科学技術のアネクドート

「科学ジャーナリスト塾」第14期の募集開始、定員は20人


日本科学技術ジャーナリスト会議が、「科学ジャーナリスト塾」第14期の塾生の募集をしています。(2015年)10月20日(火)までですが、「20人で締め切ります」。

科学ジャーナリスト塾は、科学ジャーナリストを目指す人たちを育てる塾。2002年の秋、同会議に所属する有志ある科学ジャーナリストたちが開きました。一時期、運営母体が別団体に移りましたが、2013年の第12期から、ふたたび同会議が運営母体となり開催しています。

今期の塾では、「新聞社やテレビ局などで活躍した経験豊富な人たちが『話題提供』する現代的なテーマについて塾生とともに論議し考えるほか、書き方や取材の仕方などの『実践方法』を織り交ぜながら、計10回にわたって塾を展開します」ということです。

講師役となる話題提供者には、NHK解説委員の室山哲也さん、朝日新聞編集委員の高橋真理子さん、同じく朝日新聞編集委員の上田俊英さんのほか、読売新聞、毎日新聞、NHKなどの出身者が名を連ねます。塾長を、科学技術振興機構『サイエンスウィンドウ』編集長の佐藤年緒さんがつとめます。

具体的な内容として、「歴史を記録する 科学ジャーナリストのもう一つの役割」「記事/報告文の書き方」「南極観測隊で学んだ『国家とは』『国際協力とは』」「テレビ解説委員に学ぶ 聴く・話す・見せる」「地球温暖化問題をどう伝えるか」「現場でしか見えない原発被災 福島で伝えること」などがあがっています。

全10回の期間は、2015年10月21日(水)から2016年3月9日(水)までの約半年。原則として第1、第3水曜の19時から21時まで、東京・内幸町のプレスセンタービル内でおこなれます。

科学技術ジャーナリスト会議は「塾生自身も発信する訓練の機会を用意します。『体験を未来に生かす』テーマの下に意欲のある塾生の参加をお待ちしています」と応募をよびかけています。

詳しいお知らせは、日本科学技術ジャーナリスト会議のホームページに載っています。こちらです。
http://jastj.jp/tcsj
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水に活性水素を含められるかは懐疑的


元農林水産大臣の故・松岡利勝さんが、2007年5月の国会で、水道代が無料の祝儀委員議員第一会館に500万円を超える「光熱水費」が計上されているのを問われ、「ナントカ還元水や、暖房とか別途そういうものが含まれる」と答弁しました。この「ナントカ還元水」は流行語になりました。

「還元水」という謎めいたことばに、さらに「ナントカ」という曖昧な語感のことばが加わって、還元水には余計に「謎めいたもの」という印象がもたれるようになりました。

松岡さんが言っていた「ナントカ還元水」の「ナントカ」がなにであるのかは、もはや松岡さんが亡くなってしまったいまではわかりませんが、可能性としては「電解還元水」が考えられます。

「電解」とは、「電気分解」を略したことばで、イオンを生じさせる電解質とよばれる物質の溶けている液体に電流を流して、陽イオンを陰極で、陰イオンを陽極で放電させることをいいます。この「電解」をおこなうと、陰極のほうでイオンの酸化数が減るという、還元反応が見られます。つまり、「電解還元水」は、電気分解によって還元反応を起こした水ということができます。

原理的に、電解還元水はつくることができます。しかし、その機能をめぐっては、批判もあります。

電解還元水には「活性水素」という物質がふくまれており、これが抗酸化作用をもっているので、飲むとからだによい、という説も批判を受けている対象のひとつです。

水素という物質は、通常は「H2」のように水素原子がふたつ結びついた状態で存在します。しかし、なんらかの作用をあたえると、結びつきが切れて、「H」の原子だけで存在する場合があります。このときの原子状水素を「活性水素」といいます。

活性水素は、放電、高熱、紫外線照射などによって生じることがわかっています。ですので、つくろうとすればつくれるわけです。

しかし、その活性水素が、電解還元水をつくるなかで生じるかというと、「生じないのではないか」とするのがこの分野の研究者の多数の見解です。

電解による還元反応の過程では、たしかに活性水素が生じるという話もあります。しかし、電極の金属原子と結合したときに生じるのであって、水のなかに活性水素がふくまれるようなことはないというのが多数派の見方のようです。

参考資料
ウィキペディア「活性水素水」
https://ja.wikipedia.org/wiki/活性水素水
Hatena keyword「電解還元水」
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%C5%B2%F2%B4%D4%B8%B5%BF%E5
ブリタニカ国際百科事典「電解還元」
https://kotobank.jp/word/電解還元-102084
ブリタニカ国際百科事典「活性水素」
https://kotobank.jp/word/活性水素-45262
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関西学院大学「丸の内講座」で「教養・科学塾 映像が語る科学の驚異と警告」開講

写真作者:Rob Ketcherside

講座開講の案内です。

関西学院大学が、東京・丸の内の東京丸の内キャンパスで、「特別企画 教養・科学塾 映像が語る科学の驚異と警告」という特別講座を(2015年)10月9日(金)から2016年3月11日(金)までの予定で開きます。

関西学院大学が行っている社会人を対象とした「丸の内講座」のひとつ。案内ではつぎのように紹介されています。
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現代人は先端科学技術の恩恵を受け豊かな時代を生きています。好奇心に満ちた人類は大宇宙のマクロの世界から遺伝子のミクロの世界まで知の探求を深めています。iPS細胞やLED省エネ技術などは明るい未来社会を予感させますが、一方で地球環境問題や核兵器・核廃棄物問題など科学の負の側面も抱えています。人類が持続可能な発展を遂げ世界を更に豊かにする為には何が課題となり何が必要なのか? 2015年度後期の教養・科学塾では、科学の過去・現在を懐かしの名画やNHKスペシャル等の映像を通して語り、科学技術の未来を考える6回シリーズです。
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全6回の講義は、10月から3月までの各月の金曜19時から21時に、下記の科学映像に傾倒する講師と主題によっておこなわれます。

10月9日(金)「大宇宙のロマンを語る ブラックホールからダークエネルギーまで」
講師:藤田貢崇(サイエンス映像学会理事 日本科学技術ジャーナリスト会議事務局長 法政大学教授)

11月13日(金)「大自然の驚異を見る 名作・里山から最後の楽園まで」
講師:村田真一(サイエンス映像学会理事 NHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサー 元NHKエグゼクティブ・プロデューサー)

12月11日(金)「麻薬からの脱出は可能か? ドキュメンタリー制作体験記」
講師:村田豊彦(サイエンス映像学会理事 武蔵野美術大学映像学科非常勤講師 (株)映像開発代表取締役)

1月15日(金)「地球温暖化を防止せよ! シミュレーション映像は警告する」
講師:軍司達男(サイエンス映像学会理事 JSTサイエンスチャンネル・ニュース編集長 元NHKエデュケーショナル社長)

2月12日(金)「NHK名作番組の歴史をCGで見る」
講師:坂井滋和(サイエンス映像学会理事 文部科学省優秀映画選定委員(一般映画部門)早稲田大学基幹理工学部表現工学科教授)

3月11日(金)「科学技術が目指す方向性は何か? SF映画・TV番組に見るサイエンス」
講師:林勝彦(サイエンス映像学会会長 元NHKエグゼクティブ・プロデューサー 科学ジャーナリスト)

詳細は以下のサイトをご覧ください。
http://www.kwansei.ac.jp/a_affairs/a_affairs_002647.html
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映画だからこそ「拍手喝采の指数関数的増加」

写真作者:Martin Fisch

映画やドラマなどの映像による劇では、現実の世界ではあまりないような演出がなされることがあります。刑事が犯人を捕まえるときに「待てぇ―」と大声を出して追うというのも、そのひとつかもしれません。

とりわけ映画でよく見られる、現実の世界ではあまりない場面として、「拍手喝采の指数関数的増加」があります。

たとえば、自分の演技が失敗つづきで、人びとから賞賛を得られないでいた舞踏男優が、必死に努力をして大きな舞台に立ちます。そしていざ、本番の演技をします。

ところが演じたあと、会場はしんと静まりかえります。自分のいまの演技を不安そうに振りかえる舞踏男優……。

静寂が5秒間つづくなかで、一人の観客が「パチ、パチ、パチ」と拍手をしはじめます。

すると、会場の奥のほうからも、べつの観客が「パチ、パチ、パチ」と拍手が。

またべつの席からも「パチ、パチ、パチ」と拍手が聞こえます。

4人目に拍手をする人は、ついに椅子から立ちあがり、笑顔でうなずきながら拍手をします。「きみの努力は、それでよかったんだよ」とでも言いたげに。

その後、つぎつぎと椅子を立って拍手する人が現れます。一人目が拍手を始めてからここまでで30秒。

そして、拍手の音が「パチ、パチ、パチ」という単独の音でなく、「ウォー」というまとまった音になるまでにはそう時間はかかりません。舞踏俳優の表情は不安なものから、報われたという笑顔に変わっていきます。

そして、会場内のすべての観客が立ちあがっての拍手喝采が長く続くのでした……。

現実の世界では、たいていの場合、演者の演技や、講演者の演説などが、すばらしいものである場合、演技や講演が終わるやいなや一気に拍手喝采が起きるものです。

あるいは、演技が講演が終わってから5秒間も拍手が起きずにいれば、そのまま拍手なしに終演ということになってもおかしくありません。

映画では、演者の不安な心が、安堵、報われ、自信、よろこび、うれしさといった幸福な心に変わっていくのが映画を観ている人たちにまさに“劇的”に伝わるよう、拍手喝采の指数関数的増加の演出がとりいれられているものと考えられます。映画を観ている人も、こうした定番的な演出には安心感を覚えるのでしょう。いつから、この演出が採りいれられるようになったかは定かではありません。
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研究者にも”言っていることとやっていることがちがう”

evan p. cordes

学問の目的は、ただたんにある分野における真理を探求するだけではありません。得られた真理や知識を使って、世の中をよくしたり、人びとを幸せにしたりすることを目指すという営みも、とくに近ごろの学問にはふくまれます。

ですので、その学問に携わる専門家や研究者とよばれる職業の人は、ただたんにその分野のことに“詳しい”だけでなく、その分野について、人びとに”助言”や“提言”をすることもあります。

では、その分野の専門家や研究者が、自分が発する助言や提言どおりの私生活を送っているかというと、かならずしもそうではないようです。

たとえば地震学者は、たんに地震のしくみを調べるだけでなく、防災についての提言をすることもあります。

そうした地震学者は、記者への取材で「1年に1回は避難グッズを確認したり、家族と避難場所を確かめあったりすることが大切です」などと、大地震に対する備えの重要性などを答えます。

