科学技術のアネクドート

物理学が技術を発展させる

画像作者:Vishay Intertechnology

「物理学」というと、自然科学の数ある分野のなかでも「純粋性が高い」という印象を抱かれがちかもしれません。純粋性が高いとは、応用とかかわらず、理論や形式のみで扱う度が強いということです。

理論物理学者の朝永振一郎(1906-1979)は、物理学の特徴について、複雑な自然現象のなかから極度に単純化された状況をつくり、普遍的な法則性を抽出してきた述べたといいます。

いっぽうで、人びとの生活のすべては物理法則がかかわっているわけですから、物理学には、人びとの役に立つような応用の分野と結びつきが強い側面も
あるわけです。基礎的な学問分野であるからこそ、応用にも使えるということです。

そのため、日本をふくむ世界では「応用物理学」とよばれる学問が築かれ、多くの研究者がこの分野の下で、あるいはこの分野とのかかわりをもちながら研究をしています。

応用物理学とは、ほかのさまざまな分野への応用を目的とした物理学であるといえます。物理学のなかで応用することを意図している分野ともいえます。

応用を明らかに意図している学問分野には、工学もあります。そして工学の一分野として物理工学とよばれるものあります。たとえば、物理工学科をもっている横浜国立大学は「文字通り物理学と工学とを結びつける学問分野」と説明しています。物理工学は「物理についての工学」と解釈できますから、基本は工学であると考えることができます。

この解釈のしかたでいうと、応用物理学は「(工業などへの)応用についての物理学」となりますから、基本は物理学であると考えることができます。

応用物理学には、具体的にどのような分野があるのか。応用物理学および関連学術分野の研究の促進ならびに成果の普及に関する事業をおこなっている応用物理学会には、分科会として、フォトニクス、放射線、応用電子物性、薄膜・表面物理、結晶工学、超伝導、有機分子・バイオエレクトロニクス、プラズマエレクトロニクス、シリコンテクノロジー、先進パワー半導体、次世代リソグラフィ、そして応用物理教育の分科会があります。

百科事典には、「技術的問題で現れる物理現象を研究する物理学の分野」(ブリタニカ国際大百科事典)という説明もあります。物理学の研究成果が、それぞれの分野での問題の解決策を導き、技術を発展させてきたわけです。

参考資料
国府田隆夫「多様化時代の物性科学 理学と工学の区分を超えて」
http://www.jps.or.jp/books/50thkinen/50th_09/003.html
横浜国立大学物理情報工学専攻「物理工学コースとは」
http://www.phys.ynu.ac.jp/course/course_01.html
ブリタニカ国際大百科事典「応用物理学」
https://kotobank.jp/word/応用物理学-38917
応用物理学会「定款」
https://www.jsap.or.jp/profile/article.html
応用物理学会「分科会」
https://www.jsap.or.jp/profile/division.html
| - | 22:02 | comments(0) | trackbacks(0)
「自然選択」が強調され「総合説」が進化論の王座に

写真作者:Laura Wolf

生きもののさまざまな種は、以前に生きていたべつの種を起源とし、そのふたつに差があるのは、それまで続いてきた各世代の変化によるものである……。こうした考えかたを前提とする、生きものの変化の過程を「進化」といいます。

「進化」と聞いて、多くの人が思いうかべる人物といえば、英国の博物学者チャールズ・ダーウィン(1809-1882)ではないでしょうか。生きものは、自分の体の特徴を子孫に継がせることになる遺伝子という要素をもっていますが、遺伝子は変異を起こします。生きものに起きるさまざまな変異のうち、生存に有利にはたらく変異こそが生き残るとダーウィンは考えました。この考えを「自然選択」といいます。

いまでは遺伝子は、生きものの細胞内のデオキシリボ核酸にふくまれていることが知られています。しかし、ダーウィンが生きていた時代、まだデオキシリボ核酸は見つかっておらず、なにが体の特徴を子どもに継がせているのかは知られていませんでした。ダーウィン本人は、「ジュエミュール」という、自己増殖する粒子がその担い手であると考えていました。

進化のしくみをめぐっては、ダーウィンの進化論を起源とするものが唯一の王道であるといわれています。ただし、ダーウィンの死後、ダーウィンの進化論は、新たな生物学の成果が付けくわえられる形で発展してきました。

たとえば、「獲得形質の遺伝の否定」はそのひとつです。生きものが生まれてから得た体の特徴を「獲得形質」といいます。ダーウィンは、さほど深く考えていませんでしたが、フランスの博物学者ジャン=バティスト・ラマルク(1744-1829)は、獲得形成は子孫に遺伝し、それが進化の推進力になると唱えました。しかし、ラマルクの説に対して、ドイツの動物学者アウグスト・ワイスマン(1834-1914)が、ネズミのをしっぽを切って子どもを産ませることを22世代くりかえしても、ネズミのしっぽは短くならなかったと言い、ラマルクの説を否定しました。これが獲得形質の遺伝の否定です。

ワイスマンのラマルク説を否定する活動の結果、ダーウィンの進化論のうち自然選択の部分が強調されることになりました。

また、生きものの進化では、「体が大きくなるいっぽう」とか「貝の巻きこみ方は増えるいっぽう」といったように、一方向に向かっていくと考えられてきました。しかし、米国の古生物学者ジョージ・シンプソン(1902-1984)が、ウマには大型化していたものが途中から小型化に向かった系統があることを示すなどし、進化は無方向であるということを唱えました。

このように、ダーウィンがおもに唱えたかった自然淘汰という説を引きつぎつつも、その進化論は、部分的には新しい説によって補強されるかたちで、発展してきたわけです。

こうしたことから、進化についての現代の学説を「ネオダーウィニズム」とよんだり、「総合説」と読んだりすることがあります。

参考資料
ブリタニカ国際大百科事典「進化」
https://kotobank.jp/word/進化-81348
ブリタニカ国際大百科事典「ネオダーウィニズム」
https://kotobank.jp/word/ネオダーウィニズム-111132
大辞林第三版「ネオダーウィニズム」
https://kotobank.jp/word/ネオダーウィニズム-111132
ブリタニカ国際大百科事典「獲得形質」
https://kotobank.jp/word/獲得形質-43749
生命の歴史「Essay 2_40 進化論の進化3:進化の総合説」
http://terra.sgu.ac.jp/earthessay/2Life/2_05/2_40.html
ソトコト 福岡伸一の生命浮遊「ダーウィンの転機」
https://www.sotokoto.net/jp/essay/?id=40
ウィキペディア「用不用説」
https://ja.wikipedia.org/wiki/用不用説
| - | 22:01 | comments(1) | trackbacks(0)
「にほにうむ」一発変換道半ば


元素周期表の113番目の元素に「ニホニウム」という名前が正式についてから、まもなく9か月となります。

2016年の「新語・流行語大賞」では「ニホニウム」は、受賞はもとより、ノミネート語にもなっていません。それもそのはず、「ニホニウム」という名称の正式決定が理化学研究所から発表されたのが11月30日。いっぽう、「新語・流行語大賞」のノミネート語の発表は11月17日で、大賞と賞の発表は12月1日。年末が迫るなかでの正式決定となったため、年末にその年を振りかえるかたちの催しものには引っかからなかったわけです。

アジア初の元素発見という話題性もあり、「ニホニウム」ということばは社会で確実に使われているようです。グーグルで「ニホニウム」と検索すると、該当数は約13万2000件。いっぽう「113番元素」の該当数は約8430件。これからも「ニホニウム」が「113番元素」よりも使われていくことになるでしょう。

「ニホニウム」ということばを、コンピュータの「テキストエディット」や「ワード」などのソフトウェアに書く人は、若干のわずらわしさを感じているかもしれません。「ニホニウム」が一発で変換されない場合があるからです。

たとえば「Google日本語入力」という日本語入力システムで、「にほにうむはにほんのりかがくけんきゅうしょではっけんされた」というひらがなを漢字に変換すると、「日保ニウムは日本の理化学研究所で八卦んされた」と出てきます。また、「にほにうむとなづけられた」を変換すると「日保に生むと名づけられた」と出てきます。

「にほにうむ」のほかの変換例としては「仁保に生む」「仁保に有無」などもあります。「仁保」とは、おもに地名として使われている2文字のようで、山口県は「仁保市」が、また広島市南区には「仁保」があります。「仁保に生む とくに広島 歓迎し」といった川柳も生まれました。仁保市役所の職員の方や、仁保地区の町会の方たちは、盛りあがっているでしょうか。

なお、ATOKという漢字変換ソフトウェアを使っている人からは「二歩に生む」と変換された例が報告されています。

「にほにうむ」単独で変換をすれば、カタカナ変換もかならず候補に入っているため「ニホニウム」が出てきます。しかし、「Google日本語入力」では、ほかの候補として「仁保に生む」もしっかりあります。

ウィキペディアの説明によると、の「Google日本語入力」の変換機能は、インターネット上から自動的に辞書を生成することとひもづいているもよう。

「専門用語や学術用語・話題の人名(〈存命の〉芸能人・政治家や、漫画・アニメ・ゲームに登場する架空のキャラクター名など)から、流行り廃りの激しいインターネットスラングにまで対応する高い変換精度を誇る。特に、固有名詞の語彙力が他の日本語入力システムと比べて極めて高い。Google検索の語句入力から生成されたビッグデータが辞書にもたらす変換精度の高さは、インターネット上で大きな話題となった」とあります。

たしかにどう綴るかわからない人名などを変換すると、たいていの場合、求めていた人名が第一候補で出てきたりするので、「高い変換精度」を感じる人もいることでしょう。

しかし、5文字のカタカナからなる単純な印象の「にほにうむ」については、いまもなおビッグデータをもとにした「辞書」への登録がなされていないのかもしれません。

参考資料
理化学研究所 2016年11月30日発表「113番元素の名称・記号が正式決定」
http://www.riken.jp/pr/topics/2016/20161130_1/
ヤフコメコム 2016年6月8日付「『ニホニウム』有力 日本発見の113番元素名称案あす公表(産経新聞)」
https://ヤフコメ.com/comments.html/20160608-00000060-san-sctch/8
mixiユーザー「二歩に生むねえ」
http://open.mixi.jp/user/3263449/diary/1953291843
ウィキペディア「Google 日本語入力」
https://ja.wikipedia.org/wiki/Google_日本語入力
| - | 20:18 | comments(0) | trackbacks(0)
3万年前ごろ「ホモ」のさまざまな種が生存していた

21世紀を生きている「人」は、分類学上の「種」という点では1種類しかいません。「ホモ・サピエンス」です。ただしホモ・サピエンスにはおよそ16万年前に、いまの人とは、種よりもひとつ下の亜種という階級において異なる「ホモ・サピエンス・イダルトゥ」が生きていたため、いまの人を「ホモ・サピエンス・サピエンス」とよぶこともあります。

人間をほかの生きものと区別していうときに「人類」ということばを使うことがあります。しかし、「人類」は生物学的に「種」よりも一つ上の「属」である「ヒト属」、さらには三つ上の「科」という階級の「ヒト科」までを指すとしている辞典もあります。ヒト科には、ホモ・サピエンスや、ホモ・サピエンスと生きていた時代が重なっていたされるホモ・ネアンデルターレンシスなどだけでなく、一般的には「サル」のイデアをもたされているオランウータンやゴリラやチンパンジーなどもふくまれるため「ヒト科」を指すというのは範囲が広すぎるかもしれません。

