科学技術のアネクドート

都会のタヌキ、渋谷区や新宿区でも高い目撃率
動物ジャーナリストの宮本拓海さんがこのたび、「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマの目撃情報の集計と分析(2015年1月版)」という報告を、自身のサイト「東京タヌキ探検隊!」でしました。

宮本さんはこれまで、タヌキなどの哺乳類を東京で見たという目撃情報を集め、その分布を地図に示し、傾向などを分析するといった活動をしてきました。今回の報告は、東京都23区内での、タヌキ、ハクビシン、アライグマ、そしてアナグマの目撃情報を、2012年から2014年の3年間分まとめたものとなっています。

タヌキ368件、ハクビシン596件、アライグマ42件、アナグマ9件の目撃情報を得たということです。

ハクビシンは、ジャコウネコ科の哺乳類で、体調50センチほど。顔の中央に白い毛の筋模様があるため「白鼻芯(はくびしん)」とよばれています。また、アナグマは、イタチ科の哺乳類で淡い黄褐色の胴と、黒い脚が特徴です。タヌキとよくにていますが、爪が強大です。

23区のなかでも緑が多く残る杉並区で、これらの哺乳類が目撃された情報が圧倒的に多かったようです。しかし、各区の面積あたりでの目撃情報となると、たとえばタヌキで杉並区についで、新宿区、渋谷区、文京区などの都心部の区が続いています。渋谷区では笹塚あたりでの目撃情報が多いようで、宮本さんは、近くを流れる神田川や善福寺川の流域、また、笹塚と隣接する中野区南台や、杉並区方南あたりで「特に目撃が集中している」としています。


神田川
写真作者:Omni Sight

報告によると、2014年は、これらの動物が「いわゆる『大手マスコミ』で報道された事件はなかった」とのこと。ネット上のニュースでは、9月に千代田区有楽町のiPhone販売店前でタヌキが目撃されたり、11月に港区南青山でハクビシンが目撃されたとのことです。

あまりニュースにのぼらないのは、都会の野生動物に関心をもつ人にとってはさびしいことかもしれません。しかし、宮本さんの地道な活動によって「東京にもタヌキなどの哺乳類はいる」という認識が確実に定着化してきたことの現れともとることができます。

宮本さんは「東京タヌキの調査研究は全国の皆様からの目撃報告に支えられています」として、今後の支援もよびかけています。

「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマの目撃情報の集計と分析(2015年1月版)」はこちらです。
http://tokyotanuki.jp/docs/tanuki1501.htm
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“いろいろ”あるけれど、“さまざま”には違わない


会議の議事録をつくる人は、「用語をどこまで統一すべきか」を考えることがあるかもしれません。

たとえば、ある会議で、部長は「いろいろな策を出して最善の方法を検討してくれ」と言ったとします。いっぽう、課長は「さまざまな策の中から最善の方法を検討してみました」と言ったとします。

「いろいろ(色々)」と「さまざま(様々)」。議事録をつくるとき厳密に分けて使うべきなのでしょうか。

「いろいろ」を国語辞典で見てみると「さまざま」とあります。いっぽう、「さまざま」を国語辞典で見ると「いろいろであるさま」とあります。「いろいろ」と「さまざま」は、ほとんど同様の意味として通じるということはわかります。

とはいえ、日本語として「いろいろ」と「さまざま」という二つのことばが使われているということは、やはり、それなりのちがいがあると考えられなくもありません。

「いろいろな」のほうがくだけた口語として使われる場合が多いと感じる人は多いでしょう。「いろいろな」がさらにくだけて「いろんな」に縮約されることもあります。実際の口語では「いろいろな」より「いろんな」のほうがよく聞かれそうです。

もともと「色(いろ)」は、血族関係を表すことばの前に付いて、血のつながりの存在を示す表現でした。たとえば、「いろは」は「母」を意味します。ここから、「つながり」が強調されたのでしょう、男女の交遊などを称えることばになったとされます。さらに、美しいものをよぶ表現となり、最後にその美しさから、色彩そのものを「色」とよぶようになったようです。

対して、「さまざまな」のほうは、「いろいろ」よりも公式的な場で使われる傾向はありそうです。

「様」が使われている「多種多様」という熟語にも注目します。「多種」と「多様」が連なっているということは、「多様」と「多種」はすこしちがうものということをほのめかしているととれます。「多種」のほうは種類が多いことを意味するのに対して、「多様」は変化に飛んでいることを意味するととらえるのが妥当でしょう。

ここから「さまざま」は、ただたんに種類が多いことよりも、変化に飛んでいることを強調したことばと考えることができます。

議事録づくりについては、一言一句をそのまま文字に起こすことが求められている種類のものであれは、「いろいろ」と「さまざま」を使いわければよいのでしょう。しかし、それほど厳密でなければ、より公式的なほうの「さまざまな」で揃えておけば、まず問題なさそうです。

「色」ということばを重ねて「いろいろ」、「様」ということばを重ねて「さまざま」。これで種類が多いにあること示す表現にするとは、むかしの人は大きな発明をしてくれたものです。

参考資料
語源由来辞典「色」
http://gogen-allguide.com/i/iro.html
Yahoo!知恵袋「日本語の使い方について質問です。『様々』と…」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1341791078
| - | 20:19 | comments(0) | trackbacks(0)
木造の建てものが高く高く
木造の建てものというと、日本では、いにしえからの寺社仏閣、江戸時代の長屋、昭和の長廊下の一軒家、などなどを思いうかべる人が多いことでしょう。

では、いまの木造建築の技術はどこまで進んだのか。それがわかるような、これまでにない木造建築が、世界で見られるようになりました。

豪州メルボルンには、「フォルテ」という名のアパートメントがあります。このアパートは10階建てで、世界一高い木造建築物といわれています。この建てものに使われている木材は「クロス・ラミネーテッド・ティンバー」(CLT:Cross Laminated Timber)とよばれるもの。挽き板の繊維方向を直交するように貼り重ねていき、頑強な木材にします。これにより、9階建ての高層木造建築が可能になりました。

英国ロンドンのハックニー地区にも、「マレイ・グローブ」という木造の居住建築物があります。こちらは9階建て。フォルテが建てられたことで、世界で二番目に高い高層木造建築物になったとされています。マレイ・グローブにもクロス・ラミネーテッド・ティンバーが使われています。


ロンドンのマレイ・グローブ
写真作者:hoxtonchina

上には上をねらう人はいるもの。カナダのバンクーバでは30階建ての木造ビルが、さらにスウェーデンのストックホルムには34階建ての木造ビルが建てられる計画があります。

日本はというと、もともと五重塔という高層建築物を木造で建てる技術をもっていました。そんな日本でも、西欧ほどではありませんが、2階建て以上の現代的な木造建築ビルが建っています。

2013年11月に、東京・銀座で、三井ホームが5階建ての店舗・共同住宅を完成させました。ただし、こちらはクロス・ラミネーテッド・ティンバーでなく、2インチ×4インチの断面を標準とする規格材で組んだ「ツーバイフォー工法」によるものです。

木造高層建築が建てられるようになった背景には、耐火技術や耐震技術の高まりのほか、木のもつぬくもりなどの価値を見直そうとする動きもあるようです。

参考資料
Explore the world’s tallest timber apartments(英文)
http://www.forteliving.com.au/#
Murray Grove(英文)
http://www.waughthistleton.com/project.php?name=murray
wikipedia“Stadthaus”(英文)
http://en.wikipedia.org/wiki/Stadthaus
篠原商店「CLT(クロスラミネーティドティンバー)による革命か?」
http://www.shinoharashoten.com/info/【clt(クロスラミネーティドティンバー)に/
山佐木材「どこまで高く?木造ビル」
http://woodist.jimdo.com/メールマガジン/メルマガ13号/clt4/
三井ホームリポート 2013年11月28日付「都内初 ツーバイフォー木造耐火建築5階建て 銀座2丁目に完成」
http://www.mitsuihome.co.jp/company/news/2013/20131128.pdf
| - | 23:53 | comments(0) | trackbacks(0)
体内時計の平均周期は「25時間」でなく「24時間11分」ぐらい


人は腕時計や懐中時計のほかに、体内時計という時計を身につけていることが知られています。人だけでなく、多くの生物も、それぞれの目的に合った体内時計をもっています。

人のもっている体内時計で代表的なものは「ほぼ1日」の周期を刻むもの。「概日時計」などともよばれます。

時計というと一個の装置が思いうかびますが、体内時計は一つのシステムとして捉えるとよいかもしれません。システムの中心は脳のなかの「視交叉上核」というところにあります。視交叉上核は、脳の前後中央、左右中央、上下では下のほうにある部分で、大きさは人で1〜2ミリくらいしかありません。

この視交叉上核の体内時計が指令役となって、からだの各臓器にある体内時計システムの下部組織に指令を出しているといいます。これにより、各臓器はそれぞれの生体リズムを刻んでいると考えられています。

体内時計をめぐっては、研究が日進月歩で進んでおり、ここ何年かで定説が覆ってもいます。

「体内時計のリズムは平均25時間」という話を聞いたことのある人は多いことでしょう。これが半世紀ほどにわたる定説でした。このブログでも、2009年7月13日付の「“おおむね一日”時計」という記事で、「(体内時計は)平均すると25時間で一周します」としています。

この定説は1979年、ドイツのマックス・プランク研究所という研究機関で、外部の光をさえぎった環境に被験者の人びとが住むという実験で、被験者たちの生活リズムが24時間から26時間ぐらいの周期になり、平均すると25時間ぐらいになるということからいわれはじめ、定説になったものとされています。

しかし、この実験では室内の灯りは自由に使われて、夜には室内灯が点いていたとされます。現代の視点からすると、体内時計のリズムを測る実験としては、やや精度が足りなかったといえそうです。

いっぽう、1990年代になり、より厳密な環境下で概日リズムを測る実験が行なわれ、「25時間」とは異なる結果も出てきました。たとえば、米国の心理学者チャールズ・ツァイスラーは、1999年に発表した「人の概日ペースメーカーの不変性、正確性、そしてほぼ24時間周期」(Stability, precision, and near-24-hour period of the human circadian pacemaker.)という論文で、25時間よりも短い「24.18時間」つまり「24時間11分」が、人の概日リズムの平均であるとしています。

最近では、マックス・プランク研究所による「25時間」は研究者の間では、古い定説として葬られ、「24時間11分」あるいは「24時間10分」あたりが、概日リズムの平均であるとされています。「ほとんど24時間ながら、すこしだけずれている」といったところでしょうか。

