科学技術のアネクドート

神のみぞ知る


写真作者:Erik

2016年が終わろうとしています。

今年、英国は国民投票の結果、欧州連合から離脱することがで決まり、米国ではドナルド・トランプ氏が次期大統領になることが大統領選挙で決まりました。なにかのきっかけで、このふたつの決定事項が覆ることがないとはいえません。しかし、予定どおりにことが進めば、英国は欧州連合から離れ、トランプ氏は大統領に就きます。

多くの人びとの予想を覆す結果だったこともあり、このふたつのできごとは大きな世界に衝撃をもって受けとめられたようです。

では、もはや「いま流行の」では片づけられなくなった人工知能は、このふたつのできごとを予測できたのでしょうか。

英国の国民投票については、人工知能が予測をしていたという記事はほとんど見られません。例外的に、南アフリカのソフトウェア企業が「ブランズ・アイ」という人工知能を使って、“離脱”を予測していたと、CNNニュースに報じられている程度です。

いっぽう、米国の大統領選については、大手総合電機メーカー主任研究員の江端智一さんが、人工知能を手がけるメーカーや研究所は「手掛けるメーカーや研究所は沈黙を決め込んだままでした」と、EE Times Japanの記事で指摘しています。

江端さんはその理由を探るべく、みずからで米国大統領選挙のシミュレーションを試行したそう。その結果、国民による投票は直接、大統領を選ぶためのものでなく、選挙人を選ぶためのものであるというしくみが、予測をとてもむずかしくしているという結論に至っています。

なかには「トランプ勝利」を予測していたとされる人工知能もあったようです。インドの新興企業ジェニック・エーアイの人工知能「MoglA」は、選挙前の段階で「トランプが勝利すると予測している」といういことが報じられており、結果もそのとおりになりました。

ただし、予測の尺度の中心に据えていたのは、人びとがインターネットで候補者を話題にした「数」でした。「数」であれば、トランプ氏の騒がれぶりからして、「トランプが勝利するだろう」という予測が出るのは必然的といえます。実際、ヒラリー氏にかかわる話題のツイート数よりもトランプ氏にかかわる話題のツイート数のほうが3倍以上多かったそうです。

ちなみに、米国の“予想屋”として知られる統計学者ネイト・シルバー氏は、大統領選挙の16日前の時点で、「ヒラリー・クリントン氏の勝率86.2パーセント、トランプ氏の勝率13.8パーセント」としていました。

「人工知能が予測を外した」と直接的に伝えるニュースもなかなか見つかりません。英国の欧州連合離脱と、米国のトランプ氏勝利というふたつのできごとから、人工知能の総合的な予測能力を判断するのはむずかしいといえます。

人間による後知恵的な分析では「世論調査で『トランプに投票する』と答えるのは恥ずかしいから『ヒラリーに投票する』と言っていた人たちのうちの多くが、選挙ではトランプに投票したのでは」という説もあります。ただし、人工知能の予測を公表した企業や研究所がすくないため、これも有意といえるくらいに真実なのかどうかはわかりません。

英国と米国で2016年に起きたふたつのできごとは、2017年、どのように世界を変えていくでしょうか。まだ、人間にも人工知能にも読むことができません。

1年間、ブログの記事を読んでくださり、ありがとうございました。来年が、今年よりよい年になりますように。

参考資料
CN 2016年11月15日付 “Psychic software? How a small social media company predicted Donald Trump's victory”
http://edition.cnn.com/2016/11/15/africa/south-africa-brandseye-trump-brexit/
EE Times Japan 2016年11月29日付「沈黙する人工知能 なぜAIは米大統領選の予測に使われなかったのか」
http://eetimes.jp/ee/articles/1611/29/news026.html
WEDGE Infinity 2016年11月7日付「米大統領選、AIはトランプ有利を予測」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8143
産経ニュース 2016年10月24日付「当選確率はクリントン氏86%、トランプ氏13% 『天才統計学者』ネイト・シルバー氏が予測」
http://www.sankei.com/world/news/161024/wor1610240019-n1.html

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2016年の画期的科学成果、第2位は生命科学分野の研究が多数


米国科学振興協会は(AAAS:American Association for the Advancement of Science)雑誌『サイエンス』で、「2016年の画期的科学成果」(Breakthrough of the Year, 2016)を12月22日に発表しました。

きのうこのブログでとりあげた「時空世界の波紋」という第1位の成果のほか、「第2位」(runners-up)として、九つの成果が選ばれています。それぞれの中身を見てみます。

「太陽系外惑星の次なる扉」。天文学者たちは、距離にして4.25光年と、太陽からもっとも近い恒星「プロキシマ・ケンタウリ」に惑星があることを見つけました。「プロキシマ・ケンタウリb」です。記事では、この成果を「太陽系外にある惑星を詳細に研究するための最高の機会」と評しています。

「人工知能がゲームの高みに」。人工知能「アルファ碁」が、世界第2位の棋士に5番勝負で勝利しました。過去には人工知能「ディープ・ブルー」がチェスの世界王者に勝利したことが話題になりましたが、囲碁はルールが単純であるがために手数も多く、人工知能が人間に勝利するのはとてもむずかしいといわれていました。

「老いた細胞を殺す。若さを保つため」。研究者たちは、すくなくともマウスにおいて老化を引きのばせることを示しました。2016年2月、中年マウスから老化細胞を取りのぞくことで健康や長寿をもたらすことを示したのです。同齢のマウスより20パーセント、寿命が伸びたそうです。さらに10月、おなじ研究チームは、動脈を詰まらせるプラークに蓄積した免疫系由来の老化細胞に着目。その細胞を取りのぞくと、動脈の脂肪蓄積量を60パーセント減らすことができたそうです。

「人間だけが“心を読める猿”ではなかった」。ヒト以外の猿にも、他者の心を読む能力があるようです。研究者たちは、チンパンジー、ボノボ、オランウータンなどの猿につぎのような実験をしました。「キングコングのような人形が人から石を盗み、それを2個ある箱のうち1個に隠す」という映像を見せる――。この映像では、人がキングコングに怯えて逃げだすという小芝居もふくまれています。さらに映像はつづき、石を盗まれた人が戻ってきて石を探そうとしました。すると、猿は石の隠されているほうの箱を見つめたといいます。視線を追うことのできる実験装置により、猿の注目先がわかりました。

「設計されるたんぱく質」。自然界には見られないようなデザインのたんぱく質が創られました。薬や材料などの分野で応用されそうです。これまで、新たなアミノ酸を創っても、どのように立体構造をとるか知る術がありませんでした。アミノ酸の構造がたんぱく質を規定するため、たんぱく質を創るうえでこれは問題。しかし、2016年、どのようなたんぱく質になるかを予測できるコンピュータ・プログラムが開発され、たんぱく質を自在に設計したり創出したりすることが実現したのです。

「実験室でつくられたマウスの卵」。これは日本発の成果。東京農業大学の諸白家奈子さんなどの研究チームが試験管でマウスの卵をつくりだす培養系を確立しました。この成果は、卵の成長の研究に新たな方法をあたえるとともに、遠い将来あらゆる種類の細胞からヒトの卵をつくりだすことの可能性を示すものと、記事は評しています。

「アフリカ発の世界移住はひと波で」。およそ10万年前、アフリカで誕生したホモ・サピエンスが世界中に移り住んだと考えられています。しかし、彼ら現人の祖先たちがどうやってアフリカから出ていったのかは長らく論争の的でした。2016年、ゲノムデータの解析により、それは「一回の移動」によるものであると決着がついたのでした。

「手でも野でもゲノム解析」。ゲノム解析が、技術革新によって、どこでもおこなえる作業になりつつあります。このたび開発された技術は「ナノポア解析」とよばれるもの。DNAの塩基の文字を直接的に読みとることができます。その手軽さは、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士が宇宙実験で、土壌中の微生物のゲノム解析をしたほど。

「メタレンズ、大きな望み」。レンズの分野で大きな革新がありました。2016年、研究者たちは基板パタン技術を駆使して、可視光のすべての領域を集めることのできる「メタレンズ」を開発しました。これは「メタマテリアル」とよばれる、自然界にはない振るまいをする人工物質の技術を基礎とするもの。研究者たちは原子層堆積という技術で二酸化チタンの極小な標柱群のパタンをつくる方法を考案しました。標柱群は厚さ600ナノメートルしかなく、可視光が透過してしまうため、見た目ではレンズの存在を認識できません。

以上の九つの2016年の「第2位」のなかでは、生命科学にかかわる研究成果が多数ありました。また、人工知能やゲノム解析技術などのコンピュータを使った技術がさまざまな科学の成果を生みだしていることがわかります。

2017年には、どのような科学の成果が生まれるでしょうか。

『サイエンス』2016年の画期的科学成果第2位の記事「人工知能からたんぱく質フォールディングまで」はこちら(英文)。
http://www.sciencemag.org/news/2016/12/ai-protein-folding-our-breakthrough-runners

参考資料
東京農業大学・農研機構 2016年7月28日発表「試験管内でマウスの卵子を作り出す培養系を確立」
http://www.nodai.ac.jp/upload/2f60f063994a9b784e2cd447362735ca.pdf
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2016年の画期的科学成果、第1位は「時空世界の波紋」


米国科学振興協会(AAAS:American Association for the Advancement of Science)は雑誌『サイエンス』で、「2016年の画期的科学成果」(Breakthrough of the Year, 2016)を12月22日(木)に発表しました。

例年、『サイエンス』の「画期的科学成果」では、第1位をひとつ、そして次点を九つ挙げて、研究内容や影響を解説しています。

第1位に選ばれたのは「時空世界の波紋」(Ripples in spacetime)。これは「重力波」の検出をひとことで表現したもの。解説記事は「時空世界の波紋、つまり重力波、の発見が今年、科学界に衝撃をあたえた」という1文で始まっています。

重力波は、宇宙の空間がゆがんで起きる波のこと。ブラックホールが合体するほどの大きな現象が起きると、わずかながら空間が波紋のように伸びちぢみします。

重力波の存在については1915年、アルバート・アインシュタインが予想していました。それは、巨大な物体が空間と時間、あるいは時空をゆがめるために重力が波立つというもの。

このアインシュタインの予想に対して、2016年2月11日、米国のレーザー干渉計重力波観測所(LIGO:Laser Interferometer Gravitational-wave Observatory)の研究チームに所属する物理学者たちが、ふたつのブラックホールが影響しあうことで生じる重力波を観測したと発表したのでした。

記事によると、1972年、マサチューセッツ工科大学の物理学者ライナー・ウェイスが、L字型の光学装置を用いた干渉計装置を計画し、LIGOの“種まき”をしました。

LIGOにはL字型のトンネルがあり、その中央から2本のレーザー光を別方向に放ち、それぞれ4キロ離れた2枚の鏡に反射させます。2本のレーザー光の戻ってくるタイミングがずれていることが、重力波が存在する証拠となります。タイミングのずれは、レーザー光の波の位置のずれとして観測されますが、その検出精度は陽子の幅の1万分の1程度のちがいを見分けられるほどの優れたもの。

記事は、重力波を検出したという業績を解説するだけでなく、今後さらにどのような成果が上がりそうかにも踏みこんでいます。もし干渉計の精度が高まれば、ブラックホールの合体を平均1日に1回の割合で観測することができるようになるといいます。

