科学技術のアネクドート

「超・名詞」を「超・形容詞」が超える


新語や流行語を超えて、もはやふつうに使われていることばに「超」があります。

「超かっこいい」「超すごい」「超すてき」などと、それぞれ「かっこいい」「すごい」「すてき」を強める語として、「超」が頭に使われます。最も使われている組みあわせは「超やばい」でしょうか。

もともと「超」は名詞のまえにのみ付くことばでした。「超高層ビル」といったように。「超高層ビル」は「高層ビル」を超えているわけですから、「高層ビルなんてものではなく高層なビル」となります。

これを、形容詞などのまえにも付けるようになったのは1980年代といわれています。「超高層ビル」が「超高い」などと変わっていったわけです。

しかし、これだけ「超」が定着してしまうと、本来の名詞のまえの付く“もうひとつ”の使いかたにぎゃくに違和感を覚える人は出てきそうです。それは、「あるものから極端に逸脱したこと」を意味するときに使う「超」です。

たとえば、「超自然現象」「超法規的措置」「超現実主義」。こうしたことばでの「超」は、「自然ではない」「法規を逸脱している」「現実での理性をしりぞけた主義」などの意味になります。

これを、「超やばい」のような「超」の使いかたしか知らないままだと、「超ナチュラルじゃん」「超リーガルじゃん」「超リアリスティックじゃん」といった意味にとりかねません、あるいはとられかねません。

一説には、形容詞などのまえにつく「超」は、かつて新幹線のべつのよびかたとして使われていた「超特急」ということばに触発された小学生たちが使いはじめたともいいます。ウィキペディアにはそう書いてあります。

しかし、「超高速」なら「超スピーディーじゃん」ということで使われるのはわかりますが、「超特急」だと「超・特急的じゃん」といったことになるので、すこしこの説には無理がありそうです。

「超」を使おうとすれば、かんたんに使うことができます。抱いている感情のまえに「超」をつけさえすれば通じてしまうからです。さまざまな派生系や発展系はでてくることはあっても、「超」が廃れることはないでしょう。

ことしも「科学技術のアネクドート」をお読みいただきありがとうございました。どうか2014年も、超よい年をお迎えください。
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2013年の画期的科学成果、生命科学分野から多数


米国科学振興協会(AAAS:American Association for the Advancement of Science)が発行する科学誌『サイエンス』が発表した「2013年の画期的科学成果」(Breakthrough of the Year 2013)では、以下の9つの成果が“第2位”として選ばれています。

「万人むけの遺伝学的顕微手術」。CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Plidromic Repeats)とよばれる、遺伝子編集技術の研究が本格化しました。これはCas-9というたんぱく質をもとにした技術で、このたんぱく質が悪質なウイルスのDNAを切りきざむ武器となります。2013年、多くの研究者がマウスやヒトの細胞をふくむさまざまな対象物に対して、この技術を扱う研究を進めました。

「クラリティが脳を完璧なまでに鮮明化」。クラリティ(CLARITY:Clear, Lipid-exchanged, Anatomically Rigid, Imaging/immunostaining compatible, Tissue hYdrogel)という高精度の脳画像技術が開発されました。これまでの脳画像技術では、細胞膜をつくる脂質の分子が光を散乱させ、見たい脳の部分をぼやかしていました。クラリティは、脂質を透明ゲルにかえることで、脳の神経細胞の像のみを映しだすことができます。

「ついにヒトクローン技術」。幹細胞を使って、いくつかの種類の動物からクローンが生まれましたが、ヒト細胞についてはクローンをつくるうえでのむずかしさがいわれてきました。しかし、2013年、微量のカフェインを使った新手法の確立で、ヒトクローン作成技術に進展がありました。

「ミニ組織を盛りあわせ」。研究者たちは「オルガノイド」とよばれる多能製幹細胞を手に入れました。まだ研究段階ですが、このオルガノイドは“肝臓の芽”、“ミニ腎臓”、“ヒトの初期脳”とでもよべる組織になります。まだ血液が通わずリンゴ程度の大きさでしかないものの、本物の脳の組織ととてもよくにた組織もつくられています。

「やっぱり宇宙の粒子は加速していた」。天文学者は2013年、宇宙線とよばれる高いエネルギーの微粒子を、その誕生場所である超新星のデブリ雲から観測しました。これまで理論研究者は、多くの宇宙線は超新星の爆発によって加速するという予想を立てていました。そこで観測研究者は、宇宙線が恒星間の原子とぶつかったとき、宇宙線がもとで起きる反応のしるしを追っていました。2013年に、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡がこれを観測したのです。

「新参者が太陽光競争をもりあげる」。ペロブスカイト型という新しい太陽光発電の方式が進歩しました。変換効率は実験室内では15%まで高まっています。

「睡眠は掃除のもと」。マウスを使った実験で、睡眠が脳を修復しうるという証拠がえられました。マウスが眠っているとき、神経細胞どうしの経路が広がり、これによって脳脊髄液が不要な“かす”を流しだすといいます。アルツハイマー病にかかわるようなたんぱく質も流しだすといいます。

「健康は細菌とともに」。ヒトの体にいる無数の細菌が、栄養失調やがんなどに対してどう反応するかを決める重要な役目を果たしていることがわかりました。将来のオーダーメイド医療では、こうした細菌の存在を考える必要がありそうです。

「ワクチン設計も見た目が重要」。構造生物学の手法で、危険性の高い小児病に対するワクチンの主要成分が設計されました。RSウイルス(RSV:Respiratory syncytial Virus)感染症による入院小児患者があとを絶ちませんが、2013年、このウイルスを攻撃する免疫が生成されました。これをもとにワクチンをつくるというもの。エイズ治療薬開発への応用に期待をよせる研究者もいます。

これら“第2位”と、きのう伝えた“第1位”の「がんの免疫療法の進展」といったテーマを見るかぎり、2013年は生命科学での画期的成果が多かったようです。

『サイエンス』の「画期的科学成果2013」のページはこちらです(英語)。
http://news.sciencemag.org/breakthrough-of-the-year-2013
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2013年の画期的科学成果、第1位は「がんの免疫治療の進歩」


ことし2013年、科学の分野ではどのような成果があったでしょうか。米国科学振興協会(AAAS:American Association for the Advancement of Science)が発行する科学誌『サイエンス』が、「2013年の画期的科学成果」(Breakthrough of the Year 2013)を発表しています。

2013年のもっとも画期的な科学成果と『サイエンス』が発表したのは、「がんの免疫療法の進歩」でした。

がんの治療というと、がん化した細胞を切除する外科的治療や、重粒子線などの放射線を患部にあててがん細胞の遺伝子を壊す放射線治療、また、抗がん剤とよばれる薬でがん細胞が増えるのを抑える化学療法などがおこなわれてきました。

いっぽう、免疫療法というのは、これらとは異なり、からだの免疫というしくみを利用したものです。人などの生きもののからだには、異物が入ってきたときにそれをやっつけようとするはたらきがあります。これを免疫作用といいます。この免疫作用は、からだのなかにつくられるがん細胞に対しても起きます。この免疫のしくみを使ってがんを治療しようというのが、がんの免疫療法です。

『サイエンス』が大きくとりあげているのは「CTLA-4抗体薬」という薬が使われだしたことです。CTLA-4という、がんを抑えるうえではよろしからぬ分子があります。この分子は、がん細胞を殺すはたらきのT細胞という細胞に現れて、そのはたらきを抑えつけてしまいます。これに対して、CTLA-4抗体薬は、このCTLA-4のよろしからぬはたらきを抑えつけるわけです。

1987年にはCTLA-4が見つかっていましたが、その後、このはたらきを抑える免疫治療薬が開発されるまでには、時間がかかりました。しかし、研究者や製薬企業による開発成果もあり、ついに2011年、米国食品医薬品局が「イピリムマブ」という名のCTLA-4抗体薬を、悪性黒色腫の治療薬として使ってよいと認めたのです。

この免疫治療薬による治療の結果もでてきています。イェール大学は、腫瘍が半分以下に退縮した治療例が、悪性黒色腫で31%、腎臓がんで29%、肺がんで17%に上ったと報告しています。

また、イピリムマブを販売する企業ブリストル・マイヤーズスクイブは、イピリムマブをあたえられた悪性黒色腫の患者1800人のうち、22%が3年以上にわたり生存しているという報告もしました。

こうしたことを受け、がんの免疫治療が実用化の段階に入ったことを『サイエンス』は評価し、2013年のもっとも画期的な科学成果としたのです。

がんの免疫療法は、まだ万能の治療薬とはいえなさそうです。『サイエンス』自体も、この成果を「もっとも画期的」とすることには議論や不安もあったようです。『サイエンス』は、この画期的成果を解説する記事をつぎのように締めくくっています。

「流動的な状況ではありながらも、腫瘍学はもはや、これだけはたしかだといえることを見つけた。ひとつの本が閉じられ、新しい本が開かれたということだ。それがどのように終わるのかは、だれもわかることではない」

『サイエンス』の「画期的科学成果2013」のページはこちらです(英語)。
http://news.sciencemag.org/breakthrough-of-the-year-2013
「がんの免疫療法の進歩」を解説した記事はこちらです(英語)。
http://www.sciencemag.org/content/342/6165/1432.full

ほかの9つの「今年の画期的科学成果」の内容は、30日(月)付のブログで紹介します。

参考ホームページ
http://kotobank.jp/word/がんの免疫療法
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「103系」走りはじめて半世紀

撮影者 永尾信幸さん

JRがかつて国鉄だった時代、首都圏や京阪神などの大都市を走る電車を人びとは「国電」とよんでいました。東京の山手線や大阪の大阪環状線などです。「国鉄電車」を略したよび名とされています。その後、国鉄が分割民営化されたときは「E電」という新しいよび名が発表されましたが、定着しませんでした。

国電とよばれていた時代、その国電で走っていたのが、「103系」とよばれる型の電車です。

車体は鉄と炭素の合金でできていて、車体全面がそれぞれの線のシンボル色にぬられていました。たとえば、山手線であればうぐいす色、東京発の中央快速線や大阪環状線であれば朱色、総武線各駅停車であれば黄色、といった具合です。

