科学技術のアネクドート

無効票で「後悔」の念をもたない


2012年には、12月に衆議院選挙がありました。この選挙で、自民党が圧勝し、ふたたび安部晋三さんの政権が始まっています。

この選挙の特徴として、候補者を立てた政党が12にのぼったことや、インターネットによる党首討論が行われたことがいわれています。

もうひとつの特徴としてあげられるのが、無効票が多かったことです。小選挙区では、全体の3.31%にあたる204万票が無効票だったといいます。これまでの国政選挙で無効票が3%を超えたことはありませんでした。

無効票とは、投票用紙になにも書かれていない白票や、候補者や政党の名前以外のことが書かれた票のこと。これらは当然ながら、得票としては数えられません。

候補者から議員を選ぶという作業を考えたとき、無効票の存在は意味をなしません。影響があるとすれば、開票者は無効票を除外する分だけ、手間がかかるということです。

しかし、無効票を投じる個人の立場から考えると、この無効票にはまたべつの意味をあたえることができそうです。

「選挙」とは、多人数のなかから票を投じることなどにより適任者を選びだすこと、という意味。この意味からすると、意図的に無効票を投じることは、選挙としての行為からは外れることになります。

しかし、わざわざ投票所まで足を運んで、白票などの無効票を投じた人には、「だれも選ばなかったこと」に対する意識が植えつけられるでしょう。そして、この意識は、ゆくゆくその人のなかで意味をなしてくるかもしれません。

人は、なにかを選んだとき、その選んだものが選ぶまえの期待どおりになれば、「期待どおり」の念が生まれます。しかし、選んだものが選ぶまえの期待どおりにならなければ「後悔」の念が生まれます。

この場合の後悔の念は、自分がなにかを選んだことがもとで生まれてくるもの。もし、自分がなにも選ばずに時を過ごしていくなかでおなじ状況が起きたとしても「自分はこれを選んでしまったのだ」という後悔の念は起きません。

つまり、人は選ぶからこそ、選んだことによる後悔の種が生まれるわけです。

これは選挙についてもいえること。選挙で候補者を選ばなければ、「期待どおり」の念が起きる可能性がないかわりに、選んだことによる「後悔」の念が起きる可能性もなくなります。

ここ数年、選挙で選んだ議員や政党が、ことごとく期待どおりのことをしてくれないという思いを、すくなからぬ有権者は抱いているでしょう。そうであれば、候補者のだれかに一票を投じるよりも、候補者のだれにも一票を投じないほうが、「後悔」の念を抱くことを避けられるわけです。

もうひとつ大きな枠組みで捉えれば、そもそも投票に行かないということもできます。日本では、選挙での投票は、国民の権利ではありますが、義務ではありません。

しかし、選挙権をふくむ権利について、「国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」ということが憲法の第十二条には書かれています。

無効票であっても一票を投じることは、選挙により国政を決める状態に寄与するといえるでしょう。逆に、一票を投じないことは、選挙により国政を決めることに寄与するとはいいがたいもの。ちがいは、投票所に行く「努力」があるかないかです。

投票所まで足を運んで、意図的に白票などの無効票を投じた人は、選ぶことによる「後悔」の念をまぬかれることと、選挙により国政を決める制度を保つことのふたつを、一票分、確かなものにすることができたわけです。

2013年には参議院選挙が予定されています。投票率と白票率はどうなるでしょうか。

参考記事
朝日新聞 2012年12月18日付「投票率最低なのに…選挙区の無効票『過去最高』」

今年も「科学技術のアネクドート」をお読みいただき、ありがとうございました。どうぞよい年をお迎えください。
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2012年の画期的科学成果、素粒子、宇宙開発、生命科学などの分野に
米国科学振興協会発行の科学誌『サイエンス』は、「今年の画期的科学成果」として、きのうの記事で紹介した「ヒッグス粒子の発見」のほか、つぎの9つの成果を掲げています。

「デニソワ人のゲノム解明」。デニソワ人は、ロシア・アルタイ地方にあるデニソワ洞窟におよそ4万1千年前に住んでいたとされる人類。2010年にその存在がわかった新しい人類といえます。そのわずか2年後の(2012年)8月、デニソワ人の完全なゲノム配列が明らかになったという報告がありました。

デニソワ人のゲノムと原生人類とのゲノムもくらべられました。その結果、デニソワ人のゲノムが現生人のゲノムにある程度、関わっていることがわかりました。なかでも、いまパプアニューギニアに住む人には、デニソワ人の遺伝子と共通するものが多かったといいます。

「ゲノムの精密工学」。2012年、研究者は「転写活性化物質様作動因子ヌクレアーゼ」(TALENs:Transcription Activator-Like Effector Nucleases)という核酸分解酵素を使い、ゼブラフィッシュ、カエル、家畜などの動物や患者由来細胞における特定の遺伝子を改変または不活化する技術を手に入れました。

これまで、高等生物のデオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)を改変させたりするには、たいていが“運”まかせでした。このたび、確実に改変・不活性させる技術を人は手に入れたのです。効果的かつ安価な遺伝子改変技術を手に入れたことになります。

「ニュートリノの混合角」。中国の大亜湾ニュートリノ研究プロジェクトの研究者たちが、ニュートリノが高速に近い状態で移動するとき、ある状態からべつの状態へと、どのように変わっていくのかを示すモデルについて、未知の変数を計算でつきとめました。

ニュートリノは、小柴昌俊さんがカミオカンデにより、世界で初めて観測に成功した素粒子です。このニュートリノには、「電子型」「ミュー型」「タウ型」の3種類の「フレーバー」とよばれる状態がありますが、あるフレーバーからあるフレーバーに変わることを「ニュートリノ振動」といい、このニュートリノ振動の大きさを示す変数は「混合角」とよばれています。研究者たちは、「Θ13」という混合角の変数を突きとめたのです。

この研究成果は、なぜ宇宙に反物質がほぼなく物質ばかりなのかを説明することにもつながりそうだといわれています。

「ENCODEプロジェクト」。ENCODE(the Encyclopedia Of DNA Elements)という、国際的な研究プロジェクトが2003年から行われていました。ヒトゲノム上の機能領域を網羅する「ヒトDNAの百科事典」の完成を目指すものです。

このENCODEプロジェクトによる研究の結果、2012年になり、ヒトゲノムが研究者が考えていたよりも「機能的」であることがわかってきました。DNAのうち、たんぱく質をつくる鍵をもつものはゲノムのなかで2%。しかし、ゲノムのうち80%のDNAは活動的で、たとえば遺伝子の発現のオン・オフを助けているといいます。

この研究成果は、遺伝子を制御する方法を理解したり、疾患の原因となる遺伝的なリスクを解明したりするのに役立つとされています。

「キュリオシティの火星着陸」。米国航空宇宙局(NASA:National Aeronautics and Space Administration)のジェット推進研究室の技術員たちは、火星探査機キュリオシティを火星表面に着陸させることに成功しました。

キュリオシティの着陸に使われた装置は「スカイクレーン」というもの。陸上でのもっとも近い装置はヘリコプター。ただしプロペラはなく、かわりに火星の地面に向けられたジェット噴射によってゆっくりと、母機から火星表面に降下していくことができます。このスカイクレーンにキュリオシティを吊るして降下させ、最後に吊るしひもを切断して、キュリオシティを火星表面に着陸させたのです。

「X線レーザーの進歩」。X線は、電磁波のひとつで、小さなものに当てると、その反応から、結晶構造を回析することができます。DNAの二重らせん構造も、X線の回析写真から明らかになりました。

2012年、研究者は、とても精度高く物質の構造を知ることのできるX線レーザーを使って、ブルーストリパノソーマという寄生性原虫が必要とする酵素の構造を知ることができました。ブルーストリパノソーマは、アフリカ睡眠病という病気の原因となる原虫。使われたX線は、いま使われているシンクロトロンという円形加速器の10億倍もの精度(明るさ)といいます。

「生体工学の制御技術」。脳が想い描くことを機械に実行させようとするときの接続部分を、「脳介機装置(ブレイン・マシン・インタフェイス)」といいます。2012年に、この分野で大きな進歩がありました。

体に麻痺を起こした患者が、“想い描くこと”によって、機械の腕を三次元的に複雑に動かす技術が開発されたのです。いまはまだ試験段階ですが、この「神経義手」ともいえる装置を改良していけば、脳卒中や脊髄損傷などの患者の動きを助けることになると期待されています。

「マヨラナ粒子」。オランダの物理学者と化学者による研究チームが、マヨラナ粒子が存在する証拠を2012年に初めて示しました。マヨラナ粒子は、粒子と反粒子がどちらも「スピン1/2」というふるまいを示す中性素粒子のこと。1937年、イタリアの物理学者エットレー・マヨラナがその存在を唱えていました。

このマヨラナ粒子は、いまのコンピュータで使われているビットの単位よりもはるかに効率的にデータ保存などの処理を行うことができると考えられており、量子コンピュータに取り入れる取り組みもおこなわれています。

「幹細胞から卵子」。京都大学医学研究科教授の斎藤通紀さんや准教授の林克彦さんらの研究チームは、マウスを使った実験で、胚性幹細胞(ES細胞)と人工多能性幹細胞(iPS細胞)から卵子をつくり、それらの卵子から子を産みだすことに成功しました。

これまで、メスの胚性肝細胞や人工多能性幹細胞から、子を産み出せるような卵子をつくった例はありませんでした。卵子が形づくられていくしくみを明らかにしたり、不妊症の原因を探ったりすることにつながると期待されています。

もっとも重要な成果とされた「ヒッグス粒子の発見」とあわせて、これら10個が画期的成果としてあげられました。このブログで記事にしたものは「ヒッグス粒子の発見」のみ。さまざまな方向で科学の進歩が起きています。

参考記事
米国科学振興協会『サイエンス』2012年12月20日「Scienceが選ぶ今年の Breakthrough of the Year『ヒッグス粒子の発見』」
米国科学振興協会『サイエンス』2012年8月31日号ハイライト「デニソワ人のゲノムの解明」
理化学研究所 2012年9月6日「国際プロジェクト『ENCODE』がヒトゲノム機能の80%を解明」
京都大学 2012年10月5日「多能性幹細胞から機能的な卵子を作製することに成功」
参考文献
野村竜司「トポロジカル超流動3He-B相の表面マヨラナコーン」
参考ホームページ
BLOG 未来館のひと「ニュートリノ振動で宇宙がわかるわけ」
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2012年の画期的科学成果、第1位は「ヒッグス粒子の発見」