日本の大型低温重力波望遠鏡を含め、世界各地で重力波観測装置の建設が予定されており、それらの貢献が、ブラックホールに対する考えかたの幅を広げるかもしれないとしています。たとえば、ブラックホールには、そこへ落ちるなにもかもを消してしまう「火の壁」が隠れているとの説がありますが、もしそうであれば、重力波の「こだま」が観測されるといいます。

記事ではほかに、天文学者たちが銀河の中心にある超巨大ブラックホールの合体にで生じる強力な重力波の検出に挑んでいることや、物理学者たちが宇宙重力波望遠鏡(LISA:Laser Interferometer Space Antenna)の打ちあげに期待していることなどを伝えています。

そして「重力波の発見は科学の眺望を変えた。新たな科学が起きんとしている」と締めくくっています。

ふだん、日本国内で物理学の話題が大きく報じられるのは、もっぱら日本人にノーベル物理学賞が贈られるときぐらい。重力波の発見はおもに米国での成果によるものでしたが、各媒体に大きくとりあげられました。『サイエンス』も当然のように、重力波の検出を第1位に選びました。

『サイエンス』2016年の画期的科学成果第1位の記事「時空世界の波紋」はこちらです(英文)。
http://www.sciencemag.org/news/2016/12/ripples-spacetime-sciences-2016-breakthrough-year

あす30日(金)は、第2位に選ばれた九つの「成果」を紹介する予定。

参考資料
大型低温重力波望遠鏡「重力波研究の歴史」
http://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/plan/history
朝日新聞 2016年2月13日付「(いちからわかる!)重力波ってなに?」
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検索し たこ とばでは、見つからな いか……



人がなんらかの情報をインターネットやデータベースから得たいときには「検索」をします。たとえば、検索サイトの検索欄に、知りたい情報にかかわることばを入れると、該当する情報のタイトルや文中のことばなどが一覧で出てきます。

しかし、ときに検索するのがとてもむずかしい場合があります。

 

魚介類の「たこ」や「いか」の情報検索はその典型例といえます。

たとえば、雑誌記事を検索できる国会図書館ホームページの「雑誌記事検索」で、「論題名」の欄に「たこ」と入れてみます。すると、つぎのような検索結果が出てきます。

「1 583系が活躍した頃」「2 企業価値向上型コンプライアンスの世界へようこそ!」「3 Advanced Thin Films社製品優れた光学性能をもつハイパワーオプティクスの提案」「4 ITを活用したこれからの夜尿症診療」……「8 桂米朝師匠に教えてもらったこと。」……「12 多国籍企業とタックスヘイブン(上)パナマ文書の衝撃」……

検索された論題の数は120938件にもなりました。しかしなかなか、魚介類の「たこ」と関係ある記事が出てきません。論題名のどこかに「たこ」の2文字が入っているため、それらがすべて検索されてしまうわけです。

 

探している魚介類の「たこ」についての記事が何番目に出てくるかというと……。

「412 きっと驚く タコの不思議」

ようやく412番目に出てきました。

そこで、べつの方法として、漢字の「蛸」を入れることがつぎの手となります。しかし、論題名に漢字の「蛸」を使っている雑誌記事は8件しか検索されません。

おなじく「いか」と入れてみます。1562206件が検索され、つぎのような検索結果となります。

「1 JR東日本583系電車 民営化後の動向と現状」「2 商法(運送・海商関係)改正が企業実務に与える影響」「3 特集 業務改善/職員室改造計画(10)」……「7 2重ベータ崩壊核行列要素と大規模殻模型計算」

 

やはり、論題名のどこかに「いか」が入った雑誌記事が検索されます。ここまでくると「いか」探しになります。「2」に至っては、かっことじをまたいで「関係)改善」のところに「いか」が含まれているようです。orz。

国会図書館の雑誌記事検索には「件名」を入れる欄もあります。探したい記事の論題にかかわるようなテーマのことばを入れることにより、その件名とかかわる論題だけが検索されるようになります。

しかし、検索結果はやはりあまり芳しくありません。

たとえば、論題名に「たこ」を入れて、その件名に「水産」と入れると3件しか検索されません。しかもいずれも「細粉砕したホタテ貝殻を用いたコンクリートの基本性状」「新冷凍保存技術を活用した北海道における一次産品の付加価値向上に関する調査」「ホタテ貝殻を用いたコンクリートの魚礁ブロックへの適用」と、「たこ」にかかわる雑誌記事ではないことがわかります。

また論題名に「いか」を入れて、その件名に「海産」と入れると10件歯科検索されません。このなかで「いか」にかかわるのは「戦前における長崎県のイカ釣り漁業とスルメ加工の展開」の1件のみ。

時間と根気のある人は、「たこ」や「いか」と検索してから、「コマンド+F」で画面内検索欄に「たこ」または「いか」と入れて検索すれば、すこしは効率は向上しそうです。

しかし、ひとまず「たこ」や「いか」についての資料を得て、そこに載っている参考文献に当たるほうが、探したい情報にたどり着く確度は高いのかもしれません。

ちなみに、グーグルで「たこ」や「いか」と検索すると、魚介類の「たこ」や「いか」についてのサイトが上位を占めます。「ふつうに人が『たこ』や『いか』と検索したら、これだろう」ということを知っているかのようです。

参考資料
国立国会図書館 蔵書検索・申込システム
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/MH6M5FYBC8QQTR3FNB8KMX95J1N6P7KGP93PMLHEEUXMTFX8FS-48866?func=find-a-0&local_base=gu_ss

| - | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0)
「『心配のしすぎ』は自分で直せる」


ウェッジ社のニュースサイトWEDGE Infinityで、きょう(2016年)12月27日(火)「『心配のしすぎ』は自分で直せる(10)心配の正体」という記事が配信されました。「学びなおしのリスク論」の連載第10回目となります。

人ほど「心配」をする動物はほかにはいないでしょう。たしかに、動物にも心配と似た「警戒心」をもつものは多くいます。しかし、未来のできごとについて数多く、かつ遠くにわたって、想像する動物は人しか知られていません。動物のように本能や感覚にもとづいて心配するだけでなく、認知にもとづいて「これからよからぬことが起きはしないだろうか」と心配することもできます。

心配することができるのは能力ともいえそうです。身の危険がふりかかりそうなものごとに対して心配していなければ、痛い目に遭ったり命を落としたりすることになるからです。

しかし、身のまわりにあるリスクの程度と、自分が抱く心配の程度にはずれがあるとしばしば言われがちです。

記事で登場する心理学者の島崎敢さんは、人の心配のしかたの傾向について、つぎのふたつのことを指摘します。

「リスクが『あるかないか』で捉えようとする傾向はあります」

「自分のしていることに付随して発生するリスクを低く見積もり、あまり心配しないという傾向があります」

いずれも、身のまわりにあるリスクの程度と自分が抱く心配の程度のずれを示すものといえそうです。心配のしすぎ、あるいは心配のしなさすぎがあるわけです。

では、自分の心配を実際のリスクに近づけるにはどうすればよいか。島崎さんは著書『心配学「本当の確率」となぜずれる?』(光文社新書)で「リスクを計算してみる」ことをすすめています。WEDGE Infinityの記事でも「予防接種を受けるリスクと受けないリスクを比較する」という題材で、実際の計算のしかたと、その答としての両方のリスクが示されています。

予防接種を受けることのリスクと受けないことのリスクを知ることで、なにに対してどう心配すべきかがわかってきます。

未来のできごとは不確実なもの。その未来に対して思いをめぐらせる必要があるかぎり、人から心配はなくなりません。リスク計算なども使って、自分が抱く心配を客観視できるくらいになれば、その人は「正しく心配する」ことができているといえそうです。

「『心配のしすぎ』は自分で直せる」の記事はこちらです。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8536

この記事の取材と執筆をしました。

心配の本質や、心配とリスクとのずれなどについて多くの身近な題材をもとに詳しく書かれてある島崎敢さんの著書『心配学「本当の確率」となぜずれる?』は光文社新書より発売中。



本はこちらでどうぞ。
https://www.amazon.co.jp/dp/4334038999
| - | 09:59 | comments(0) | trackbacks(0)
「など」に万能性


カードゲームで、切り札としての万能さを発揮するカードが「ジョーカー」です。

もし、文章の世界でジョーカー的存在を決めるとしたら、有力候補は、副助詞の「など」ではないでしょうか。「など」の前後には、どんなことばを置いても構わないとまではいわないまでも、置けることばの自由度がかなり高いからです。

まず、「など」のまえにはどのようなことばを置けるかというと、体言または体言に準ずるもの、さらに文節や文などです。たとえば、「菌やウイルスなどの目に見えないもの」であれば、「(菌や)ウイルス」という体言に接続する場合となります。また「調査するなどの方法で活動する」であれば、「調査する」という文に接続する場合となります。

「など」の万能さは、前に置けることばの自由度が高いだけではありません。後に置けることばの自由度にも高いものがあります。

たとえば「青や水色などの寒色系が好きです」であれば、後に体言が続く場合となります。また「青や水色など、寒色系が好きです」であれば、「など」が「寒色系」にかかるともとれるし、「好きです」にかかるともとれて曖昧ながら、全体として「青とか水色とかの寒色系が好きなんだな」とちゃんと伝わります。

さらに、NHKの気象情報では、つぎのような「など」の使いかたも聞こえてきます。

「あすは冷えこみます。手袋やマフラーなど、暖かくしてお出かけください」

この場合、「など」がかかる部分がほんとうによくわかりません。「手袋やマフラーなど、暖かくする」と考えるのが妥当でしょうか。

あるいは「手袋やマフラーなどで暖かくする」または「手袋やマフラーなどをして暖かくする」の省略表現とも考えられます。

実際に「手袋やマフラーなど、暖かくしてお出かけください」と聞いたり、音読したりすると、さほど違和感を覚えることなくこの表現を受けいれることができます。

文を書くとき「など」のあとに読点「、」をつけて「……など、」として、いったん区切ることはよくあります。しかし、「など」の万能性が高い分、かえって「……など、」の多用は、ややぼやけた印象を読者にあたえるきらいがあります。

参考資料
『スーパー大辞林』「など【等・抔】」
| - | 23:56 | comments(0) | trackbacks(0)
西船橋界隈で小松菜を地域ブランド化
小松菜というと、発祥地とされる東京・小松川での栽培がよく知られています。当地の菜っ葉が徳川吉宗(1684-1751)に献上されたことを機に「小松菜」とよばれるようになったとされます。

しかし、小松菜を特産品にしようとしているところが千葉県にもあります。西船橋駅には「西船で小松菜が熱い!?」の惹句で宣伝する貼り紙がありました。



西船は、船橋市内の地区のひとつ。当地は、いまは東京方面に通勤・通学する人たちが多く暮らす住宅衛星都市ですが、かつてはにんじんやねぎなどを栽培する農家が多くいました。

1965(昭和40)年ごろより、西船橋でも小松菜が栽培されるようになったようです。都市化により農地は狭くなっていきましたが、それでも小松菜は効率よく収穫できるため、栽培には好都合の作物でした。

狭くなった農地で、小松菜栽培に一本化する農家たちが現れました。2009年には、種苗会社をふくむ会社に勤務していた人や農業大学出身の人など、若い農家たちを中心に「チームうぐいす」という集団が結成され、西船の小松菜を宣伝してもいます。