武田薬品工業「体内時計とは?」
http://www.tainaidokei.jp/mechanism/3_2.html
産業技術総合研究所 生物時計研究グループ「生物時計研究の歴史 花井@産総研」
https://staff.aist.go.jp/s-hanai/history.html
Pub Med .gov “Stability, precision, and near-24-hour period of the human circadian pacemaker.”
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10381883
国立精神・神経医療研究センター 2012年8月14日付「(独)国立精神・神経医療研究センター・三島和夫部長らの研究グループが、睡眠リズム異常の原因を解明」
http://www.ncnp.go.jp/press/press_release120814.html
| - | 20:45 | comments(0) | trackbacks(0)
どうしてだか、名前を伝えない、聞かない


人と人の出会いかたはさまざまですが、仕事の世界では、だれかがだれかにだれかを紹介することで引きあわせるという場合があります。

たとえば、A社の地方都市に置かれた製造部が、モノづくりの効率化を図るため、コンサルタントを招聘しようとしたとします。しかし、この製造部はコンサルタントについての知識が乏しいため、自分たちでコンサルタントを招くことはできません。そこでこの製造部の部長は、東京本社の人事部の部長に、「モノづくりの指導に長けたコンサルタントを紹介してほしい」と依頼をしたとします。

製造部長の依頼を受けて、人事部長はコンサルタントを検討しました。そして電話でつぎのようなやりとりをしました。

人事部長「ご相談いただいたコンサルタントの件ですけれど、二人ほど候補がいるんです」
製造部長「ああ、探していただきありがとうございます」
人事部長「ただし、ちょっと毛色のちがう二人でしてね」
製造部長「といいますと……」
人事部長「一人はアカデミックな世界の出身で、大学でモノづくりの研究をしてきた方なんです。10年前に独立しました。で、もう一人は、メーカー出身で、工場長までつとめて、コンサルタントとして、3年前に独立した方です」
製造部長「ほぉ、そうですか。アカデミア出身の方は、大学はどちらで」
人事部長「東京大学です。MOTを専攻していました」
製造部長「なるほど。メーカーご出身の方は、どちらのメーカーで」
人事部長「トヨタ自動車ですね」

電話での会話でありがちなのは、人を紹介するときに具体的な氏名を言わずにやりとりが進んでいくということです。面会やメールでは、あまりこのような状況にはなりません。

冷静になってみると、人が人を紹介するとき、具体的な氏名を伝えないことの利点はほとんどなさそうです。

上のような対話では、人事部長ははじめから「一人は東京大学でMOTを先行してきた鈴木一朗さんという方。もう一人はトヨタ自動車で工場長まで務めた経験のある松井秀喜さんという方です」と、はじめに伝えたところで、なんの不利益もありません。

むしろ、はじめに氏名を伝えたほうが、利になることは考えられます。

たとえば、人事部長が鈴木一朗さんを知っていたとすれば、「ああ、あの鈴木さんですか。私、知っていますよ。いいと思います」と、すぐに話の結論に達することもありえます。

最悪なのは、こうした電話のやりとりで、最後の最後まで氏名が出てこないで、やりとりが終わってしまう場合です。製造部長は氏名を聞いておけば、電話を切ったあと、インターネットで名前を検索して、どんなコンサルタントか、どんな本を出しているかなどをさらに調べることができます。

しかし、名前を聞かずじまいであれば、人事部長とまたコミュニケーションをするまで、検討のしようがなくなります。人事部長に委ねることになってしまいます。

電話で人を紹介するという場合、紹介する側は、積極的に氏名などの固有名詞を伝えようとする。紹介される側は、積極的に氏名などの固有名詞を聞きだそうとする。こうすることで、むだなコミュニケーション・コストを払うことを避けることができます。
| - | 23:40 | comments(0) | trackbacks(0)
円錐形の真下にはとくになにもなし


東京都内の都営地下鉄の駅入口で、写真のような物体を目にしたことがある人はどれくらいいるでしょうか。さほど存在感がないため、毎日そこにあっても気づいていないという人も多いかもしれません。

円錐形で、白地に青の縞模様があり回転しますが、回転していないものも多くあります。

地面に向かって円錐が尖っているということは、この円錐の真下の地点になにか意味があるのでしょうか。たとえば「定礎」が置かれていたり、「ここの地点こそが正式な駅の地点」という目印だったり。

そうではないようです。

さかのぼること15年ちかく前。2000年4月に東京都は「『動く』シンボルデザイン募集について 東京の地下鉄『顔』をデザインしよう」という公募を行ないました。「このシンボルを見れば、だれでもが『ここが地下鉄の出入口だ』と判断できるような、地下鉄の『顔』のデザインを募集します」という触れこみです。

「シンボルは、電気・風等の動力による『動き』を取り入れた立体のものとし、屋外設置に適した素材、動く仕組み等を工夫して下さい」といった条件もあります。そして大賞の「デザイン賞」には賞金30万円と記念品が贈られることに。

この公募に対して802案の応募があったそうです。そのなかで大賞「デザイン賞」に選ばれたのが、地下鉄入口のこの物体だったのです。「くるくるシンボル」というよび名もついています。

たしかに、くるくると回ることは、視覚的には目立つのでシンボルとしては効果的かもしれません。

しかし、公共的なサインのありかたを考えるとき「あることを示すサインは一種類」とすることが合理的です。「このサインといえばこれ」という一対一対応で人びとは覚えることができるからです。

都営地下鉄にはすでに地下鉄入口のサインとして、東京都のシンボル旗に使われている「T」の字をあしらった緑のマークが使われていました。そのため、べつの種類のサインをつくって示す必然性はほぼなかったことになります。これが、「くるくるシンボル」が定着しなかった大きな原因でしょう。


都営地下鉄の駅で入口に見られていたマーク

ちなみにこの「動く」シンボルは、都営地下鉄だけでなく、営団地下鉄(いまの東京メトロ)の駅にも設置されていたはずでした。しかし、いま見かけるのは都営地下鉄が通っている駅の入口のみ。東京メトロは「くるくるシンボル」の必要性を感じていなかったのかもしれません。

「PE2HO」というサイトには、「くるくるシンボル」が「動く」シンボルに選ばれるまでの経緯が詳しく載っています。いまでは貴重な「デザイン賞」以外の「アイデア賞」の応募作品も見ることができます。

参考資料
東京都交通局 2000年4月14日付「『動く』シンボルデザイン募集について 東京の地下鉄『顔』をデザインしよう」
http://web.archive.org/web/20051226095715/www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2000/04/20A4E300.HTM
東京都交通局 2000年9月8日付「『動く』シンボルデザインが決定いたしました 東京の地下鉄の「顔」をデザインしよう!」
http://web.archive.org/web/20051119162536/www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2000/09/20A9B200.HTM
シンボルデザイン
http://web.archive.org/web/20041221074214/http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2000/09/DATA/20A9B100.JPG
| - | 23:35 | comments(0) | trackbacks(0)
自分にとっての「赤」は、ほかの人びとにとっての「緑」かもしれない


自分が見ているリンゴの「赤」という質感は、ほかの人が見ているおなじリンゴの「赤」という質感と同一なのか。こうしたことは、長らく哲学の議論の対象になってきました。

たとえば、A氏という人物が視覚として捉えている「赤」という色の質感が、じつは、ほかの人びとが視覚として捉えている「緑」という色の質感だったとします。逆に、A氏にとっての「緑」が、ほかの人びとにとっての「赤」だったとします。


A氏にとってのりんごの「赤」の質感

ところが、生まれつきそのようであれば、A氏ははじめから「赤」はこういう色だと受けとめ、「緑」はこういう色だと受けとめるのだし、ほかの人びとはA氏の視覚を感じることができないのだから、A氏の「赤」と「緑」の色の捉えかたが、ほかの人びととちがっているということを証明することはできません。

そのため、A氏にとっての「赤」の質感が、ほかの人びとにとっての「緑」の質感であったとしても、A氏とほかの人びととのコミュニケーションでは支障を来さないことになるかもしれません。

この話は、「逆転クオリア」とよばれる哲学での思考実験です。「クオリア」とは、おのおのの現象を捉えるときの「感じ」や「質」のことを指すことばです。「りんごを見たときの赤いあの感じ」とか、「上司にしかられて胃が痛むあの感じ」とかいったものです。

つまり、逆転クオリアとは、同一の物理的な刺激に対して、人によって異なるクオリアを経験している可能性を探る思考実験のことといえます。

この思考実験に対して、「そもそも逆転クオリアが成立しうるのか」といった疑問をもつ人もいるようです。なぜならば、あるクオリアはべつのクオリアとの関係性のなかに存在するものなので、同一の物理的現象に対して自分だけは異なるクオリアがあるとすると、ほかのクオリアにも影響が出てしまい、それは気づかれそうなものだからです。

たとえば、「赤」という色と「緑」という色では、明るさ・暗さの度合いである明度が異なり、「緑」のほうが「赤」よりも明度が高いのです。そのため、A氏がほかの人びとと長らくコミュニケーションをとっていれば、A氏が抱く「赤」の質感と、人びとが抱く「赤」の質感とでは、どこかちがうということに、A氏またはほかの人びとが気づく可能性はあります。

しかし、この例では「赤」と「緑」の色の質感の入れかえだけを考えたものにすぎません。もし、A氏が捉えるあらゆるクオリアが、ほかの人びとが捉えるあらゆるクオリアとずれていながらも、全体の感じかたとしては辻褄が合うようにできているとしたら……。

この思考実験については、「これが完全なる結論だ」というものは、まだ出ていないようです。

参考資料
柴田正良「認知哲学 ロボットに心があるって、どういうこと?」
http://siva.w3.kanazawa-u.ac.jp/image/cog1203.pdf
ウィキペディア「逆転クオリア」
http://ja.wikipedia.org/wiki/逆転クオリア
ウィキペディア「クオリア」
http://ja.wikipedia.org/wiki/クオリア
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「暮れなずむ」は「暮れの季節になじむ」にあらず


フォークバンドの海援隊の歌に「贈る言葉」があります。作詞は海援隊メンバーの武田鉄矢、作曲はおなじく千葉和臣。テレビドラマ『3年B組金八先生』の主題歌として、武田鉄矢の歌声で流れていたので、よく知られています。

この歌の冒頭は、つぎの詞で始まります。

「暮れなずむ町の光と影の中 去りゆくあなたへ贈る言葉」

別れの歌ととることができます。もともと叶わぬ愛を歌った歌としてつくられたそうです。ただし、『3年B組金八先生』の主題歌としての印象が強い人には、ドラマの舞台となった中学校を卒業していく生徒たちに向けた歌となっています。

