科学技術のアネクドート

三つの「風神雷神図屏風」を部屋の真んなかに立って見くらべ


京都・茶屋町の京都国立博物館で、「琳派 京を彩る」という展覧会が開かれています。(2015年)11月23日(月祝)まで。

琳派とは、江戸時代中期の画家だった尾形光琳(1658-1716)の様式を伝える流派のこと。その原点は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した本阿弥光悦(1558-1637)にあり、画家の俵屋宗達(生没年不詳)を経て、尾形光琳で完成されたとされています。

展覧会は、本阿弥光悦が京都洛北の鷹峯の地を徳川家康(1542-1616)から拝領して400年になるのを記念して開かれています。

展覧会の目玉は、「風神雷神図屏風」。右に風神、左に雷神を描いた屏風絵です。もとは、13う世紀に絵巻として完成した「北野天神縁起絵巻」のうち「清涼殿落雷の場」という場面に描かれているものを俵屋宗達が転じて描いたものとされていますが、その後もさまざまな画家に模写されました。尾形光琳も「風神雷神図」を描き、また、江戸時代後期の画家だった酒井抱一(1761-1828)も「風神雷神図」を描きました。

展覧会の期間中、10月27日(火)から11月8日(日)までは、宗達、光琳、抱一の「風神雷神図屏風」3作品が同時に展示されています。3作品同時展示期間初の週末だった、きょう31日(土)は、入場まで140分待ちと発表があるなど、多くの来場者で混雑しました。

その「風神雷神図屏風」3作品は、館内のひとつの部屋に「 冂 」のような配置の壁を背にして1作品ずつ置かれています。国立博物館の「みどころ」サイトでも3作品を見ることができます。

3作品のうちはじめに作られたと思われる宗達作の「風神雷神図」は、とくに風神の緑色の体が色濃く、また、雷神の身にまとう天衣が白黒で質実剛健さがあります。

いっぽう、光琳作の「風神雷神図」は、風神も雷神もより漆黒の雲に乗っており、風神のもつ風袋や体躯の輪郭線がくっきりと表現されています。

また、抱一作の「風神雷神図」は、風神の体の緑色や、雷神の体の白色が、均一に塗りつぶされていて、平板化をたどったことがうかがえます。

前の人との間隔を詰めつつ、展示ガラスに顔をつけるようにして絵を見ることはできます。しかし、それほど人の多くない部屋の真んなかに立って、体を前、右、左と向けることでも、宗達の作、光琳の作、抱一の作を遠くからほぼ一度に見くらべることができます。真んなかに立つと、三つの作品に鑑賞者自身が囲まれていることを実感することもできます。

宗達、光琳、抱一それぞれが、どんな思いで風神と雷神を描いたのか思いを馳せるとより一層、趣が深まりそうです。

琳派誕生400年記念特別展覧会「琳派 京を彩る」は11月23日(月祝)まで。11月9日(月)からは、宗達作と抱一作の「風神雷神図屏風」が展示されます。京都国立博物館による案内はこちら。
http://rinpa.exhn.jp
| - | 19:22 | comments(0) | trackbacks(0)
「科学ジャーナリスト賞2016」推薦作品を募集中


日本科学技術ジャーナリスト会議は、「科学ジャーナリスト賞2016」の推薦作品を募集しています。

科学ジャーナリスト賞は、科学技術に関する報道、出版、映像などで優れた成果をあげた人を表彰するもの。授賞の対象となる成果は、広い意味での科学技術ジャーナリズム活動や啓発活動全般で、2015年1月から2016年1月末までに、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、出版物などで広く公表された作品となっています。

日本科学技術ジャーナリスト会議の会員でない人も、対象作品を推薦することができます。また自薦も他薦も可能です。

科学ジャーナリスト賞は、2006年から始まり、2015年5月に授賞式が行われた「科学ジャーナリスト賞2015」で10回となりました。今回、募集しているのが第11回となります。毎回「大賞」が贈られる作品が約1点、「賞」が贈られる作品が3、4点となっています。2015年には科学技術関連の企画展示に「特別賞」も贈られました。

また、推薦のあった作品は、日本科学技術ジャーナリスト会議の会員複数名によって査読などの審査がなされて評点がおこなわれ、一次選考会の参考にされます。そして、一次選考を通過した作品10点ほどが、二次選考会へと進みます。二次選考会では、科学ジャーナリスト賞の外部選考委員と内部選考委員が選考し、最終的に大賞や賞が贈られる作品が決まります。

「科学ジャーナリスト賞2016」の対象となる作品は2015年1月から2016年1月末までのもの。推薦のしめきりは2016年1月31日となっています。応募のしかたなど、詳しくは科学技術ジャーナリスト会議の「科学ジャーナリスト賞」ホームページをご覧ください。こちらです。
http://jastj.jp/jastj_prize
| - | 18:35 | comments(0) | trackbacks(0)
「鬼畜米英」から「英雄米英」へ、刊行物の変容ぶりを展示


東京・永田町の国立国会図書館で、「1945 終戦の前後、何を読み、何を記したか」という主題の展示がされています。東京の国会図書館本館では(2015年)11月2日(月)まで。

国会図書館では、所蔵の資料などを館内で展示することがあります。この展示は2015年度の特集展示。

1945年という年、日本人は戦中、終戦(敗戦)、戦後という大きな変化をともなう時代を経験しました。その1945年に、どのような出版物が出されたり、手記がつくられたりしたのか。当時のようすを垣間見られる資料を、この展示ではおおかた時系列順に展示しています。

この時期の刊行物の変遷は、「敗戦の英米への徹底抗戦の姿勢から、戦後の英米の文化を積極的受容への大変化」というかたちで伝えられることがよくあります。紋切り型の伝えられかたではありますが、そのように表現するしかないほどの社会の変わりようだったととらえることができます。

たとえば、敗戦を迎える前の1945年7月11日発行の『写真週報』という雑誌が展示されています。この雑誌の表紙には「断ジテヤレ」という標語が壁に掲げられた地下陣地で、将校たちが作戦を練っているようすを撮った写真が全面に載っています。説明文には「ラバウル化された地下陣地内」。太平洋戦争中、ニューギニアのラバウル島で敵に囲まれて孤立していた海軍航空隊の孤軍奮闘ぶりをかけたものです。

しかし、米軍が「日本國民諸氏も我米國陸海空軍の絶大なる攻撃力を認識せしならむ」と日本国民を脅すビラを投下するなどのなかで、ついに日本は8月14日に、米英中によるポツダム宣言の受諾を決め、敗戦を迎えます。

そしてその年の12月には、もう連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーを称える内容の『マッカーサー元帥』という本が出るなどしています。展示の解説では、本のなかで「彼こそナポレオン一世や、ウエリントン将軍と同列に置かるべき偉大なる戦略家である」「(マッカーサーは)聖なる平和への使者なのである」などと礼賛していること紹介しています。

原子爆弾や原子力に対する当時の日本人の見方も、1945年の雑誌からわかります。1945年9月2日・9日号として朝日新聞社が刊行した『週刊少国民』が展示されていますが、雑誌のなかには、原子爆弾の恐ろしさを伝えるページのすぐ後に、原子力による月旅行を紹介する記事が掲載されていると、展示解説は紹介しています。

鬼畜と呼んでいた英米を、今度は英雄視する。刊行物などを通しての見方ですが、当時の日本人の大変化を受容する精神性には驚かされるものがあります。

東京本館の新館ホールでの展示は(2015年)11月2日(月)まで。その後、11月13日(金)から28日(土)まで、京都府精華町精華台の関西館で展示される予定です。国会図書館によるお知らせはこちらです。
http://www.ndl.go.jp/jp/event/exhibitions/1211430_1376.html

なお、東京本館も関西館も遠い人などに向けて、国会図書館はインターネットでも展示内容とおなじ画像と解説を掲げています。こちらです。
http://www.ndl.go.jp/jp/event/exhibitions/201510_ex_guide.pdf
| - | 18:59 | comments(0) | trackbacks(0)
「紙をくしゃくしゃ」ストレス以外の理由を深読み


原稿用紙に万年筆で原稿を書いていた作家が、書いたことが気にくわないと原稿用紙をくしゃくしゃに丸めてごみ箱にぽいと投げすてる(そしてごみ箱には入らない)。こうした光景は、昔のテレビ広告などでよく見られました。自分の「こんなふうに書きたい」という理想と、「書けない」という現実との差を象徴するような光景です。かつては実際そのように原稿用紙をくしゃくしゃして捨てる作家は多くいたのでしょう。

紙をくしゃくしゃに丸めてからごみ箱に捨てるという行為は、しばしば精神的なストレスが貯まっているから起きるという文脈で語られてきました。もしかすると、「くしゃくしゃする」という擬態語と、「むしゃくしゃする」という副詞がにているからなのかもしれません。

しかしながら、単に「紙をくしゃくしゃ」を「精神的心労」と短絡的に結びつけてしまってよいものでしょうか。「紙をくしゃくしゃ」の理由はほかにないのでしょうか。

ひとつ考えられるのは、「この紙は、書くのに失敗した紙である」ということを目印として認識するために「くしゃくしゃ」するということです。書くのに失敗した紙を、書く前の紙とおなじ枚葉の状態にしておくと、書くのに失敗した紙も書く前の紙のように思えてしまう。それを防いで、「これは書く前の紙ではない」と識別するためには、紙をくしゃくしゃと丸めれば効果的です。

また、紙をくしゃくしゃに丸めるほうが、ごみ箱に放りいれやすいという理由もありそうです。部屋の3メートル離れたごみ箱に、紙を放りすてようとするとき、枚葉の紙を投げてもひらひらと自分のまわりを漂って落ちるだけです。しかし、くしゃくしゃに丸めれば放りやすくなり、ごみ箱に入る確率ははるかに高まります。

しかし、ごみ箱に放りいれやすくなる利点の裏側には、ごみ箱にごみがすぐ貯まってしまう欠点もあります。星月あんこさんというブロガーは、25枚の紙をくしゃくしゃに丸めてごみ箱に入れた場合と、25枚の紙を四つ折りにしてごみ箱に入れた場合の、ごみ箱内の紙ごみのかさのちがいを検証し、後者のほうが「ゴミ箱がスッキリするではありませんか!」と驚かれています。

もっとも合理的な説明がつきそうなのは、書くのに失敗した紙をくしゃくしゃに丸めることで、心を書く前の状態に戻すということではないでしょうか。それが精神的なストレスの現れなのだといわれれば、そうなのかもしれませんが……。
| - | 19:08 | comments(1) | trackbacks(0)
2020年度、日本の新型ロケット打ちあげへ

NASA(写真を改変)

東京五輪が開かれる2020年ごろの科学や技術の成果を予想する話題が増えています。そうしたなかで日本の宇宙開発の分野では、新型ロケットが2020年度に打ちあげられようとしています。