西船橋界隈には「小松菜協力店」も多くあります。協力店では、小松菜を食材につくったさまざまな食品や料理を売っています。また、年1回、小松菜料理などを食べ歩きできる「こまつなう」という催しものも開かれています。

ほかの場所での作物と区別してもらうために、ブランド化は効果的な手法のひとつ。若い農家たちの柔軟な発想で、「西船の小松菜」は広がるでしょうか。

参考資料
JAちば東葛飾西船葉物共販組合「西船で小松菜が熱い!?」
JAちば東葛飾西船葉物共販組合「こだわりの野菜 西船ブランド小松菜」
http://komatsuna.info/index.html
| - | 23:48 | comments(0) | trackbacks(0)
クリスマスイブは「晴れの特異日」より晴れやすい

写真作者:Nobuyuki Hayashi

12月24日はクリスマスイブ。イブか翌25日のクリスマスに雪が積もることを「ホワイトクリスマス」などといいます。和製英語でなく、英語圏でも使われている英語で、“I never saw a white Christmas.”などのように使われています。

日本でも24日か25日に雪が積もることへの期待は、ほかの日に雪が積もることへの期待よりも大きいでしょう。

しかし、こと東京などの都心部については、統計的にクリスマスイブに雪が積もることは期待できないか、期待しても外れてしまいます。「晴れ」の天気出現率がとても高いからです。

天気出現率とは、過去30年間の天気の出現率のこと。「晴れ」「雨」「くもり」「雪」に分けられます。

東京の12月24日の「晴れ」の天気出現率はというと、90.0パーセント。ちなみに「雨」は6.7パーセント、「くもり」は3.3パーセント。そして、「雪」の出現率は、0.0パーセントでした。

ちなみに、翌25日のクリスマスの天気出現率については、「晴れ」が86.7パーセント、「くもり」が10.0パーセント、「雨」が3.3パーセント。そして「雪」の出現率は、やはり0.0パーセントでした。

なお、東京での「晴れの特異日」とされる日の「晴れ」の出現率とくらべるとどうでしょう。

たとえば、3月14日は「晴れの特異日」とされます。では、この日の東京での「晴れ」の出現率はというと、70.0パーセント。また、11月3日も「晴れの特異日」とされますが、おなじく「晴れ」の出現率は66.7パーセント。

晴れの特異日のほうは前後の日にくらべて突出して「晴れ」になる確率が高いことをさします。いっぽう、「晴れ」の出現率の高い日は、前後の日とくらべることなく、「晴れ」になる可能性が高い日といえます。

基本的に、冬型の気圧配置でおおむね安定する12月、東京では雪はめったに降るものではないのです。

参考資料
チーム森田の“天気で斬る!” 2011年11月23日付「特異日」
http://blogs.yahoo.co.jp/wth_map/61124886.html
goo天気「天気出現率」
http://weather.goo.ne.jp/appearance_ratio/
| - | 18:27 | comments(0) | trackbacks(0)
「ゲノム編集は遺伝子組換えか? 世界的な争点に」


ウェブニュース「JBpress」できょう(2016年)12月23日(金)「ゲノム編集は遺伝子組換えか? 世界的な争点に『新しい育種技術』の可能性と課題(後篇)」という記事が配信されました。

このブログの記事でも何度かとりあげている「ゲノム編集」に、生命科学研究者や医学者、また食べものをとりあつかう企業、さらに政府などが注目しています。

「ゲノム編集」とは、生きものの細胞にあるデオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)のうち、ねらった特定の部分を切り貼りすることで、遺伝子を改変する技術のこと。

おなじような目的でおこなわれている遺伝子組みかえでは、何万もの遺伝子のなかから、“偶然”ねらった遺伝子に外来遺伝子が入りこんで作用するのを待たなければならず、手間がかかるものでした。遺伝子組みかえにくらべてゲノム編集ははるかにかんたんに遺伝子の改変がおこなえます。そのため、今後つぎつぎと世間で「ゲノム編集をした何々」といった製品や技術が広まっていくことが考えられています。

とはいえ、遺伝子をいじるような技術を使うことに、当然ながら慎重になるべきとの考えが起きうるものです。実際、2015年12月、ゲノム編集をはじめとする「新しい育種技術」の導入に対して、国際有機農業運動連盟(IFOAM)EUグループが、リスク評価などの実施を要請するはぴょうを出すなどしています。

では、ゲノム編集などの技術に対して、日本をふくむ各国はどのような対応をとろうとしているのでしょうか。記事では、その現状を、バイオテクノロジーなどの技術が農業・食料に対して及ぼす影響について農業・食料社会学的観点から研究している専門家が答えています。

日米欧などの主要国の政府は、おおむねゲノム編集の活用を推進する姿勢をとっています。しかし、ゲノム編集に対する規制の度合がどうなるかは、まだほとんどの国で見えてきていないのが現状のようです。

ここで鍵をにぎる考えかたになるのが、記事のタイトルにもあるように「ゲノム編集は遺伝子組みかえなのか」どうかという点です。遺伝子組みかえについては、かつて社会が全体的には積極的にとり入れようとはしなかったなかで、遺伝子組みかえの利用者からすると厳しめの規制が設けられました。

もし、ゲノム編集も遺伝子組みかえとおなじ扱いになると、ゲノム編集にも遺伝子組みかえとおなじく、厳しい規制がかかってしまうことになります。

いっぽうゲノム編集は遺伝子組みかえのひとつとして扱わないとなれば、現状からしてより厳しい規制が課されることは考えづらく、ゲノム編集技術の活用が進むと考えられます。

主要国の政府はおおむねゲノム編集を推進しようとしているものの、行政と司法の考えはべつという場合もあります。裁判でゲノム編集にある種の規制がかかるような判決が出た国もあります。逆に、ゲノム編集などの新しい育種技術で作られた作物を基本的には「非遺伝子組みかえ作物」とする手つづきを定めた国もあります。

国によって規制をめぐる考えかたにちがいが見られはじめている状況です。記事では、日本、米国、欧州をふくむ詳しい状況を専門家が説いています。

JBpressの記事「ゲノム編集は遺伝子組換えか? 世界的な争点に『新しい育種技術』の可能性と課題(後篇)」はこちらです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48702
前篇は「“衝撃”のゲノム編集、作物は食卓に並ぶのか?」という題で、ゲノム編集をはじめとする新しい育種技術のあらましなどを伝えています。こちらです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48660

記事の取材と執筆をしました。
| - | 12:17 | comments(0) | trackbacks(0)
「用途」は使いみち、「目的」は行動のねらい


似て非なることばがあります。「似て非なる」といっても似ているため、当てはまりそうではあるものの、使いかたによってはどうも違和感を覚えるような表現になってしまいます。

たとえば「用途」と「目的」というふたつの熟語は似て非なるもののひとつかもしれません。どちらも「何々のために」という、未来の成果を得るための表現に使われるという点で似ています。

国語辞典ではふたつの熟語の意味はつぎのようにあります。

「用途 物や金銭などの使いみち。『用途の広い製品』」

「目的 1 実現しようとしてめざす事柄。行動のねらい。めあて。『当初の目的を達成する』『目的にかなう』『旅行の目的』 2 倫理学で、理性ないし意志が、行為に先だって行為を規定し、方向づけるもの」

これらかもうかがえますが、「用途」と「目的」では、それぞれにかかわる対象語の性質がちがうことがわかります。たとえば、「さまざまな用途の……」そして「さまざまな目的の……」と表現するとき、その先にくることばはどうなるでしょう。インターネットにはつぎのような表現が見られます。

「さまざまな用途のイラスト」
「さまざまな用途の地図」
「さまざまな用途の針」

「さまざまな目的のために支出し……」
「さまざまな目的の留学に対応」
「さまざまな目的のトレッキングも楽しまれている」

「用途」は「使いみち」ですから、「さまざまな用途の」につづくことばとしては「使われるもの」がきます。「イラスト」「地図」「針」はいずれも使われるものです。

「目的」は「めざす事柄」ですから、「さまざまな目的の」につづくことばとしては「めざされる事柄」がきます。そして、この「事柄」というのは、なにかしらの動作を伴いがちなものです。「支出」も「留学」も「トレッキング」も、動作の内容をさす熟語です。

もし、これらを逆転させて、「さまざまな用途の支出」や「さまざまな目的の地図」としても意味が通じないわけではありません。しかし、「用途」の「使いみち」という意味と、「目的」の「めざす事柄」という意味からすると、違和感をわずかに覚える人もいます。

話を込みいらせるのが、対象となることばに「『名詞』と『動詞の名詞化表現』」からなる熟語がくることがあるという点です。たとえば、「原稿づくり」は「『名詞』と『動詞の名詞化表現』」からなる熟語の一例です。

たとえば、「さまざまな用途の原稿づくり」と表現したとき、「用途」は「原稿」にかかるのか、それとも「原稿づくり」にかかるのか。また「さまざまな目的の原稿づくり」と表現したとき、「目的」は「原稿」にかかるのか、それとも「原稿づくり」にかかるのか……。

「用途」は「使いみち」ですから、おそらく「さまざまな用途の“原稿”づくり」という解釈が妥当でしょう。この場合、たとえば「ラジオニュースにもテレビニュースにも使われる原稿をつくること」といった意味あいになります。

ただし、「原稿づくり」という熟語は、「原稿」と「づくり」に切りはなすことはできないため、「さまざまな“用途の原稿づくり”」と解釈されがちです。語順をかえて「この原稿づくりにはさまざまな用途がある」という表現にしてみると、「原稿づくり」という動作を「使いみち」の対象語としていることが明らかになり、違和感が生じます。

いっぽう、「さまざまな目的の原稿づくり」と表現したときは、おそらく「さまざまな目的の“原稿づくり”」という解釈が妥当でしょう。つまり「目的」がかかる熟語は、どちらかというと「原稿」でなく「原稿づくり」というわけです。理由のひとつめは、「目的」は、基本的には動作の内容をさす熟語にかかるということ。「この原稿の目的はなんですか」より「この原稿づくりの目的はなんですか」のほうがしっくりきます。理由のふたつめは、「原稿づくり」を「原稿」と「づくり」に切りはなすことはできず「原稿づくり」はひとつの名詞として考えるのがふさわしいということ。

この場合、たとえば「ラジオニュースで伝えるためにも、テレビニュースで伝えるためにも原稿をつくる」といった意味あいになります。

「目的」を使うのがよりふわしいところに「用途」を使ったり、「用途」を使うのがよりふさわしいところに「目的」を使ったりしても、一般的には表現の訂正を求められるには至りません。しかしながら「用途」を使うべきか「目的」を使うべきかをめぐって、記者と編集者が小1時間にわたり激論を交わしたという例も見られます。

参考資料
デジタル大辞泉「用途」
http://dictionary.goo.ne.jp/jn/226675/meaning/m0u/
デジタル大辞泉「目的」
http://dictionary.goo.ne.jp/jn/218942/meaning/m0u/
| - | 18:22 | comments(0) | trackbacks(0)
「これまでやってきた意味がないじゃないか」と言えない場合も