米国科学振興協会(AAAS:American Association for the Advancement of Science)が発行する科学誌『サイエンス』は、(2012年)12月21日(金)、「今年の画期的科学成果」(Breakthrough of the Year)を発表しました。

「今年の画期的科学成果」は、『サイエンス』が毎年、年末に発表しているもの。もっとも重要な成果と、9つの重要な成果を発表しています。昨2011年、同誌は、ヒト免疫不全(エイズ)ウイルスの感染者に対する大規模臨床試験の成果がもっとも重要な成果としてあげました。

そして2012年、もっとも重要な成果として同誌があげたのは、「ヒッグス粒子の発見」でした。

スイスにある欧州合同原子核研究機関(CERN)が7月4日、「ヒッグス粒子」と見られる粒子を発見したと発表しました。1964年、英国エディンバラ大学のピーター・ヒッグスが提唱した理論をもとにする素粒子です。

宇宙が誕生した137億年前、つまり大爆発後の宇宙には、物の重さがありませんでした。素粒子が光の速さで飛び回るだけの宇宙だったとされます。そんな素粒子の動きを鈍らせたのが、ヒッグス粒子でした。

ヒッグス粒子は素粒子にまとわりつくようにして、素粒子の動きを鈍らせました。その結果、素粒子は重さを得るようになり、これがいまあたりまえのように存在する重力の始まりとなったと考えられています。

ヒッグス粒子の発見により、宇宙のしくみを支配する「強い力」「弱い力」「電磁力」という三つの力をまとめて説明する「標準理論」の正しさが、証明されたことにもなりました。

『サイエンス』の報道発表では、研究者は、いかにして素粒子が自身の質量を持つのかを今 年まで説明できなかったとしたうえで、「今年の画期的科学成果」の特集を執筆した同誌ニュース担当者のアドリアン・チャオの解説をこう加えています。

「単に粒子に質量を割り当てるだけでは、この理論は数学的に収集がつかなくなるのです。 そのため、質量は何らかの形で、質量のない粒子そのものの相互作用から出現しなければなりません。それがヒッグス粒子の拠り所なのです」

そして、同誌は、このヒッグス粒子の発見を、もっとも重要な「今年の画期的科学成果」とした理由について、報道発表でつぎのように述べています。

「この発見が今後、素粒子物理学の分野をどこへ導くことになるのかはわからないが、物理学者にとって、この衝撃はもはや無視できないものとなっている。そして、それこそが、Scienceがこのヒッグス粒子の発見を2012年のBreakthrough of the Yearに選出した理由である」

ほかの9つの「今年の画期的科学成果」の内容と意義は、30日(日)付のブログで紹介します。

参考記事
Science “Breakthrough of the Year, 2012”
米国科学振興協会『サイエンス』2012年12月20日付「Scienceが選ぶ今年の Breakthrough of the Year『ヒッグス粒子の発見』」
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「読みたい記事のテーマ募集」は邪道との見方も
雑誌やインターネットニュースなどの記事では、「なにをテーマにとりあげるか」という企画があります。企画とは、計画を立てること、またその計画をいいます。

記事をつくるからには、その記事には読んでくれる読者がいることが前提にあります。そこで企画者は、読者がどんなテーマの記事を読んでくれたら、その記事に満足してもらえるかを考えるわけです。

しかし、読者が読みたい記事と、企画者が読者が読みたいと推測する記事とは、かならずしも一致するわけではありません。すると、読後の反響がいまひとつということもおこってきます。

読者が読みたいと思うテーマの記事にするにはどうしたよいか。ここでひとつの考えかたが浮かんできます。「読者に直接、読みたい記事はなにかと聞けばよいのだ」と。

読者に読みたい記事を聞く機会はいくつかあります。愛読者アンケートに「読みたい記事のテーマはどのようなものがありますか。具体的なテーマを聞かせてください」と募るのもひとつの手。また、読者に直接、会って「あなたの読みたい記事のテーマはどのようなものですか」と聞きだすのもひとつの手です。

しかし、たいていの場合、「読者に読みたい記事のテーマを聞いて記事のテーマを決める」という方法は、邪道な方法と考えられているようです。

記事を伝える原点にあるのは、発信する側が「こんな話があるので読んでください」という思い。「あなたがこのテーマを読みたいと言ったから記事をつくってみました」ということになると、記事づくりの原理原則からは離れてしまうということになります。

ただし、読者がごくかぎられるような限定的な会員誌のような媒体では、「会員が求めているものを具現化する」という方針のもと、読者の読みたい記事のテーマを尊重する場合もあります。

企画者の伝えたい思いと、読者の読みたいという思いが一致したとき、その記事はとてもよく読まれるものになるのでしょう。
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語感と書体がだいたい一致
さまざまなことばは、人びとに感じをあたえるものです。ことばのあたえる感じは、語感といいます。

たとえば、「白骨温泉」ということばについての語感はどのようなものでしょう。

白骨温泉は、長野県の西のはし、乗鞍岳の中腹にある温泉です。よび名に「白」がつくように、温泉の色は白。温泉に含まれる石灰石が湯槽に白くつくために「白骨温泉」の名がついたといいます。

「白」と「骨」そして「温泉」。これらの文字で成りたつ「白骨温泉」のなかで、やはり強い衝撃をあたえるのは「白骨」でしょうか。ここから「骨っぽさ」を語感として抱く人は多いことでしょう。

さらに、「白骨」が置かれているような場所を思い浮かべる人は、「秘境」や「森の中」のどこか茶色っぽい色の語感を覚えるかもしれません。

これに加えて、「温泉」に対して、お湯がゆらゆらと揺らめいたり、湯気がもやもやと立ったりする光景を思い浮かべる人は、さらに「ゆらめき」を語感として抱くかもしれません。

さらには、「骨」から、「ヤッターマンのドクロベエ→ゆらゆらしたあの滝口順平の声」といった連想を続け、「ゆらめき」の語感を強化させる人もなかにはいそうです。

このように「白骨温泉」の語感を重ねていくと、茶色の背景に白い骨が浮かび、それがゆらゆらしているような「白骨温泉」の書体を思い浮かべる人がいても不思議ではありますまい。

たとえば、下にあるような、書体と背景色です。



「白骨温泉」に対して、こうした語感をもって実際に白骨温泉に行ってみると、中には驚く人もいるかもしれません。

「白骨温泉に行ったら、白い骨がゆらゆらしているような文字で書かれた看板が本当にあって驚いた」

その看板を、白骨温泉公式ホームページの写真で見ることができます。こちらこちらです。

実際の「白骨温泉」の看板は、上の画像ほどゆらゆらとはしていません。しかしながら、「白骨温泉」の語感に対する期待や予想を裏切らない看板だと感じる人はすくなくないでしょう。

ひょっとすると、この看板の文字を書いた人も、「白骨温泉」からの「骨っぽい」「森の中」「ゆらめき」といった自分のなかでの語感を大切にしながら、この4文字を表現してみたのかもしれません。
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体を動かす運動で脳のスタミナも鍛える


「タフな人」というと、どのような人を想像するでしょう。「とにかくスタミナがある人」といった印象をもつ人もいるでしょう。

そのときの「とにかく」には、すくなくともふたつの意味がふくまれていそうです。それはつまり、「身体的なスタミナ」と「精神的なスタミナ」のことです。

タフであることをさらに突きつめて考える人には、つぎのような疑問をもったことがあるかもしれません。「身体的なスタミナと、精神的なスタミナはつながっているのだろうか」と。

もちろん、水泳や筋力トレーニングなどでスタミナをつけた人は、生活全般でも疲れにくくなりそうなことは想像できます。しかし、水泳や筋力トレーニングなどでスタミナをつけた人が、集中力や判断力を保ちつづけるといった精神的なスタミナもつけたことになるかはまたべつの問題。心身的なスタミナと精神的なスタミナの関係性は、興味をもつ人にって長いあいだ謎のままも同然でした。

この謎に光をあてた研究成果が、この2012年にありました。筑波大学体育系教授の征矢英昭さんとおなじく筑波大学の日本学術振興会特別研究員である松井崇さんが、「脳神経の活動に不可欠なグリコゲンを運動で超回復できる」という発表をしたのです。

グリコゲンとは、哺乳類にとってのエネルギー源のことで、ごはんなどを食べると肝臓や筋肉に蓄えられることが知られています。じつは、あまり知られていませんが、このグリコゲンは、脳のなかにも存在しています。そして、脳のグリコゲンは、脳の神経細胞のエネルギー源になることが近ごろのべつの研究でわかってきていました。

運動により、筋肉のグリコゲンを増やすことができる。では、運動により脳のグリコゲンも増やすことができるのか。これを測るには、脳のグリコゲンの代謝が速すぎて、まずもって不可能でした。

しかし、征矢さんと松井さんの研究チームは「高エネルギーマイクロ波照射」という方法を駆使して、ラットが運動により筋肉のグリコゲンを増やすと、脳のグリコゲンも増えることを突きとめたのです。

筋肉のグリコゲンのたくわえ量が増えるのは、運動をしたあと筋肉が“超回復”を起こすことにより説明されます。いっぽう実験では、運動をすると脳の大脳皮質や海馬という部分でも、グリコゲンのたくわえ量が増えることがわかったといいます。

征矢さんと松井さんは、「高橋尚子さんのようなエリートマラソンランナーの強さの秘密には、脳のグリコゲン、とりわけ注意・集中や判断力、記憶・学習に関係した脳のグリコゲンが増加している可能性が高いことがうかがわれます」としています。

「運動ができるひとは頭もよい」という俗説をまたひとつ補強するような理論がくわえられたといってよいでしょうか。

参考記事
筑波大学 2012年1月31日付「スタミナをアップする脳グリコゲンローディング 脳神経の活動に不可欠なグリコゲンを運動で超回復できる」
| - | 23:27 | comments(0) | trackbacks(0)
はやぶさもきぼうもちきゅうもひらがなで
国際宇宙ステーションの「きぼう」

科学・技術の分野にかぎったことではありませんが、宇宙探査機や海洋研究船などの名まえに「ひらがな」が使われることが多くあります。

2010年に60億キロメートルの宇宙飛行を終え、地球に小惑星のサンプルをもちかえったのは「はやぶさ」でした。

宇宙開発でいえば、国際宇宙ステーションに日本が送りこんだ実験棟は「きぼう」です。また、金星探査機は「あかつき」といい、地球の陸上を観測する衛星は「だいち」といいます。さらに気象衛星には「ひまわり」の名まえが付いています。

海洋研究船でも、地球の表面を掘削してマントルまで到達させ、サンプルを得る探査船は「ちきゅう」といいます。また、べつの地球研究船には「みらい」の名が。南極観測船には「ふじ」や「しらせ」の名がついています。初代の「宗谷」は漢字でしたが。