新型ロケットの名前は「H3ロケット」。日本のロケットは、「N-1」という名のものからはじまり、「N-II」、そして「H-I」「H-II」「H-IIA」「H-IIB」と開発されてきました。「H3ロケット」は、「コンセプトを根本から見なおしたロケット」(宇宙航空研究開発機構)であるため、「H-IIC」とはせず「H3」としたということです。

では、H3ロケットは、これまでのH-IIAロケットやH-IIBロケットとどうちがうのでしょう。

まず、大きさはH-IIBロケットが56.6メートルであるのに対し、H3ロケットはおよそ63メートルで、ひとまわり大きくなります。

また、ロケット本体の“足元”に複数本、付けられて推力を加える役割りをする「固体ロケットブースター」なしでも飛ぶことができるような設計としているのも、H3ロケットの新たな特徴です。H3ロケットは固体ロケットブースターなしで、H-IIAロケットに固体ロケットブースターを2本つけて飛ばすのとおなじぐらいの推力を得られる設計になっています。

ロケットエンジンも一新されます。H-IIAロケットやH-IIBロケットでは、「LE-5B」というエンジンなどが使われていますが、H3ロケットでは、「LE-X」という先人の開発を経て、「LE-9」という、より単純なつくりで1個あたりの費用が安上がりのエンジンなどが採用される予定です。従来のロケットエンジンでは副燃焼室という空間を設けてタービンを動かしていましたが、なしでもタービンを動かせる「エキスパンダ・ブリード・エンジン」という種類のエンジンを採用します。

こうした簡略化などの結果、ロケット1台あたりの値段を、H-IIAロケットの半額ほどとなる約50億円を目指すと、宇宙航空研究開発機構はしています。

H-IIAロケットの打ちあげ成功率は96.43パーセント、H-IIBロケットの打ちあげ成功率は100パーセントで、かなり高い実績をつくっており、人工衛星などを載せて打ちあげる実用的な運用も進んでいます。

それにもかかわらず、新型のH3ロケットを開発する背景として「技術力の継承」という課題があると指摘する人もいます。

科学ジャーナリストの松浦晋也さんは、「予算が逼迫する中で、新ロケット開発が始まる大きな理由は、開発の間隔が空いたためにJAXAとメーカーの双方で開発経験者が引退の時期を迎えて、『このままでは開発経験が途切れ、技術力が低下する』という危機感がロケット関係者の間で共有されたことだ。現在、H-IIロケット(1985年開発開始、1994年初号機打ち上げ)に新人として参加した技術者達が50代半ばになりつつある。彼らゼロからロケット開発を立ち上げた経験者は今後数年で開発現場を離れるところに来ている」と指摘しています。

H3ロケットは、2015年度の段階で、ロケットシステムの仕様や地上施設設備システムの仕様など基本設計をしている最中です。翌2016年度には、より詳細な設計をしていく予定。

そして2020年度に試験機1号機を、2021年度に試験機2号機を打ちあげることを目標としています。

参考資料
宇宙航空研究開発機構 岡田匡史 2015年7月8日発表「2020年:H3ロケットの目指す姿」
http://fanfun.jaxa.jp/jaxatv/files/jaxatv_20150708_h3.pdf
テレスコープマガジン 2015年10月9日付「次世代の主力大型ロケット『H3』」
https://www.tel.co.jp/museum/magazine/japanese_spacedev/151009_interview02/index.html
渥美正博ら「LE-Xエンジン開発へ向けた取り組み」『三菱重工技法』2011年 第48巻 第4号
https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/484/484040.pdf
日経ビジネスオンライン 2014年3月24日付 松浦晋也「途絶の瀬戸際、日本のロケット技術 新型基幹ロケット、成功の条件(その1)」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20140320/261429/
| - | 23:36 | comments(0) | trackbacks(0)
ファッションの情報技術化で服はより多様に


人は現実に起きていないことや成しとげていないことについて、「こういう感じじゃないだろうか」と表現することができます。それは想定、計画、構想、設計、思考実験、などとさまざまなことばで表現されます。現実にそれを起こしたり成しとげたりするよりもはるかに安あがりかつ時間がかからない点に、こうした行為の利点があります。

「こういう感じじゃないだろうか」と表現するうえで、情報技術(IT:Information Technology)は大いに貢献してきました。実物を作って試さなくても、コンピュータ上で実物を作って試すのとおなじようなことをすることができるからです。

なにかをデザインする仕事では、情報技術を駆使して「こういう感じじゃないだろうか」という想像を明確化することがおこなわれています。

たとえば、自動車のデザインでは、試作車を作って走らせてみないでも、コンピュータ上で自動車を“つくる”ことで、どのくらいの燃費か、どのくらいの衝撃に耐えられるか、どのくらい走行距離を伸ばせるかといったことがわかるといいます。

デザインという観点で括れば、これまで情報技術化とは無縁だったような分野であっても、情報技術を駆使して新たな価値を生みだすことができるようになりました。

服飾という分野もそのひとつかもしれません。服づくりでは、昔は手づくり、近年は工場における大量生産と進んできましたが、そこに情報技術が入ってくるという視点はさほどありませんでした。

しかし、服もまたデザインされて完成するもの。情報技術を駆使できる分野です。

「デジタル・テキスタイル・プリント」という技術はかなり浸透してきました。コンピュータ上で印刷物をデザインしてそれをデジタルでプリントするのとおなじように、コンピュータ上で服やネクタイの柄をデザインしてそれをデジタルでプリントするのです。

これにより服やネクタイに使われない余分な染料の使用容量を抑えられる、多品種少量生産ができるようになる、1個の製品にかかる費用を抑えることができるなどの利点がいわれています。

さらに、3Dプリンタが実用化されはじめ、2014年ごろからは服ではありませんが、3Dプリンタを使って靴のデザインをするといった技術も企てられるようになりました。2014年には、スニーカー製造業のナイキが3Dプリンタを使ったアパレル商品の製造方法を特許申請したそうです。

多品種少量生産の先にあるのは、より気軽にカスタムメイドの服をつくることです。服のデザインに自分の体形が当てはまるかどうかを気にすることなく、自分の体形に合わせて服をデザインするということも簡単にできるようになりはじめています。デジタルファッションという会社では、コンピュータ画面上で360度パノラマ的に“着せかえ”することのできるシステムや、3次元の衣服形状を2次元の型紙に展開できるデザインパタン作成ソフトなどを開発し、注目を集めています。

服装というものは、その人が自分を表現する手段であると同時に、まわりの人がその人がどういう人であるかという情報を得る手段でもあります。情報技術によって、思いどおりの服装を手に入れることができるようになるという傾向は、そのふたつの手段をより際だたせることにつながります。

参考資料
コニカミノルタ 2012年発表「高品質デジタルテキスタイルプリント『Nassenger Quality(ナッセンジャー クオリティ)』ブランドの立ち上げ」
http://www.konicaminolta.jp/inkjet/topics/2012/1212_01_01.html
神田国際特許商標事務所 2014年6月19日付「3Dプリンターを使ったアパレル商品の製造技術、NIKEが特許申請」
http://kanda-ip.jp/2014/06/19/8639
デジタルファッション「製品案内」
http://www.digitalfashion.jp/new/product/index.html
| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)
宇宙でつくった電気エネルギーをマイクロ波で地球へ

NASA Ames/JPL-Caltech/T. Pyle

人は、いつの時代も「何年ごろにはこれが実現できているだろう」と将来の予想をします。

「2030年ごろに実現しているのではないか」といった将来予想の対象になっている技術のひとつに、「宇宙太陽光発電システム」(SSPS:Space Solar Power System)があります。宇宙空間に太陽光発電所を設置し、得られた電力を電波に換えて地上まで伝送し、地上でまた電力に換えて使うというシステムです。

 博報堂の「生活総研」では、“2030年の年表”を示していて、「人工光合成」や「超小型ロボット」などの実現とともに、「人工衛星で宇宙空間の太陽光エネルギーをマイクロ波で地上に送電する『宇宙太陽光利用システム(SSPS)』が実用化する」といういことも、年表の一項目に盛りこんでいます。

宇宙太陽光発電の構想は1968年、チェコ生まれで米国で活躍した航空宇宙技術者ピーター・グレイザー(1923-2014)が提唱したのがはじまりとされています。日本では、2015年1月、内閣の宇宙開発戦略本部が決定した「宇宙基本計画」のなかに、つぎのように記されています。

「エネルギー、気候変動、環境等の人類が直面する地球規模課題の解決の可能性を秘めた『宇宙太陽光発電』を始め、宇宙の潜在力を活用して地上の生活を豊かにし、活力ある未来の創造につながる取組や、太陽活動等の観測並びにそれに起因する宇宙環境変動が我が国の人工衛星等に及ぼす影響及びその対処方策等に関する研究を推進する」

生活総研も記しているように、宇宙太陽光発電システムでは、「マイクロ波」という電波を使って、宇宙で得られた電力を地上に伝送しようとしています。マイクロ波とは、波長が1センチメートルから10センチメートル、周波数にして3ギガヘルツから30ギガヘルツの電波のことで、テレビの遠距離中継や衛星中継などにも使われています。

電力を地上まで伝送するのにマイクロ波を使う利点としては、10ギガヘルツ以下の周波数では雲や雨を透過することや、マイクロ波とはべつのレーザー無線にくらべて安全性を確保しやすいこと、などがあげられます。

宇宙航空研究開発機構(JAXA:Japan Aerospace eXploration Agency)は、原子力発電所1基なみの1ギガワットの電力を供給できる宇宙太陽光発電所を宇宙に建設する構想をもっています。自転する地球に対して、地球からおよそ3万6000キロメートル離れた宇宙空間の静止軌道上に宇宙太陽光発電所を浮かべ、そこから安定供給することを目指しているとのこと。

宇宙太陽光発電所から送られてくるマイクロ波を地上で効率よく使うには、なるべくピンポイントで受信しなければなりません。宇宙航空研究開発機構は、3万6000キロ離れた宇宙からのマイクロ波を、地上で直径2キロメートルの範囲内で受信することを想定しています。こうした精度の高い技術を実現することが、この壮大な計画では必要条件のひとつとなります。

しかし、いまロケット1基で宇宙に運べる荷物は4トンほどとされるなかで、1ギガワット規模の宇宙太陽光発電所を宇宙に建設するには1万トンの資材を宇宙に運ぶ必要があり、いまのロケット打ちあげ費用からすると、2500往復分で25兆円も必要になるという試算もあります。

太陽光発電を、地上でなく宇宙でおこなわなければならない理由が求められていきそうです。宇宙航空研究開発機構は、「昼夜、天候の影響を受けにくく、エネルギー源として安定している」「強度の高い太陽光(地上の約1.4倍)を利用できる」「地上における自然災害(地震等)の影響を受けにくい」などの利点を掲げています。