クイズ番組などで、「最後の問題に正解すると得点が10倍になります」などといった演出があります。たとえば、それまで1問正解すると100点もらえていたところが、最後の問題だけは正解すると1000点もらえるといった具合です。

この演出に対して、番組の出演者や視聴者は、「これまでやってきた意味がないじゃないか」などと“つっこみ”を入れることがあります。「いままでの問題はなんだったんだ」とも言います。

しかし、それまでやってきたことにまったく意味がなくなるかというと、そうではありません。

たとえば、解答者が3人いるクイズ番組で、最後の問題のまえまでに、Aさんが500点、Bさんが400点、Cさんが300点をとっていたとします。

そして「最後の問題」。正解すると得点が100点の10倍の1000点なります。

このとき、もしCさんだけが正解して得点が1300点になれば、Aさん500点、Bさん400点、Cさん1300点で、Cさんが優勝となります。たしかに、最後の問題に対する結果だけを考えれば「いままでの問題はなんだったんだ」「これまでやってきた意味がないじゃないか」となります。

けれども、最後の問題に複数の人が正解をする可能性も、当然ながら理論的にあります。たとえば、AさんもBさんもCさんも正解するとします。

すると、合計得点はAさん1500点、Bさん1400点、Cさん1300点となります。最後の問題に答えるまでにAさんが正解を多くして、得点でほかの2人を上まわっていたことは、意味がないことにはなりません。

また、3人がみな正解しない場合でも、合計得点はAさん500点、Bさん400点、Cさん300点となるので、最後の前までの問題に答えてきたことは、意味がないことにはなりません。

早押し問題などで正解者が1人しか出ない決まりになっている場合、かつ特別に高得点があたえられることにより成績が逆転しうる場合にこそ、「これまでやってきた意味がないじゃないか」と言えることになります。
| - | 19:16 | comments(0) | trackbacks(0)
「アデノシン二リン酸↔アデノシン三リン酸」でエネルギーを蓄えたり使ったり

人などの動物は、エネルギーを体に蓄えておいてから使うことができます。細胞のなかにあるミトコンドリアという小器官にある「アデノシン三リン酸」(ATP:Adenosine TriPhosphate)という物質がその担い手です。

アデノシン三リン酸は、アデニンという塩基と糖からなる「アデノシン」という塩基に、「リン酸」という分子が3つ結びついたかたちをしています。

アデノシン三リン酸

人が心臓を動かしたり、息をしたり、運動したりするためのエネルギーは、アデノシン三リン酸が蓄えていたもの。そのエネルギーが使われるとき、放たれるわけです。

では、エネルギーを蓄えるアデノシン三リン酸はどのようにできるのか。アデノシン三リン酸は「酸化的リン酸化」とよばれる、つぎのような化学変化の結果としてつくられます。

まず、アデノシン二リン酸(ADP:Adenosine DiPhosphate)という物質があります。アデノシン三リン酸ににた物質ですが、アデノシン二リン酸は、そのよび名のとおり「アデノシン」に「リン酸」が2つ結びついたかたちをしています。このアデノシン二リン酸も、細胞のミトコンドリアに多くあります。


アデノシン二リン酸

アデノシン二リン酸にリン酸が1つ加わることで、アデノシン三リン酸になるわけです。正確には、アデノシン二リン酸にリン酸に、水素原子3個、リン原子1個、酸素原子4個からなるH3PO4と、さらにエネルギーが結びついて、その結果、アデノシン三リン酸と水が生じます。これが酸化的リン酸化です。

逆に、アデノシン三リン酸は、リン酸を1つ手ばなすことで、アデノシン二リン酸になります。アデノシン三リン酸に水が加わり、その結果、アデノシン二リン酸と、H3PO4のリン酸になり、さらにエネルギーが生じる(人など動物の立場からすれば放出される)わけです。これをアデノシン三リン酸の分解などといいます。

酸化的リン酸化でアデノシン二リン酸がアデノシン三リン酸になってエネルギーを蓄えておき、エネルギーを使うときにはアデノシン三リン酸がアデノシン二リン酸に戻る。このような循環のしくみをもっている生きものは、必要なエネルギーを必要なときに得つづけなくてもよいわけです。

参考資料
NHK高校講座生物基礎「生命活動を支える物質とエネルギー」
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/seibutsukiso/archive/resume003.html
コトバンク「リン酸」
https://kotobank.jp/word/リン酸-150341
分子構造リファレンス 「リン酸」
http://www.weblio.jp/content/H3PO4
生物学用語辞典「酸化的リン酸化」
http://www.weblio.jp/content/酸化的リン酸化

| - | 23:54 | comments(0) | trackbacks(0)
内側と外側で状況は大ちがい

写真作者:Joseph Elsbernd

区切りの内と外では環境が大きくちがうということは、さまざまなことがらでいえることです。たとえば、北海道など寒いところでの家の屋内と屋外とでは、気温がまるでちがいます。

ヒトなどの動物の細胞についても、内と外では環境が大きくちがいます。動物の細胞は、とても薄い細胞膜という膜で覆われています。この膜が細胞の内と細胞の外を隔てる大切な区切りとなっています。

細胞の内側にも外側にも、水などの溶媒に溶けてイオンを生じる電解質という物質が多くあります。生じるイオンには、負の電気を帯びた陰イオンと、正の電気を帯びた陽イオンがありますが、それらの総和は細胞の内側でも外側でも等しくなっています。

大きく異なるのは、陰イオンと陽イオンのそれぞれの内訳です。

たとえば陽イオンについて、ヒトの細胞の外側に漂う血漿、つまり血液の液状の成分を見てみると、ナトリウムイオンがおよそ9割を占めています。

いっぽう、人の細胞の内側を満たしている細胞内液の成分を見てみると、カリウムイオンが8割を占めています。細胞の内側にナトリウムイオンが含まれていないわけではありませんが、その比率はおよそ1割ほど。細胞の内側では、カリウムイオンにより圧倒的に支配されています。

細胞の外側をおもにナトリウムイオンが、また細胞の内側をおもにカリウムイオンが占めていることにより、ヒトは生きていられるようなものといえます。

細胞膜という区切りの外にカリウムイオン、内にナトリウムイオンが多くふくまれる状態によって、「膜電位」とよばれる電圧が生じます。この膜電位が神経線維をインパルスで伝わることにより、神経伝達という作用が起きます。

また、心筋などの筋肉では、ナトリウムイオンとカリウムイオンの濃度の差が変化することで収縮や弛緩が起きます。心筋細胞から出るカリウムイオンよりも、心筋細胞の内に入ってくるナトリウムイオンのほうが多くなると、これにより筋肉は収縮します。その後、カリウムイオンが細胞内に入らなくなるとともに、カリウムイオンが細胞から流出すると、心筋は弛緩します。

なお、細胞内に移動したナトリウムイオンと、細胞外に移動したカリウムイオンは、イオンポンプとよばれる細胞膜に備わるポンプによって再びもとの位置に戻ります。

陰イオンについても、細胞の外と内とで大きく成分は異なっています。固有の構成比が保たれることで、生物は生きつづけられるといってもよいでしょう。

参考文献
研修医.com「細胞内液と細胞外液の違い」
http://kensyui.com/entry19.html
武藤重明「カリウムの有効性と安全性」
http://www.saltscience.or.jp/symposium/2-muto.pdf
栄養・生化学辞典「神経伝達」
https://kotobank.jp/word/神経伝達-767705
電解質の役割 (7)ナトリウムの筋肉収縮作用
http://takamidai-clinic.com/?p=16849
高見台クリニック「電解質の役割 (16)カリウムの筋肉弛緩作用」
http://takamidai-clinic.com/?p=16918
| - | 14:03 | comments(0) | trackbacks(0)
人びとは同盟を組む

写真作者:Prospect Park Alliance

人や組織には仲間を求めようとする性質があるのでしょうか。なにかの目的のために集まったり組んだりすることを示すことばは数多くあります。「連合」「共同」「組合」などです。

「同盟」もそのひとつ。2つ以上のものが、共通の目的を達成するため、おなじ行動をとることを約束すること、またその約束によって生じた団体、といった説明があります。その主体を「国家」とするか、「団体」や「個人」まで広げるかは辞書によって異なります。

ただし、国家についてのことだけを指すならば、さほど「同盟」ということばは広まっていないでしょう。団体や個人にも「同盟を結ぶ」という認識はあります。

日本には戦前、「日本プロレタリア科学同盟」という組織がありました。1929年10月に創立した「プロレタリア科学研究所」を前身とするもの。個人どうしが同盟を組んだ色が強く、哲学者の永田広志(1904-1947)、詩人の山室静(1906-2000)、文芸評論家の平野謙(1907-1978)、ドイツ文学者の新島繁(1901-1957)などが名を連ねました。マルクス主義的社会科学研究をさかんに進めるなど、社会や政治の分野にかかわる科学者が多くいました。しかし、自然科学関連の定期刊行物なども出していたといいます。

米国では、「憂慮する科学者同盟」という非政府組織があり、活動しています。1969年に設立された非営利団体です。10万人以上の市民と科学者で結成されています。同盟のサイトには、同盟の意義をつぎのように説明しています。

「現実的な解決。われわれ科学者や技術者は、地球温暖化の抑止や、食料、電力、輸送などの持続可能な方法の開発から、誤情報への戦い、人種的平等の進展、核戦争の恐怖の低減といった、この星のもっとも緊急の問題に対する革新的で現実的な解決策を開発し、履行する」

おもな活動としては、科学的な分析や情報公開を中心としたもの。過激な抗議活動をおこなう団体とは一線を画します。

最近では、米国大統領選挙に勝利したドナルド・トランプ氏に、「異常気象や海面上昇などの温暖化の脅威に対応するための政策は、政治や企業の意向に左右されない科学に基づくべきで、既得権益を守ろうとする人々の意見を聞いてはならない」などとする書簡を送ってもいます。

なにか共通の目的があり、おなじ行動をとるという点では、会社なども同盟とにています。しかし、より広い立場の人びとが、自分の仕事の領分を超えて集まるといった意味あいが、同盟にはより強くあります。

参考資料
コトバンク「同盟」
https://kotobank.jp/word/同盟-104236
ウィキペディア「プロレタリア科学研究所」
https://ja.wikipedia.org/wiki/プロレタリア科学研究所
Union of Concerned Scientists “Practical Solutions”
http://www.ucsusa.org/about-us#.WFX9sndpNE4
はてなキーワード「憂慮する科学者同盟」
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CD%AB%CE%B8%A4%B9%A4%EB%B2%CA%B3%D8%BC%D4%C6%B1%CC%C1
共同通信 2016年12月1日付「米科学者2千人トランプ氏に書簡『正しい科学を政策に』」
http://this.kiji.is/176847802232948220
| - | 12:59 | comments(0) | trackbacks(0)
「課程」が抜けている


写真作者:yuiseki aoba

学んでいる人たちを「学年」で分けることがよくあります。たとえば「桜中学校、3年B組の加藤優です」と言ったら、その人は中学校での第3学年に属していることになります。

日本の教育制度では、小学校は6年生まで。中学校は3年生まで。高校も3年生まで。短期大学は2年生まで。大学はほとんどの課程で4年生まで。高校生は「いま自分、高3です」と言いますし、大学生は「わい、もう4年生になってしもうた」と言います。