この歌詞には「暮れなずむ」という表現があります。どういう意味でしょう。

「暮れ」ということばから、「暮れなずむ」に対して「年末」や「次節の終わり」といった季節感を抱く人もいるかもしれません。そういう人は「暮れの季節になじんだ町」を想像することでしょう。

この「暮れなずむ」は「暮れ泥む」とも書きます。そして、「泥む」というのは、現代ではなかなか使われませんが、「とどこおる」とか「さまたげられる」といった意味をもっています。

たとえば、『古事記』の景行天皇についての記述には、「海処(うみが)行けば腰泥む」という一節があります。これは、「海を行くと海水が腰にまつわりついて難渋する」といった意味になります。

「贈る言葉」の歌詞では、「暮れ」に「泥む」が続きます。つまり、「暮れることがとどこおる」ということから、「日が暮れそうでなかなか暮れないでいる」といった意味になります。暮れそうで暮れないような町の光と影が見えるなかで、去っていく「あなた」へ向けて「言葉」を贈る。これが「贈る言葉」の冒頭の一節の意味になるわけです。

「暮れなずむ」というのは、人の主観が多分に入った表現といえましょう。その日、太陽がいつ暮れるかは太陽と地球の位置関係から決まっていますから、「なかなか暮れないでいる」という状況は、大いに個人の主観に帰するわけです。

しかしながら、冬からは春にかけては、日が長くなっていくもの。つい何日か前までは、すっかり暮れていた時間帯だったのに、春先になると「暮れなずむ」ことに気づく、という人もいるはずです。ですので、「暮れなずむ」には、主観だけでなく、地球と太陽の関係がつくりだす自然の客観的要素もいくぶんかふくまれることになります。

これからの季節、すこしずつ「暮れなずむ」ということばが似あうようになっていきます。

参考資料
『スーパー大辞林』
学研全訳古語辞典「腰泥む」
http://kobun.weblio.jp/content/腰泥む
ウィキペディア「贈る言葉」
http://ja.wikipedia.org/wiki/贈る言葉
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「『もやし』が一大事!悲鳴をあげる生産者」


日本ビジネスプレスのウェブニュース「JBpress」で、きょう(2015年)1月23日(金)「『もやし』が一大事!悲鳴をあげる生産者」という記事が配信されました。この記事の取材と執筆をしました。

もやしは、日本人にとてもよく食べられる野菜です。和洋中、どんな料理にもほどよく調和するのが、その理由のひとつでしょう。

あまりに身近な食材であるため、消費者がもやしのことを知る機会はそう多くないかもしれません。そこで、もやしの現代の作られかたや置かれている状況などを深く知るため、もやし・カット野菜を製造販売する旭物産(茨城県)を取材しました。

記事では、もやしの製造工程を写真で示しています。緑豆という原料豆から発芽したもやしが育っている「室(むろ)」とよばれる部屋のなかの写真や、タンクに詰まって入っているもやしが「反転機」でひっくり返されて、洗浄ラインに放りだされるときの写真などもあります。

旭物産は、工場でのもやし製造工程のすべてを見せてくれました。取材中の撮影についても、ほぼすべてに許可が下りました。

マスメディアに対してどのくらいまで製造ラインを見せるか、つまり、どのくらいまで社会にノウハウを公開するかは、その企業の考えかたにより大きくちがってきます。工場内の立ちいりは一切不許可を貫いている企業もあれば、今回の旭物産のようにその逆という企業もあります。

旭物産のもやし工場では、精密機械工場のクリンルームばりに徹底的な衛生管理がなされていました。メディアに製造工程を示す“自信”もあったのでしょう。ただし、それだけではないようです。

旭物産の林社長は取材後のやりとりで、同業他社に自分たちのノウハウを見せないでいるよりは、わかるようにしておいたほうが、もやし業界全体の発展につながる、という考えを話していました。

巨大なリーディングカンパニーがあるわけでもなく、どちらかというと中小規模の企業からなりたっているのが、もやし業界です。そのため自分たちの情報を隠すような閉鎖的態度をとるよりも、むしろ積極的に「自分たちはこうやっているんですよ」と他社に開示して、おたがいの質を高めあおうとする。そのような思いが、この企業にはあるのでしょう。

記事では、原料豆の高騰とスーパーマーケットの安売りにより、もやし生産者が危機になっているという現状も伝えています。記事の読者からは「近所のスーパーで18円(税抜)で売ってるけど、もうちょっと値上げしてもいいと思う」「そこまできついなら40円くらいなら払えるんだけどなあ」といった反響も寄せられています。

「『もやし』が一大事!悲鳴をあげる生産者 岐路に立つもやし(後篇)」はこちらです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42733
もやしの歴史をたどった前篇「『もやし』を日本中に広めたのは戦争だった」はこちらです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42665
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速くなって重くなる
サービスを提供する企業側とサービスを受ける利用者側のあいだで、“考えかたのずれ”が生じることがあります。企業が「こんなに機能をよくしました」と利用者側に推すいっぽうで、利用者側は「それよりも大切なことがあるだろう」と感じる、といったことです。

たとえば、情報通信サービスの分野ではこんなことが起きています。

移動体通信サービスのブランド「ワイモバイル」が提供する「Pocket WiFi」という製品とサービスがあります。ノート型コンピュータに四角い通信用機器をつなぐと、Wi-Fiという規格の無線通信ができるというもの。

通信の世界は日進月歩で高速化が進んでいます。そのため、ワイモバイルからはPocket WiFiの新機種がつぎつぎと登場しています。たとえば、「Pocket WiFi305ZT」という機種は、高速ネットワーク通信を売りにしている新機種。ワイモバイルは、使用者に対して電話で「より速い通信をご利用いただけます。無料で旧機種からの変更ができます」などと、機種の切りかえを促します。

しかし、Pocket WiFiを使っている人のなかには、機種変更をするたびに感じることがあるようです。

「機種変更のたびに、どんどんでかく、重くなっていくではないか!」

この新機種「Pocket WiFi305ZT」の寸法は、縦62ミリ、横117ミリ、高さ13.9ミリ。重さは150グラムです。


「Pocket WiFi305ZT」(ワイモバイルのパンフレットより)

いっぽう、「Pocket WiFi LTE GL04P」という旧機種の寸法は、縦66ミリ、横102ミリ、高さ14.5ミリ。重さは140グラムです。


「Pocket WiFi LTE GL04P」

全体としては、旧機種よりも新機種のほうが、大きくて重くなっているわけです。「Pocket WiFi」とはいっても、小さなポケットには入りにくくなってきました。

企業側からすれば、高速通信化をはかったり、表示画面を大きくしたりして、バージョンアップを成しとげたという感覚があるのでしょう。事実、そうした点での機能は旧機種よりも高まっているわけです。

しかし、使用者側からすれば、新機種に対して「電車などでPocket WiFiをコンピュータに挿して使うのに、これ以上、装置が大きくなっては困る」といった、べつの不便さを感じることもあるわけです。

機種変更をするとき、大きさや重さの情報はあまりいわれないため、新機種が届いてから「こんなにでかくて重いのかよ」と気づくことはあります。

過去の機種変更でそれを経験した人のなかには、「いまの機種で困っているわけではないから、わざわざでかくて重い新機種に変えないでもいいや」と考える人もいることでしょう。

参考資料
ワイモバイル「Pocket WiFi 305ZT」
http://www.ymobile.jp/lineup/305zt/index.html
ワイモバイル「Pocket WiFi LTE GL04P」
http://www.ymobile.jp/lineup/old/gl04p/
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衝突が衝突をよび宇宙はゴミに満たされていく

低軌道上に存在する宇宙ゴミ
NASA

使いおわって要らなくなった物はゴミとなります。ゴミをいかに処分するかといった問題は、人にとっての長らくの課題となりました。とくに物を多くつくるようになった近現代においては。

宇宙でも、「宇宙ゴミ」の問題がいわれています。役割を終えた宇宙機、故障した宇宙機、目的があって放出された部品、爆発した破片などが、宇宙軌道上をまわっているゴミが宇宙ゴミです。宇宙ゴミの速度は、時速2万5000キロメートルといった地上では考えられないものにもなります。

米国の宇宙監視ネットワークという機関に観測されている宇宙ゴミは、10センチ以上のもので2万2000個あります。しかし、もっと多いのはそれより小さな宇宙ゴミでしょう。1センチ以下の大きさの宇宙ゴミは数千万個以上あると考えられています。

地球のまわりの宇宙が、宇宙ゴミだらけになってしまうという危険性は、1978年ごろからいわれていました。

米国航空宇宙局(NASA:the National Aeronautics and Space Administration)の宇宙工学者ドナルド・J・ケスラー(1922-)は1978年、バートン・G・コーパライスとともに「人工衛星の衝突頻度 デブリ帯の生成」という論文を発表しました。ケスラーたちは、宇宙ゴミの量は加速度的に増えるという危険性を唱えました。

宇宙では、複数の宇宙ゴミが漂っています。それぞれの宇宙ゴミは、地球の周りをまわりますが、進む方向性や速度はそれぞれ異なるため、宇宙ゴミどうしが衝突することがあります。

衝突すると、宇宙ゴミが分かれて増えます。宇宙ゴミの数が増えることになるので、宇宙ゴミどうしが衝突する確率は高まったことになります。こうして宇宙ゴミの衝突が地球のまわりの宇宙で連鎖的に起きていけば、宇宙ゴミが増殖していくことになります。

宇宙ゴミの密度が増えると、たとえ地上から新たな宇宙ゴミの要素を打ちあげなくても、宇宙ゴミどうしが衝突して自己増殖していく状況になるということをケスラーたちは述べました。このケスラーたちの理論は、のちに「ケスラー症候群」とよばれるようになりました。

いまのところ、北米航空宇宙防衛司令部という米国とカナダの共同機関がカタログ化した宇宙ゴミ同士が衝突した事例は10件以下であり、衝突で発生した宇宙ゴミの割合は0.1%未満とされます。

しかし、ケスラー症候群の考えによると、宇宙ゴミが増えれば増えるほど、指数関数的に宇宙ゴミがさらに増えていくおそれがあります。

宇宙ゴミを“処分”する方法としては、宇宙ゴミを大気圏に突入させて空気抵抗による摩擦熱によって焼滅させるといったことがあります。また、衝突の可能性が大きくて宇宙ゴミを増やす大きな原因になりえる大型宇宙ゴミを早く処分するということが大切な考えかたになります。

参考資料
米国航空宇宙局「Space Debris and Human Spacecraft」(英文)
http://www.nasa.gov/mission_pages/station/news/orbital_debris.html#.VL-9K8aiquE
wikipedia「Kessler syndrome」
http://en.wikipedia.org/wiki/Kessler_syndrome
ウィキペディア「ケスラーシンドローム」
http://ja.wikipedia.org/wiki/ケスラーシンドローム
文部科学省「米国衛星『URAS』の落下に関する情報について」
http://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/satellite/detail/1311417.htm
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金色の膜で熱から護る

