科学技術のアネクドート

OSがあらたまると“改悪”も
 コンピュータのオペレーションシステム(OS)を売る会社は、つぎつぎと新しい機能が加わったOSを開発して、世に出していかないと儲けることができません。OSの版を改めるとき、それまで使われていた機能をある程度、改めなければなりません。まったく機能が改まっていないのに、「OSが新しくなりました」とは言いづらいためです。

あらたまったOSでの機能が、すべて“改善”の方向に進んでいるかというと、かならずしもそういうわけではなさそうです。

あるマッキントッシュの使用者は、コンピュータを買いかえる必要がありました。それに伴い、使っていたOSも「タイガー」とよばれる10.4から、「マウンテンライオン」とよばれる10.8になりました。本人が意図していなくても。

「ところが、新しいOSのほうを使ってみると、いろいろと不便なことがあってね」

たとえば、マッキントッシュには「メール」というアプリケーションがあります。メールを受信したり送信したりするものです。

「タイガー」時代の「メール」は、画面の上に受信メールまたは送信メールの件名や名前などの一覧が20件分ほど、画面の下にそのメッセージ本文が示されているものでした。ところが、「マウンテンライオン」での「メール」は、画面の左に名前と件名などが、画面の右にメッセージ本文が示されているものに。

「新しいOSだと、だれからメールがきたのか見られるのは10件分くらい。これだと、それより過去のメールをつい見逃してしまう……」

新しいOSで「メール」を以前の使い勝手のよい一覧状態に戻すには、「クラシックレイアウトを使用」という設定にしなければなりません。この人はこうつぶやきました。「クラシックのほうがよっぽど見やすいし、使いやすい」。

ほかにも、「iPhoto」という写真画像管理アプリケーションに保存された画像をメールで送るとき、アプリケーションの「メール」で送ることができず、わざわざ「iPhoto」内に設定された使い勝手の悪いメールで送らなければならないことなどに、OS10.8の利用者からは不満の声が出ています。

コンピュータの使い勝手をよくしたいのか、それとも、OSの版を更新したいのか。企業の意図によって、“改善”と“改悪”のちがいが出てくるのかもしれません。
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二層で漏れとノイズを防ぐ


複数の電線を束ねて、カバーをかぶせたものを「ケーブル」といいます。いろいろな種類がありますが、「同軸ケーブル」というケーブルもよく使われます。

もっとも身近なところで同軸ケーブルを目にするのは、テレビの裏側でしょう。テレビとアンテナをつなぐケーブルとして使われます。

かたちとしての特徴は、電気が伝わる導体が、内側と外側と二層あること。まず、同軸ケーブルのいちばん内側には、「内部導体」とよばれる導体があります。そのまわりを、白い絶縁体が覆います。

さらに絶縁体のまわりには、「外部導体」とよばれる網状の導体が覆います。この外部導体は、編組線とよばれる細い銅線を編んだものがよく使われます。そして一番外側を、「シース」という保護被膜が覆います。

なぜ、同軸ケーブルは、内部導体と外部導体の二層構造なのでしょう。同軸ケーブルを使って送られるのは、高周波の電気信号です。もし、外部導体がなく、内部導体のみだとすると、このケーブルを通る電気信号は、内部導体からケーブルの外へと漏れていってしまいます。また、外側から要らないノイズが内部導体へと入ってきてしまいます。

内部導体のまわりを外部導体が覆えば、高周波の電気信号の漏れを防ぐことができます。また、外からのノイズも遮ることができます。結果、アンテナから入ってきた電気信号が、より安定してテレビへと送られ、テレビの映りがよくなるのです。

外部導体は、網状でなく、まるまる銅が覆うようなつくりでも、電気信号の漏れを防げます。しかし、それだと曲げるとき、曲がりにくくなるため、網状になっています。

また、内部導体と外部導体が触れてしまうと、外部導体の意味がなくなるため、絶縁体を挟むわけです。絶縁体には、ポリエチレンのほか、耐火性や難燃性を高めるためにシリコンが使われることもあります。

参考ホームページ
リビングアメニティ協会「同軸ケーブルの仕組み」
スタック「同軸ケーブル」
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(2013年)3月1日(金)からは「Unstable」
 個展のお知らせです。

(2013年)3月1日(金)から23日(土)、東京・京橋のギャラリー・セラーで、陶芸家の近藤高弘さんが「Unstable」という個展を開きます。

近藤さんは、京都市山科区にアトリエをもつ陶芸家です。人間国宝の染付師・近藤悠三を祖父にもつ近藤さん。大学卒業後、一般企業でつとめていましたが、叔父で陶芸家だった近藤豊が自死したとき衝撃を受け、26歳で自身も芸術の道を歩むことに決めたといいます。

陶芸のなかでも、近藤さんは現代芸術を中心に作品を生みだしてきました。白くて角ばった器に青い幾何学模様をあしらった「時空壷シリーズ」、さらに素材の表面にしずくの粒が無数がついているかのように見せる「銀滴シリーズ」、油の液が乗っているかのように見せる「オイルシリーズ」などの前衛的な作品が多くあります。

以前の取材で、近藤さんは、作品の原点には「土」の存在があるとこたえていました。日本列島は、海洋プレートが沈み込み、プレートにのっていた“滓”が残されてできた付加体。そのため、土の多様性があり、地域や陶芸家によって作品の幅は広がってきました。

近藤さんの作品の幅広さも、土のもっている特徴を活かした結果といえるのかもしれません。

個展の主題になっている「Unstable」とは、日本語に直訳すると「不安定な」という意味。自身のホームページには、この個展の関連写真として、小さな氷のような半透明の粒々を見ることができます。凍ったままではない、溶けていきそうな雰囲気を「Unstable」で表現しているのでしょうか。

自分自身も築いてきた作風に安住することがない。近藤さんの新たな作風を味わうことができそうです。

近藤高弘さんの個展「Unstable」は、東京・京橋のギャラリー・セラーで。3月1日(金)から23日(土)まで。時間帯は12時から18時。初日の3月1日(金)17:00からレセプションも。日曜、月曜、祝日は休館。近藤さんのホームページのお知らせはこちらです。
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“クラウド的なしくみ”はかつて登場していた(下)


1998年から1999年ごろ、インターネットなどのネットワークを介してコンンピュータのアプリケーションサービスなどを提供するASP(Application Service Provider)が登場しました。いまのクラウド・コンピューティングの原型といってよいでしょう。

しかし、通信網が発達していなかったことなどから、期待されていたほど普及はしませんでした。

しかし、その後、2007年後半になると、ASPから代わって、「SaaS」というサービスが現れました。

SaaSは、“Software as a Service”の頭文字をとったもので、直訳すると「サービスとしてのソフトウェア」。SaaSには、ベンダーが所有するソフトウェアをユーザーがネットワーク経由で利用するサービス、といった定義がされています。

APSとSaaSは同様のものとしてくくられることがあります。しかし、Ajax(Asynchronous javascript + xml)という、ウェブ上のアプリケーションをスムーズに使うための方法が新たに使われるなど、技術は高まりました。

また、SaaSがASPとちがう点として、マルチテナントという形態をとっていることもあげられます。ASPが提供するサービスでは、使用者ごとに使うシステム環境が築かれていました。いっぽう、SaaSでは、複数の使用者がシステム環境を共有することに。これで、費用の削減をはかることができます。

しかし、それでいてSaaSでは使用者が自分の使いたい機能をカスタマイズすることも可能。ASPよりも使い手の使い勝手がよくなったともいわれています。

この、SaaSというしくみをさらに拡大させたのが、いまいわれているクラウド・コンピューティングです。SaaSでは、おもにアプリケーションの提供に主眼がおかれていましたが、クラウドではオペレーションシステム(OS:Operation System)やサーバなどを提供するサービスまでふくまれます。

クラウド・コンピューティングは確実に浸透してきています。通信網の回線速度が高まるなどして、大容量のデータのやりとりもできるようになりました。その前提には、「0」か「1」かで表せるデジタルという方式の便利さがあります。

参考記事
ITpro 2007年3月5日付「SaaSの台頭 その推進要因と進化の方向性を理解する」
参考ホームページ
IT LEADER BIZ「ASPとSaaSとクラウドの違い」
IT用語辞典「SaaS」
IT用語辞典「Ajax」
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“クラウド的なしくみ”はかつて登場していた(上)


コンピュータのアプリケーション用データや文書用データなどを、自分のコンピュータではないところにインターネットを通じて預け、データが必要なときにデータのやりとりをする「クラウドコンピューティング」が本格的になっています。