いま生存している「人」のことを「現生人類」とよぶことがあります。ただし、ホモ・ネアンデルターレンシスのようないまは生存しておらず、化石で発掘されて存在がわかった「化石人類」もふくめる場合もあるというから、やや複雑です。ここでは「ホモ・サピエンス」を「現生人類」とよぶとします。

2010年代になって、南アフリカ共和国ハウテン州のライジングスター洞窟で、リック・ハンターとスティーブン・タッカーという2人の洞窟探検家が骨の化石を見つけました。米国出身の古人類学者リー・バーガーの協力もあり、すくなくとも15体分になる骨の発掘調査がおこなわれ、現生人類とほぼ変わらないものの、脳が小さく、肩や胴は現生人類とはかなり異なるといった特徴が明らかになってきました。この化石は「ホモ・サピエンス」のものとは異なるかもしれないとして、バーガーは2015年に「ホモ・ナレディ」と名づけました。


バーガーらによって発掘された「ホモ・ナレディ」の化石
写真作者:Lee Roger Berger research team

そして2017年5月、この「ホモ・ナレディ」が考えられていたよりもかなり現代に近い時代を生きていたということが明らかになったと発表されました。

当初バーガーはもっとも古くて300万年前の化石の可能性があると言っていました。ところが、バーガーは、共同研究者である米国の人類学者ジョン・ホークスらとあらためて調べてみると、ホモ・ナレディの年代は33万5000年前から23万6000年前であることを特定したといいます。この時代は、ホモ・ネアンデルターレンシスが生きていたとされる時代にふくまれます。

現生人類の祖先であるホモ・サピエンス、ホモ・サピエンスに駆逐されたといわれるホモ・ネアンデルターレンシス、そしてホモ・ナレディ。30万年前ごろの地球には、「ホモ」つまり「ヒト属」の種の多様性があったのかもしれません。

参考資料
ナショナルジオグラフィック日本版 2017年5月12日付「謎の人類ホモ・ナレディ、生きた年代が判明」
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/051100041/
BBCニュースジャパン 2017年4月26日付「古代のヒト『ホモ・ナレディ』 当初予測より最近のものか」
http://www.bbc.com/japanese/39715656
ウィキペディア「ホモ・ナレディ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/ホモ・ナレディ

| - | 19:59 | comments(0) | trackbacks(0)
叫び声と電気主体の説明で印象づける

写真作者:TAK.

民間放送の番組中の広告は、視たり聴いたりしている人たちの印象に残すことが大切です。

最近の関東圏のラジオ放送では、関東電気保安協会の電気の安全な使いかたを促す放送広告が、聴取者の印象に残っているようです。インターネットでは、この広告について「不謹慎だが笑ったわ」「最高だわ。吹き出すね。秀逸です」「ほんと怖いからそこまてしなくていいから」などと、さまざまな反響があります。

実際の放送広告はつぎのようなもの。工事現場で「弟子」と「親方」の関係にあると思われる二人がやりとりします。その後、女性の語り手がつづきます。

弟子「親方、汗だくっすね―」
親方「さわるな! いいから早くコンセントに挿せ!」
弟子「はい…………ぎゃあぁぁぁっ!」
女性「電気は水が苦手です。電気は正しく使いましょう」
歌手「関東電気保安協会♪」

無愛想な親方。そして、感電したようで「ぎゃあぁぁぁっ!」と叫び声をあげる弟子。初めて聴取者は相当な衝撃を受ける人もいるかもしれません。親方と弟子の会話は、弟子の「ぎゃあぁぁぁっ!」という叫び声で終わるため、放送広告にあるような、“落ち”で聴取者を笑わせる形式ではありません。

しかも、その後の語り手の女性は、感電した弟子のことを気にするのでなく、開口一番「電気は水が苦手です」と電気の立場になって、水との相性の悪さを説きます。

関東電気保安協会のホームページを見ても、「安全で便利なはずの電気も、設備の不備や取扱いの誤りにより、感電や火災などの事故を招く恐れがあり、日頃から電気の安全を確保することが大切です」と、やはり「電気」を主体とした事業概要が見られます。

そして最後は「関東電気保安協会♪」という明るい旋律の短い合唱で終わるのでした。この短い曲は、関東に住む人たちにとっては聞きなれたものです。

こうした展開が、聴取者の耳と脳に残るのでしょう。インターネット上の反応では、人によっては違和感、さらには不愉快さを覚える人もいるようです。

しかし、汗だくの手でプラグをコンセントに挿すと感電事故につながりうるといった危険性を短い時間で聴取者に、印象に残るように伝えていることはたしかなようです。

参考資料
関東電気保安協会「当協会について 事業概要」
https://www.kdh.or.jp/about/outline.html
| - | 18:01 | comments(0) | trackbacks(0)
中国に「203高地」、日本に「高地」の「203」

写真作者:FeZn

1904(明治37)年から1905(明治38)年にかけての日露戦争では、中国の遼東半島の南端、旅順にある「203高地」という場所で激戦が起こりました。「203高地」という地名の由来は、この丘陵の標高が203メートルであるからといいます。

じつは日本軍もロシア軍もさほど戦略上の要所と捉えていなったものの、日本が「203高地を攻略する」と決めてしまったために、結局は日本軍およそ6万人、ロシア軍およそ3万人の犠牲者を出したとされます。

1980年には『二百三高地』という映画も上映され、この場所がふたたび注目されました。

さて、日本にも、中国の「203高地」とはまったく関係なく、「高地」という文字かつ「203」という数字がつくところがあります。

千葉県船橋市の新高根には「高地ハイツ」という集合住宅があります。1975年に建てられたといいますから、かなり年数の経った集合住宅です。そして、この集合住宅には「203号室」があることが「賃貸スタイル」などのサイトで確認できます。間どりはダイニングキッチンのほかに和室6畳が2部屋。浴室もあります。これで家賃は4万6000円。最寄り駅は新京成線の高根公団です。

また、大阪府枚方市にの南中振にも「高地ハイツ」という集合住宅があります。インターネットの情報では「203号室」があるかは確認できませんが、2階だてのようですから「203号室」がある可能性は高いといえます。京阪本線の光善寺駅が最寄り駅となります。

日露戦争の歴史を熱狂的に追いかけている人や、映画『二百三高地』の大ファンといった人であれば、「高地ハイツ203号室」に住むという選択も、また人生のちょっとした興になるかもしれません。

参考資料
ウィキペディア「203高地」
https://ja.wikipedia.org/wiki/203高地
デジタル大辞泉「二百三高地」
https://kotobank.jp/word/二百三高地-592596
賃貸スタイル「高地ハイツ 203」
https://www.chintaistyle.jp/result/detail_212001574247.html#EstateImage_loadDefault
スマイティ「高地ハイツ(大阪府枚方市光善寺)」
http://sumaity.com/chintai/osaka_bldg/bldg_2712585/
| - | 19:59 | comments(0) | trackbacks(0)
現実のものと非現実のものの見境がなくなる

画像作者:Microsoft Sweden

2017年に入り、「ホロレンズ」とよばれる装置が世の中に出まわりはじめました。マイクロソフトが先導する製品で、3月には開発者向けのキットを出荷。ホロレンズを使うことで「複合現実」(MR:Mixed Reality)を体験できるといいます。

これまで、「仮想現実」(VR:Virtual Reality)と「拡張現実」(AR:Augmented Reality)とよばれる技術が世に浸透してきました。

仮想現実は、「コンピュータによって作られた仮想的な世界を、あたかも現実世界のように体感できる技術」(知恵蔵)といいます。たとえば、左右の眼に対応した二つの小型の画面がついたヘッドマウントディスプレイという装置を頭にはめると、視野には仮想の立体的な空間が現れます。使っている人は、その世界を現実世界のように感じるわけです。

ユーチューブには、ヘッドマウントディスプレイや専用眼鏡をはめて見る、ローラーコースターの動画なども出まわっています。

いっぽう「拡張現実」には「ありのままに知覚される情報に、デジタル合成などによって作られた情報を付加し、人間の現実認識を強化する技術のこと」(知恵蔵)と説明されています。

たとえば、観光地でスマートフォンをかざすと、画面にはカメラ機能によって、自分がそこで見ている史跡が映しだされます。しかし、画面のなかにはそれだけでなく、「この石垣は1548年、時の戦国武将であった誰々が築城した際に置かれたもので……」などといった文字情報が加わります。これで、人は視覚による「石垣がある」という情報だけでなく、その石垣の歴史についての情報も得られるわけです。

では、複合現実とはどういうものか。辞書のなかには「『拡張現実』に同じ」と説明するものもありますが、「コンピューターでつくられた画像などの仮想映像と実写の現実映像を融合させた映像で仮想体験を得ること。また、その技術の総称」(大辞林第三版)といった説明も見られます。

たとえば、冒頭のホロレンズを装着します。すると、現実に見ているものが両眼のレンズごしに見えるだけでなく、現実世界には存在しない立体物やスカイプの画面などが現れます。そして、それらを指で“さわる”と、動いたり操作できたりします。

ホロレンズの使用者が左を向くと、それに合わせて非実物のスカイプ画面も左に動きます。つまり、人が動いても、常に視野におけるおなじ位置にスカイプ画面を“据える”ことができるわけです。もちろん、“移動させる”こともできますが。

現実の世界のなかに、非現実の立体物やスカイプ画面が現れているということは、ある意味で「拡張現実」といえます。しかし、現実のものと非現実のものが、見ている世界のなかでひとつになっている点を強調すれば、それは「複合現実」といった表現になります。

マイクロソフトは5月に、ホロレンズを一般向けに2017年末に投入すると発表しています。

参考資料
知恵蔵「VR」
https://kotobank.jp/word/VR-8025
知恵蔵「AR」
https://kotobank.jp/word/AR-13768
大辞林第三版「MR」
https://kotobank.jp/word/MR-446479
Youtube「Microsoft HoloLens: Skype」
https://www.youtube.com/watch?v=4QiGYtd3qNI
時事通信 2017年5月12日付「『複合現実』対応のゴーグル 一般向けに投入 米MS」
https://www.jiji.com/sp/article?k=2017051200242&g=eco
| - | 14:42 | comments(0) | trackbacks(0)
水素をつくりだす化学反応に金属の仲立ち

写真作者:JOHN LLOYD

水素を社会で使うおもな燃料するという考えかたがあります。グーグルで「水素社会」ということばを検索すると、該当数は34万1000件にもなります。

水素は、気体で貯めたり、液体で貯めたり、また金属に吸わせたり、いろいろな方法で貯めておくことが理論的にできるため、水素を燃料として使うことを薦める人は、使い勝手のよさが利点だと説きます。

水素は軽い原子のため、自然界にはほぼありません。そのため、おもに「水蒸気改質」とよばれる化学反応を使った方法で得ます。

「炭素原子(C)1個」と「水素原子(H)4個」からなるメタン(CH4)という物質と、「酸素原子(O)1個」と「水素原子(H)2個」からなる水(H2O)を反応させます。すると「水素原子2個」からなる水素分子(H2)3個と、「炭素原子1個と酸素原子1個」からなる一酸化炭素(CO)の組み合わせになります。これで、水素分子を得ることができました。この過程が水蒸気改質です。化学式にするとつぎのとおり。