では、大学院生は、自分の学年のことをどのようによぶでしょうか。

「あっ自分すか。M1っす」
「いま修士2年です」
「博士1年になりました」
「D2です」

このような具合によぶ人たちは、すくなからずいます。

「M1っす」と言った大学院生の「M」は、おそらく「マスター(Master)」つまり「修士」のことでしょう。そして、自分は修士の学位を取得するための第1学年にいるということを言いたいのでしょう。

「修士2年です」は、自分は修士の学位を取得するための第2学年にいるということを言いたいのでしょう。

おなじく「博士1年」や「D2です」なら、それぞれ博士の学位を取得するための第1学年や第2学年ということになるでしょう。

大学院生たちの日常会話などでは「M1っす」「D2です」「修士2年です」などで通ります。しかし、公的な場などで自己紹介するなら「マスター・コース1年です」「修士課程2年です」「ドクター・コース2年です」「博士課程1年です」などと言うのがふさわしい表現となります。

つまり、日常会話で自分の学年を言うときには「マスター」や「課程」が抜けてしまっているわけです。もし、修士課程2年生の人が「いま修士2年です」と言えば、ことばに厳密な人は「まだあなたは修士の学位はとっていませんから、“修士2年”じゃなくて“修士課程2年”でしょうに」とつっこみを入れるかもしれません。

「M1」「修士2年」「博士1年」「D2」は、略称としてはとても便利なものなのでしょう。しかしながら、学位未取得者が「M1」「修士2年」「博士1年」「D2」などと自己紹介することに、違和感を覚える人もいることでしょうし、大学院の課程をよく知らない人たちはその人たちを学位取得者であるとかんちがいするかもしれません。

修士課程の大学院生が「M1」「修士2年」と言い、博士課程の大学院生が「D1」「博士2年」という今日日、「自分は修士課程1年であります」とか「私はドクターコース1年です」ときちんと言った人はかえって「自覚している」と評価されるかもしれません。

| - | 23:45 | comments(0) | trackbacks(0)
『ごみ処理場・リサイクルセンターで働く人たち』発売


新刊の案内です。

このたび『しごと場見学! ごみ処理場・リサイクルセンターで働く人たち』という本が、ぺりかん社から出ました。ごみの処理、また資源のリユースやリサイクルなどに携わっている人たちの仕事ぶりなどを伝える本です。

人は日々、ごみを出します。多くの人びとの感覚からすれば「ごみを出す」とは、自分のごみと“さよなら”すること。

しかし、ごみの処理の仕事はそこから始まります。

ごみや資源の収集係がごみなどを集めて、ごみ処理場に運びます。ごみ処理場では、運転係などが燃えるごみを焼却したり、不燃ごみ処理施設の担当者たちが不燃ごみから鉄やアルミニウムなどを分別したり、また、粗大ごみ処理施設の担当者たちが粗大ごみを砕いて小さくしたり、さまざまな処理をします。

こうしたごみ処理施設での作業を、整備係、技術係、管理係、工場長などが支えています。

また、ごみ処理場の建てかえを建てかえ担当者が、さらに海外の人びとに日本のごみ処理技術に知らせることを国際協力担当者が、それぞれしています。

そして、リサイクルセンターでは修理スタッフが日々、家具などの粗大ごみをふたたび使える製品にしています。

この本は、そうしたごみ処理やリサイクルに携わる人たちに、どのような仕事をしているか、具体的に話を聞いたものです。

また、中学生の「美保さん」と「清田くん」という二人が、ごみ収集、ごみ処理、建てかえ工事、国際広報、最終処分、そしてリユース・リサイクルの現場を訪ねて“見学”もします。

また、ごみ収集、ごみ処理、最終処分、リユース・リサイクルなどの現場の全体像がわかるイラストも

人びとの暮らしから日々出てくるごみの量をいかに減らして、最終処分の対象となるごみの量を抑えるかが大きな課題です。「できるかぎり量を抑える」ための工夫と、日々のごみ処理作業が滞らないための工夫を紹介しています。

「しごと場見学!」は、暮らしのなかで利用する場所や施設での仕事やしくみを紹介するシリーズもの。編集担当は同社の中川和美さん。イラストレーターはraregraphの山本州さん。全国中学校進路指導・キャリア教育連絡協議会推薦の本です。

ぺりかん社サイトでの『しごと場見学! ごみ処理場・リサイクルセンターで働く人たち』の案内はこちらです。
http://www.perikansha.co.jp/Search.cgi?mode=SHOW&code=1000001737
| - | 13:26 | comments(0) | trackbacks(0)
理工系就職に興味をもつ女子と企業の距離を近づける
これから就職を迎える高校生や大学生たちにとって、「仕事とはどんなものなのか」を実際の体験で感じておくことは、就職を考えるうえで大切なことといえます。

いっぽう、企業にとって、自分たちの核としている技術などを若い世代に知ってもらうことは、若い世代に就職先として興味をもってもらううえで、大切なことといえます。

若い世代と企業の距離が近づくことが、双方にとっての利点になるわけです。

内閣府の男女共同参画局と経済団体連合会は、2013年ごろから「理工(リコウ)・チャレンジ」、通称「リコチャレ」とよぶとりくみをしています。

これは、理工系分野に興味がある女子中高生・女子学生が「将来の自分をしっかりイメージして進路選択(チャレンジ)することを応援するため、 内閣府男女共同参画局が中心となって行っている取り組み」のこと。2013年まで同局が展開してきた「チャレンジ・キャンペーン」を刷新したもの。

このとりくみを応援することに決めた大学や企業などは、みずから名乗りでて、男女共同参画局に「リコチャレ応援団体」として登録してもらいます。すると「リコチャレ」のサイトにロールモデルとなる先輩の情報を掲載したりできるというしくみです。


理工チャレンジ(リコチャレ)のサイト

リコチャレ応援団体によっては、男女共同参画局が「夏のリコチャレ」と位置づけている各種イベントを夏休みに開催したりしています。これは、応援団体の大学や企業などが、女子を招いて、自分たちの団体の技術を紹介したり、職業の一日体験をしてもらったりするもの。

たとえば、「夏のリコチャレ2016」では、田中貴金属グループが「夏休み 理系職場ツアーズ in TANAKA」として、参加者の女子たちを貴金属の分析現場に招くなどして、診断キットを使った実験を体験させたりしました。また、建設機械業のキャタピラーも「エンジニアリングデイ!」という体験プログラムを企画し、参加した女子たちに油圧ショベルの試乗体験をしてもらうなどしています。

わずか1日や半日であっても、実際に仕事の疑似体験などをするということは、自分の就きたい仕事を考えるうえでプラスになることでしょう。

ただし「就職活動前にその企業のイベントに参加したから」という理由だけで、その企業のことを好きになるというのは、ほかの企業に就職する選択肢をみずから削いでしまうことにもなりかねないので、広い視野をもちつづけることが大切になります。

企業側も、参加者に自分たちのよいところをつい見せたくなるものかもしれません。けれども、“ありのままの姿”を見せるほうが、若い世代の参加者たちにとっては有益であるということにも留意しておくことが大切といえます。

参考資料
内閣府男女共同参画局「理工チャレンジ 概要」
http://www.gender.go.jp/c-challenge/dantai.html
SankeiBiz 2015年7月31日付「リケジョ育成へ職場見学会情報 内閣府と経団連」
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/150731/mca1507310500008-n1.htm
『Rikejo』マガジン 2016年9月号「“夏のリコチャレ2016”」
http://www.rikejo.jp/codigi/article/18211.html
| - | 12:46 | comments(0) | trackbacks(0)
特別感のある道徳の教科、2018年度から「特別の教科」に


「道徳」の授業というと、週にいくつもある授業のなかで「ほかとちょっとちがう」という印象を心のなかでもっている子どもは多いかもしれません。体育や音楽のような実際にやってみる授業ではないものの、かといって国語や算数や理科などの単元をひとつひとつ学んでいくような授業でもありません。

いまの学校での道徳教育のもととなっている、2008年3月告示の「学習指導要領」では、道徳の授業の目標を、小学校・中学校とも「学校の教育活動全体を通じて、道徳的な心情、判断力、実践意欲と態度などの道徳性を養うこと」としています。

そして、道徳教育の内容として、具体的に4つの柱が掲げられています。

「主として自分自身に関すること」「主として他の人とのかかわりに関すること」「主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること」「主として集団や社会とのかかわりに関すること」

それぞれの柱には、さらに具体的な内容が掲げられています。そこで出てくる熟語や句の一部を拾ってみると「節度」「希望と勇気」「自律の精神」「自己」「個性」「礼儀」「人間愛」「友情」「人格」「寛容」「謙虚」「感謝」「生命の尊さ」「自然を愛護」「義務」「公徳心」「正義」「責任」「敬愛」「協力」「国を愛し」「世界の平和」「人類の幸福」などとあります。やはり、精神、価値、善悪などにかかわる熟語や句が多く並んでいます。

こうした抽象的な考えかたは、これらのことばをそのまま児童や生徒に伝えて説いたとしても、学びには通じないものでしょう。そこで、学習指導要領では「先人の伝記、自然、伝統と文化、スポーツなど」を題材とすることを「配慮すること」に掲げています。ここには、授業を受けもつ先生たちの創意工夫が求められそうです。

現行の道徳の授業は「教科外の活動」という位置づけにあります。この位置づけは、「クラブ活動」や「総合的な学習の時間」などとおなじです。

しかし、小中学校の2018年度以降の道徳は、「特別の教科」という位置づけになります。これは文部科学省が2015年3月、学校教育法の施行規則を改めたもの。「教科外の活動」から「特別の教科」への変更は、「格上げ」とする見かたがあります。

「特別の教科」となる道徳では、検定教科書がつくられるものの、児童や生徒への評価は数値でなく文章で表すことになります。

学校での教育のすべてが、道徳的な心情、判断力、実践意欲と態度などを養うことにつながると考えれば、わざわざ道徳の授業を設けなくてもよいとも考えられるかもしれません。

しかし、すべての先生が全人教育的な考えかたをもって児童や生徒に接しているわけでもないでしょう。そうした先生にとって、道徳の授業は、あらためて児童や生徒に道徳性を養わせる機会になるものです。

参考資料
文部科学省「小学校学習指導要領 第3章 道徳」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/dou.htm
文部科学省「中学校学習指導要領 第3章 道徳」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/chu/dou.htm
YOMIURI ONLINE 2015年6月26日付「『特別の教科』に格上げ…道徳」
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/special/CO015552/20150619-OYT8T50027.html
| - | 14:42 | comments(0) | trackbacks(0)
「正しい巻き方」をせずに断線


人でも物でも、故障の原因になりやすい弱点のような部分があるものです。

アップルコンピュータ製マッキントッシュの電源アダプタにとって、故障部分になりやすい弱点は、まちがいなくアダプタ本体と線のつなぎ目でしょう。

部屋でコンピュータを使うのであれば、電源アダプタに負担をかけることはそうありません。しかし、コンピュータをもち歩き、電源を得ようとするのであれば、アダプタもいっしょにもち歩くことになります。

四角いアダプタ本体だけをもち歩くわけにはいきません。アダプタ本体と線はつながっていますから。そして、人は線状のものをもち運ぼうとするときは、なるべく小さくまとめようとするもの。