これらの名づけには、広く国民に親しまれやすいことばを選ぶことを、命名する機関が強く意識しているようです。

実際、「ちきゅう」を管理する海洋研究開発機構は、海洋科学技術センター時代の2001年、この船の名まえを一般市民に募集するときに、つぎのような応募基準を設けています。

「船名は、和名(ひらがな表記)とし、覚えやすく、発音がよいもの」

はじめから、ひらがなにすることを前提として、最終的に「ちきゅう」としたわけです。

これらのひらがなの宇宙探査機や海洋研究船を、新聞記者の報道者はどのように表記しているでしょうか。

たいていの場合、名まえにかぎかっこをつけて、「はやぶさ」「ちきゅう」のようにします。固有名詞の前後にくるのは、たいてい「は」や「が」や「に」といったひらがなの助詞。「13日にははやぶさは帰還する予定」のように、ひらがなの助詞に、ひらがなの固有名詞がつき、さらにひらがなの助詞がつづくと読みづらくなるので、これをかぎかっこで防ぐわけです。

しかし、名まえを登場させるたびに、何度もかぎかっこをつけていると、かぎかっこだらけになることも。そこで、記事で2回目以降にその名まえを登場させるときはかぎかっこをつけないという方法もあります。

また、細かい技術として「きぼう」を「きぼう棟」として、漢字を1文字、挿入させて、ひらがなが続くのを防ぐといった方法もあります。

人びとがインターネットで情報を得る今日び、検索でほかにもひっかかりそうなことばを名づけないことが、ひとつの名づけかたとされています。ひらがなで表記することは一般名詞と差別化できるものの、宇宙探査機や海洋研究船の名まえの多くは、日常的に使われるもの。

それでもなお、「和名(ひらがな表記)とし、覚えやすく、発音がよいもの」とする利点が大きいと、命名機関は判断しているようです。

参考ホームページ
海洋研究開発機構(旧海洋科学技術センター)「海底を掘って地球の歴史と神秘に挑む“世界最大級の研究船”の船名募集」(募集期間は終了)
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風船も飛ばしかた次第


30年ほど前までは、あちらこちらの催しもので、主催者が「風船飛ばし」をしていました。小学校の行事でも、子どもたちが風船に手紙をつけて飛ばしていました。なかには、遠くの離れた町の人から「手紙、拾いましたよ」と返事をくれるといったことも。

しかし、このところ、風船飛ばしをしている催しものは、ほぼ見られなくなりました。風船飛ばしをしなくなった大きな理由は「環境によくない」と主催者が判断しはじめたからでしょう。人工物を自然に撒きちらすことになるし、鳥が体内に入れてしまうなどの影響もあると考えられてきました。

実際、風船飛ばしは、環境によくないのでしょうか。

ゴム風船が上空に上昇していくと、まわりの気温が凍結して、粉々に分裂して、散り散りに地上に落ちてくるといいます。

そして、地上に落ちたゴム風船の残骸は、自然へとかえっていきます。風船飛ばしのときに使うゴム風船は、ラテックスとよばれるゴムの木の分泌する乳液でつくられています。このラテックスは天然由来の原料で、日光や水によって分解されるもの。

風船関連の企業が結成している日本バルーン協会は、「水素ガスを使わず、ヘリウムガスを使う」「ラテックスを原料とするゴム風船を使う」「止め具にプラスチックなどの生分解しないものは使わない」などのガイドラインを掲げており、「(風船飛ばしは)マスコミ等の誤報で最近では確かに少なくなりましたが、飛ばし方のルールさえしっかり守ればまったく問題ないこと」としています。

風船飛ばしは、環境に配慮した方法をとれば、環境によくないとはいえない、といったところでしょうか。

ただし、「風船飛ばしは環境によくない」と思われている風潮そのものを簡単にふきとばすことはむずかしそうです。主催者が「環境に配慮して風船飛ばしをしています」といって風船を飛ばしたところで、周囲の人びとやメディアがそれを受け入れようとするかという課題がまたありそうです。

日本バルーン協会による「バルーンリリースのガイドライン」はこちらです。
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すくなくない原発利用賛成の人々が自民党に投票
 第46回の衆議院選挙では、自民党が圧勝しました。自民党は、原子力発電政策について、再稼働の可能性を重点政策で掲げています。選挙前には、国民の大きな原発反対の動きが見られました。

原子力発電の利用に反対をうたっていない自民党が、圧勝したわけです。どういうことでしょうか。

朝日新聞社は、選挙が公示されるまえの(2012年)11月26日、原発に賛成する人と反対する人それぞれにわけて、比例区の投票先としてどの政党を選ぶかを聞いた世論調査の結果を発表しています。これは、11月24日と25日に実施したもので、有効回答数は1016人としています。

まず、原発に賛成する人は34%、反対する人は50%、その他・答えないという人が16%になったといいます。

そして、この34%の原発利用に賛成の人では、民主党が12%、自民党が34%、日本維新の会が9%、3党以外が11%、答えない、わからないが34%となったそうです。

いっぽう、50%の原発利用に反対反対の人では、民主党が14%、自民党が14%、日本維新の会が9%、3党以外が16%、答えない、わからないが45%となったそうです。

まずもって、2012年11月の時点で原発の利用に賛成する人が34%にのぼったことに驚きをもつ人も多いでしょう。調査方法については、調査員が電話で「原子力発電を利用することに、賛成ですか。反対ですか」と、質問したといいます。原発利用を反対するという50%の人にくらべればすくないものの、それでも34%が原発の利用に賛成していたというのです。

いっぽう、賛成の人のなかでも、比例区に自民党を選ぶ人が調査の時点で14%いました。ちなみに、調査の時点では、日本維新の会は「原発をフェードアウト」というはじめの政権公約もまだ出ていないときです。また、滋賀県知事の嘉田由紀子さんが党首となり「脱原発」を公約にかかげる未来の党の結党発表もされていないときです。

各党がさまざまな政策を公約として掲げるなかのひとつとして、原発の政策をどうするかがあります。結局、原発のことだけを考えて脱原発や反原発を政策に掲げるような政党に投票をした有権者は多くはありませんでした。

2012年6月に首相官邸の前で「原発止めろ」と連呼した市民の運動は、主催者の発表で「15万から18万人が参加した」といいます。報道機関などはこの運動を大きくとりあげました。

しかし、「原子力発電を利用することに、賛成ですか。反対ですか」と聞いた朝日新聞社の調査結果を数字どおりに受け止めれば、原発利用に賛成の人が34%もいるということになります。この数字を信用するならば、国民の世論は「原発反対一色」とはいえなさそうです。

「国民のほとんどが原発利用に反対」といった印象は、報道の映像などにより植えつけられたものだったのでしょうか。

その3週間後に投票が行われました。国民のほとんどは民主党政権には嫌気がさしていました。国民のすくなからぬ人々はいまだ原発利用に賛成で、原発に反対していない自民党に投票しました。国民の半数ほどは原発利用に反対したが、原発に反対していない自民党に投票しました。これらの結果、有権者の多くが自民党を選んだということなのでしょう。

自民党は、「重点政策」のなかで原発の利用について、つぎのように掲げています。
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「原子力の安全性に関しては、『安全第一』の原則のもと、独立した規制委員会による専門的判断をいかなる事情よりも優先します。原発の再稼働の可否については、順次判断し、全ての原発について3年以内の結論を目指します。安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。

中長期的エネルギー政策として、将来の国民生活に責任の持てるエネルギー戦略の確立に向け、判断の先送りは避けつつ、遅くとも10年以内には将来にわたって持続可能な「電源構成のベストミックス」を確立します。その判断に当たっては、原子力規制委員会が可能か否かを見極めることとを基本とします。
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参考文献
自由民主党「重点政策2012」

参考記事
朝日新聞 2012年11月26日付「原発賛成派『自民に投票』多め 朝日新聞世論調査」
朝日新聞 2012年11月26日付「朝日新聞社世論調査 質問と回答」

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「朝の光を浴びて朝食をとるのが正しい」


日本ビジネスプレスのウェブニュースJBpressで、きのう(2012年)12月21日(金)、「朝の光を浴びて朝食をとるのが正しい」という記事が配信されました。この記事の取材と執筆をしました。

朝食はとるのがあたりまえとなっています。では、そもそも朝食をとると体にどのような影響が起きるのでしょう。こうした疑問を、早稲田大学先進理工学部の薬理学研究室教授の柴田重信さんに答えてもらいました。

柴田さんは、「時間栄養学」という分野の研究を進めています。人をふくむ生物のからだのなかに組みこまれた“体内時計”を重視して、どの時間帯にどのように栄養をとるのが健康のために効果的かを研究する学問です。

記事では、間隔を長く空けたあとの食事には、体内時計をリセットする効果があるという時間栄養学の研究成果を紹介しています。体内時計は、生活の夜型化などにより、実際の地球の自転による24時間の周期とずれがちですが、朝食を食べると、朝の日光お浴びたときとおなじく、体内時計をリセットする、つまりずれを修正する効果があるということです。

もともと「朝食」を意味する英語の「ブレックファスト」(Breakfast)は、「断食(Fast)を破る(Break)」ことを意味することば。夕食をとったあと、長らく時間を空けてから朝食をとることの大切さを柴田さんは解きます。

柴田さんの研究は、おもにマウスを使った動物実験によるもの。記事では触れていませんが、柴田さんに「マウスの実験が、人にも当てはまるのか」も聞きました。

柴田さんによると、体内時計をつかさどる時計遺伝子の構成は、マウスでもヒトでもおなじとのこと。この点を考えると、マウスの体で起きていることとおなじことが、ヒトの体でも起きていると考えられるといいます。

なお、マウスは夜行性であるのに対して、ヒトは昼行性。柴田さんは、このちがいも考慮し、マウスの“朝食”を夜の活動前の食事と考えるなどの前提で実験を進めています。

厚生労働省の調査によると、日本人の20歳代・30歳代男性の朝食をとらない率は20パーセント超。年始からの生活に向けて、朝食というものを見つめなおすことができるかもしれません。

「朝の光を浴びて朝食をとるのが正しい “朝食是非論”に決着を(前篇)」はこちらです。

また、後篇は、12月28日(金)に配信の予定です。
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酸化を抑えた新性能の電解液を開発、日本電気――リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向(14)



「リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向」の連載で、最後に動向を追うのは日本電気(NEC)です。リチウムイオン電池そのもののメーカーである同社は、新しいしくみや性能をもつ電解液を開発しています。