CH4+H2O →  CO + 3H2

ただし、メタンと水を部屋に放りいれさえすれば水素をつくれるというわけではありません。この過程では、触媒が使われます。触媒とは、化学反応の前後でそれ自体は変化しないものの、化学反応を促進させたり抑制したりするはたらきをもつ物質のこと。

触媒として使われるのは金属で、ニッケル(Ni)が主要な触媒として使われてきました。また、ニッケルより高価ではあるものの、パラジウム(Pd)やプラチナ(Pt)といった金属も触媒に使うことができます。

これらの触媒を単に置いておけば化学反応を促すようになるということではありません。触媒を支える「担体」とよばれる物質も必要です。担体には、触媒となる金属の原子をとりかこむようなつくりなど、運ぶのに適した分子構造をしているものが多くあります。

水素燃料というエネルギー源をつくるために、エネルギーを使ってしまっては効率がよくありません。そのためいかにエネルギーを使わずに済ませられる触媒や担体を使うかが、研究開発の対象となってくるわけです。

参考資料
水素・燃料電池実証プロジェクト「水素の貯蔵方法」
http://www.jari.or.jp/portals/0/jhfc/column/story/07/index.html
TDK テクの雑学「ガスでお湯と電気をいっしょに作る、エネファームの仕組」
http://www.tdk.co.jp/techmag/knowledge/201201u/index.htm
朝日新聞掲載「キーワード」「触媒」
https://kotobank.jp/word/触媒-80199
大阪ガス「燃料改質装置について」
http://www.osakagas.co.jp/rd/fuelcell/pefc/reformed/steamref.html
五十嵐哲「水素の製造と利用に関する最近の話題」
http://www.hess.jp/Search/data/25-02-062.pdf
浦崎浩平ら「ペロブスカイト型酸化物を担体としたメタン水蒸気改質反応における担体中の格子酸素の役割」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sekiyu/2007/0/2007_0_30/_article/-char/ja/
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IC素子に「トロイの木馬」
詩人ホメロスの叙事詩「イリアス」に描かれるトロイ戦争では、ギリシャ軍がトロイ軍を欺いて攻略したようすが書かれています。巨大な木馬のなかにギリシャ人たちが隠れているのを知らず、トロイア人は自分たちの街に木馬を入れ、滅亡の運命を招いたのでした。この故事から、外見と異なるものが送り込まれて災いを招くたとえを「トロイの木馬」とよぶことがあります。

現代では、「トロイの木馬」という表現は、コンピュータの不正にかかわることばとして使われることのほうが多くなったかもしれません。「トロイの木馬」のように有用なプログラムあるいはデータファイルの装いをしていながら、じつは悪巧みをはたらくソフトウェアのことを指します。侵入を受けたコンピュータを、ネットワークを介して犯人が直接操作したり、犯人が設定した時刻やほかのプログラムに沿って起動したりします。

この情報技術の分野における「トロイの木馬」ににたものとして、「ハードウェア・トロイ」とよばれる、悪だくみの機能が問題となっています。

「ハードウェア」とは、コンピュータのしくみを構成する装置や機器のこと。従来の「トロイの木馬」は、ソフトウェアを指していましたが、「ハードウェア・トロイ」はハードウェアにしかけられる不正機能のことを指します。

コンピュータ装置には、IC(Integrated Circuit)とよばれる集積回路が使われます。トランジスタ、ダイオード、コンデンサなどの素子が集積しています。コンピュータが計算をしたり、プログラムを記憶したりするためのものなので、コンピュータには不可欠です。

ICは数ミリメートル四方の小さなチップ状のものですが、これもハードウェアです。そして、人間はこのICに意図的に不正な機能をつけくわえて、ICを誤動作させたり、故障させたりするほか、ネットワークに通じなくさせたり、あるいは情報をばらまいたりと、さまざまな悪だくみを実行します。


IC素子
写真作者:Dennis Skley

2007年9月、シリアの探知システムを破り、イスラエルの戦闘機がシリアを空爆するできごとがありました。シリアが使ったレーダー装置のICには、「不正な侵入口」を意味する「バックドア」とよばれる機能が組みこまれていたのではないかと噂されました。

また2013年には、ロシアのサンクトペテルブルグ税関で、中国製アイロンやスマートフォンから不正なIC素子が見つかりました。これらは、暗号化されていないWi-fiに接続する能力をもっていたと伝えられます。

不正機能が組み込まれた製品が使われば、情報が漏れつづけたり、外部からコンピュータを操作されたりする危険があります。

しかし、一般の人はもとより、この分野に熟練した人でも、不正を発見することはむずかしいといいます。

ハードウェア・トロイは情報通信技術の安全性を脅かしかねないもの。安全対策が求められています。

参考資料
ウィキペディア「トロイアの木馬」
https://ja.wikipedia.org/wiki/トロイアの木馬
Internet of Things /まとめ「ハードウェア・トロイ」
http://iot-jp.com/iotsummary/iottech/ハードウェア・トロイ/.html
IEEE SPECTRUM 2015年1月20日付 “Stopping Hardware Trojans in Their Tracks”
http://spectrum.ieee.org/semiconductors/design/stopping-hardware-trojans-in-their-tracks
ウィキペディア「2013年ロシアでの中国製アイロン等からのスパイチップ発見」
https://ja.wikipedia.org/wiki/2013年ロシアでの中国製アイロン等からのスパイチップ発見
| - | 20:04 | comments(0) | trackbacks(0)
「生検」とは、患者の一部を切り取って、顕微鏡などで調べる検査。生体検査


国立国語研究所は、「『病院の言葉』を分かりやすくする提案」をしています。医者の使うことばを患者が理解できない状況があるとして、その原因を明らかにし、有効な対策を検討しようとするものです。

提案した語のひとつに「生検」があります。同研究所によると一般の人の認知率は43.1パーセントとのこと。

「まずこれだけは」という欄には「患者の一部を切り取って、顕微鏡などで調べる検査」とあります。

そして、「少し詳しく」という欄には「患部の一部をメスや針などで取って、顕微鏡などで調べる検査です。病気を正確に診断することができます。この検査の結果によって、診断をはっきり決めます」とあり、目的や利点を示します。

さらに、「時間をかけてじっくりと」という欄では「患部の組織の一部を、麻酔をしてからメスや針などで切り取って、顕微鏡などで調べる検査です。この検査によって、病気を正確に診断することができます。例えば、がんの診断の場合、まず、画像検査や内視鏡検査を行って、病気がどこにあり、どんな様子かを推定します。その結果、がんである疑いが強く出れば、患部の一部を切り取る検査をし、その場所や状態を推定します。この検査によって、診断を確定し、治療に進みます」としています。診断する病気の例をあげて、どのような手順をとるのかを示しています。

「生検」は「生体検査」を略したことばといいます。「生きたからだを検査するという意味です」と説明するとわかりやすい、とあります。ことばのなりたちを伝えるだけでも、伝わる場合はありそうです。

ちなみに、提案する語は、大きく「類型A 日常語で言い換える」「類型B 明確に説明する」「類型C 重要で新しい概念の普及を図る」の3つに分けられています。「生検」は「類型A」に属するもの。

目的のおなじ仕事をしている仲間では、日ごろ使うことばを略しがち。いちいち「生体検査」と言っていては、自分も相手もわずらわしさを感じてしまうかもしれません。なので「生検」と略す。

しかし、そうしたことば仕事仲間では通じても、仲間以外の仕事相手、つまり患者たちに通じるかといえば、通じないことが多いわけです。

「『病院の言葉』を分かりやすくする提案」は、患者が医者から十分な説明を受けて理解し、納得したうえで最適な医療を選ぶという時代のなかで、患者が医者と意思疎通できるようになるという、明確な目的をもったとりくみといえそうです。

参考資料
国立国語研究所「『病院の言葉』を分かりやすくする提案」
http://pj.ninjal.ac.jp/byoin/teian/haikei/
http://pj.ninjal.ac.jp/byoin/teian/ruikeibetu/teiango/teiango-ruikei-a/seiken.html
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糖質がエネルギー源や酵素にもなって肥満に


写真作者:naka hide

ご飯やパン、うどんなどは、基本的に炭水化物あるいは糖質とよばれる物質でできています。そして、これらの食べものを食べすぎると、肥満につながるということを、多くの人は知っています。「低糖質ダイエット」が流行しているのも、「糖質の摂取を減らせば痩せられる」という認識が、社会に根づいているからかもしれません。

では、糖質として体のなかに摂りこんだものが、肥満のもとになるというのは、どういうことなのでしょうか。

東京慈恵会医科大学健康医学科にて適用されている値によると、肥満とは、男性では体脂肪が体重の25パーセント以上、女性ではおなじく30パーセント以上の状態を指します。体脂肪とは、人の体のなかにある脂肪のことで、その主となるものは「中性脂肪」といってよいでしょう。

つまり、糖質として摂りこんだものが、中性脂肪として体に蓄積されて、肥満となるわけです。

中性脂肪がつくられるためには、体のなかでエネルギーの貯蔵、供給、運搬などを仲介するアデノシン3リン酸(ATP:Adenosine TriPhosphate)という物質や、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP:Nicotinamide Adenine Dinucleotide Phosphate)という酵素が、体内であり余っている状況が必要となります。

では、これらの物質をどこから得られるかというと、おもに食べたご飯のなかにふくまれている炭水化物からということなのです。

はじめ糖質だった物質は、体内で、アセチルコエンザイムエー(アセチルCoA)という物質に変わり、その後、「クエン酸回路」という経路に沿って、つぎつぎと物質が変化していき、そのなかでアデノシン3リン酸が合成されます。アデノシン3リン酸は、タンパク質や脂質などからもつくられますが、摂取量の多い糖質こそが主要な“資源”であるといえます。

また、糖質が分解される過程では、おなじくニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸もつくられます。

アデノシン3リン酸は中性脂肪をつくるためのエネルギーとして、また、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸は中性脂肪をつくるための酵素として使われます。

糖質そのものは、またべつの経路に沿って、グリコーゲンという物質にいったん変わり、量の限度を超えると中性脂肪が合成されます。

余っている糖質のうち、28パーセントの量が、中性脂肪になるという計算があります。つまり、満腹にもかかわらず、さらにご飯を100グラム食べた場合、28グラムは中性脂肪として蓄積されるわけです。

参考資料
大平万里『「代謝」がわかれば身体がわかる』
https://www.amazon.co.jp/dp/B074NVF78Y/
ウィキペディア「体脂肪率」
https://ja.wikipedia.org/wiki/体脂肪率

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体細胞分裂、そういうふうにできている

画像作者:Kat Masback

からだをなりたたせる細胞あるいは分子などは、あたかも意思をもっているようにはたらきます。「こうなったらこうなる」というしくみは、遺伝子によりある程度、設計はされているものの、細胞や分子そのものに意識あるわけではありません。

からだの営みのひとつに、体細胞分裂があります。ヒトをふくむ真核生物、つまり核膜に包まれた核をもつ生きものの体の細胞が増えるときの分裂のしかたが体細胞分裂です。デオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)が複製され、染色体が縦方向に裂けて、娘細胞つまり分裂後の細胞に分配されます。

体細胞には寿命があるなどして、さまざまなかたちで死を迎えます。自分が死ぬ前に、デオキシリボ核酸に含まれる自分の設計図、つまり遺伝子をべつの細胞に複製すれば、自分の情報は後代の細胞に択せることになります。