そして、東京首都圏近郊の線は多くすぎて色の種類が足りず、たとえば、横浜線はうぐいす色の103系の車体の先頭と最後尾に、大きく「横浜線」という看板を掲げて走るのでした。



103系が走っていたのですから当然ではありますが、かつてのヨドバシカメラのテレビ広告でも「まぁるいみどりの山手線、まんなか通るは中央線」といった歌に乗せて、103系と思われる電車がなんだかうれしそうな表情で新宿を目指して走るアニメーションが映されていました。

そんな103系の電車が走りはじめたのは、1963年12月28日。2013年のきょうからちょうど50年前のことです。山手線のカラーは、それまでのカナリア色から、いまもつづくうぐいす色に、このときから移りました。

JR東日本では、103系運行開始から50年を記念して、2013年、山手線の1編成を103系に似せたラッピングをして走らせていました。しかし、ラッピングはあくまでラッピングです。その電車は、いまのステンレスでできたE231系という電車の本体のうち、うぐいす色の面積を増やしたぐらいのもので、正面はほとんどE231系の模様のままでした。

首都圏で103系に乗る機会はすっかりなくなりました。しかし、大阪ではいまもなお103系は現役で走っています。これまでに内装を改めるなどして使いつづけてきました。“物もちがいい”といえるのかもしれません。

とはいえ、JR西日本によると、その大阪環状線も2017年度までに新しい型の車両を導入する計画といいます。

むかしから乗りつづけてきた型の電車がなくなることに、さびしさを感じる人も多いことでしょう。しかし、103系と、それ以降の新しい型の両方を乗ってきた人であれば、確実に新しい型のほうが揺れがすくなく、車内放送の音も澄んでいて、乗り心地がよいと感じているはずです。

参考記事
JR東日本 2012年12月19日付「『みどりの山手線ラッピングトレイン』を運行します」
http://www.jreast.co.jp/press/2012/20121214.pdf
産經ニュース 2013年12月24日付「大阪環状線の全19駅、4年間で改良 JR西、新型車両も投入」
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/131224/biz13122421460021-n1.htm
参考ホームページ
ウィキペディア「国鉄103系電車」
http://ja.wikipedia.org/wiki/国鉄103系電車
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「よいお年を」はちょっとむずかしい


ことし2013年の12月27日(金)は、官公庁や多くの企業の仕事おさめ。忘年会も済ませ、同僚や上司たちとふたたび会うのは年明け1月6日(月)という人が多いことでしょう。

街のなかでは、あちらこちらでこんなあいさつのことばが聞こえます。

「どうぞよいお年を」
「よいお年を」

外国から日本に来たある人は、年末はじめてこのあいさつを日本人からされて、「音塩(おとしお)ってなんですか」と聞きかえしたとか聞きかえさなかったとかいいます。

それはともかく、「よいお年を」というあいさつには、コミュニケーションのちょっとしたむずかしさがふくまれているようです。

このあいさつの意味するところは明快です。「よいお年を」には、それにつづく「お迎えください」が省かれています。さいごまできちんと口にすると「よいお年をお迎えください」となります。「あなたにとって新たなつぎの一年がよいものになることを祈っているからね」といった気もちが込められているのでしょう。

このあいさつの“ちょっとしたむずかしさ”は、このあいさつをするタイミングにあります。

多くの人が感じるところでしょうが、「よいお年を」というあいさつには、「あなたとは今年はもう対面したり連絡をとったりしないと思います」という前提が見え隠れしています。“見え隠れ”というよりも“明らか”といったほうがよいかもしれません。

そのため、「よいお年を」というあいさつをしたあと、新年にならないうちになにかの案件をめぐってその人と連絡をとることは、すこしバツの悪いことになります。これは、面会が終わって別れのあいさつをした直後にその相手にトイレでたまたま会うときのバツの悪さとにたものあります。

しかもやっかいなのは、相手に対してまだ年末に伝えたい大切な案件を心にもっている人が、相手から「どうぞよいお年を」と言われたときです。生真面目な人はこう思うでしょう。

「相手が『よいお年を』とあいさつしてきたということは、相手は自分との今年一杯のコミュニケーションは終了させたと思っているのだろう。それにもかかわらず、私から相手にこの案件を年末のいま切りだすのは、ちょっとはばかられる……」

こうした「よいお年を」の言外の意味が極端に強調されたのが、あまりにも早いタイミングでの「よいお年を」でしょう。たとえば、まだ10月なのに「よいお年を」というあいさつをすれば、明らかに相手としばらくはコミュニケーションをとりたくないというメッセージになります。

年末のあいさつとして「よいお年を」は本来はふさわしいものといえます。しかし、このあいさつが言外で意味していることを考えると、だれかれと闇雲に口にはできないあいさつといえましょう。

2013年はあと4日もあります。
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断熱と吸着熱でからだ暖か


羊の毛でつくられた織物を「ウール」といいます。真冬の時期、ウールのセーターを着ている人が多くいます。そして、みな暖かそうです。そもそも、なぜウールの服を着ると暖かく感じるのでしょうか。

ウールを着ることでからだが暖かく感じるしくみには、おもにふたつありそうです。

ひとつは、ウールにからだの熱を貯めこむはたらきがあるから。冬、からだのまわりの気温は5度や氷点下5度といった温度になります。いっぽう、人の体温は36度台。このふたつの温度からすると、からだから熱が外へと放たれます。それにより寒さを感じるはずです。しかし、ウールにはからだの熱が外へ出ていくのを遮るはたらきがあります。ウールが熱を貯めこむため、ウールを着ていないときよりも暖かく感じるわけです。

しかし、冷たい北風が吹いているような日だと、ウールのすきまから寒風がからだに入ってくるため、これでからだから熱が逃げやすくなります。寒い風が吹く日は、むしろ革ジャンなどを着るほうが暖かそうです。

もうひとつのしくみは、ウールに水蒸気を貯めこむはたらきがあるかといいます。

人は汗をかくほかにも、からだから水蒸気を発しています。その水蒸気をウールの毛の内側の凝るテックスという層がとらえます。ウールのような織物の毛が水蒸気をとらえると、そこで吸着熱という熱が生まれます。吸着熱とは、固体の表面に気体が吸着されるとき発生する熱のこと。

この吸着熱により、ウールの毛そのものがすこし熱をもつわけです。

しかも、寒がりにとって都合よいことに、ウールの毛の外側の層は水をはじく性質をもっています。毛の外側が水分をふくみやすいと、水分が冷気に触れることで温度が下がり、寒さを感じる原因となるでしょう。しかし、ウールの毛については、外側は水をはじき、内側は水による吸着熱が生じるため、暖かさが保たれると考えられます。

ウールを身につければ、からだは暖か。人は羊に感謝しなければなりますまい。

参考文献
秦千里「ウールはどうして暖かいの?」
http://sciencewindow.jp/issue/pdf/SW2014_1-3_2P.pdf
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福島沖の浮体式洋上風車に「ダウンウィンド型」
丸紅など10社の企業と東京大学などからなる連合は(2013年)11月、福島県沖の太平洋上に建設した浮体式洋上風力発電設備の運転をはじめました。海の上にいかだを浮かべて、そのうえに風車を乗せるのが浮体式洋上風力発電です。

この風力発電施設は、経済産業省が「浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」として委託したもの。丸紅が統括役、東京大学が技術助言役。ほかに、三菱商事、三菱重工業、ジャパンマリンユナイテッド、三井造船、新日鐵住金、日立製作所、古河電気工業、清水建設、みずほ情報総研が連合をつくっています。運転している風車は2メガワットほど発電ができます。

いま運転している浮体式風車には「ダウンウィンド型」という型が採りいれられています。ダウンウィンド型とはどのような風車の型なのでしょうか。

風車では、ブレードとよばれる羽が風を受けるとまわります。このとき、3枚ほどあるブレードの要となるロータの位置が、風上側になるものと風下側になるものがあります。

ロータの位置が風下側になる風車の方式をダウンウィンド型とよびます。これは、多くの人が考えている「かざぐるま」のようなイメージとは向きが逆になるもの。イメージとしてはかざぐるまの背中側から風を受けて羽がまわるといったことになります。

風車のブレードを真横から見ると、ブレードが垂直に立っているのでなく、すこしだけ斜めになっています。そして、ダウンウィンド型の風車では、吹いてくる風に対して天側がより近く、地側がより遠いつくりになります。すると、地面や海面から空のほうへと吹きあがってくるような風を、ブレードは正面から受けることができます。

ダウンウィンド型とは逆に、吹いてくる風に対してロータが前に置かれ、ブレードの地側が風に近く天側が風に遠いかたちの方式をアップウィンド型といいます。アップウィンド型が、吹きあがってくる風を受けると、風に対してのけぞるようなかたちになってしまいます。

つまり、吹きあがってくる風に対しては、アップウィンド型よりダウンウィンド型のほうが、風のエネルギーを効率的に受けとめることができるわけです。



ダウンウィンド型は、陸上の山のうえなどの、風が下から上へと吹いてきやすいところで効果的といわれます。いっぽう、浮体式洋上風力発電設備では、海の上にいかだを浮かべて、そのうえに風車を立てています。すこし不安定な揺れに対して、ダウンウィンド型のほうが動きが安定するといった利点も聞かれます。

福島沖に建設された風車の写真を見ると、ローターが手前側にあるものがよく見られます。その場合、風は写真の奥から手前に向けて吹いていることになります。

なお、この事業では2014年度に、さらに大きな7メガワットの発電規模の風車2基をさらに追加して設置する計画になっています。

参考ホームページ
日立製作所「ダウンウィンドロータ」
http://www.hitachi.co.jp/products/power/wind-turbine/feature/rotor/index.html
参考記事
福島洋上風力コンソーシアム 2013年11月11日付「福島復興・浮体式ウィンドファーム実証研究事業 2MWダウンウィンド型浮体式洋上風力発電設備 および浮体式洋上サブステーションの設置完了・運転開始について」
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2013/11/1111c.html
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火星の大地で実験を着々とこなす
人は、自分たちではやるのがむずかしいことを、自分たちがつくった機械にやらせることがあります。人はその機械を、自分たちのできなことをやらせる目的でつくるのですから、機械がそれをやらせられるのは当然のこととなります。