「はやぶさ」
画像作者:J.R.C. Garry


「はやぶさ2」
画像作者:Go Miyazaki

人工衛星や宇宙探査機などの宇宙機に対して思いうかぶ「色」は何色でしょうか。あらためて想像すると、多くの人は「金色」と答えるかもしれません。

小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」などの本体は、たしかに金色の膜のようなもので覆われています。

この膜は、一般的に「ポリイミド・フィルム」とよばれるもの。多くの物質は原子や分子がつながってできていますが、炭素原子の数がもっとも多くなる幹の部分を主鎖といいます。この主鎖の部分で、1個の窒素原子に2個アシル基という原子団が結びついた「酸イミド結合」というしくみをもった高分子の総称を「ポリイミド」といいます。

なぜ、宇宙機にポリイミドが使われるのか。それは、ポリイミドが耐熱性が高く、また熱を受けても物質の構造が崩れにくいといった特徴をもっているからです。

ポリイミドは、たとえば容器などに使われるポリエチレンといった一般的な材料にくらべて平面構造をとり、自由に回転できる部分があまり多くありません。また、分子と分子のあいだにたがいにはたらく分子間力も強くあります。これらのため、ポリイミドの耐熱性や熱安定性は高くなります。

宇宙には温度変化を緩やかにする役割の大気がほぼないため、物体が太陽の熱をじかに受けると急にその物体の温度が高くなります。

そこで、宇宙機の温度が高くなるとさまざまな機器によくない影響が起きるため、ポリイミド・フィルムを覆うことで宇宙機の温度上昇を防ぎます。温度が300度を超えても熱に耐えられるポリイミドもあります。

ポリイミドは、化学企業デュポン社のサイラス・スルーグ(1922-2003)が1960年代に論文を出すことによって知られるようになり、1965年に実用化されました。1969年7月に月面着陸を果たした米国航空宇宙局の月探査船「アポロ11号」の着陸機などにも使われています。

参考資料
横田力男「衛星をつつむ金色の膜 ポリイミドの研究」
http://www.isas.jaxa.jp/ISASnews/No.245/ken-kyu.html 
ウィキペディア「ポリイミド」
http://ja.wikipedia.org/wiki/ポリイミド
コトバンク「酸イミド」
https://kotobank.jp/word/酸イミド-70322
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国際宇宙ステーションの目の前で反転飛行

国際宇宙ステーションから見たスペースシャトル「エンデバー号」
NASA

地球の重力を受けている環境では、飛行機が背面飛行をしつづけるのは至難の業です。かつて、営業中の旅客機が背面飛行に近い状態になり、事故に指定されたこともありました。

いっぽう、微小重力の環境で飛行することのできる宇宙空間では、地球の重力下にくらべれば背面飛行のような状態を長いあいだ保つこともできます。

1981年4月から2011年7月まで使われつづけた米国航空宇宙局(NASA:National Aeronautics and Space Administration)の「スペースシャトル」では、2005年以降の飛行で、機体を反りかえらせる、ランデブー・ピッチ・マヌーバ(Rendezvous Pitch Maneuver)という技を見せてくれました。

スペースシャトルは国際宇宙ステーションに人や物資などを運ぶため、しばしば国際宇宙ステーションとドッキングしていました。

このドッキングの前に、スペースシャトルは縦長の機体を反りかえらせるように、反転して、腹の部分を国際宇宙ステーションに見せます。

いっぽう、国際宇宙ステーション側には、ビデオカメラやデジタルカメラが付いていて、搭乗員がこれらを使って、スペースシャトルの腹の部分を見ます。腹の部分が傷ついていないかをこれで確認するわけです。

これは、2003年2月に起きた「コロンビア号空中分解事故」を受けてのもの。コロンビア号は打ちあげのとき、剥がれてきた外部燃料タンクの断熱材を受けて胴体が傷つき、その状態のまま大気圏に再突入したため、爆発してしまいました。

そこで、スペースシャトルの機体に同様の傷がついていないかを、このランデブー・ピッチ・マヌーバで、国際宇宙ステーション側から検査することになったわけです。

米国航空宇宙局は、スペースシャトルのランデブー・ピッチ・マヌーバの様子をユーチューブなどに公開しています。たとえば、「STS-131」というミッションでの「ディスカバリー号」の動画では、シャトルの反転飛行の全体像がよくわかります。ちなみに、このときのミッションは山崎直子さんが搭乗したときのものです。

「マヌーバ」(maneuver)とは、「巧妙な手段」とか「策略」といった意味のことば。国際宇宙ステーションとの距離が短いなかでおこなわれるため、スペースシャトルの操縦士は相当な腕が必要とされていたようです。まさにマヌーバ。

参考資料
ウィキペディア「ランデブー・ピッチ・マヌーバ」
http://ja.wikipedia.org/wiki/ランデブー・ピッチ・マニューバ
ウィキペディア「コロンビア号空中分解事故」
http://ja.wikipedia.org/wiki/コロンビア号空中分解事故
YOUTUBE「STS-131 Discovery RPM Rendezvous Pitch Maneuver」
https://www.youtube.com/watch?v=fwEY34-OvXA
米国航空宇宙局「Space Shuttle」(英文)
http://www.nasa.gov/mission_pages/shuttle/behindscenes/sts118_overview.html
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水蒸気噴火を「くしゃみのようなもの」とたとえる

2014年9月の御嶽山噴火
写真作者:Alpsdake

日本人は、自然界のさまざまな存在や事象に、人や人の行ないを重ねあわせてきました。落雷のことを「神鳴り」とよぶのもしかり、厳しい寒気のことを「冬将軍」というのもしかりです。

山の噴火については、多くの人びとが使っているわけではないものの、「くしゃみ」にたとえて説明する人がいます。

噴火には、地球の内部から噴きでてくるのがおもにどんな物質であるかによって、種類が分けられます。

岩石などのもとである、どろどろとしたマグマが地表に出てくる噴火を「マグマ噴火」といいます。熱をもった地球内部の物質そのものが噴きでてくるのですから、マグマ噴火は規模が大きくなる場合が多くあります。

いっぽう、マグマそのものでなく、マグマに熱せられた地下水が水蒸気となって地表に出てくる噴火を「水蒸気噴火」といいます。水蒸気が噴きでる勢いで、火口あたりの岩石が砕けて、噴石や火山灰として降ってきます。2014年9月に、長野県と岐阜県の境にある御嶽山が噴火したのも、この水蒸気噴火と考えられています。

そして、この水蒸気噴火について、「くしゃみのようなもの」と表現する火山学者や、噴火に詳しい科学ジャーナリストたちがいます。水蒸気噴火とくしゃみに相通じる点を見いだしているからでしょう。もちろん、すべてがすべて完全に相通じているわけではありませんが。

くしゃみをすると飛沫が吹きとびます。これを、火山の水蒸気爆発にたとえているわけです。また、たとえば吐血や嘔吐などにくらべると、くしゃみは軽いからだの現象です。マグマ噴火にくらべて水蒸気爆発は、比較的軽微な火山現象という見方もあるのでしょう。

また、多くのくしゃみの場合、いつ出てくるかはあまりわかりません。水蒸気噴火についても、いつ起きるかその予測がつきづらいとされています。

しかし、くしゃみがいつ出るか“完全にわからない”わけでもありません。くしゃみが出てくる前、人は「鼻がむずむずする』といったことを感じ、「くしゃみが出るぞ」ということがわかります。いわば、くしゃみの兆しを感じるわけです。

水蒸気噴火にかぎったことではありませんが、おなじように噴火が起きる前にも、山のあたりがわずかに揺れる「火山性微動」という現象が観測されます。ですので噴火によっては「火山が起きる」と予測することも可能です。

2014年の御嶽山の噴火では多くの犠牲者を出してしまいましたが、この火山そのものをくしゃみにたとえた報道もありました。人がくしゃみをするように、火山も“くしゃみ”をする。しかし、火山のくしゃみは犠牲者を生みだすこともある。これは、自然現象の規模が、人の活動とはくらべものにならないくらい大きいことを示しているともいえます。

「御嶽はちょっとくしゃみをしただけか マグマだまりの威力見せつけ」といった歌も詠まれています。

参考記事
鎌田桂子「巨大噴火で何が起こるか?」
http://www.kazan-g.sakura.ne.jp/J/koukai/99/kamata.html
国土交通省「御嶽山 火山防災だより」
http://www.cbr.mlit.go.jp/tajimi/sabo/ontake/data/ontake_kazan03.pdf
朝日新聞 2014年10月4日付「天声人語 御嶽山惨事からの教訓」
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11384580.html
新潟日報「焼山噴火40年 火山侮るなかれ」
http://www.niigata-nippo.co.jp/sp/bousai/yakeyama/issue1.html
老境の楽しみ・カレエダの旬刊随筆「人間のマグマだまり」
http://blogs.yahoo.co.jp/thetwilight47/11670385.html
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「震災を伝えていくことが課題」が紋切り型表現に


1995年に起きた兵庫県南部地震と、この地震が引きおこした阪神・淡路大震災から、きょう2015年1月17日でちょうど20年になります。被害の大きかった神戸市などの各地で人びとが犠牲者を悼み、神戸市中央区の公園「東遊園地」では市民と報道関係者が未明からごったがえしました。

大地震から20年にあたり、報道では、ある「紋切り型表現」が多く使われるようになりました。それは、「震災の経験をつぎの世代に伝えていくことが課題になっています」というものです。

「地域で助け合って生き抜いた経験や日頃の備えの大切さといった教訓をいかに次の世代に伝えていくかが課題になっています」(NHK

「記憶、そして教訓というものを、今後、語り継いでいかなくてはならない」(フジニュースネットワーク

「震災を語り継ぐことは次の地震や大災害への備えにもつながる。経験と教訓をどう伝えていくのか。神戸から全国に問いかける課題だ」(読売テレビ

「『継承』、その難しさも指摘されています」(テレビ朝日

上にある「震災の経験をつぎの世代に伝えていくことが課題」的な紋切り型表現は、いずれもニュースの最後のほうの文言として使われています。よく「なりゆきが注目される」といったニュースの締めくくりかたも紋切り型表現といわれますが、「経験をつぎの世代に伝えていくことが課題」も紋切り型表現リストに入ってもよさそうな勢いで各メディアに使われています。