では、体細胞分裂というしくみは、なにをきっかけにして生じるのでしょうか。

一般的に、細胞では最適な大きさが決まっていて、その大きさを超えると体細胞が分裂をするといわれています。これには、1個の細胞がどんどん大きくなっていくばかりだと、その巨大な細胞の一部でも傷つくと細胞自体が死んでしまうので、リスクを分散するためともいわれます。

細胞における核の容積を、細胞質の容積で割り算した「核細胞質比」という値があり、これが変化することが、細胞分裂の引き金になるという説があります。核にくらべて、細胞質の容積が一定以上になると、体細胞分裂が生じるというわけです。

また、ホルモンのはたらきを受けて、体細胞分裂が起きるということもいわれています。たとえば、動物や植物のからだが傷ついたとき、傷口の細胞から「傷ホルモン」とよばれるホルモンが分泌されます。このホルモンが、新たな細胞の増殖を促すといいます。

いずれにしても、細胞はみずから「増えよう」と考えるような意思をもっているわけではありません。「そういうふうにできている」としかいいようがない。そこに生命のしくみの不思議さがあります。

参考資料
ブリタニカ国際大百科事典「細胞分裂」
https://kotobank.jp/word/細胞分裂-68240
東京大学大学院総合文化研究科 佐藤直樹研究室「細胞はなぜ分裂するのか」
http://nsato4.c.u-tokyo.ac.jp/old/Trivia/trivia2_5.html
法則の辞典「各細胞質比」
https://kotobank.jp/word/核細胞質比-788162
デジタル大辞泉「傷ホルモン」
https://kotobank.jp/word/傷ホルモン-473933
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「一見、7人がけ座席の中央に手すり」に経緯あり


仙台市地下鉄にめったに乗ったことのない人のなかには、座席の仕様を不思議に思う人がいるかもしれません。長座席の中央には手すりがあり、その手すり左右にはほかの座席とは異なる色のシート部分が見られます。

長座席の中央だけ色がちがう座席という事例は、かつて東京近郊を走る「国電201系電車」で見られました。中央の1人分だけ、ほか茶色のシートより目立つ橙色にすることで、そこに1人、左に3人、右に3人の計7人で座ることを促すものです。

仙台市地下鉄の長座席も7人がけを促すための意匠に見えます。しかし、中央の色ちがい座席の中央には手すり。中央の色ちがい座席を1人分と捉えると、そこに座る乗客は手すりを足で跨いで座ることになってしまいます。運営者がそうした座りかたを推奨するとは考えられません。

仙台市地下鉄仙台駅の駅員によると、この長座席は「6人がけ」とのこと。では、中央だけちょうど1人分の幅で色がちがっていることにはどういう意味があるのでしょうか。駅員は「あれは座席の真んなかですという目印みたいなものです」と言います。

たしかに長座席の中央の色がちがえば、そこが「座席の真んなか」であることは視覚的によくわかります。しかし、長座席の中央には手すりがついているので、座席の色がちがっていなくても、長座席の中央がどこなのかは明らかです。

なぜ、6人がけにかかわらず、ちょうど中央に1人分の色ちがいの座席があるのか。なぜ、その座席の中央に手すりがあるのか。仙台市地下鉄の沿革から、つぎのような理由がうかがえます。

当初、仙台市地下鉄の長座席は7人がけだったようです。その後、2009年11月から12月にかけて、交通局が7人がけ座席の中央に手すりを試験的に設置しました。乗客が立ったり座ったりするするときの支えとして有効かを調べたようです。また、6人がけの座席幅をどう感じるかなども調べたようです。

結果は、手すりを設置し、6人がけとすることを推しすすめるものだったようです。6人がけに変更した座席幅について「ちょうどよい」と答えた人が76.8パーセント、いっぽう「7人がけがよい」と答えが人が9.6パーセントだったそう。座り心地の点では、7人がけより6人がけのほうがゆったりしてよいのは明らかですから、結果に大差がつくのは当然といえば当然ですが。

仙台市交通局は翌2010年の夏ごろから、7人がけだった長座席の中央に手すりを設置して、6人がけとした車両を通常運行させたようです。

こうした経緯から、6人がけとなった長座席の中央に手すりが設置されるという、いまの仕様になったことがうかがえます。

仙台市地下鉄のぱっと見では不思議に見える座席の仕様に対しては、ネット上で「痛恨の設計ミス」「こんな無神経なアクセサリーを取り付けた事例には初めて出くわしました」といった声もあがっています。

たしかに7人がけに見える座席のちょうど中央に手すりがあるので、ぱっと見で違和感を覚える人はいることでしょう。

仙台市地下鉄の最大の乗車率は、南北線の北仙台から北四番丁のあいだの149パーセントといいます。「肩が触れ合う程度で、新聞が楽に読める」程度の乗車率150パーセントを下まわっています。

東京などの大都市圏では乗車率200パーセントといった混み具合の電車に乗ることがあたりまえ。その感覚からすると「長座席は詰めて7人で座るもの」が当然といえます。

しかし、それは大都市の事情ゆえのことであり、多くの都市の地下鉄では、混雑する区間や時間帯が多少はあっても、6人がけで座るくらいの余裕は多くの区間と時間帯ではあるものと考えるべきかもしれません。

参考資料
鉄道コム 2009年11月13日付「仙台市交 車内の手すり増設実験」
https://www.tetsudo.com/news/464/
アットトリップ 2015年5月14日更新「仙台市営地下鉄は、6人がけ専用なのか?1人は股をはさむ仕様のどちらか?」
https://attrip.jp/134712/
たくたくのページ「1000系電車 仙台市地下鉄」
http://www2u.biglobe.ne.jp/~taku_s/sharyou/ss1000.html#top
東洋経済オンライン 2017年7月28日付「最新版!『首都圏の鉄道混雑率』ランキング」
http://toyokeizai.net/articles/-/182181
通信用語の基礎知識「乗車率」
http://www.wdic.org/w/RAIL/乗車率
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液状のカレーを指すときは今後「ルゥ」でなく「カレーソース」に

このブログで不定期ながらかなりの頻度で掲載している、カレーについての記事「カレーまみれのアネクドート」は、(2017年)8月12日の回で第99回となり、第100回まであと1記事となりました。

各回、各店で出されるカレーの味や外見などを伝えるものですが、99回も記事をつづけてきたところで、各記事内における“ある表現”の使いかたが、適切かどうか微妙であるということが発覚しました。

「ルゥ」についてです。

これまで「カレーまみれのアネクドート」では、ライスにかける液状のカレーに「ルゥ」という表現を使ってきました。「ルゥはぽてっとしており、ライスや具とよく絡みあいます」「少量のライスを囲むようにルゥがよそわれ、そのルゥに信州十四豚が」といった具合です。

しかし、「ルゥ」が指すものは、本来的には「液状のカレー」ではなく、その材料となる固形や粉末の「カレーのもと」とのことです。最近、カレーについての記事をつくる過程で、編集の担当者から原稿内の「ルゥ」に指摘があり、NHK放送文化研究所の「カレーの『ルー』?」という記事の引用がありました。

このNHK放送文化研究所の記事には、つぎのような説明があります。

「カレーの『ルー』というのは、固形や粉末の『カレーのもと』のことを指すことばです。(中略)日本式のカレーを作る場合、戦前は各家庭で小麦粉を炒めてそこにカレー粉を加えていました。この手間を省くために、最初からカレー粉と『ルー』を合わせた商品が開発されたのです。これが、カレーの『ルー』です」


本来の意味でのカレーの「ルゥ」の例
写真作者:Kotaro Kokubo

さらに、「ルー」(roux)ということばは、もともと「小麦粉とバターを加熱しながらまざあわせたもの」という意味のフランス語であるとも説明されています。

しかし、近年では「ルー」をカレーのもとと考える人のほか、ご飯にかかっている部分と考える人も増えているようです。「カレーまみれのアネクドート」での「ルゥ」の使いかたとおなじように。

同研究所が2009年に実施したアンケートでは、20歳代から40歳代までの回答者の過半数が、「ルー」の指すものとして「どちらも正しい」と答えたそうです。また10歳代については「カレーのもと」こそ「ルー」だと考える人と、「ご飯にかかっている部分」こそ「ルー」だと考える人の割合がおなじだったということです。

「ルー」や「ルゥ」を、ご飯にかける液状のカレーと認識ている人が増えているとしても、もともとのことばとしては液状のカレーを指すものではありません。そのため「カレーまみれのアネクドート」でも、今後は「カレーのもと」を指すときのみ「ルゥ」を使い、「液状のカレー」を指すときはべつの表現を使うことが適切といえます。

では、どうよべばよいのでしょうか。

「カレー」ということばは、日本では、それだけで「カレーライス」や「カレー料理」といった意味をもつものです。「カレー」ということばを使うとなると、それがカレーライスを指すのか、ご飯などにかける液状のカレーを指すのかが不明瞭となります。

「カレー汁」というのも、日本のカレーとしての趣きはあるものの、「ルゥ」をもとにつくるカレーのとろとろとした感じがあまりありません。カレーライスにかかっている液状のカレーとはべつのものを想起させてしまいそうです。

そこで、カレーのとろとろ感が伝わることや、実際に多くの用例があることから、今後は「カレーソース」または「ソース」といったことばで表現することとします。


カレーソースのかかったライス、すなわちカレーライス

参考資料
NHK放送文化研究所 最近気になる放送用語「カレーの『ルー』?」
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/151.html

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どのようなタンパク質になるかを、遺伝子が塩基の並びかたで定める

写真作者:healthmindandkat

大学や研究所が生命科学の分野の研究成果を発表するとき、「コードする」ということばが使われることがあります。

たとえば、2017年7月に理化学研究所や東京大学などが共同で報道発表した資料には、「化合物がタンパク質に作用しその機能を阻害することは、そのタンパク質をコードしている遺伝子が遺伝子破壊により機能不全になることと同義です」といった文が見られます。

「タンパク質をコードしている遺伝子」という表現があるということは、「遺伝子はタンパク質をコードするものである」ということがいえます。では、ここでの「コードする」とはどういうものでしょう。

遺伝子とは、細胞内あるデオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)のうち、親から子孫へ、あるいは細胞へ細胞へ伝えられる要素をもった部分のことをいいます。実際には、ヒトのデオキシリボ核酸すべてのうちの5パーセントほどが遺伝子だといいます。また、遺伝子の実体は、アデニン(Adenine)、チミン(Thymine)、グアニン(Guanine)、シトシン(Cytosine)という4種類の塩基が連なったものとされます。

遺伝子をなりたたせる塩基の連なりは、「伝令リボ核酸」(mRNA:messenger RiboNucleic Acid)という物質に写しとられます。この写しとりの過程を「転写」といいます。写しとられただけですので、伝令リボ核酸の塩基の連なりも、デオキシリボ核酸の塩基とおなじく4種類でなりたっています。ただし、デオキシリボ核酸におけるチミンは、ウラシル(Uracil)という塩基になります。

伝令リボ核酸の塩基は、3個ずつでひとつの単位となります。この3個1単位をコドンといいます。塩基は4種類、また、コドンは3塩基でなりたつので、コドンの種類は4の3乗、つまり64種類ということになります。

