2013.04.30 Tuesday
具体例もなるべくわかりやすいものを
ものごとを人に伝わるようにしたいとき、「具体例」を示すという方法があります。
たとえば、科学のむずかしい理論を伝えようとするとき、その概念を述べるだけでは、相手に伝わりそうにないという絶望的な状況があります。そのようなとき、具体的な例を示しながら説明していくわけです。
具体例を示す目的は、むずかしい概念をなるべく読者に伝わるように伝えるというもの。これを考えたとき、具体例の示しかたにも、ある鉄則があります。
それは、「具体例もなるべくわかりやすいものを選ぶべきである」というものです。
「なんだそんなのあたりまえじゃないか」と思われる人もいるでしょう。しかし、この鉄則にしたがっている執筆者ばかりかというと、けっしてそんなことはありません。
たとえば、数学の定理を説明しようとするとき、2などの小さな数と、1523などの大きな数のどちらも具体例として当てはめることができるとします。わざわざ1523などの大きな数を当てはめなくても、2を当てはめて例を説明することができるのならば、執筆者は具体例に2という数字を当てはめて説明すれば、それでよいわけです。
さらに、2で当てはめみたた場合がもっともかんたんな例だったので、つぎに、もう一段階むずかしい3という数字を当てはめてみてます。3でもやはり当てはまるということを示せば、それでほぼ読者には納得してもらえることでしょう。
具体例もなるべくわかりやすいものを選ぶべきという鉄則は、本のなかでケーススタディ(事例研究)を試みるときにもあてはまります。事例としてふさわしいのは、読者のだれもが状況を思いうかべることができるようなありがちな話です。かつ、込みいった説明の要らない単純な話であれば、なおよいでしょう。
しかし、本などの具体例のなかには、あまりわかりやすいものでないものが出てくることがひんぱんにあります。なぜなのでしょう。
まず、執筆者の知識の限界が考えられます。執筆者にとっては、その具体例はもっとも身近なものだったため、具体例を示したわけです。しかし、その具体例が読者にとっては身近でない場合もあります。すると読者は、「なんだか具体例もむずかしいな」と感じることになります。
あるいは、べつの意図がふくまれているかもしれません。つまり、むしろ具体例のほうを示したいために、文章をその具体例のほうにもってきている、ということです。