人は、ほかの動物とおなじように、寿命となれば死にます。そのいっぽうで新しく誕生する人もいます。こうして、社会を構成する人が入れかわるのがさだめなので、ある時代のあるできごとを経験しない人が増えていくというのは、あたりまえのことです。

NHKによると、実際、神戸市で震災後に生まれてきたり市内に転入してきた人が全体の44パーセントになったといいます。

「経験を震災をつぎの世代に伝えていくこと」には、上の読売テレビが言っているように「次の地震や大災害への備えにもつながる」ので意味はあります。ですので、このことが「課題」であると述べることはまちがっていません。

しかし、「震災の経験をつぎの世代に伝えていくこと」的な表現でしめくくられるニュースに、「震災の経験を伝えること」の中身がふくまれているかというと、かならずしもそうはなっていません。表層的に、経験者が未経験の子どもたちに震災の経験を語ったという事実は伝えられても、その中身までがニュースにふくまれない場合もあります。

つまり、「震災の経験をつぎの世代に伝えていくことが課題」というニュースそのものでは、経験が伝えられていない場合もあるわけです。

なかには「震災の経験をつぎの世代に伝えていくことが課題になっています」的な表現が含まれるニュースに、その経験の内容も含ませているものも見られます。

読売新聞の記事はこう記されています。
_____

震災の記憶をどう未来の世代に語り継ぐかが課題となる中、新聞記者として震災を経験し、2013年から京都府長岡京市立長岡中学校で教諭を務める宮沢之祐しゆうさん(51)(南区)は、「震災を知らない生徒たちに、共に助け合う大切さを伝えたい」と模索を続けている。

(中略)

床に散乱していたカメラとノートを拾い上げ、慌てて警察署に駆け込んだが、被害状況がわからない。消防署では、一人だけ残った男性職員が、「家族を助けてくれ」と叫ぶ何人もの住民に取り囲まれていた。移動中、ひしゃげた家屋をいくつも見たが、「現実感が無く、人がそこに埋まっていると想像できなかった」。
_____

「震災の経験をつぎの世代に伝えていくことが課題になっています」ということをまず伝えたうえで、実際の被災者の「経験」の中身を紹介しています。経験を伝えることが課題だというニュースで実際に経験を伝えている、数すくない好例といえます。

報道の記者自身の多くが数年に一度、異動を経験します。その震災や震災報道に直接、携わった経験がなかった人がほとんどであるという状況はいなめません。

しかし、記者自身が経験を語る必要はありません。震災の経験者に取材をして、その内容を伝えればよいわけです。

「震災の経験をつぎの世代に伝えていくことが課題になっています」は、じつはその原稿を書いている記者やメディア自身が抱えている課題でもあります。
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「お弁当傾き問題」解決のレジ袋が川崎市内で試用開始へ
昨年2014年8月22日(金)付のこのブログの記事に「光明が見えてきた『お弁当傾き問題』」というものがありました。

コンビニエンスストアなどで買う弁当をレジ袋に入れて歩いていると傾いていき、おかずの汁がごはんに染みる“漏れ弁”や、中身が左右どちらかにかたよってしまう“寄り弁”などが起きることがあります。

この「お弁当傾き問題」への対策となるレジ袋を、神奈川県内のアスラビットという企業が開発したことを紹介したものでした。「ランチビークル・ライト」というレジ袋で、クレーンの玉掛け技である「モッコ吊り」の形態を応用したものです。日本ビジネスプレスのウェブニュース「JBpress」に記事が掲載されたことを機にブログ記事にしたものです。

この話題の続報が入ってきました。

盛りつけが崩れないレジ袋を開発したアスラビットが、「かわさき環境ショーウィンドウ・モデル事業」に(2014年)採択されたことを受け、1月17日(土)から川崎市内のコンビニエンスストアなど33店舗で試作品レジ袋の試用が始まることを、13日(火)同社が発表しました。

「かわさき環境ショーウィンドウ・モデル事業」とは、神奈川県川崎市が“環境関連技術の見える化”をテーマとしたアイデアを市内の事業者などから応募したもの。選定結果の発表は2014年9月にあり、アスラビットが3社のうちの1社に選ばれていました。

「ランチビークル・ライト」自体は、なかに入れた弁当が傾かないことを大きな特徴としていますが、環境関連の事業で選定されたのは、使われる資源量がほかの一般的なレジ袋にくらべて少ないからです。同社は「袋の重量を従来品比で最大約20%削減」としています。

ただし、多くの消費者は、「レジ袋が軽くなった」ことより、やはり「弁当が傾かない」ことを実感したいことでしょう。

1月17日(土)からは、川崎市内15店舗のコンビニエンスストア「スリーエフ」などで試用が始まります。また、31日(土)からは、おなじく川崎市内の大野屋、クリシマ、ゆりストアなどのスーパーマーケットでも試用が始まります。

世の中の「お弁当傾き問題」解決のための一歩といえるかもしれません。試用店の近くに住んでいる方は、どれだけ「傾かないのか」を実感してみてはいかがでしょうか。



アスラビットの2015年1月17日付の発表「盛付けが崩れないレジ袋 ランチビークル・ライト、『かわさき環境ショーウィンドウ・モデル事業』で採択」はこちらです。試用される川崎市内の店の一覧も載っています。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000012355.html
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「モデル化」でものごとを理解しやすく

写真作者:simpleinsomnia
Students study an equation on a chalk board  "Hans Schule, 1939"

仕事や研究の場面で、「モデル化」することの大切さがよくいわれます。モデル化とはどんなことでしょうか。またモデル化が大切なのはどうしてでしょうか。

人は、「現実の世界で起きている具体的なものごと」と、「概念の世界で浮かびあがらせる抽象的なものごと」の二つのものごとを頭で扱うことができます。

そこで、現実の世界での具体的なものごとを、概念の世界での抽象的なものごとに移して単純化したり形式化したりすることがあります。これを「モデル化」といいます。

たとえば、ロボティクスの分野では、綱わたりをする2輪車があります。この2輪車にはオートバイをにせて、車輪、モーター、フレーム、ハンドルなどが付いていますが、モデル化では「左右にバランスをとるアーム」と「それ以外の部分」という二つの要素だけにわけて、バランスをとることに主眼を置いたモデル化をおこないます。

そして、ロープがたわむ場合とたわまない場合の二つを考えて、ロープについても二つのモデル化をおこないます。

モデル化をするうえでは、数式化を目指します。ロボティクスの場合、よく用いられるのは、物体の運動を決める「運動方程式」です。

モデル化することの意義は、いろいろと言われていますが、それらをなるべく集約して表現すると「理解しやすくなるから」ということになります。

たとえば、ある実際のものごとをモデル化しておけば、人びとの記憶に残りやすくなります。また、部分ごとの関係がつかめるとともに、全体がどうなっているのかがわかりやすくなります。これらは、そのものごとに関わる人びとの認識を共通化することにもつながります。

方程式として表すと、その式は一見むずかしそうに見えるかもしれません。しかし、式にして表せること自体が、研究開発では大きな前進といえるわけです。

ものごとがわかりづらいとき、多くの人は「もっと具体的に話してください」といいます。しかし、モデル化の概念に慣れている人は「もっと抽象的に話してください」ということもあるでしょう。

参考資料
ITpro 2007年3月15日付「なぜモデリングをするのか?」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20070312/264619/
高知工科大学 児玉迪弘「綱渡りロボットのモデル化と安定化制御」
http://www.kochi-tech.ac.jp/library/ron/2006/2006mech/a1060186.pdf
| - | 14:51 | comments(0) | trackbacks(0)
二人の生物学者が植物群落の光合成を測る手法を確立


森や緑地で見られるみどりは、ただひとつの植物だけでできているわけではありません。いくつもの植物が“群れ”としてまとまって生活していると考えることができます。このように、あるひとつの場所でまとまりをもって暮らしている植物の集まりを「植物群落」あるいは「群落」といいます。

ほとんどの植物は、身のまわりの二酸化炭素と水から、太陽光により炭水化物と酸素をつくって生きています。光合成の営みです。

では、植物群落をひとまとまりとするとき、その植物群落はどのように光合成をしているのでしょう。

それを解く手法を戦後まもない1950年代に提唱したのが、日本の生物学者の門司正三(もんじまさみ、1914-1997)と佐伯敏郎(1927-2004)です。

この手法の大筋では、まず、葉における「光-光合成曲線」を測定または推定します。光-光合成曲線とは、二酸化炭素の吸収速度を縦軸に、光の強さを横軸にとったグラフです。

つぎに、植物群落の“姿”を描きだします。植物には背丈がありますので、5センチ単位や20センチ単位という高さで、層別にその植物群落の植物を刈りとります。

そして、高さの層別に刈りとった植物を、葉や茎などの器官別に分けます。このとき、葉は乾いてしぼまないうちに、それぞれの面積を調べておきます。これらの一連の作業を「層別刈取法」といいます。

門司・佐伯の手法では、層別刈取法で植物を伐るまえに、大切なもうひとつの測定をしておきます。それぞれの層別の高さでの光の強さを、照度計や感知器などで測っておくのです。

すると、地面から高い層の葉は、上に遮るものがないため、たくさんの光を受けます。いっぽう、地面に近い層の葉は、上に遮る葉がたくさんあるため、光をあまり受けません。

この、上にあるほど光を受け、下にあるほど光を受けない。この事実は、「その高さでの照度がどのくらいか」を縦軸に、「上にある葉の総面積がどのくらいか」を横軸にとったグラフで一直線になることで表されます。ただし、植物群落を構成する植物の種類によって、その傾きは異なりますが。

門司・佐伯理論の手法では、これらをもとに「生産構造図」とよばれるグラフを描きます。

生産構造図のグラフは「⊥」のような縦軸と横軸をとります。縦軸を「地表からの高さ」とし、横軸左側を「葉の面積」、横軸右側を「茎などの量」とします。これで、どの高さにどのくらいの葉の面積や茎の量があるかがわかります。

さらに、このグラフに「その高さでの照度がどのくらいか」の線グラフを重ねます。これにより、「その植物群落では、どのぐらいの高さにどのぐらいの面積の葉があり、光の照度とどう関係しているのか」といった関係性を視覚化することができます。

また、はじめに「光−光合成曲線」を測っておいたので、これを合わせれば、層別の高さによる相対的な光合成の能力を見ることができます。

植物群落は、背丈の高い植物から背丈の低い植物まであります。それぞれの植物ごとの生産構造図を並べて見れば、光をめぐる植物間の高さの関係も見えてきます。

門司と佐伯はこれらの手法により、植物群落で植物たちが光を求めて競争することが、長年の歳月でその植物群落の様相がどう変わっていくかの方向性を決めるということを、証明しようとしました。