線をなるべく小さくするには、線を結くことです。コンピュータにつながる細い線と、コンセントにつながる太い線をいっしょに束ねて結いている人も多いかもしれません。

ところが、線の束を結くと、例のつなぎ目の部分が、不自然な角度で曲がってしまいます。ほぼ直角に曲がることも。こうして線に物理的な力がかかります。

なんども電顕アダプタの線を結いて、かばんに入れてもち歩くことをしていると、電気を通すアルミ線も、それを覆う被膜も、ともに確実にぼろぼろになっていきます。

なかのアルミ線がむき出しに見えたら、断線まであっというま。断線に気づかずに充電したと思いこみ、ふたたびコンピュータを使おうと思ったら充電されていなかったという目に遭う人もいるようです。

断線させないためにどうすればよいか。例のつなぎ目にビニールテープをぐるぐる巻きにして強化するというのも手なのかもしれません。しかし、アップルコンピュータの“ジーニアス”集団にとって、それは“鈍くさい”亜流の方法なのかもしれません。

マッキントッシュの電源アダプタの線には、知っている人は知っているし、知らない人は知らない「正しい巻き方」があります。

それは、アダプタ本体のふたつの頂点部分から“角”を出して、その角と角に引っかけるようにして線を巻くというもの。



こうすることで、すくなくとも例のつなぎ目が不自然な角度で曲がるようなことは避けられます。

この「正しい巻き方」は、電源アダプタが入っている製品箱に入っている紙に描かれています。しかし、その説明書きを見ずに電源アダプタを使いはじめる人も多いのではないでしょうか。そんな人にとって、電源アダプタ本体にあるふたつの隠された“角”は「なんかへんなもんがあるな」程度のデザインにしか感じられないかもしれません。

アップルコンピュータの“ジーニアス”たちは、正しい使い方を知らない人がどれほどいるかを把握しているでしょうか。

参考資料
アップルコンピュータ「Macノートブック MagSafe電源アダプタケーブルの負担を軽減する方法」
https://support.apple.com/ja-jp/HT201600
| - | 20:54 | comments(0) | trackbacks(0)
季語は加えられるもの

画像作者:Art city Rose yang

多くの俳句は「五七五」の3句からなります。この合わせて31音という数は、世界の定型詩のなかでもっともすくない数ともいわれています。

わずか31音でなる俳句にも約束事があります。それは、その句がどの季節を歌ったものかを「季語」を入れて表すということです。さらに、ひとつの句のなかに、季語がふたつ以上入る「季重(きがさ)なり」も通常、避けるべきものとされます。

そこで、俳句を詠む人は、季語を分類して解説や例句を示した歳時記を手にとりつつ、意図どおり季語が入っているかや、季重なりがないかなどを確かめることもあります。

俳句をつくる多くの人にとって、歳時記に書かれてある季語の季節に従って句をつくることになります。つまり、この人たちは、決められた季語を使おうとする人たちです。

しかし、逆に、季語にしたいことばがあり、それをどの季節のものにして歳時記に収録するか考える人もいます。つまり、この人たちは、季語を定めようとする人たちです。

では、季語を定めようとする人たちとは、だれのことでしょうか。いいかえれば、だれが季語を定めるのでしょうか。

「この季節に属する」というのが自明なことばは多くあります。たとえば「桜」は春の季語とされ、雪は冬の季語とされます。

ただし、新たにいまを生きる人が季語を決める場合もあります。ある歳時記には、季語について「編集部が各種の歳時記を参照して広く新旧にわたって募集し、採否は委員会にはかって決定した」と記されているそうです。おそらくこの委員会には、俳人や言語学者などの、日本語に詳しい人たちが名を連ねていることでしょう。

新しく季語が加わる例のひとつとして外来語の採用もあります。たとえば「バレンタインデー」は「春」の季語として歳時記に収録されています。

バレンタインデー奇襲の白楂古聿(ショコラ) 鈴木栄子

季語を入れるべしとする約束はあるものの、季語の選びかたはこうでなければならないといった定めかたについては、さほど厳密なものはないようです。そのくらいの自由度が、いまも昔も俳句が文化としてつづいている遠因なのかもしれません。

参考資料
世界大百科事典 第2版「季語」
https://kotobank.jp/word/季語-473181
Yahoo!知恵袋「俳句の『季語』は誰が決めたのでしょう」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1035542480
大坪家の書庫「題名:俳句の季語」
http://otsubo.info/s_contents/haiku.html
高橋悦男「季語になった外来語」
https://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/10037/1/40101_5_1.pdf
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厚い謝辞は「まえがき」でなく「あとがき」に



「謝」に「辞」をつけた「謝辞」という熟語があります。「辞」については、ここでは「辞書」や「辞典」などのことばにもあるように「ことば」のことを指します。

いっぽう「謝」には、「感謝する」という意味と「謝罪する」という意味があります。そのため「謝辞」は、感謝のことばと、謝罪のことばと、両方の意味をもちます。

本によっては、謝辞が書かれてあることがあります。謝辞を書くのはまずもって著者であり、たいていは編集者や、そのほか、その本づくりでお世話になった人に「ありがとう」つまり感謝の気持ちを記します。ただし、ときに原稿執筆の進み具合が遅れに遅れて、「申しわけありませんでした」と謝罪の気持ちを記している場合も見うけられますが……。

本に謝辞を書くときには、さほど決まった定形のようなものはありません。しかし、謝辞をどこで書くかについては、本編のなかには入れないといった原則といいますか習慣があります。本編という「本番」の場で、裏方の関係者の人たちに感謝のことばをあらわすのはふさわしくないという感覚を人びとはもっているのでしょう。

そこで「まえがき」や「あとがき」などに謝辞が書かれることが多くなります。

本を売るための手法として、謝辞が厚いものになった場合、「まえがき」でなく「あとがき」やその近くに表すということがあります。多くの読者にとってみれば、謝辞に出てくる編集者や協力者のことを知っているわけではありません。

なのに著者が「本書を執筆するにあたっては、編集担当の山田太郎氏の叱咤激励なしにはありえなかった。お声がけをいただいてから、いまこうして執筆を終えようとするいまにいたるまで、常に筆者を支えつづけてくれた。心からのお礼を申しあげる」とか「この本を上梓にあたっては、妻と家族に感謝したい。最初の読者として原稿を読んだのは妻と娘であった。彼女たちの率直な感想がどれほど私を我に返らせてくれただろうか」などと、熱っぽく謝辞を記したらどうでしょう。読者は置いてきぼりにされて、興冷めしてしまうおそれがあります。

こうした厚い謝辞が「まえがき」にあるより「あとがき」にあるほうが、読者が謝辞を本文より先に読む確率は格段に低くなります。そのため厚い謝辞は「あとがき」に表すほうが無難というわけです。

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書評『ゲノム編集の衝撃』

おととい(2016年)12月8日(木)、そしてきのう9日(金)と、このブログの記事でとりあげた「ゲノム編集」については、一般書も出版されています。当然のごとく、NHK番組取材班も書籍を出しています。

『ゲノム編集の衝撃 「神の領域」に迫るテクノロジー』NHK「ゲノム編集」取材班、NHK出版、2016年、224ページ


本の冒頭、iPS(人工多能性幹)細胞を開発した中山伸弥氏が序文を寄せて、「ゲノム編集」をつぎのように形容している。

「技術として簡単であること。成功率が高いこと。いろいろな生物に適用できること。上記の三点がそろった生命科学技術というのは、これまでにはほかに存在しませんでした」

科学者たちに衝撃をあたえている「ゲノム編集」とはどのような技術なのか、そして社会はこの技術をどう受けとめたらよいのか。さまざまな人物への取材を通してそれを示そうとするのが、本書だ。

第一章では、魚のマダイがゲノム編集によって肥大化したようすを描写して読者を引きつける。その後は、第二章でゲノム編集のメカニズム、第三章で米国発の第三世代といわれる技術、第四章でゲノム編集の実例、第五章で難病治療の可能性を示し、そして最後の第六章で仕様にあっての制度的課題を伝えて締めくくる。

テレビ番組の取材班がつくる本だけある。明らかに、冒頭から見る人たちを引きつけるテレビ的手法が駆使されていて飽きさせない。

取材量も番組づくりを前提としているから豊富だ。日本でのゲノム編集研究の第一人者である広島大学の山本卓氏(巻末にインタビュー記事もある)。「クリスパー・キャス9」というゲノム編集技術につながる発見をした九州大学の石野良純氏。そして、クリスパー・キャス9がヒトでも働くことを示し、ノーベル賞候補となっているフェン・チャン氏……。

「会ってみたい。私たちはアメリカ東海岸・ボストンに向かうことにした」と言って会いに行っている足の軽さはさすがだ(出張旅費は受信料によるものだろうが)。

ゲノム編集が将来もたらしうる影響は大きい。

農林水産業では、遺伝子組み換えなどの比較的手間のかかる方法にとってかわり、いまよりもさらに競争力ある農作物などが開発されうる。

また、医療での応用も進みそうだ。エイズ感染者がゲノム編集による臨床試験を受け、体からエイズウイルスがなくなる、あるいは減るといった事例もすでに出ているという。

こうした利点の大きさを紹介するいっぽうで、人間がゲノムをいとも簡単に改変できてしまう状況に対しても警鐘を示している。

印象的な一文がある。「必要性が低いことについて『単に可能だったから』という理由でゲノム編集を行う事例が続くと社会は不安を抱く」

だからゲノム編集を扱う人は、本気でそれをやるべきだということのようだ。ただし、人間はほかの人間がそれをやっていたら自制することはまずもって無理だ。興味をもった研究者や企業はわれもわれもとゲノム編集技術を扱いはじめることになるだろう。

そうなれば、社会は一気に大きく変わっていく。その社会に生きる人びとは、ゲノム編集をどう受容(あるいは拒絶)すべきか。人工知能とおなじく、確実に発展していくであろう技術だから、いまのうちから知識と関心をもっておくことの意義はある。その第一歩に適した一冊といえる。

『ゲノム編集の衝撃』はこちらでどうぞ。
https://www.amazon.co.jp/dp/414081702X

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育種の大きな変化を政府が推進(2)

写真作者:nubobo

政府は、内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム」に掲げる11個の課題のひとつに「次世代農林水産業創造技術」を掲げ、そのなかで「新たな育種技術」を目標のひとつにしています。

では、具体的にどのようなことを推しすすめようとしているのでしょうか。農林水産省の農林水産技術会議事務局研究企画課技術安全室長が発信する資料によると、研究を実施するグループごとに、大きく4つの系に分かれるといいます。

「国産技術の開発(1系)」は「ゲノム編集技術をはじめとして最先端技術の多くが知財を米国などに握られ、今後の産業利用の足かせとなりかねないことから、国産ゲノム編集技術の開発など新たな育種法を開発するグループ」が進めるもの。実施者として、農業生物資源研究所、理化学研究所、東京大学、神戸大学、広島大学、九州大学などがあがっています。

「ターゲット遺伝子のリソース化(2系)」は「新規遺伝子を単離し、育種リソースの充実に取り組むグループ」によるもの。具体的には、理化学研究所、日本原子力研究開発機構、農業生物資源研究所、東北大など。