人の行けないような遠く離れたところで実験をさせて、その結果を人に報告させるという試みも行われています。

1975年8月に米国航空宇宙局は火星探査機「バイキング1号」を宇宙に向かって打ちあげました。火星に生命はいるかどうかを調べるため、実験をさせるというのがおもな目的でした。翌1976年7月20日に、着陸船が火星に着陸しました。航空宇宙局は7月4日の米国独立記念日に着陸させたかったのですが、着陸予定候補地の地形が思ったより険しく、日数をとってより安全な着陸を選びました。

バイキング1号が火星の大地でまかされた実験は、人間が行うのがふさわしいと思えるような、手の込んだものでした。まず、火星の土をサンプリングします。そして、つぎの三つの実験をします。

「有機物を検出するための実験」。火星の土を加熱します。そして、気体となって出てきた物質を分析します。有機物とは炭素をおもな成分とする物質です。人や植物などの生命体をなりたたせているのが有機物ですから、この実験で有機物が見つかれば、火星に生命体がいる可能性が高くなるというものです。

「代謝活性を調べる実験」。火星の土に栄養液を垂らします。そして、発生した気体を分析します。これは、火星の地表に生物がいそうかどうかを間接的に調べるためのもの。地球の生物には、栄養を外から取りこんで育つ「従属栄養生物」という種類の生物がいます。もっとも身近な例は、食べもので栄養を摂って暮らすヒトです。ヒトほど大きくはないにしても、火星の大地に従属栄養生物がいれば、バイキング1号によって垂らされた栄養液に対してその生命体が代謝を行い、その結果として二酸化炭素やメタンガスを出すはずです。

「光合成の有無を調べる実験」。火星の土に二酸化炭素と一酸化炭素を混ぜた光を照らします。もし光合成をする生物がいれば、これに反応して酸素を出すはずです。

バイキング1号の着陸船は、人間によってプログラムされたこれらの実験を火星で行いました。その結果、「有機物を検出するための実験」では、驚くべきことに生命体がいることをうかがわせるような実験結果となりました。実験を見まもっていた研究者たちは歓喜したといいます。

しかし、ほかの「代謝活性を調べる実験」と「光合成の有無を調べる実験」では、生命体の超硬を示すような結果を得ることはできませんでした。

これらの結果を航空宇宙局は総合的に判断して、「火星に生命がいる可能性は確認できない」という結論を出したのでした。

バイキング1号には、スタンフォード大学で開発されていた、質量分析データを解析するための「DENDRAL」というコンピュータプログラムなども積みこまれていました。ある程度の自律的な行動をさせていたのです。

実験の結果は、火星に生命体がいると期待していた研究者たちを残念がらせるものでした。しかし、遠くの地球にいる人間たちに判断材料となる実験結果をきちんと報告できたことは、“実験遂行者”としては有能といえそうです。

その後もバイキング1号は着々と仕事をこなしていきました。しかし、1982年11月、地球にいる人間との通信が突然に途だえてしまいます。これは、地球から命令を出した人間の命令ミスによるもの。

結局のところ、バイキング1号の開発も実験遂行も通信途絶も、すべて人間がやったことではあります。


バイキング1号が撮影した火星の大地

参考文献
宇宙教育センター「火星の生命探査」
http://edu.jaxa.jp/materialDB/downloadfile/78764.pdf
M. V. Ivanov「火星生命探査の課題と戦略」
http://kumano.u-aizu.ac.jp/PlaGeoNews/Site01/PDFs/PlaGeoNews15_4.pdf
「自律思考するロボット」『ロビ』第21号
参考ホームページ
月探査情報ステーション「過去の火星探査」
http://moonstation.jp/ja/mars/exploration/past.html
ウィキペディア「バイキング1号」
http://ja.wikipedia.org/wiki/バイキング1号
参考記事
ナショナルジオグラフィックニュース 2012年4月16日付「火星の生命、30年前に発見?」
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120416003
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「マクスウェルの公式」に「テンセグリティ」の例外
このブログの(2013年)10月26日付の記事に「『x×3−6』で構造は安定する――法則古今東西(21)」というものがありました。科学者のジェームズ・マクスウェル(1831-1879)が、唱えた「マクスウェルの公式」を紹介したものです。

マクスウェルは「構造を安定させるために必要な部材の数は、接点の数×3−6である」ということをこの公式で唱えました。

たとえば、画像のような四角形には、接点はそれぞれの角であり、計4つあります。この四角形を安定させるには、「(接点の数)4×3−6」で、6つの部材があればよいということになります。実際、この四角形を安定させるための部材の数を数えると6になります。

しかし、マクスウェルはこの公式を唱えつつも、この公式を適用できない特殊なかたちがありうるということを自分自身で認めていました。つまり、マクスウェルの公式に当てはまらない部材数と接点数のくみあわせで、構造物を安定させる方法がありうるというのです。

その“例外の実例”となったのが、「テンセグリティ」という構造体です。米国の現代彫刻家ケネス・スネルソン(1927-)がつくりだした作品に、米国の建築家バックミンスター・フラー(1895-1983)が触発され、フラーがこのよびかたを考えました。「張力」を意味する「テンション」(Tension)と、「統合」を意味する「インテグリティ」(Integrity)というふたつのことばを合わせたものです。

テンセグリティの定義にはいろいろありますが、「連続した圧縮材と、不連続した張力材からなる構造物」という定義があります。圧縮材はその線の両端をなるべく縮めようとはたらく材料であり、ぎ張力材はそうはさせまいとはたらく材料のことをいいます。



たとえば、図のような構造物はテンセグリティの一種です。細線は輪ゴムなどでつくる圧縮材、太線は鉄棒などでつくる張力材を意味します。圧縮材どうしは接点で接しているので連続的ですが、張力材どうしはおたがい接していないため不連続的です。

この構造物の接点の数は、上側に4つ、下側に4つで、あわせて8つ。ここでマクスウェルの公式をあてはめると、必要な部材の数は「(接点の数)8×3−6」なので18個となるはずです。

ところが、この構造物の部材の数を指で数えていくとどうでしょう。細線の圧縮材は12個、そして太線の張力材は4個あります。これを足すと16個。マクスウェルの方程式よりも2個すくない部材の数で、安定した構造物をつくることができています。



いかにすくない材料で安定した構造物をつくるか。この課題は、むだな材料を用いないという、合理性をつきつめた建築物を目指すうえで重視されています。たとえば将来、月や火星などに建てものをつくろうとするとき、最小の材料と労力でつくることが目指されるでしょうから、テンセグリティのような構造物は研究の対象となります。

参考文献
川口健一「テンセグリティ 細胞と建築を結ぶ骨組み」
http://todai.tv/contents-list/lp1hp1/et2th3/02dddt/lecture.pdf
青山光貴「テンセグリティ構造の構造特性に関する研究」
http://www.yonago-k.ac.jp/Archi/grad/2012/10.pdf
参考ホームページ
ウィキペディア「Tensegrity」
http://en.wikipedia.org/wiki/Tensegrity
ウィキペディア「テンセグリティ」
http://ja.wikipedia.org/wiki/テンセグリティ
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魚からすれば人の泳ぎは珍妙


人も生きものですので、ほかの生きものがするのとおなじような動作をします。しかし、おなじ動詞で表現されているとしても、その中身はほかの生きものがするのとまったく異なることが多くあります。

「泳ぐ」という動作はその典型的なものでしょう。

生きもののなかで「泳ぐ」ものといえば、魚。海水や淡水のなかを、人から見ればごく自然体で泳いでいます。泳がないと死んでしまう魚もいますから、魚にとっては「泳ぐ」とは「いる」と近いのかもしれませんが。

魚は泳ぐとき、ひれをおおいに使います。「尻尾」や「尾っぽ」などともよばれる尾びれのあたりを左右にくねらせると前に進む力が生まれます。そして、体の底のほうについた胸びれや、体のうえのほうについた背びれで体の均衡を保っているといいます。

これにくらべると、人が泳ぐときのしくみはなんとちがうものでしょう。

たとえば、海のなか人がクロールで泳いでいるのを魚が見たとします。その魚は、自分以外の魚がたくさん泳いでいるなかで、「なんか、おかしな動きをする、けっこうでかいやつがいるな」と思うかもしれません。

「なんだ、あいつは。体の前のほうからなんか出ていて、ぐるぐるとまわしているぞ。おれたちにはそんなものはない」

「尾っぽもなんだか大きくちがっているな。いびつなおっぽいみたいのが2本もあるではないか」

「それに、あいつはこっちまで潜ってこないで、いつも水の上のほうばかりいる。それに大量の泡ぶくをくちから出しやがって」

こうしてこの魚は、両手で水をかく、両足で水をける、口で呼吸をする、といったまわりの魚たちには決してない姿に違和感を覚えるかもしれません。

ほかの動物の動作を基準にして考えると、人の動作の特徴が際だって見えてきます。

参考文献
ポプラ社『ポプラディア大図鑑 ワンダ 魚』
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“宇宙でロボットと対話”の意味は小さそうで大きい

NASA

国際宇宙ステーションに滞在している宇宙飛行士の若田光一さんが、おなじくステーションに滞在中の小型ロボット「キロボ」との会話に成功しました。日本がつくった実験棟「きぼう」のなかで、「キロボくん、元気だった」という若田さんの問いに「うん、元気だったよ」と返事するなどして、会話が成立しました。

キロボは、人間型ロボットとして世界で初めて宇宙に行ったロボット。日本の企業や研究機関が協力して開発しました。若田さんがソユーズ宇宙船で国際宇宙ステーションに行くよりもいちはやく、2013年8月に日本のステーション補給機「こうのとり」に乗って種子島宇宙センターからステーションに届けられました。

「キロボくん、元気だった」「うん、元気だったよ」といった程度の人とロボットの対話は、地上ではできるのがあたりまえの時代。そうすると、今回の宇宙での対話は、場所を地球から上空300キロのところに移しただけという見かたもできなくもありません。そう思う人にとっては「これのどこがすごいのか」となるでしょう。どこがすごいのでしょう。

キロボのプロジェクトを進めている「きぼうロボットプロジェクト」のホームページには「開発ストーリー」の記事があります。ここには、出発前に地球でキロボに対して研究者がおこなったさまざまな14試験の内容が簡潔に記されています。