参考資料
生活総研ONLINE「未来年表」
https://seikatsusoken.jp/futuretimeline/search_category.php?year=2030&category=5
首相官邸「宇宙基本法」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utyuu/kihon.pdf
宇宙航空研究開発機構「宇宙太陽光発電システム(SSPS)について」
http://www.ard.jaxa.jp/research/hmission/hmi-ssps.html
宇宙航空研究開発機構「マイクロ波無線エネルギー伝送技術の研究」
http://www.ard.jaxa.jp/research/hmission/hmi-mssps.html
日本科学未来館コミュニケーターブログ 2014年2月17日付「エネルギー問題を宇宙で解決?!」
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20140217post-462.html
| - | 20:36 | comments(0) | trackbacks(0)
エンジン内の化学反応で自然発火し、ノッキングを起こす


自動車などのエンジンで、ノッキングという現象が起きることがあります。ふつうに自動車を走らせているときとは異なる、「ガララララララ」といった音が聞こえます。

ノッキングは、英語で書くと“Knocking”。扉などを「こつこつ叩く」の意味の“Knock”から来ています。実際に、ノッキングの起きているエンジンでは、打撃的な振動が生じています。異音が出るだけで済むこともありますが、場合によってはエンジンが壊れてしまうこともあります。

エンジンのなかでは、ピストンが上下して気体を圧縮したり膨張したりをくりかえします。ピストンがもっとも上に来る直前に、点火プラグの作用により点火されます。これにより気体が燃焼して、動力エネルギーへと換わります。このとき、ピストンが運動している空間である気筒のまわりに漂う混合気体が発火することがあり、これがノッキング音として聞こえるわけです。

では、どうして気筒のまわりで混合気体が発火してしまうのか。その原因のひとつとされているが、自然発火あるいは自発火などとよばれる現象です。

よく、ものが燃焼するには、「燃えるもの」「酸素」「着火エネルギー」の三つの要素が必要であるといいます。厳密には、燃えるものと酸素が一定範囲の比率のなかで混じりあい、かつ、一定以上の着火エネルギーが加わると燃焼します。

自然発火とは、人為的に火をつけるのでなく、火がついてしまうことをいいます。上の「燃えるもの」「酸素」「着火エネルギー」の三つの要素に当てはめると、まず「燃えるもの」としてガソリンにふくまれる物質などがあります。そして、気筒のまわりには酸素もあります。さらに、着火エネルギーとして十分な熱があると自然発火が生じるわけです。

自然発火の引き金となりうるのは、物質の化学反応。化学反応が起きると熱が生じします。その熱により、物質みずからの温度が高まります。温度が高まることで、さらに物質の化学反応の速度が増し、発熱が増えてさらに物質の温度が高まり……という循環をくりかえした末に、発火しうる温度に達するとその物質は自然発火します。

使うガソリンの、ノッキングの起こしにくさ指標として、「オクタン価」という値があります。ノッキングを起こしにくい物質に「イソオクタン」というものがあり、いっぽう、ノッキングを起こしやすい物質に「ノルマルヘプタン」というものがあります。イソオクタンを100、ノルマルヘプタンを0として、これらを混合したものと、試料のガソリンをくらべて、ノッキングの程度をはかります。

ノッキングが起こりにくようにオクタン価を高くしたガソリンを「ハイオクタンガソリン」、略して「ハイオク」といいます。

参考資料
Yahoo!知恵袋「点火時期を遅らせるとなぜノッキングが起きないのですか?」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1129229941
労働安全衛生総合研究所「何もしていないのに燃え出す不思議『自然発火のはなし』」
http://www.jniosh.go.jp/oldsite/mail-mag/2010/26-4.html
ブリタニカ国際大百科事典「オクタン価」
https://kotobank.jp/word/オクタン価-40027
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
「増やすことで得られる価値を、減らさないことで得ることもできる」


人は、量が増えたり減ったりすることを気にします。たとえば、昨日よりも今日のほうが貯金がいくら増えたとか、体重がいくら減ったかということで、一喜一憂します。

人の行為がかかわって量が増えたり減ったりすることについては、ものごとによりますが、つぎのような考えをすることができるといいます。

「増やすことで得る価値を、減らさなことで得ることもできる」

たとえば、1万円を得るということを考えてみます。仕事をした対価として1万円が報酬として入ってくれば、「1万円を得た」ことになります。そのいっぽうで、ふつうに暮らしていたら1万円を使ってしまうはずのところを節約して1円も使わずに過ごせば「1万円を得た」のとおなじ結果を得ることができます。

おなじようなことは、ダイエットをしている人の体重1キログラム減という成果を得るまでの過程にも当てはまります。走ったり泳いだり運動をして1キログラム分の熱量を消費すれば、「1キログラム減を実現した」ことになります。そのいっぽうで、ふつうに暮らしていたら1キログラム分の熱量を得るところを、なにも食べずにがまんしていれば、基礎代謝による影響により「1キログラム減の実現した」のとおなじ成果を得ることができます。

また、電力消費についても、おなじような考えで説明する人がいます。たとえば、原発10基分の電力を得ることを考えます。当然ながら原発10基を稼働させれば、「原発10基分の電力を得た」ことになります。そのいっぽうで、原発10基分の電力を消費してしまうはずのところを節電して1ワット時も消費せずに切りぬければ、「原発10基分の電力を得た」のとおなじ結果を得ることができます。

つまり、仕事をしたり、ダイエットをしたり、発電所を稼働させたりすることで得られるのとおなじ分量の価値を、節約したり、断食したり、節電したりすることでも得られるというわけです。より単純な表現を使えば、体を動かして得られる価値は、体を動かさないでも得ることができる、となります。

ただし、これらの話は、1万円、1キログラム、原発10基分というそれぞれの価値のみに焦点を絞ったもの。

仕事して1万円を稼がないかわりに、なにもお金を使わないで1万円を節約するとなると、仕事をする場合より時間はできますので、お金を使わないでできる読書などをして過ごせば、さらにお金とはべつの価値を得られることになります。

しかるに、ダイエットについては、運動をして1キログラムを減らす代わりに、なにも食べずにがまんして1キログラムを減らすとなると、疲れはしませんが栄養など健康に影響が生じるおそれはあります。

「なにかをしていくらかを得る」ことと「なにかをしないでその分を減らさない」ことの結果として得られる価値はほぼおなじといえますが、伴なってくるものごとはすこし異なってくるといえましょう。
| - | 16:05 | comments(0) | trackbacks(0)
「エリックサウス」のランチミールス――カレーまみれのアネクドート(70)


あらためて。国語辞典で「カレー」と引くと、こんなふうに記されています。

「淡黄色粉末の、非常に辛みのある香辛料。クミンカルダモンシナモン生姜(しようが)コエンドロ黒胡椒唐辛子フェヌグリークターメリックなど30〜40種の香辛料を配合して作る。インドが主産地で、熱帯諸国で盛んに用いる。カレー粉」(スーパー大辞林)

厳密には、インドには「カレー」とよばれる料理はありませんが、カレーという料理をかしこまって説明するとこうなるわけですね。

国語辞典には「インドが主産地」と、さらっと記されています。しかし、インドという国は広大です。地域によって、カレーの特徴もちがいます。

チェンナイ(マドラス)やバンガロールなどの都市をふくむ南インドでは、「ミールス」とよばれる料理が食べられています。ミールスは、「一日のうちの主となる食事」のような意味のことばで、日本ではざっくり「カレー定食」のようにいわれています。英語で「食事」を意味する“meal”の複数形が語源という説もありますが、発音は「ミールス」。通常の英語の文法では「ズ」とにごるところ、にごりません。

ミールスを食べられる東京の店としてよく知られているのが、八重洲地下街に構える「エリックサウス」です。カウンター席ばかりですが、出てくる料理はさすがミールス。本格的です。

昼どきのミールスの料理としてもっとも基本的なものが「ランチミールス」。豆のひきわりと野菜にサンバルマサラという香辛料を加えて煮こんだ「サンバル」とよばれる煮汁、トマトやタマリンドなどを黒胡椒やニンニクで味付けして煮こんだ「ラッサム」とよばれる煮汁、そして「本日の菜食カレー」と、お好みのカレー1種が「ターリー」という金属の小皿に入れられます。

写真の左奥の白い煮汁は、この日の「本日の菜食カレー」。茹でてすりつぶしたにんじんをヨーグルトで和えた「キャロットモール」とよばれる風変わりなカレーです。

ターリーを載せた大きな金属丸皿には、ほかにサラダまたはヨーグルトが入ったターリー、それに黄色いターメリックライスと白くて粒が細長いバスマティライスが盛られ、その上に煎餅状のババドが乗せられます。

日本でよく見られるインドカレー店で出される料理とは一線を画します。そのおもなちがいは、ナンがないことと、煮汁が濃厚なルゥでなく、さらさらしたスープであること。そもそも、4皿のターリーに入った汁物のうち、「カレー」といえるのは2皿のみです。

それぞれの煮汁を、ターメリックライスやバスマティライスにかけます。すると、すっと煮汁がライスの奥へと染みこんでいくので、これをかきまぜて食べます。バスマティライスには、もともと香ばしさがあって、これに煮汁の辛さが加わって独特の味に。

カレー食がこれだけ日本で普及しているなかで、「ミールス」という料理やことばは、それほど知られていません。そこには、これを「カレー」とよんでよいのかという人びとのためらいもあるのでしょうか。「カレーを一部ふくむ南インドの定食」というほうが適切なのかもしれません。

エリックサウスのホームページはこちらです。
http://www.erickcurry.jp
食べログ情報はこちらです。
http://tabelog.com/tokyo/A1302/A130201/13130363/
| - | 21:11 | comments(0) | trackbacks(0)
液体燃料ロケットを日本の主力技術に

H-IIAロケット
NASA/Bill Ingalls

ロケットは筒型をしています。筒のなかには、おもに推進剤とよばれる、ロケットを飛ばすための燃料が入っています。

宇宙研究開発機構(JAXA:Japan Aerospace eXploration Agency)と三菱重工が開発しているH-IIAロケットという日本製の主力ロケットでは、推進剤として液体が使われています。推進剤には、固体のものと液体のものがありますが、液体の推進剤を使ったロケットでは推力の調整をしやすいといった利点があるとされています。

液体の推進剤は、燃料の役目を果たす液体水素と、燃料を燃やすための酸化剤の役目を果たす液体酸素からなりたっています。この二つが、筒のなかの別々のタンクに入れられていて、ロケットのおしりの部分にあたるロケットエンジンにべつべつの管で送りこまれます。

そしてロケットエンジンでは、上部にある燃焼室で燃料を燃焼させてガスをつくって高温・高圧にし、その高温・高圧ガスをさらに下部にあるノズルから噴射します。これにより、ロケットは飛んでいきます。

H-IIAロケットは、2015年の現在までに27回、打ちあげられ、26回、成功しています。

唯一の失敗は、2003年11月に6号機のときのもの。打ちあげ後、エンジンが付いている固体ロケットブースター2基のうち、1基が予定の時刻でも切りはなされず、ロケットの本体に残ったままとなってしまいました。やむなく管制室が指令破壊命令を出して、ロケットを自爆させました。