いっぽう記者は、おもしろい話が聞ければ記事に盛りこもうとして、「ところで先生は、ご自身の防災対策としてなにかされていることはありますか」と聞きます。

往々にして、地震学者は「ん、私ですか。そうだな、これといってやっていることはないかな」などと答えるときがあります。記者が「先生自身の避難グッズはどんなものを」と聞くと、「うちは……、あれ、どうだったけか」などと答えます。

おなじく、睡眠についての専門家は、よい眠りの条件などを取材などを通じて人びとの助言することがあります。

睡眠の専門家は「朝に起きたらまず日光を浴びて、体内時計をリセットすることが大切になります」などと、生活習慣のあるべき姿などをを答えます。

いっぽう記者は、おもしろい話が聞ければ記事に盛りこもうとして、「ところで先生は、ご自身の快眠方法としてなにか実践されていることはありますか」と聞きます。

往々にして、睡眠の専門家は「ん、私ですか。そうだな、なにかやっているかな」などと答えます。「朝は起きてから、日光を浴びるためになにか積極的なことをしていたりは」と聞くと、「とくに、これといって私はしていないです」などと答えます。

ある分野についての専門家がおり、さらにその専門家がその分野についての提言をする。しかし、当の自分自身は提言として語っていることを、実践しているわけではかならずしもないわけです。

ここに”言っていることとやっていることがちがう現象”が見られるわけですが、この現象は研究者や専門家のみならず、ほぼだれもが実践していることです。その分野の専門家が、人びとに向けて提言をしているいっぽうで、自分はやっていないという場合の、理想と現実の差異に、とくに惹かれるものがあるものです。
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言われた人に言われた内容を言ってしまう

写真作者:Peter Enyeart

Aさんが、友人と花見をしていたそうです。二人はこんな会話をしました。

Aさん「おれたちももう30歳なかばだから、こうやって桜を見ることができるのもあと50回あるかないかだよなー」

友人「そう言われてみると、そうだなー」

それから3年後、おなじ二人が桜の咲く季節に、Aさんと友人はふたたび花見をしたそうです。すると、友人のほうがこんなことを言ってきたそうです。

友人「おれたちもう30歳代も後半だし、桜を見ることができるのも、あと50回もないかもなー」

Aさん「……(ん)、そうだなー(それって前に俺が言ったことじゃないかな)」

この友人は、3年前に“Aさんから”、「おれたちももう30歳なかばだから、こうやって桜を見ることができるのもあと50回あるかないかだよなー」と言われたことを覚えていないのでした。しかし、「おれたちももう30歳なかばだから、こうやって桜を見ることができるのもあと50回あるかないかだよなー」という話の中味のほうは印象深かったのでしょう。

逆の場合もあるでしょうが、人はときとして、言われた人物よりも、言われた内容のほうが印象に残るものです。そのため、自分が人びとに伝えたいことがあるときは、たとえ自身がその内容を言えるような風格をもちあわせていなくても、とにかく言っておくということが重要になるわけです。

言われた側は「だれに言われたのかは忘れたけれど、なんか印象に残ることを言っていた」とだけ覚えていて、その内容をほかの人にも言いふらす可能性があるということです。上のAさんと友人の場合は、Aさんに言われたとは思ってもいなかったので、Aさんにいぶかしがられたわけですが……。
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“にわか関心者”の増加は抗えない

写真作者:NAPARAZZI

ラグビーのワールドカップ2015で、日本が南アフリカを破るという快挙が報じられ、にわかに日本をはじめ世界の人びとの注目が集まりました。日本代表はその後のスコットランド戦で敗れたため、熱はすこししずまりましたが。

自国のチームが他国のチームを倒す。それも戦う前に負けることがまちがいないといわれれていた評をくつがえしての勝ち。となれば、“にわか応援者”が増えます。

人の関心の対象は、いつも一か所にとどまらずに流れていくものです。しかしながら、あるものごとに”にわか”に関心をもつ人が増えるいっぽうで、長らくひとつのものごとに関心をもってきたという人もいます。

ときに、あるものごとに対する筋金入りの関心者は、関心の対象だったものごとが、にわかに多くの人びとやメディアに注目されるようになると、「“にわか”が増えやがって」と、よく思わない向きもあるようです。

そもそもはじめはごく少数の人にしか関心をもたれないくらいのものごとに関心を寄せてきた人は、やはり少数派の存在といえます。そんな状況に、“にわか”という多数派が押しよせてくるのですから、心おだやかではなくなるでしょう。

しかしながら、その人が“にわか”なのかどうかを客観的に線引きすることはむずかしいことです。

たとえば、ラグビー日本代表の応援をはじめてまだ3か月という人のなかにも、日本代表の勇姿とラグビーのおもしろさを得た人は、「自分はラグビー日本代表を愛してやまない」と夢中になり、各選手の名前や特徴などを覚えている人もいるかもしれません。その人を“にわか”とよぶのはやや筋ちがいです。

いっぽう、ラグビー日本代表の試合を20年間、観戦しつづけてきた人であっても、スポーツの観戦や実況中継視聴が好きでなんとなく応援していたという人は、「自分はラグビー代表を愛するほどではない」と言う人もいるかもしれません。その人が、日本の大金星で、急に心が盛りあがれば、その人は“にわか”なのかもしれません。

その人が“にわか”であるかどうかは、自分自身で主観的に判断するしかないわけです。“にわか関心者”が増えることを「おもしろくない」と思っても、どうすることもできません。
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将来の出費を見こして「引当金」を計上


ニュースでは、企業が「引当金を計上した」といったことが報道されます。
 
 三菱東京UFJ銀行が、シャープ向け貸倒引当金を従来比10倍強の1千億円程度まで積み増したことが4日、分かった。
(産経ニュース 2015年4月5日付)
 
 住友電気工業(本社・大阪市中央区)は16日、自動車用ワイヤハーネス(組み電線)などの価格カルテルをめぐり、米国で係争中だった損害賠償請求の集団訴訟について、原告の一部と和解することで合意したと発表した。
 訴訟での損失に備えた引当金を既に計上しており、今年度の業績に与える影響は少ないという。
(産経WEST 2015年9月16日付)

つい最近のニュースでも、米国の当局にディーゼル車の排ガス不正操作を指摘されたフォルクスワーゲンが、「引当金」を計上することが伝えられています。

 VWは「技術的な措置で問題を解決する」と表明、世界的な大規模リコール(回収・無償修理)となりそうだ。今後発生する費用のため、65億ユーロ(8700億円)の引当金を計上する。
(時事通信 2015年9月23日付)

企業は、将来お金が要るようになるできごとをあらかじめ考えて、その生じうる金額をあらかじめ用意しておくことがあります。この準備を「引きあて」、また、そのお金を「引当金」とよびます。

引当金には、あるときにおける企業の財務状態を示すための貸借対照表のなかで、大きく「資産の部」に入れるものと、「負債の部」に入れるものがあります。

「資産の部」に入れる引当金は、たとえば、上のニュースで三菱東京UFJ銀行が積みましをしている「貸倒引当金」などがあります。貸倒引当金とは、貸しつけたお金が回収できなくなり損が生じることを見込んで計上する引当金のこと。こうした引当金を「資産の部」から控除するわけです。

いっぽう、「負債の部」に入れる引当金は、退職者に支払う退職給与の額をあらかじめ計上する退職給与引当金や、設備などを修繕するにあたっての額をあらかじめ計上する修繕引当金など。フォルクスワーゲンが計上する引当金も、この「負債の部」に入るものと考えられます。

会計用語辞典によると、引当金として計上するための条件は、つぎの四つ。

・将来の特定の費用または損実であること。
・その発生に、当期以前のできごとがかかわっていること。
・発生の可能性が高いこと。
・金額を合理的に見積もることができるもの。

これらの条件からすると、将来、決まった目的のためにいくら金を使うことになるかの予想を立てられる場合に、引当金を計上するということになります。

そもそも、なぜ企業は引当金を計上する必要があるのでしょう。これはひとえに、当期における損益の適切な計算をするためとされています。つまり、当期の時点ですでに出し入れがどうなるか確実にわかっているお金については、当期での計算にふくめておくべきという考えかたに基づいています。

「引きあて」ということばには、「当てはめる」とか「充当する」とかいった意味があります。将来、起きうるできごとに対して、いまあるお金を当てはめておくという語感があります。

参考資料
産経ニュース 2015年4月5日付「三菱UFJ、シャープの貸倒引当金1000億円」
http://www.sankei.com/economy/news/150405/ecn1504050008-n1.html
産経WEST 2015年9月16日付「住友電工、60億円支払いで和解 米カルテル集団訴訟、自動車販売50社と購入者50人に」
http://www.sankei.com/west/news/150916/wst1509160064-n1.html
時事通信 2015年9月23日付「世界で1100万台規模か 経営揺るがす事態に VW排ガス不正」
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2015092200428
知恵蔵2015「引当金」
https://kotobank.jp/word/引当金-7772
会計用語辞典「引当金」
http://www.weblio.jp/content/引当金
税研情報センター「『引当金』について」
http://www.zeikenjc.co.jp/plus/1001/hikiatekin.html
決算書WEB「引当金の必要性」
http://kessansyo.com/2-8.html 
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「ロマンスカー」は小田急電鉄のみならず


栃木県日光市にある東武鉄道・鬼怒川温泉駅のプラットフォームに通じるスロープには「特急ロマンスカーのりば」と文字が記されています。

東武鉄道に乗りなれていない人は、あるいは小田急電鉄に乗りなれている人は、「どうして、東武鉄道の駅にロマンスカーのりばが」と思うかもしれません。「ロマンスカー」というと、小田急電鉄の特急列車「小田急ロマンスカー」がよく知られているからです。

しかしながら、「ロマンスカー」は小田急電鉄の特急列車だけを指すものではありません。じつは多くの鉄道会社が、ある特徴をもつ列車に対してそれぞれでよんでいた名称なのです。

二人がけで、進行方向に向かって着くような座席のことを「ロマンスシート」とよびます。二人がけの座席ということでクロスシートと似ていますが、ロマンスシートは、とくに座席をおなじほうに向けられるものをいいます。英語でいう“Love Seat”の和製英語が、ロマンスシートとされます。

このロマンスシートを座席に採用している車両のことを複数の鉄道会社は「ロマンスカー」とよんでいます。

そのはじまりは、小田急電鉄、ではなく、関西の京阪電気鉄道だったといいます。1927年、進行方向に二人で並んで座れる転換型クロスシート車「1550型電車」をつくったとき、この列車を「ロマンスカー」と名づけました。

その後、1940年代末期以降は、私鉄会社が、ロマンスシートを採用した車両をつぎつぎと走らせ、それぞれの会社が「ロマンスカー」とよぶようになったのです。

その後、ほかに特徴のある車両を鉄道会社はつぎつぎと導入するなどして、次第に「ロマンスカー」のよび名は廃れていきました。

しかし、そのなかで小田急電鉄は「ロマンスカー」のよび名を一貫して使いつづけ、「ロマンスカー」を商標出願。1997年に商標登録されるに至りました。「ロマンスカーといえば小田急の特急」という地位を固めたわけです。