クラウドコンピューティングというしくみは、ここ3、4年で急に現れたような印象をあたえます。しかし、前から、似たような考えかたのしくみがあったという指摘もあります。

ASPという業者をもとにしたしくみがあります。ASPは、“Application Service Provider”の頭文字をとったもので、「アプリケーションサービスの提供者」と訳すことができます。また、提供者だけでなく、提供のしくみをさすこともあります。

ASP・SaaSインダストリ・コンソーシアムという業界団体は出版物のなかで、ASPのことを、「特定および不特定ユーザーが必要とするシステム機能を、ネットワークを通じて提供するサービス、あるいは、そうしたサービスを提供するビジネスモデル」と定義しています。

ASPによるアプリーケーションを使う立場の人からみると、アプリケーションの提供者に対して、「月いくら」といった固定料を払い、使いたいアプリケーションのデータなどを、提供者が管理するデータセンターから、インターネットによって引きだす、ということになります。

ASPによるアプリケーションを使うことの利点としては、アプリケーションCDなどを買うより費用がかからない、サーバーなどのコンピュータ管理を提供者に一任できる、といったことがあるとされています。

ASPによってアプリケーションを活用するしくみそのものは、1998年から1999年ごろにすでに登場していました。中小企業などが大いに活用するのではと期待されていたものの、あまり広まっていきませんでした。まだ、インターネットの情報通信網があまり高速化していなかったり、アプリケーションもインターネット向けの仕様でなかったりと、環境が整っていなかったことが理由にあったようです。

しかし、その後、すこしのときを経て、ASPとにたしくみが登場するようになりました。SaaS(Software as a Service)といいます。つづく。

参考ホームページ
ASP・SaaS・クラウド コンソーシアム「ASP・SaaSの意味」
IT経営の歩き方「ASPとSaaSの違い?クラウド?」
総務省「ASP・SaaSとは?」
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受診率目標7割にほど遠く――メタボ健診開始から5年(下)


国が40歳から74歳の国民に対して、「健康になってください」とメタボリック症候群関連の健康診断を課す「特定健診」の制度がはじまってから、2013年4月で丸5年になります。

厚生労働省は、2012年度における特定健診受診率の目標を70%、また特定健診でひっかかった人がその後に受ける特定保健指導の実施率を45%としています。

ところが、2010年度では、特定健診受診率は43.3%、特定保健指導実施率は13.7%。それぞれの目標率より大きく下まわっています。

つまり、国が「みなさんの健康のため、特定検診を受けてください」と国民に対してよびかけても、あまり国民はそれに応じていないという実情があります。

なぜ、国民は特定検診を受けないのか。厚生労働省は、2012年6月、「今後の特定健診・保健指導の実施率向上に向けた方策について」という資料のなかで、「健診等を受けなかった理由を見ると、『時間がとれなかった』、『心配な時はいつでも医療機関を受診できる』『めんどう』といった理由が多く」と、理由を述べています。

厚生労働省は、国民に「特定検診を受けてください」と、いわば“健康管理の義務化”をはかったわけです。しかし、特定健診の受けない国民を罰することまではしません。

いっぽうで、厚生労働省は2012年7月、特定保健指導の実施率が低い健康保険に対して、2013年度から各健康保険が担っている医療費の財政負担が重くなるようなペナルティの具体策を示しました。しかし、健保団体などは当然ながら反対を示しています。

いっぽう、地方自治体では、市民が負担する特定健診受診料を無料にして、受診率を高めようとする動きも出てきています。

福岡県行橋市は、2010年における対象市民の特定健診受診率は26.5%。これは国の目標の70%はおろか、全国平均の43.3%をも大きく下回ります。そこで、2012年度から、対象者の自己負担分800円を無料にしたといいます。このような動きは、長野県茅野市、

特定健診で調べられる、メタボリック症候群は、肥満、高血糖、脂質異常症、高血圧といった危険因子が重なった状態のこと。しかし、これらの危険因子には自覚症状がほぼなく、「サイレントキラー」とよばれています。自覚症状のない体の異常を健康診断で調べてもらうという気が起きづらいのも、無理からぬことかもしれません。

特定健診の制度が始まってから2013年4月で丸5年。どうにかして国民に特定健診を受けてもらう。その試行錯誤にそれぞれの立場が頭を悩ませています。了。

参考資料
厚生労働省 2012年6月27日付「今後の特定健診・保健指導の実施率向上に向けた方策について」
厚生労働省 2012年7月13日付「第二期特定健康診査等実施計画期間に向けての特定健診・保健指導の実施について(とりまとめ)」

参考記事
朝日新聞京築地方版2012年4月27日付「メタボ健診、無料化 行橋市、受診率アップ狙う」
しんぶん赤旗 2012年7月25日付「メタボ健診で罰則 保健指導ゼロの健保に財政負担増」
長野日報 2012年12月30日付「茅野市国保特定健診受診率 過去最高見込み」
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医療費増大のなか健診義務化――メタボ健診開始から5年(上)


2008年に、厚生労働省が「特定健診」の制度をはじめてから、ことし2013年4月で丸5年になります。

特定健診とは、40歳から74歳の国民に、メタボリック症候群に関する健康診断を受けさせるもの。健診での必須項目は、質問票(服薬歴、喫煙歴など)、身体計測(身長、体重、ボディ・マス・インデックス、腹囲)、身体診察、血圧測定、脂質検査と血糖検査と肝機能検査を合わせた血液検査、尿糖と尿蛋白の検査を合わせた検尿。この健診は「メタボ健診」などともよばれています。

また、特定健診の結果、基準値を上まわった人には、医療機関による健康指導や生活改善チェックを受けさせる「特定保健指導」が待っています。

この制度の根拠になっているのは、「健康増進法」という法律。目的を示した第一条には、「我が国における急速な高齢化の進展及び疾病構造の変化に伴い、国民の健康の増進の重要性が著しく増大していることにかんがみ、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を図ること」とあります。

国が国民に対して「健康になってください」という義務を課したということがいえます。その背景にあるのは、高齢社会化による医療費の増大です。

国民だれもが医療保険に入っている「国民皆保険」の国である日本では、患者が支払う医療費の一部を企業や国などが肩がわりしてくれます。企業の従業員や公務員は被用者保険に、被用者保険に加入していない人は、国民健康保険か後期高齢者医療制度に加入することになっています。

人は年が高くなれば病気になりがちになるもの。そして、病院へ行きがちになるもの。65歳以上の高齢者の占める割合が全人口の21%を超える「超高齢社会」を迎えた日本では、医療費が高まってきているのです。

2011年度における日本での医療費は37兆8000億円。医療費は9年連続で増えつづけています。

国は、なるべく医療費の負担を減らしたい。だから、国民にはなるべく病気しらずの健康でいてもらいたい。国が「特定健診」を行うのには、このような財政的な背景があるとされます。

ところが、特定健診の対象となる40歳から74歳の国民がみな、特定健診を受けているか、また健診でひっかかった人がみな特定保健指導を受けているかというと、あまり受けていません。つづく。

参考記事
厚生労働省「平成23年度 医療費の動向」
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あらかじめ対象を絞っておく
 

人びとが集って開く会議では、「会議の目的を明確にしておく」とか「できるだけ図や付箋を使って視覚化する」とかいったことを心がける人は多くいます。しかし、「対象を絞りこむ」ということを心がける人はそれほどいません。

たとえば、あるお店の店員たちが、もっとお客さんにお店にきてもらうことを目指すという目的で会議を行ったとします。

会議に参加した店員たちは、日ごろの経験などをもとに、さまざまな案を出しました。お得意さまに対しては、「クーポン券を送ろう」「ダイレクトメールも送ろう」。「まだ商品を買ったことのない客に対しては、「カタログを渡そう」「かんたんなアンケートに答えてもらおう」……。

店員たちはつぎつぎと案を出します。参加した店員の多くは、自分の意見を言えて、またほかの社員のさまざまな意見を聞けて、実りの多いものに感じました。

そして、会議をとりまとめる店長が言いました。「たくさん案を出してもらったので、まず最優先でとりくむ策と、そのつぎの優先順位でとりくむ策をわけてみよう」。

この段階になり、店長も店員たちもすこし困りはじめました。「手厚くサービスすべきは、お得意さまか、まだ製品を買ったことない客か……」。

会議では結局その点をあいまいなままにして、「どちらの客にもまんべんなく手厚くサービスしよう」となり、どちらの属性の客に対しても、最優先でとりくむ策と、そのつぎの優先順位でとりくむ策を立てたのでした。