門司・佐伯のこの研究は1953年、「植物群落内における光要因とその物質生産に対する意義について」という論文で発表されました。二人の理論は「門司・佐伯理論」とよばれ、修正が加えられながらもいまも使われています。

参考資料
山口大学 山本晴彦研究室「植物の生育状態の計測と診断(2)」
http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~yamaharu/syokukei5.htm
東巴の狸の物語「早稲田キャンパスにおける生物と環境を探る」
http://heisei-tompa-tanuki.image.coocan.jp
光合成の質問箱「光合成の質問2009年」
http://www.photosynthesis.jp/photoqa2009.html
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科学ジャーナリスト「科学者を育てる」


科学ライターや科学ジャーナリストには、専門分野の研究者に取材をするという行為がつきものです。

たとえば、出版社から「分子生物学の先端研究を紹介できるような記事をつくりたいので研究者に取材してほしい」と依頼を受けることがあります。その際、研究者のだれかに取材を申しこむ必要がでてくるわけです。

では、だれに取材を申しこめばよいのでしょうか。

ある科学ライターはこう話します。

「理想的には、その分野の第一人者に取材を申しこむべきだ。その研究者を知っている読者は多いから、その記事はより多くの人の関心を集め、読まれる記事になりやすいからだ」

実際、無名の研究者が登場する記事よりも、高名な研究者が登場する記事のほうが、読者に「読もう」と思われる機会は多いかもしれません。

いっぽうで、べつの科学ライターはこう話します。

「たしかにその分野の第一人者に取材を申し込むことも大切だ。でも、まだあまり名は知られていないけれど、興味深い若い研究者に取材を申しこんで取材をし、その後もその研究者と末ながくつきあっていくというのも、科学ライターの楽しさのひとつではないか。こう言うとおこがましいが、科学ライターが『研究者を育てていく』というような感覚で」

その分野の第一人者といえる研究者に取材が適ったときも、自分が注目している新進気鋭の研究者に取材が適ったときも、どちらも自分の願いがかなったという点では、その人にとって満足の行くことでしょう。

あとは、その研究者に取材をすることが、その記事をつくるうえで向いているかどうか。さらにいえば、最善の選択といえるかどうか。そこが重要となってくるわけです。
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「深夜料金」の発生タイミングさまざま


夜おそい時間に、お金の支払いごとが発生するとき、「深夜料金」がつく場合があります。しかし、多くの人は「あ、この時間だと深夜料金がつくんだ」と思うぐらい。厳密にどの時点で深夜料金が発生するのかは、あまり知られていません。

飲食店については、多くの場合、22時から翌朝5時の時間帯に深夜料金が発生します。といっても、22時から5時までというのは、入店時刻ではありません。客は料理を注文します。店員が注文をうけたまわり、機械にその内容を打ちこみます。この瞬間が22時を超えていれば、深夜料金が発生することになるというのが、多くの飲食店で採用されている規則です。

つまり、初回の注文を21時59分におこなえば、その注文については深夜料金がつきません。しかし、22時10分に新たな注文をおこなえば、その注文については深夜料金がつくわけです。

飲食店の深夜料金では、通常の時間帯の1割増が多いようです。

タクシーにも深夜料金があります。通常23時から翌朝5時までが深夜料金の時間帯になります。2割増がタクシーの深夜料金になります。

ただし、タクシーの料金の場合、「昼とおなじ走行距離で特別料金が加算される」という考えかたでなく、「昼とおなじ料金での走行距離が2割、短くなる」という計算になります。

もちろんタクシーについても、飲食店と同様、なにをもって深夜料金が発生するかが厳密に決まっています。

たとえば、22時30分に乗って、23時30分に降りるという場合、22時30分から23時までは通常の料金が加算されていきます。そして23時になると、メーターが自動であるいは運転手の手動によって切りかわり、23時からの30分は深夜料金になるということです。

割増とは逆に、割安になる深夜料金もあります。高速道路や自動車専用道路の多くでは、午前0時から4時までの間、深夜料金として通常の時間帯より3割安になります。

0時以降、4時までにインターチェンジに入れば適用になるほか、0時前に入っても出るのが0時から4時まで、あるいは4時以降ということでも適用になります。

なお、深夜の時間帯の料金が割増になる場合は「深夜料金」、割引になる場合は「深夜割引」と表現することが多いようです。

参考資料
Yahoo!知恵袋「ファミレスの深夜料金って何時から何時の内に」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1353810123
taxiサイト「深夜に利用すると料金が早く上がる気がするけど・・・」
http://www.taxisite.com/how/beginner/b2.aspx#q2
ドラぷら「深夜割引」
http://www.driveplaza.com/traffic/tolls_etc/etc_dis_night/
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情報技術の進歩の速さ感じられる2006年からの9年


このブログ「科学技術のアネクドート」は、きょう(2015年)1月10日(土)の回で、9周年となりました。

9年前といえば2006年。この年には、韓国の黄禹錫氏が発表したES細胞に関する論文が捏造であることが判明しました。そして、京都大学の山中伸弥さんがマウスで人工多能性幹(iPS:induced Pluripotent Stem)細胞を樹立したのもこの年でした。

iPS細胞をめぐっては、翌2007年にヒトでの樹立を山中さんの研究グループと、米国ジェームズ・トムソンさんの研究グループがほぼ同時に成しとげました。そして2014年、STAP細胞の騒動がつづくなかで、臨床研究ながら、ついに加齢黄斑変性という眼の病気に対する手術で、iPS細胞が使われるようになりました。

生命科学などの自然科学分野にくらべて、めまぐるしい発展を人びとに感じさせるのが、情報技術でしょう。

9年前の2006年には、まだスマートフォンとよばれる、パーソナルコンピュータの機能を小型化し、そこに電話などの機能を加えた端末は、まだほぼ現れていませんでした。

アップル・コンピュータからiPhoneが発売されたのは2007年。以降、人びとは、それまで使っていた携帯電話をスマートフォンに持ちかえるようになりました。そこには、すでにスマートフォンと同様の機能をもった携帯電話という装置を人びとが所有しており、かつ「買いかえ」という必要性があるため、増えていったわけです。

また、人びとの状態や活動の情報の蓄積であるデータに対する価値観も、この数年間で大きく変わりました。「ビッグデータ」ともよばれる膨大なデータを分析することで、いままで導きだせなかった消費者行動の傾向や法則などを導きだせるようになり、これを営利活動などに利用しようとする企業が増えています。

もちろん社会を構成するのは、iPS細胞、スマートフォン、ビッグデータだけではありません。しかし、全体的に見ても、自然科学にくらべて情報技術のほうが、その進歩の速度は高そうです。

「十年ひとむかし」といわれるので、このブログが9周年を迎えたいま、まだ振りかえるのは早すぎるかもしれません。1年後には、いま存在しないような概念や技術がまた現れていることでしょう。

10年目にかけてのブログも、ひきつづきよろしくお願いします。
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風車の建設に根づよい反対意見


日本では、風車の設置に対して住民の反対する姿勢が見られます。

東京に本社を置く建設業者が、山口県下関市の安岡沖に洋上風力発電の設備をつくる計画を立てています。しかし、これに対して住民の反対が強く、下関市長が「進捗はむずかしい」と述べていると報じられています。

この風力発電施設の計画は、3000キロワット級の風車を20基、設置しようとするもの。2014年2月には、下関市の住人や医療関係者が、3万2000人の建設反対署名を携えて、下関市に対して反対表明をするように要望を出しました。

「安岡沖洋上風力発電建設に反対する会」という組織が表明する反対理由はつぎのようなものです。

「住民の同意が得られていない」。市長が示したこの建設業者の環境評価方法についての意見書では、「地元理解を得た上で」という文言がありますが、建設反対の署名は3万2000筆にのぼっており、「地元理解を得た」といえない状況だということです。

「健康被害」。風車が発するとされる低周波による健康被害を心配しているようです。オーストラリアでは風車から3キロメートル離れた町で健康被害が生じているのに、この建設業者は「被害の範囲は2キロメートル以内」と言っているとして、納得がいかないようです。

そのほか、「景観の破壊」「自然の破壊」「(ヨットや沖釣りなどの)利用の場の喪失」「資産価値の減少、地域の衰退」といった理由も掲げています。

風力発電の健康被害については、たしかに世界各地で神経症、不眠、頭痛などの症状が報告されるなどしています。

いっぽうで、地元の住民が建設した風車については気にならず、健康被害が起きづらいともいわれています。自分たちの近くに置かれる風車をどのように捉えるか、立ち位置のちがいといった要素も、影響をあたえるものかもしれません。

下関市の人口は28万人ほど。3万2000筆の署名の多くは下関市民によるものでしょうから、このまま風車建設を押しとおすのは看過できない状況といえそうです。

エネルギーを得ないと人は生きていけません。しかし、そのエネルギーをどのように得るかは、地元住民の意志に影響を受けることもあります。

住民の反対で、建設計画が頓挫するといった実績が生まれると、ほかの地域でも同様のことが起きる「滑り坂」状態が起きてくる可能性もあります。

参考資料
安岡沖洋上風力発電建設に反対する会HP「安岡沖洋上風力発電計画の問題点」
http://www.yasuoka-wind.com/反対理由/
朝日新聞2014年2月14日付「洋上風力発電『反対表明を』下関住民、市に要望/山口県」
朝日新聞 2014年11月11日付「洋上風力発電計画『進捗難しい状況』中尾・下関市長が認識示す/山口県」
| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)
『スピード経営が日本のものづくりを変える』発売


新刊の案内です。

このたびNECパーソナルコンピュータが、『スピード経営が日本のものづくりを変える NECパーソナルコンピュータの米沢生産方式と原価管理』という本を、東洋経済新報社から出版しました。

NECパーソナルコンピュータは、日本電気(NEC)のグループ会社です。2011年7月に、NECと中国のコンピュータ製造業レノボによる合弁会社「レノボNECホールディングス」が設立し、この会社の100%子会社となりました。

書名には「米沢生産方式」という、地名をともなった生産方式の名前があります。いま、NECパーソナルコンピュータの製造する日本国内向けパーソナルコンピュータのほとんどが、山形県米沢市にある米沢事業場で作られています。当地でのものづくりの方法を社員たちは「米沢生産方式」とよんでいます。こうよぶからには、特徴があるわけです。
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米沢生産方式を一言で表現すると、「生産技術、IT、財務管理手法を駆使して、徹底的な効率化、スピード向上、品質向上を実現し、継続させている、米沢事業場におけるものづくりの方式」となる。(同書「はじめに」より)
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とりわけ、NECパーソナルコンピュータの社員たちが米沢生産方式について誇っているのは、スピーディなものづくりです。いま、パーソナルコンピュータは多品種時代。同社では、客が細かい仕様を選べるため「ワンシーズン2万種」という多品種生産をしています。それでいて、注文から納品まで3日間で行っているということです。