実際、64種類のコドンのうち3種類はその先の段階に進むことなく終わってしまうのですが、61種類のコドンは、先の段階に進みます。伝令リボ核酸とはべつのリボ核酸である「転移リボ核酸」(tRNA:transfer RiboNucleic Acid)が登場します。転移リボ核酸はコドンの種類を認識して、アミノ酸という物質に結びつきます。このアミノ酸は、タンパク質をなりたたせる単位となります。そのため、各アミノ酸の並ぶ順序によって、タンパク質の構造が決まってくるわけです。以上の、特定のコドンの情報を担った転移リボ核酸それぞれがアミノ酸と結びついてタンパク質が組み立てられていく過程を「翻訳」といいます。

このように「転写」そして「翻訳」という過程を経て、タンパク質はつくられるわけですが、この過程の原点にあるのは、遺伝子における塩基の並びかたです。塩基がどういう並びをかたをしているかが、最終的にどういうタンパク質ができあがるかを定めているわけです。

「コード」(Code)には「符号をつける」といった意味があります。「遺伝子はタンパク質をコードする」とは、タンパク質がどのようなものになるかを、遺伝子が塩基という符号の並びかたで定める、と表現することができます。

参考資料
理化学研究所、東京大学、トロント大学、ミネソタ大学 2017年7月25日発表「化合物の標的機能を決定するツールを開発」
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170725_1/
生物学用語辞典「コード」
http://www.weblio.jp/content/コード%28遺伝の%29
生物学用語辞典「タンパク質コード遺伝子」
http://www.weblio.jp/content/タンパク質コード遺伝子
ブリタニカ国際大百科事典「コドン」
https://kotobank.jp/word/コドン-65624
デジタル大辞泉「コドン」
https://kotobank.jp/word/コドン-65624
Yahoo!知恵袋「たんぱく質をコードする、という用語がありますが、それは『翻訳』のことですか?」
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1250644687
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脂肪細胞に「白色」「褐色」そして「ベージュ」


細胞には、「脳細胞」や「皮膚細胞」のように、からだの部位を冠したよび名のものがあります。いっぽうで、その細胞のはたらきや特徴に当たることばを冠したよびかたの「細胞」もあります。

「脂肪細胞」は、脂肪を含む細胞のこと。脂肪をたくわえる能力をもっていることから、細胞のはたらきを冠した細胞のよびかたの例といえます。厳密には、脂肪には中性脂肪、脂肪酸、コレステロール、リン脂質という4種類があり、このうち中性脂肪が、多くの人びとが想像する、いわゆる「脂肪」を指します。脂肪細胞は、厳密には、中性脂肪を含む細胞のことを指します。

脂肪細胞にも、はたらきや特徴により、おもに2種類に分けられています。

脂肪細胞のうち99パーセントを占める圧倒的多数派が「白色脂肪細胞」です。人のからだでは、あらゆるところに存在していますが、とりわけお腹の下あたり、お尻、太もも、それに内蔵のまわりなどに多く存在しています。実際に、白っぽい色をしていて、きれいな球状のかたちをしています。

人は、食事によって脂質や糖などの栄養素を摂りこみます。脂質や糖にはエネルギー源ですので、必要な分はエネルギーとして使われます。いっぽう余った分は中性脂肪と化して、脂肪細胞に貯められていきます。

脂肪細胞を人などの動物がもっているのは、飢餓という生命の危機に直面したとき貯めておいた脂肪をエネルギーに変えて使えるようにするためと考えられています。さほど飢餓の危険が減った現代では、この機能が残っていることが、かえって肥満という生命の危険を高める状態をつくってしまっているわけですが。

もうひとつの脂肪細胞が「褐色細胞」です。こちらもよび名のように、褐色を呈しています。褐色脂肪細胞のほうは、首のまわり、脇、肩甲骨のまわり、また心臓や腎臓のまわりといった場所にかぎって存在しています。褐色脂肪細胞も白色とおなじく、からだに余分な脂肪を扱いますが、こちらは熱にかえて熱を放出するはたらきが特徴的。

とくに、赤ちゃんのときには褐色脂肪細胞の数は多いことが知られています。これは、お母さんのお腹のなかにいたときにくらべて、生まれてきたあとの外気は寒く、みずから熱をつくって体温を保たなければならないからと説明されています。

近ごろでは、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞のほかに、「ベージュ脂肪細胞」というよび名の脂肪細胞も話題にのぼることがあります。ベージュ脂肪細胞は、白色脂肪細胞からなる脂肪組織において、褐色細胞のように熱を放出するはたらきをもつ細胞のこと。ベージュ脂肪細胞は、存在する場所という点では白色脂肪細胞といえ、はたらきという点でいえば褐色脂肪細胞に近い細胞といえそうです。

参考資料
河田照雄「脂肪細胞の正体」
http://www.yakult.co.jp/healthist/215/img/pdf/p20_23.pdf
理化学研究所 2017年1月10日発表「肥満を抑える糖鎖を発見」
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170110_2/
金沢市医師会「脂肪細胞について」
http://www.kma.jp/ishikai/ishikai_0060.html
細川雅史「脂肪を燃やす二つの脂肪組織」
http://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9011/9011_biomedia_5.pdf
| - | 19:40 | comments(0) | trackbacks(0)
カー・キャッチャーで逸走を止める


都市部の駅ではあまり見かけませんが、駅のプラットフォームに「カー・キャッチャー」とよばれる器具が置かれていることがあります。

スキー板のような平板が2枚。それぞれ「左」「右」と書かれています。

使いかたの説明書きもあります。「逸走車両を停止させるときは、カー・キャッチャーの左を左手、右を右手に持って走行し、図のように、トングが車両進入方向に、フランジが軌間の内側になるように取付ける」。

専門用語がいくつかあります。

「逸走車両」とは、停止すべき位置を通りすぎてしまい、走行すべきでない区間に侵入してしまう列車のこと。運転士の作業の過誤などにより、ちょっとした勾配がある線路のうえに停車していた車両が、重力により自然に走りはじめることが起こりえます。逸走は、重大事故につながりかねない危険な事象とされます。

また、「トング」(tongue)は、もともと「舌」という意味のことば。鉄道には、もとの線からほかの線へと車両を転じさせるために「分岐器」とよばれる構造がありますが、この分岐器に使われている可動レールを「トング・レール」といいます。語源は不明ですが、トング・レールの形や動きは、舌の形や動きを連想させます。

カー・キャッチャーのトングも、人あるいは動物の舌によくにています。見つめつづけていると「あっかんべー」をしているようにしか感じられなくなります。

また、「フランジ」(flange)は、「出縁」などの意味をもつことば。列車の車輪では、線路の内側に出っぱって、脱線を防ぐための部分をいいます。

車輪とおなじく、カー・キャッチャーにも、トングとは逆側には、線路の内側にはめる出っぱりの部分があります。このことから、トングと逆側を「フランジ」とよぶのでしょう。カー・キャッチャーのフランジ側には、車止めとなるような突起もついています。

逸走してくる車両に対して、レールにカー・キャッチャーを固定し、まずトング側で車両を乗せて、その後、フランジ側で車両を止める。これにより、車両のそれ以上の逸走を防ぐことができます。

鉄道関係で、使いかたを説明している道具としては、客車のなかの「非常用ドアコック」が知られています。その説明書きは明らかに、非常時に客が操作しうることを想定してのもの。

いっぽう、カー・キャッチャーについては、基本的には駅員や運転士などの鉄道会社の社員が扱うべきもの。しかし、駅員や運転士も実際めったに使うものではないのでしょう。説明書きがあるほうが正しい使いかたで事故防止につながるというのはたしかなことといえそうです。

参考資料
noppokun 113「重大事故仮想再現VTR『車両逸走』編」
https://www.youtube.com/watch?v=3aDhpe9inBk
むかし日本に国鉄があった「<これ何?>カーキャッチャーを語る」
https://blogs.yahoo.co.jp/sakamoto_masutarou/16933342.html
ウィキペディア「カーキャッチャー」
https://ja.wikipedia.org/wiki/カーキャッチャー
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白鳥でも、朝までおどり徹す


きのう(2017年)8月13日(日)のこのブログの記事では、400年以上の伝統をもつ、郡上市の盆おどり「郡上おどり」をとりあげました。

いっぽう、郡上おどりの中心地から北北西へおよそ17キロ、同市内の白鳥町白鳥界隈では、夏場に「白鳥(しろとり)おどり」がくりひろげられています。

白鳥おどりも郡上おどりとおなじく、歴史ある盆おどりとされます。郡上市白鳥町長滝の長瀧寺には1682(天和2)年成立の「荘厳講執事帳」という書物が残されています。そこには白鳥おどりや郡上おどりの記述があるといいます。

荘厳講とは、毎月4、5日間、朝と晩に法華経を購読する行事。白鳥が白山信仰の拠点のひとつ美濃馬場として栄えてきたなかで、大切な行事として荘厳講は鎌倉時代の1248(宝治2)年から、江戸時代が終わる1868(慶応4)までつづけられました。この講の執事についての記録が「荘厳講執事帳」に記されています。

ところが、江戸時代初期の1723(享保8)年には、長瀧寺で盆おどりをすることを停止する命令があったそうです。しばらくは、寺のなかでは盆おどりはおこなわれなかったのかもしれません。

しかし、その後も、長瀧寺や当地の寺の境内で、盆おどりが毎年おこなわれたといいます。

明治期になると、新政府が欧米化政策を進めるなかで、岐阜県が1874(明治7)年、盆おどりを禁止するお達しを出しました。またも、民衆の盆おどりが形式上、奪われることになります。しかし、それでも白鳥の人たちは、おどりつづけました。太平洋戦争により盆おどりはいったん消滅しましたが、戦後すぐ復活し、1947(昭和22)年には「白鳥踊り保存会」がつくられました。

また、「拝殿おどり」の性格をもつ白鳥おどりに対して、「白鳥拝殿踊り保存会」もつくられました。白鳥の拝殿おどりは2001(平成13)年、岐阜県の重要無形民俗文化財に、2003(平成15)年には国の選択無形民俗文化財に選ばれています。

白鳥おどりも郡上おどりとおなじく、例年8月13日から15日にかけて、朝まで踊る「徹夜おどり」が日ごとに場所を移しておこなわれます。きょう14日(月)は、白鳥駅西側の駅前通りで、踊りがつづいています。江戸時代に郷土のために犠牲となった人びとの遺徳をしのんで現代に創られた「郡上宝暦義民太鼓」の演技もおこなわれています。

白鳥おどりの歴史は、盆おどりが、人びとに集いをあたえる風習であるとともに、民衆の意志がまもりつづける風習であることを伝えます。そこには、「ただただ踊りたい」という人間の本性もかかわっているのかもしれません。

参考資料
白鳥観光協会「白鳥おどりの由来」
http://shirotori-gujo.com/html/odorihistry.html
岐阜県「荘厳講執事帳」
http://www.pref.gifu.lg.jp/kyoiku/bunka/bunkazai/17768/komonjyo/sougonnkousitu.html
ウィキペディア「白鳥おどり」
https://ja.wikipedia.org/wiki/白鳥おどり
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郡上おどり、朝までおどり徹す


  奥美濃は水より暮れて盆踊 永田等

「盆踊り」は秋の季語。「盆」とは、仏教の経にもとづき苦しんでいる亡き人たちを救うことを意味する「盂蘭盆(うらぼん)」を略したものとされます。盂蘭盆は、もともと7月15日におこなわれていた仏事だったとされます。