このような方策の立てかたはよくあること。しかし、これが最善かというと、そうでない場合も考えられます。

たとえば、お得意さまは黙っていても商品を買ってくれるような店では、社員たちが目指すべきは、いかにお得意さまを増やすかということになります。となれば、ねらいは「まだ商品を買ったことのない客」を、いかにお得意さまにするかとなります。

あらかじめ会議を開くにあたって、対象を「客」でなく、「まだ商品を買ったことのない客」に絞りこんでおくこともできたわけです。そうすれば、店員たちはこの属性の客に対するサービスの案を集中的に考えることができたはずです。

店長は会議で、「まず最優先でとりくむ策と、そのつぎの優先順位でとりくむ策をわけてみよう」と言っていましたが、はじめから「まず最優先でとりくむ客と、そのつぎの優先順位でとりくむ客にわけてみる」こともできたわけです。

会議では、つい一度に「あれもこれも」と欲ばって決めてしまおうとするもの。そこには、「会議はできるだけ開かないほうがよい」という人びとの意識があるのかもしれません。

しかし、効果を実感できる会議を開くことができていれば、「今回はまず対象をこの客に絞って話しあおう」といった前提条件の設定も建設的におこなうことができます。
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デジタルネイティブをおとなたちが意識


インターネットや電子メールを使いはじめる人がちらほらと現れだしたのが20年前の1993年ごろ。閲覧ソフトの「モザイク」が開発されたのもこの年です。

そのころは、ネットワークに興味のあるごく一部の人がインターネットや電子メールを好奇心で使っていました。しかし、3、4年後には、多くの人がインターネットや電子メールをあたりまえのように使うようになりました。

インターネットや電子メールなどが世に広まりはじめてから20年ほど。つまり、成人を迎える人たちは、生まれたときからその環境のなかで過ごしてきたことになります。

生まれつき、電子媒体が使われている環境で育ってきた世代を「デジタルネイティブ」ということがあります。これに対して、人生の途中から電子媒体に接するようになった世代を「デジタルイミグラント」とよぶことも。「イミグラント」(imigrant)は「移民」を意味します。

「生まれつき、何々のある環境で育った」ということを考えれば、もちろん、ほかにもいろいろとあります。「生まれつき、自動改札機のある環境で育った」や「生まれつき、ライターのある環境で育った」などです。

しかし、「デジタルのある環境」というのは、自動改札機やライターなどにくらべて、暮らしへの影響が広いことは確実です。デジタルとは方式であり、コンピューター、携帯電話、カメラなど、いろいろな機器にかかわってくるからです。

いまは、デジタルネイティブが、そろそろ成人になるころ。

では、デジタルネイティブは、デジタルイミグラントとどこがどうちがうのでしょう。

「デジアルアーツ」という企業は、2012年7月に「未成年の携帯電話・スマートフォン使用実態調査」という調査の結果を発表しました。

その発表によると、iPhoneやAndroidをもっていれば無料で通話ができる「LINE」を使っている未成年は42.1%。これは、スマートフォンをもっている保護者の20.4%の倍です。もっているお金がすくない未成年にとって、無料で通話などができるのは強力な道具なのでしょう。また、「ツイッター」を使っている未成年は38.3%とのこと。

使用実態としてはこのような数値が示されました。いっぽう、デジタルネイティブとデジタルイミグラントのあいだに意識的なちがいはあるのでしょうか。つまり、世代間の差で困ってしまうようなことがあるのか、ということです。

たとえば、匿名掲示板に書き込みをするのがあたりまえという風潮があるとすれば、デジタルネイティブはみんな本名を避けて匿名にするのでしょうか。学校の試験などで本名を書かなければ0点になってしまうため、匿名があたりまえというところまでは行かないでしょう。

調べものをするとき、紙の資料をあさらず、すべてインターネット上のデジタル資料を参考にすることで済ませる、といったことはあるかもしれません。

しかし、その資料収集法をされて、困った顔をする人は、大学の教授や、新聞社のデスク役ぐらいかもしれません。彼らは「おれたちはそんな調べかたではなかった」と嘆くでしょう。

インターネットがあたりまえに使える環境では、“出会い系サイト”や“エロサイト”などにアクセスしやすいため、道徳的な常識がデジタルイミグラントとはちがうということは多少ありそうです。

道徳的な常識のちがいについては、世代間で「こうあるべきだ」と議論する余地はありそうです。いっぽう、それ以外の部分では、デジタルネイティブといわれる世代があたりまえのようにやっていることに対して、デジタルイミグラントといわれる世代もそれを取り入れているかどうかが問題であるにすぎません。

結局のところ、おとなたちが「デジタルネイティブ」と「デジタルイミグラント」という枠(フレーム)を設け、「自分はイミグラントだ」「彼らはネイティブだ」と意識過剰に警戒しはじめている部分が大きいのかもしれません。

参考資料
デジタルアーツ 2012年7月12日発表「未成年の携帯電話・スマートフィン使用実態調査」
参考記事
読売新聞 2013年2月2日付「ドコモの世界初“ジュニアスマホ”は子供向け携帯市場を変えるか?」
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「ランニングは体に良い/悪い論争の結論、やっぱり走って損はない?」


きょう(2013年)2月19日(水)、サイゾーのウェブニュース「ビジネスジャーナル」で、「ランニングは体に良い/悪い論争の結論、やっぱり走って損はない?」という記事が配信されました。この記事に原稿を寄せました。

「走ることはかえって健康を害する」という説はまことしやかにいわれます。もちろん、意識を失ったり飢餓になったりするまで走ることをやめないれば、“健康を害する”どころか、“死の危険にさらされる”ことになります。

問題は、そこまで過激ではない、「ハードトレーニング」といわれるような現役運動選手なみに走ることが、「健康を害する」と伝えられていることです。

とくに欧米では、ハードトレーニングと健康悪影響の関係について、さかんに報じられる傾向があるようです。それだけ研究が進んでいるという証しともいえます。

記事で紹介したのは、2012年末に「WIRED」というウェブサイトで配信された「ランニングは体に悪い!? 研究結果」という記事。そして、この「WIRED」の記事で紹介している米国ビジネス紙「ウォールストリートジャーナル」オンライン版にある、“One Running Shoe in the Grave”(片方のランニングシューズは墓場の中に)という記事。

これらの記事をさらにさかのぼっていくと、“ちがう毛色の雑誌”にたどりつきます。それは、医療雑誌。英国の『Heart』という雑誌に2012年、“Run for your life … at a comfortable speed and not too far”(命が惜しければ走れ…快適な速さで適度な距離を)という記事が掲載されたのです。

この随筆でも、さまざまな過去の研究成果が紹介されています。『WIRED』や『ウォールストリートジャーナル』の記事が指している内容については、「ハードなランニングをしたとしても、死亡率は走らなかった人より高くはなっていない」ということが少なくともいえます。

また、『Heart』の随筆で、著者たちは「(運動は)アルコール摂取と似たようなもの」とも述べています。これの意味するところは、ほどほどに飲むことにくらべれば、飲みすぎは死のリスクを高めるし、まったく飲まないのも死のリスクを高める、というもの。

つまり、ほどほどの運動をすれば、健康によい影響をあたえるわけです。

ビジネスジャーナル「ランニングは体に良い/悪い論争の結論、やっぱり走って損はない?」はこちらです。
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目で数える。目を補って数える。


ものの数を数えるときがあります。

ネットに入ったたまねぎの数くらいであれば、ほんの数秒で数えることができます。しかし、大きな数を数えるときはそうもいきません。そこで、人はいろいろな数えかたを編みだしてきました。

大きな数を数えるとしても、目で見て、地道に「1、2、3、4……」と数を積みかさねていく方法はあります。かつて、NHKの「紅白歌合戦」で、観客が掲げる赤と白の板を、日本野鳥の会の会員がすばやく数えあげるという場面が恒例となっていました。

ボタンを押すと、表示窓の「0000」が「0001」に増える「数取器」または「カウンター」とよばれる道具で数えていきます。もっとも、動いている鳥を数えるほうが、より高い技術が要るといいますが。

目で見るのでは数を数えられないときもあります。

海を泳ぐ鯨を、船から人が見ることはできます。しかし、海のなかで泳いでいる鯨を見つけて数えることまではできません。そこで、鯨の数を数えたい人は「ライントランセクト法」という数えかたを使います。