スピーディなものづくりができるのは、生産技術、情報技術(IT)、そして財務管理手法という三つの要素が三位一体となって機能しているからといえます。とはいえ、この三つの要素がもともとあったわけではありません。社員たちが順番に築きあげていったのです。

本の冒頭には、「本書は、『海外でなく日本でものづくりをすること』の意義、利点、そして課題を、ものづくりに関わるすべての方々に示そうとするものである」と、この本の目的が書かれてあります。

1990年代から2010年ごろにかけて、日本企業の生産拠点がつぎつぎ海外へと展開されていきました。しかし、海外に拠点を移さなければ経営が成り立たないのかというと、NECパーソナルコンピュータはこの本で「決してそのようなことはない」と明確に述べています。

「米沢生産方式」は、いわば日本ならではのものづくりの技術の粋が集まったような生産方式といえそうです。ものづくりのノウハウをあえて開示することで、“日本でのものづくり”をめぐる議論をまきおこしたいといった意図もあったのでしょう。

日本国内でものづくりを続けている製造業者は、あるいは、海外に生産拠点を移したという製造業者は、それぞれどのようにこの本の内容を受けとめるでしょうか。

『スピード経営が日本のものづくりを変える NECパーソナルコンピュータの米沢生産方式と原価管理』はこちらでどうぞ。
http://www.amazon.co.jp/dp/4492502688
東洋経済新報社のホームページには、目次や編集者コメントなども紹介されています。こちらです。
http://store.toyokeizai.net/books/9784492502686/

この本の執筆協力をしました。
| - | 23:10 | comments(0) | trackbacks(0)
「為末大の未来対談」はじまる


経済情報に特化したニュース共有サービス「NewsPicks」で、「為末大の未来対談」という連載が、きょう(2015年)1月8日(木)から始まりました。この記事の構成をしています。構成とは取材や対談を原稿にまとめることです。

為末大さんは、元陸上のプロ選手。2001年と2005年の世界選手権で2度にわたり、男子400メートルハードルで銅メダルを獲得しました。2012年に現役を引退し、いまは「アスリートソサエティ」の理事などとして、スポーツや教育などにかかわる活動をしています。

為末さんが見据えているのは、2020年ごろの社会。陸上競技用の義足を開発する企業をソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤謙さんと設立し、東京パラリンピックで開発した義足を使った選手がメダルを獲ることを目指しています。

2020年ごろ、科学や技術の分野で、どのようなことが実現しているかを、為末さんが研究者に尋ねて対談をするというのが、この連載の趣旨です。

今回、為末さんが対談したのが、東京大学医科学研究科ヒトゲノム解析センター長の宮野悟さん。宮野さんは、「バイオインフォマティクス」(生命情報科学)とよばれる分野を専攻しています。遺伝子の全体を意味する「ゲノム」などの生命情報をコンピュータで解析し、個人の病気治療などに役立てようとしています。

第1回の記事タイトルは「コンピュータが“人知を超えた”医療を始める」。まさに、人間の医師などによる診断に優る診断を、コンピュータがしはじめているといった現状を、宮野さんが紹介します。「将来的にやりたいのは、患者さんの全ゲノムを解析することによって『この人にはこの薬を』といった治療法を確立することです」と話します。

宮野さんとの対談は今回をふくめて全4回。ゲノムをめぐるビジネスや倫理的課題などについても話が展開されていきそうです。宮野さんとの対談の後も、為末さんとほかの研究者との「未来対談」はつづいていく予定です。

NewsPicks「為末大の未来対談」第1回「コンピュータが“人知を超えた”医療を始める」はこちら。
https://newspicks.com/news/772741/body/
NewsPicks「為末大の未来対談」のページはこちら。
https://newspicks.com/user/9083/
| - | 18:01 | comments(0) | trackbacks(0)
太陽光発電、“固定買取バブル”後に迷走(下)


太陽光発電の「固定価格買取制度」(FIT:Feed In Tariff)が2012年7月より本格実施されました。これにより、太陽光でつくった電力を、電力供給を担う電力企業に売ろうとする事業者や個人が多くなりました。いわば、“固定買取バブル”の様相です。

さらに最近は、太陽光発電事業者による「空おさえ」という問題が生じています。

固定価格買取制度により、電力各社は太陽光発電事業者や個人から太陽光発電による電力を受けいれなければなりません。そこで、電力会社は、太陽光発電による電力を供給したいと考えている太陽光発電事業者や個人に、太陽電池と電線がつながることを確約する「接続枠」をあたえるわけです。

ところが、この「接続枠」があたえられても、いっこうに太陽光発電をしようとしない太陽光発電事業者がいるというのです。太陽光発電による電力の接続枠を確保しながら、合理的な理由もなく発電事業に着手しない行為を、「太陽光発電接続枠の空おさえ」といいます。

どうして、「空おさえ」は起きるのでしょうか。

太陽光発電を大規模におこなって、電力会社に電力を売ろうとする大企業があります。しかし、実際に太陽光発電を開始するまでには手間がかかります。「とりあえず、接続枠は確保しておく」といった考えて、「空おさえ」をする企業もあるのでしょう。

とくに「空おさえ」が多くおこなわれているとされるのが福島県です。背景には、福島第一原子力発電所に近い地域で、あまり使い道のない土地を太陽光発電事業者が太陽光発電に利用しようと計画しているものの、実際の発電はまだおこなわれていないといった事例が多くあるようです。

福島県は2014年11月、県が設置した「系統連携専門部会」による緊急提言で、「『空押さえ』を速やかに排除し(事業化が遅延している設備認定の取り消しなど)、堅実に事業を進める事業の受け入れを円滑化し、後発事業を途絶えさせないよう留意すべきである」といった対策案を発表しました。

また、経済産業省も2014年12月、発電事業者が「工事費負担金を接続契約締結後1か月以内に支払わない場合」や「運転開始予定日までに運転開始に至らない場合」には電力会社が当該契約を解除できるといった「空おさえ」防止対策案を出して、パブリックコメントを募っています。経産省は2015年2月1日に、新しい省令案を施行する予定です。

太陽光発電をさらに普及させるための制度を始めたものの、なかなかうまくいかないという実態があります。2015年、新たな施策により、これらの問題が解決されて、ふたたび再生可能エネルギーの普及が軌道に乗っていくでしょうか。了。

参考資料
V-net Japan「再生エネルギー買い取り問題のウラに潜む『空押さえ』のカラクリ」
http://www.vnetj.com/55localangle/post_90.html
環境ビジネスオンライン 2014年11月27日付「福島県が提言 再エネの接続保留問題、まずは太陽光の『空押さえ』の排除を」
http://www.kankyo-business.jp/news/009260.php
環境ビジネスオンライン 2014年12月22日付「再エネの『出力制御の新ルール』や『空押さえ防止』広く意見募集中」
http://www.kankyo-business.jp/news/009444.php
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
太陽光発電、“固定買取バブル”後に迷走(上)


再生可能エネルギーの中心的手段でありつづけている太陽光発電をめぐって、2011年の東日本大震災以降、「普及への新制度をやってみたものの、問題も浮かんだ」という状況になっています。太陽光発電をめぐる国内状況を整理してみます。

2012年以降、太陽光発電の国内出荷量はそれまでより一気に増えました。太陽光発電協会の出荷統計によると、2011年の国内出荷量は1404ギガバイトでしたが、2012年には3809ギガバイト、2013年には8625ギガバイトと、急激に増えています。

これは、2012年7月より本格実施がはじまった再生可能エネルギーの「固定価格買取制度」(FIT:Feed In Tariff)によるところが大きいといえます。固定価格買取制度とは、市民が企業などがつくった電力を、決まった価格で長年にわたり電力会社に売ることのできる制度です。

太陽光発電については2009年から固定価格買取制度が行なわれていましたが、買いとり電力は余剰売電分のみなどと制約もありました。2012年7月からの制度実施では、全量買いとりとなりました。また、2012年7月からは、地熱発電や小水力発電などほかの再生可能エネルギーも買いとり対象となりましたが、やはり設置が簡単な太陽光発電に設置導入の人気が集まったという状況です。

固定価格買取制度では、買いとり側の電力企業は、買いとりによる負担を電気料金に転嫁することができます。費用面では、電力企業にとって負担は理論上ないわけですが、べつの問題が起きました。再生可能エネルギーを買いとっても余ってしまい、電力の供給過剰などにより停電のおそれがあるというのです。また、天候により太陽光による発電量が大きく変わるため、電力の安定供給がしづらいという声も聞かれます。

買いとりを中断した電力各社は2014年12月、どのくらいの量までであれば買いとり可能なのか、その試算をそれぞれ発表しました。九州電力はでは、買いとりの受けいれ可能量を太陽光で817万キロワットとしましたが、すでに815万キロワットを受け入れており、2万キロワット分しか買いとりできないといいます。

いっぽう、中部電力では、2014年11月末時点で、受けいれの決まった電気の量は、受けいれ可能量の6割にとどまっていることがわかりました。各社により事情が異なるようです。

経済産業省は、電力各社が買いとりを中断したことを受けて、電力買いとりについての新たなルールづくりを検討しました。電力各社は、新ルール適用後に契約をした太陽光発電事業者の電力供給を、電力余剰時には抑制することができるようになります。太陽光発電事業者にとっては、安定的な収入を得づらくなるわけです。電力各社は2015年1月から買いとりを再開する予定です。

もうひとつ、電力会社が太陽光発電による電力を買いとらないという問題とともに、太陽光発電業界では「空おさえ」とよばれる問題も起きています。どのようなものでしょうか。つづく。

参考資料
朝日新聞 2014年12月26日付「再生エネ、受け入れに余力 中電、可能量の6割 11月末」
朝日新聞 2014年12月26日付「再エネ買い取り新ルール 太陽光発電・余剰時停止も 地熱発電・無条件にホッ 大分県」
朝日新聞 2014年12月19日付「太陽光発電、抑制容易に 買い取り、来月中旬再開」
朝日新聞 2014年12月12日付「再生エネ抑制、上限撤廃 欧州手本に運用効率化 電力5社、受け入れ再開へ」
| - | 17:40 | comments(0) | trackbacks(0)
明るいなかの眠りで、糖尿病やうつ病のリスク高まる