「画期的な新品種・育種素材の開発(3系)」は「実際にゲノム編集技術を利用して画期的な新品種を開発するグループ」によるもの。筑波大学、農研機構の作物研究所、おなじく果樹研究所、大阪大学、岩手大学、水産研究・教育機構など。

「社会実装に向けた調査研究(4系)」は「(1系から3系までの)それら研究成果の社会実装に必要な条件整備に取り組むグループ」によるもの。筑波大学、農業生物資源研究所、京都大学、くらしとバイオプラザ21などの名が出ています。

大きくは、1系で既存の「CRISPR/Cas9」などのゲノム編集技術を応用することもふくめ日本発の技術を開発し、また2系で新品種をつくるため遺伝子のリソース化にとりくみ、これらの成果をもとに3系で実際にゲノム編集技術などを用いた新品種を開発し、その成果を4系で社会に伝えていく、といった体系のようです。

政府は、今回のゲノム編集技術とよく対比される遺伝子組みかえについても、基本的には推進する姿勢をとってきました。一概にくらべられるものではありませんが、遺伝子組みかえを推進する際は、「限られた研究資源・体制の下で、世界に伍していくことが可能な研究成果や知的財産を効果的・効率的に生み出せるよう」(2008年1月「遺伝子組換え農作物等の研究開発の進め方に関する検討会」最終取りまとめ)などと、やや消極的にも捉えられる姿勢が見えかくれしていました。

いっぽう、「新たな育種技術」の推進では、「『強み』を生み出す新たな国産ゲノム編集技術等を順次開発し、速やかに知財化し、民間への技術移転を進める」(2016年10月「戦略的イノベーション創造プログラム 次世代農林水産業創造技術研究開発計画」)といった具合に、積極的な姿勢が見えます。

ゲノム編集技術などによりつくられた作物を受けいれるかどうかは、最終的には市民の判断。その市民の判断は、政策を打ちだす政府や、技術や成果を社会に伝えようとする研究者たちをどのくらい支持・信頼するかにも大きくかかってきます。了。

参考資料
鈴木富雄「育種革命をもたらすゲノム編集技術」
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=655
農林水産省 2008年1月発表「『遺伝子組換え農作物等の研究開発の進め方に関する検討会』最終取りまとめ」
http://www.s.affrc.go.jp/docs/commitee/gm/pdf/last_summary.pdf
内閣府 2016年10月発表「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術(アグリイノベーション創出)研究開発計画」
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku/9_nougyou.pdf
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育種の大きな変化を政府が推進(1)
「2020年に向けて」という表現が多く見られます。東京五輪の開催が世の中の動きの大きな節目と考えられているからでしょう。

しかし、それ以降も時は流れていきます。2021年以降に達成がめざされている目標も、もちろんあります。

2021年に達成がめざされている目標のひとつに「新たな育種技術(NBT:New plant Breeding Techniques)の改良・開発」という技術についてのものがあります。その目標とは、内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム」における「次世代農林水産業創造技術(アグリイノベーション創出)研究開発計画」で掲げているもの。


内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術(アグリイノベーション創出)研究開発計画」の表紙

「新たな育種技術」とは、「従来の交配や接木などに加えて、分子生物学的な手法を組み合わせた品種改良(育種)技術の総称」(「くらしとバイオ」ホームページより)をいいます。分子のレベルで生命現象を解明する分子生物学という研究分野がありますが、「新たな育種技術」は、その分子生物学の研究成果をとりいれて育種をおこなうものといえます。

「新たな育種技術」の代表例として挙げられるのが「ゲノム編集」です。これは、ここでは、作物となる植物の細胞内にあるデオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)の特定の部位を切り貼りすることで、遺伝子を改変する技術をさします。

「新たな育種技術」には数個の具体例がありますが、なかでもゲノム編集はもっとも影響力の強い技術といえそうです。ゲノム編集は簡易な方法であり、かつ起こしうる変化がとても大きいためです。

たとえば、ことし2016年にはゲノム編集を用いた「黒ずまないマッシュルーム」が話題になりました。通常、マッシュルームは時が経つとだんだん色がつき褐色になるものです。いっぽう米国ペンシルベニア大学で植物病理学を研究するイノン・ヤン氏は、ゲノム編集によって、褐色化の原因となるポリフェノール酸化酵素をつかさどる遺伝子をマッシュルームからとり除きました。これにより、酵素の活性は3割ほど低くなったといいます。

遺伝子をいじるという点では「遺伝子組みかえ」という技術もあります。しかし、ゲノム編集のほうが、遺伝子組みかえよりもはるかに簡易であり、遺伝子を改変する成功率も高いと評価されています。

このゲノム編集をはじめとする「新たな育種技術」を日本政府は「戦略的イノベーション創造プログラム」で、最終年度となる2021年の目標を掲げて、明確に国として推しすすめようとしているわけです。

では、そのプログラムにおける最終目標とはどのようなものでしょうか。

「次世代農林水産業創造技術(アグリイノベーション創出)研究開発計画」にはつぎのように書かれています。

「a. TALEN 、CRISPR/Cas9等のゲノム編集技術について、我が国の農林水産政策上重要な品目の育種で国内の育種関係者が容易に利用できる技術として確立する」

「b. 我が国の農林水産政策上重要な品目の育種において利用でき、これまでのゲノム編集技術よりもより高い精度と効率での編集を可能とする又はこれまでのゲノム編集技術では対応できない農林水産生物にも適用可能な新たな国産ゲノム編集技術について、2021年度末までに国内の育種関係者が容易に利用できる技術として確立することを最終的な目標とし、農林水産物に適用するための利用条件を確立する」

「a」にある「TALEN」と「CRISPR/Cas9」は、どちらもデオキシリボ核酸を切断するはたらきをもつ因子で、それぞれ「転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ」と「Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat / Cas9」の略称です。「a」のほうの最終目標では、すでにゲノム編集に使われているTALENやCRISPR/Cas9を用いた方法を、育種関係者たちがあたりまえのように使っている状況をめざすものと捉えられます。

また、「b」のほうは回りくどい文章ですが、既存のTALENやCRISPR/Cas9よりもさらに優れたゲノム編集技術を“国産”で開発し、育種関係者があたりまえのように使えるようになっている状況をめざすものと捉えられます。

では、政府は「戦略的イノベーション創造プログラム」において、具体的にどのように「新たな育種技術」を確立しようとしているのでしょうか。つづく。

参考資料
くらしとバイオプラザ21「新しい育種技術(New Plant Breeding Techniques, NBT)とは」
http://www.nbt-japan.com/docs/index.html
内閣府 2016年10月20日発表「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術(アグリイノベーション創出)研究開発計画」
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku/9_nougyou.pdf
予防衛生協会「ゲノム編集したマッシュルームは遺伝子組換え生物(GMO)とはみなされない」
http://www.primate.or.jp/serialization/80-%E3%80%80ゲノム編集したマッシュルームは遺伝子組換/
ウィキペディア「TALEN」
https://ja.wikipedia.org/wiki/ゲノム編集
ウィキペディア「CRISPR」
https://ja.wikipedia.org/wiki/CRISPR
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入場者数伸び悩みの背景に「どこでも斜めから見下ろし」の可能性
東京スカイツリーの入場者数が、すこしずつ減っています。

2012年度は5月開業のため約10か月間ながら約554万人。2013年度は通年で約619万人に大きく増えました。ところが以降、2014年度は約531万人、2015年度は約479万人と減っていきました。

2016年度は、計画の数値では、前年より5万人すくない約474万人とのこと。「来場者減少が鈍化」(日本経済新聞)と、前向きな表現も見られます。しかし、前年を下まわる年が続いていることにちがいありません。

企業などによる分析が公表されているわけではありませんが、「スカイツリーからの眺めはスカイツリー1か所からのものでしかない」ということが、この入場者数の伸びなやみの原因のひとつになっているのかもしれません。

「スカイツリーからの眺めはスカイツリー1か所からのものでしかない」とは、つまり、スカイツリーの展望台の場所は、墨田区押上1丁目1番2号に固定されているということです。


東京スカイツリーからの眺め

「そんなのはあたりまえじゃないか」と思う人もいるでしょう。しかし、このあたりまえを超える眺めを、すでにインターネットでは得ることができてしまいます。

つまり、グーグルマップで、45度斜め上から地上を見下ろす航空写真のモードを使えば、あたかも空から都会の風景を俯瞰するような眺めを得られるということです。


グーグルマップ「航空写真」の45度斜め上から地上を見下ろした眺め
写真作者:グーグル

45度斜め上から地上を見下ろす航空写真の提供は2013年から始まりました。もちろん、スカイツリーのまわりだけでなく、渋谷、新宿、羽田空港、さらに大阪、京都、名古屋、福岡など、大都市のさまざまな地域で斜め上からの眺望を得ることができます。

日本だけではありません。ニューヨーク、パリ、香港などの世界の大都市でも45度斜め上から地上を見下ろす航空写真の画像をかんたんに見ることができます。

この「多くの場所で、斜め上から地上を見下ろす眺めを得られる」という感覚をすでに身につけてしまった人びとのなかには、スカイツリーの展望台にのぼっても「ここからの眺めは動かないんだよな」と感じる人もいるのではないでしょうか、たとえ無意識的であっても。

スカイツリーに分がある点もあるにはあります。

展望台のフロアを移動するだけで、北北東や南西などをふくめ、全方位の眺望を得ることはできます。グーグルの航空写真の斜め上からの画像で見られる景色は、いまのところ東西南北の4方位にかぎられています。

また、黄昏時の景色や夜景を全方位、見ることができるのは、いまのところスカイツリーなどの実際の建造物の展望室にいればこそ。

そして、実際に451.2メートルの高さの展望台までのぼったときの興奮を味わえるのもスカイツリーだからこそです。

しかし、こうした優位性はあったとしても「一度スカイツリーに行けばもういいや」と感じてしまう人はいるはず。その心の裏側には、やはり「グーグルマップの航空写真なら……」という感情があるという人はやはりすくなからずいるのではないでしょうか。

参考資料
東武鉄道など 2013年4月1日発表「東京スカイツリータウン®来場者数について」
http://www.tokyo-skytree.jp/press/upload/71d678d8943fb154f0299ba6727b31b9.pdf
日本経済新聞 2016年8月30日付「スカイツリー関連の収益底入れへ 東武、17年3月期」
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO06633470Z20C16A8DTA000/
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「阿吽」は狛犬のみならず
「阿吽(あうん)」という熟語があります。梵語(サンスクリット語)の文字である梵字の、下の2文字を音にしたものです。その音は「a(ア)」と「hum(フーン)」と表現されることもあります。



この2文字は、密教で「宇宙の初めと究極」あるいは「万物の根元と宇宙が最終的に具現する智徳」を意味します。

「阿」は梵字の表音文字において最初に来るものであり口を開いて発音します。いっぽう「吽」は最後に来るものであり口を閉じて発音します。このことから「最初から最後まで」という意味を象徴しているともされます。

当然ながら仏教との結びつきも強く、たとえば寺社仏閣の庭や歴史的建造物の手前などに置かれた2頭の狛犬の像は、いっぽうが「阿」と口を開き、もういっぽうが「吽」と口を閉じています。



しかし、「阿吽」の対になっているのは狛犬だけではありません。

たとえば、仙台藩を治めていた伊達氏の家紋のひとつには、雀を意匠に使ったものがありますが、この2羽も、よく見ると左が「阿」、右が「吽」という口をしています。右の雀が左の雀の口のなかをついばんでしまいそうな近さですが……。