まず、海のA地点からB地点まで船をじぐざぐに走らせ、目で鯨を見つけます。そのとき、自分に対して、どの角度のどの遠さに鯨がいたかを記していきます。

そして、B地点についてから、鯨一頭の発見にどれくらいの努力量を費やしたかをもとに、発見した頭数から分布の密度を計算で出します。

一頭の発見にかかった労力がこのくらいなのだからこの領域にはこのぐらいの鯨がいるだろう、ということを目と紙と鉛筆で割りだすわけです。

いっぽう、目で見えるものの数であっても、あまりにも多すぎて数取器でさえ数えることができないこともあります。たとえば、大きな神社や寺の初詣参拝者の数は、あまりに多すぎて一人ずつ数えるのはたいへんです。

そこで、一人の人がそこを通ったら実際はその何倍の人がそこを通っているのだと見立てて、参拝客を計算をするといいます。

たとえば、一方通行の門の脇に、数える人が立ちます。その門の幅からすると、100人の参拝客が横並びでいっせいに通れそうです。そこで、もっとも手前の1人が通るたびに数えていき、あとでその数を100倍するわけです。この作業を門の両脇で二人がかりでするという話もあります。

ほかにも、人出の数えかたは、一定の面積のなかにいる人数を数えてから、その人数を会場全体の面積にあてはめたらこのぐらいの人数になるだろうと、計算して出すという方法もあるといいます。

初詣参拝者の数を数えるのは、警察の警備のために必要だからといいます。赤と白の板を数えるのも、紅白どちらかに勝ちをあたえる必要があるから。鯨の数を数えるのも、これだけ鯨がいるということを人に伝える必要があるから。必要のあるところで、人は方法を考えだすのかもしれません。

参考文献
参考ホームページ
野鳥を楽しむポータルサイト「野鳥ことば事典」
ドヤ顔できる雑学「初詣での参拝者の数え方!」
わたしの生活辞典「参拝者数の数え方」
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中国の日東電工セパレータ製造拠点を子会社化、TDK――リチウムイオン電池セパレータのメーカー動向(11)



TDKは、電子部品メーカーの大手です。このTDKもまた、他企業との提携により、リチウムイオン電池用セパレータの製造拠点をもつ企業となっています。

TDKは1935年、フェライトコアをつくる目的で東京市芝区に東京電気化学工業が設立されたことが沿革のはじまりとなります。フェライトコアは、電線などで生じるノイズを抑えるため金属酸化物強磁性体です。

TDKは、携帯電話のリチウムイオン電池などに搭載するリチウムイオン電池の事業を進めてきました。リチウムイオン電池をつくるうえで、セパレータについては自社ではつくらずに買ってきました。その買い先は、日東電工でした。

日東電工は、包装材料、半導体関連材料、光学フィルムなどを製造するメーカーです。これまで、リチウムイオン電池用セパレータ関連では、1995年に、ポリエチレンとポリプロピレンの「ブレンド系」の多孔質膜を開発したことを発表していました。また、その後も2003年に「非水電解質リチウムイオン電池とそのためのセパレータ」の発明で特許を得るなどしています。

その後、日東電工はリチウムイオン電池用セパレータの製造に着手。2003年より、中国上海市の日東電工(上海)電能源有限公司で、セパレータを製造をしていきました。

TDKは、2011年1月、この日東電工(上海)電能源有限公司の株の65%を取得することで、日東電工と合意したことを発表したのでした。50%を超える株の取得のため、子会社化を果たしたといえます。

子会社化の目的について、TDKは「当社は中・長期的な経営計画の中で、成長市場である『環境、エネルギー関連分野』の製品を育成し、伸ばすべき分野の1つとして位置づけております。近年、各種電子機器など世界中で急激に需要が拡大している電池市場についても、当社の保有する素材、プロセス技術と日東電工グループが得意とする高分子合成技術を組み合わせることにより、お客様が求める性能・品質を満足する特長あるセパレータを生み出すことができると判断し、今回、当該会社の株式の一部取得に至りました」と発表しています。

リチウムイオン電池市場が拡大を示してきたなかで、重要な部材のひとつであるセパレータの製造を自社の子会社が行うようにしたいという意図があったのでしょう。リチウムイオン電池事業強化の姿勢が見られます。つづく。

参考記事
TDK 2011年1月31日付「日東電工(上海)電能源有限公司の一部株式の取得について」
日本経済新聞 2011年1月31日付「TDK、リチウムイオン電池で日東電工と提携」
参考ホームページ
patentjp.com「非水電解質リチウムイオン電池とそのためのセパレータ」
参考文献
「リチウム電池用セパレータ」『日東技報』1995年5月号
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「西高東低」が崩れて春一番


石川、富山、福井などの北陸地方では、早くも(2013年)2月7日(木)に「春一番」が観測されました。

冬の日本近くの気圧配置は「西高東低」。つまり、日本の西に高気圧、東に低気圧がある状態がつづきます。しかし、暦のうえで冬から春に移るころになると、この気圧配置も長くはつづかなくなります。

そこへ、中国東方の東シナ海から移動性の低気圧が日本列島の南側を通るようになります。低気圧では、中心に向かって風が流れるので、日本の南側を低気圧が通れば日本では北風が吹くことになります。

この低気圧のせいで太平洋側に大雪が降ることもあります。さらに日が進むと低気圧の通り道は北へと移り、日本列島の北側つまり日本海あたりを通って進むことになります。すると日本は低気圧の南側に位置することになるため、南風が吹いてくることになります。

この南風が、立春(2013年は2月4日)から春分(3月20日)に起きれば、「春一番」となるわけです。

中国には「春風の狂うは虎に似たり」ということわざがあります。中国でも日本と同じように、むかしから春の風は荒れた天気を引き起こしやすいようです。

また、英国にも「3月はライオンのようにやって来て、子羊のように去る」ということわざがあります。春の訪れ方が日本と似ているイギリスでも、3月はライオンのような荒々しい天気で始まるようです。
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「『潔癖』な国、日本のミネラルウォーター事情」


日本ビジネスプレスのウェブニュース「JBpress」で、きょう(2013年)2月15日(金)、「『潔癖』な国、日本のミネラルウォーター事情 ミネラルウォーターと水道水の真実(前篇)」という記事が配信されました。この記事の取材と執筆をしました。

人のからだの6割は水でできているといわれています。毎日のようにからだに水分を出し入れするからには、「体に摂り入れる水を知って選ぶ」ということは生きていくうえで大切なこと。

そこで、日本の飲み水の現状を、聖徳大学教授の佐々木弘子さんに聞きました。佐々木さんは、日本市場に出回るミネラルウォーター類の性状を調査した経歴のもち主。また、水道水についても、いま千葉県が水道水の質的向上を目指す一環として開いている「おいしい水づくり推進懇話会」の座長もつとめています。

日本では、安全であることを前提に、「おいしい」ことと「健康によい」ことが、飲み水を選ぶときの尺度になることが多いようです。

記事で、佐々木さんは、水が「おいしいかどうか」と、水が「健康によいかどうか」の尺度をつぎのように話しています。
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「おいしいかどうか」の尺度は、カルシウム、カリウム、二酸化ケイ素が含まれるほど、また、マグネシウムや硫酸イオンが含まれていないほど、おいしいというものです。

「健康に良いかどうか」の尺度は、カルシウムが含まれるほど、また、ナトリウムが含まれないほど、健康に良いというものです。
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この尺度の背景には、大阪大学で衛生工学などを研究していた橋本奨さんという方が編みだした、「おいしさ」と「健康のよさ」をはかる計算式があります。


それぞれ、Caはカルシウム、Kはカリウム、SiO2は二酸化ケイ素、Mgはマグネシウム、SO4は硫酸イオンを、また、Naはナトリウムをさします。


上の式で、「おいしい水指標」が、2以上だと、その水は「おいしい」といえるといいます。

上の式で、「健康な水指標」が、5.2以上だと、その水は「健康によい」といえるといいます。

佐々木さんの研究チームは、市販のミネラルウォーター類500種類ほどの性状を調べてきましたが、その調査でも、この橋本さんの「おいしい水指標」と「健康な水指標」を使ったといいます。

