー」とよばれる音声応答装置が新たな家庭電化製品の仲間入りをしはじめています。
AIスピーカーは、人の話す音声を認識して、人のさまざまな要望に対応する装置。音声で返答することもあれば、家のなかのほかの電化製品を制御することもあります。情報通信技術の世界大手がのきなみAIスピーカーを開発しています。グーグルの「グーグル・ホーム」、LINEの「ライン・クローヴァ・ウェーブ」、アマゾンの「アマゾン・エコー」、アップルの「アップル・ホームポッド」などです。
来年2018年には、日本での本格普及もあるかもしれません。いっぽうで、「スマートフォンの音声認識との差はどこにあるの」といった声も聞かれます。
2016年の候補語には「AI」が入っていました。1年が経ってより「AI」が具体的に製品に使われることになったことを示唆する「AIスピーカー」の候補語入りです。
「睡眠負債」
日々の睡眠不足が借金のように積みかさなり、心身に悪影響を及ぼすおそれのある状態のことをいいます。睡眠不足が「借金をする」だとすれば、睡眠負債は「借金が貯まる」といったところでしょうか。
このことば自体は、スタンフォード大学の睡眠障害研究者ウィリアム・デメントが、1997年ごろから使いはじめたもの。研究者たちのあいだでは使われてきました。造語から20年後に「新語・流行語」の候補語に入ったことになります。(2017年)6月18日に放送されたNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」という番組が、このことばが日本の社会に普及しはじめるきっかけとなったようです。
「線状降水帯」
線状に伸びる雨の地域のことを指します。積乱雲がつぎつぎと生じるなどして強い雨をもたらします。規模としては、幅20キロメートルから50キロメートル、長さ50キロメートルから300キロメートルとなります。
(2017年)7月上旬、九州北部の各地に豪雨が降りました。この豪雨も、線状降水帯を伴うものだったとされ、この言葉が人びとにより知られるようになりました。
この三つの候補語ほど科学や技術の分野に直結しているわけでありませんが、ほかの候補語のなかで「人生100年時代」が扱われる健康や長寿という学問分野には、科学の要素が多分に含まれています。
また、男子陸上100メートル層で日本記録を更新した桐生祥秀選手の功績にちなんで「9.98(10秒の壁)」といった候補語もあります。より速く走るための科学的な追究も、10病の壁を破るまでにはあったことでしょう。
こうして見ていくと、「新語・流行語大賞2017」の候補語30個のなかには、科学や技術にかかわることばがそれなりにふくまれているといえます。とりわけ「睡眠負債」と「線状降水帯」という候補語は、多くの人たちの身の危険にかかわることばです。こうしたことばが社会に広がることで、関心や注意を払う人が多くなるでしょうから、「新語・流行語大賞」の候補語に選ばれたことには、それなりの価値があるといえそうです。
「ユーキャン新語・流行語大賞」のサイトはこちらです。
http://singo.jiyu.co.jp
参考資料
Watch Headline「特集 スマートスピーカー」
https://www.watch.impress.co.jp/smartspeaker/
ウィキペディア「睡眠負債」
https://ja.wikipedia.org/wiki/睡眠負債
William . Dement, M.D., Ph.D “What All Undergraduates Should Know About How Their Sleeping Lives Affect Their Waking Lives”
https://web.stanford.edu/~dement/sleepless.html
デジタル大辞泉「線状降水帯」
https://kotobank.jp/word/線状降水帯-689262
ハフィントンポスト 2017年7月5日付「『線状降水帯』とは? 積乱雲が次々と発生、九州北部に記録的な豪雨」
http://www.huffingtonpost.jp/2017/07/05/linear-rainbands_n_17400996.html