写真作者:naosuke ii
1980年代からすくなくとも1990年代前半ごろにかけて、中学生や高校生の男子の学生服に、「ボンタン」とよばれるズボンを履くことが地域によっては流行していました。
ズボンのボンタンのかたちは、ももまわりのわたりが広く、くるぶしのあたりの裾が細いというもの。柑橘類に「文旦(ぼんたん、ぶんたん)」とよばれるミカン科の植物があります。ふつうは「ザボン」とよばれています。ボンタンの種類によってはへそのほうがしぼんでいくかたちをとっていることから、このズボンにも「ボンタン」のよび名がついたという説があります。しかし、真偽は定かではありません。
ボンタンほど極端なかたちではなくても、ストレートタイプのズボンでなく、裾のほうが細くなっているズボンを履こうとする男子もいました。
1980年代や1990年代前半ごろ、どんな中高生男子がボンタンやその類のズボンを履いていたのでしょうか。この時代を過ごした経験のある人は、「不良じみた態度をとって虚勢を張る、いわゆる“つっぱり”と称される男子」「自分が“つっぱり”である自覚はないものの、ほかの男子生徒とは一線を画したいという意識が芽生えている男子」「そうした男子たちの流行に追従していくことをめざしている男子」などが、ボンタンやその類を履いていたと顧みます。
かんたんにいうと、「学校指定のストレートタイプのズボンを履いているおとなしい男子たちと自分はちがうんだ」ということを服装で示したいという男子たちの意識が「ボンタンを履く」という行為に現れていたのでしょう。中学1年生のときはストレートタイプのズボンを履いていたものの、上級生になってからボンタンを履きはじめるという男子もざらにいたようです。すこし勇気が要ったのではないでしょうか。
どのように当時の中高生は、「ボンタンを履くことが、おとなしい男子とちがうことを示すことになる」と認識していたのでしょうか。
当時、社会では、つっぱり高校生の日常を描いて映画化もされた「ビー・バップ・ハイスクール」や、また「ろくでなしBLUES」といった漫画が流行していました。もちろんこうした、マス媒体を通じて、中高生の男子が「かっこいい」と影響を受けて、ボンタンを履こうとしたという要因はあるのでしょう。
しかし、当時の時代を過ごした経験者は、中学校に入学する前に上級生がそうした格好をしているという情報を得たり、あるいは入学後そうした格好を目の当たりにしたりし、つまり身近な上級生がボンタンを履いているという影響を受けて、「自分も履かなければ」と思うに至ったという要因のほうが大きいのはではないかと分析しています。
たとえば、ボンタンを自分よりいちはやく履いている兄がいれば、その弟は兄のファッションに感化されて、すくなくとも「ボンタンというズボンがある」と意識したことでしょう。その弟自身は当然、同学年の友人がいるので、ボンタンというズボンがある話を彼らにします。こうして、「ボンタン」あるいは「ボンタンを履くのはかっこいい」という文化的遺伝子は、中高生の間に広まっていったのでしょう。
厳しさの程度はまちまちながら、多くの学校に「学生服を着なければならない」という校則があるなかで、ちょっとでも「おとなしい男子」と差をつけたいという思いを実現する手段が、当時の中高生のあいだでは、ズボン選びでは「ボンタン」や類する形のものに集中していたのでしょう。
参考資料
ニコニコ超百科「単語記事: ボンタン(学生服)」
http://dic.nicovideo.jp/a/ボンタン%28学生服%29