日本電気は、ITソリューション、キャリアネットワーク、社会インフラ、パーソナルソリューションをグループ主要事業としている、電機メーカーです。1899年、技術者の岩垂邦彦らが、米国ウェスタン・エレクトリック社(いまのアルカテル・ルーセント社)との合弁で、日本電気を設立しました。

リチウムイオン電池の事業では、2007年4月、系列会社のNECエナジーデバイス、そして日産自動車とのあいだでオーモーティブエナジーサプライという企業を設立しました。自動車用のリチウムイオン電池を製造するためです。また、日本電気は2010年7月、オーモーティブエナジーサプライに供給するためのリチウムイオン電池の電極を量産してもいます。

電解液関連の動向では、2012年10月に動きがありました。日本電気が、高電圧動作時の安定性を向上したリチウムイオン電池用電解液を開発したと発表したのです。リチウムイオン電池の高電圧動作を実現する正極を開発したことも同時に発表しています。

電解液の溶媒には、従来、カーボネート系の材料が使われていました。カーボネート系とは一般的に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの有機溶剤のことです。

いっぽう、日本電気は電解液の溶液に、カーボネート系を使うかわりに、フッ素化溶媒という材料を使う方法を開発したのです。フッ素化溶媒という材料そのものついて、日本電気は多くを説明していませんが、従来のカーボネート系の電解液にくらべて、ガスの発生を抑え、正極と電解液の境目で起きる酸化分解を抑えるといいます。

たとえば、500回くりかえして使ったあとの容量維持率は、45度のとき、従来の電解液の「〜55%」にくらべて、新しい電解液では「〜60%」と向上したといいます。また、おなじく500回くりかえして使ったときのリチウムイオン電池のセル体積のふくれ率を、従来の「2倍以上」に対して「10%」に軽減したといいます。

日本電気の技術者は、2003年に「フッ素化エーテル溶媒を用いたリチウムイオン電池用不燃性電解液」という論文を発表しており、この時点ですでにフッ素化溶媒の研究開発を進めていたものと見られます。

このフッ素化溶媒を使った新しい電解液と、同時発表した正極とを組み合わせると、「電池の安全性を維持しながら、エネルギー密度を約30%向上」することができたと日本電気は発表しています。開発されたリチウムイオン電池は、今後、電気自動車のリチウムイオン電池にも搭載されることが考えられます。

電気自動車の普及にむけて、いま大きな課題になっているのが航続距離。一度の充電で走り続けられる距離が、100キロから200キロほどと限られています。

エネルギー密度が向上するということは、おなじ大きさの電池のなかに、より多くの電気エネルギーを含められることを意味しており、リチウムイオン電池の軽量化や、電気自動車の航続距離の向上などにつながります。了。

参考文献
NECスマートエネルギー研究所「高電圧・長寿命を実現した 次世代マンガン系リチウムイオン二次電池を開発」

参考記事
日本電気 2010年7月23日付「自動車用高性能リチウムイオン二次電池の電極を量産開始」
日本電気 2012年10月9日付「NEC、高電圧・長寿命を実現した次世代マンガン系リチウムイオン二次電池を開発」
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セルフサービスで心おきなく


世の中には、「セルフサービス」とよばれるサービス形態があります。飲食店や商店などで、客が自分の注文品をみずから選びとることをいいます。

この意味からさらに、店側がしていたことを客がすること、さらに店員がいないなかで客が自動支払機にお金を払うこと、といった意味に広がっているようです。

セルフサービスというと「客まかせ」という、どちらかというと悪い印象の意味合いもついてまわるかもしれません。しかし、セルフサービスが対面サービスよりも客に重宝がられることもありそうです。

セルフサービスの利点のひとつとして、客が自分で選んだ品を店員に知られないということがあげられそうです。

たとえば、食べ放題はセルフサービスの一形態とされます。ある日、食べ放題を実施している焼肉屋に、肉にはなんの関心もないものの、キムチ、サンチュ、ナムル、カクテキといった野菜・根菜類が好きで好きでたまらない、かつ、世間体は気にする客が来たとします。

対面サービスの焼肉屋であれば、この客は食べたくもない肉とともにキムチやナムルなどを注文していたかもしれません。店員に「肉を注文しない客もいるんだねぇ」などと悟られるのがはばかられるためです。

しかし、食べ放題であれば、キムチもナムルもサンチュもカクテキもとり放題。しかも、食べたくない肉類にはてをつけなくて大丈夫。この客は、心おきなく野菜・根菜類を食べることができたのでした。

量の加減という点でも、セルフサービスには利点がありそうです。

たとえば、対面販売の給油所では、大半の運転客が「満タンで」と注文するもの。「500シーシーでお願いします」などとすこしの量を注文をする客はあまりいません。

いっぽうで、セルフの給油所では、満タンまで入れず、ちょびと給油していく運転客もいるといいます。

タンクに石油を満タンにして走らせると、車が重くなるため燃費が悪くなるもの。いっぽう、タンクをほぼ空にして走れば、車が軽いので燃費がよくなります。

そタンクをほとんど空っぽの状態にしておいて、走る分だけちょびと給油すれば、燃費よく走ることができるわけです。セルフのガソリンスタンドであれば、こころおきなく「50シーシーだけ入れる」こともできるでしょう。

結局のところ、セルフサービスの利点は、客に見られたり、いぶかしがられたりすることなく、客が心おきなく自分の好きなようにできる点にありそうです。
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電池寿命のばす電解質を量産へ、日本触媒――リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向(13)



この連載では、リチウムイオン電池用の電解液やその材料の六フッ化リン酸リチウムを製造しているメーカーの動向を追ってきました。終盤では、六フッ化リン酸リチウムに代わる新たな電解質の開発に取り組んでいるメーカーの動向を追います。

日本触媒が性能で優れた電解質を開発しました。同社は、酸化エチレン、機密・機能性化学品、新エネルギー・触媒などを主な事業としている化学メーカーです。

1941年、ヲサメ合成化学工業が設立されたことが日本触媒の沿革のはじまりとなります。1950年代から1960年代にかけて、大阪府尼崎市の尼崎工場や、神奈川県川崎市の川崎工場(いまの川崎製造所千鳥工場)、兵庫県姫路市の姫路工場(いまの姫路製造所)などに生産拠点を開設し、事業を拡大してきました。電池関連では、燃料電池のジルコニアシートを開発するなどしてきました。

2011年10月、日本触媒がリチウムイオン電池の寿命を大幅に延ばせる電解質を開発したと報じられました。六フッ化リン酸リチウムに代わる電解質は「リチウムビスフルオロスホニルイミド」(LiFSI)とよばれるもの。100%近い高純度で工業的に量産できるようになったといいます。

リチウムビスフルオロスホニルイミドは、電極表面に保護膜をつくり、電解液の劣化を防ぐ効果があり、電池の長寿命化につながるといいます。日本触媒の実験では、六フッ化リン酸リチウムを原料とする電池とくらべて、電池寿命が2、3割以上のびることが確かめられたといいます。リチウムビスフルオロスホニルイミドは、既存の六フッ化リン酸リチウムと混合して使うことも可能です。

日本触媒は、はじめはリチウムビスフルオロスホニルイミドを六フッ化リン酸リチウムの添加剤と位置付け、その後は、六フッ化リン酸リチウムとの置き換えによる需要を視野に入れています。

2012年2月29日には、2013年度からリチウムビスフルオロスホニルイミドを量産することを発表しました。姫路製造所を製造拠点の軸として、1年間で200トンから300トン規模の生産をするといいます。投資額は数億円規模としています。

なお、姫路製造所では、2012年9月29日にアクリル酸タンクが爆発して火災し、消防署員1名が死亡を含む37人が死傷する事故が起きています。この事故によるリチウムビスフルオロスホニルイミド量産化への影響についての発表や報道はありません。つづく。

参考資料
日本触媒「リチウム電池電解質 LiFSI」
参考記事
日経産業新聞 2011年10月13日付「車用電池を長寿命化、日本触媒、リチウムイオン安全性向上 新電解質、量産可能に」
日刊工業新聞 2012年3月1日付「日本触媒、二次電池電解質『LiFSI』 を13年度から量産」
日本触媒 2012年12月7日付「姫路製造所における爆発・火災事故について(第9報)」
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「逆順」よりも「正順」多し
「逆順」よりも「正順」多し

「何々にはあって、何々にはない」といった例をいくつか示して、「ある」のほうに共通することを答えさせる問いかけ遊びがありました。

「愛にはあって、恋にはない」「上にはあって、下にはない」「岡にはあって、谷にはない」。これらで「ある」に共通することは、五十音の文字でとなりどうしが連なっているというものです。「あい」「うえ」「おか」といった具合に。

五十音の文字でとなりどおしが連なっているものとなると、たいていの人は「あいうえお、かきくけこ、さしすせそ……」の正順で考えることでしょう。しかし、「……そせすしさ、こけくきか、おえういあ」のように逆順でもよいわけです。

五十音の正順によるとなりどうしの文字からなることばと、五十音の逆順によるとなりどうしの文字からなることばとでは、どちらが多いのでしょう。

『広辞苑』の項目では、正順のほうは、108語となりました。



「上」がふたつあるのは、「上下」というときの「上」と、性氏のひとつとしての「上」が項目にあるためです。

ちなみにひらがなの「あい」は、北または東の風のことを指し、「あいのかぜ」ともいいます。

また「御欠」(おかき)は、「かきもち」ともよばれるあの「おかき」。「欠」の字が使われるのは、鏡餅を縁起が悪いから刃ものでは切らず、手で欠いて小さくするためです。

また「布」(にぬ)は、ほかに「にの」「ぬの」「ふ」とも読み、いずれも布のことをさします。

いっぽう、逆順はというと、69語にとどまりました。


このうちひらがなのことばでは、「なと」は、助詞の「なりと」の約で、「何なとお好きなものをどうぞ」などの用例があります。「とて」も助動詞。「すし」は「生意気」や「粋」を意味することば。「けく」は助動詞。「おえ」は感動詞で、仕事を完了して休憩に入るときに発するそうです。

正順が108語あるのに対して、逆順は69語しかありません。この語数の差はたまたまなのでしょうか。

「五十音」は、漢字の音を示す手段である「反切(はんせつ)」を説明するためのものとして使われていたといいます。そして、いまの配列になったのは、室町時代以降のこと。インド音声に関する学問である「悉曇(しったん)学」の知識が関係しているとされます。

つまり、サンスクリット語では、いろいろな母音がありますが、そのうち、a、i、u、e、oは、この順番で表わされていて、また子音のほうも、k、c、t、n、p、m、y、r、vは、この順番で表わされています。