失敗の原因は、燃焼ガスの異常な噴出によってノズルに穴が空き、高温のガスが漏れて爆発ボルトという装置の導爆線が溶けてしまったこととされています。爆発ボルトは、固体ロケットブースター切りはなしのための装置。これが損傷してしまったため切りはなされなかったものと考えられています。

その後、ノズルの形状、素材、厚さなどの見直しがおこなわれ、2005年5月にH-IIAロケットの打ちあげが再開。以降はいままですべて成功しています。

宇宙航空研究開発機構と三菱重工業はその後、H-IIAロケット以上の能力をもつロケットとしてH-IIBロケットを開発。さらに、2014年からは、H-IIロケットシリーズに代わる新型基幹ロケット「H-III」の開発にもとりくんでいます。いずれのロケットも液体の推進剤を使ったもの。液体燃料ロケットの技術を固めていきます。

参考資料
宇宙情報センター「構造の簡単な『固体ロケット』と、誘導制御が容易な『液体ロケット』」
http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/solid_liquid_rockets.html
日本宇宙少年団編 的川泰宣・毛利衛監修『スペースガイド.2001』
http://edu.jaxa.jp/materialDB/html/guidebook/guidebook/pdf/mission3.pdf
前村孝志・渥美正博「日本の液体ロケットエンジン開発」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhts/33/5/33_229/_pdf
ウィキペディア「H-IIAロケット」
https://ja.wikipedia.org/wiki/H-IIAロケット
ウィキペディア「H-IIAロケット6号機」
https://ja.wikipedia.org/wiki/H-IIAロケット6号機
宇宙航空研究開発機構 2015年4月9日発表「新型基幹ロケットの開発状況について」
http://www.jaxa.jp/press/2015/04/20150410_rocket_j.pdf
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
テレビ会議の映像技術もHDから4Kへ

写真作者:Norio NAKAYAMA

人と人が話をするときには、昔から会うという方法がとられてきました。たとえば、会社で大切な会議があるときには、その議題にかかわる全国の支社の社員が本社の会議室に集まるといったことはいまでもあります。

しかし、話しあう人びとがおたがいに遠方にいて、そうひんぱんに会えるわけではないという場合もあります。そうしたとき、人はなるべく合うべき人があたかもそこにいるような環境をつくりだそうと考えます。

テレビ会議システムという手法もそのひとつです。単純なテレビ会議システムは、テレビの発明とほぼ同時期に存在したといわれています。2台の有線のテレビシステムを離れた場所でつなぐ方式です。

その後、映像方式は、より画面内の画素数が多くなる方向、つまりきめ細かく映しだす方向に進化していきました。テレビやコンピュータ動画では、画面の縦横のうちの横の画素数が720の標準画質映像(SD:Standrd Definition video)から、横1080画素以上の高精細度映像(HD:High Definition video)へと移り、さらにいまでは横3840画素の4Kといわれる映像が当たりまえのように流れるようになっています。画素数のちがいは、たとえばユーチューブの「フィルタ」という選択欄で「HD」や「4K」を選ぶと感じることができます。

ビデオ会議での映像もやはり、画素数が多くなる方向へと移っています。2000年代後半には標準画質映像(SD)から高精細度映像(HD)に移っていきました。そして、HDが主流の時代が数年つづくなかで、かつて標準画質映像のビデオ会議システムにかかっていた費用なみで高精細度映像システムを導入できるようになるなど、低価格化が進んでいきました。このあたりも、テレビ市場の流れとにています。

そして、高精細度映像のテレビ会議が一般的になりつつあった2008年には、慶應義塾大学とNTTの共同チームが、4Kでの映像を使った多地点テレビ会議の実演に成功するなど、“次世代”に移る準備が進められていました。

2014年や2015年ごろからは、4Kの映像に対応したテレビ会議システムが製品化され、社会でも使われだすようになりました。たとえば、岐阜県教育委員会が2015年1月、ネットワークシステムなどを提供するシスコシステムの4K映像テレビ会議システムを導入し、岐阜県総合教育センターと県内学校をつないで遠隔研修に活用することを発表したといった話題も見られます。

映像や写真の本質的な目的に、「そこにあたかもほんとうの人が存在しているような感覚を提供する」ことがあります。「写真」ということばはまさにその目的を意味しています。

会議についても現実問題としては、出席している人の表情や姿勢などの細かい動きを読みとり、そこから新たな発言をしていくといったような、生の人どうしの情報が鍵となるものです。テレビ会議システムは、まだ、そうした会議室での人びとの機微までを再現できているとまではいきませんが、システムを提供する企業がその方向を目指していることにちがいはありません。

参考資料
「4Kの実用性と8Kの将来性」『化学と工業』2015年5月号
http://www.chemistry.or.jp/journal/doc/ci1505.pdf
慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構、日本電信電話株式会社 2008年12月25日発表「4K超高精細映像による多地点テレビ会議の実演に成功」
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2008/kr7a43000000maf6-att/081225_2.pdf
business network.jp 2015年1月6日付「岐阜県教育委員会、4K画質のビデオ会議システムで遠隔研修」
http://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/3747/Default.aspx
| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)
地上3万6000kmに必然的な理由

米国の気象衛星GOES-8のイメージ
NASA

宇宙空間には、さまざまな人工衛星があります。

なかでも、地球の自転に合わせるようにして地球のまわりを動いている人工衛星は「静止衛星」とよばれます。実際は宇宙空間を時速1万11000キロメートルほどという速さで動いていますが、自転している地球からすれば止まって見えるので、静止衛星とよばれています。

放送衛星、通信衛星、気象衛星など、地球のある場所と宇宙とのあいだで常に安定した電波信号のやりとりをする必要がある人工衛星は、静止衛星となります。

どの静止衛星も地上からの高さはほぼおなじです。その高さは約3万6000キロメートル。国際宇宙ステーションの高度が地上から400キロメートルなので、その90倍もの高さのところに静止衛星があることになります。

どうして、これほどの高さまで静止衛星を送りこまなければならないのでしょう。

地球のまわりを周っている物体には、遠心力、それに地球の引力がはたらきます。静止衛星であろうが、国際宇宙ステーションであろうが、地球からの高さを一定にして移動するためには、遠心力と引力がつりあっていなければなりません。

この条件に、物体にはたらく重力により得られる重力加速度を加味すると、静止衛星が地球の中心から半径何キロのところになければならないかが計算で求められます。その数値は、地球の中心から4万2166キロメートルとなります。

ただし、地球の中心から地上までは、約6378キロメートルあるので、これを差しひくと、地上から静止衛星の軌道までの高さは3万5788キロメートル、つまり約3万6000キロメートルとなります。

地球からの見た目として静止していなければならない状態を保つためには、地球約3個分の高さまで人工衛星をもっていかなければならないわけです。

参考資料
静止衛星の軌道半径はなぜ約42,000kmか
http://www.enjoy.ne.jp/~k-ichikawa/Satellite_GS.html
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
心からでない笑いでは「目が笑っていない」
心から愉快になっているわけではなさそうな人のことを指して「目が笑っていない」ということがあります。「目が笑っていない」という表現は、ほぼほんとうのことをいっているようです。

19世紀のフランスで、ギヨーム・デュシェンヌ(1806-1875)という神経科学者が活躍しました。デュシェンヌの名は、筋ジストロフィーの一分類である「デュシェンヌ型」に聞かれます。


ギヨーム・デュシェンヌ

デュシェンヌは、動物のからだに対する電気の作用などについて研究する電気生理学という分野での貢献者とされています。彼は被験者の顔に電極をつけて電気を通すなどして、表情をつくる顔の筋肉の動きなどを研究しました。

その研究成果のひとつに、「真の笑顔」と「偽の笑顔」のちがいを解きあかしたことがあります。

人が心から笑うときも、心では笑っていないときも、口のまわりの筋肉の動きにはとくだん変わりはありません。しかし、眼のまわりには大きなちがいが生じることをデュシェンヌは発見したのです。

その眼のまわりの筋肉とは「眼輪筋」というもの。字のごとく、輪を描くように目のまわりを囲んでいる筋肉です。

デュシェンヌによると、人が心から笑うときは、この眼輪筋が収縮するといいます。つまり「眼が笑っている」のです。しかし、心から笑っていない人の顔では、眼輪筋の収縮は見られません。「眼が笑っていない」のです。眼輪筋には、自分の意志で収縮させるなどの活性化をする方法がないため、心から笑うしか収縮させられないと説明されます。

20世紀になり、米国の心理学者ポール・エクマン(1934-)は、デュシェンヌが明らかにした心からの笑いを「デュシェンヌ・スマイル」と名づけました。いっぽう、心からではない笑いは「非デュシェンヌ・スマイル」とよばれています。後者のほうを「デュシェンヌ・スマイル」と名づけられていたら、デュシェンヌも浮かばれなかったことでしょう。

ちなみにですが、グーグルの画像検索で「目が笑っていない」と入れてみると、えなりかずきさん、ペ・ヨンジュンさん、楽しんごさんなどの顔の画像が出てきました。

参考資料
デジタル大辞泉「デュシェンヌ」
https://kotobank.jp/word/デュシェンヌ-1711393
ウィキペディア「眼輪筋」
https://ja.wikipedia.org/wiki/眼輪筋
津々木晶子「笑い・ポジティブ感情・運動量の関係解析」
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/KO40002001-00002010-0038.pdf?file_id=60442
レト・U・シュナイダー著、石浦章一・宮下悦子訳『狂気の科学』
| - | 23:28 | comments(0) | trackbacks(0)
断酒、禁煙ならぬ、断卵


人は、なにかしらの理由で、好きにしているものごとを“断つ”ことがあります。たとえば、お酒のことで人に迷惑をかけたという経験をした人は「断酒」を誓って行います。また、このままでは自分の健康を害すると考えた人は「禁煙」を決めて行います。

こういうことばがあるのかはなんともいえませんが暮らしのなかで「断卵」を行っている人もいます。卵からなる食品を摂ることを断つことです。

卵を断つ理由とはなんでしょうか。人によっては、卵アレルギーということもあるかもしれません。しかし、卵アレルギーにかかることが多いとされるのは3歳未満の乳幼児で、子どもがみずからの意志で「卵を断つ」と考えることはそうはなさそうです。

また、コレステロールの値が高いと診断された人は、卵を控えようとするかもしれません。しかし、卵を多く食べても、“悪玉”とよばれるLDL(Low-Density Lipoprotein)コレステロールが極端に高まるようなことはじつはないとされています。

「断卵」をする人びとでは、とりわけ魚介類の卵を断つ人がいるとされます。断卵生活を送るある人は、つぎのように証言します。

「健康診断で、尿酸値の値が基準値をはるかに超えていると言われました。医者からは、『いくら、たらこ、明太子などの魚類の卵を食べるのをおやめなさい』と言われました」

尿酸値というのは、血液にふくまれる尿酸という物質の量の多さを示すものです。血液100ミリリットルあたりに尿酸が何ミリグラムふくまれているかを値にしたもので、値が高くなると足の指のつけ根などに激痛が走る痛風になりやすくなります。