これらの物質の含有量は、ミネラルウォーター類のラベルの成分表示である程度、見ることができるため参考にすることができます。

記事ではほかに、軟水と硬水のちがい、海洋深層水に対する評価、水の味に対する“慣れ”の大きさなども紹介しています。

「『潔癖』な国、日本のミネラルウォーター事情 ミネラルウォーターと水道水の真実(前篇)」はこちらです。

水道水について触れる後篇は下記のアドレス先で2月22日(金)に配信の予定です。

なお、記事では当初、「ペリエ」を炭酸水を加えた水といった趣旨で紹介していましたが、「ペリエ」は天然の炭酸水です。お詫びして訂正します。
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鉄道と航空機の“いま”を地図で追う
グーグルマップなどの地図があたりまえに使われるようになって、さまざまなかたちの地図がインターネット上に現れるようになりました。

なかでも乗りものの“いま”がわかるインターネット上の地図サービスが評判を得ています。



「鉄道Now」は、日本全国で、いま鉄道がどこを走っているかをグーグルマップ上に表したもの。

これは平日の朝8時の横浜駅まわりで鉄道がどこを走っているかを示したもの。JRの京浜東北線や、京急線、東急東横線、それに横浜市営地下鉄などが網羅的に地図のうえに載っていて、毎秒ごとにすこしずつ表示されている電車の印が動いていきます。

ただし、このホームページの「本サイトについて」にあるのは、「本サイトは、鉄道の運行予定情報を基に、現時刻の走行地点を地図上にマッピングしています。この為、実際の鉄道運行地点とは異なることがありますので、ご注意願います」という注意書き。

鉄道のダイヤグラムが公表されているため、それに従って「いまはここを走っているはず」という位置を示しているわけです。ある鉄道が大雪で遅れて「鉄道なのに大渋滞」といった状況までは地図には反映されないわけです。

とはいえ、鉄道がいたるところで動いているのを、まるで生きものが動いているように見る人も多いことでしょう。

いっぽうで、航空機がどこを飛んでいるかを“リアルタイム”で見ることのできるホームページもあります。「flightradar24」というもの。


こちらもインターネットでの地図上に航空機のマークが示されています。そして、こちらもおよそ2秒ごとにその航空機の印が動いていきます。

動いている航空機の印をクリックすると、その航空機の機名や便名、どこからどこまで行く便かなどの詳しい情報を見ることもできます。そして、その航空機がたどったルートも見ることができます。

「Flightradar24」が人びとに驚かれているのは、地図で示されている位置情報が、まさに“いま”の状況であること。着陸する飛行場が混んでいて“空で待機”などといった状況もわかるわけです。

航空機が「ADS-B」(Automatic Dependent Surveillance - Broadcast)という電波システムを発しており、その電波を専用の機械で受信しているために、このようなことができるわけです。

いまはまだすべての航空機にADS-Bが付けられているわけではありませんが、これから航空機にはかならず付けることになっているため、より多くの航空機がインターネットの地図上に示されていくことでしょう。

「鉄道Now」はこちらです。
「Flightradar24」はこちらです。

参考記事
ゲームやりすぎ 2011年9月21日付「飛行機の現在位置をリアルタイムでウォッチできるサイトが面白い」
参考ホームページ
www.CFIJapan.com「『ADS-B』って何だろうか?」
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「遺伝的変異がもっとも存在するところが起源」


植物図鑑などを見ると、「原産地は中国東北部」や「起源地はインド北西部」などのように、起源についてのことばがついています。こうした情報がついているのが当然と思えばなんともありませんが、どのように特定していったのでしょう。

栽培植物の起源地を定める研究にとりくんだのが、ソビエト連邦(いまのロシア)の植物学者だったニコライ・バビロフ(1887-1943、写真)です。

社会主義国のソ連において、「食べものを安定的に保つためには、いろいろな遺伝資源を保っておくことも大切だ」と考えたバビロフは、世界のさまざまなところをまわり、植物をじっくり見ていきました。

その結果、バビロフはつぎのような結論にいたったといいます。

「もっとも多くの作物の変種、すなわち遺伝的変異の存在するところがその種の起源となっている中心地である」

栽培植物は、改良してより栽培に適するものにするため、大きな変異をもちます。さまざまな変異があるということは、それだけ変異の裾野が広いことになります。裾野が広ければ、その山のいただきも高いものになる、というわけです。

そして、バビロフは地球のなかのつぎの8つの地域が、とくに栽培作物の起源地であるとしました。中国、インド、中央アジア、中近東、地中海沿岸、エチオピア、メキシコ南部、ペルーやボリビアです。

このバビロフの説に対して、べつの説を唱える研究者もいました。米国の植物学者ジャック・ハーランは、「バビロフがいうよりも、もうすこし広い範囲のなかで複数の植物が起源になっていそう」と唱えたのでした。

これらの説に対して、現在では遺伝子を解析する技術などが進み、結論が出ました。バビロフが唱えた「もっとも多くの作物の変種、すなわち遺伝的変異の存在するところがその種の起源となっている中心地」という説は、「そう外れてはいない」ということに落ち着いています。

参考文献
久米新一「資源生物科学概論A
参考ホームページ
日本植物生理学会みんなのひろば「植物の原産地とストレス耐性について」
吉田智彦ホームページ「作物学ノート(作物栽培)」
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(2013年)3月2日(土)は「バイオクリマ研究会 研究成果発表会」


催しもののお知らせです。

「バイオクリマ研究会 第16回研究成果発表会」という会が、(2013年)3月2日(土)に東京・駒沢のいであ株式会社GEカレッジホールで行われます。主催は同研究会で、協賛は日本生気象学会。

バイオクリマ研究会は、一般市民に気象や気候や環境などについての調査・研究及び情報の提供に関する講演会や講習会などの企画を催す特定非営利活動法人。気温や気候の変化による病やその予防法などを普及させることなどを目指しています。

気象と体の健康の関係を研究する学問は「生気象学」といわれます。協賛の日本生気象学会のホームページによると、国際生気象学会という国際的なべつの学会が1955年の第1回大会で、「大気の物理的、化学的環境条件が生体に及ぼす直接、間接の影響を研究する学問が生気象学である」と定義したとされています。

協賛の日本生気象学会の歴史も古く、1962年(昭和37年)に創立されました。

研究成果発表会の特別講演では、「福祉に貢献する生気象学」を主題に、兵庫県立大学環境人間学部環境人間学科教授の土川忠浩さん、日本大学生産工学部建築工学科助教の三上功生さんが登壇し、さらに総合ディスカッションも行います。

また15時30分からのシンポジウムでは、「様々な気象環境下における暮らしの中の女性の健康」という具体的な主題で、数名の研究者が登壇して話しあいます。座長は、慶応義塾大学医学部助教の舟久保恵美さんがつとめます。

午前中に行われる一般後援者も募集中とのことです。

参加費は1000円。懇親会費は2000円で、学生や大学院生は半額とのこと。

「バイオクリマ研究会 研究成果発表会」は、3月2日(土)いであ株式会社GEカレッジホールにて。同研究会の詳しいお知らせはこちらです。
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グラフの印象は操作されやすい
なにかの傾向などを伝えたいとき、人はグラフという表現方法で伝えることがあります。

たとえば、ある年からある年にかけての、ものの売上の移りかわりを伝えたいときがあります。「1995年は何個、1996年は何個、……2010年は何個、2011年は何個」と、文字で表現することもできますが、これだと十何個も数値を羅列していかなければなりません。いっぽう、これを折線グラフや棒グラフで示せば、その傾向が一目瞭然となるわけです。

しかし、グラフで伝えるときは、その情報を伝えられる側も、伝える側も、心しておいたほうがよいことがありそうです。それは、グラフの表現のしかたで印象が変わってくるというものです。

たとえば、ある新聞では、「漫画誌の総売上金額」を、つぎのようなグラフで表現しています。

新聞に掲載されたグラフ

これを一目すると、2011年の漫画誌の総売上金額は、1995年にくらべて、数分の一に減ってしまったような印象を受ける人は多いでしょう。

注目すべきは、0億円から1500億円の間に、省略の印があること。そして、その省略の印のすぐ上の目盛に近いところに、2011年の数値が置かれていることです。

グラフを省略せずに表現すると、1500という目盛の下に、上で示した省略型のグラフに、さらに2倍の面積が存在することになります。すると、グラフはつぎのようになります。

数量の省略せずに表現したグラフ

省略しないグラフでも、たしかに、漫画誌の総売上金額は確実に減っているということはわかります。しかし、漫画誌の総売上金額が奈落の底に落ちるほど下がっているわけではないことも一目でわかります。

数値やデータというものは、人に納得をさせる力をもっています。それと同時に、伝えたい情報を操作しやすい対象にもなります。
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日本からの侵入植物を抑えるため日本から昆虫を導入