五十音順として正順のほうが、慣れしたしみつづけている。だから、隣りあった文字どうしのことばとしても、正順でつくられることばのほうが多く生まれた、ということはあるのでしょうか。

参考文献
『広辞苑第五版』

おえ。
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得意のフッ素化合物で原料に機能性をもたす、ダイキン工業――リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向(12)


リチウムイオン電池用電解液事業への新規参入で2012年に話題にのぼったのが、ダイキン工業です。

同社は、空調・冷凍機などを中心とした各種機械を製造するメーカー。室内空調機器「うるるとさらら」は有名です。1924年(大正13)年、山田晁が大阪金属工業所を大阪市内に創立したことが、同社の沿革のはじまりとされています。当時は、飛行機用ラジエーターチューブなどの生産をしていました。

リチウムイオン用電解液関連では、1933(昭和8)年、フッ素系冷媒の研究を始めています。その後、フッ素系化合物の製造技術は、ダイキンの得意分野となり、1935(昭和10)年にフッ素化合物のフルオロカーボンの合成に成功しました。

こうした系譜の先として2009年7月、ダイキン工業は、まず電解液用フッ素形添加剤の量産体制を確立したと発表しました。同社が「フルオロエチレンカーボネート」(FEC:FluoroEthylene Carbonate)とよぶ物質で、リチウムイオン電池の電解液に添加すると、蓄電池の寿命に影響する蓄電容量の低下を抑えられることがわかり、振るオロエチレンカーボネートの量産製造工程を確立したということです。

この発表では、「今後もより一層『リチウムイオン電池』用フッ素化合物の研究開発を加速させ、今回の『FEC』を中心に数種のフッ素化合物で、2011年度に約30億円の売上げを目指します」としていました。

この発表から2年後の2012年7月、ダイキン工業はリチウムイオン電池用電解液そのものの量産を始めることを、大阪市内で開いた事業説明会で明らかにしたと報じられました。

量産する電解液には、ダイキン工業が技術を培ってきたフッ素系化合物を用いるといいます。これにより、通常の電解液より高い電圧で充電することが可能とも。

量産の製造拠点は、米国アラバマ州のディケーター工場に設置。量産プラントは2012年8月に完成し、1年間で製造できる量は約2000トン規模とされています。ダイキン工業の本気ぶりをうかがえるのが、日本や中国などでもプラントを新設する方針があること。2015年までに1年間で1万トンを生産できる体制を築くとされ、同年に世界シェア10%以上を目指すとされます。つづく。

参考記事
ダイキン工業 2009年7月22日付「『フルオロエチレンカーボネート(FEC)』の量産体制を確立」
日本経済新聞 2012年7月20日付「ダイキン工業、リチウムイオン電池向け電解液参入」
ロイター通信 2012年7月20日付「ダイキン、リチウムイオン2次電池用電解液事業に参入」
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『入門 日本の旧暦と七十二候』発売


新刊の案内です。

洋泉社から、(2012年)12月17日(月)、『入門 日本の旧暦と七十二候』というムックが発売されます。このムックの編集協力をしました。編集協力とは、掲載する写真の選定やレイアウトのことです。

日本では明治時代の初期まで「旧暦」が使われてきました。これは、月の満ち欠けによる12か月に閏月を加えるとともに、太陽年を黄経にしたがって24等分した「二十四節気」をあわせて使って暦とするものです。

二十四節気については、ラジオやテレビの気象情報などで「立春」「啓蟄」「夏至」「大寒」などのことばが紹介されることから、知っている人も多いことでしょう。

さらに、二十四節気をこまかく、およそ5日ごとにわけて、1年を72等分したものが、「七十二候」です。

たとえば、12月16日日ごろは節気でいうと「大雪」ですが、七十二候では「熊蟄穴」(くまあなにこもる)があたえられています。「熊蟄穴」これは、この時期が、熊が冬ごもりのために穴に入るころを意味するもの。七十二候は、このあと「鱖魚群」(さけのうおむらがる)へとつづいていきます。

七十二候では、雷が見られなくなるといった気象の動きや、花が咲くといった動植物の変化を、3文字ないし4文字の漢字で表現し、それを短文で読むといったことが行われます。

このムックでは、執筆者のエッセイスト山下景子さんが紹介する七十二候にちなんだ風物詩の言葉と和歌や俳句などの歌を、その候に合った季節の写真や絵にのせて紹介していきます。

すこしずつ進んでいく季節の移ろいを文と写真・絵で味わうことのできるムックです。

『入門 日本の旧暦と七十二候』はこちらでどうぞ。
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電解液事業に新規参入、昭和電工――リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向(11)


リチウムイオン電池用電解液メーカーのそのほかの動向も見ていきます。

このブログの過去の連載「リチウムイオン電池負極材のメーカー動向」第15回で追った昭和電工は、2009年11月、自動車用リチウムイオン電池向けの電解液の分野にも事業参入することを発表しました。

昭和電工は電解液の開発を行ってきましたが、米国のエアープロダクツ・アンド・ケミカルズ社がもつ新しい電解質の製造技術を組みあわせて、これまでの電解液にくらべて安全性の高い電解液の製造を行っていくといいます。

昭和電工によると、新しい電解質は、「電池の劣化原因の一つである水との反応や、経年とともに電池の正極を腐食する酸の発生がなく、さらに400度でもその性質が変化することがない高温安定性」があるといいます。さらに、現状の電解質をしようした場合と比べて電池容量を引き上げることもできるといいます。

提携先のエアー・アンド・ケミカルズ社は、産業ガスや化学品の製造販売を主な事業とする企業で、設立は1940年、従業員数は約1万8900人。昭和電工は、2020年までに、負極材を含む先端電池向け素材分野で売上高660億円を目指しています。つづく。

参考記事
昭和電工 2009年11月19日付「自動車用リチウムイオン電池向け 次世代電解液事業参入へ」
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透明カエル、自然界でも人工開発でも
内臓が透けて見える「グラスフロッグ」というカエルが話題になっています。(2012年)12月6日、個人ブログ「カラパイア」のニュースとしてとりあげられました。カエルを下から覗きこむ角度で撮影した写真では、白い内臓の筋をはっきりと見ることができます。

いっぽう、人工的に「透けているカエル」をつくる試みもなされています。

広島大学大学院理学研究科教授の住田正幸さんは、2011年2月、「スケルピョン」と命名した、皮膚が半透明のカエルの量産に成功しました。

ニホンアカガエルという本州や九州などに棲息するカエルのうち、「ブラックアイ」と「グレーアイ」とよばれる、それぞれある色素の欠落したカエルを交雑して、3種類ある色素のうち2種類を発現させなくすることで「スケルピョン」をつくります。

カエルは実験動物として解剖などに使われますが、角田さんは「解剖する必要がないため、同一個体の内臓を繰り返し一生にわたって観察できる」と述べています。

また、カエルにかぎった話ではありませんが、動物のからだをゼリーのように透明化する技術も開発されています。

理化学研究所は2011年8月、理研脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チームのチームリーダー宮脇敦史さんや、研究員の濱裕さんらが「Scale」と名づけた試験用薬品を開発したと発表しました。

チームは、試料とする動物を傷つけることなく、表面から数ミリまでを透明にして観察する技術を確立しました。保湿クリームや肥料に広く使われている尿素をもとにして、動物のからだで起きる光散乱を最小限に抑えたといいます。

動物のからだがふつう透明でないのは、外から当たった光が散乱、つまりあちこちにはね返るため。この散乱を極力おさえて半透明にしたわけです。

理化学研究所は「生体試料内の光の吸収にはまったく影響を与えず、生体試料内に存在する蛍光色素、特に蛍光タンパク質のシグナルにもまったく影響を与えないので、蛍光標識した構造を生体試料の深い部位まで高精細に観察することが可能になります」としています。

自然でいきる透明な動物も、人工的に透明さをあたえた動物もおそらくは、人間が「透明だ!」といって驚いていることに対して、「われ関せず」といったところでありましょう。

「カラパイア」の記事「内臓が透けて見える透明なカエル、グラスフロッグを間近で観察(動画あり)」はこちらです。

広島大学教授の角田正幸さんが公表している資料「『透明ガエル』(スケルピョン)の開発 とその利用」はこちらです。

理化学研究所が2011年8月30日に発表したプレスリリース「生体をゼリーのように透明化する水溶性試薬『Scale』を開発」はこちらです。

参考記事
朝日新聞 2011年2月21日付「透明カエル『スケルピョン』の量産に成功 広島大教授」
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高純度炭酸リチウムを製造、本荘ケミカル、日本化学工業、伊藤忠商事――リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向(10)

この連載では、リチウムイオン電池用電解液を製造する企業と、電解液の原料である六フッ化リン酸リチウムを製造する企業の動向を、報道発表や報道記事などから追ってきました。

さらに原料をさかのぼると、六フッ化リン酸リチウムの原料として高純度炭酸リチウムという物質があります。高純度炭酸リチウムは、リチウムに含まれている不純物を取り除いてつくる物質です。

リチウムの高純度化技術を擁している企業は世界中でも多くありません。この回では、本荘ケミカル、日本化学工業、伊藤忠商事の製造動向を追います。


本荘ケミカルは「リチウムイオン電池正極材のメーカー動向」という連載でも、正極材を製造する企業として紹介しました。

2011年1月、本荘ケミカルが総合商社の丸紅とともに高純度炭酸リチウムの合弁会社を設立することで合意したということが丸紅から発表されました。出資比率は、本荘ケミカル70%、丸紅30%です。

大阪府寝屋川市の本荘ケミカル本社工場内に、投資額10億円弱で、1年に600トン規模の高純度炭酸リチウムをつくる体制を、2011年9月までに立ち上げるということが丸紅により発表されました。

さらに発表には、電気自動車市場の伸びによっては、もう600トンの増産を行う検討もするとも書かれていました。

実際、2011年4月には、本荘ケミカルと丸紅の合弁会社「パシフィックリチウム」が設立されました。


また、日本化学工業も、高純度炭酸リチウムの製造も行っています。同社は1893年、棚橋寅五郎がヨードカリをつくる棚橋製薬所を創業したことに端を発する会社です。

高純度炭酸リチウムについては、これまで炭酸ガス法や重炭酸法といった方法により製造してきました。

2004年には、不純物含有量が多い水酸化リチウムを反応原料として用いても、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、シリコンといった各元素の含有量が1ppm以下に抑えられる方法を開発したとして特許公開もしています。