医者がこの人に「いくら、たらこ、明太子など」とあげたのは、「たとえば」ということだったのかもしれません。たしかに、いくら、たらこ、明太子は、尿酸値を高めるプリン体という物質を多くふくむ食材だからです。ただし、レバー、カツオ、マイワシの干物などもプリン体を多く含むとはされます。

しかし、忠告を受けたこの人にとって、いくら、たらこ、明太子などを食べるのをやめるということは、とても大きな試練となっているようです。なぜなら、この人は、酒を飲むより、タバコを吸うより、魚類の卵を食べることにやみつきになっていたからです。

食べものの嗜好は子どものころの食の経験に大きく影響を受けるといわれます。魚類の卵が、「ごちそう」とされたまにしか食卓に出ず、しかも兄弟姉妹でとりあいとなれば、その人にとって「魚の卵は宝物」となることでしょう。そして大人になり、自分の稼いだお金で自由に魚の卵を食べられるようになれば、ついたくさんの量を摂ってしまうものです。

「ホテルの朝食で、明太子が山のように盛られて取り放題になっていますね。それを見ながら、食べるまいとぐっと堪えるのがどれだけたいへんなことか……」

人の断つものとその理由は人それぞれ。しかし、断つことの辛さは人びとに共通しているようです。

参考資料
「食品中のプリン体含有量 一覧表」
http://www.tufu.or.jp/pdf/purine_food.pdf
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
「『カラダによい水』は薬にも毒にもならない」


日本ビジネスプレスのウェブニュース「JBpress」で、きょう(2015年)10月16日(金)「『カラダによい水』は薬にも毒にもならない 謎多き『機能水』の正体(前篇)」という記事が配信されました。取材と執筆をしました。

インターネットショップや美容商品取扱店などでは、「美と健康の可能性を秘めた」「カラダによい」「体内環境をサポート」などの宣伝文句で、健康効果を期待させる水が売られています。こうした水は「機能水」とよばれることもあります。

では、こうした宣伝内容を見て消費者が抱いてしまうであろう健康効果を、ほんとうにこうした水からえられるのか。そんな疑問を、元杏林大学保健学部准教授で理学博士の平岡厚さんに投げかけました。

「機能水」もそうですが、健康効果を宣伝する商品をめぐっては、「健康効果がある」とするメーカーや監修役たちの宣伝に対して、否定的な研究者たちが「健康効果はない」と主張する構図がよくあります。

そうした議論の多くは「これまでの科学の常識から考えて、そんな効果あるはずはない」と述べるだけの“机上の主張”にとどまりがちです。

これに対して、平岡さんは「実際のところ健康効果をえられるのだろうか、試してみよう」という視点から、メーカーなどが宣伝している「機能水」の効果の有無を、試験をして検証しました。

検証したのは、「抗酸化作用を持つ成分が含まれており、体内で有害な活性酸素を消去する」と宣伝されている水と、「水分子のクラスター・サイズが小さいので、水のbioavailabilityが大きく、生体組織への吸収率が高い」とされている水について。

前者については、研究者が1990年代後半、水を電気分解すると原子状の水素が生じ、それががんや糖尿病を抑える効果をもたらすと主張したことなどから、抗酸化作用を宣伝する水がよく出まわるようになりました。

後者は、水分子の集団である「クラスター」の規模を小さくすることで生体内への水の吸収が高まり健康効果をえられるとする宣伝する水のことです。「ナノクラスター水」などとよばれています。bioavailabilityとは「生物学的利用能」と訳されることばで、投与された成分がどれだけ生体内に到達して作用するかの能力と意味です。

平岡さんは、こうしたことが宣伝されている複数の水製品を対象にして、実際にその効果の有無を試験しました。

結果の詳細は、記事に書かれてありますが、宣伝されているような効果はほぼ得られないという否定的なものでした。

平岡さんは、「こうした類の水のほとんどは、"薬にも毒にもならない”もの」と語っています。飲みたい人は選んで飲んでもとりわけ害にはならないため、たとえ健康効果をえられなくてもさほど社会問題にならないという側面もあるようです。

「『カラダによい水』は薬にも毒にもならない 謎多き『機能水』の正体(前篇)」はこちらです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44991

後篇は、10月23日(金)ごろの配信予定。巷で出まわっている「機能水」の現状を整理して、飲み水との付きあいかたを平岡さんに尋ねる予定です。
| - | 10:57 | comments(0) | trackbacks(0)
「インターフェロン」は「干渉」から、「インターロイキン」は「白血球」から
生物学では、「インターフェロン」と「インターロイキン」ということばが聞かれることがあります。どちらも「サイトカインの一種」などと説明されていますが、ちがいはどのようなものでしょうか。

まず、サイトカインというのは、細胞が放出するタンパク質のうち、免疫系ではたらいたり、腫瘍やウイルスなどを攻撃したりするタンパク質のこと。このブログでは「ざっくりといえば、ホルモンみたいなもの」として説明したことがあります。

そのサイトカインの例としてあげられるのが、インターフェロンであり、インターロイキンです。

まず、インターフェロンは、サイトカインのなかでも、おもにウイルスの感染を防ぐはたらきをもつ糖タンパク質のことです。糖タンパク質とは、糖を成分にふくむタンパク質のこと。ウイルスに直接的に攻撃するのでなく、ウイルスが宿る細胞にはたらきかけてウイルス抵抗性をあたえると考えられています。


ヒトの細胞から分泌されるインターフェロンの一種、「インターフェロン-α2b」の構造
画像作者:Nevit Dilmen

「インターフェロン」は、英語では“Interferon”と書きます。これは「干渉する」といった意味の“Interfere”からの造語です。1950年代、ウイルスに感染した細胞が他のウイルスの感染を阻止する「干渉現象」から、日本のウイルス学者の長野泰一(1906-1998)らによって発見されました。なお、そのころは「ウイルス抑制因子」といわれていました。

いっぽうの、インターロイキンは、サイトカインのなかでも、細胞の一種である白血球が分泌して、免疫反応にかかわるリンパ球の増殖や分裂をひきおこすタンパク質のことをいいます。

「インターロイキン」は、英語では“Interleukin”と書き、“inter”と“leukin”に分けることができます。“inter”については、免疫細胞どうし(inter)のコミュニケーションに使われることから付けられたとされます。また“leukin”については、インターロイキンを分泌する「白血球」(leukocyte)ということばがもとになっています。


インターロイキンの一種「インターロイキン1β」の構造
画像作者:Jmol Development Team

インターロイキンについては、1977年、米国の免疫学者チャールズ・ディナレロ(1943-)が、のちに「インターロイキン-1」とよばれようになるタンパク質を同定しました。いまでは「インターロイキン1」から「18」まであります。1979年に分類のしかたの混乱状態を整理するため、タンパク質として同定された年代順に、番号がつけられるようになりました。

インターフェロンもインターロイキンも免疫反応と関係するサイトカインであるため、研究者や製薬会社などがしくみを解明していき、医薬品開発につなげるなど医療分野への応用を進めています。

参考資料
ブリタニカ国際大百科事典「インターフェロン」
https://kotobank.jp/word/インターフェロン-32985
百科事典マイペディア「インターフェロン」
https://kotobank.jp/word/インターフェロン-32985
研究者 新英和中辞典「interferon」
http://ejje.weblio.jp/content/interferon
栄養・生化学辞典「インターロイキン」
https://kotobank.jp/word/インターロイキン-437623
ウィキペディア「インターロイキン」
https://ja.wikipedia.org/wiki/インターロイキン
| - | 18:27 | comments(0) | trackbacks(0)
講談社の会員誌『Rikejo』だれでもウェブで読めるように


出版社が出版している紙の雑誌の中味を、インターネットなどの電子媒体でも見ることのできるサービスが増えてきています。

講談社は、「codigi」というサービスを2015年に始めました。これは、「対象商品を買うと、もれなくデジタル版も読むことができるサービス」(codigiホームページより)。本屋やコンビニエンスストアで買う、紙の『FRAU』『ViVi』『with』『VoCE』などの雑誌に、コード番号が印刷されています。「codigi」のサイトで初回登録をして、そのコード番号を入力すると、紙の雑誌とほぼおなじ内容をそのままウェブ上で読むことができます。

「codigi」で読むことのできる雑誌の多くは女性ファッション誌ですが、その雑誌のならびのなかで異彩を放っているのが『Rikejo(リケジョ)』です。

『Rikejo』は、2010年より講談社が発行しつづけている会員誌。講談社は同年、理系女子や理系分野を目指す女子を応援する「リケジョプロジェクト」を始め、2か月に一度の頻度で無料登録会員に向けて『Rikejo』を届けてきました。

そして2015年7月発行の第34号より、登録会員でない人も「codigi」で『Rikejo』を読むことができるようになったのです。

たとえば、第34号では「細菌たちが未来をつくる 発酵のチカラ!」という科学の特集を組んでいます。『もやしもん』のキャラが登場したり、「発行するまち。」をアピールする滋賀県高島市の発行スポットを紹介していたりします。

また、第35号では「スマートフォンにかかわるリケジョブ」というキャリア関連の特集を組んでいます。ローム、KDDI、グーグルなど、スマートフォンの製造や技術に携わる会社で勤務する理系女子社員の活躍ぶりを紹介しています。

『FRAU』や『ViVi』などのファッション誌とちがって、『Rikejo』は会員登録すれば無料で届けられる会員誌。紙で読んでも無料であるのならば、ウェブ上でも無料で読んでもらい、『Rikejo』を会員以外の人たちにもより知ってもらおうとする講談社のねらいがあるようです。

『Rikejo』毎号ごとのコード番号は、「codigi」とは別媒体の「リケジョ」ホームページに都度、載る予定です。第34号のコード番号はこちらのページで、また第35号のコード番号はこちらのページで得ることができます。

「Codigi」のサイトはこちらです。
https://codigi.jp/
| - | 20:22 | comments(0) | trackbacks(0)
やれば半日たらず、やるまでに半月以上


一般的な話として、やってしまえば半日もかからずに終えることができるだろうに、半月以上もやらずに抱えこんでいる仕事というものがあります。

その人はいったい、なにを考えているのでしょう。

やればすぐできるのに、抱えこんでしまう仕事には傾向のようなものもありそうです。人は、えてして初めておこなう物事に不安を覚えて慎重になるもの。「おれ、営業なのに、チラシづくりなんて、いままでやったことないことをやれと部長から言われたけれど、どうしたものか」などと思案しているうちに、ほかのいつもしている仕事をすべきときが近づいていきます。「ま、まずは、やり慣れている仕事を片づけてしまおう」と判断します。こうして、初めてする仕事は先おくりされていきます。