伊達氏の関連で言えば、初代大名の政宗などを祀った「瑞鳳殿」という霊廟にの屋根には「龍頭瓦」という青銅製の龍が置かれています。近くにいる龍の対も、やはり「阿」「吽」という口をしています。



寺社仏閣などで「対」となっているものを探すと、「あれも阿吽だ」「これも阿吽だ」と、さまざまな発見があるかもしれません。

参考資料
三省堂 大辞林「阿吽」
http://www.weblio.jp/content/阿吽
大谷大学「生活の中の仏教用語 阿吽」
http://www.otani.ac.jp/yomu_page/b_yougo/nab3mq0000000r1h.html
ウィキペディア「阿吽」
https://ja.wikipedia.org/wiki/阿吽
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「モジャカレー新大阪本店」のネギビーフカレー――カレーまみれのアネクドート(90)


刻み長ねぎというと、そばやうどんなど、日本にゆかりの深い主食級の食べものにかける薬味という印象が強くあります。緑がかった色を目で、ほんのりつんとした香りを鼻で、また甘みと苦みのほどよくまざった味を舌で感じ、素のそばやうどんにアクセントを加えます。

もっぱら刻み長ねぎは、和食感の強い食べものの薬味として使われます。では、カレーのうえにかけたら、それも手でひとつかみするくらいの量をかけたら、刻み長ねぎとカレーはどうなるでしょう。

JR新大阪駅の建てものの1階「味の小路」には、「モジャカレー新大阪本店」があります。「当店人気No.1!!」とモジャカレーのホームページで謳っているのは、「ネギビーフカレー」。

プレーンなカレーライスの頂上に、刻み長ネギと牛ばら肉がほぼ等量で乗っかっています。また、卓上の容器に入っている福神漬、それにらっきょうも無料では10個まで乗せることができます。

刻み長ねぎは、もっぱら青い部分のほうが使われています。白い部分より控えめながらも、一般的に青い部分にも風味はあるもの。ただし、このネギビーフカレーの場合、もうひとつ、カレールゥという風味の強い食材があります。強い風味どうしの同舟、いったいどうなるか……。

刻み長ねぎとカレールゥのうち、風味がより前面に出るのはカレールゥのほうです。ホームページによると、ルゥは「フルーツ、野菜、そして本場のスパイス20種類を独自の配合でブレンド」したもの。大盛りの刻み長ネギは強い印象をあたえますが、手間のかけ具合という点ではルゥも特筆に値します。果物、野菜、香辛料の多くを混ぜてよく煮こんだからこそのルゥなのでしょう。

刻み長ネギは青々としたやしゃきしゃきの歯ざわりで印象をあたえるものの、風味では自己主張することなくルゥに主役の座を譲っています。ルゥにまじわれば、刻み長ねぎもカレーの具材のひとつに。しかし、その存在感は牛ばら肉とおなじかそれ以上といえるでしょう。

モジャカレーの店主は、大阪生まれのバングラデシュ人「ビッラルさん」。日本人が好むカレーの味を研究しつづけているとのこと。日本人は、刻み長ねぎといえば和風の食べものの薬味であると、つい結びつけてしまうもの。それをカレーの食材にするという発想は、日本人のあいだでそうかんたんに起きるものではありません。

「モジャカレー」のホームページはこちらです。
http://mojacurry.jp
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江戸時代の前・中期の模様が現代に通用

何世紀も前に編みだされた模様のなかには、いまの時代にも「現代において意匠された」と言われても通じてしまうようなものがあります。

たとえば、宮城県仙台市の仙台駅の建てもののなかにある、みやげもの屋などが並んだ通路の梁には、赤、黄、緑、青、白の5色の大小の丸があしらわれています。地が黒の梁に和みをあたえるような、色とりどりの丸です。



この意匠は、おそらくは「紫羅背板地水玉模様陣羽織(むらさきらせいたじごしょくみずたまもようじんばおり)」という江戸時代前期から中期ごろに作られたとされる服装に見られる水玉模様をモチーフとしています。

紫羅背板地水玉模様陣羽織は、仙台藩祖の伊達政宗(1567-1636)で知られる伊達家の寄贈した文化財であり、仙台市博物館に収蔵されています。

陣羽織とは、武将たちが戦で、鎧や具足のうえから羽織って身につけた上着のこと。その陣羽織に、五色の丸を散りばめたのです。伊達政宗が着用したとされています。

この丸模様は、切嵌という手法で陣羽織に飾られています。小布を布地のうえに縫いつけるアプリケににていますが、切嵌は、異なる小布を継ぎあわせたり、置きかさねたりして、模様にする技法。とくに、室町時代末期から桃山時代にかけて流行しました。この陣羽織では、丸の輪郭を紐でくくっています。

基本的な色を使いつつ、ところどころで、白や赤の丸や、緑や赤の丸を、重ねあわせており、意匠的に工夫が見られるとともに、縫製技術の高さも誇っているといえそうです。

華やかに飾りたてた意匠を「伊達模様」またそうした服装を「伊達着」などといいます。これらのことばは、すべて伊達氏の意匠の趣に由来するといいます。

色や模様の表現のしかたが、いまよりは限られていたであろう、伊達政宗が生きていた時代、おそらく紫羅背板地水玉模様陣羽織の意匠は、当時のさまざまなの陣羽織のなかでも華やかなものだったことでしょう。

華やかな衣装が街にあふれるいまの時代、この水玉模様は街のなかに溶けこんでいます。

参考資料
仙台市博物館「主な収蔵品(服飾(2))」
https://www.city.sendai.jp/museum/shuzohin/shuzohin/shuzohin-07.html
百科事典マイペディア「切嵌」
https://kotobank.jp/word/切嵌-829883

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“茹でがえる”にはならないという説あり


ことわざになっているわけではありませんが、「茹でられていくかえるは水が熱くなることを覚えずに茹で死ぬ」という人びとに対する警句があります。

熱湯にいきなり入ったかえるは飛びはねて脱します。しかるに、冷めた水に入ったかえるは、じょじょに水が温まってもその変化に気づくことなく、熱湯になっても脱しないため死んでしまう、ということのようです。

そして、このたとえから伝えようとすることは、「人は環境に適応する能力があるため、致命的であっても進みかたがちょっとずつである変化を受けいれてしまう」ということのようです。

人はそうなのかもしれません。では、かえるもそうなのでしょうか。巷には、かえるはまわりの水をじょじょに温められていっても気づくことなく脱しない、というのは「嘘」であるという話もあります。

ウィキペディアにも、米国の文化人類学者グレゴリー・ペイトソン(1904-1980)が、「似非科学的な作り話」であることを前提に、著書でつぎのようの述べているとしています。

「水を入れた鍋の中にカエルをそっと坐らせておき、今こそ跳び出す時だと悟られぬように、極めてゆっくりかつスムーズに温度を上げていくと、カエルは結局跳び出さずにゆで上がってしまうという疑似科学的な作り話があるが、われわれ人類も、そんな鍋の中に置かれていて、徐々に進行する公害で環境を汚染し、徐々に堕落していく宗教と教育で精神を腐らせつつあるのだろうか」

ものの情報によると、この茹でがえる理論のたとえは、もともとフリードリッヒ・ゴルツ(1834-1902)というドイツの心理学者による実験の概説に用いられていた話だという説があります。


フリードリッヒ・コルツ

しかし、その説明では、実際のところ、かえるを生きたまま水で温めていくと、水温が摂氏25度に達したとき、いつも器から飛びだしていく、とゴルツが述べているといいます。

では、かえるが茹でられて死んでしまうという話はどこからきたものなのか。じつは、ゴルツの話にはつづきがあります。

それは、脳を切除されたかえるは、決して水温の高くなった水から飛びだすことはない、というものです。

この説が真であるならば、「茹でられていくかえるは水が熱くなることを覚えずに茹で死ぬ」という警句は、すべての人びとにあまねく当てはまるものというより、やや限定的に当てはまるものといえそうです。つまり、「将来に向けて考えの及ばないような人は、致命的であっても進みかたがちょっとずつである変化を受けいれてしまう」といったことになりそうです。

いっぽう、かえるにとってみれば、人間たちにこの茹でがえるの警句が広まっているのを知ったら「おれたちの能力を見くびなさんな」と迷惑がるのかもしれません。

参考資料
ウィキペディア「茹でガエル」
https://ja.wikipedia.org/wiki/茹でガエル
YOUTUBE「Boiling A Frog | I Want The Truth #1」
https://www.youtube.com/watch?v=sbldcZoUQUs
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「女子高生流行語」のほうが現実味を帯びみ


2016年「新語・流行語大賞」が発表されて、今年も「超微妙」などと批判されています。その、いっぽうで「女子高生流行語大賞」が報じられています。こちらは、テレビ局のフジテレビが情報番組「めざましテレビ」内で発表しているもの。2016年の10傑は11月30日(水)に発表となりました。

 1位:卍(まんじ)
 2位:よき
 3位:○○まる
 4位:アモーレ
 5位:はげる
 6位:マ!?
 7位:BFF
 8位:ゲロ○○
 9位:スノる
 10位:○○み

東京・渋谷と原宿の女子高生368人にアンケートをとったといいますから、6人の選考委員会が選考して決める「新語・流行語大賞」よりも実態や民意がより反映された流行語の結果といえそうです。

10傑の多くは、女子高生以外の世代では(女子高生の世代でも)解説がないと理解できないもの。なかでも1位の「卍」が、とりわけ謎めいています。さまざまな使われかたがあるためです。

写真を撮るときのポーズやかけ声として「卍」が使われるほか、やんちゃな人を指して「あの人、卍だよね」と言ったり、またテンションが上がったときに「まじ卍だわ」などと使うようです。

「卍」は、6秒の動画を投稿できるツイッターのアプリ「Vine」で人気を集める大関れいかさんの動画が流行語となった発信源とされています。ただし、インターネットの画像検索で「卍ポーズ」と入れても、出てくる画像はもっぱらプロ野球審判の敷田直人さんが球審をつとめたとき三振を示すポーズです。

1位はこのように謎めいているものの、2位の「よき」は、国語の古典の授業で習う古語を日常の意思疎通にとりこんだものとされます。「よいね」という意味。さらに「よきよき」で「とてもよいね」という意味になるそうです。「いと」や「ありけり」などを使う人もいるといいます。こちらは授業から現れた硬派な流行語かもしれません。

4位の「アモーレ」は、サッカー前日本代表の長友佑都選手が女優の平愛梨さんとの交際を認めたとき「アモーレ」とよんだことにちなむものとされています。こちらもイタリア語ですから、すこしは勉強の足しになるかもしれません。ただし、女子高生のあいだでは「恋人」の意味だけでなく「親友」の意味でも使われているといいます。

LINE、ツイッター、インスタグラムなどのソーシャル・ネットワーク・サービスが使われることで、流行語の広がりはおそらくかぎられた地域だけでなく、より広い地域で起きやすいものとなっていることでしょう。

参考資料
モデルプレス 2016年11月30日付「『女子高生流行語大賞2016』」発表 『卍』『BFF』…全部知ってる?」
https://mdpr.jp/news/detail/1641319
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