東武鉄道は、戦後より、クロスシートの特急車両を「ロマンスカー」とよんできました。1960年には特急「きぬ」や「けごん」などに、「デラックスロマンスカー」のよび名もあたえています。

しかし、1991年から、一般公募で名づけられた「スペーシア」という新型特急が走るようになり、「ロマンスカー」のよび名は使われなくなっていきました。

鬼怒川温泉駅のスロープにある「ロマンスカーのりば」は、東武鉄道の特急に「ロマンスカー」のよび名を使っていたときの名残なのでしょう。

参考資料
ウィキペディア「ロマンスカー」
https://ja.wikipedia.org/wiki/ロマンスカー
Mapionニュース 2015年8月1日付「鉄道トリビア(315)小田急の代名詞『ロマンスカー』、元祖は京阪だった」
http://www.mapion.co.jp/news/local/cobs1252210-1-all/
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「月曜祝日の授業減」対策に振替方式と巻紙方式


きょう9月21日は「敬老の日」で祝日です。「多年にわたり社会に尽くしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う日」とされています。2002年まで敬老の日は「9月15日」と固定されていましたが、2001年に成立した「国民の祝日に関する法律及び老人福祉法の一部を改正する法律」によって、9月第3月曜日となりました。

敬老の日にかぎらず、日本での祝日には、成人の日、海の日、体育の日も月曜日に当てはめることになっています。加えて、ほかの国民の祝日も、該当する日が日曜日の年は月曜日に振りかえとなりますし、たまたま祝日が月曜日であることももちろんあります。

つまり、月曜日から土曜日のうちで、月曜日が休日になる率が高くなるわけです。

このため、学校では月曜日に行われる授業がすくなくなりがちです。

大学などでは、月曜から金曜までで祝日にあたる日には、通常の授業をおこなう私立校が増えています。文部科学省により、単位を認めるには90分の授業を半期で15回わたっておこなうことなどが定められているため、これをこなすために祝日を授業日とするわけです。

しかし、小中高校などでは公立校が多く、ほとんどの学校では国民の祝日は暦どおり、お休みとしています。すると、祝日の多い月曜日だけ、極端に授業を受ける機会が減ってしまうことになります。なにか対策はあるのでしょうか。

多くの学校では、月曜日以外の曜日に、月曜日の授業を振りかえているようです。たとえば、実際にインターネットで見つけられる例として、箕面市立萱野小学校では、2015年9月10日(木)の授業を「月曜日の時間割」でおこなうとしているものなどがあります。

いっぽうで、「巻紙方式」というべつの方法で対応している学校もあるようです。巻紙方式とは、「1番は国語、2番は音楽、3番は体育、4番は数学、5番は理科、6番は社会、7番は国語、8番は数学……」のように、それぞれの授業を架空の“巻紙”のうえに並べていき、それを曜日にとらわれず順番にこなしていくというものです。

巻紙方式をするときは、児童や生徒たちに、翌日の時間割をきちんと把握させることが大切になりそうです。また、同一教科の授業をたとえば「5番と8番」のように近づけてしまうと、巡りあわせによっては1日に2回、その教科の授業をするといったことも生じます。

振りかえ方式にしても、巻紙方式にしても、曜日による授業数のかたよりを減らすことはできるものの、編成の組みかたはやや複雑になります。いっそのこと、国民の祝日や休日に授業をやってしまえば、という意見もあるのかもしれません。

しかし、祝日を平日とおなじような扱いにすると、子どもたちはその祝日の意味するところをあまり考えることなく過ごしてしまいそうです。すくなくとも、先生や親が子どもたちと「今日はこういうことで祝日なのだ」と話しあうような機会があるとよいのではないでしょうか。

参考資料
内閣府「『国民の祝日』について」
http://www8.cao.go.jp/chosei/shukujitsu/gaiyou.html
箕面市立萱野小学校「行事予定(2015年9月度)」
http://www.city.minoh.lg.jp/kayano-ele/
ウィキペディア「時間割」
https://ja.wikipedia.org/wiki/時間割
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勘ちがいから名づけられるモノのことばもある
人はモノによび名をつけます。よび名があると便利だからです。

いまでは当たりまえにだれもが使っているモノについてのことばも、初めてだれかが名づけた瞬間があるはずです。

そのよび名のつけられかたのなかで、「勘ちがい」が絡んでいるのではとされるものもかなりあります。



このたぐいの話でよく出されるのは「トランプ」。英語圏の人などに“Let's play trump !”などといっても通じません。英語ではこの遊びを「カーズ」(cards)などといいます。

明治初期、西洋人たちがこの遊びに興じている姿をに日本人は見ていました。そのなかで、西洋人たちがしきりに「トランプ」と口にしているように聞こえたといいます。

西洋人たちが口にしていたのは、どうやら「切り札」つまり「奥の手の札」を意味する“trump”ということばだったようです。この“trump”ということばは、さらにたどっていくと「勝利」などを意味する“triumph”に行きつくとされます。

英語で「切り札」と言っているのを、日本人は遊戯そのものを指すことばにしたわけです。もし、当時の日本人たちが「なぁ、メリケンたちが『トランプ』『トランプ』って言ってる、あの遊び、われわれもやろう」と言って、その遊びが「トランプ」とよばれるようになったのであれば、あながち勘ちがいともいえますまい。


写真作者:Sarah Joy

「魔法瓶」も、勘ちがいが絡んでいるとされます。2013年に話題になった大阪日日新聞の記事によると、大阪の「まほうびん記念館」の初代館長が、1907(明治40)年10月22日付の新聞で「魔法瓶」ということばを見つけたといいます。この1907年の新聞記事では「イソップ物語に出てくる“マジックボトル”」を引きあいに出しているといいます。

しかしながら、大阪日日新聞の記事では、イソップ物語には“マジックボトル”といったアイテムは登場しないという別の人の指摘を紹介しています。つまり、べつの物語に登場する“マジックボトル”を、昔の日本人は勘ちがいして、「イソップ物語に出てくる魔法瓶」と紹介したのではないかということです。

では、なんの物語ととりちがえて、昔の日本人はこの道具に「魔法瓶」ということばがつけたというのでしょう。

1907年までに翻訳されている世界の著名な物語のひとつに「アリババと四十人の盗賊」があります。1887(明治20)年に著述家の矢野龍渓(1851-1931)が翻訳を「郵便報知新聞」に連載するなどしており、複数の翻訳ものが出ていたようです。この物語のなかには、主人公のアリババが、廃墟と化した街から“Magic Bottle”を見つけたところ、そのなかから子鬼が現れるという記述があります。

「アリババと四十人の盗賊」を、イソップ物語の話であると勘ちがいするかどうかには議論の余地がありそうです。しかし「魔法瓶」という命名のしかたには、お湯の熱を冷まさないという願いをかなえてくれそうな万能感があります。



もうひとつ、建材や缶の材料である「ブリキ」も、勘ちがいから生まれたとされます。幕末または明治初期ごろのこと、開港した横浜に西洋風建物が建てられるにあたり、煉瓦が輸入されてきました。

その煉瓦を入れていた箱は、錫メッキをした鉄板でできていたといいます。英国人の技師が、この錫メッキをした鉄板の箱のなかに入っている煉瓦のことを指して“brick”と口にしていたところ、日本の大工たちは箱を指して言っているものと思いこんで、そのような鉄板に「ブリキ」のよび名をあたえることになったといわれています。

なかには造られても定着しないモノのことばもあります。トランプ、魔法瓶、ブリキ……。これらのことばはいまもよく使われることから、勘ちがいが関係しているとはいえ、相当によくできた造語といえそうです。

参考資料
日経ビジネスオンライン 2015年6月13日付「日本語と英語でトランプの意味が違う理由」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150611/284148/
大阪日日新聞 2013年6月2日付「魔法瓶名前の由来は『勘違い』 新たな資料を発見」
http://www.nnn.co.jp/dainichi/news/130602/20130602026.html
wikipedia “List of Fables characters”
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Fables_characters
ナグラ・ハフィズ「日本近代演劇における『千夜一夜物語』の受容史(2)」『長野県短期大学紀要』第67号
スチール缶リサイクル協会「ぶりきの語源」
http://www.steelcan.jp/knowledge/word.html
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水素水を飲むことに「活性酸素除去の効果」の報告

単なる水

水になにかの物質を溶けこませたりした水が、「なになに水」などとして売られています。2007年ごろには「高濃度酸素水」がしばらく流行しました。

特定保健用食品や機能性表示食品でないかぎり、その売られている「なになに水」の体への健康効果などをうたうことはできません。しかし、商品の表示とはべつに、インターネットなどで「なになに水は体によい」といった情報がよく見られます。

高濃度酸素水については、「スポーツ時の酸素不足などからくる疲れなどの体調不良が解消する」「頭がすっきりする」「ダイエットによい」などといわれたようですが、科学的な実験の結果からはそうした効果はほぼ見られないようです。

いっぽう、高濃度酸素水の流行が去ったあと、今度は「水素水」がよく売られるようになりました。高濃度酸素水とすこし異なるのは、健康につながるような効果が、研究者の実験結果などにより伝えられていることです。

「脳の活性酸素が減少する」。東邦大学の研究グループが、水素水を飲むことで、ビタミンC不足による脳での活性酸素の増加を抑えることを発表しています。マウスを使った実験で、ビタミンCを合成できなくしたマウスを用意して実験したところ、水素水をあたえれた群は、単なる水をあたえられた群にくらべて活性酸素の発生が27%減少したということです。2008年8月の発表です。

「脳神経の変性を防ぐ」。これも、活性酸素関連です。九州大学の研究グループは、パナソニック電工との共同研究で、水素水をふくんだ水を飲むことが、活性酸素が原因で起きると考えられるパーキンソン病などの脳神経変性疾患の予防や治療に有用である可能性を確かめたといいます。2009年9月の発表です。

「歯周病を予防する」。岡山大学の研究グループは、水素水を摂取することに歯周病予防の効果があることを動物実験で確かめたといいます。歯周病のラットを使った実験で、水素水を摂取させたラットは、単なる蒸留水を摂取させたラットとくらべて歯周病の進行が抑えられていることが歯茎の組織の結果で確かめられたというもの。実験ではまた、水素水を摂取させたラットのほうでは活性酸素の増加も抑えられていたといいます。大学による発表は2012年9月のことです。

どうやら動物実験レベルながら、水素水を摂ることが活性酸素のはたらきを抑えることで、体のいろいろな部位に影響をもたらすという筋道が複数の実験結果から示されているといえます。しかしながら、特定保健用食品としての水素水はまだ売られていないようです。