あるいは、その人のなかでその半日もかからずに終えることのできる仕事は、優先順位そのものが低いという場合もあります。優先順位が低いと判断された仕事は、その仕事よりも優先順位の高いと思える仕事が新たに入ってくると、またさらに先おくりの対象になります。こうして、直近の重要な仕事からこなしていくとなると、いくら半日たらずでできるといっても着手するのは半月後。場合によっては3か月後や半年後となる場合もあります。

ただ単純に忙しいため、半日もかからずに終えられる仕事ができないという人もいることでしょう。いまから半月先まで、先約の仕事をする予定で埋まっていて、半日足らずでできるその仕事はどう考えても半月先よりあとでないと着手できないという事情を抱えている人です。

仕事を頼んだ側からすれば、「半日もかからないで終えられるぐらいの量なんだから、すぐやってよ」と言いたくなるものです。

しかし、とくに三番目の、単純に忙しいため「半日たらず」の仕事が半月以上もできないような人にとっては、その「半日たらず」を捻出するだけでも大変なもの。たとえば、おなじような「半日たらず」の仕事を30個、抱えていれば、懸案の「半日たらず」の仕事はやはり半月後ぐらいにようやく着手できることになります。

つまり、「やれば半日たらずでできるでしょ」という理由で、相手にその仕事のしめきりを1日後や2日後に求めてしまうと、その求めを受けた単純に忙しい人は困ってしまうことがあるわけです。
| - | 23:56 | comments(0) | trackbacks(0)
凍結乾燥でストロベリーショートケーキを宇宙食に


「宇宙食」が売られています。東京・青海の日本科学未来館の売店や、インターネット通信販売サイトなどで買うことができます。

写真は、「宇宙食」のストロベリーショートケーキ。レトルトカレーくらいの大きさの包装紙のなかに、ショートケーキが寝るようにして入っています。ケーキ本体は、縦3センチメートル、横6センチメートル、高さ4センチメートルの直方体です。

当然ながら、「ストロベリーショートケーキ」といっても「宇宙食」なので宇宙仕様です。街で売られているショートケーキとの大きなちがいは乾燥していること。凍結乾燥あるいはフリーズドライとよばれる製法が使われています。

凍結乾燥は、食材などを凍らせてから真空のなかに置き、水分を昇華させてとりのぞく乾燥法。食材を高い温度にかけることがないため、風味が変わったりすることなく長期保存することができます。

外見の大きなちがいは、写真でもわかるように「ストロベリー」の部分が、イチゴそのものでないこと。イチゴジャムのような赤いペースト状のものが塗られています。しかも、凍結乾燥しているため、かなり乾いてはいます。

その下にあるのはケーキの層とホイップクリームの層。

ケーキの層は凍結乾燥されていたため、わりとさくさくしていて、歯やナイフで切りさこうとすると生地がぱらぱらと割れます。「ショートケーキ」の「ショート」(short)は、もともと「砕けやすい」とか「脆い」といった意味ともいわれるので、乾燥凍結になってあなかちおかしくありません。

ホイップクリームのほうはかなりクリーム感が保たれています。

通常のイチゴのショートケーキで酸味を演出するイチゴそのものがないからでしょうか、全体としては甘く感じられます。そして、普通のショートケーキにくらべると小さくもあります。しかし、食料がありふれてはいない国際宇宙ステーションなどの宇宙空間で宇宙飛行士がデザートとして食べるという状況を考えると、そのくらいの小ささでも立派なショートケーキになりそうです。

なお、写真の「ストロベリーショートケーキ」は、宇宙食とおなじ凍結乾燥の製法で作った食品であり、これとおなじストロベリーショートケーキが宇宙飛行士の食用に供されているわけではありません。
| - | 17:45 | comments(0) | trackbacks(0)
「痒いところありませんか」に「もの足りないところありませんか」の意味

写真作者:ict.wa4

理容室や美容室に行き、洗髪をしてもらっていると、店員から「痒いところはありませんか」と訊かれます。どんな理容室や美容室に行っても、たいていは訊かれます。

これに対して、ほとんどの人は「ありません」とか「あ、大丈夫です」とか、痒いところがないということを伝えるようです。

しかし、痒いところがある場合、客はどう答えればよいのでしょうか。

「痒いところはありませんか」
「あ、頭頂部のあたりがちょっと痒いです」

このように答えると、店員は頭頂部を掻いてくれるといいます。そのほか、言われた症状によってはシャンプーを換えたり、皮膚がはれているところがないかを確認したりすることもあるといいます。

では、頭髪のまわりと関係ないところが痒かったらどうでしょう。

「痒いところありませんか」
「あ、ちょっと脇腹のあたりが痒いんですけれど」

「痒いところありませんか」
「あ、膝が痒いっす」

こうした、頭髪まわりとは関係のないところででも、「ここが痒い」と客が答えると、店員はその体の部位を掻いてくれる場合があるといいます。

「痒いところありませんか」は、理容師や美容師を育成する専門学校で講師が受講生に、「客に訊ねるように」と教育をするようです。「痒いところありませんか」と聞く店員は、その教えをきちんと実践していることになります。

しかし、「痒いところありませんか」という質問が指すものは、このことばだけではないといいます。

店員は、この質問に、「もの足りないところはありませんか」という意味を込めているといいます。しかし、「もの足りないところはありませんか」と直接的に訊くと違和感があるので、「痒いところはありませんか」という質問に置きかえているといいます。

つまり、「痒いところありませんか」と訊かれたとき、「シャンプーはしっかりやってください」とか、「お湯は熱めにしてください」とか、答えてもよいといういことになります。「痒いところはないんですが」と前おきをするほうが、より意思疎通としてはしっくりくるでしょうが。

店員によっては、客に「今日はお仕事お休みですか」とか「今日も暑いですね」とか積極的に聞いてきて会話をしようとする人もいます。しかし、客とほとんど話さないという店員もいます。そういう寡黙な店員でも「痒いところありませんか」の一言があれば、客との意思疎通は多少なりともとれることになります。

ちなみに、美容店の利用客に「痒いところありませんか」と訊かれたとき、「気になる部分があったら伝えるか」と質問したアンケートでは、「伝える」が14.5%、「伝えない」が85.5%になったといいます。あえてこの質問をしたところで「伝える」が14.5%しかいなかったほどですから、実際はさらに「伝えない」人のほうが多いのではないでしょうか。

参考資料
Excite Bit 2005年10月13日付「『かゆいところありませんか?』に迫る」
http://www.excite.co.jp/News/bit/00091129052281.html
Spotlight 2015年4月23日付「『おかゆいところありませんか?』と訊く本当の意味を知ってますか?」
http://spotlight-media.jp/article/140268403813651592
Yahoo!知恵袋「床屋さんで頭を洗ってもらい「かゆい所ないですか?」って聞かれて、かゆい所を言いますか?」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1413491784
ファナティック「『かゆいところはありますか?』⇒『ないです』美容室で遠慮しちゃう女子約9割!」
http://woman.mynavi.jp/article/150702-43/
| - | 23:46 | comments(0) | trackbacks(0)
革新的なデジタル技術が創発されつづけ30年―sci-tech世界地図(9)


日本でも、海外でも、大学に学部や研究科とは異なる「研究所」が置かれることがあります。大学の組織としては独立性が高いのが特徴。ある学問分野のなかでもかぎられた領域に特化して研究する場所だったり、あるいは正規の研究科の枠を超えた研究をする場所だったりします。

世界の大学内研究所のなかでも、名うての研究所のひとつとされているのが、米国マサチューセッツ工科大学(MIT: Massachusetts Institute of Technology)の建築・計画学部・研究科内に置かれた「メディアラボ」(Media lab.)とよばれる研究室です。米国東海岸、マサチューセッツ州のケンブリッジのチャールズ川北岸に大学とこの研究室はあります。

1985年、計算機科学者のニコラス・ネグロポンテ(1943-)が、元MIT学長で計算工学者のジェローム・ウィズナー(1915-1994)とともにメディアラボを設立しました。

メディアラボの公式ホームページによると、メディアラボは創設から10年ごとに、その時代における機能を果たしてきました。

創設後の最初の10年は、「デジタル革命」を可能にするとともに、人間の表現を拡げるような技術の先端の場であったとしています。認知と学習から、電子音楽、ホログラフィまで、さまざまな領域で研究がなされました。

つぎの10年は、「コンピュータを箱から出した」時代であるとメディアラボは自己紹介しています。「デジタル分野のビットを、実世界の原子に刻みこむ」ような研究を実現できたといいます。

そして、最近の10年は、「扉の入口」で、ひきつづき伝統的な学問分野をチェックしているとしています。活躍する研究者像として、未来に夢中になったプロダクト・デザイナー、ナノ技術者、データ視覚化の専門家、工業技術研究者、コンピューター・インタフェイスの先駆者などをあげています。

研究所の歩みからもわかるように、メディアラボは、表現やコミュニケーションに利用されるデジタル技術にとりわけ特化した教育や研究がなされています。 そして、こうした分野での教育や研究にとって重要なことに、さまざまな学問分野が融合して、革新的な研究成果や技術が生まれるよう、仕切りのない空間に複数の研究グループが同居するような施設になっています。


メディアラボの内部
写真作者:Becky Stern

MITメディラアラボは、2011年から日本人の実業家の伊藤穰一を第4代所長に迎えました。日本人の研究者も多く活躍してきました。

マサチューセッツ工科大学メディアラボは、世界地図上のこちらにあります

参考資料
MIT Media Lab “Mission and History"
https://www.media.mit.edu/about/mission-history
ウィキペディア「MITメディアラボ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/MITメディアラボ
| - | 23:37 | comments(0) | trackbacks(0)
書評『狂気の科学』
表紙カバーの書名の文字に横長の平体が使われていたり、重厚な雰囲気の色使いだったりしますが、2015年の新刊です。

『狂気の科学 真面目な科学者たちの奇態な実験』レト U. シュナイダー著 石浦章一・宮下悦子訳 東京化学同人 2015年 280ページ


自分の価値観という尺度からすると、他人の行為について「どうしてそんなことをするのだろう」と感じることもあるものだ。だが、自分には奇異に見える行為にも、それをしている人にはその人なりの理由がある。

科学をふくむ学問の研究や実験についても、おなじことがいえるのではないか。研究者が、なんらかの理由で「このことを知りたい」と思ってしまったら、その行為を止めることは本人にも他人にもなかなかむずかしい。

そして、「このことを知りたい」というとき、研究者は「それをどのように実現するか」に腐心する。科学には、測定できること、定量的であること、再現可能であることなどの条件のもとで証明されてはじめて認められるという定めがあるからだ。

「どうしてもこのことを知りたい」「しかも科学的にそれを示したい」という願望が重なると、その表現形は、他人からして「どうしてそんなことをするのだろう」ということになる。

本書『狂気の科学』は、そんな科学者たちの、一見、奇妙に感じられる研究や実験の内容を、年を追っていく形で紹介していくものだ。自然科学の分野の話ももちろんあるが、人は人のことを知りたいのだろう、心理学や社会学に関連する話も多くある。