これは、粗製水酸化リチウムを含む水溶液を精密濾過し、晶析を行って精製水酸化リチウムを得、この精製水酸化リチウムと二酸化炭素とを水溶媒中で反応させて析出させた炭酸リチウムを回収するといった方法です。


いっぽう、伊藤忠商事は日本の代表的な大手総合商社。1949年に設立しました。

高純度炭酸リチウムの事業について、同社は2011年9月、米国で製造事業に参画することを発表しました。米国シンボルマテリアルズ社を通じて、年500トン規模の高純度炭酸リチウムの安定供給を行う計画といいます。2012年末には、年2000トン規模の生産能力まで引き上げる計画も示しています。

シンボルマテリアルズ社は2007年2月にカリフォルニア州に設立された会社で、カリフォルニア州南部の地熱発電所のかん水を利用した世界初のリチウム化合物製造事業を行っています。

シンボルマテリアルズ社のリチウム化合物販売をめぐって、伊藤忠商事は2010年6月、日本、中国、韓国を含むアジア向け総販売代理店権を獲得していました。

同社は「2011年6月には独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による融資を受け、今後も高純度炭酸リチウムを含むリチウム化合物の製造及び日本を中心とした需要家向けに販売をしていきます」としています。つづく。

参考文献
「商品・技術紹介 高純度炭酸リチウム」『CREATIVE』日本化学工業 2004年第5号
参考記事
丸紅 2011年1月20日付「本荘ケミカルと高純度炭酸リチウム製造合弁会社を設立する件」
丸紅 2012年3月1日付「リチウム・環境ビジネス室の発足について」
伊藤忠商事 2011年9月28日付「米国におけるリチウムイオン電池用高純度炭酸リチウム製造事業に参画」
参考ホームページ
patent.jp「日本化学工業株式会社 高純度炭酸リチウムの製造方法」
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地上のことは地上の人が知っている

気象衛星が世界ではじめて使われだしたのは、1960年のこと。米国航空宇宙局が打ちあげた「タイロス1号」です。日本ではその20年後の1980年に、静止気象衛星「ひまわり」が打ちあげられ、1982年から雲の画像を提供しはじめました。

気象衛星がまだ本格的に使われていないころ、気象庁の職員は全国の市民から得られる話を貴重な情報源にしていたといいます。たとえば、各地の気象台での気圧の変化などから台風が日本に近づいてきたようだとわかったとき、台風の進路をよりくわしく知るため、市民に電話をかけて協力をあおいだという逸話もあります。

「もしもし、いまおたくの家のまわりでは、風は南から吹いていますか、それとも北風に変わりましたか」。このような問いで、吹きかえしの風に変わったか、つまり台風がその場所を通過したか判断する材料を得たというのです。

気象衛星が地球を囲んでいるいまの時代でも、地上で暮らしている市民から得られる情報は気象状況の把握に役立てられています。

国立情報学研究所コンテンツ科学研究系准教授の北本朝展さんは、「アイフーン」というウェブサイトを運営しています。アイフーンは、「台風に関する個人的な体験(身の回りの災害情報など)を集約し、組織化し、伝達するための、参加型メディアによる台風情報サイト」(ウェブサイトより)。

たとえば、じぶんの近くに台風が通過したとします。その情報を、にうつった台風を、「どれ」「いつ」「どこ」といった設定をしたうえで、ケーターメールなどでアイフーンに投稿します。投稿が多くなれば、「台風第何号が、いつ、どこを」通過したかといった情報が”線”として表現されるようになります。

気象衛星から送られてくる雲の画像を見れば、もちろん「台風が1時間前に高知県に上陸した」といった情報を一目瞭然で得ることはできます。

しかし、気象衛星では、台風が上陸した結果、地上でなにがおきているのかまで把握することはできません。地上でなにが起きているかは、地上にいる人が詳しく知っているのです。

北本さんは、「地上で起こっていることは、現場にいる人(機械)が超並列的に記録しないと、その全体像を把握することはできない」「個人的な情報は主観だが、より強い時間を与えるという力を持っている」と述べています。

「多数の目で見た情報が集まる、台風情報の中心となる場を作ります」と謳っている「アイフーン」はこちらです。

参考文献
北本朝展「デジタル台風:各地からの 自発的な情報発信で つながる台風情報」
気象庁「日本の気象衛星のあゆみ」
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戦前からの老舗が電解液材料を製造、関東電化工業――リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向(9)



関東電化工業は、苛性ソーダなどの無機製品、トリクロールエチレンなどの有機製品、六フッ化硫黄などの特殊ガス製品、そしてリチウムイオン電池用電解液の原料である六フッ化リン酸リチウムなどの電池材料をおもな営業品目としているメーカーです。

同社は1938年、金属マグネシウム、苛性ソーダ、塩酸の製造を目的に設立されました。戦前は群馬県渋川市の渋川工場で、金属マグネシウムなどの製造をしてきましたが、終戦により金属マグネシウムの製造は全廃し、苛性ソーダを主とした無機工業薬品の製造を行ってきました。

六フッ化リン酸リチウムについては、1997年より岡山県倉敷市の水島工場で製造を開始しました。関東電化工業は、フッ素形成品の製造法として、それぞれ独立したプラントでフッ素ガスと原料を直接反応させて製造しているのが特徴としています。

2011年1月には、六フッ化リン酸リチウムの生産能力増強が報じられました。2011年時点での生産能力は水島工場での年1300トン規模。同年中には、生産能力700トン規模のラインが増設されたと見られます。さらに、2012年3月までに、年生産能力1000トン規模のラインを追加すると報じられました。

いっぽう、渋川工場では、おなじくリチウムイオン電池用電解液の原料であるホウフッ化リチウムのパイロット的生産をしてきましたが、量産に乗り出すと報じられています。2012年3月までに年150トンの生産能力のプラントを設立すると伝えられました。ホウフッ化リチウムの製造設備について、関東電化工業は、2012年11月、「平成25年3月期 第2四半期決算説明会」で、「ホウフッ化リチウム製造設備(中略)の増強については検討中」としています。

なお、2012年12月10日発表の「第106期中間報告書」では、「電池材料の六フッ化リン酸リチウムおよび電池の添加剤のフルオロエチレンカーボネートは、販売数量の減少と販売価格の低下により、前年同期に比べ減収となりました」としています。つづく。

参考文献
関東電化工業 2012年11月22日発表「平成25年3月期 第2四半期決算説明会資料」
関東電化工業 2012年12月10日発表「第106期中間報告書」
参考記事
日経産業新聞 2011年1月20日付「関東電化工業、リチウムイオン電池向け、電解質、生産能力2.4倍に、新製品も量産」
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「国産は品質が高い」に例外も

写真はイメージ

日本人はとかく「日本でつくられたものは品質が高い」という先入観をもちがちかもしれません。つぎの場合はどうでしょうか。

いま、日本で使われている木材の7割以上は外材、つまり外国で育てられた木を輸入したものです。森林国ともいわれる日本で育った国産材は3割以下でしかありません。

外材が使われる比率が高いというと、つい「外国からの輸入の方が安いからだろう」と考える人もいるでしょう。これも、日本人の先入観のひとつといえるかもしれません。

国産材となる日本の木は、外材となる外国の木にくらべて、水分を多くふくみがちになるといわれています。水分を多く含んだ木をそのまま材木で使うことはできないため、いったん乾燥させることになります。

小さな体積の木を乾燥させることは可能ですが、大きな体積の木を乾燥させるのはむずかしいのです。

さらに、木を乾燥させると、「干割れ」とよばれる割れを起こしやすくなります。材木が割れてしまうと、商品としての価値が下がります。

成美大学教授で森林経済学などを専門とする萩大陸さんは、日本の材木は「歩切れ」をひんぱんに起こすといいます。

「歩切れ」とは、表示されている寸法の材木よりも、実際はすくない寸法であること。たとえば、表示には「10.5センチ角」とあるのに、実際は10.0センチ角しかない、といったものです。萩さんは、この行為を「空気売り」と表現しています。

価格の面でも、輸入がはじまった1961年からしばらくは外材のほうが国産材より安いという、輸入ものと日本ものの関係ではよくある構図がありました。

しかし、1990年代に入ると、日本国産のすぎ丸太の価格より、米国産のつが丸太の価格のほうが高くなるという逆転現象も見られるようになりました。

国産材の質は外材にくらべて高くないし、価格も外材にくらべて安くないという指摘があがっているのです。

日本人にとってなじみ深い国産材を使うか、それとも輸入された外材を使うか。品質、価格、そして好みといった要素を考えた結果、外材に軍配が上がっているといってもよいのでしょう。

参考文献
バイオマス産業社会ネットワーク『バイオマス白書2010』「国産材はなぜ使われないのか」
参考記事
建築ジャーナル「国産材が使われないのは外材のせいではない」
参考ホームページ
丸和建設「家づくりの考え『無垢材と自然素材』」
国産材品質表示推進協議会SSDプロジェクト「家を建てる前に知っておきたい『木の話』」
木の情報発信基地「国産材と外材の違い」
モクネット「木の値段(3)」
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中国でも六フッ化リン酸リチウム製造拠点を置き増産、森田化学工業――リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向(8)



前回より、リチウムイオン電池用電解液の原料を製造するメーカーの動向を、各社の発表や報道資料により紹介しています。

森田化学工業は、リチウム電池およびキャパシタ用フッ素化合物や光学レンズ用フッ素化合物、アルミニウムろう付け用フラックス、半導体フッ化水素酸と半導体用フッ化物薬液をはじめとする、各種塩類や化合物の製造などをおもな事業としているメーカーです。

1917年、森田製薬所として大阪市に設立し、日本初となるフッ化水素酸の商業生産を行いました。その後、フッ化ソーダ、フッ化アンモニウム、フッ化アルミニウムなどの生産を行い、フッ素の生産を中心に事業を拡大してきました。

リチウムイオン電池用電解液の原料である六フッ化リン酸リチウムの生産については、1996年、大阪市淀川区の神崎川事業所に製造棟を竣工しました。なお、同事業所では、2009年12月、合成樹脂製造用の触媒である三フッ化ホウ素の貯蔵タンクで爆発があり、従業員4人が死亡する事故が起きています。

森田化学工業や前回に紹介したステラケミファをふくむ日本のメーカーが世界における六フッ化リン酸リチウム生産のシェア上位を大きく占めているなか、森田化学工業は2004年、中国の江蘇揚子江国際化学工業園に、六フッ化リン酸リチウムの製造拠点として森田化工(張家港)有限公司を設立しました。

製造装置はすべて中国製で、現地化による低コスト生産をはかっていると考えられます。2013年をめどに、大幅増産に乗り出すと報じられています。江蘇揚子江国際化学工業園は、江蘇省張家港市にある工業団地で、2001年に設立されました。つづく。