その土地になかった生きものがすみついて、その土地にいた生きものに影響をあたえる問題を、「外来侵入種の問題」といいます。

よそから来た生きものは“新天地”に天敵がいない場合が多くあります。その場合、よそから来た生きものの数はどんどん増えていき、その土地にもともといた生きものを追いはらってしまうことさえあります。

日本で暮らす日本人は、つい外来侵入種の問題を「日本は被害を受ける側」と捉えてしまうものかもしれません。よく知られる外来侵入種に、セイヨウタンポポ、セイタカアワダチソウ、ブラックバス、アメリカザリガニなどがあります。これらの植物や動物は、日本にもともといた植物や動物の住みかをつぎつぎと追いはらっており、日本人は問題視しています。

しかし、「外国から日本に生きものがやってくる」という見方の方向を反対にすれば、「日本から外国に生きものが行く」ということになります。

実際、もともと日本で生まれ育った生きものが、外国の土地で“日本からの外来侵入種”としてはびこるということも起きているのです。

イタドリという植物が外国ではびこっているのは、その例のひとつ。イタドリは、タデ科の多年草で、さまざまなところに生え、根や茎を長くはわせます。若い芽を食べたり、根を利尿や健胃などの薬として使ったりすることもできます。

日本で育っていたイタドリが19世紀、英国へとあたりました。人の手によって、観賞用として英国へわたったのです。

もともと、イタドリはどんなところにでも生えます。19世紀には、いまにくらべて「外来侵入種を放っておくべきでない」という意識もほぼなかったことでしょう。英国でイタドリはぐんぐんと生きる場所を広げていきました。

いまでは英国内でイタドリが舗装道路を突きやぶったり、空地や川などを広く埋めつくしたり。その“傍若無人”ぶりが目にあまるように。日本から英国へとわたった植物が外来侵入種の問題になっているわけです。

2010年には、英国の環境・食糧・農村省が、イタドリの“天敵”を日本から輸入することを決めました。イタドリをよく餌にしているのは、イタドリマダラキジラミというキジラミ科の虫。体長は2ミリメートルほどで、小さなセミのような姿をしています。“生物の農薬”としてイタドリの駆除に一役買ってもらおうと、日本にすむイタドリマダラキジラミを英国にもってきて放すことにしたのです。

イタドリマダラキジラミもまた英国にとってみれば外来種。放つことにより、生態系に影響はないのでしょうか。この心配に対しては、あらかじめ検討され、イタドリ以外の植物や動物に害を及ぼすおそれはないという結論になったといいます。

その後、英国でイタドリマダラキジラミの実験的な導入が進みました。2012年9月の英国での報道では、イタドリマダラキジラミは英国内で「うまくやっている」(coping well)といいます。

しかし、スコットランドでは、たとえ実証実験がうまくいった生きものであっても、外来種であるかぎりは導入できないとする新しい法律もつくられました。もちろん、イタドリマダラキジラミもこの例に入ります。

イタドリが英国へ行って100年以上、イタドリマダラキジラミが英国へ行って2年半。このふたつの日本産の生きものが英国でどのような運命になるか、その結論をいうには早すぎのようです。

朝日新聞 2010年3月16日付「イタドリぐんぐん、英国迷惑 駆除に日本産キジラミ投入」
ジェイシーネット2010年3月11日付「英国、植物のイタドリ対策に日本から昆虫輸入へ」
VVise「Imported insects control Japanese knotweed」
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高機能セパレータを韓国で製造、帝人――リチウムイオン電池セパレータのメーカー動向(10)


リチウムイオン電池用セパレータの機能性を追求しているメーカーの一つが帝人です。

帝人は、高機能繊維・複合材料や電子材料・化成品などを製造する企業。ヘルスケアや情報技術などの事業も進めています。1915(大正4)年、東工業米沢人造絹糸製造所という絹糸工場が立ちあがったことが、沿革のはじまりとされています。

セパレータ関連で、帝人はまず2007年に、「安全性の高い」セパレータを開発したと発表しました。セパレータの温度が150度を超えると発火してしまう場合もあります。いっぽう、帝人の開発したセパレータは250度でも膜が破れず、さらに350度で処理しても穴が空かないことが実証されたとしています。

これは、帝人が開発していたメタ系アラミドという耐熱性に強い合成樹脂を、ポリエチレンの間に挟んで3層構造にしたもの。2007年の発表では、サンプル供給を実施しながら、2010年度からの本格的な事業化を目指すとしていました。

つぎに主だった動きが見られたのは、2012年2月。帝人は新たに、フッ素系化合物のコーティングにより耐熱性や易接着性などの性能を備えたセパレータを開発したと発表しました。2007年に発表したセパレータとともに、「リエルソート」というブランド名もつけました。

新たに開発したセパレータについて、帝人は「タブレットパソコンやスマートフォンなどに使用される、ゲル状のポリマー電解質を有するラミネート型リチウムイオンバッテリー向けに開発されたもの」としています。

さらにおなじ発表で、帝人は韓国や中国の市場を視野に入れて、韓国に生産会社と販売会社を設立したことを伝えています。

生産会社は、「Teijin CNF Korea」で、韓国のフィルム加工会社であるCNFとの合弁によるもの。この会社の本社所在地は忠清南道牙山市。その後の発表で、2012年7月9日から上記の2種類の「リエルソート」の生産を開始したと伝えました。

販売会社は、「Teijin Electronics Korea」で、こちらは帝人100%出資の企業。本社をソウル市に構えました。

帝人は、タブレットコンピュータや自動車などに必要な高容量で高エネルギー密度のリチウムイオン電池に向けて、今後幅広く採用拡大をはかっていくとしています。2020年には売上高200億円を目指すという具体的な数値目標も掲げています。つづく。

参考記事
帝人 2012年7月9日「革新的セパレータの韓国合弁工場が稼働開始」
帝人 2012年2月6日「拡大するリチウムイオン2次電池に向けて 革新的セパレータの開発と事業化について」
帝人 2007年2月21日「異常発熱による発火事故を防ぐ安全性の高いLIB用セパレータを開発」
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数をこなす以上のことをして人をうならせる


仕事をやりはじめたうちは相手から満足されなかったり、自分自身で納得できなかったりすることもあります。そのうち、その仕事に慣れてくると、相手に満足してもらったり、自分で納得できたりすることも増えていきます。つまり上達するわけです。

仕事の上達を目指すうえでは、「仕事を多くこなす」はひとつの効果的な方法でしょう。しかし、より上達速度を高める方法もありそうです。それは自分の心のもちようと関係しています。

ある写真家は、取材の現場で工夫に工夫を重ねて、取材のたびに取材対象者をうならせていました。「うーん、これはすごい。たんなる製品がこんなにかっこよく撮れるとは」。

その写真家の手にかかれば、丈の短い管が写真のなかでは長い管に見えたり、なんの取り柄もないような瓶が写真のなかでは芸術品に見えたりするのでした。撮影後の画像を加工をして管を長く見せたり、瓶を芸術品に見せたりするのではありません。取材現場でのレンズ選び、カメラの角度の調整、光の当て具合などにより、人をうならせる写真をつくりこむのです。

なぜ、その写真家は人をうならせる写真を撮ることができるようになったのでしょう。

取材の帰り道に、その写真家はそっとつぶやきました。

「僕は毎回の取材に臨むたびに、前回の取材よりもうまく撮ることを目標にしているのです」

ランニングで毎回おなじ距離を走るたびに、前回の時間よりも短い時間を目指して走る。これをくりかえすことができれば、ただ走ることを積みかさねるだけよりも、スタミナや走る技術の上達速度は確実に高まることでしょう。

これとおなじように、毎回おなじような取材に臨むたびに、前回の取材よりもよい写真を撮る。それをこのカメラマンは目指していたのです。これをくりかえすことができれば、取材の数をただこなすだけよりも、撮影技術の上達速度は確実に高まることでしょう。

走ることとちがって、撮影では上達したかどうかを数値で表わすことはなかなかできません。しかし、この「前よりもよく撮る」という気がまえをもちつづけることが、撮影技術を高めることにつながっているのはまちがいなさそうです。

前回よりも今回、今回よりも次回。このように取材に臨んでいった結果、この写真家は、取材現場で取材対象者から「うーん、これはすごい」といわれるまでになったわけです。
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三菱樹脂と共同で事業化、三菱化学――リチウムイオン電池セパレータのメーカー動向(9)