参考資料
国立健康栄養研究所 話題の食品成分の科学情報「『酸素水』の効果に関する情報 (ver.090219)」
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail822.html
東邦大学 2008年8月21日発表「水素水で活性酸素を除去!? 水素水の飲用で脳の活性酸素が減少する」
http://www.toho-u.ac.jp/press/2008/015426.html
九州大学 2009年9月29日発表「水素を含んだ水の日常飲用が脳神経の変性を防ぐ事を発見 パーキンソン病モデルマウスに対する治療・予防効果」
http://www.kyushu-u.ac.jp/pressrelease/2009/2009-09-29-01.pdf
岡山大学 2012年9月20日発表「世界で初めて証明 水素水の摂取で歯周病予防」
http://www.okayama-u.net/renkei/document/pdf/pressrelease/press-120920-4.pdf

なお、ふもとっぱらで売られていた「剛水」は剛入りではありませんし、健康効果はなにも謳われていません。
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「セサミンだけでは語り尽くせないゴマの健康成分」


日本ビジネスプレスのウェブニュース「JBpress」で、きょう(2015年)9月18日(金)「セサミンだけでは語り尽くせないゴマの健康成分 「あればあったでよい」食材、ゴマの不思議(後篇)」という記事が配信されました。

ゴマは、日本では縄文時代後期の遺跡からは見つかっており、古くから日本にあった植物です。しかし、日本の固有種というわけではなく、遠くアフリカのサバンナ地方を起源とするとされています。

むかしもいまも、ゴマは「摂取すると健康によい」といわれています。むかしは、人びとの経験や言いつたえなどによるところが大きかったのでしょう。いっぽう、いまはそこに科学的な視点が加わっています。

今日日「ゴマで健康」といえば、栄養補助食品の「セサミン」がもっぱら知られているところです。しかし、あまりに企業による「セサミン」の宣伝が印象強いため、セサミン以外の物質にも、抗酸化作用などの健康にかかわる効果があることが、なかなか知られていません。

この記事では、セサミノール、セサモリノール、ピペリトール(P1)などといった、ゴマに含まれる抗酸化作用を示すゴマリグナンを生じさせる配糖体という物質を発見している、三重大学大学院生物資源学研究科准教授の勝崎裕隆さんに話を聞いています。

ゴマによる健康効果とは、セサミンのみがもたらすものではないようです。セサミノール、セサモリノール、ピペリトールなどの物質にもまた、抗酸化作用が見いだされています。

つまり、物質がもたらす健康効果としては、セサミンも、セサミノール、セサモリノール、ピペリトールなどのほかの物質も、同等扱いをしてもよさそうなものです。

しかし、「ゴマで健康効果」といえば、もっぱらセサミンの名が通じてしまっています。これはどうしてでしょう。

それは、大手企業に見初められたゴマの成分が、数ある物質のなかでもセサミンだったから、という偶然的な要因によるところが大きいようです。勝崎さんは「もし企業が他のゴマリグナンを最初に発見していれば、その物質の機能を見つけて宣伝されていたかもしれません」と話します。

セサミンの健康効果が、ほかのゴマの成分にくらべて弱いのかというと、そういうことはなさそうです。しかし、「ゴマで健康といえばセサミン」といった単純な話だけでもないわけです。研究をする組織の資金力や宣伝のしかたなどによって、浮かばれるものは浮かばれるという社会現象の一端を示した例が、このセサミンとセサミン以外のゴマ成分の関係といえそうです。

「セサミンだけでは語り尽くせないゴマの健康成分 「あればあったでよい」食材、ゴマの不思議(後篇)」はこちらです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44791

前篇の、日本におけるゴマの歴史を追った記事「宣伝過剰?『万能薬』だった江戸時代のゴマ」はこちらです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44760

記事の取材と執筆をしました。
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「3E+S」、略語でまとめていても理解しづらい
人は、人びとに考えたことをわかりやすく伝えるために、ことばや文字などの工夫をするものです。「3K」ということばが、「危険、きつい、汚い」という職業環境の悪さにも、「高身長、高収入、高学歴」といった人物の条件のよさにも使われるのは、どちらにしても「3K」として表現するほうが覚えてもらいやすいからでしょう。

いまのエネルギー政策については、国は「3E+S」あるいは「3つのEとS」とよばれる視座をつくりあげて、国民に知らしめようとしています。2014年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」という、国のエネルギー利用などの大方針を定めた計画の第2章第1節「エネルギー政策の原則と改革の視点」という節に、「3E+S」が盛りこまれています。

この節での文書によると、エネルギー政策の推進にあたっては、「生産・調達から流通、消費までのエネルギーのサプライチェーン全体を俯瞰し、基本的な視点を明確にして中長期に取り組んでいくことが重要」として、その要諦を「3E+S」で表現されることがらに集約させています。

「3E」とは、Eではじまる英語のことばの頭文字を表現したもの。

ひとつめのEが意味するものは、“Energy Security”で、「安定供給」を意味します。

ふたつめは、“Economic Efficiency”で、「経済効率の向上」。

そして、みっつめは“Environment”で、「環境への適合」であるといいます。


「エネルギー基本計画」に書かれている「3E+S」(経済産業省2014年4月発表「エネルギー基本計画」より)

そして、「3E+S」の「S」のほうは、“Safety”つまり「安全性」を意味しているといいます。このSつまり安全性は、ほかの3Eの「前提」になるものといいます。

しかし、この「3E+S」ということばは、なかなか国民には浸透していません。「3E+S」ということばでまとめているものの、その中身を理解するのはけっこう複雑だからかもしれません。

たとえば、ひとつめのEの“Energy Security”は「安定供給」と日本語ではされていますが、直訳すれば「エネルギーの安全保障」です。ふたつめの“Economic Efficiency”も「経済効率の向上」としていますが、直訳すると「経済効率」であり、「向上」という意味まではふくまれません。みっつめの“Environment”も、「環境への適合」としていますが、直訳ではただ単に「環境」となります。つまり、英語の意味と、日本語の意味が完全には合っていないわけです。

さらに、ひとつめのEは、“Energy Security”ということですが、“Energy”というものは、この「3E+S」のすべてにかかわるもの。そのため、ひとつめのEだけに“Energy”ということばをあたえるのは、表現のしかたとしては不釣りあいになります。

さらに、「安全性」を「前提」としているのであれば、ことばの順番としては、「3E」よりも「S」のほうが先にきて、「S+3E」とするほうが、説明内容と表現の一致性は高くなります。

さらに、ひとつめのEにふくまれる“Security”ということばと、Sで示されている“Safety”ということばは、日本語ではともに「安全」と訳されます。英語では、“Security”は「攻撃からの安全」の意味あいが強く、“Security”は一般的な「安全」の意味あいが強いとされます。けれども日本語ではどちらも「安全」と訳されるため、紛らわしくなります。

これらのことからすると、「3E+S」は、かんたんなことばで表現しているように見えて、じつは理解しづらい表現になっているといえます。

参考資料
経済産業省 2014年4月「エネルギー基本計画」
http://www.meti.go.jp/press/2014/04/20140411001/20140411001-1.pdf
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意図的な連呼と、自然発生的な連呼と


集団的な意思疎通のしかたとして、「連呼」あるいは「コール」などとよばれるものがあります。

人びとが集団で政治的な意思表示をするデモンストレーションでは、「戦争反対」「戦争反対」などのように、先導役の声とそれに従う人びとの声が連呼されます。シュプレヒコールなどともよばれます。

人びとがみんなで連呼することの意味はどこにあるのでしょう。

シュプレヒコールのように意図的に連呼をするときは、その連呼が聞こえる人たちに対して「単純接触効果」とよばれる心理的な効果がはたらくといいます。

単純接触効果とは、くりかえし接すると好意度や印象が高まるという効果です。「戦争反対」と連呼している声にくりかえし接していると、「戦争反対」に対する気もちが高まるわけです。集団的な連呼ではないものの、ラジオやテレビの広告でも、「マーブルマープルマーブルマーブルマーブルチョコレート」のように、商品名やその一部を連呼するものがあります。これも単純接触効果をねらったものなのでしょう。

しかし、「ではいまから連呼を始める」といったように意図的にするものでなく、自然発生的に起きる連呼もあります。

たとえば、プロレスの興行では、「イノキーノーイノキーノーイノキーノー」と「猪木コール」が、また、大リーグの試合では「イチロー、イチロー、イチロー」などと観客から選手コールが自然とわきおこることがあります。

連呼がはじまる前にも、一人ひとりが「イノキー!」とか「イーチロー!」とか、選手の名前を大きな声で叫んでいます。それらの声が重なっていくと、集団による「猪木コール」や「イチローコール」に発展していくように見うけられます。

しかし、選手コールをよく聞くと、だれか一人が「イノーキー! イノーキー!」などと連呼しはじめると、まわりの人もそれに同調して、集団的な選手コールになっていくようでもあります。

とはいえ、やはりそれは自然発生的なものの域を超えないのでしょう。たいてい、集団が一斉に起こす選手コールは、数回のくりかえしによりばらばらになっていき、また一人ひとりが選手に声援を送る状態に戻っていきます。
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パラリンピックに向け、義足の技術が進歩


五輪などの大きな運動競技大会が開かれるたびに、さまざまな関連分野の技術は一段、高まるといわれています。技術開発者は、その競技大会で新たな技術を使い、好成績などの結果を出すことを目標にするからです。

2020年に行われる予定の東京パラリンピックに向けても、とりわけ障害者アスリートたちが記録をうちたてるのに貢献するような技術が開発されています。

たとえば、陸上競技における義足。パラリンピックでは、陸上競技のトラック種目の競技クラスとして、視覚障害、脳原性麻痺、切断・機能障害、脳原性麻痺以外の車いす使用などと細分化がなされます。

このうち、T42-44という競技クラスでは、トラック種目では義足を使用しなければならないことが、国際パラリンピック委員会の2014年から2015年の陸上競技規則および規定では定められています。

走行用の義足では、人の足の断端をはめる「ソケット」という部分、それに脛のあたりからつま先までに該当する「板バネ」という部分を、「膝継手」という部分がつなぐようなつくりになっています。日常用の義足とかたちの点で大きく異なるのは、板バネが使われているところでしょう。

技術者の遠藤謙さんや元陸上プロ競技選手の為末大さんらが立ちあげた競技用義足開発企業「サイボーグ」は、着地や蹴りだしのときの足首部分の動きをコンピュータで制御する「ロボット義足」を開発しています。

このロボット義足は、センサ、モーター、コンピュータを駆使して、義足の着地のしかたを検出し、足首に強い回転力をあたえて蹴りだすといった足の動きを実現します。ふつうの義足では足首に該当する部分が固定されているため、使うと足を引きずる格好になりますが、ロボット義足はより自然な足の動きになるといいます。