自然科学と心理学と、ふたつの分野から、ひとつずつ内容を紹介してみると……。

自然科学では、「原子時計、空の旅」。1971年、米国の物理学者ジョゼフ・ハーフェレと宇宙飛行士経験者のリチャード・E・キーティングは、アルバート・アインシュタイン(1879-1955)が発表した相対性理論で説明されている現象が、ほんとうに起きるかを「原子時計」を使って実験した。

相対性理論では、「速い速度で動く人にとっては、時はゆっくり進む」となる。二人の研究者は1971年に、果たしてそれが本当であるかを、寸分たがわず時を刻むことのできる「原子時計」をつねに飛行機に乗せて、世界一周させることで確かめたのだ。

その結果は、地球一周しを得た原子時計の進みかたは「59ナノ秒、遅くなった」というもの。見事に、相対性理論が地球上の現象にも当てはまることを実証した。

心理学では、「1ドル・オークション」。1970年、米国の心理学者アラン・I・テガーが、ベトナム戦争を止めることのできない米国の状況を憂いて、「戦争のコストは戦争の利益を上回ることはない」ことを学生たちに示そうとした。

そこで、テガーは、「1ドル札」をオークションにかけることにした。最高値をつけた学生が、1ドル札を得られる。ただし、もうひとつルールを設けた。それは、二番目の高値をつけた人も、その値を払わなければならないが、なにも受け取れない、というものだ。

すると、1ドル札をオークションで落とすために、最後までオークションを続けた学生2人が、1ドルよりも高い値をつけあうという事態になった。なぜなら、二番目の高値をつけることは、その値を支払って1ドル札を得られず、かつ相手に利益(といっても相手もマイナス額になるが)が行くということをなんとしても避けなければならなかったからだ。

デガーは40回、この実験をくりかえし、1ドル以上の値がつかなかったことは一度もなかったという。

そのほかにも、認知科学で有名な、「赤ちゃんザルに、針金製の人形の母親役と、タオル製の人形の母親役を選ばせる実験」の本当の写真が載っていたり、心理学で有名な「吊り橋効果」の実験が行われた場所の写真が載っていたり、研究の歴史に詳しい人には「ああ、実際こうして行われたんだ」と、感心する機会も多いことだろう。

訳者の一人の石浦章一氏は、「最先端の研究を山ほど並べるより、ここに集めた珍しい話の数々のほうが、実は科学の本質を教えてくれるのかもしれないと思うようになった」とまえがきで述べている。それはおそらく「知りたいことを知る」という科学者の営みの原点が多く詰まっているからだろう。

書名に「狂気」とはあるが、決して「狂気」という表現だけでは括れない、科学の本質を本書から得ることができる。

『狂気の科学』はこちらでどうぞ。
http://www.amazon.co.jp/dp/4807908626
| - | 21:49 | comments(0) | trackbacks(0)
血のなかの酵素の量から肝臓のようすを推測する


健康診断の結果は、さまざまな数値として表されます。よく知られているのは、mmHg(ミリメートル水銀)で示される血圧の値などでしょうか。

肝臓の機能が正常そうかどうかを判断する数値のひとつに「γ-GTP」というものがあります。お酒をよく飲む人は、肝臓の機能に影響しうるので、健康診断で出てくるこの値を気にするのではないでしょうか。

γ-GTPは、γ-Glutamyl TransPeptidase(ガンマ・グルタミル・トランスペプチダーゼ)を略したもの。胆道という、肝臓から十二指腸にかけての胆汁の通り道から分泌される酵素です。おもにアミノ酸の合成をしますが、肝臓を解毒することにもかかわっています。

γ-GTPは、胆道から分泌されて十二指腸へと向かっていきます。しかし、胆道の調子が悪いと、γ-GTPなどの酵素は逆流して、血液のなかへと入っていきます。

そのため、血液中のγ-GTPの量をが、肝臓の機能が正常かどうかを判断する目安のひとつとなるわけです。

γ-GTPの量を測るときは「IU/L」という単位が使われます。Lは「リットル」で、「/L」で「血液1リットル中に」という意味になります。いっぽう、IUのほうは「国際単位」(International Unit)とよばれ、酵素などの物質の活性量を測るのに使われる単位です。

血中のγ-GTPの量が多いと、肝臓が正常に機能していない証拠になりえますので、γ-GTPの値が高いほど、肝機能障害などを疑う必要性があることになります。

健康診断などでは一般的に、男性では血液1リットルあたり10IUから50IUが正常値。女性ではおなじく9IUから32IUが正常値とされています。それより高くなると、100IUまでが「軽度の増加」、100〜200IUが「中等度の増加」、200〜500IUが「高度の増加」、500IU以上が「超高度の増加」とされます。

γ-GTPは1リットルあたり100IUほどの数値であれば、飲酒を控えることなどにより、1週間ほどで下がりだすとされています。

また、γ-GTPは、飲酒との関係性がよく話題になりますが、栄養の摂りすぎや肥満などがもとで、数値が高くなる場合もあります。

参考資料
e-ヘルスネット「γ-GTP」
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-076.html
PDQがん用語辞書「国際単位」
http://www.weblio.jp/content/国際単位
Newton Doctor「γ-GTP」
https://www.newton-doctor.com/kensa/kensa01.html
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
地元自治体の権限を確保するため原子力安全協定

舞鶴市
写真作者:Miyabi.S

法律などの正式な定めになっていないものの、相手のことを信頼して結ぶ取りきめを「紳士協定」といいます。世のなかにはさまざまな紳士協定がありますが、なかには紳士協定にせざるをえないために紳士協定になっている取りきめもあります。

原子力発電所を所有する電力事業者と、その原子力発電所が立地したり、近隣にあったりする自治体とで、「原子力安全協定」という紳士協定が結ばれています。

この原子力安全協定は、道県、市町村、そして電力事業者の三者間で結ぶもの。目的は、原子力発電所周辺の住民の安全確保と環境保全をはかることとされています。

日本の原子力施設の安全確保については、政府だけが統一的に規制や監督をすることと法律でなっています。しかしながら、原子力発電所があるのは、地元の道県や市町村。政府しか権限がないからといって、これら自治体が原子力発電所に対する規制や監督をすることができないとなると、原子力発電所の稼働を「安全でありますように」と願いながら黙って見ているだけということになりかねません。

そこで、そうならないように考えだされたのが、原子力安全協定です。法律による拘束力はないものの、それでも原子力発電所の地元自治体が原発の安全性に対してなんらかの権限をもてるようにしたしくみといえます。

原子力安全協定のおもな内容としては、放射線を事業者と自治体とで共同監視すること、異常時に情報を迅速に自治体にまわすこと、地方自治体が原発に立ちいり調査することを受け入れることなどがありますが、なかでも近ごろの原発再稼動をめぐって注目されているのが、施設を新設や増設や変更するとき地元が事前了解すること、です。電気事業者が原子力発電所を再稼働させてようとしても、協定を結んだ自治体が「了解した」と言わなければ再稼働させることはできません。

原子力安全協定は1974(昭和49)年12月、日本原子力研究開発機構と東海村などとのあいだで結ばれました。安全を確保すること、地域住民の理解と同意を必要とすること、地域に恒久的な福祉が得られること、がおもな内容でした。

最近の動きとしては、福井県高浜市にある高浜原子力発電所をめぐって、この発電所を所有する関西電力と、この発電所に隣接する京都府それに舞鶴市のあいだで原子力安全協定が2015年2月に結ばれました。高浜原発のすぐ近くにありながら、原発が立てられている自治体に当たらないため、安全性の確保についてものが言えないような状況にありました。そうした状況を打破することがねらいと考えられます。

関西電力と京都府それに舞鶴市が結んだ原子力安全協定では、たとえば、府との取りきめとして「関西電力は発電所の増設に係る建設計画および原子炉施設に重要な変更を行おうとするときは、事前に京都府に説明しなければならない(第2条)」といったものがあります。

いっぽう、舞鶴市との取りきめには、「京都府が発電所の現地確認を行う場合に、舞鶴市が求めたときは、京都府による現地確認に同行する」(第2条)「舞鶴市は、京都府および関西電力から提供された情報ならびに現地確認の内容について、安全対策に係る意見がある場合には、京都府に意見を申し出ることができる」(第3条)などとなっています。舞鶴市が高浜原発についてなにか求めがあるときは京都府を通してください、という意味あいが感じられるものになっています。

参考資料
帯刀治、熊沢紀之、有賀絵理編著『原子力と地域社会』
原子力百科事典ATOMICA「自治体と原子力事業所との安全協定」
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=11-01-05-01
電気事業連合会「原子力安全協定」
http://www.fepc.or.jp/library/words/genshiryoku/seido/seido/1225456_4579.html
関西電力 2015年2月27日発表「京都府との安全協定締結および京都府、舞鶴市との覚書締結について」
http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2015/0227_1j.html
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
住宅街の“親切な看板”を深読み
神奈川県横浜市内のとある住宅街には、写真のような「注意」の立て看板が見られます。



「注意 グーグルマップナビ使用の車 初めて通る車 この先橋走がせまくて通れません 車を降りて確認してから通りましよう。」

そして、その側には「あなたの車通れますか?」という問いかけとともに「橋」の写真も掲げられています。

この「注意」の立て看板を見た人によっては、「グーグルのストリート・ビューをつくるための“グーグル撮影車”の運転手に、道幅の確認をうながしているのか」と勘ちがいするかもしれません。でも、そうではないようです。

おそらくは、「グーグル・マップをカーナビゲーション・システムの代わりに使っている運転者は、橋の道幅が狭いから通れません(よ、きっと)」ということを伝えたいのでしょう。

実際、グーグル・マップで、問題の「橋」の幅を見てみると、下の画像のようになっています。若干、道幅が狭くなっているものの、渡れなくもなさそうです。


グーグル・マップより

では実際はどうでしょう。このような注意書きがあると、人はつい、その「この先」を見たくなるもの。実際、「注意」の看板のすぐ先に、問題の橋があります。そして、道幅は下の写真のようになっています。



地図で見るよりも、橋のところでがくんと道幅が狭くなっています。橋の前まで3メートルあったのが、橋では1.6メートルぐらいに狭まる、といったところでしょうか。たしかに余程の軽自動車などでなければ、通れなさそうです。

この「注意」の看板がある場所のグーグル・ストリートビューを見てみると、べつの立て看板が立っていたことが確認できます。


グーグル・ストリートビューより

「車輌 通り抜けできません」

かつて掲げられていた、こちらの看板のメッセージのほうが、より直接的です。

しかし、このかつて掲げられていた看板には、やや表現的に気にかかるところがあります。「車輌」というのは、自動車や電車などのような、人や荷物を載せて運ぶ車のこと。ここは道路なので、おもに自動車を指すものが「車輌」ということなのでしょう。