リチウムイオン電池用の材料をつくるメーカーのなかでも、三菱化学は、正極材、負極材、電解液、セパレータという4種類の主要部品すべてを事業化している世界唯一の企業です。このブログでの「リチウムイオン電池正極材のメーカー動向」「リチウムイオン電池負極材のメーカー動向」「リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向」というシリーズですべて登場しました。

セパレータについては、2008年11月、三菱樹脂と共同でリチウムイオン電池用セパレータを共同開発したと発表し、セパレータ市場に参入することを示しました。

この共同開発で、三菱化学は、電池性能の評価、市場開発を担当。いっぽう、三菱樹脂のほうは、量産化を担当。滋賀県長浜市の長浜工場にセパレータ量産化検討設備を設置。量産化に向けてさらに10億円を投資して、年間での生産能力を1200万平方メートルとし、2009年夏からの生産開始、2009年度中の本格採用を目指すと発表しました。

セパレータの開発技術自体は、三菱樹脂が培ってきたものといえます。2社は「従来の湿式法と乾式法の課題を改善し、孔の高次構造をコントロールした膜になっており、低温出力、サイクル寿命等の諸電池特性と機械的強度とのバランスの良さが特長」としています。

その後、2012年7月には、おなじ三菱樹脂の長浜工場内に、2系列目となるセパレータのラインを設置した新工場が竣工したと報じられました。この新しいラインの年間での生産能力は1500万平方メートルで、2008年発表のラインと合わせて、2700万平方メートルとなります。25億円を投資したといわれています。

さらに、長浜工場では、3系列目となるラインの新設も2015年までをめどに考えられていると報じられています。

三菱化学と三菱樹脂。同系列の企業どうしの連携で、セパレータづくりの強化をはかっています。つづく。

参考記事
三菱化学・三菱樹脂 2008年11月26日付「リチウムイオン二次電池用セパレータを共同開発 三菱樹脂が量産設備を設置し、2009年夏より生産開始」
Response 2012年7月25日付「三菱樹脂、リチウムイオン二次電池用セパレータの新工場が竣工」
化学工業日報 2012年11月9日付「三菱樹脂 セパレーター 蓄電池向け採用にめど」
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否定的なメール内容を件名にあえて書かず


電子メールの「件名」には、さまざまな書かれかたがあります。

もっとも多いのは、受けとったメールの件名でそのまま返信するものでしょう。つまり「件名を新たには書かない」。この場合「返信」の“Reply”を意味する「Re:」という文字と記号が件名のあたまにつきます。

墨つきかっこ(【 】)を使う人も多くいます。ここに「【同窓会】」のように、メールの主題を記す人もいれば、「【至急】」や「【要返信】」のようにメールの重要性を記す人もいます。あるいは「【山本さんへ】」のようになぜか宛名を書く人も。

さまざまな意味のことばが入ることからすると墨付きかっこは、注目を引くための手段といえそうです。

墨つきかっこの外でも、いろいろな表現のしかたがあります。

混在しがちなのは、メール本文の結論を示す件名書きと、示さない件名書きです。

メール本文の結論を示すかたちの表現は、たとえば「次回会合2月8日(金)13:00ホテルロビーで」といったもの。相手に伝えたい具体的な内容を件名に記すわけです。

いっぽう、メール本文の結論を示さないかたちの表現は、たとえば「次回会合の日程ついて」とか「次回会合の日時決定」とかいったもの。受信者がこの件名を見ただけでは、「いつ、どこで」会合が行われるのかまではわかりません。メールの本文を見てはじめて、その内容を知ることができます。

ビジネスの世界では、メール内容がわかるように件名を書くべきとされているようです。そのほうが相手にとっても読んでもらいやすい、といったことがあるのでしょう。

しかし、すべてがすべて、メール内容がわかるように件名をすんなり書けるというわけではありません。否定的な内容のメールを相手に送るとき、「メール内容がわかるような件名」を書くのをためらう人は多そうです。

たとえば「コンペティションに落選した」という報告をメールで連絡するとき、メール内容まで書くとすると「コンペ選しました」となります。件名にこう書くのをためらう人は「コンペの結果報告」などと書くでしょう。

さらに、「あなたを採用しないことが決まった」という不採用通知をメールで連絡するとき、メール内容まで書くとすると「【誰々様】不採用です」や「【誰々様】採用を見送ります」となります。件名にこう書くのをためらう人は「【誰々様】採用試験の結果通知」などと書くでしょう。

否定的な内容のメールで件名にその内容を書くのを避けるのは、いきなり否定的な結論を伝えることへのためらいの表れといえそうです。「いいづらいことはなかなかいわない」という心情が、メールの件名にもあらわれるのでしょう。
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生産能力を大幅増強へ、住友化学――リチウムイオン電池セパレータのメーカー動向(8)



化学メーカーの住友化学は、リチウムイオン電池関連の材料では、希少なコバルトを使わずに正極材を製造する企業として注目を集めています。連載「リチウムイオン電池正極材のメーカー動向」でもとりあげました。

しかし、正極材だけではありません。住友化学はリチウムイオン電池用のセパレータもつくっています。セパレータの製品名は「ペルヴィオ」といいます。このセパレータは、ポリオレフィンを基材としてアラミドという合成繊維の耐熱層を組み合わせたもの。住友化学は耐熱性の高さをうたっており、従来のセパレータが130度で機能を失うところ、ペルヴィオは耐えられるとしています。

2006年8月、住友化学はセパレータ製造施設を完成させ供給を開始しました。そして、2007年11月には、生産設備の増強をして、本格事業化に乗り出すことを発表しました。生産拠点愛媛県新居浜市の愛媛工場で、発表では、2009年年央までに、年2500万平方メートル規模の生産能力をもつようにするとしていました。

住友化学の事業部長が取材を受けた記事によると、住友化学は2008年の世界的な金融危機によって、2009年初頭までセパレータの受注量も落ちていましたが、その後は受注量を回復したといいます。

そして2012年12月になると、大きな動きが報じられました。セパレータの生産能力を2012年度に6割増強するというのです。愛媛工場の生産能力を、現状の3000万平方メートルから2000万平方メートル引き上げ、計5000万平方メートルにすると伝えられています。

また、おなじ報道では、中国でも液晶用導光板などを生産していた江蘇省無錫市の「住化電子材料科技(無錫)」に、セパレータの加工拠点を新設し、稼働を始めたといいます。

住友化学は2012年12月に、セパレータや正極、負極のコーティングに適した高純度アルミナの製造設備を、韓国・益山市に新設することも発表しています。2013年4月から稼働を開始させる予定としています。つづく。

参考記事
Tech-On 2010年1月14日付「Liイオン電池の将来を各社に聞く 第2回 住友化学 耐熱セパレータやCoフリーの正極材料が重要な役割を担う 住友化学 赤堀金吾氏」
中国機械工業最新情報 第66号2012年2月28日付
住友化学 2007年11月26日「リチウムイオン二次電池用セパレータの本格事業化について」
住友化学 2012年12月「韓国におけるリチウムイオン二次電池材料用 高純度アルミナの製造設備の新設について」
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アナグマはイタチ科、ハナグマはアライグマ科
(2013年)2月1日のこのブログの記事「東京23区内でタヌキのほかアナグマも目撃さる」で、動物ジャーナリストの宮本拓海さんが東京23区内などでの野性哺乳動物の目撃情報を集め、ホームページ「東京タヌキ探検隊!」で発表したことを伝えました。

この記事では、東京23区のいちばん南にある大田区で「確実なアナグマの目撃情報を得られた」という発表内容も伝えました。

この記事でアナグマとして掲載していた画像について、宮本さんから「これはアナグマではありません」という指摘がありました。

まず、あらためて「ニホンアナグマ」の正しい写真はこちらになります。


ニホンアナグマ

ニホンアナグマをふくむアナグマは、イタチ科の哺乳類。1日の記事のとおり、斜面や崖などに巣穴を掘って生活をします。背は褐色で、腹は黒色、頭と胴の長さは50センチメートルほど、さらに尻尾の長さが20センチメートルほどあります。

「東京タヌキ探検隊!」で、宮本さんは「ニホンアナグマ」について、タヌキやハクビシンなどのほかの哺乳類とくらべて「顔の黒模様は目の周辺だけ」「ツメが鋭い」「脚は短い」などと解説しています。また、日本に生息するアナグマは「ニホンアナグマ」であり、「ネット検索する時には『アナグマ』ではなく『ニホンアナグマ』で検索した方が見分けるための役に立つでしょう」と説いています。