しかし、明治時代、暦がそれまでの太陰暦から新しく太陽暦に移ると、いままでの行事がおしなべて1か月早くおこなわれることに。都市部などでは太陽暦での7月15日、つまりいまの7月15日あたりを「お盆」とする習慣が定着したところもありました。

しかし、新暦の7月中旬は農作業に追われる地方などでは、1月ずらして8月15日あたりを「お盆」とするようになったといいます。

岐阜県郡上市では、「郡上おどり」とよばれる盆おどりが繰りひろげられます。歴史も古く、始まったのは江戸時代とされ、1991年には「400年祭」がおこなわれました。

郡上おどりは、徳島の阿波おどり、秋田の西馬音内の盆おどりとならぶ、「日本三大盆おどり」のひとつに数えられます。それほどの特徴があります。

まず、盆おどりの期間が長いこと。7月中旬から9月上旬にかけて33夜にわたり、郡上市の八幡地区界隈で場所を移しながら盆おどりが開かれます。郡上八幡観光協会によると「日本一のロングランの盆おどり」だそう。

また、「徹夜おどり」が4日にわたり開かれることも、郡上おどりの特徴といえます。きょう8月13日は徹夜おどりの初日。今年2017年は日曜夜にあたります。20時、八幡町橋本町のおどり会場で、おどりが始まりました。

冒頭の句にある「奥美濃」は、郡上市をふくむ地域の別称。郡上八幡のまちにはきれいな水が流れています。街かどでは、大勢の人と魂が集まり夜な夜な賑やかになるため「水より暮れて」と詠んだのでしょうか。

13日(日)から始まったおどりは、翌14日(月)午前4時までつづきます。

参考資料
俳句のサロン 歳時記「盆踊」
http://www.haisi.com/saijiki/bonodori.htm
日本大百科全書「盆踊り」
https://kotobank.jp/word/盆踊り-385405
日蓮宗 だんじょのお寺「なぜ7月盆と8月盆があるのですか?」
http://www.yamasina-gokokuji.jp/q17.html
郡上八幡観光協会「郡上おどり」
http://www.gujohachiman.com/kanko/odori.html
朝日新聞掲載「キーワード」「郡上おどり」
https://kotobank.jp/word/郡上おどり-250023
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「ジョナサン」のカレー南蛮 糖質0麺――カレーまみれのアネクドート(99)


ファミリーレストランの献立として用意されているカレーは、数ある料理のなかのひとつとなるため、店側にとっても客側にとっても“脇役”の位置づけになりがちです。

しかし、主役にならないような料理にも手を抜かず、ファミリーレストランの料理としての味のよさを追求するかどうかが、安定した人気や評判につながるのではないでしょうか。

全国におよそ300店舗あるファミリーレストラン「ジョナサン」では、カレーライスのみならず、カレー南蛮も常時の献立として出しています。すくなくとも2002年にはすでに出されていた料理で、ジョナサンでの定番のひとつといるでしょう。

献立には「和風だしのきいた特製つゆに、きのこと豚肉をたっぷりと」と。だしには「和」を感じさせながら、カレーの辛さもじわじわと強く感じられます。また、献立の説明どおり、きのこと豚肉には食べでがあります。「南蛮」とは、肉や野菜などを加えて煮た料理。この料理はさながら「カレー南蛮」の面目躍如といったところでしょうか。

2017年には、このカレー南蛮を、うどんのかわりに「糖質0麺」で食べられるようになりました。5月には「糖質0麺」に微量な糖質が含まれていることが発覚し、ジョナサンは一時、販売を中止していましたが、改善したのか8月にはすでに復活しています。単品での熱量は539キロカロリー。


糖質0麺

「糖質0麺」は、うどんの麺とちがって細いため、カレーラーメンを食べるようなものになります。この麺は、食感については若干つるつる感が強いものの、風味については糖質が抑えられているといわれなければ気づかないくらい通常の麺とかわりません。

ただし、糖質が抑えられているからといって、麺の量がとりわけ多いわけではありません。理論的には「0」にいくつを掛け算しても「0」。より量の多い麺を期待する人も多いのではないでしょうか。

ちなみに、この「カレー南蛮」を、通常のうどん麺に加え、ごはんと漬物つきの「うどん膳」として頼むと、熱量は1183キロカロリー。ジョナサンの献立では、ビーフシチューオムライスの1287キロカロリーに次ぐ、高熱量となります。

ジョナサンのメニュー情報はこちらです。
http://www.skylark.co.jp/jonathan/menu/index.html
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「そうなんですか系」「そうなんですね系」より「そうなんですよ系」が強烈

写真作者:Yamaguchi Yoshiaki

外国の人が日本語を習って使うとき、相づちの打ちかたに苦労するようです。

たとえば、相手がはじめて示す情報に対する相づちの打ちかたとして、「そうなんですか」や「そうなんですね」などがあります。では、「そうなんですか」と「そうなんですね」はどうちがうのでしょうか。

たとえば、お盆休み後にはじめて職場で対話した、日本人の社員と外国人の同僚が、つぎのような会話をしているとします。

日本人「私、お盆休みに沖永良部島っていう島まで遊びに行ってきたんです」
外国人「そうなんですか」

ここでの「そうなんですか」には、相手が沖永良部島にいったという話に対して、関心や驚きをもって受けとめながら、相手が言ったことを追って確かめていく、といったはたらきがあります。

また、「そうなんですか」と相づちをうった人は、相手の言っている沖永良部島という島のことを知っているかもしれないし、あるいは知らないかもしれません。知っていても知らなくても、「そうなんですか」と言うことにより、島の話をふくめて相手の話を聞こうとする姿勢も示されるので、会話の流れは自然なものといえます。

いっぽう、つぎの対話例はどうでしょう。

日本人「私、お盆休みに沖永良部島っていう島まで遊びに行ってきたんです」
外国人「そうなんですね」

さきの「そうなんですか」とにています。しかし、「そうなんですか」だと確かめたり問うたりする度合が高くなると感じる人は、その度合を減らせる「そうなんですね」を使う傾向にあるようです。

かつて、この相づちに違和感をもつ人が多かったといいます。「そうなんですね」には、相手が示す情報を自分は知っているという条件が生じるはずなので、初めて聞く話に「そうなんですね」を使うのはおかしい、というのが理由です。

たとえば、沖永良部島という島のことを初めて耳にするこの外国人が、「そうなんですね」と相づちを打っていると、おかしなことになります。会話のつづきで「お、ジェフさん、沖永良部島、知ってるんだ」と聞かれて、「いえ、初めて聞きます」と答えれば、いまの「そうなんですね」はなんだったのかとなります。

近年では、初めて聞く相手の話に「そうなんですね」が使われても違和感を覚えない人は増え、よく使われる相槌になったとされます。強い語調の「そうなんですか」より、抑えめな語調の「そうなんですね」を使いたがる人が増えているのかもしれません。

では、つぎの会話例はどうでしょう……。

日本人「私、お盆休みに沖永良部島っていう島まで遊びに行ってきたんです」
外国人「そうなんですよ」

沖永良部島に行ったという話を切りだしたこの日本人は、ぎょっとするかもしれません。「そうなんですよって……。おまえはおれなのか」と。

ここでの「よ」には、自分は知っている情報であることを、相手に示すはたらきがあります。たとえば、「あの喫茶店は夜中の2時までやっているよ」と言えば、「あの喫茶店は夜中の2時までやっています」より、自分の知っている情報を相手に示すという度が強くなります。

相手が沖永良部島に行ってきたという話に対して、「そうなんですよ」と答えた場合、「自分はあなたがお盆休みに沖永良部島で遊んでいたことを知っている」という前提が生じます。沖永良部島での行動をすべて把握されていたかのようなことになり、ぎょっとされてしまうわけです。「おまえはおれなのか」と。

相づちを「そうなんですか」と打つか、「そうなんですね」と打つか、「そうなんですよ」と打つか。対話としてふさわしいものがあるということはべつにして、人のなかには「そうなんですか系」「そうなんですね系」「そうなんですよ系」がいることが、うすうす感じられます。

「そうなんですか系」は、相手に対する関心が強く、相手の話を聞こうとする性格の人といえそうです。また、「そうなんですね系」は、相手に対する同意の心が強く、相手の話に合わせようとする性格の人といえそうです。

しかるに、「そうなんですよ系」は、相手に対する征服度が強く、相手の話をすべて知っているものとする性格の人といえそうです。そして、上の対話例のように、ホラーの要素もすこしふくまれます。「そうなんですよ系」が、周囲の人びとにかなり強烈な印象をあたえることでしょう。

参考資料
NHKラジオ深夜便 2017年7月18日放送「気になる日本語」
| - | 14:06 | comments(0) | trackbacks(0)
むずかしさを超えたところに質の高い対談記事

画像作者:Museomix Rhône-Alpes

「対談」という伝えかたがあります。辞書どおりの意味だと、対談とは2人の人が向かいあって話しあうことなので「対談という伝えかた」というのは「1人対1人」と考えると奇異に聞こえるかもしれません。

しかし、本、雑誌記事、インターネット記事などでは「対談」という形式で伝えたいことを読者に伝えることがよく見られます。つまり、記事を対談形式にして、その内容を読者に伝えるわけです。

ただし、対談は、いろいろな意味で「むずかしい」ともいわれます。

まず、対談を実現させることのむずかしさがあります。

たとえば、ある本の著者が、前々から話してみたかった人と対談をして、その内容を自分の本のなかに入れようとしているとします。しかし、その対談相手が著者のことを知らないとなると、「ちょっと忙しいので」と、断られてしまうこともあります。言外には、「だれですか。知らないのですが」という意味がこめられてることもあるでしょう。2人がともに対談する相手を知っていれば、対談の実現度は高くなります。

対談が実現したとしても、充実した内容にさせることのむずかしさがあるかもしれません。2人の話が噛みあわない場合もあるからです。

あるひとつの主題をもとに対談を繰りひろげようとしていたところが、2人の知識の量や関心の度合に差がありすぎて、話が盛りあがらないといったものです。こうした場合は、たとえば、原稿の書き手が進行役を担うなどして、2人の話を盛りあげていくことが重要になります。

そして、読者に興味をもってもらうことのむずかしさもあります。

読者は2人の対談者のうちどちらかだけを知っているという場合もあるものです。たとえば、1人はその読者にとって興味深い人であるいっぽう、もう1人はこれまで知らなかった人という場合、どうしても知らなかった人の話に興味はわきづらいものです。

また、本や記事では、著者や執筆者が1人で伝えたいことを書いて伝えるという形式が基本のかたちとなっています。対談形式とは、2人の人の“おしゃべり”が繰りひろげられる、いわば例外的な形式ともとれます。よほどその“例外”が惹きつけるものでなければ、読者は“いつもの読みごたえ”のようなものを感じられないものです。こうした理由もあるのでしょう、対談形式の本は、なかなか売れないといわれています。

しかし、こうしたむずかしさを乗りこえて、対談者どうしがおたがいに興味深く自分たちの考えを交わしあい、読者が2人に対してともに興味をもっていて、実のある内容となっていれば、1人の人が書く本や記事よりも質の高い記事になる可能性はあります。