たとえば、「騒音試験」「EMC試験」「オフガス試験」などの試験名が並んでいます。

EMCとは、Electro-Magnetic Compatibilityの頭文字をとったもので、日本語では「電磁適合性」となります。ある機器の出す電磁波がほかの機器に影響をあたえないかどうかという意味です。

また、オフガスとは「排出される気体」のことを意味します。

騒音試験、EMC試験、オフガス試験。これらに共通するのは「キロボが国際宇宙ステーションに行ったとしても、国際宇宙ステーションの機器や宇宙飛行士などに迷惑がかからないかどうか」という観点からおこなわれているというものです。

騒音試験は、キロボが出すモーター音などが、宇宙飛行士たちに耳障りでないかどうかを地上で確認するというもの。また、EMC試験は、キロボが出す電磁波がステーション内の機器に影響を及ぼさないかを調べるもの(キロボが影響を受けないかも調べます)。そして、オフガス試験は、キロボから有害なガスが出ないかを調べるもの。

こうした、ロボットがまわりに迷惑をかけないことを確かめる実験があるいっぽうで、キロボが宇宙に行ったときにちゃんとはたらくかという“ロボット本位”の実験もあります。

たとえば、「無重力試験」は、無重力状態でもキロボがちゃんと安定して手足を動かせるかを確かめるもの。無重力の空間では、ただたんに体を動かすとその反動でくるくるくるとからだが回転してしまいます。回転しないためには、動作から生まれるであろう反動を計算に入れておかなければなりません。

そこで、上昇と下降をくりかえして無重力状態をつくるジェット飛行機にキロボを乗せて、そこでのふるまいを見るなどしました。結果は、想定どおりうまくいったようです。

また、「振動実験」は、「こうのとり」打ちあげのときの衝撃にロボットが耐えられるかを試験するもの。この試験もうまくいったようです。

ロボット1台を宇宙空間に連れていくのにも、迷惑をかけないか、ロボット自体は問題なく動くか、といったさまざまな観点から試験を重ねる必要があったわけです。人とロボットがともに宇宙のなかで滞在する状況を考えると、ロボットを宇宙に向かわせるのがそうかんたんではないということがキロボプロジェクトからうかがえます。若田さんとキロボが宇宙で対話したことの意味を、このあたりから見いだすことができそうです。

「きぼうロボットプロジェクト」のホームページはこちら。
http://kibo-robo.jp/home
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「低炭水化物ダイエットはリバウンドしやすい」


日本ビジネスプレスのウェブニュース「JBpress」で、きょう(2013年)12月20日(金)「低炭水化物ダイエットはリバウンドしやすい 年末年始、食と運動で減量にチャレンジ(前篇)」という記事が配信されました。この記事の取材と執筆をしました。

世の中、ダイエット、ダイエット、ダイエットです。人びとは太ることを気にかけて、痩せることに大きな関心を抱いています。そこまで気にかけるなら食べすぎなければいいのに、ということになりますが、それがむずかしいのが飽食の時代ということなのでしょう。

ダイエットということばもまた、幅が広がっていきました。もともと“diet”は、栄養面から見た「食事」のことを意味することばでした。そこに、「減量のための食事制限」という意味が加えられていき、さらに「減量すること」や「やせること」という意味にまで発展しました。いまでは食事制限することによる減量だけでなく、運動による減量もダイエットとよばれているくらいです。

記事では、ダイエット指南をする医師の内山明好さんが、ダイエットについて解説しています。今回の前篇は、食事制限によるダイエットに焦点を当てています。

ひとくちに食事制限といっても、そのダイエット法にはさまざまあります。そのなかで、炭水化物を摂るのを抑える「低糖質ダイエット」は、かなりの人びとのあいだで実践されている方法といえます。同様のダイエット法として「低炭水化物ダイエット」や「アトキンス・ダイエット」などともいわれます。

しかし、内山さんはこの低糖質ダイエットに対して冷静です。

たしかに、糖質を摂ることを抑えた食事をつづけると、脂肪を抑えた食事をつづけるよりもはじめのうちの体重減少は大きいといいます。「しかし、ダイエット開始から半年以降の体重変化を見てみると、炭水化物の摂取量を減らすダイエットではリバウンドをしやすいことも分かっています」。

記事にはありませんが、「糖質ゼロ」をうたった食品についても、内山さんは糖質がゼロだからといっても、太ることに対しては注意が必要と警鐘を鳴らします。糖質を使わないで甘みを出す人工甘味料に対して、体のなかにある腸は糖質を代謝するのとおなじはたらきをするという見方があります。結果、糖質を代謝するのとおなじようなはたらきが体で起き、これが脂肪の蓄積につながるという話です。

それでも、低糖質ダイエットに人が走るのは、実践すれば短いうちに体重が減るという短期的な期待もあるのかもしれません。また、糖質ゼロ食品に人が走るのは、ダイエットを自分はつづけているという確認作業や気休めなのかもしれません。

後篇では、食事制限と対をなす減量法である運動の効果についてを内山さんに語ってもらう予定です。後篇は12月27日(金)の掲載予定。

「低炭水化物ダイエットはリバウンドしやすい 年末年始、食と運動で減量にチャレンジ(前篇)」はこちらです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39474
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「ざっくりといえば、ホルモンみたいなもの」


ある言葉や概念については知っている。でも、おなじ分野の、べつのある言葉や概念については、その言葉を聞いたことがあるくらいで詳しくは知らない。けれども、そのふたつのちょっとした関係性を示されれば、言葉や概念を明確に理解することができる。このようなことがあります。

たとえば、「ホルモン」ということばがあります。ある人は、このことばの意味するところについてはそれなりに知っていました。

「からだのどこか特定の場所で分泌される」「ごくごく微量でもからだに作用する」。こうしたホルモンの特徴をこの人は把握していました。

いっぽうで、この人には、おなじように生命科学の分野の話のなかでよく聞くのだけれど、いまひとつ実態をつかめないでいる言葉がありました。それは「サイトカイン」という言葉です。

この人は、サイトカインについて、「なにかしら、からだのなかで作用している物質の総称だ」といった認識をもってはいました。しかし、どのようにこのサイトカインという物質がからだのなかで作用するのかのイメージをつかめぬままにいました。

そうしたなかで、この人はある日、生体についてくわしい専門家の話を聞く機会があり、こんな説明を耳にしました。「サイトカインという物質がからだのなかで現れます。ま、サイトカインというのはホルモンが局所的にはたらくようなものですけれど、……」。

サイトカインもからだのなかで分泌されます。しかし、ホルモンとはちがって、からだのどの部分で分泌されるかは明確でありません。また、どちらかというと専門家の言うように局所的つまりピンポイント的に作用する物質のことを指す向きはあります。

しかし、分泌されたサイトカインは、ごくごく微妙な量でからだに対してなんらかの作用をおよぼします。このあたりはホルモンの特徴とよくにています。

実際、サイトカインとホルモンの定義を明確に区別することはむずかしいとされています。はっきりとした定義の境界線がない以上、「サイトカインはホルモンみたいなもの」といえるし、「ホルモンはサイトカインのようなもの」ともいえるわけです。

専門家が専門家に対して「ホルモン」や「サイトカイン」という言葉を使うときには、専門家のレベルとしての区別はあってしかるべきでしょう。

いっぽう、この人は専門家というわけではありません。「サイトカインということばがでてきたら、それはざっくりといえば、ホルモンみたいなものなの」と合点できたことは、この人にとってはサイトカインを理解する上での大きな第一歩となったのでした。

参考ホームページ
リウマチe-ネット「サイトカイン学こと始め」
http://www.riumachi.jp/patient/patient02/immunology/html/cytokine01.html
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気体への状態変化の先に“プラズマ”
理科の授業では、物質の状態を「三態変化」という話のなかで習います。

三態とは、「固体」「液体」「気体」のみっつの状態のこと。化学変化では物質の基本的なつくりが変わってしまうのに対して、固体が液体になったり、液体が気体になったりしても、物質の基本的なつくりは変わりません。そのため「化学変化」に対して「状態変化」というときもあります。

たとえば、氷つまり固体の状態の水を温めると、水つまり液体の状態に変わります。固体でいるときは水の分子と分子は結びつきの強い状態にありました。手をがっちりと握っているようなものです。しかし、固体を温かくしてやると、手と手の握りかたがゆるやかになりました。そして、がちがちのかたまりでなく、ゆるやかに流れるような状態になりました。

さらに、水がさらに温まって水蒸気になるときは、分子どうしの手が離れてそれぞれの分子が自由に動きまわることになります。

小学校で習うのは、この“三態”変化までです。しかし、物質は固体、液体、気体とはまたべつの状態になることがあります。

それは「プラズマ」とよばれる状態のこと。気体になった分子をさらに高温で温めていきます。分子はいくつかの原子でできていますが、とても高い温度になるとその原子の要素がばらばらになってしまいます。

原子は、中心にある原子核のまわりを電子が飛びまわっているようなかたちをしています。とても高い温度のなかでは、この原子核と電子がひきはなされ、ばらばらに飛びまわるようになるのです。空間のなかでは、プラスのイオンとマイナスの電子とがごちゃごちゃにまざって、全体としてはプラスでもマイナスでもない中性な世界になっています。

3000度よりも高くなると、水素などの原子は気体からプラズマになります。そのむかし、宇宙はとても高温でした。3000度よりも高温だった宇宙最初の38万年のあいだは、宇宙空間は“プラズマのスープ”で満たされていたと考えられています。

プラズマを説明するときは、原子核や分子といったものの存在を説明する必要がでてきそうです。プラズマについては高校の授業で習います。世の中でけっこう耳にしながらも、実態がいまひとつ知られていないようです。

参考ホームページ
科学技術振興機構「学習支援コンテンツ『プラズマの不思議なちから』」
http://rikanet2.jst.go.jp/contents/cp0180/jugyou_shta/itiran.html
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太陽の最期は白くて小さい星に
太陽のような星の寿命はおよそ100億年といわれています。太陽ができて48億年ほどがたったとされています。そろそろ“一生の折りかえし地点”にさしかかろうとしていることになります。