ただし、モータの数などをできるだけ減らすかわりに、バネの数を増やすなどして、より本物の足に近い義足を開発することを目指しているとも伝えられます。サイボーグのホームページでは、「我々は、日本人の義足のアスリートが東京パラリンピックの短距離競技でオリンピックの優勝者よりも速いタイムで優勝することを夢見ています」と、目標を掲げています。

いっぽう、産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究グループは、研究員の保原浩明さんが、健常者アスリートと、義足使用者アスリートの走りかたを比較しています。健常者では、一歩の歩幅を伸ばすと回転数が落ちるのに対して、義足使用者は義足が軽いため歩幅が長くても回転数があまり落ちないことから、歩幅を伸ばすことが義足による走りでは大切になるという研究結果を導いています。

2020年の東京パラリンピックで使われることを見すえた技術もさることながら、2016年にはリオデジャネイロパラリンピックも行われます。障害者アスリートを支える技術にも注目どころは多くありそうです。

参考資料
国際パラリンピック委員会「陸上競技規則 及び 規定 2014-2015」
http://jaafd.org/pdf/committee2/c2_20150713.pdf
相馬りか「障害者スポーツ用具の技術動向」『科学技術動向』2015年7・8月号
http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-STT151J-16.pdf
日本経済新聞 2015年3月25日付「義足で健常者超えろ 100メートル走新記録狙う」
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO84793310U5A320C1X11000/
Xiborg「プロジェクト」
http://xiborg.jp/home/
ニュースイッチ 2015年7月4日付「義足で速く走るポイントは『歩幅』 産総研の保原研究員、400人以上の障害者アスリートの走りを解析」
https://newswitch.jp/p/1210
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スナックの語源を“軽く”探る


食べものにかかわる外来語はいろいろとあります。聞かされると「なんとなくこんな感じ」というイデアをもつことはできるものの、その語源がどのようなものであるのかまではわからないということばもあります。

そのひとつが「スナック」ということば。すっかり日本人に浸透しています。このことばに対して、「しっかりした食事よりも軽く摂る食べもの」という意味あいをどことなくもっている人もいるのではないでしょうか。コンビニエンスストアにいけば、「カール」や「とんがりコーン」などのスナック菓子があります。また、歓楽街に行けば「スナック」と銘うつ店が多々あります。

いったい「スナック」の語源はどのようなものでしょうか。

「オンライン語源辞典」(Online Etymology Dictionary)という英文のホームページには、“snack”の語源が記されています。
_____

1300年に生じたことばで、中世のオランダまたはフランドルで「軽食をとる」「かみつく」「音を立てる」などの意味をもつ“snacken"から来ているであろう「(犬が)噛むまたは噛みつく」が語源であり、「鼻と関係する、snuからなることばに倣った仮定上のドイツの語源に由来する。「ちょっと噛む、ひときれいただく、軽く食べる」が、1807年にはじめて記載された。
_____

これらの語源の説明からすると、本食でなく食べものを「軽く食べる」といった意味あいが本質的にあるようです。

たしかに、スナック・バーに入って、「がっつり夕食をとりました」ということはなさそうです。また、スナック菓子で「がっつり夕食をとりました」ということもなさそうです。

参考資料
Online Etymology Dictionary "snack”
http://www.etymonline.com/index.php?term=snack
| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)
ドラキュラの「深夜の散歩」は「とくい」といえる



子どものころ見ていた放送番組などでは、印象ふかいものは大人になっても記憶に残るものです。

中年以上の世代の人は、テレビアニメ番組『怪物くん』の記録がある人は多いかもしれません。藤子不二雄A原作のまんが『怪物くん』をアニメ化したものです。

この番組の終わりの曲は「おれたちゃ怪物三人組よ」。作詞は藤子不二雄、作曲は小林亜星、編曲は筒井広志です。ドラキュラ役の肝付兼太、オオカミ男役の神山卓三、フランケン役の相模太郎の声優3人が歌っています。

この曲は、『怪物くん』の主人公である怪物くんをとりまく怪物3人がそれぞれ自分たちの特性を自己紹介したうえで、「ぼっちゃん」(怪物くん)を「えんやこら」と協力して助けていくという気もちを表すもの。

この歌のなかで、3人の怪物は「とくい」なものについて、それぞれつぎのように歌っています。

「力仕事」(フランケン)
「深夜の散歩」(ドラキュラ)
「怪物料理の名コック」(オオカミ男)

なにげないこの歌のことばですが、2番めドラキュラの「深夜の散歩」については議論が展開されているようです。つまり、ドラキュラの言う「深夜の散歩」が、「とくい」といえる行動と考えられるのかどうかというものです。

フランケンによる「力仕事」は重い荷物などを運ぶなど、強い力を必要とする仕事をすることができるということで、これは明らかに「得意」な業ということができます。

また、オオカミ男の「怪物料理の名コック」というのも、おそらくは、自分が「名コックと言われるくらいに怪物料理をつくることができる」と言っているのですから、これも「得意」な業ということができます。

これらに対して、ドラキュラの言っている「深夜の散歩」については、夜ふけの時間にとりわけ目的もなく気の向くままに歩くことを言っているものと考えられます。

目的のない行為が、はたして「とくい」なものといえるかという点は、たしかに議論の対象となりそうです。むしろ、変わった「趣味」の部類にはいるのではないかと考えられなくもありません。

ここでひとつだけ指摘されるべきなのは、「おれたちゃ怪物三人組よ」の歌詞です。

「力仕事に 深夜の散歩 怪物料理の名コック」と3人の怪物が歌ったあと、「とくいはそれぞれちがうけど」と続けています。

漢字で「得意」とは書かれておらず、「とくい」になっています。「とくい」と書くことばにはいくつかあり、性質を示すことばとしては「得意」のほかに「特異」があります。

「特異」とは、ふつうととくに異なっていること。

つまり、「とくい」を「特異」と捉えれば、「深夜の散歩」は多くの人が寝しずまっている時間帯に外を歩きまわるという行為であるため、あきらかに「特異」といえます。

「とくいはそれぞれちがうけど」を「特異」だと解釈すると、「力仕事」「怪物料理の名コック」も「特異」にふくんでもおかしくはありません。

そこで、ドラキュラの「深夜の散歩」が「得意」といえるものかという議論に対しては、「得意」でなく「特異」と考えれば、「そのようにいえる」と答えることができるわけです。

参考資料
ウィキペディア「怪物くん(カラーアニメ)」
https://ja.wikipedia.org/wiki/怪物くん_(カラーアニメ)
もつけんさんのブログ記事「散歩は特技なのか趣味なのか?­」
http://mp.i-revo.jp/user.php/lvftqsqc/entry/31.html

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戦後の新聞、右横書きから左横書きへ(下)
戦後の新聞、右横書きから左横書きへ(上)

読売報知新聞(いま読売新聞)は、ほかの新聞に先駆けて1946年1月1日に、横組の活字を右横書きから左横書きへと切りかえました。

では当時、発行部数日本一だった朝日新聞は、いつどのように右横書きから左横書きへ切りかえたのでしょうか。

読売新聞が左横書きに切りかえた年である1946年の大晦日12月31日の朝日新聞を見てみると、まだ「答一問一と相蔵橋石」のように、旧来の右横書きになっています。ほかに、題字下の発行所名や、欄外の日付や新聞名なども右横書きです。


1946年12月31日付 朝日新聞(「聞蔵II」より)

ところが、明けて1947年1月1日になると、「マ元帥・念頭の言葉」「朝日新聞東京本社」などと、この日付の新聞から左横書きになりました。


1947年1月1日付 朝日新聞(同)

つまり、朝日新聞は、読売新聞の左横書き移行から1年後、左横書きに切りかえたわけです。

読売新聞のほうは、左横書き移行の社告を「新生日本を象徴する最も進歩的なる新聞として、明元旦から全讀者に見ゆることゝしました」などと誇り高く書いていました。

では朝日新聞のほうはというと、左横書きを始めた1947年1月1日の記事の1面下側に「おことわり」として、こう記されています。


1947年1月1日付 朝日新聞(同)

「おことわり 本社はさきに当用漢字、新かなづかいを採用し、新聞の平明化をはかつてきましたが、新春の新聞から『左横書』を併用することにしました」

まず、「新かなづかい」とは、いま一般的に用いられている仮名づかいのこと。これは1946(昭和21)年11月16日付で仮名づかいの変更が内閣告示されたことを受けてのものと考えられます。

左横書きのお知らせについては、「おことわり」の見出しがついており、読売新聞の華々しい左横書き開始の社告にくらべると、かなり地味な印象です。新聞は本質的に他紙に先んじることをよしとするもの。しかし、左横書きは読売新聞に1年前に先を超されていたため、知らせる表現も地味なものになったことが推測されます。ちなみに、いまの朝日新聞ホームページの沿革紹介でも、「新かなづかい」を始めたことは書かれてあるものの、左横書きを始めたことは書かれていません。

左横書きについては1942(昭和17)年7月、文部省(いまの文部科学省)が諮問する国語審議会で、左横書きを本則とする旨が答申されていました。巷でも、右から左へ読む看板文字や広告は存在していました。しかし、この答申に対しては閣議は同意しなかったといいます。社会には左書き文化の欧米に倣う必要はないとする考えかたもあったようです。

しかし、戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ:General HeadQuarters)が日本を占領すると、急速に欧米文化が見ならわれるようになりました。そうした背景のなかで、新聞も一社が左横書きを始めると、他紙もそれに追随して左横書きを始めていったのでした。新聞では、1950(昭和45)年9月、日本経済新聞の左横書きへの移行を最後に、すべての新聞で左横書きへの移行が完了したといいます。

なお、旧来の右横書きは、縦書きを1行1文字で表現したものと解釈する場合もあります。

参考資料
ウィキペディア「縦書きと横書き」
https://ja.wikipedia.org/wiki/縦書きと横書き
朝日新聞社「沿革」
http://www.asahi.com/shimbun/company/outline/history.html
| - | 22:51 | comments(0) | trackbacks(0)
戦後の新聞、右横書きから左横書きへ(上)
太平洋戦争以前の新聞誌面を見たことがある人は、横組の活字がいまと逆に、右から左に向かっていることを知っていることでしょう。右から左に文字が進む書きかたを「右横書き」といいます。

新聞にかぎらず、かつての横組表現では、ほとんどが右横書きでした。

そもそも横書きは、縦書きよりもあとから見られるようになったもの。その発端は、18世紀後半に蘭学が紹介されたことからとされます。蘭学者の大槻玄沢(1757-1827)が1788(天明8)年、『蘭学階梯』という蘭学の入門書を出したとき、横文字を使ったことをきっかけに、庶民の間にも横書きが広まったといいます。

以降、日本での横書きでは、右横書きが主流になります。おそらく、縦書きが改行するたびに、右から左へと進んでいくのに倣ったものでしょう。ただし、かつての横書きにも、いまとおなじく左から右に進む左横書きもなくはありませんでした。