「インタビュー」(interview)ということばは、ものの見かた(view)を交わすということ(inter)。語感としては対談こそがインタビューとよぶにふさわしいのです。

参考資料
デジタル大辞泉「対談」
https://kotobank.jp/word/対談-557756
大辞林 第三版「対談」
https://kotobank.jp/word/対談-557756
| - | 23:39 | comments(0) | trackbacks(0)
理系で活躍する女性を育てるため「リカジョ賞」創設


理系分野で活躍する女性は、20年前や30年前にくらべれば、日本でも多くなってきたのかもしれません。自分のやりたい仕事を自分で選ぶのがあたりまえの時代になってきたため、理系に興味がある人が希望のままに理系に進むということも増えてきたと予想されます。

とはいえ、「親が理系出身でない」「数学や理科が苦手」「理系の魅力を感じられる機会がない」といったさまざまな理由で、理系進学や理系就職の道が子ども時代から狭まっているという人もまだ多くいるはずです。女性・男性を問わずですが。

そこで、社会の組織・団体は、将来、多くの女性が理系分野で活躍することを期待し、子どものうちに理系に興味をもってもらうためのとりくみをしています。

たとえば、日産自動車が設立した日産財団は、2017年に「リカジョ賞」という賞を創設し、9月から対象者の募集をはじめようとしています。

「リカジョ賞」は、女子児童・生徒の理科への興味・関心が深まったと評価できる取り組みに対して贈られるもの。

全国の国立、公立、私立の小学校と中学校、博物館などの教育施設において、女子児童・生徒の理科への興味・関心を顕著に高めたと認められる実績を表彰します。とりくみの例として、生活科や理科を中心とした授業、学習発表会やサイエンスショーなどのイベント、科学部などのクラブ活動があがっています。

応募対象者は「女子児童・生徒を含む小・中学生を対象とした理科教育等を実践する個人または団体」。対象者として当てはまる人は、かなりの数にのぼるのではないでしょうか。

第1回の応募期間は2018年3月末までで、「リカジョ賞」1件には賞状と副賞20万円が贈られるとのこと。また「佳作」も2件、選ぶようです。

日産財団の「第1回リカジョ賞」の募集要項はこちらです。
http://www.nissan-zaidan.or.jp/program/award/rikajo/募集要項/
| - | 21:02 | comments(0) | trackbacks(0)
「けんきゅうじょ」か「けんきゅうしょ」か、考えはじめると厄介

埼玉県和光市にある理化学研究所(りかがくけんきゅうしょ)
画像:Google Earth

日本には名の一部に「研究所」とつく機関が複数あります。国立研究開発法人とよばれる法人格の「研究所」もあれば、株式会社の「研究所」もあります。また、大学などの法人の下部組織としての「研究所」もあります。

これらの「研究所」につとめている広報の担当者たちは、自分の組織をどのように発音するでしょう。

「研究所」の「所」という字には、発音の「ゆれ」があります。つまり「けんきゅーじょ」と発音する人もいれば、「けんきゅーしょ」と発音する人もいます。そして、この「ゆれ」の傾向は、現実社会の「研究所」のよびかたにも反映されているもよう。「けんきゅーじょ」とよぶのが正しい機関もあれば、「けんきゅーしょ」とよぶのが正しい機関もあるわけです。

たとえば、茨城県つくば市にある、農業・食品産業技術総合研究機構の研究所のひとつ「果樹研究所」は、ウィキペディアの表記では「かじゅけんきゅうじょ」と表記されています。いっぽう、おなじく、つくば市にある同研究機構の研究所のひとつ「花き研究所」は、ウィキペディアでは「かきけんきゅうしょ」と表記されています。公式な情報とはいえませんが、同機構内の研究所で「じょ」と「しょ」の表記があるわけです。

「理化学研究所」は、「理研について」というサイトで「りかがくけんきゅうしょ」とひらがな表記しています。

ところが、辞書や事典の数々を見てみると「りかがくけんきゅうじょ」とあります。ブリタニカ国際大百科事典、デジタル大辞泉、百科事典マイペディア、世界大百科事典 第2版、大辞林 第三版、日本大百科全書では、いずれも「りかがくけんきゅうじょ」。同研究所自体の表記とは異なっています。

このことについて、理化学研究所の広報担当者が、国語辞典を発行する出版社に「けんきゅうしょ」で表記を願う旨を伝えたところ、「研究所」ということばは「けんきゅうじょ」と表記しているため、理化学研究所も「りかがくけんきゅうじょ」と表記しているという回答を受けたそうです。

「理化学研究所は固有名詞なのだから『けんきゅうしょ』で願いたい」とあらためて要請したものの、にべもなかったという話です。

日経新聞記事審査部は、こんなツイートをしています。

「理化学研究所は「リカガクケンキュウジョ」だと思っていましたが、テレビでは「ケンキュウショ」と濁らない読み方をしていることに気付きました。紙面上で漢字の読みが問題となる場面は限られますが、放送の世界では当然、どう読むかが常に問題となるのでしょう。苦労もひとしおでしょうね」

国立国語研究所の調査では、「研究所」をどう発音するかについて、採るかたちとして「けんきゅーじょ」が多数で、55〜79パーセントとなり、「言いやすい」40パーセント、「一般的」35パーセント、「語感がよい」25パーセントなどが理由として数えられたそうです。ちなみに、国立国語研究所は「けんきゅうしょ」のほう。

その研究所は「けんきゅうじょ」か、「けんきゅうしょ」か。きちんと発音をしようなどと考えはじめると、非常に厄介なことになりそうです。

参考資料
コトバンク「理化学研究所」
https://kotobank.jp/word/理化学研究所-148414
農林水産省「農林水産省で開発された農産物の品種はどのくらいありますか」
http://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0505/01.html
ウィキペディア「果樹研究所」
https://ja.wikipedia.org/wiki/果樹研究所
ウィキペディア「花き研究所」
https://ja.wikipedia.org/wiki/花き研究所
理化学研究所「理研について」
http://www.riken.jp/about/
日経新聞 記事審査部(校閲担当)2014年4月10日ツイート
https://twitter.com/nikkei_kotoba/status/454281648264060928
文化庁「語形の『ゆれ』の問題 発音の『ゆれ』について(報告)3」
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kakuki/05/bukai02/09.html
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
身近な足元に共重合体

写真作者:Jacob Haas

製品の素材について、よく「EVAを使用しています」という説明を見ることがあります。“EVA”というと「イブ」のラテン名だったり、アニメーション作品『新世紀エヴァンゲリオン』の略称として使われていたりと、さまざま見られます。しかし、素材のEVAにはべつの由来があります。

素材のEVAは、エチレン・ビニール・アセタート(Ethylene-Vinyl Acetate copolymer)ということばの頭文字をとったもの。日本語では、エチレン-酢酸ビニル共重合体などとよびます。共重合体とは、2種類以上の基本となる物質の分子を結合させてつくる高分子化合物のこと。EVAでは、エチレンという物質と、酢酸ビニルという物質が結合しています。

酢酸ビニルの性質により接着性が高く、かつ柔軟性も高いことが、EVAの特徴とされます。また、丈夫でちぎれにくいといった特徴を説明する企業もあります。さらに、低い温度でも変形しづらく、氷点下58度まで耐えうるともいいます。

一般的には、エチレンの含有率は、3パーセントから40パーセントほど。エチレンの含有量が多いほど、剛性や融点は高くなり、逆に酢酸ビニルの含有量が多いほど、柔軟性や透明性が高くなります。

身近なところでは、サンダルや靴の底、マットやシートなどによく使われています。

EVAは海外で発明された樹脂で、すでに1960年台には日本でも輸入品が発売されていたようです。使い勝手のよい樹脂は、長きにわたり使われつづけるということを示す好例といえるかもしれません。

参考資料
ウィキペディア「酢酸ビニル」
https://ja.wikipedia.org/wiki/酢酸ビニル
東洋ケミカルズ「EVA樹脂」
http://toyochem.co.jp/products-07-eva_resin.html
AKchem.com「サンテックTM-EVAとは」
https://www.akchem.com/pe/products/suntec-eva/
やさしいコルクマット通販SHOP「EVA樹脂とは」
http://www.eeel.jp/eva
包装アーカイブス「押出ラミネート包装に四半世紀 携わって」
http://www.spstj.jp/publication/archive/vol20/Vol20_No6_1.pdf
| - | 14:18 | comments(0) | trackbacks(0)
「完成作品でなく原稿を見たい」と編集者は言う

写真作者:Steve Greer

自由業の人の能力を、企業などの組織の担当者が評価して、仕事を依頼するかどうか判断することがあります。もの書きについていえば執筆したものを、出版社の編集者やコンペティション主催者が評価して、原稿執筆を依頼するかどうか判断するわけです。

編集者やコンペティション主催者は、もの書きが過去に携わった記事を見つけたり、あるいはもの書きに提出させたりして、内容はどうか、文章はこなれているかなどを判断しようとします。

しかし、そこにはちょっとした「落とし穴」があるおそれがあります。ある編集者はつぎのように話します。

「そのもの書きが自身のホームページ内で紹介していた記事を見て、文章に安定感があったため、『この人なら大丈夫だろう。執筆を依頼しよう』と考えたのです。ところが、実際に書いてもらうと、その人の原稿の内容は支離滅裂なものでした……」

もの書きの書いた原稿が、そのままの文章で記事に載るとはかぎらないのです。もの書きが書いた原稿が最終的に記事とし載るまでには、編集者が原稿を手直ししたり、校閲者が原稿の内容を指摘したりします。つまり、原稿執筆から記事掲載に至る途中で、もの書き本人以外の他人が文章に手を加えることがあります。そして、どこまでその原稿に、他人が手を加えたのかは、なかなかわかりえません。

「あとで、そのもの書きに話を聞くと、自分が依頼前に見たその記事では、敏腕編集者が全面的に改稿をしたため、自分の原稿が残っている部分は1割もなかったとのことでした」

自由業の人の能力を評価するという観点でいうと、もの書きを評価するときよりも絵描きを評価するときのほうが、他人の手が加わってない本人の作品を評価できるといえます。絵のほうは、そうかんたんには編集者が修正したり、加筆したりできないからです。

「完成作品でなく原稿を見たいものだ」と、執筆者を探している編集者たちは言っています。
| - | 22:26 | comments(0) | trackbacks(0)
北海道から豪州大陸まで及ぶ「台風」画像、多くの大手媒体に

8月は、日本でもっとも多く台風が発生する月。積乱雲などよる局地的な豪雨も水害になりますが、台風も大きな被害をもたらすもの。警戒が必要です。

さまざまな情報源が、台風についての情報を伝えます。人工衛星が撮影した台風の画像も、人びとの台風に対する警戒心を強めるには効果的といえましょう。

しかし、台風に対する警戒心を強めるということと、事実を伝えるということのあいだで、議論をもたらすような伝えかたも見られます。



上の画像の中央に置かれた画像は一見、人工衛星が撮影した台風のようです。しかし、この画像に違和感を覚える人もいることでしょう。この画像に映っている「台風」の雲は、東は太平洋のはるか沖合、西はタイのあたりまで、北は北海道の釧路沖、南は豪州大陸の砂漠地帯まで広がっています。

一般的に台風の直径は、数百キロメートルから、大きなものでは2000キロメートルを超えるとされます。いっぽう、画像のなかの「台風」は、直径7000キロメートルに達するもの。