では、太陽は最期をどのようなかたちでむかえるのでしょうか。“お迎え”の来ているほかの星の姿のどれに近いのでしょうか。


NASA

この写真は、「SN1006」という名のついている天体です。天体といっても、太陽のように核があったり、水素やヘリウムが核融合を起こしたりしているわけではありません。そうした営みを終えた星が、最期に大爆発して輝いている状態です。

この「SN1006」は、1006年の4月30日にとつぜん夜空に現れました。日本でも、陰陽師の安倍吉昌(955-1019)が観測していたり、およそ200年後に藤原定家(1162-1241)が『明月記』のなかで触れたりしています。

ただし、太陽の最後の姿の見本となりうるかというと、筋ちがいのようです。このSN1006は「超新星」という状態にあります。たしかに太陽とおなじ恒星の最後の姿ではあります。しかし、すくなくとも太陽の8倍の質量をもつ星でなければ、このような大爆発おきません。

超新星爆発が起きる前の星では、核融合に使う元素を使い果たすことで、中心に向かって星そのものの重みがかかってきます。そして、縮んでいきます。これにより星の内部は高い温度になると同時に、鉄の原子核がこわれます。こうした営みをつづけているうちに、最期に中心部の鉄の原子がこわれ、一気に縮んでから、一気に爆発します。

この爆発の反応より、鉄より重い元素が生まれます。


NASA

いっぽう、この写真は「M57」という名のついた天体です。見た目のとおり「環状星雲」ともよばれています。

よく見ると、環のようになっている内側の中心に星が輝いています。これこそが、太陽の最期の姿としてはより近い見本といえそうです。

太陽の中心では水素の核融合が起きてヘリウムがつくられています。しかし、中心の水素がなくなると、外側で核融合が起きるようになります。すると、太陽は膨張をしていき、100倍ほどまでふくれあがると考えられています。この段階までくると、太陽は「赤色巨星」とよばれる状態になります。

その後、この星からガスがつぎつぎと出ていき、まわりを環状にとりまくようになります。いっぽうで、残っていた星の中心は、どんどん小さく縮こまっていき、高温・高密度になります。そして、ガスを出しきって星の中心がむきだし状態になります。この段階までくると、この星は「白色矮星」とよばれるようになります。知的生命体が生きていればですが。

いまの太陽からするとにてもにつかないような最期の姿が50億年後にはやってきます。

参考映像
NHK高校講座 地学基礎「恒星の誕生と一生」
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/chigakukiso/archive/chapter002.html
参考ホームページ
ウィキペディア「SN 1006」
http://ja.wikipedia.org/wiki/SN_1006
| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)
光も“相乗り”で情報通信量を増やす
べつべつに乗るべき人が、ひとつの乗りものにいっしょに乗ることを、「相乗り」といいます。乗りものを使うにも費用はかかります。ひとつの乗りものを使うので済ませられるならば、それに超したことはないというのが、相乗りの基本的な考えかたとなります。

この“相乗り”は、人の乗りものだけでなく、光通信の分野でもおこなわれています。「光波長多重通信」とよばれる技術で“光の相乗り”が実現しています。

光は電磁波の一部、つまり波の性質をもっています。そしてどの波にも、そのかたちの山から山までの長さである波長があります。光はさまざまな波長をもつことができるわけです。

そして、情報通信にとって都合のよいことに、ことなる波長どうしの光は、おたがいにじゃまをしあわないという特性があります。

そのため、一本の光ファイバのなかに、いろいろな波長の光を同時に入れて、送ることができるのです。これが光波長多重通信の本質です。

さまざまな光の波長をつくることができるため、いま一本の光ファイバでひとつの波長の光を送るときよりも、数倍から数千倍の情報量をやりとりすることができるようになっているといいます。

もちろん、さまざまな波長の光を“相乗り”させるには、通信の入口や出口で波長ごとの光のふりわけをしなければなりません。そこで、光波長多重通信では、「波長選択スイッチ」とよばれる装置も合わせて使われています。光ファイバに入ってきた複数の波長の信号を波長ごとにわけて出力したり、ぎゃくに、光ファイバ内を通る波長ごとの信号をひとつの波長多重信号にすることができます。

参考ホームページ
ウィキペディア「光波長多重通信」
http://ja.wikipedia.org/wiki/光波長多重通信
参考記事
NTTエレクトロニクス 2013年3月18日付「NTTエレクトロニクス、フジクラ、米国Nistica社は小型波長選択スイッチ(WSS)の開発に向け共同開発パートナーシップを締結」
http://www.ntt-electronics.com/new/information/wss.html
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ファミコンのリセットボタンが大きすぎる


ことし2013年は、任天堂のゲーム機「ファミリーコンピュータ」が発売されてから30年です。2003年にはすでに販売終了となっていますが、日本でおよそ2000万台、世界で6000万台以上、売られたとされ、家庭用ゲーム機の“革命”をもたらしたと評価されています。

このファミコンについて、あまり評価や議論の対象になることはありませんが、ほかのコンピュータや電子機器にくらべて「リセットボタン」の存在度はとても高いものがありました。

ファミコンの本体の手前に、ふたつのえんじ色の正方形をしたスイッチがあります。左側のスイッチは、ファミコンのカセットをさしてから電源を入れるためのものでした。いっぽう、右側のスイッチがリセットボタンです。

正式には「リセットスイッチ」とよばれます。このボタンのすぐちかくに、透明のシールに印刷された説明書きがあります。「リセットスイッチを押すと、それまで記録されていた得点が消されます」。

つまり、ゲームをしている最中に、だれかがリセットボタンを押すと、それまでしてきたゲームが“なかったこと”になり、テレビの画面は問答無用でゲーム開始時のものになります。

ゲームには、敵の大ボスを倒すとか、これまでにない最高得点をあげるとか、さまざまな目的があります。目的達成直前であっても、だれかがリセットボタンを押せば、非情にも“ご破算”になります。

そのような重大な役割をもつリセットボタンが、ファミコン本体の手前側、手のすぐ届くような位置に、しかも指ですぐ押しやすい大きさにあったわけです。

ほかのコンピュータや電子機器にもリセットボタンはあります。しかし、コンピュータの筐体を開けた奥まったところに、シャープペンなどで押すくらいの小ささにある場合も多くあります。それからすると、ファミコンの製品設計では、リセットボタンはあまりに使われやすい位置づけとなっています。

実際、ファミコンのリセットボタンが使われる機会は、ほかの電子機器にくらべてもはるかに多かったことでしょう。ゲームソフトがバグとよばれる不具合を起こしたためにリセットボタンを押して、はじめからゲームをしなおすということがありました。それでも不具合がつづくときは、カセットを抜いたところの端子にふぅっと息を吹きかけたり、カセットの端子を舐めたりする子どももいました。

しかし、それ以上に、ゲームをしていてストレスを感じた友人、兄弟、自分自身がリセットボタンを押すということがひんぱんにありました。けんかのたねになることもしばしばあったでしょう。

ファミコンを設計する側の任天堂にとっても、当然リセットボタンをこの位置、この大きさにするには、それなりの理由があったはずです。それはファミリーや友だちどうしをけんか状態におとしめるということでなく、不具合があったときに気軽にゲームをやり直せることが重視されてのことでしょう……。

なかには、リセットボタンを気軽に押せることが、すぐにものごとを諦める子どもの風潮に拍車をかけるといった社会論まであったようです。また、人生をもう一度やり直そうとすることを、「人生のリセットボタンを押す」などと言う人も出はじめました。あきらかにファミコンの影響でしょう。

これはそこまでファミコンが子ども社会に浸透していたという証と捉えるべきかもしれません。

その後、メディアの形態がかわっていくなどして、ファミコンほどの大きさのリセット機能を搭載した家庭用ゲーム機はなくなっていきました。
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東京のコウモリ目撃情報を見える化

コウモリ。記事内容とは関係ありません

都会の野生動物などを追っている動物ジャーナリストの宮本拓海さんが、この(2013年)12月、「東京23区アブラコウモリ生息調査報告書(2013)」という発表をインターネット上でしました。

宮本さんはこれまで、タヌキなどの地上にいる野生の哺乳類を東京で見たという目撃情報を集め、その分布を地図に示すなどの活動をしてきました。ことしから、空を飛ぶ都会のコウモリにも目を向けたそうです。

アブラコウモリは、人の住んでいる家やたてものにすみかをもつ、日本人にとって身近なコウモリ。夏の夕ぐれどきなどに、河原を歩いていると、頭のうえを鳥とは異なる不規則な動きかたで舞っている姿も見られます。

宮本さんは、6人の調査協力者とともに観察調査を行い、その結果を東京23区の地図上に示しています。1キロメートル四方ごとに碁盤のようにメッシュつまり網目で仕切り、その領域を「生息あり」「生息なし」「未観察」にわけています。

地図上の大部分の領域は「未確認」となっています。それでも「生息あり」の領域が、杉並、中野、新宿、練馬などの区に広がっています。また、葛飾区の一部の江戸川沿いも「生息あり」となっています。

野生動物がそこにいるのは、その近くに餌があるから。宮本さんの調査では、アブラコウモリを川の近くで目撃した事例が圧倒的に多かったようです。「アブラコウモリが飛ぶ場所は、食べ物になる昆虫がいる場所であろうと推測できる」としています。

アブラコウモリは、家屋などがすみかとされます。むしろ人のいるところのほうが見つけやすい動物といえるかもしれません。また、川の近くは空がひらけてもいます。ふだん河川敷を散歩をしている人のなかには、夕暮れどきなどにコウモリが飛んでいるのをあたりまえのように見ている人もいるでしょう。

宮本さんは「東京コウモリ探検隊!では多数の参加者といっしょに能動的に観察をしなければなりません」と、調査の参加者を募っています。

宮本さんによる「東京都23区アブラコウモリ生息調査報告書(2013年版)」はこちらです。
http://tokyobat.jp/docs/tokyobat2013result.htm
宮本さんが開設しているホームページ「東京コウモリ探検隊!」はこちらです。
http://tokyobat.jp
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「カレーレストランシバ」のムルギランチ――カレーまみれのアネクドート(52)


千葉市のJR稲毛駅の南口から歩いて3分のところに、カレーマニアたちにかなり知られている店があります。「カレーレストラン シバ」です。カレーの本場インドで供されるカレーを中心にしながら、ひじきや牡蠣などの日本の食材を使った料理も出しています。

