2013.09.30 Monday
ナレーターが実況を開始
かつて、海外のサッカーを紹介するテレビ番組で、「その番組での選手紹介役のナレーターが、番組内でそのまま試合の実況をはじめる」ということがありました。このように書くと、なにも変なことはないように感じられます。しかし、番組を見ていた人は、強い違和感をおぼえたといいます。
その番組の前半では、海外で活躍する外国人選手のプレイぶりを、過去の映像や本人への取材などをまじえて紹介していました。そこに、ナレーターが「誰々選手はイングランド出身。プロデビュー以来、強豪クラブを渡りあるいて、スター選手への階段をのぼっていきました」などと、たんたんと声を被せていきます。
その後、番組では、このナレーターが「では、ここからは、誰々選手が出場した最新の国内リーグの試合をご覧いただくことにしよう」と話し、実際に試合の様子の映像が流れはじめました。
その試合の実況も、ひきつづきこのナレーターがつとめたのです。
「さあ、キックオフの笛が鳴りました。ボールを回していくのはアウェイのAチーム。いっぽう、守るBチームの誰々選手はミッドフィルダーで出場。あっと、ここで敵チームの強烈なシュート。キーパーすばやく反応してボールをキャッチ!」
番組の前半ではたんたんととりあげた選手のことを紹介する口ぶりだったのに、後半の試合の実況では「あーっと!」「おーっと!」「決まった、ゴール!」などと実況者としての臨場感ある口ぶりに切りかわりました。
ふつう、番組のナレーターはその番組の尺内ではナレーターに徹します。そして試合の様子を実況するときにはべつのアナウンサーが実況役をつとめます。しかし、この番組では予算のかぎりがあったのでしょう。ナレーターが実況にそのまま突入という“珍事”が起きました。
番組を見ている人は、ナレーターは番組の目に見えないが声は聞こえる進行役としての役割を当然のことと受けとめます。いっぽう、実況担当者は試合のようすを多少の感情の起伏をもって伝える役割を当然のことと受けとめます。この二つの役割が、継ぎ目なしにおなじ声で行われたため、番組を見ていた人は強い違和感を覚えたのでしょう。