新聞は明治期に刊行されてからというもの、すくなくとも太平洋戦争が終わる1945年まで、基本的に一貫して右横書きで活字が組まれていました。

しかし、いまはどの新聞も一貫して左横書きで文字が組まれています。

ということは、いつの時点かで、新聞が右横書きから左横書きへと切りかえたことがあるはずです。ではいったいどの時点なのでしょう。

これを調べるのはかんたんです。新聞には縮刷版や過去記事データベースがありますので、それを見ていけば、右横書きの紙面が左横書きの紙面に変わるときを見つけられるはずです。

では、いつどのように右横書きから左横書きに変わったのか。読売新聞と朝日新聞で見ていきます。

まず、読売新聞。当時は「読売報知新聞」とよばれていました。敗戦の年である1945年までは、記事を見ると右横書きになっています。たとえば、12月31日の記事では、「閣内原幣と擧選總」のように右横書きになっています。


1945年12月31日付 読売報知新聞(「ヨミダス歴史館」より)

しかし、この日12月31日付の読売新聞の1面下のほうに、いわゆる社告が載っています。「題字、横字の左書き統一」というもの。


1945年12月31日付 読売報知新聞(同)

「日本の民主主義革命随行」という目標に向けて「一致鋭意努力しています」という、いかにも戦後まもなくらしい前置きをしたうえで、「横列文字は一切左書きに統一する等新聞界積年にわたる傳統□□の形式を打破」と横書きにする旨を予告しています(□□は判読不能)。

さらに、「もつて新生日本を象徴する最も進歩的なる新聞として、明元旦から全讀者に見ゆることゝしました」と、誇り高く締めくくっています。

そして、あくる1946年元日、前日の予告どおり、新聞紙面では「1946年 昭和21年1月1日(火曜日)」「けふの天気」「日本歴史の再檢討」などと、すべての横組は左横書きに移っています。題字の「読売報知」も、前日までの右肩に縦書きで表示されていたところが、上段中央に左横書きで表示されるようになりました。しかも“THE YOMIURI-HOCHI”と、ローマ字でも横組みされています。英米の文化を積極的に受けいれる姿勢の表れととることもできます。


1946年1月1日付 読売報知新聞(同)

いまの新聞と過去の新聞では、表現のしかたも大きく異なります。とはいえ、左横書きを伝える上記の社告は、かなりの誇り高さを示したもの。これには理由があります。新聞各紙のなかでも、読売報知が、ほかの新聞にさきがけて左横書きをはじめたのです。「新生日本を象徴する最も進歩的なる新聞」と書くのも、故なしとしません。

では、読売新聞の好敵手でありつづける新聞は、いつの時点でどのように左横書きに移行したのでしょうか。つづく。

参考資料
ウィキペディア「縦書きと横書き」
https://ja.wikipedia.org/wiki/縦書きと横書き
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微生物からβグルコシダーゼ、配糖体を分解


細菌の話題で「βグルコシダーゼ(β-glucosidase)」という物質の名前が出てくることがあります。インターネットを覗いてみると……。

「好熱嫌気性細菌由来のセルロソームとβグルコシダーゼの組み合わせで、 セルロース分解能を飛躍的に向上できる」

「大腸菌の持つβ−グルコシダーゼに加水分解されることで活性本体になるが……」

「毒性発現:サイカシンが腸内細菌のβ-グルコシダーゼにより分解され、メチルカチオン(CH3+)が生成し、発がん性を示す」

βグルコシダーゼとは、どのような物質でしょう。

物質名の接尾辞に「アーゼ」(-ase)とつくものは、たいてい「加水分解酵素」とよばれる物質です。酵素は、さまざまな化学反応を引きおこす物質ですが、なかでも水と反応して、化合物を分解するはたきをもつ酵素は、加水分解酵素とよばれます。

βグルコシダーゼは、なにを加水分解するのかというと、ブドウ糖とほかの物質とが結びついた「配糖体」という化合物です。配糖体を加水分解して、ブドウ糖とほかの物質へと分けるのです。

「グルコシダーゼ」に似た名前の「グリコシダーゼ」という物質もありますが、グリコシダーゼのほうは、糖全般とほかの物質を分けるもの。グリコシダーゼも、糖とほかの物質とを分けるので、グルコシダーゼのひとつといえます。ただし、グルコシダーゼは、糖のなかでもブドウ糖を、ほかの物質と切りはなすものを指します。

「β」とついているのは、βグルコシド結合というブドウ糖の結びつきかたをもっている配糖体に対して作用するため。βとはべつに、αグルコシド結合による結びつきかたに作用する「αグルコシダーゼ」という酵素もあります。

βグルコシダーゼをつくっているのが微生物です。土壌中の微生物やカビ、また腸内の細菌などのさまざまな微生物がβグルコシダーゼをもたらします。

ブドウ糖と結びついた配糖体のかたちをしていると作用しないものの、βグルコシダーゼに加水分解されることで分けられると、作用しだす物質というものもあります。そのため、βグルコシダーゼは物質の機能を発揮させる酵素として注目され、またβグルコシダーゼをつくりだす微生物も注目されています。

参考資料
ウィキペディア「βグルコシダーゼ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/Β-グルコシダーゼ
塚田剛士「糖質加水分解酵素ファミリー1に属するβ-グルコシダーゼの構造と機能に関する研究」
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/34239/1/39-67100.pdf
身近な野生植物のページ「配糖体(glycoside)について」
http://www2.odn.ne.jp/had26900/constituents/about_glycosides.htm
石山絹子・森下真希・小泉幸道・福田靖子「セサムフラワの微生物処理が抗酸化機能性に及ぼす影響」
http://libweb.nagoya-wu.ac.jp/kiyo/kiyo51/kasei/kobetu/kk5104ishiyama.pdf
| - | 23:36 | comments(1) | trackbacks(0)
「マンドルーラ」のプリンスカレー――カレーまみれのアネクドート(69)


津市は三重県の県庁所在地。県庁は津駅から徒歩10分ほどの広明町にあります。県庁のとなりには、県庁所在地なので三重県議会議事堂があります。議事堂らしく、全体的に立方体のかたちをした厳格な建てものです。

その県議会議事堂を正面から入った左奥にひっそりあるのが、議事堂喫茶室の「マンドルーラ」という店。マンドルーラ(mandorla)はイタリア語で、「最後の審判」のときイェス・キリストの体のまわりをとり巻いたアーモンド形の大きな後輪のこと、とのこと。絵画などの肖像の背後に、聖なるものの象徴として描かれます。

なぜ、この喫茶室の名が「マンドルーラ」なのかは謎の残るところですが、この喫茶室が「プリンスカレー」という名物的カレーが出されているのは明らかな事実です。

店前の看板や、店内の壁には「プリンスカレー」の説明が。

「昭和59年、ときの皇太子殿下(現天皇皇后両陛下)ご来県の御時。一年間の試行錯誤の後に完成した、特製カレーライスを献上しました。妃殿下からお褒めの言葉をいただいたそのカレーが、20数年の時を経てマンドルーラで復活いたしました」

宮内庁の情報によると、1984年10月3日から8日にかけて、当時の皇太子と美智子さまは三重県と京都府を訪問しています。

京都を巡ったあと、三重県では神宮(伊勢神宮)にご参拝されました。その折に、県内浜島町で開かれた「第4回全国豊かな海づくり大会」にも出席されています。その大会で皇太子と美智子さまにカレーが出されたのです。

このカレーをつくるのに携わっていたのが「ふじや本店」社長の柳川昌彌さん。「ふじや本店」は四日市市の葬儀会社ですが、「マンドルーラ」の運営もしています。柳川さんは、『女性自身』の記事で「お見送りした際、美智子さまから『おいしかったですよ』とのお言葉をいただいたことは、一生の思い出になっています」とのコメントを書かれています。

美智子さまから「おいしかったですよ」とお褒めのことばがあったことは、よほど思い出深かったのでしょう。「マンドルーラ」で復活したわけです。

カレーは上品な、白い陶製のカレーポットに出されます。いわゆる欧風カレーですが、「マンドルーラ」によると、肉、野菜、ライスとともに県産の素材が使われています。肉は松坂肉や地鶏、米はコシヒカリ、野菜も地元産。

ルゥのなかの具はほぼ肉のかけらだけですが、野菜が溶けこんでいてルゥは濃厚です。

味はというと、多くの人はひとくち食べて「甘いカレー」を想像するのではないでしょうか。「皇太子と美智子さまがお召しあがりになるカレーだから、辛すぎてお気に召されないのも問題だから、甘めの味にしたのだろう」となどと勝手に想像する人もいるかもしれません。

しかし、わりと量のあるカレーを食べ進めていくと、いつのまに「けっこうしっかりした辛さ」を覚えることに。食べるごとに、すこしずつの辛さが積みかさなっていき、しっかりした辛さになるのでしょう。「一年間の試行錯誤」というのも納得できる味です。

なお、美智子さまから「おいしかったですよ」と言われたカレーを再現したこのカレーの名は、「プリンスカレー」。「プリンセスカレー」ではありません。このあたりの名づけにも、おそらくは試行錯誤があっての結果なのでしょう。

津駅からはすこし歩きますが、県議会にほかの用はなくても、食べる価値ありのカレーです。
「マンドルーラ」の食べログ情報はこちら。
http://tabelog.com/mie/A2401/A240101/24009298/

参考資料
マンドルーラ
http://www.efujiya.co.jp/company/kissa.html
宮内庁「京都府ご訪問時のお泊まり所について(皇太子同妃両殿下時代)」
http://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/taio/pdf/kyoto-otomarijo.pdf
『女性自身』2015年8月31日付「欧風からタイカレーまで…天皇ご一家御用達カレー10」
http://jisin.jp/serial/社会スポーツ/imperial/12807
| - | 15:59 | comments(0) | trackbacks(0)
「ちがう」の意味の形容詞さがしは難問


ことばの問題をもうひとつ。

日本語には、動詞と形容詞がありますが、「きわめて形容詞的な動詞」があります。たとえば、英和辞典で、“different"を引くと、日本語では「違う、異なる」の意味が示されます。

Aというものと、Bというものが、べつの様子や、形や、状態をとっていて、一致していないわけです。これは、形容詞の示す、物事の性質、状態、心情などを表していることとほぼおなじ。それでいて、「ちがう」「異なる」のように動詞になっているわけです。

では、「ちがう」「異なる」の意味するものを、形容詞で示すことはできるのでしょうか。「ちがう」「異なる」と同義の形容詞はあるのでしょうか。

これがなかなかむずかしい問題です。たとえば、類語辞典で「違う」と入れてみると、「異なる」「変わる」などの動詞や、「相違」「変化」などの名詞はでてきますが、形容詞はでてきません。