昼の献立のひとつのあるのが、「ムルギランチ」。

ムルギランチというと、東京・東銀座に店を構える「ナイルレストラン」の「ムルギーランチ」を思いうかべる人もいることでしょう。あるいは、おなじく東京・渋谷にある、その名も「ムルギー」というカレー屋を思いうかべる人もいるかもしれません。

「ムルギ」あるいは「ムルギー」はヒンディ語で「鶏」の意味。そのため、「ムルギランチ」は「鶏の昼定食」ということになります。しかし、シバの「ムルギランチ」は、たんに牛肉や豚肉でなく鶏肉を入れたカレーということではありません。

銀色の楕円のさらに盛られているのは、グリンピースの入ったサフランのフライドライス。これに、よく煮込まれた骨つきの鶏肉が大きく横たわっています。もちろんカレールゥもしっかりとあります。

上述のナイルレストランの「ムルギーランチ」が形式の基本にあることが考えられます。しかし、ナイルレストランの「ムルギーランチ」にはなく、シバの「ムルギランチ」のみにある特徴的な点もあります。

まず、野菜の具がそのまま大きく皿に乗っている点。一口大のトマト、にんじん、ピーマン、なすなどが乗っています。鶏肉とおなじぐらいのインパクトがあります。

また、フライドライスにも、多くのグリンピースのほか、肉や野菜なども具材も入っています。サフランライスとグリンピース1個というナイルレストランの「ムルギーランチ」とは一線を画しています。

出されたままの状態で、ルゥ、鶏肉、野菜、そしてフライドライスそれぞれの個を保ちつつ食べすすめていくもよし。フォークとスプーンで、これらの具をよくかきまぜて、渾然一体と化したカレーを食べるもよし。シバの定番の人気料理のひとつになっているようです。

「カレーレストラン シバ」のホームページはこちら。
http://curry0shiba.wordpress.com
「カレーレストラン シバ」の食べログ情報はこちら。
http://tabelog.com/chiba/A1201/A120104/12000017/
| - | 21:23 | comments(0) | trackbacks(0)
電車のなかをころころ一人旅


走っている電車のなかは、物理の法則をよく感じることのできるところといえます。走っている電車が急に停まると、立っている客ががくっとずっこけることもあります。

空いている電車に乗っているとたまに見られるのが、車内のゆかをあき缶がころころと転がっているところです。

だれかが車内におきっぱなしにしたあき缶が、なにかの拍子に倒れたのでしょう。止まっていた電車が走りはじめると、あき缶は車内の前のほうから後のほうへところころ。しばらくして電車が止まろうとすると、車内の後のほうから前のほうへところころ。

電車の加速に対して、あき缶は静止しつづけようとするため、後のほうへと転がっていきます。また、電車の減速に対して、あき缶は進行方向に進みつづけようとするため、前のほうへと転がっていきます。

これは、「静止しているか、等速直線運動をしている物体は、外力が働かなければいつまでもその状態をつづける」という「慣性の法則」が地球上にあるために起きる現象です。あき缶は、電車の動きという外力が働いたために、その状態をつづけることができなくなったわけです。

善意のある客のなかは、自分が飲んだものでもないのに、転がるあき缶を足で止めるなどして、立てて“ころころ”を止める人もいます。転がりつづけていたあき缶が気になっていたほかの客たちは、これで一安心。

しかし、電車のなかで転がるのはあき缶だけではありません。あき缶とおなじく、ゆかに対して円筒形あるいは球形をしているものは物理の法則を受けてころころと転がりだします。

あき缶よりもやっかいなのは、海外旅行客などが使うキャスターつきのスーツケースです。この手のかばんは、持ちはこぶとき底にころが付いているため楽に動かすことができ便利です。

ところが、電車のなかでは持ちぬしが油断していると、底にころが付いているためかんたんに動いてしまいます。

とくに空港にアクセスするような電車のロングシート席では、もちぬしの客が油断していると、キャスターつきスーツケースがごろごろと車内を転がりだします。スマートホンを操作しているぐらいですぐに気づけば事なきをえますが、旅の疲れで眠ってしまっていると、遠くまでごろごろごろとゆかを滑っていくので、危険でもあり滑稽でもあります。

自分は座席に座っているので、電車の動きに合わせることができる。キャスターつきスーツケースは電車の動きに合わせることができない。このちがいから、スーツケースは居眠りする旅客のもとを離れて、車内で一人旅をはじめるのでした。

参考ホームページ
NHK高校講座物理基礎「力と運動の関係を考える 運動の第1法則」
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/butsurikiso/archive/resume008.html
| - | 23:52 | comments(0) | trackbacks(0)
「Rikejo」のロゴタイプを募集
講談社が「Rikejoロゴ総選挙」という企画を開いています。募集の期間は(2013年)12月20日(金)まで。

「Rikejo(リケジョ)」は、“理系女子”を略したもの。講談社は、これから理系の道に進もうかと興味・関心をもっている女の子たちを、「リケジョプロジェクト」というかたちで応援してきました。リケジョの会員には、無料で会員誌を発送するなどしています。

「Rikejoロゴ総選挙」は、この講談社のリケジョブロジェクトで使われるロゴタイプのデザインを募り、応募作から新しいロゴタイプを採用しようとするものです。


現在の「Rikejo」のロゴタイプ

「リケジョ」ということばは、新語・流行語対象の候補語にはならないものの、ここ3年ほどで世の中にかなり知られるようになってきました。しかし、「リケジョ」や「Rikejo」ということばを生みだしたのが講談社であるということは、あまり世の中には知られていません。

そこで、講談社は、「リケジョ」「Rikejo」の生みの親であるという存在感を知らしめるためにも「Rikejo」のロゴマークを公募することになったのです。また、こうした内向きの目的のほかに、「リケジョが有名になり理系女子人口が増えるために注目されることが目的」とも発表しています。

募集は(2013年)12月20日(金)まで。講談社は「たくさんのデザイナーの皆様からのご提案をお待ちしております」「クライアント企業とのコミュニケーションに慣れていて、細かい修正等に対応していただける方を重要視」としていますが、募集対象をデザイナーには絞りこんでいないようです。

採用されたときの賞金は、9万9991円。これは、100,000にもっとも近い素数99,991にちなんだもの。

応募されたロゴタイプ案は、ホームページ上に掲載されています。これらのロゴタイプを上まわるロゴタイプを目指すことが、採用につながるのかもしれません。

この「Rikejoロゴ総選挙」は、講談社のほかにクラウドワークスが共同で企画をしています。

講談社とクラウドワークスによる「Rikejoロゴ総選挙」の告知のホームページはこちら。
http://crowdworks.jp/lp/rikejo
コンペティションの詳細はこちらにあります。
http://crowdworks.jp/public/jobs/39596
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「属」と「種」の二名法で学名
世界に共通する語というと、いまでは英語が事実上それに当たります。しかし、世界地図がもっとせまかった時代、ラテン語が広い範囲での共通語となっていました。ラテン語は、紀元前8世紀から15世紀まで長らえた古代ローマ帝国での共通語でした。

いまも、このラテン語が世界共通語として使われていることがあります。学術における学名です。

学術の世界にかぎったことではありませんが、研究者たちが生きものを指すとき、国や地域によってよびかたがちがっていると不便です。そのためそれぞれの生きものについて、世界的に統一された名称を使っているわけです。この名称が学名です。

学名の付けかたの基本を、スウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネ(1707-1778)が考えました。その基本とは「二名法」というもの。

それぞれの生きものには、大ざっぱな分類から細かな分類にかけて、「界」「門」「網」「目」「属」「種」といった段階があります。この、それぞれの分類階級に位置づけられる生物の集まりのことを「タクソン」といいます。たとえば、「ヒト」は、動物界の脊椎動物門の哺乳網の霊長目のヒト科のヒト族のヒト(という種)に位置づけられています。

このうち、学名では、2番目に細かいタクソンである「属」と、もっとも細かいタクソンである「種」を、ふたつならべて記します。これが二名法です。

たとえば、ヒトの学名は、Homo sapiensとなります。これは、タクソンのうち2番目に細かい「ヒト属」のラテン語読みが、Homoで、もっとも細かい「ヒト」という種のラテン語の読みが、sapiensだからです。

では、種のところに、Spiensではなく、べつのラテン語が来るものには、どのようなものがあるでしょうか。

Homo habilisは、230万年前から140万年前まで生きていたヒト属のひとつです。「ホモ・ハビリス」とよびます。また、Homo neanderthalensisは、およそ20年前に現れ、2万数千年前まで生きていたとされるヒト属のひとつで「ホモ・ネアンデルターレンシス」とよびます。「ネアンデルタール人」ともよばれています。これらが、Homo sapiensとおなじ並びとなります。

さらに細かく見ると、「種」として分けるまでもないものの、それでも、ある種とのちがいを見逃せないようなタクソンを「亜種」とよんでいます。

亜種までを区別して学名を示すとなると、Homo sapiensどまりでは済みません。そのため、動物の学名を定めた「国際動物名規約」で「亜種名は、3つの学名の結合である」と定義されています。

じつは、Homo sapienceには、われわれ現生人のほか、約16万年前にヘルト人という“似て非なる”ヒトが生きていたことが、日本の研究者たちによりわかりました。

そのため、われわれ現生人の亜種であるヘルト人の学名は、Homo sapiens idaltu(ホモ・サピエンス・イダルトゥ)と付けられています。いっぽう、われわれ現生人の亜種としての学名は、Homo sapiens sapiens(ホモ・サピエンス・サピエンス)となっています。


Homo sapiens sapiensの後ろ姿

参考文献
動物命名法国際審議会「国際動物名規約」
http://www.ujssb.org/iczn/pdf/iczn4_jp_.pdf
参考ホームページ
九州環境管理協会「生物の分類階級と学名」
http://www.keea.or.jp/qkan/bio/bio016.html
ウィキペディア「タクソン」
http://ja.wikipedia.org/wiki/タクソン
ウィキペディア「ホモ・サピエンス・イダルトゥ」
http://ja.wikipedia.org/wiki/ホモ・サピエンス・イダルトゥ
| - | 23:55 | comments(0) | trackbacks(0)
“このあたり”は“銀河銀座”の賑わい