いっぽう、1日付のこのブログの記事で誤って掲載していた写真はこちらになります。

ハナグマ

こちらは「ハナグマ」というべつの哺乳動物。ハナグマは、アライグマ科で、中南米に数種類がすんでいます。

ハナグマはアライグマ科。しっぽにはアライグマにも見られる「輪状斑(りんじょうはん)」という白黒のわっかのはんてん模様があります。アナグマにはこの輪状斑はありません。また、アライグマ科のハナグマは、アライグマ科のアライグマより口先が長いため、この点でアライグマとも見分けがつきます。とはいえ、外来種としてすみつかないかぎり、日本には野性動物としていないことになりますが。

記事で誤って「ハナグマ」の写真を「アナグマ」の写真として掲載していたのは、写真提供サービスの説明に「ハナグマ」とあった写真画像を、正しいかどうか確認せずダウンロードして掲載したためでした。記事に誤って掲載していた画像について、あらためてこの記事で説明するとともに、お詫びします。また、宮本さん、ご指摘ありがとうございました。
| - | 18:17 | comments(0) | trackbacks(0)
日立マクセルと合弁で製造力強化、宇部興産――リチウムイオン電池セパレータのメーカー動向(7)


リチウムイオン電池用セパレータをつくる各メーカーの動向を追っています。

「リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向」で紹介した、電解液市場シェア最上位にいる宇部興産は、セパレータの製造も行なっています。

宇部興産がつくるセパレータは、ポリオレフィン多孔フィルムで、製品名は「ユーポア」といいます。溶剤や無機フィラーなどを使用しない「ラメラ晶延伸法」という乾式法による製造、ポリエチレンとポリプロピレンの積層による低温シャットダウン性と高温耐熱性、一軸延伸法による低収縮性などを特徴としています。

宇部興産は、2011年1月、日立マクセルとの間でリチウムイオン電池用セパレータの製造・販売行う合弁会社の設立で合意したと発表しました。同年2月1日に「宇部マクセル」が設立され、出資比率は宇部興産51%、日立マクセル49%としています。本社所在地は京都府大山崎町。

宇部興産には、自社で開発してきたセパレータの積層膜に、マクセルが磁気テープなどで培ってきた分散塗布技術を利用して無機微粒子によるコーティング膜を形成することにより性能を高めるねらいがあります。高温耐熱性の向上や、異常発熱時の熱収縮低減や電池内部での短絡防止が可能になるといいます。

2012年4月には、大阪府堺市の堺工場で、セパレータ設備を新たに増強することに着手したと発表しました。2014年度末には、既存の宇部ケミカル工場と合わせて、年間の生産能力を2億平方メートルにするとしています。また、宇部マクセルの塗布型セパレーター用基材も堺工場より供給する予定です。つづく。

参考記事
宇部興産 2011年1月14日付「リチウムイオン電池用塗布型セパレーター合弁会社設立」
宇部興産 2012年4月5日付「堺工場でのリチウムイオン二次電池用セパレーター設備増強について」
参考ホームページ
宇部興産「ポリオレフィン多孔フィルム『ユーポア』」
| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)
乗客の便利「小幅な遅れで済む」と「とにかく定時に遅れない」の両論


欧州などの外国にくらべ、日本の鉄道は定められた時刻に駅を出て、定められた時刻に駅に着くといわれています。

しかし、朝の通勤時間には、定められた時刻に駅を出たり駅に着いたりできない路線もあります。客が多すぎて駅での乗り降りに時間がかかったり、それにより列車が渋滞を起こしてしまったりするためです。

毎朝のように遅れる路線をいつも使っている人は、これまでの経験から余裕をもって1、2本まえの電車に乗れば、会社の終業時刻に遅刻するといったことを防ぐことができます。

しかし、たまたまその路線沿いの会社で朝から商談があり、はじめてその路線を朝の時間に使うような人もいます。

はじめてその路線に朝に使う人は、商談の時刻に遅れないようにと、前の日の夜にインターネットの路線情報などを見て調べます。「9時ちょうどに集合だから、8時50分に最寄り駅に着く電車に乗ればだいじょうだな」。

しかし、その列車は、朝の通勤時間帯に、毎日のようにおよそ10分の遅延を起こしていたのでした。はじめてその路線を朝に使う人は、そのことを知りません。そして当日、商談先の最寄り駅に電車が着いたときは、すでに9時ちょうど。こうして、この人は商談に遅刻をしてしまいました……。

このような客が実際にいることを考えて、朝の時間の列車運行ダイヤグラムを、“理想主義”から“現実主義”にきりかえる動きもあります。

たとえば東京地下鉄の西船橋駅と中野駅を結ぶ東西線では、2009年のダイヤ改正で、列車の停車時間を実態に合わせて見なおし、あとにつづいてくる列車に影響をあたえないようにしたといいます。

このダイヤ改正により、東西線が朝の時間にダイヤグラムより大幅に遅れることはすくなくなったといいます。しかし、「すくなくなった」でよいのかどうか。この路線を使っている、ある人は言います。「大幅な遅れは減ったけれど、小幅な遅れはいつものようにある。数分間の余裕をもっていないと、いまだに痛い目にあう」と。

日本という社会は、列車が定められた時刻に駅を出たり駅に着いたりすることを前提に成りたっています。「大幅な遅れはすくなくなり、小幅な遅れで済むようになった」ということのほうがよいのか、それとも「さらにダイヤグラムに余裕をもたせて、ふつうに運行すればとにかく定時から遅れない」としたほうがよいのか。事情は人それぞれなので、むずかしい課題でしょう。

参考文献
稲川真範、富井規雄、牛田貢平「列車運行実績データの可視化」
| - | 23:28 | comments(0) | trackbacks(0)
東京23区内でタヌキのほかアナグマも目撃さる
動物ジャーナリストの宮本拓海さんが、2010年から2012年までの東京都23区内でのタヌキ、ハクビシン、アライグマなどの野生哺乳類の目撃情報を集計した結果を、自身のホームページ「東京タヌキ探検隊!」で(2013年)1月に発表しました。

宮本さんは毎年、東京をふくむ全国でのこれらの動物の目撃情報を集めてこの時期に発表しています。

東京23各区の面積や自然状態はさまざまですが、そのなかでももっとも多くタヌキの目撃情報が寄せらた区は杉並区で、3年間で110件だったそうです。つぎに世田谷区の73件、そのつぎに新宿区の41件とつづきます。いっぽう、墨田区、江東区、品川区、荒川区、葛飾区といった海沿いあるいは下町の区では目撃情報は0件です。

宮本さんはタヌキについて、その長距離移動を特筆しています。一般的にタヌキは、半径数百メートルの範囲を動きまわるといわれています。しかし、「定住地と推定される場所から1キロメートル以上離れた場所で発見された例もある」といいます。

その具体例としてあげているのは、秋葉原の美倉橋で目撃されたタヌキ、神田駅近くで目撃されたタヌキ、大手町のビルの地下で目撃されたタヌキ、東京オペラシティ近くで複数の人に目撃されたタヌキ、渋谷区本町で目撃されたタヌキ。「都会のどまんなかにタヌキが!」と驚く人もいるでしょう。しかし、これらの目撃場所の近くには、川、皇居、緑地などがあります。

宮本さんは、「これらの事例からは、タヌキは秋に1キロメートル以上を移動することがあるとわかる。ただしその事例は少ないことから、多くの場合の移動距離は1キロメートル以内であろうと推測できる」としています。

ほかの野性哺乳類については「確実なアナグマの目撃情報が得られた」といいます。これは、大田区の、付近に斜面・崖地形があるところで2012年に目撃されたもので、写真があるとのことでアナグマと確認したそうです。

アナグマは、イタチ科の哺乳類。斜面や崖などに巣穴を掘って生活をします。背は褐色で、腹は黒色、頭と胴の長さは50センチメートルほど、さらに尻尾の長さが20センチメートルほどあります。

宮本さんはこれまで、東京都23区内にはアナグマは生息していないと考えてきました。しかし、この目撃情報を確認して、「しかし大田区で生息が確認されたということは、他にも個体群が生息している可能性があることを示唆している」と述べています。

宮本さんの情報収集と発表の活動などにより、東京などの大都会にもかなりの数の野性哺乳動物が暮らしていることがわかってきました。「タヌキだけではなく、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなども平等に扱っている。また地域も日本全国を対象にしている。皆さまのご協力をお願いします」とよびかけています。

「東京タヌキ探検隊!」ホームページ「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2013年1月版)」はこちらです。
| - | 23:45 | comments(0) | trackbacks(0)
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