参考ホームページ
森田化学工業「海外拠点」
日本経済新聞 2010年12月14日付「エコカー電池韓国と競う(1)材料の裾野、日本に強み 韓国勢、内製化でコスト減」
大阪市上海事務所「経済開発区」
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コンペティションでも“盲験法”

出版の世界では「コンペティション」という行事があります。

ある組織が、自分たちを紹介する広報誌などを、だれか外部の制作者に頼もう考えるとします。そこで「広報誌をつくらせてください」と名のる制作者を募って、試作品などをつくらせて、頼む先を決めることがあります。この方法がコンペティションです。

コンペティションでは、審査の公平性を保つために、薬の試験における盲験法とにた方法がとられることがあります。

薬の試験での盲験法とは、試験を行う人にその薬の正体を明かさないようにするもの。たとえば、製薬会社が血圧を下げる薬を新たに開発し、その効き目を確かめるため、医者と患者に協力を得て試験をしてもらうとします。そのとき、その新しい薬は、ほかの薬にくらべてどのくらい効き目があるかを調べるため、医者や患者に新しい薬ではない薬も使ってもらいます。

もし、医者や患者が、使う薬が新しい薬であるとわかってしまうと、「新しい薬ということだし、なんか効いたような気がする」とか「製薬会社は金をかけて開発したのだから、効くということにしておこう」といった偏見がおきるおそれがあります。この偏見を防ぐため、医者や患者が、試験で使っている薬が本当に新しい薬なのか、ほかの薬なのかわからぬよう、名前を伏せて薬を使ってもらうのです。

出版の世界のコンペティションでも、コンペティションを実施する組織は、外部の制作者が室の高い刊行物をつくってくれそうかどうか、いわば“効き目”を試すわけです。そのとき、もしコンペティション実施者である組織が、提出された試作品がだれによりつくられたものかわかると、そこで偏見が生まれるというおそれが出てきます。

たとえば、コンペティションを実施する組織が、審査で提出された試作品を見たとき、その試作品が業界で名を馳せる編集プロダクションによるものとわかってしまうと、「あのプロダクションがつくるものはさすがだ」といった偏見をもって、その試作品を審査するおそれが出てきます。

ぎゃくに、その試作品が、業界で評判の悪い編集プロダクションによるものとわかってしまうと、「あのプロダクションがつくるのはやはりこの程度のものだ」といった偏見をもって、その試作品を審査するおそれがでてきます。

こうした偏見を防ぐため、コンペティションでも、だれがつくったし作品からわからぬよう、制作者の名前を伏せて審査をすることがあるわけです。

ただし、”コンペティションにおける盲験法”が万能というわけではありません。

たとえば、コンペティションを実施する組織の刊行物を以前からつくってきた制作者がコンペティションに参加すれば、試作品も以前と同様のデザインになることでしょう。審査する側は、「あ、この雰囲気は、いつもお世話になっている、あの会社がつくったものだ」と気がつくわけです。

もし、盲験法を完全体制で実施するとなると、以前より制作をしている刊行物を審査員に見せないということが必要になります。しかし、以前より制作している刊行物は公に出されているものである以上、これはむずかしい話。新たなコンペティションで、以前よりその組織の刊行物の制作に協力してきた制作者がまたしても勝利を収めるということは、よくあることです。

とはいえ、盲験法によるコンペティションは、すくなくとも、コンペティション実施者が、公正な審査を心がけているという姿勢を示すことにはなるでしょう。
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電解液メーカーに材料の六フッ化リン酸リチウムを供給、ステラケミファ――リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向(7)

リチウムイオン電池用の電解液には、「六フッ化リン酸リチウム」という化合物が材料として使われています。六フッ化リン酸イオンとリチウムイオンという物質から構成される化合物です。ここまで連載で紹介してきた電解液メーカーが製造する電解液にも、六フッ化リン酸リチウムが使われています。

この電解液製造に欠かせない六フッ化リン酸リチウムという材料を製造して、電解液メーカーに供給する企業もあります。

ステラケミファは、高純度フッ素化合物の生産を中心に、メディカル、環境マネジメントシステム、コスメティック、蓄光材などの事業を手がけている企業です。

創業は1916年と歴史があります。大阪府堺市に「橋本升高堂製薬所」を立ち上げ、硫酸塩の製造を開始したのが沿革のはじまりとなっています。1930年、現在の主要事業製品となるフッ素化合物の製造を開始しました。1997年に、いまの社名になっています。

ステラケミファは1996年、大阪市泉大津市の泉工場に新プラントを竣工し、六フッ化リン酸リチウムの生産増強を行いました。リチウムイオン電池向け電解質の外販メーカーとしては世界最上位クラスにあります。

2009年11月には、泉工場で電解質の生産能力を増強させることが報道されました。報道された増強の内容は、生産ラインの増設、また原料を混合・加熱する反応釜などの設備の設置というもの。これにより、年間生産能力は1100トンだったのが、1300トンに引き上げになると報じられました。

さらに2010年5月には、泉工場に約50億円を投じて六フッ化リン酸リチウムの新棟を建設し、2011年度までの操業開始を目指すと報道されました。

連載の第3回で三菱化学をとりあげた記事にもあるように、2011年6月には、三菱化学とともにリチウムイオン電池用電解質の欧米における製造拠点の新設検討を開始することを発表しています。

ステラケミファは、同社の課題として「高純度電解質のトップサプライヤーとして、今後の需要拡大に着実に対応するため、製造能力の増強と製造拠点の分散が課題」と上げており、欧米における電解質供給体制の強化を目的に三菱化学との事業提携を行うことを示しました。つづく。

参考記事
日経産業新聞 2009年11月16日付「ステラケミファ、電解質2割増産、リチウムイオン電池、中国の携帯需要対応」
日本経済新聞 2010年5月22日付「電解質、生産能力2.4倍、ステラケミファがリチウムイオン電池用」
ステラケミファ・三菱化学 2011年6月1日付「リチウムイオン電池用電解質および半導体製造用高純度薬品に関する事業提携の検討開始について」
参考ホームページ
山形大学サイバーキャンパス「鷹山」「六フッ化リン酸リチウム」
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以前から使われていることばが新語・流行語のトップテンに


2012年の「ユーキャン新語・流行語大賞」が、12月3日(月)に発表されました。

大賞はスギちゃんの「ワイルドだろぉ」。大けがを乗り越えての受賞となりました。小学校などでも多くの児童が「ワイルドだろぉ」などとまねっこしていたことでしょうから、流行語としてふさわしいものといえそうです。

科学技術関連では、トップテンに「iPS細胞」と「爆弾低気圧」が選ばれました。

iPS細胞は、人工多能性幹細胞と日本語で表現されます。英語の正式なよびかたは、“induced Pluripotent Stem”。人工的につくった、様々な種類の細胞に分化するなどの多能性をもつ、木の幹にあたるような細胞です。

2006年、すでに山中追弥さんや米国のジェームズ・トムソンさんが開発していました。しかし、2012年のノーベル生理学・医学賞受賞により、よりこのことばが知られるようになりました。

iPS細胞の名づけ親は山中さん。“iPS”の1文字目の“i”が小文字なのは、アップルコンピュータの「iPod」の流行にあやかりたいと山中さんが意図的に小文字にしたもの。分野はまったく異なるものの、ことばとして“iPS”の浸透度は、“iPod”をしのぐといってよいほどになりました。

いっぽう、「爆弾低気圧」は、4月4日から5日にかけて、日本海で低気圧が猛烈に発達したことから報道でよく使われたことばです。

北に冷たい空気が、また南に暖かい空気があると、その温度差で大気の運動が活発になり、その結果、低気圧が急速に発達します。これが爆弾低気圧とよばれるわけです。気象庁は「急速に発達した低気圧」とよんでいます。

大きな被害を出すさまから「爆弾」が連想されます。「爆弾低気圧」の由来となることばは、古くからありました。1980年、マサチューセッツ工科大学の気象学者フレデリック・サンダースらが、“Bomb Cyclone”(爆弾熱帯低気圧)ということばを提唱したのが、その由来とされています。日本でも、今年より前に「爆弾低気圧」はしばしば聞かれてきました。

そのほか、ノミネート語には、「竜巻」「金環日食」といった自然の現象も選ばれています。「ワイルドだった一年」というくくりでは、大ざっぱすぎるでしょうか。

「ユーキャン新語・流行語大賞」のホームページはこちら。

参考ホームページ
tenki.jp「急激に発達する低気圧について」
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一貫生産を特徴に、セントラル硝子――リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向(6)


セントラル硝子も、リチウムイオン電池用電解液の製造を行っています。同社は、建築・住宅用ガラス、自動車用ガラス、情報・電子産業用ガラス、ガラス繊維、化学品、ファインケミカル、肥料をおもな事業としているメーカーです。

1936年、山口県宇部市に宇部曹達工業を設立したのが沿革のはじまり。操業後は、苛性ソーダやソーダ灰などの生産をしてきました。1958年、子会社としてセントラル硝子(旧体制)を設立し、ガラス事業に進出。1963年に、宇部曹達がこのセントラル硝子を吸収合併し、商号を「セントラル硝子」としました。1980年代後半からは、台湾、米国、ベトナムなどに、合弁や拠点設立などにより進出しています。

リチウムイオン電池向けの電解質は、ファインケミカルの環境エネルギー分野に位置づけられています。電解質に用いられるフッ素系電解質塩に対しては、「フッ素化合物を知り尽した唯一の電解液メーカー」と自負している。

セントラル硝子が電解液の本格的な事業を計画したのは2006年。同社の化学研究所の研究員らが新規プロジェクトを立ち上げ量産化を画策し、大規模生産のめどを立てていきました。

2009年には、神奈川県川崎市の川崎工場で、年数百万トン規模の試験プラントを完成させました。電池メーカーにサンプルを送る目的のものでしたが、設立当初からフル生産の状況が続いたため本格生産をすることに。2010年2月には、山口県宇部市の宇部工場に年間の生産能力が5000トン以上となる二次電池用電解液プラントの新設を決定したと発表しています。電

解液の製造については、「自社の弗酸を原料に用いた電解質(六フッ化リン酸リチウム) 製造から顧客の要請に応じて調液する電解液製造までの一貫生産を特徴」としています。弗酸とはフッ化水素酸のこと。宇部工場では、弗酸を生産しており、一貫体制にもプラスに作用するといいます。宇部工場のプラントの稼働開始年は2011年とされています。