それでも「ちがう」「異なる」を形容詞で表すとしたら、どのことばが近いでしょうか。

「ない(無い)」は、ひとつの候補といえます。たとえば、会話のなかで「それはちがうね」と言おうとするとき、「それはないね」などといいます。ここでの「ない」は、「そうである可能性は、ない」と捉えることができますから、一致している、相違がある、といった意味にちかいものと考えることができます。

「程遠い」も、検討する価値のある形容詞といえるでしょうか。「程遠い」は、隔たりが相当にある、または、はなはだしくかけ離れている、といった状態を示す形容詞です。

しかし、「AはBとは程遠い」という場合、AとBはおなじ線の上にありながらも、離れた状態にある、という意味あいになります。ですので、AとBには「程度」のちがいはあるものの、「質」のちがいまであるとはいえません。

結局、なかなか「ちがう」「異なる」に該当するような形容詞が見つかりません。そこで、人によっては「ちがくて」や「ちがくない」のように、「ちがい」を動詞の名詞形でなく、形容詞にしてしまい、それに活用をつけるといった荒技を使うこともあります。

参考資料
NHK放送文化研究所「最近気になる放送用語 違くない?」
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/045.html
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
「開かれる」は開かれなかったものに、「行われる」は手順あるものに

写真作者:uka0310

人が文を書くとき、にている二つのことばのどちらを使うか考える場合があります。にていながら二つのことばが存在するということは、どこかに異なる意味あいがあるのでしょう。

「開かれる」と「行われる」は、そんなにているけれどすこし意味あいが異なることばどうしの典型です。

「イベントが開かれる」というときもあれば、「イベントが行われる」というときもあります。たいてい、「開かれる」「行われる」どちらを使っても違和感のないことが多いですが、なかには違和感を覚える例もあります。

「今年も小学校で入学式が開かれた」と聞くと、若干の違和感を覚える人はいることでしょう。

また、「美術館でピカソの絵画展が行われた」と聞くときも、若干の違和感を覚える人がいるかもしれません。

「開かれる」とは、閉ざされていたものごと、つまり開かれていなかったものごとが、「開かれる」といった、前の状態からの変化に意味あいを強く置いた動詞です。「蓋を開く」というときも、閉じられていた蓋が閉じられなくなったことを指します。これを「(イベントが)開かれる」に当てはめると、なかなか実現しなかったイベントが実現された、といった意味あいになります。

小学校の入学式というものは、毎年の恒例行事になっているので、これに「開かれた」を使うと、どこか違和感を覚えるわけです。

いっぽう、「行われる」は、ある一定のルールや決められた順序などにのっとって実施されることに意味あいを強く置いた動詞です。つまり、「行われた」を使うとき、そのイベントは、意識的にでも無意識的にでも、手順のようなものがあらかじめ用意されているものだとふさわしいことになります。

絵画展というものには、ルールや順序といったものがあるわけではないので、「行われる」と聞くと、どこか違和感を覚えるわけです。

日本語を母国語とせず、あらたに学ぶ人にとって、「開かれる」と「行われる」の使いわけは、意識的にするものかもしれません。しかし、日本人は日本語に慣れしたしんでいるので、たいてい「しっくりくるほう」を使えばそれで正解となります。

参考資料
NHK放送文化研究所「最近気になる放送用語 開く? 行う?」
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/044.html
| - | 16:15 | comments(0) | trackbacks(0)
原電は原発建設、原燃は燃料再処理
原子力発電をめぐる業界には、原子力発電所をもっている電力会社のほか、原子力産業に関わる企業もあります。東京電力や関西電力などの電力会社はよく知られていますが、原子力産業に関わる企業は、どのような事業をしているのか、さほど知られていません。

たとえば、「日本原電」と「日本原燃」という、よばれかたのよくにた二つの企業があります。それぞれ、どのようなことをしているのでしょうか。

まず、日本電源のほうは、正式な社名を「日本原子力発電株式会社」といいます。「原子力発電」ならば「日本原発」としてもよさそうですが、ロゴマークなどにも「げんでん」と記されています。

日本原電は1957年に設立されました。「本店」は、東京・神田美土代町。従業員数は1200人です。

いま、「事業目的」として、つぎのことを掲げています。
_____

1.原子力発電の開拓企業化のために次の事業を営むことを目的とする。
(1)原子力発電所の建設、運転操作およびこれに伴う電気の供給。
(2)前号に付帯関連する事業。
2.委託を受けて、原子力発電所に関する調査、設計、工事監督、建設、運転およびその他の技術援助等に関する事業を行うことができる。
_____

「事業目的」でありながら、「2」のほうは「行うことができる」として、「可能である」事業を示しています。

日本原電は、日本初の商業用原子炉である「東海発電所」の営業運転を1966年に始めました。日本原電の株主は、北海道電力から九州電力まで、いま原子力発電所をもっている「9電力」とよばれる会社です。原子力発電の黎明期には、電力企業が株式を出しあって、原子力発電所の営業運転をしたわけです。その後、日本原電は1970年に、日本初の商業用軽水炉である「敦賀発電所1号機」の営業運転も始めました。なお、東海発電所は老朽化のため、廃炉の作業に入っています。


茨城県東海村の東海発電所

いっぽう、日本原燃は、正式な社名を「日本原燃株式会社」といいます。沿革としては、1980年、電力業界が中心となり「日本原燃サービス」という会社を設立したことに端を発しています。本社は、青森県の六ケ所村にあり、従業員数は2494人です。

日本原燃は、いま、「事業目的」をつぎのように掲げています。
_____

1.ウランの濃縮
2.原子力発電所等から生ずる使用済燃料の再処理
3.前記2.に関する海外再処理に伴う回収燃料物質および廃棄物の一時保管
4.低レベル放射性廃棄物の埋設
5.混合酸化物燃料の製造
6.ウラン、低レベル放射性廃棄物および使用済燃料等の輸送
7.前各号に付帯関連する事業
_____

日本は、国策として、原子力発電で使いはたした核燃料から、ウランなどの燃料をとりだして再処理し、ふたたび原子力発電の燃料として使うという「核燃料サイクル」を基本方針にしています。


青森県六ケ所村の六ヶ所再処理工場

その核燃料サイクルで必要な工程である放射性廃棄物の貯蔵や、使用済み核燃料の再処理などの作業を、日本原燃は担っているわけです。

当然ながら、日本原燃のおもな株主は「9電力」。また日本原電も株主にです。ほかにも74社が株主になっています。そして実際の運営は、「9電力」が支払う再処理積立金という積立金で行われています。

日本原電と日本原燃を、比較するように解説する新聞記事も見られます。やはり、よび方がにていて紛らわしいことを考えての解説記事なのでしょう。ただ、「某イック」とか「某シス」とか、カタカナで、それらしいけれど中身のわからない社名をつけられるよりは、原子力のことを理解しようとする人にとってはよいのかもしれません。

参考資料
日本原子力発電「会社概要」
http://www.japc.co.jp/company/company.html
日本原子力発電「原電について」
http://www.japc.co.jp/company/about/index.html
日本原燃「会社のあらまし」
http://www.jnfl.co.jp/jnfl/company.html
日本原燃 2014年6月公表「会社概況書」
http://www.jnfl.co.jp/public_archive/7-2-35.pdf
朝日新聞掲載キーワード「日本原子力発電と日本原燃」
https://kotobank.jp/word/日本原子力発電と日本原燃-894418
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
神経の成長に“栄養”が不可欠

写真作者:Ahmed Riyazi Mohamed

脳には神経細胞が張りめぐらされていて、刺激を受けとったり伝えたりしています。景色を見られるのも、痛みを感じられるのも、神経細胞があるからです。

なにもしないでも神経細胞が生じたり、保たれたりするかというと、そうではありません。からだの維持に栄養が必要であるのとおなじように、神経にも栄養にあたる物質が必要であることがわかっています。

1950年代、イタリアの神経学者リタ・レヴィ=モンタルチーニ(1909-2012)は、動物のからだには「神経栄養因子」(NTF:NeuroTrophic Factor)を、共同研究者の米国の生化学者スタンリー・コーエンと発見しました。

通常のニワトリでは、発生のとき多くの神経細胞が自然に死んで行くことが知られていましたが、モンタルチーニはマウスからがんの一種である肉腫の欠片をニワトリの発生初期段階にあたる胚に入れると、神経細胞が明らかに増えることを見いだしました。この研究で、動物には神経を増やしたり保ったりする因子があるとして、「神経成長因子」(NGF:Nerve Groth Factor)と名づけました。

その後、神経成栄養因子には、いくつかの種類があることが、研究者たちによりわかってきました。

その一例が、「脳由来神経栄養因子」(BDNF:Brain-derived Neurotrophic Factor)です。神経成長因子は、かならずしも脳内でつくられるものではありませんが、脳由来神経栄養因子は名のとおり脳内で見つかっています。

脳由来神経栄養因子は、脳内の細胞の細胞膜上にある「脳由来神経栄養因子受容体」(TrkB)というタンパク質と結びつきます。なにかの物質が受容体と結びつくことは、よく「鍵と鍵穴」の関係にたとえられますが、この場合、脳由来神経栄養因子が「鍵」で、その受容体が「鍵穴」となります。また、「鍵穴」にはまる「鍵」はリガンドともよばれます。

リガンドである脳由来神経栄養因子が、脳由来神経栄養因子受容体と結びつくことで、神経細胞の生存や成長や機能亢進などがおこなわれます。逆に、脳由来神経栄養因子が受容体に結びつかないと、神経細胞のこうした営みに異常をきたしてしまいます。

モンタルチーニは、コーエンとともに1986年、ノーベル生理学医学賞を受賞しています。モンタルちーにたちの見つけた神経成長因子や、その後、見つかった脳由来神経栄養因子のほか、神経栄養因子はいまでは第3、第4、第5の因子まで発見されています。

参考資料
新語時事用語辞典「神経栄養因子」
http://www.weblio.jp/content/神経栄養因子
現代外国人名録2012「リタ レヴィ・モンタルチーニ」
https://kotobank.jp/word/リタ+レヴィ・モンタルチーニ-1688576
ウィキペディア「脳由来神経栄養因子」
https://ja.wikipedia.org/wiki/脳由来神経栄養因子
ウィキペディア「TrkB」
https://ja.wikipedia.org/wiki/TrkB
| - | 13:33 | comments(0) | trackbacks(0)
糖とアグリコンから配糖体、配糖体から糖とアグリコン

配糖体の例

植物界には、「配糖体」とよばれる化合物が多く存在しています。配糖体とは、糖という物質のうち、水素原子と酸素原子でなる水酸基という部分が、炭化水素やアルコールといった非糖質の化合物と結ばれてできている化合物をいいます。

配糖体は、このように糖の部分と糖でない部分とでつくられていますから、その分かれ目で切れやすくなっています。たとえば、酸によって、またはグリコシダーゼとよばれる酵素が水と反応することによって、分解されます。

