「科学ジャーナリスト賞2014」では「賞」が、元カリフォルニア工科大学地震研究所所長の金森博雄さん、『AERA』編集部編集委員の瀬川茂子さん、関西大学社会安全学部准教授の林能成さんに対しても贈られました。3人は、朝日新聞出版の朝日選書『巨大地震の科学と防災』の著者、構成者、構成者として携わりました。賞はその著作に対してのものです。
賞の贈呈式では、瀬川さんと林さんが出席しました。まず、瀬川さんによる金森さんの受賞のことばの代読です。
林能成さんと瀬川茂子さん
「このたびはたいへんすばらしい賞をいただきましてどうもありがとうございます。金森先生からメッセージが届いているので読ませていただきます」
「このたびは私たちの著書『巨大地震の科学と防災』ついて、思いがけず科学ジャーナリスト賞を、瀬川・林両氏とともに受賞することになり、たいへん光栄に存じます」
「私は、自然のはたらきに魅せられ、地震や火山の物理に興味を抱き、物理や数学の道具を使って、興味深い自然現象を解きあかすことによろこびを感じてきました。不幸にして、地震はわれわれの社会に多大な災害をもたらします。科学技術のすばらしい発展を恩恵を受けるいっぽうで、自然災害のインパクトは現代の高度に発展した社会において、ますます深刻なりつつある。その効果的な軽減策は、今日の重要な課題であります」
「多くの地震学者と同様、私は研究成果が災害軽減に役立つことを願い、そのためには研究成果が社会に正しく伝わることがきわめて重要と思っています。しかし、私のようにほとんどの研究活動を大学で過ごしたものにとって、たいへんむずかしいことだと痛感しておりました」
「瀬川・林両氏との共同作業により、社会との接点を得ることができ、私自身、多くの共感をもてることができました。審査委員の諸先生方が、そのことの重要性を認識して、私たちの著書を評価してくださったのであれば、審査委員会こそのその賞に値すると思います。どうもありがとうございました」
瀬川さんのスピーチです。
「金森先生は非常に謙虚な方で、自身のことを『職人』とよばれています。職人が自分の技を磨いていい作品をつくっていくようなかたちで、地震波形をどうやって解いていくかといういう観点でこの世界で生きてこられました。だからこそ業績をあげられたのだと思います。先生のお話をたくさん聴くことができ、私はいい時間を過ごすことができたと思います」
「阪神大震災が起きたとき、神戸の方々は神戸では地震は起きないと思っていました。神戸のあたりは活断層がたくさんあるので、地震学者はいつ地震が起きてもおかしくないと思っていました。その後、地震学者は反省し、自分たちがわかっていることを一般の人たちに伝えなければいけない、となりました」
「東日本大震災のときは、地震学者も東北の太平洋沖でマグニチュード9の地震が起きるとは想定していなかったので、科学者は、不確実なことや過不足なことがあることを伝えるほうがいいのではないかとおっしゃっています。すごく自信をなくしているかたちです」
「そのとき、金森先生は、なんで日本の地震学者は反省しているのですかねと、ひょうひょうとしておられました。地震学でできることとできないことがあるのはわかっているのですから、わかっていることをやればいいのですとのことで、本当にご自分の進む道がはっきりされている感じでした」
「この先生のお話をなんらかのかたちで残したいなと思いました。本になるかどうかわかりませんでしたが、インタビューをしました。おかげさまでこういうかたちになりました。今日はありがとうございました」
林さんのスピーチです。
「私は地震学者で、東京大学地震研究所で博士号を取って、名古屋大学で助手をしていたとき金森先生に出会いました。金森先生は『地震の職人』とおっしゃっています。われわれ地震学者にとって神様的存在です。その金森先生が、カリフォルニア工科大学を定年退職され、毎年2か月ぐらいずつ地震学を研究する日本の大学に来ていました。北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学に5年ほど、毎年来るという時期がありました。名古屋大学で金森先生とお昼ご飯を食べているとき、先生は毎日おもしろいお話をされていました」
「私はそのころ、文理融合の防災研究をするということになっていました。私はもともと地震学者でしたが、心理学者といっしょに被災者にインタビューする仕事をしていたら、自分もちょっと場踏みをしてみようと思い、金森先生のオーラルヒストリーを2007年、2008年に行いました。それが、本の最初の2章分と、最後のところに書かれています」
「最初、原稿をある程度まとめて、某大学の出版会に持っていったら、地震学者の生きざまに興味のある人はほとんどいないから、本にならないと言われ、一度、原稿は眠っていました」
「私も任期つきのポストを転々としていたので、職を移るたびに原稿のことを忘れがちになります。そのとき瀬川さんから、いま金森先生にインタビューをしながら本をつくっているのだけれど、あなたも相当、お話を集めているらしいじゃない、いっしょにやりませんかとお声がけをいただき、今回の本が完成した次第です」
「瀬川さんが金森先生にインタビューしたのが2011年5月、東日本大震災以降です。私がインタビューしたのはそれより前でした。しかし、金森先生のおっしゃることは大震災があろうともぶれることはありません。どうやって生きてこられたかがよくわかります」
「いっぽうで、最新の地震学の成果、あるいは地震学ではわからないことがなにであるかを本にしていくという作業は必要だと私も思っていました」
「今回の本を評価していただけるのであれば、金森先生というスーパースターの研究者が悩みながら研究していくなか、どこがどうわかり、どこがどうわからないのかというプロセスを見せるかたちにできたのがよかったのではないかと私自身は思っています。このプロジェクトに参加させていただき、瀬川さんにも感謝しています。どうもありがとうございました」
朝日選書『巨大地震の科学と防災』の紹介ページはこちらです。
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=15493