インターネット内を検索すると、この「台風」とおなじかたちが、メキシコ湾を背景に描かれている画像、米国フロリダ州の東岸を背景に描かれている画像などが見られます。これらのことからも、この「台風」の画像は、人工衛星が撮ったものではないことがわかります。

インターネットでは、この「台風」の画像が、2016年8月以降、多くの媒体で使われていることが、画像検索によってわかります。多くの人が知っているような媒体の記事で、この「台風」の画像が使われています。

ラジオ局のJ-WAVEは、ニュースサイトの「温暖化で台風の数は減るけど、強い台風は増加する!?」という記事の冒頭に、この「台風」の画像を使っています。

日経BPネットは、「必読!トピックス」というページの「地球温暖化の影響? 迫り来る気象の猛威 台風・ゲリラ豪雨」という特集の冒頭に、この画像を使っています。

新聞社もこの画像を使っています。読売新聞社は、YOMIURI ONLINEの「台風激減 嵐の前の静けさなのか?」という記事のなかで、この画像を使っています。画像のすぐ下には「写真はイメージです」とあります。「実際のものではない」ということを伝えるための文言でしょう。ただし、この画像は、「写真」とはいえますまい。

さらに、日本気象協会が運営しているサイト「tenki.jp」でも、「今日は防災の日。あなたの住む土地はどんな災害の可能性がありますか?」という記事で、この画像を使っています。

自治体も、この画像を使っているところがあります。兵庫県は、県のサイトの「防災」というページの「台風・豪雨・大雨」という見出しの右下に、この画像を使っています。

2017年8月上旬は、「迷走」する台風5号の影響が出はじめていますが、4日(金)の会社四季報オンラインは、「猛暑関連銘柄と政策期待銘柄を両にらみ」という記事の冒頭で、この画像を使っています。

さらに、会社四季報オンラインで掲げられているこの画像を、ヤフーが、読売新聞の記事「高気圧がブロック、迷走中に勢力増す…台風5号」を伝えるニュースの挿絵として使っています。明らかにこの画像は「台風5号」ではありません。

伝播力の高いこの画像を、だれがつくったのか。写真や画像を有償で提供するサービス「ピクスタ」に、この画像があり、作者に「Harvepino」とあります。また、画像名は「Hurricane north of Australia」。

大手の情報媒体や気象情報を提供する機関が、この「台風」の画像を、ほぼ「実際のものではない」という断りを入れずに使っています。情報発信者としては、「事実を表現した画像でななくても、人びとの警戒心を高めたい」という思いがあるのかもしれませんし、ないのかもしれません。

この画像のもつ「情報発信者に使わせようとする力」は相当に強いようです。

参考資料
J-WAVE ニュース 2016年8月2日付「温暖化で台風の数は減るけど、強い台風は増加する!?」
http://www.j-wave.co.jp/blog/news/2016/08/post-2060.html
日経BPネット 必読!トピックス「台風・ゲリラ豪雨」
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/topics/16/08/22/00064/
YOMIURI ONLINE 2016年8月11日付「台風激減 嵐の前の静けさなのか?」
http://sp.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20160809-OYT8T50091.html?page_no=2
tenki.jp 2016年9月1日付「今日は防災の日。あなたの住む土地はどんな災害の可能性がありますか?」
http://www.tenki.jp/suppl/sachico_nakayama/2016/09/01/15051.html
兵庫県「防災」
https://web.pref.hyogo.lg.jp/safe/cate2_801.html
会社四季報ONLINE 2017年8月4日付「猛暑関連銘柄と政策期待銘柄を両にらみ」
https://shikiho.jp/tk/news/articles/0/183387
Yahoo!ニュース 2017年8月4日付「高気圧がブロック、迷走中に勢力増す…台風5号」
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6249388

| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)
「使い心地」を決める大きな要素は「使用者の満足度」


写真作者:Anders Sandberg

道具とは、ものをつくったり、仕事をはかどらせたり、あるいは生活で便利を得たりするためのものです。それぞれの目的をかなえるために、道具を使うわけです。つまり、道具は「使うもの」といえます。

使うものに「使い心地」のよさや悪さがあることは、日々道具を使って暮らしている人びとには直感できるものです。しかし、「使い心地とはなにか」となると、なかなか説明がつきません。

英語には「ユーザビリティ」(usability)という考えかたがあります。よく「使い勝手」や「使いやすさ」と訳されます。「使い心地」と近いことばといえそうです。そして、ユーザビリティには、国際標準化機構によって定義がなされているといいます。

国際標準化機構が定める「ISO9241-11」という国際規格では、ユーザビリティを、「特定の利用状況において、特定の使用者によって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、使用者の満足度」と定義しています。かんたんにいえば、「有効さ」「効率」「使用者の満足度」が、ユーザビリティの要素であるといえそうです。

これらの要素を、「ISO9241-11」は、さらに細かく定義します。

「有効さ」については、「使用者が特定の目標に達成するのに伴なう正確さや完全さ」。「効率」については、「使用者が特定の目標に達成するのに伴なう正確さや完全さとの関連性において費やされる資源」。「満足度」については、「不快からの自由、そして、その製品を使うことにむけての前向きな姿勢」。このような説明がされています。

「使い心地」と「ユーザビリティ」ということばをくらべると、「使い心地」には心理的要素が多分にふくまれていることが、字面からわかります。では、上記の「ユーザビリティ」の定義ではと見てみると、とくに心理的要素が深くかかわっているのが「使用者の満足度」でしょう。

道具を使うのだから「使い心地」にも有効さや効率といった尺度があるはずです。けれども「心地」ということばがあることからすると、その道具を使うときに感じられる有効さや効率もふくめて、「その道具を使っているとき、あるいは使ったあとの満足度」こそが、「使い心地」の大きな要素となるのではないでしょうか。

参考資料
日立製作所 電子行政用語集「ISO9241-11」
http://www.hitachi.co.jp/Div/jkk/glossary/0071.html
アーティス 2010年09月29日付「ユーザビリティとは『使い心地』」
http://www.asobou.co.jp/blog/web/about-usability

| - | 22:56 | comments(0) | trackbacks(0)
「何度を超えると」の根拠、見つかるものも、見つからないものも


魚類では、餌を食べるのに適した温度域や、母が産卵できる温度域などが、厳密に決まっています。たとえば、アユの餌を得るのに適した水温は15度から22度。また、産卵できる水温は14度から19度といいます。

魚類ほど厳密でなくても、人の暮らしでも「何度を超えるとどうなる」といった、気温とからだの変化の関係性がいわれています。とくに、夏場は、気温が高くなるため、人びとの関心も高くなりがち。

気温25度を超える日を「夏日」といいます。25度を超えると、アイスがよく売れるようになるといいます。日本アイスクリーム協会が男女600人に聞いたところ、半数以上が「アイスクリームをおいしく感じる気温」として、18度くらい、20度くらい、25度くらい、30度くらいのうち「25度くらい」と答えたそうです。このことから、「25度を超えたらアイスがよく売れる」といわれるのでしょう。

また、近ごろ、「冷房は28度」という推奨温度には科学的根拠がないということを役人が述べたと話題になりました。いっぽう、過去には「気温26度を超えると、人びとの事務所での作業効率が急に低くなる」という研究結果があったようです。労働衛生学者の三浦豊彦(1913-1997)が1960年代後半、事務所の冷房温度と仕事の成否について調べた研究を拠りどころにしているもののようです。半世紀ほど前のデータなので、いまの人びとの感覚にも通じるのかはわかりません。

28度を超えると、多くの人では、じっとしていても汗をかくことになるようです。からだが36度から37度くらいの温度を保とうして調節機能がはたらき、体温の上昇を抑えるために汗が出るということです。おなじく28度は、熱中症の人が多く現れる気温ともいわれています。

30度を超えると、今度はアイスクリームよりも、かき氷のような氷菓子のほうが売れるようになるといわれます。感覚的には、気温が高いほうが、冷たい菓子でもよりさっぱりとしたほうを好む、ということはわかりますが、すくなくともインターネット上では、どのような根拠でこれがいわれているのかは、見あたりません。経験則として十分かもしれませんが。

近年は、気温が35度を超える「猛暑日」が多くなっているとされます。20度代や30度前後であれば、「人は何々するようになる」といった話は多くあります。しかし、35度を超えるともなると、「人はなにもしたがらず、ただ冷を求める」となるのではないでしょうか。

参考資料
国土交通省「主要魚介類の生息水温等の報告事例」
http://www.mlit.go.jp/crd/city/sewerage/info/ecosystem/ecosystem7.pdf
チェリオ オヤツハッカー「アイスの“美味しさ”と“能力”を最大限に引き出す「25℃」のマジックに注目!」
http://www.cheerio-oyatsu-hacks.jp/07/293
ハフィントンポスト 2017年5月11日付「クールビズの冷房28度、当時の環境省課長『なんとなく決めた』科学的根拠なし」
http://www.huffingtonpost.jp/2017/05/11/cool-biz_n_16555154.html
kes Information No.52「事務所での作業効率『26℃を超えると低下』」
http://www.kes-eco.co.jp/pdf/n_0035.pdf
デジタル版 日本人名大辞典+Plus「三浦豊彦」
https://kotobank.jp/word/三浦豊彦-1111966
からだ環境総研「夏バテしないさせない」
http://kokaken.jp/nl/nl15.html
| - | 20:35 | comments(0) | trackbacks(0)
5年前より鉄道の安全「向上」が「低下」を22パーセント上まわる

写真作者:yagi-s

公共交通機関では、乗りものに乗る人の安全を最優先すべきだといわれます。運転手が、ダイヤグラムどおりの運行を優先すると、つい安全を保つことがおろそかになってしまうことも。そうならないために「安全を最優先しろ」と、社員に徹底的に叩き込む企業もあります。

交通機関を使っている人びとの安全に対する意識はどんなものでしょう。

内閣府は、2016年「公共交通に関する世論調査」をおこない、鉄道、バス、タクシーの安全性についての意識を調べました。

まず、鉄道について、この5年間で安全性が「向上した」と答えた人が、27.8パーセント、「変わらない」が55.3パーセント、「低下した」が5.7パーセントだったとのことです。

鉄道ほどではありませんが、バスについても「向上した」の14.4パーセントが「低下した」の12.3パーセントをうわまわりました。また、タクシーについても「向上した」が11.3パーセントで、「低下した」の10.0パーセントを上まわりました。

安全にたいする人びとの印象は、事故が生じると「低下した」とすぐに思われるものです。いっぽう「向上した」と思われるには、大きな事故が起きない日々が続いていくしかありません。いくら安全性の向上を実現するような技術が導入されたとしても、それが安全に働きつづけなければ、人びとは「安全になった」とは思わないもの。

「向上した」が「低下した」を上まわるのは、ここ何年かは日々の安全が保たれてきたと、人びとに認められたからでしょう。

しかし、事故が起きる原因となるできごとが、開業以来、たまたまずっとなかっただけということもあるかもしれません。安全を積極的に確保していくという考えかたが、「安全性が低下した」と思われるような事故の危険性を減らすことになります。地味な考えかたではありますが。

参考資料:
内閣府大臣官房政府広報室 2016年12月調査「公共交通に関する世論調査」
http://survey.gov-online.go.jp/h28/h28-kotsu/index.html
| - | 19:20 | comments(0) | trackbacks(0)
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