分解されたあとは、糖の部分のほうは「糖」のままですが、また糖でない部分のほうは「アグリコン」または「ゲニン」とよばれるようになります。厳密には、ゲニンはアグリコンの一種ですが、炭素原子6個からなる環状構造3個と、炭素原子5個からなる環状構造1個を含むつくりであるステロイドや、炭素原子30個と水素原子48個からなるトリペテルペンという物質がさらに修飾されたトリテルペノイドであるときにはゲニンとよばれます。

配糖体については、「何々配糖体」のように、「配糖体」の前に物質名が冠されるときがあります。たとえば「リグナン配糖体」といったように。これは、配糖体のなかでも、アグリコンまたはゲニンがどんな物質であるかを示すもの。「リグナン配糖体」であれば、炭素原子6個と3個からなる構造を2個もつリグナンという物質が糖と結びついている配糖体ということになります。

配糖体になっているか、それとも糖から分離されてアグリコンやゲニンになっているか。これによって、物性は変化します。そのため、さまざまな「何々配糖体」について、配糖体を分離するのはどんな酵素か、またどんなタイミングかといったことが研究が進めば、機能的な物質をつくりだすこともできそうです。


参考資料
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「配糖体」
https://kotobank.jp/word/配糖体-112980
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「アグリコン」
https://kotobank.jp/word/アグリコン-24804
大辞林「配糖体」
http://www.weblio.jp/content/配糖体
ダイエット食品辞典「リグナンの概要」
http://www.dietshokuhinjiten.com/yacon2/polyph/lignane.html
勝崎裕隆「食品機能性研究での視点」
http://www.mac.or.jp/mail/141101/02.shtml
田口悟朗「『切れない』糖修飾をつくる酵素」
http://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9301/9301_biomedia_2.pdf
| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)
電波を発しないノート型コンピュータ、「着陸時」と「離陸時」のみ使用不可

写真作者:Noriko YAMAMOTO

航空機内での電子機器の利用制限が、2014年9月に緩和されてからおよそ1年となります。緩和されるまえは、着陸後も機内から出るまで携帯電話などを使うことは禁止されていましたが、緩和されてからは、機内アナウンス後は使えるようになりました。

しかし、航空機の機内に入ってから、目的地に着いて機内出るまでの、どの時間帯に使ってよいのかがいまひとつわかりづらいものもあります。その最たる例は、ノート型コンピュータです。

緩和されてから、電波を発しない機器は、機内に入ってから機内を出るまで、すべての時間で使ってもよいということになりました。ノート型コンピュータは、インターネットをするときなどに電波が使われるものの、電波を発しない状態にしておけば、「電波を発しない機器」とみなされます。そのため、すべての時間で使ってもよい機器の対象になるはずです。

ところが、ノート型コンピュータは、たいてい大きいもの。新幹線などでもおなじですが、ふつう、機内では、座席の前の可動式テーブルを出して、そこに置いて使うことになります。

では、離陸時に可動式テーブルを出して、ノート型コンピュータでインターネット以外の作業をしていたら、客室乗務員に注意されるかといえば注意されそうです。

そこで、航空会社の手荷物についての注意を見てみます。日本航空では、「作動時に電波を発しない状態にあるもの」は、「搭乗」から「降機」まで「○」、つまり使ってよいとなっています。

ただし、注意書きがいくつもあり、そのなかにつぎのような一文があります。

「緊急脱出時の妨げにならないように、離着陸時は大型のノートパソコンなどの電子機器はお手荷物と同様に座席の下、または座席の上の共用収納棚への収納をお願いいたします」

つまり、ノート型コンピュータは、「離着陸時」には、座席の下か座席上の共用収納棚に入れておかなければならないようです。これは事実上、ノート型コンピュータを使えない状態といえます。

となると、「離着陸時」というのがどの時間帯を指すのかで、電波を発しない状態でノート型コンピュータを使える時間がおのずと決まってきます。

国土交通省の資料を見ると、「離陸時」とは、「地上走行終了」の時点から「離陸完了」の時点までを指します。どうやら「地上走行終了」の時点とは、「ポン…ポン…ポン」と機内で効果音がなる時点のことのようです。また「離陸完了」の時点のほうは、機内アナウンスがなされる時点であると資料に書かれてあります。

また、「着陸時」とは、「着陸開始」から「地上走行開始」までのこと。国土交通省の資料によると「着陸開始」「地上走行開始」とも、機内アナウンスがなされます。

実際の機内アナウンスなどの状況からまとめると、「たとえ電波を発信しない状態でも、ノート型コンピュータを使うことのできない時間帯」は、つぎのようになりそうです。

離陸のときは「ポン…ポン…ポン」と鳴ってから「みなさま。シートベルト着用サインが消えました」と機内アナウンスがなされるまで。着陸のときは「みなさま。当機はこれより着陸態勢に入ります」と機内アナウンスがなされてから、「みなさま。当機は何々空港に着陸いたしました」と機内アナウンスがなされるまで。

なお、どの大きさから「大型のノートパソコンなどの電子機器」とみなされるかという問題はまたべつにあります。

参考資料
PC Watch 2014年9月5日付「9月1日からの飛行機内電子機器利用について運用と対策のまとめ」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/topic/feature/20140905_665192.html
日本航空「機内での電子機器類の使用に関するご注意」
https://www.jal.co.jp/dom/service/bags/electronic.html
| - | 23:33 | comments(0) | trackbacks(0)
「寝てない自慢」に一歩踏み込む


「寝てない自慢」は嫌われるということが、いわれるようになってきました。

「ここ3日で3時間しか寝てなくてさぁ」
「きのうは、俺、徹夜だよ、徹夜」
「終電で帰って、すぐ始発で出てきたからねぇ」

たしかに、「寝てない自慢」を聞かされる人は、客観的になると不健康きわまりない生活の話をいわゆる自分語りとして聞かされるわけです。そういう話をよくない意味での自慢話ととられて、嫌うということがあってもおかしくありません。

ただし、寝ていない人が、自分が寝ていないということを単に「自慢」として人に話しているだけでしょうか。「寝てない自慢」ということばでくくらずに考えてみる余地はありそうです。

寝ていない人が「俺、寝ていないんだぜ、すごいだろう」と、まさにまわりの人にうれしそうに誇るのであれば、それは「自慢」といえます。寝ていない状況に対する価値が、言う側と言われる側で異なるため、そこにはしらけの空気が漂うことでしょう。

しかし、「寝てない自慢」と片づけられてしまう話をする人の心のなかには、「寝ることさえままならないいまの自分の状況を知ってほしい」という思いもまじっていることが考えられます。

ほかの人は、毎日7時間の睡眠時間をとっているだろう。しかるに自分は3日で3時間しか寝ていない。とはいえ、不公平に感じるこの状況を相手に怒るように伝えてもしかたない。こうした心の経緯から、「ここ3日間で3時間しか寝てなくてさぁ」と薄ら笑い顔で相手に言うわけです。

寝ていないことそのものは、褒められた話ではありません。厳しく捉えれば、自己管理がなっていない、仕事の効率が悪いといった評価にもつながります。

しかし、自慢することのほかに、心からの発露として「寝てなくてさぁ」は出てしまうものなのでしょう。言われた側は「そうなんだぁ」ぐらいに軽く同調したらいかがでしょうか。言った人に対するやさしさとなり、聞いて嫌な話を長びかせない方法になります。
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
フリソデエビ、振り袖には見えないけれど

写真作者:Nathalie Rodrigues

写真は一見、真っ赤なヒトデの近くに、何尾かのカクレクマノミが戯れているようすを描いているようです。

しかし、カクレクマノミの模様に見えるのは、一尾のエビのからだの一部です。

このエビの名は「フリソデエビ」。フリソデエビの「フリソデ」は、和服の「振り袖」から来たもの。どこが「振り袖」なのかというと……。

エビには、胸の部分から左右5本ずつの「胸脚」という脚が生えています。多くのエビでは、前から2番めの第二胸脚とよばれる脚がとりわけ大きく発達します。

このフリソデエビも、ほかの種類のエビとおなじく、第二胸脚が発達しているわけですが、その発達のしかたは極端です。写真のヒトデを挟むようにしている左右の第一胸脚の外側に、それぞれカクレクマノミの模様のような盾にも見える部位があります。

これが、フリソデエビの第二胸脚です。

この極端に発達した第二胸脚が、振り袖のようであるため「フリソデエビ」という名がついたとされます。とはいえ、「このエビの第二胸脚、なにに見えるか」と聞かれた人のうち、「振り袖ににているね」と答える人はどのくらいいるのでしょうか。

フリソデエビは、太平洋とインド洋のサンゴ礁に生息しています。体長は3センチメートルほどで、一夫一妻制をとっています。日本近海にもいて、人間のダイバーたちに見られたり、ときにさらわれたりもします。

写真のフリソデエビは、ヒトデと戯れているのでなく、ヒトデと食べているものと考えられます。写真のヒトデはアカヒトデでしょうか。フリソデエビはさまざまな種類のヒトデを食べます。そして、ヒトデしか食べません。自分の前にいるものがヒトデの仲間かそうでないかを、極めて明瞭に峻別できるようです。

フリソデエビとヒトデの敵対関係のなかでも、とりわけオニヒトデとの縁には深いものがあります。フリソデエビは、自分より何倍もの大きさである大型のオニヒトデを襲って食べてしまうこともあります。オニヒトデが大発生したときは、天敵の捕食者であるフリソデエビの数が減ってしまうのが原因ではないかという説もあるといいます。

ちなみに、エビに典型的なハサミのつくりをフリソデエビももっています。「振り袖」の部分の下のほうに、わずかに“切れ目”があって、そこを動かしてモノを挟みます。ヒトデを食べるときも、雄と雌が共同作業でヒトデを裏がえしにしてから、ヒトデの外皮を切りさいて、なかに詰まった“肉”を食べていきます。

参考資料
ウィキペディア「フリソデエビ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/フリソデエビ
Shrimp World「No.13 フリソデエビ(Hymenocera picta)の詳細」
http://www.d6.dion.ne.jp/~shrimp/life-13.htm
日本サンゴ礁学会「オニヒトデの基礎知識」
http://www.jcrs.jp/wp/?page_id=622
理科教育用教材データベース「フリソデエビ」
http://chigaku.ed.gifu-u.ac.jp/chigakuhp/html/kyo/seibutsu/doubutsu/sango/okinawa/sessokudoubutsumon/hurisode/31.html
管家千誠「石西礁湖におけるオニヒトデ駆除戦略 空間構造を考慮した数理的研究 サンゴ礁保護区を設けるべきか否か」
http://risk.kan.ynu.ac.jp/sugaya/Master_thesis-sugaya.pdf
| - | 22:48 | comments(0) | trackbacks(0)
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