NASA

地球ともっとも近い天体である月との距離は、38万4400キロメートル。国際宇宙ステーションまでの距離のおよそ1000倍あります。

さらに、もっとも近い惑星である火星とは、もっとも近い位置関係にあるときでも5600万キロメートル。これは月との距離の150倍ほどです。

さらに、地球と太陽との距離は、1億4960万キロメートル。ここまで行くと、光の速さで何分かかるかといった表しかたもふさわしくなってきます。太陽から発せられた光は、およそ8分19秒かけて地球に届きます。つまり地球の動物は、8分19秒前に太陽から発せられた光を目にしているわけです。

さらに、天の川銀河系以外で地球ともっとも近い銀河となると一気に遠くなります。それは「おおいぬ座矮小銀河」という銀河で、太陽系から2万5000光年のところにあります。ちなみに銀河のなかで有名な「アンドロメダ銀河」までの距離は太陽系から253万8000光年ですから、おおいぬ座矮小銀河までの10倍の距離があります。

こうして見ていくと、地球のまわりにはなにもない空間が広がっているような感覚におちいりそうです。

しかし、そうとはいえません。

天文学者のエドウィン・ハッブル(1889-1953)は、宇宙に広がる恒星や惑星といった天体のすべての物質を宇宙空間に均一に広げたときの密度がどのくらいになるかを計算してみました。すると、地球1000個の体積のなかに、物質が1グラムしかふくまれていないという結果になりました。この計算結果は、現代の技術を駆使した計算結果と大きなちがいはないといいます。

この“なにもない宇宙”の状況を考えると、地球のまわりに太陽系や天の川銀河があり、さらにそのまわりに銀河が点在しているという状況は、きわめて賑やかな状況であるのです。“銀河銀座”とでもいえそうです。

宇宙の銀河の点在のしかたを巨視的に眺めると、“泡”が重なったようなつくりになっているといいます。これは、「宇宙の泡構造」ともよばれています。そして、地球をふくむ“このあたり”は、その泡の内部にあるなにもない空間ではなく、泡と泡が織りなす密度の濃い部分に位置しているわけです。

サイエンス・フィクション作家で天文学者のカール・セーガン(1934-)は、典型的な宇宙があるとすれば、それは「とりつく島のない荒涼たる世界だ」と表現しています。これにくらべて、惑星や恒星や銀河のあるところは「胸が締めつけられるほど希有で愛すべき存在に思える」と述べています。

参考文献
池内了『泡宇宙論』
サイモン・シン『宇宙創成(上)』
| - | 23:48 | comments(0) | trackbacks(0)
チョコレートとニキビに「因果関係なし」


チョコレートは、とけづらいことから冬に食べるのがふさわしいといわれています。しかし、チョコレートを食べると顔などににきびができてしまうのではと案じて、食べるのを控える人もいそうです。とくに、にきびのでやすい10歳代の人たちなどは、食べたい気持ちと、にきびを避けたい気持ちとで揺れるかもしれません。

しかし、チョコレートを食べるとにきびが出やすくなるという関係を示す科学的な試験結果があるのかというと、そうではありません。科学的に因果関係が証明された試験結果は存在しないといいます。

それどころか、チョコレートを食べてもにきびの症状に影響を及ぼさないという試験結果も出ているといいます。「影響があるとはいえない」というよりも一歩ふみこんで「影響はない」という試験結果が出ているというのです。

チョコレートの成分表示を見てみると、「砂糖、カカオマス、植物油脂、ココアバター、全粉乳、レシチン、香料」などとあります。

いっぽう、にきびができる条件はというと、毛穴の出入口に皮膚の表面の角質が詰まってしまうことのほかに、皮脂の分泌量が多くなるなどして毛穴のなかに皮脂がたまることがあります。

しかし、過去には、米国ペンシルバニア大学の研究で、65人の被験者が、ふつうに売られているチョコレートのカカオマスにくらべて10倍ちかい量のカカオマスの入ったチョコレートを食べたものの、カカオマスの入っていない偽チョコレートを食べた対照群とでは、にきびのできかたなどにちがいが見られなかったといいます。

最近では、オランダの研究者による実験により、チョコレートを食べると「アクネ桿菌」というニキビの原因となる細菌が増えるという結果を示しています。しかし、まだ、この研究結果に対しては、懐疑的あるいは批判的といえる反応もあがっているようです。

これらのことから、いまのところは「チョコレートを食べるとにきびができる」というのは“迷信”ということで済まされています。

参考文献
林伸和監修『ニキビができてしまったら』
参考ホームページ
Amazon ask ville “Does eating chocolate cause acne?”
http://askville.amazon.com/eating-chocolate-acne/AnswerViewer.do?requestId=689680
live science 2013年4月23日付 “Bittersweet News: Chocolate May Trigger Acne”
http://www.livescience.com/28956-chocolate-consumption-acne.html
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
書評『ANAが目指すCS』
「ふつうに快適」と感じさせるサービスの裏側を垣間みることができます。

『ANAが目指すCS お客様と共に最高の歓びを創る 新版』日本生産性本部編 生産性出版 2012年 229ページ


ANAは、全日本空輸のこと。1952年、ヘリコプターなどによる航空輸送を行う企業「日本ヘリコプター輸送」として誕生した。日本航空(JAL)が政府主導による半官半民の企業だったのに対し、ANAは純粋な民間企業としてここまで来た。

本書は、そのANAが目指しているCS、つまり「顧客満足(Customer satisfaction)」の内容を、ANA社員の証言などをもとに紹介していくものだ。ANAでは、2002年に「CS推進室」が立ちあがった。2001年におきた同時多発テロをきっかけとする客の“飛行機ばなれ”などの危機をきっかけにしたものだ。この部署の活動などを紹介している。

航空会社ゆえに、まず安全を経営の基盤にしている。それを前提に、ANAは積極的な顧客満足を推進しているという。その特徴のひとつにあるのが、「お客様と共に最高の歓びを創る」というブランドビジョンだ。

多くの企業は、形式的であれ実質的であれ、自分たちが顧客を満足させるという一方通行的な顧客満足を目指すもの。だが、ANAは、顧客におもてなしをしたときに、かならず顧客から“なにか”が返ってくるということを前提にしている。それは、顧客からの笑顔や感謝のことばといったものだろう。そのため、ANAは「接客」ということばでなく、2文字とも触れあうという意味の込められた「接遇」ということばを使っているという。

社員の間でも、“褒めあう”文化が浸透してきたという。「がんばる→褒める→がんばる」という行為を続けていくということを、顧客満足を目指すプロジェクトチームが決めて、実践したものだ。これはいわば“形から入った”習慣といえそうだが、いまも顧客への優れたサービスを社内表彰する「サービスアワード」や、給与明細書の表紙に客からの“お褒めの言葉”を掲載するとりくみなどをしているという。

近年では、サービスよりも低価格を売りにした格安航空会社が増えてきた。これに対して、ANAはおもてなしなどのサービスで顧客に応えようとしている。この構図は、結果的に製品の安さが売りとなっているアジアなどの海外企業と、結果的に製品の質を売りにしている日本企業とのたたかいと似たものがある。安さ以外の特徴を売りにした場合、どのように企業競争のなかで生き残っていくか。そのヒントとして読むこともできる本だ。

『ANAが目指すCS』はこちらでどうぞ。
http://www.amazon.co.jp/dp/4820119958
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
途中まではともかく実現までは……


「とても」は、会話でよく耳にしたり、手紙などでよく目にしたりする副詞です。しらずしらずのうちに口ぐせで「おお、とても美しい」とか「ああ、とても素敵ですね」と話している人も多いことでしょう。

使われる頻度にくらべると、なぜ「とても」が「とても」なのか、その由来に迫る話はあまり聞かれません。

「とても素敵ですね」というときの副詞の「とても」のほかに、日本語には、助詞としての「とても」もあります。この助詞の「とても」と、問題にしている副詞の「とても」とは由来としての関係があるのでしょうか。

助詞としての「とても」は、たとえば「これが他人の妻であったら彼とても美しいと感ずるであろう」といった使われかたをします。ここでは「あの彼でさえも美しいと感じるだろう」という意味になります。ちなみにここでの助詞の「とても」は、助詞のなかでも「彼が」や「彼に」などとおなじ「格助詞」とされています。

この助詞の「とても」には、「あの彼でも美しい感じるだろう」という意味をもたせるため、つづく「美しい」などのことばを強調させることにもなります。すると、この助詞の「とても」から、副詞の「とても」が生まれたのでしょうか。

どうやらそうではないようです。

副詞の「とても」は「とてもかくても」の略だとされています。では「とてもかくても」はどういう意味かといえば、「どうしてもこうしても」という意味。さらに、漢字をまじえて表現することができ「迚(とて)も斯(か)くても」となります。

「斯くても」の「斯」のほうは、漢文などの教科書にも登場するため、すこしはなじみある字かもしれません。「これ」などを意味します。「斯くして」だと「このようにして」となります。

いっぽう、「迚も」の「迚」のほうは、「途中まではともかく実現まではいきつけない」といった語感をもつ国字、つまり日本で漢字の方法を倣ってつくられた字といいます。

「迚も」と「斯くても」が並んで使われている「迚も斯くても」のうち、「斯くても」のほうには助詞の使われかたがありません。これからすると、おなじ並びの「迚も」のほうも助詞からきたのではないと考えのが妥当となりそうです。

そもそも、「迚も斯くても」は、その後に否定的な意味あいをふくむことばを強調するために使われてきました。「それは迚も斯くても無理だ」つまり「それはどうしたってこうしたって無理だ」ということになります。

その後、否定的な意味あいをふくまない、「美しい」とか「素敵だ」とかのことばにも、「迚も斯くても」や「迚も」が使われるようになっていきました。

参考資料
『スーパー大辞林』
参考ホームページ
OK Wave「迚」
http://okwave.jp/qa/q1445957.html
コトバンク「とても」
http://kotobank.jp/word/とても
BLOGOS「『とても美しい』は『流行語』だった」
http://blogos.com/article/33817/
| - | 21:11 | comments(0) | trackbacks(0)
おなじカロリー制限、「1日6食より1日2食」で減量効果


