2014.10.31 Friday
「ニコチン」から「ニチコン」、いや「コチニン」に
たばこに含まれる「ニコチン」という物質は、毒性の強い物質です。ニコチンの致死量は、体重1キログラムに対して、0.5ミリグラムから1ミリグラムほどとされています。
このニコチンという物質は、体のなかに入るとどうなるでしょうか。
「ニコチンが“ニチコン”という物質に変わる」という話が巷の一部であります。
ためしに「ニチコン」ということばをインターネットで検索してみると、それなりに「ニチコン」が出てきます。アルミ電解コンデンサやフィルムコンデンサなどを扱う「ニチコン」という会社はべつとして、タバコとの関係で「ニチコン」と記されています。
たとえば、日本経済新聞の2010年12月27日付の記事に、つぎのような記述があります。
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厚労省が、今年8月公表の国民生活センターの調査でカートリッジ内の液体からニコチン反応があった電子たばこ11銘柄を国立医薬品食品衛生研究所で分析したところ、煙の代わりに吸い込む蒸気からニチコンを検出。うち9銘柄は包装などに「ニコチンを含まない」との表示があった。
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これはどういうことでしょう。「ニコチンを含まない」という表示のある電子たばこから「ニチコン」という物質が検出されたというのです。やはりニコチンが、なんらかの作用でニチコンという物質に変わるのでしょうか。しかし、この記事全体でも「ニチコン」が出るのは、上にある1か所だけ。新聞が、知られていないことばを平気で出すものでしょうか。
そこで、「ニコチン 体内 分解」などとあらためて検索をしてみると、べつの似たことばが出てきます。
「コチニン」。
どうやらこちらの「コチニン」のほうが、「ニコチンから変わる物質」として正解であることがわかります。インターネットの辞典にも「タバコの煙に含まれるニコチンが体内で分解されてできる物質」などときちんとした説明がなされています。
もともと「ニコチン」のほうは、フランスの外交官ジャン・ニコ(1530-1600)の名にちなんでつくられたもの。ニコがポルトガルに大使としていたとき、大使館の庭に「あらゆる病気に効く」とされていたタバコ種の植物を植えて栽培。偏頭痛もちだったフランス王妃カトリーヌ・ド・メディシス(1519-1589)にも献上したといいます。
これでまず、このタバコ種の植物のよび名が「ニコチアナ」となりました。さらに、300年後、タバコ植物に含まれる物質のなかで特徴的な物質にもニコの名にちなんだよび名がつけられました。それが「ニコチン」です。
「コチニン」(Cotinine)というのは、「ニコチン」(Nicotine)ということばの綴りを入れかえることでつくられたものとされています。いっぽう、たばこ関連の文脈で「ニチコン」と記されているのは、たんなる誤記のようです。
参考資料
日本経済新聞 2010年12月27日付「電子たばこ11銘柄の蒸気にニコチン 販売中止に」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2704P_X21C10A2CR8000/
語源由来辞典「ニコチン」
http://gogen-allguide.com/ni/nicotine.html
ウィキペディア「コチニン」
http://ja.wikipedia.org/wiki/コチニン
ニチコン株式会社「会社概要」
http://www.nichicon.co.jp/company/com_about.html