セントラル硝子はさらに2010年10月、中国で六フッ化燐酸リチウムを製造する目的で、合弁会社を設立したと発表していました。合弁の提携先は2002年12月に設立された山東省にある企業で、各種化学品の製造・販売を行っています。「旺盛な需要に応えるため」さらに供給能力を拡張することにしたとしていました。

しかし、2012年7月、この合弁の契約を解消したと発表しました。「最終的に条件が折り合わない等、合弁事業を継続することが困難となったため、合弁を解消することにいたしまし た」と経緯を説明しています。

「当社顧客への製品供給については、当面、当社の自社工場からの供給で充分対応できるため、支障はありません。また、石大社及び石大社の関係会社とは、今後もリチウムイオン電池用原料の取引を友好的に継続することで合意しております」ともしています。

さらに、リチウムイオン電池用電解液の事業展開については、「顧客開拓は順調に進んでおりますが、電気自動車の市場投入や普及が遅れていることから、生産拠点計画を見直すこととし、当社製法による中国生産拠点についても、マーケットの拡大と相応の稼働率が見込める段階で、立地条件等を精査の上、改めて展開することを検討いたします」としています。

セントラル硝子は2011年5月に、2015年までの中期経営計画を発表しています。同社発表の「展望の概要」によると、基本方針として4点掲げられたなかに「電解液等の“特定事業”を原動力に成長を実現」という方針があります。

この特定事業として環境・エネルギー分野のファインケミカル部門では「リチウムイオン電池電解液、電子材料」が掲げられました。「コスト競争力のある電解液」を強みとして、電解液事業を進めていく戦略のようです。つづく。

参考記事
セントラル硝子 2010年2月15日付「リチウムイオン電池用電解液プラントの増設について」
セントラル硝子 2010年10月13日付「中国におけるリチウムイオン電池用 LiPF6 溶液製造の合弁会社設立のお知らせ」
セントラル硝子 2012年7月9日付「中国における合弁契約の解消及び子会社の清算に関するお知らせ」
参考ホームページ
セントラル硝子「製品情報 環境エネルギー」
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「見だしと主題の番号ずれ」問題を防ぐ
本づくりで、ときに「見だしと主題の番号ずれ」という問題が起きることがあります。

本には、章というくくりの下層に、いくつかの節というくくりが置かれることが多くあります。章のくくりだけでは整理しきれないとき、さらに節に小わけをするわけです。

章に見だしがついているのとおなじく、ほとんどの場合、節にも見だしがつきます。たいていの場合、「1.色素とはなにか」や「(1)DNA二重らせん構造の発見」といったように、その節で述べられるテーマが記されています

この、節の見だしに、本の内容によっては、固有の番号がついた主題がつくことがあります。「一次産業」「二次産業」や「ファーストステージ」「セカンドステージ」といったものです。

いっぽう、節見だしにはこれらの番号を示す数字やことばのほかに、「1.」「2.」や「(1)」「(2)」といった節の番号も出てきます。

つまり、節の番号と、固有の番号がついた主題いっしょに使われることがあるわけです。

しかし、本のつくりかたによっては、節の番号と、固有の番号がついた主題における番号が一致しないことがあります。

たとえば、ある本の著者は、ある章の第1節に「1.産業とはなにか」という見だしをつけました。そして、つぎの節から、第一次産業、第二次産業、第三次産業をそれぞれ節ごとに説明しようと考えました。

その結果、この章の節見だしはつぎのようなものになりました。

 1.産業とはなにか
 2.第一次産業
 3.第二次産業
 4.第三次産業

この著者は、目次がならんだ校正刷を見てこう思うのでした.「できるならば、節の一番目の見だしには『一』がつく主題を、節の二番目には『二』がつく見だしが来るとよいのだが……」。

この「見だしと主題の番号ずれ」問題には、いくつかの解決策があります。

ひとつは、もとの「1.産業とはなにか」にあたるものを、節見だしのないリード文としての扱いにしてしまうもの。そうすれば、「1.第一次産業」「2.第二次産業」「3.第三次産業」となります。おなじような方法として、もとの「1.産業とはなにか」にあたるものを、「0.産業とはなにか」としてしまう策もあります。

しかし、本にはほかの章もあるわけで、すべての章でこれとおなじ体裁をとれるかというと、そううまくいかないことも多くあります。

そこで、「第一次産業」などの、数字をふくむテーマ名を使わないという策も浮かんできます。たとえば「1.産業とはなにか」のつぎからは、「2.農林水産業」「3.工業・製造業」「4.商業・サービス業」などとするわけです。

「見だしと主題の番号ずれ」問題は、見た目の問題。「これのどこが問題なのか」といぶかしがる人もいることでしょう。著者か編集者のどちらかが「これはちょっと見た目がよくないですね」と言いだし、編集者か著者のどちらかが「そうですね」と同調したとき、問題の解決策がとられます。
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電解液原料エチレンカーボネートを合弁で製造、三井化学――リチウムイオン電池用電解液・電解質のメーカー動向(5)


三井化学も、リチウムイオン電池用電解液関連の事業を進めています。同社は、石油化学、基礎化学品、ウレタン、機能樹脂、加工品、機能化学品などを製造するメーカー。

歴史的には、三井炭鉱という企業が1892年、福岡県と熊本県にまたがる三池炭鉱の石炭を使ってコークス事業を始めたことが、三井化学の源流にあります。三井鉱山がコークス事業から発展させた化学事業を三井化学が継承し、発展させました。

リチウムイオン電池用電解液の事業は、機能化学品事業部の企画管理部にふくまれています。2009年時点で用途として考えられたのは、携帯電話やパソコンやデジタルカメラなどの民生品が中心だったようです。

しかし、2011年に発表した2013年度までの中期経営計画では、基本戦略のうち「将来のコア事業創出」の中の5領域のひとつとして「エコ自動車材(軽量化材、リチウムイオン電池部材)」がふくまれています。当然ながら、三井化学も電気自動車などの車に搭載する充電池の用途をねらっているわけです。

ほかのメーカーとの連携もはかっています。三井化学は2010年4月、接着剤アロンアフファで有名な東亞合成とのあいだで、リチウムイオン電池用電解液の主要な原料であるエチレンカーボネートを製造する合弁会社「MTエチレンカーボネート」を設立すると発表しました。

エチレンカーボネートは、カーボネートの骨格をふくむ構造が炭素-炭素結合で環状になっている環状カーボネートのひとつ。エチレンカーボネート系の電解液を使うことで、グラファイトにリチウムを挿入・脱離できることがわかっています。エチレンカーボネートの原料であるエチレンオキサイドを大阪府高石市にある三井化学大阪工場から供給し、東亞合成がエチレンカーボネートの製造を行います。

合弁会社の出資比率は東亞合成90%、三井化学10%で、生産能力は年5000トン規模としています。発表では製造設備の投資額は10億円程度としていました。その工場は2012年3月に完成。5月から商業運転に入りました。2013年以降、電気自動車のリチウムイオン電池向けにエチレンカーボネートを供給する予定です。つづく。

参考文献
三井化学 2009年12月11日発表「第13期中間報告」
小久見善八「リチウムイオン電池のグラファイト負極の表面被膜 SPMによる解析」
参考ホームページ
三井化学「2011年度中期経営計画の策定」
参考記事
三井化学・東亞合成 2010年4月9日付「リチウムイオン電池用原料(エチレンカーボネート)製造の合弁会社設立のお知らせ」
化学工業日報 2012年3月9日付「東亞合成 LiB向けエチレンカーボネート 生産体制強化」
東亞合成 2012年8月10日発表「2012年12月期 第2四半期決算説明会資料」
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東京の50メートル泳者、来春まで不便強いられる
東京都やそのまわりに住んでいる水泳者たちには、しばらく“不便の時期”がつづきそうです。2012年、屋内50メートルプールの一時休館があいついでいるからです。

渋谷区千駄ヶ谷にある東京体育館は、2012年4月1日から、来年2013年3月31日まで、丸一年にわたり改修工事中。理由は「竣工より21年が経過し、設備機器等の更新次期を迎えていることから」(同館ホームページ)というもの。もちろん体育館内にある50メートルプールや25メートルプールも改修工事中。使うことができません。

東京体育館の50メートルプールで泳いでいた人のうちの一部は、都内のべつの室内50メートルプールへと流れていったことでしょう。その受け皿の代表格が、江東区辰巳にある東京辰巳国際水泳場です。

こちらの水泳場は、東京都内で行われる日本選手権などの大きな大会の主会場です。2008年には、北島康介選手が男子200メートル平泳ぎで世界新記録も出しています。大会など催しもののない日には、50メートルプールをふくめ一般開放されていました。

しかし、辰巳国際水泳場も、この2012年12月から、2013年8月までの予定で、大規模改修工事による休館となりました。工事を行う理由は、「開館より18年が経過し全般的に老朽化がみられるため」(同水泳場ホームページ)というもの。

改修工事の期間が重なったため、東京や都下に住む人たちは2013年3月31日まで、このふたつの屋内50メートルプールのどちらでも泳げないことになったわけです。ちなみに、このふたつの施設は、東京都が指定管理者を指定して運営されているもの。かんたんにいえばどちらも東京都のもちものです。

都内には50メートルプールはほかにもあります。港区芝公園のアクアフィールド芝公園、江東区越中島の越中島プールなどです。しかし、これらは屋外。当然ながら、3月までは開業していません。

江戸川区東篠崎には、屋内50メートルプールを擁する江戸川スポーツランドがあります。しかし、冬から春にかけてはアイススケート場になるため、プールの営業は夏のみ。しかも、2012年は改修工事によりプールの営業はありませんでした。

都内の50メートルプールで泳ぎたい。それを望む人にとって、残された選択肢は世田谷区大蔵にある総合運動場温水プールで泳ぐことぐらいでしょう。このプールはとくに改修工事の予定もなく、東京体育館が再開する2013年3月31日まで、ほぼ開業しています。しかも、毎年のことですが、2013年元旦から営業するという“気合い”の入ったプールです。


総合運動場温水プール

スポーツジムに行くことを選ばず、公共プールで泳ぎつづける人の多くは、「50メートルを泳げる」ということを大きな利点にあげているようです。しかし、そんな50メートル泳者たちにとって、しばらくは不便を強いられることになりました。近場にふたつも屋内50メートルプールがあるということそのものが贅沢といえばそうなのかもしれませんが。

世田谷区にある総合運動場温水プールの案内ホームページはこちら。

参考ホームページ
東京都スポーツ文化事業団「東京体育館改修工事に伴う休館のお知らせ」
東京辰巳国際水泳場「大規模改修工事に伴う休館のお知らせ」
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