2015.06.30 Tuesday
「地球基準」と「原子基準」のずれをなおす
あす(2015年)7月1日(水)は「うるう秒」のある日です。午前8時59分が、ほかの1分間より1秒だけ長くなります。8時59分だけ「……57秒、58秒、59秒、60秒」と秒を刻んでから、9時ちょうどになるわけです。
4年に一度ある「うるう年」のほうは、地球の公転周期が365日ぴったりでなく、5時間48分45秒よぶんに長いため、「1年365日」をくりかえしていくうち月日と季節がずれてしまうことを防ぐ目的で設けられているものです。
「うるう年」で、「1日」というわりと長い時間の調整ができているのであれば、わざわざ「1秒」という短い時間の調整をする必要もなさそうなもの。それでも「うるう秒」が設けられていることにはべつの理由があります。
20世紀、人間は“正確な1秒”を数えるために、原子を使うことを考えつきました。
すべての原子は、その原子に特有の周波数をもつことができます。周波数とは、1秒間での波のくりかえし数のこと。1秒間に1回の周期的な波が起きれば、その波の周波数は「1ヘルツ」となります。原子において、エネルギーがある状態から異なるほかの状態に移るときに放たれる電磁波の周波数は、その原子の種類ごとに一定になるのです。
たとえば、セシウムという原子では、エネルギーがある状態から異なるほかの状態に移るとき、その周波数は91億9263万1770ヘルツとなります。つまり、セシウムから放たれる電磁波は、1秒間に91億9263万1770回というくりかえし数の周期になるわけです。
1993年まで使われていたセシウムの原子時計の一部
写真作者:Momotarou2012
逆に、エネルギーがある状態から異なるほかの状態に移るときに放たれる電磁波の周波数をはかることができれば、確実に時間をはかることができます。たとえば、セシウムから放たれた電磁波の周期を91億9263万1770回、数えることができれば、そのときにかかった時間は「1秒」になるわけです。
セシウムは、原子のなかでも安定的に周波数を出しつづけることができます。そこで、1967年に、国際度量衡総会が、セシウムから放たれる電磁波の周波数を計ることで、正確な1秒間を得ることに決めたのです。正確には、1秒は「セシウム133の原子の基底状態の2つの超微細準位間の遷移により放射される電磁波の周期の9192631770倍に等しい時間」と定められました。
原子時計は1949年、物理学者ハロルド・ライオンズが、アンモニアという物質を用いることではじめて開発しました。また実用的なセシウムの原子時計については、英国の物理学者ルイ・エッセン(1908-1997)たちにより1955年に開発されました。
セシウムの原子時計により「1秒」が定められるまでは、 地球が一回自転する時間の長さを8万6400で割ったものが「1秒」とされてきました。しかし、地球の自転を頼りにする「1秒」と、セシウムの周波数を頼りにする「1秒」にはずれが生じます。このずれを調整するための何年かに一度の1秒が、「うるう秒」というわけです。
2月が28日で終わらず29日まである「うるう年」は、紀元前46年に古代ローマで制定された暦法「ユリウス暦」にはすでに設けられていたといいます。いっぽう「うるう秒」のほうはというと、1972年7月1日にはじめて設けられました。
なお、その後、人の時を計る技術は進み、いまではセシウムの原子時計よりも1000倍ちかく精度の高い「光格子時計」という時計も、東京大学の研究者らによって開発されています。
参考資料
ウィキペディア「閏秒」
https://ja.wikipedia.org/wiki/閏秒
シチズン「うるう秒について」
http://citizen.jp/cs/guide/leapsecond/leapsecond_01.html
TBSがっちりマンデー!! ホームページ「儲かる元素『原子番号55Csセシウム』」
http://www.tbs.co.jp/gacchiri/archives/20090215/5.html
コトバンク「原子時計」
https://kotobank.jp/word/原子時計-60612
東京大学工学系研究科・工学部 2015年2月10日付「時計の概念を巻き直す『光格子時計』」
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/editors-choice/rewinding-the-future-of-timekeeping/
科学技術振興機構、東京大学、理化学研究所 2015年5月27日付「水銀・ストロンチウム光格子時計の高精度直接比較に成功」
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150527/