しかしながら、自転車やオートバイなどの二輪車もまた「車輌」の定義に含まれます。そして、二輪車であれば、この橋は渡ることができそうです。

深読みをすると、この看板の掲げ主は、当初「車輌 通り抜けできません」と出していたものの、「車輌といっても自転車やオートバイなら橋を渡れるな。それに運転の慣れている軽自動車の運転手も橋を渡れるかもな」と思いつつ、なにげなくグーグル・マップを見ると、実際の橋の道幅よりも広く表現されていることに気づき、「グーグル・マップはけしからんな。マップ上だと橋の幅よりも広いではないか」と感じ、看板を立てかえたのかもしれません。
| - | 22:55 | comments(1) | trackbacks(0)
人びとは「デント」「スカ線」「ちかちゃん」とよぶ
鉄道会社の埼玉高速鉄道が、埼玉高速鉄道線の路線愛称を選ぶため“総選挙”を行うことを(2015年)9月17日に発表しました。候補3作品から投票でひとつを選ぶそうです。

鉄道会社が定める路線の愛称とはべつに、利用客のほうで独自につけてよんでいる愛称というのもあるようです。

「デント」。これは、東京の渋谷駅から神奈川県の中央林間駅までを結ぶ「東急田園都市線」に人びとがつけた愛称。グーグルで「"田園都市線" "デント"」と検索すると、23,700件と出てきます。「でんえんと」までの発音を短くして「デント」としているのか、それとも「田」と「都」から「田都」で「デント」としているのか。鉄道会社とは関係のないところで『LOVEデント』という曲までつくられています。

「スカ線」。これは、東京駅から神奈川県の久里浜までを結ぶJR東日本の「横須賀線」に人びとがつけた愛称。こちらはグーグル検索では13,400件。ただし、上記の「デント」よりも古くから、よんでいるひとはよんでいる愛称と思われます。2009年6月には、横須賀線開業120週年を記念して、横須賀市観光協会の主催で「YYスカ線フェスタ」という催しものも開かれました。JRが「スカ線」のよび名を公認したというわけではありませんが、催しものの正式名になることから考えると「スカ線」の定着度は高いといえます。

「都営ちかちゃん」。これは、東京都や一部、千葉県などを走る東京都交通局の「都営地下鉄」に人がつけたとされる愛称。ただし、上記の「デント」や「スカ線」とくらべると、はるかに使っている人はすくない模様です。「何々地下鉄」という正式名はいくつもあるので、「都営ちかちゃん」のほかにも成りたちそうですが、ほとんどが「何々市営地下鉄」なので、「横浜市営ちかちゃん」や「大阪市営ちかちゃん」となり、長くなるため浸透はしにくそうです。昔なら「営団ちかちゃん」と「都営ちかちゃん」で姉妹関係を表現できそうでしたが、いまはできません。

かつて、JR東日本が「E電」という愛称をつけたものの、だれにも使われず失敗に終わったということがありました。鉄道会社が正式発表して根づかせようとする愛称よりも、民間の口コミによって根づいている愛称のほうが、一般的に普及力は高いものです。


田園都市線
写真作者:Yaguchi

参考資料
カナロコ 2009年6月13日付「横須賀線開業120周年『YYスカ線フェスタ』始まる」
http://www.kanaloco.jp/article/1522
| - | 19:11 | comments(0) | trackbacks(0)
「神社」と掲げる建物あるが痕跡なし
(2015年)10月2日(金)付の「『神社』だけれども『卍』」という記事で地図上の寺社仏閣の話をしましたが、地図と神社のからむ話をもうひとつ。

東京都中央区の新川という地区の地図を見ると、この地区は隅田川と日本橋川、それに亀島川に囲まれた“島”であることがわかります。

そして、地図を見ると、島のなかには神社がふたつ。一つは島の南西、南高橋という橋のたもとにある「徳船稲荷神社」です。人の背丈もないほどの鳥居と、ほんの小さなお社のみという、至って簡素な神社です。案内板には、1991(平成3)年に、すぐ近くの中央大橋の架橋工事のため、この地に遷座されたとあります。

さて、新川の地図には神社の地図記号がもうひとつあります。島の北東のほう、永代橋の西詰近くに「渡海稲荷神社」という神社があるといいます。


Google Mapより

しかし、地図を頼りにこの神社にたどり着くのは、なかなか至難の業。地図上の神社があるとされるところまで歩いてやってきても、神社らしき鳥居もお社も見つかりません。地図上に示された場所が、すこしずれているのかと、このあたりをすこし歩いても、神社らしき建てものはどこにも見あたらないことでしょう。

しかし、まさに地図が示しているとおりの場所に、渡海稲荷神社はあります。じつは、写真にあるシャッターの下りている白壁の建てものが、渡海稲荷神社だというのです。


渡海稲荷神社

その証拠に、ふたつ貼られている木看板のひとつが、「渡海稲荷神社」とちゃんとなっています。


木看板

中央区の自社を案内するホームページ「猫のあしあと」によると、「渡海稲荷神社は、宝永元年(1704)に創祀、当地が船着場だったことから渡海稲荷と称されるようになったといいます」とあります。

そして、『中央区市』には、「明治初年上地、市部共有地となり改めて二二坪を無料借地。戦後連合軍に接収され、解除後再建に着手した。崇敬者二千人」とあるということですので、おそらく、戦後のまもない時期には、神社の体をなしていたのでしょうか。

国土地理院の1949(昭和24)年3月に撮影された航空写真を見ると、この場所に神社といえなくもない建てものが見られます。


米軍が1949(昭和24)年に撮影した東京東南部
国土地理院ホームページより

現在、「渡海稲荷神社」と看板が掲げられている建てもののシャッターは通常は閉ざされた
ままのよう。このシャッターの向こうに、お稲荷さんがいるのではないかと噂されていますが、真相は明らかではありません。

参考資料
猫のあしあと「渡海稲荷神社 中央区新川の神社」
http://www.tesshow.jp/chuo/shrine_shinkawa_watami.html
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
「ファンのみなさま優勝おめでとうございます」の違和感が低下


プロ野球セントラル・リーグでは、東京ヤクルトスワローズが(2015年)10月2日(木)、神宮球場で行われた阪神タイガース戦で勝ち、2001年以来14年ぶりとなるリーグ優勝を決めました。

14年前の優勝のときは、当時の若松勉監督が、観衆に向かって「ファンのみなさま、ほんとうにあの、あの、優勝おめでとうございます」と言い、話題になりました。

そして、今回の優勝監督である真中満監督も、観衆に向かって「ファンのみなさん、優勝おめでとうございます」と言いました。

自分の率いるチームを応援する人たちに「おめでとうございます」と言うことについて、おかしな感じを抱く人は多いことでしょう。国語では一般的に、AさんからBさんに「おめでとう」と言うとき、AさんはBさんの祝福の原因をつくった当事者ではないということが前提にあるからです。

しかしながら、若松監督と真中監督、両者の「優勝おめでとうございます」を聞いたことのある多くの人の多くは、おそらく今回の真中監督のほうが違和感を覚えなかったのではないでしょうか。根拠はいくつかあります。

まず、2回目であること。前回の若松監督の発言を踏襲するかたちで、真中監督が「優勝おめでとうございます」と言ったので、若松監督の発言を聞いていた人は「あ、今回もか」と聞く心構えができていたことでしょう。

また、若松監督より自信をもって真中監督が発言していたことも、違和感のすくなさをもたらしました。若松監督とちがって「あの、あの」というしどろもどろ感がありませんでした。

もうひとつ、時代の移りかわりのような背景があるとするのは度が過ぎるでしょうか。プロ野球における監督や選手たちと、応援の観客たちの距離が近くなり、監督や選手が観客の立場に寄りそう度合いが高まったというわけです。チームを優勝に導いた監督という存在とはまたべつに、応援の観客たちの悲願をよろこぶという意識が、現場の監督や選手たちのなかで強くなってきたからこそ、「優勝おめでとうございます」という発言が自然と出るようになり、自然と受けとめられるようになった、ということもあるのかもしれません。

これからまた、「ファンのみなさん、優勝おめでとうございます」と発言する監督が現れれば、すくなくともプロ野球に興味のある人たちのなかでは、この発言は違和感のないものになっていくことでしょう。
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
「神社」だけれども「卍」
小学校の社会科の授業で、地図記号を覚えたという人も多いことでしょう。「小中学校」は「文」、「市役所」は二重丸、「警察署」は丸のなかに「X」といった具合です。

「神社」はといえば、鳥居を表す記号です。いっぽう、「寺院」といえば「卍」です。

ところが、実際の地図には「神社」とあるのに「卍」の記号で示されている場合があります。

そのひとつが、神奈川県厚木市旭町にある「智音神社」。小田急本厚木駅から徒歩5分ほどのところにあります。地図を見てみると「智音神社」のすぐ横に「卍」の地図記号が。これはどういうことでしょう。


グーグルマップより

智音神社のまわりからは、お墓が複数、見えます。お墓があるのは神社でなく寺院。ということは、やはり智音神社は寺院なのでしょうか。

こんな光景も見られます。避難所であることを示す看板には、「智音寺境内」とありますが、すぐ横に掲げられている赤い旗には、堂々と「智音神社」とあります。



複数の情報を総合すると、智音神社はかつて「智音寺」という寺院でした。しかし、明治初年、祭祀と政治を一元化する「祭政一致」を旗印とする明治新政府の神道国教化政策や神仏分離政策によって仏教排斥運動が起きました。いわゆる「廃仏毀釈」とよばれる運動です。これにより、智音寺は寺院を廃業することになり、神社となったのでした。

境内にあるお墓は「智音寺」時代から受けつがれてきたものと考えられます。しかし、避難場所を示す看板は、つくりや内容の新しさから、すくなくとも廃仏毀釈がおこなわれた明治時代につくられたものではなさそうです。

地図では、もともと「智音寺」として通っていたかつての伝統から「卍」の地図記号にしているのでしょうか。なお、智音神社は、かつてこの地域を治めていた「厚木氏」の館跡でもあるといわれています。

参考資料
tekiroのてくてく神社放浪記「智音神社」
http://blog.goo.ne.jp/tekiro_babel/e/be23dd2b38f3edb2c2d1980db6a23f9b
発見! ニッポン城めぐり「厚木館」
http://cmeg.jp/pc/2882
Hatena Keyword「廃仏毀釈」
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C7%D1%CA%A9%D4%CC%BC%E1
梅鉢「厚木氏館」
http://www.geocities.jp/y_ujoh/kojousi.atsugi.htm
| - | 17:04 | comments(0) | trackbacks(0)
CALENDAR
S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
<< October 2015 >>
SPONSORED LINKS
RECOMMEND
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで (JUGEMレビュー »)
サイモン シン, Simon Singh, 青木 薫
数学の大難問「フェルマーの最終定理」が世に出されてから解決にいたるまでの350年。数々の数学者の激闘を追ったノンフィクション。
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
amazon.co.jp
Billboard by Google
モバイル
qrcode
PROFILE