かつて人びとは灯りという技術をもっていませんでした。多くの人は、日が出るとともに起きて動きはじめ、日が沈むとともに動くのをやめて眠りについたのでした。

ところが、人びとは夜の闇のなかでも昼とおなじような明るさを求めるようになり、灯りを開発しました。19世紀後半に電球が発明されてから、まだ150年ほどしか経っていませんが、かならずしも暗闇のなかでなくても寝ることができる環境を人は手に入れてしまったわけです。

人によっては、部屋を真っ暗にして眠る人もいることでしょう。また、豆電球を灯したり、あるいは部屋が明るいのを気にしないでそのまま眠るような人もいることでしょう。

本来は、暗闇のなかで寝るのがあたりまえだったので驚くに値しませんが、部屋の灯りをつけたまま眠ると、高齢者の肥満や脂質異常症のリスクが高くなることが、住民参加型の研究で明らかになっています。

奈良県立医科大学の佐伯圭吾講師などからなる研究グループが、奈良県在住の880人の60歳以上の人たちが住む家の部屋について、48時間にわたり、部屋のなかの光曝露量や室温などを調べるとともに、この実験協力者たちの病気の既往歴などを調べて、部屋の環境と健康への影響の関係性を見いだそうとしました。

すると、夜に光に晒されている人が、そうでない人よりも明らかに健康によくないというデータがいろいろと見つかったそうです。

たとえば、夜の平均光曝露量が5ルクス以上と測定された人たちでは、そうでない人たちにくらべて1.57倍、脂質異常症になるリスクが高いことがわかりました。また、おなじく脳卒中のリスクは2.01倍と高くなりました。ちなみに「5ルクス」とは「新聞を読めるかどうか程度の明るさ」とされています。

また、おなじく夜の平均光曝露量が5ルクス以上と測定された人たちでは、そうでない人たちに比べて1.77倍、うつ病になるリスクが高いことがわかりました。また、睡眠障害のリスクについても1.71倍、高くなることがわかりました。

夜に光を浴びることは一般的に、ほぼ1日周期の体のリズムである「概日リズム」を狂わせることになります。概日リズムが崩れると、脂質異常症や糖尿病さらには睡眠障害やうつ病がおきやすくなるといわれています。この研究グループの調査でも、こうした言説を支持するような結果になりました。

「外が暗くなったら眠りにつく」というのは、さすがに現代生活ではむずかしいかもしれません。しかし「眠りにつくときは部屋を暗くする」といったことは、だれもができる健康維持法ともいえます。

参考資料
佐伯圭吾・大林賢史「高齢者の温熱・光環境が心血管疾患・がん・うつ病・睡眠障害・糖尿病・脂質異常症に及ぼす影響」
http://www.ms-ins.com/welfare/shiryo2012/pdf/3_1_11.pdf
奈良県立医科大学「夜間の豆電球使用が肥満・脂質異常症のリスクになる可能性を示唆」
http://www.naramed-u.ac.jp/pdf/news/2013/250109Endocrine-News.pdf
薬学用語解説「オッズ比」
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?オッズ比
| - | 19:02 | comments(0) | trackbacks(0)
2015年、科学の話もカレーの話も


「アネクドート」とは、ロシア語の「小話」のこと。「科学技術のアネクドート」では、2015年も日々「小話」を伝えていきます。

2015年、これといって科学や技術にかかわる大きな出来事が予定されているわけではありません。その分、だれも注目していないような話が、注目の的になる可能性もあります。このブログでは2015年も、多くの人が注目しているわけではない話題を積極的に提供していきます。

しかしながら、多くの人が注目する話題でも、そうでない話題でも、とりあげた話題にほころびが出て、のちに社会から批判を浴びるということもあります。話題を選ぶほうも、慎重でなければなりません。

つぎのような連載もつづきます。

全国各地のカレーを求めてその味を伝える小話「カレーまみれのアネクドート」は、2014年に7回、更新して、59回になりました。しかし、全国にはおよそ5400軒のカレー店があるともいいます。まだ、カバー率は100分の1強にすぎません。2015年も、一軒一軒確実に、一皿ごとに展開される香辛料とライスの“辛い調和の妙”を伝えてきます。

世の中に存在する「法則」にも目を向けていきます。「法則古今東西」では、自然科学、社会科学、そのほかの分野をふくめ、「法則」とよばれているものをひとつずつとりあげていきます。2014年は2回、更新して、計23回となりました。その法則が導き出されるようになるまでの逸話などを伝えていきます。

「sci-tech世界地図」という連載では、世界各地の“科学技術ゆかりの地”をバーチャルに訪れ、その場所で起きたできごとを紹介しています。

ほかにも本の書評、1話分で収めるのはもったいない短期連載、世間で問題になっていないようなことばの問題、科学や技術とは関係ない多くの話題なども伝えてきます。

2015年もよろしくお願いします。
| - | 23:36 | comments(0) | trackbacks(0)
書評『支倉常長』
「支倉」と書いて「はせくら」と読みます。

『支倉常長 慶長遣欧使節の悲劇』大泉光一著 中公新書 1999年 212ページ


戦国時代から江戸時代初期にかけて、多くのキリスト教宣教師が来日して布教活動をした。このことは、日本史の教科書などを通じてよく知られている。

だが、江戸時代初期、日本人が遠く中米、さらには欧州まで赴き、キリスト教の要人たちと謁見した史実は、それほど知られていない。

本書『支倉常長』は、仙台藩祖の伊達政宗(1567-1636)の命を受け、遠くメキシコ、さらにはスペイン、ローマまで辿りつき、スペイン国王やローマ法王などと謁見した仙台藩の下級武士、支倉常長(1571-1622)とその使節団の旅の始終を、歴史的文献などからたどったものである。

伊達政宗にとって、金銀山の豊富にあったメキシコと通商したり、強国として知られていたスペインと同盟関係を締結したりすることは悲願だったのかもしれない。藩の力を増強するのみならず、江戸幕府への圧力にもなるからだ。そのように著者は推察する。

とはいえ、それを実現するために有力な家臣を欧州に派遣すれば、この派遣が失敗したとき責任問題になりかねない。そこで、政宗が“適任者”として派遣の命をあたえたのが、下級武士の支倉常長だった。支倉は、父の盗みの罪で自身も処刑必至の状況にあったという。だが、政宗は「処刑を免じるかわりにスペインおよびローマまでの渡航の苦労を味わうことに減刑する方がよい」(宣教師の書簡より)と判断し、支倉を遣欧使節に任命した。

はたして1613(慶長18)年10月、支倉をはじめとする武士、それに宣教師や商人などをふくむ、180人あまりの「慶長遣欧使節」一行は仙台藩の月ノ浦から「サン・フアン・バウチスタ号」で、中継地のメキシコを目指し出帆したのである。

以降、本書では、支倉たちの旅程を追うように、その地でどのような接遇を受けたか、通商などのための交渉の結果はどうだったのか、といったことを現存する文献や著者の推察を頼りに述べていく。

結論をいってしまうと、この慶長遣欧使節は、政宗が望んでいた通商や同盟を果たせず、失敗に終わる。支倉は失意のなかで1620(元和6)年に帰国。そして程なくして死んでしまう。副題に「悲劇」と付いているのはそのためだ。

結論がわかっていながらも本書の物語に惹かれるのは、登場人物のさまざまな思惑が交錯するからだ。

伊達政宗には、スペインとの交渉が成功しなくてもよし、成功したら尚よしとなるような計算高さがあった。使節に同行した宣教師ルイス・ソテロ(1574-1624)には、自分が東日本司教になるためにローマ教皇に謁見するという思惑があった。スペイン国王やローマ教皇などには、日本がキリスト教を迫害しはじめたことを知る情報が入りはじめていた。そして支倉常長には、どうにか藩主の命を成功裏に実現しなければならないという焦りににた使命感があった。

これらの立場の異なる人物の思惑を、著者は現地で収集した資料などから描写している。いまもおこなわれている外交交渉の原型を、ここに見ることができる。

今年2015年は、支倉常長がローマ教皇に謁見してちょうど300年になる。300年前に、日本人が欧州を目的遂行のために旅していたこと自体に驚く人は多いだろう。本書では、支倉たちとともに300年前の使節を“体験”することができる。

『支倉常長』はこちらでどうぞ。
http://www.amazon.co.jp/dp/4121014685
| - | 18:11 | comments(0) | trackbacks(0)
2015年は「国際土壌年」

「国際土壌年2015」のロゴマーク

年始から年末までの各1年には、国連総会が「国際年」を決めています。1957年からのもので、ことし2015年は「国際土壌年」です。

土壌とは、私たちが地球の表面で触れることのできる、岩石の風化物や生物の遺体・分解物などが混ざったものをいいます。ごくかんたんなことばでいいかえると「土」ということになります。

国連は決議文のなかで、土壌を「地球上の生命を維持する要」としています。生態系を保つため、また、食糧を保つための基盤になるためです。そのうえで、「この土壌を正しく認識し、適切に管理し、守っていくことこそが『われわれの望む未来』の実現に大きく実現します」として、土壌を守ることの大切さを訴えています。

国際土壌年のテーマもあります。「元気な暮らしは元気な土から!」というもの。衣食住にかかわる多くのものが、土の力を借りてできあがります。そのため、土壌を健全に保ちながら使うことが大切になるわけです。

日本の「国際土壌年2015応援ポータル」によると、数センチメートルの土壌ができるのに数千年がかかるといいます。世界中の土壌を均すと、陸地面積に17センチメートルの高さで覆うだけにしかなりません。

土壌のことを知るうえで、日本にいることはとても恵まれたことといえそうです。日本にはさまざまな種類の土のもととなる岩石が、なにもしないでも向こうからやってくるからです。プレートに乗ったさまざまな種類の岩石が、すこしずつ日本列島に近づいては溜まっていき、豊かな土壌をもたらします。日本列島はさまざまな土壌からなる“滓”のようなもの。この土壌の多様性が、日本の植物、作物、焼きもの、染めものなどに多様性をもたらしました。

人のからだもいつかは土へと帰り、土の一部になりゆくもの。私たちそのものも土壌づくりに直接的にかかわっているともいえます。土について見つめなおすと、いろいろなものの見方を得ることができるかもしれません。

2015年12月5日(金)は「国際土壌デー」にもなっており、日本でも沖縄県で「土作りシンポジウム」が開かれる予定です。そのほか各地で土壌についての催しものがおこなわれます。

国連食糧農業機関(FAO)による“2015 International Year of Soils”のホームページはこちら。
http://www.fao.org/soils-2015/en/
国際土壌年2015応援団による「国際土壌年2015応援ポータル」はこちら。
https://internationalyearofsoils2015.wordpress.com
| - | 18:29 | comments(0) | trackbacks(0)
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