さまざまな事情で食事制限にとりくんでいる人にとって、「おなじ量の食事を少ない回数でとるか、多い回数でとるか」は関心ごとのひとつでしょう。一日に少量ずつの食べものを何回にもわけて食べるのと、まとまった量を少ない回数で食べるのと、どちらのほうが体重を減らすのに効果的なのでしょうか。

豪州メルボルンで開かれている「世界糖尿病会議」で、1日6回にわけて食事をとるよりも、1日2回で食事をとるほうが、体重を多く減らすことができるという実験の結果が発表されました。「日経メディカルオンライン」が伝えています。

これは、チェコの臨床・実験医学研究所のハナ・カハレオバさんが発表したもの。実験では、2型糖尿病患者を、1日6食をとる群と、1日に朝昼の2食をとる群にわけ、12週間この内容で食事制限にとりくんでもらいました。また、1日6食の群だった人を1日2食に、1日2食の群だった人を1日6食に入れかえて、さらに12週間その内容で食事制限にとりくんでもらいました。

結果、1日6食を12週間つづけた場合、平均2.3キログラムの減量となりました。これに対して、1日に朝昼2食を12週間つづけた場合、平均3.7キログラムの減量となったといいます。

これまでの説では、1日の食事を小分けにしてとるほうが、ダイエット効果は大きいという話もありました。1回のカロリー摂取量が少ない範囲でちびちびと食べていれば、カロリー摂取が体重増加につながる曲線が急上昇するより手前で踏みとどまることになるため、太りにくくなるという説です。

今回の結果は、この“ちび食べ”の理論とは逆行するものとなりました。

とはいえ「食事を1日2回」にするダイエット効果には、“いつ食事をとるか”といったタイミングも重要なのかもしれません。実験結果を発表したカハレオバさんは、「おそらく、朝昼2回食は一度にたくさん食べているが、夜に食事をとらない影響が大きいのではないか」とも述べています。

夜の食事を控えると太りにくくなるという理論があります。今回の「食事を1日2回」は、この理論にものっとったものとなります。

参考記事
日経メディカルオンライン 2013年12月5日付「『1日6食の小分け』より『朝昼2食』の方が減量・血糖管理に効果」
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/wdc2013/201312/533965.html
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
夜、いらっしゃいませ


銀行のたてものの壁には、写真のような金属でできた“窓口”があります。そこには「夜間金庫」という文字が刻まれています。どのような役割なのでしょう。

銀行の説明によると、夜間金庫は銀行を使う客が現金を夜に銀行に預けておくための金庫。

たとえば、銀行を使う客が店の主人だったとします。その店は商売繁盛で、一日の売上がかなりの金額になっています。この店の主人は、できれば夜に店を閉めたあと、売りあげたお金を銀行の口座に預けておきたいところ。店に多額のお金を置いたままだと、泥棒に入られたときに多額のお金を奪われることになりかねません。

しかし、銀行はこの店が夜に店じまいするよりはるか前、日の暮れないうちに閉まってしまいます。

こうした状況のとき、夜間金庫の存在が便利になるといいます。

店の主人は、銀行から専用の「入金袋」をあらかじめ受けとっておき、ここに一日の売りあげのお金を入れます。袋にも鍵がついていて鍵をかけます。そして、銀行のたてものの側面にある夜間金庫に、お金を入れて鍵をした入金袋を投げ入れます。

夜が明けると、銀行は入金袋に入っているお金を、この店の主人の銀行口座に入れます。これで、預金を果たしたことになります。

便利なサービスといえそうですが、各銀行はひと月5000円ぐらいの手数料をとっています。

過去には1973年に、夜間金庫の近くに「鍵の接損事故に困り投入口開閉不能となりましたので、誠に御足労ですが、当銀行専用通用口の仮金庫迄御廻り下さい」という案内を貼り、ニセの“仮設夜間金庫”を置き、そこに夜間金庫利用者の金庫袋を投げ入れさせるという事件がありました。

犯人逮捕に至らぬまま、事件は時効を迎えています。このときのニセの仮設夜間金庫には、偽物であることが発覚するまでに2500万円以上のお金が入っていたといいます。目立たないところにひっそりと置かれていますが、利用金額は大きなものとなります。

参考ホームページ
「ニセ夜間金庫事件」
http://yabusaka.moo.jp/yakan.htm
| - | 22:27 | comments(0) | trackbacks(0)
高度なまでに聞きまちがえる


“聞きまちがい”にはさまざまなものがあります。とりわけ“高度な聞きまちがい”、つまり、多くの人がつい聞きまちがえてしまうような、とても紛らわしいものがあります。

ロボットにそれほど詳しくないもの書きが、産業用ロボットの専門家に取材をしました。工場でものづくりをする産業用ロボットの“腕”のしくみを聞きだそうとしています。

「このロボットは、部品をもってからそれを横に動かすだけでなく、もちあげたり、ひねったりと、さまざまに部品を扱うことができるのですね」

この質問に対して、産業用ロボットの専門家は、「モーターがどうで」とか「アクチュエーターがどうで」とか、専門用語もまじえていろいろと説明してきました。

もの書きは、この専門家がつぎのように言っているのを耳にしました。

「このロボットのアームは、まさに自在に部品をハンドリングすることができるといっていいでしょう。なにせ90度ですからね」

その場ではこのもの書きは、専門家の言う話をふんふんと聞いていました。専門家の言う内容を確認をするほどの専門知識がなかったというのも事実なのでしょう。

取材が終わると、このもの書きは録音しておいた取材時の音声を聞きかえし、文字に起こしていきました。

「このロボットのアームは、自由自在に部品をハンドリングすることができるといっていい。90度ですから」

もの書きは、ふとこの段階で「なんか変じゃないかな」と思うようになりました。「あのロボットは、もちあげたり、ひねったり、いろいろな動きができていたよな。でも、あの専門家は『なにせ90度ですから』と言っているよな」

90度というと、正四角形のひとつの角の角度、つまり直角です。もの書きが取材のときに目にした産業用ロボットのくねくねとした動きからすると、90度は、あまりに動く範囲としては狭い角度ということになります。

しかし、もの書きは「専門家が『90度』と言っていたのだから、いいか」と判断し、「このロボットは、直角の動きで自在に部品を扱うことができる」と原稿に書きました。そして、編集者のチェックも厳しくないまま、それがそのまま雑誌の記事に載りました。

後日、記事を読んだ取材対象者の開発者から、もの書きに電話が来ました。

「このロボットの動きが『直角』だなんて、私はそんなこと言っはずがないのだが」

「え……。でもあのとき誰々さん、たしかに『90度ですから』とおっしゃってましたよ。取材時の音声を聞いてみていただけますか」

「……。おい、きみ! 私は『キュウジュウド』ではなく『キュウジユウド』と言ったのだよ!」

ロボットには「自由度」という尺度があります。これは、ロボットの手や足を動かせる方向の数のことをいいます。たとえば、ロボットが、人の“肩”にあたる部分で、前後、上下、さらに回転という具合に腕を動かすことができれば「3自由度」となります。

取材の対象となった産業用ロボットは、優れていることに、自由度が9もあったのでした。日本語で「十(じゅう)」か「自由(じゆう)」かを聴いて判断するのは至難の業。言っているほうも「自由」を「じゅう」と発音することは多々あります。

このもの書きは、訂正の原稿を考えながら「知識はもちすぎるということはない」と痛感したのでした。

参考ホームページ
ホンダ「ロボット開発のプロセス」
http://www.honda.co.jp/factbook/robot/asimo/200011/05.html
| - | 20:50 | comments(0) | trackbacks(0)
“融けたアイソン”にかわって注目されだす
国立天文台によると、太陽に接近していたアイソン彗星は「かなり融けてしまった」と考えられるそうです。

まだ跡形もなくなったというわけではないようですが、(2013年)12月5日(木)ごろの見えかたは「天の川がはっきり見える暗い空でも、やっと視認できるかどうか」であり、「一般的には地上からも航空機からも肉眼での確認は期待できない」とのことです。

以前より国立天文台は、「近日点通過後の明るさや見え方の予想はたいへん難しいため、具体的にどのように見えるかは、実際に彗星が近づかないことには分からないでしょう」との声明を出していました。想定内のできごとといえそうです。

アイソン彗星の観察を中心とする催しものも数々計画されていました。数日前、アイソン彗星の“安否”が気づかわれていたときは、むずかしい判断を迫られた主催者も多かったでしょう。その傾向は“中止”のほうに傾いているのかもしれません。

しかし、冬の星空観察を決行するとみられる催しものもあります。たとえば、東京・六本木の六本木ヒルズ屋上で定期的に天文観察会を開いている「六本木天文クラブ」は、12月6日(金)からの3日間、午前4時から日の出まで「アイソン彗星観察会」を開く予定をホームページに掲げていますが、2日(月)時点で中止や変更の予定は掲げていません。

人気ではアイソン彗星の“影”に隠れたかたちになっていましたが、この季節には「ラブジョイ彗星」というべつの彗星も地球に近づいています。アイソン彗星が観察できるとされていたのとおなじ時間帯の明けがたごろには、最大4等級の明るさになっているといいます。日本各地で天体望遠鏡での観測成功が報じられています。

「ラブジョイ彗星」は、豪州のテリー・ラブジョイさんが今年2013年9月に発見した彗星。ラブジョイさんは彗星捜索家で、2011年にも彗星を発見しており、この彗星にも「ラブジョイ彗星」の名がついています。2013年の「ラブジョイ彗星」についての情報はあまり多くなく、2011年の「ラブジョイ彗星」と混同してしまう人もいるかもしれません。


2013年11月19日(火)に撮影されたラブジョイ彗星
NASA/MSFC/Jacobs Technology/ESSSA/Aaron Kingery

催しもの開催や参加受付の最新情報については主催者にご確認ください。

参考記事
国立天文台 2013年11月30日付「続報 アイソン彗星の状況と今後の見通し」
http://www.nao.ac.jp/astro/sky/2013/ison.html#report
THE PAGE 2013年11月26日付「アイソン彗星だけじゃない この冬「3つの彗星」が出現」
http://thepage.jp/detail/20131126-00000005-wordleaf
産経ニュース 2013年11月28日付「ラブジョイ彗星撮影 韮崎の中3男子成功 山梨」
http://sankei.jp.msn.com/region/news/131128/ymn13112802310000-n1.htm
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
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