2012.10.31 Wednesday
ハードカーボン負極材を増強、クレハ――リチウムイオン電池負極材のメーカー動向(6)
クレハというと、「ニュー・クレラップ」という食品用ラップフィルムでよく知られています。この企業も、リチウムイオン電池負極材をつくっています。
クレハは、高機能材料や家庭用品、化学品、医薬品、電池材料などの事業部を擁するメーカーです。1944年、呉羽紡績から分離・独立するかたちで創立しました。1960年には、ロングセラー商品となる「クレラップ」を早くも発売しています。
リチウムイオン電池負極材の事業化は1991年のこと。石油ピッチを原料とする活性炭製造技術をもとに、ハードカーボンとよばれる負極材を開発しました。石油ピッチとは、重油を蒸留したあとに残る暗褐色または黒色の固形物。また、ハードカーボンは、粒子が硬く黒鉛化しにくい炭素のことです。
同社は、このハードカーボンを、放充電に強く耐久性に優れた材料だとして、車載用リチウムイオン電池の用途をうたっています。
2010年までの負極材の生産体制は、福島県いわき市のいわき事業所による1年で600トン規模のものでした。2010年7月、クレハは2012年までにいわき事業所の生産能力を年1600トン規模に増強することを発表しました。さらに、2015年には4000トン規模の生産体制を目指しています。電気自動車などの自動車向けリチウムイオン電池の需要増に対応したものです。
また、おなじく2010年7月に、伊藤忠商事、それに米国の電池製造業エナデル社とともに、エナデル社に負極材を供給するための新設プラントの第1期工事にかかわる設計業務開始について合意したと発表しました。
クレハはエナデル社の電気自動車用リチウムイオン電池への負極材供給者に採用されたわけです。エナデル社は、エナワン社の子会社で、米国ではセルから電池システムまでを一貫して開発・製造することのできる唯一の企業とされています。
さらにクレハは2011年12月、化学製造業クラレとのハードカーボン負極材の共同開発・事業化を発表しました。クレハと伊藤忠商事の合弁企業であるクレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパンンにクラレが資本参加や人材投入を行うというもの。
また、クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパンとクラレによる生産合弁会社を新設し、2013年には年1000トン規模で量産・供給体制を構築するといいます。
クレハの他企業との提携には、車載用リチウムイオン電池の需要拡大に対して、クレハがもつ以上の資本力で対応していくことが背景にあると考えられます。
2012年1月発表の中期経営計画「グロウ・グローバリーII」でも、ハードカーボンを企業の成長を支える要素(成長ドライバー)と位置づけています。ここでは、石油由来のハードカーボンに加えて、植物由来の負極材をクラレと事業化へ向けて進めていくこと、クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパンを軸とした他社との連携をはかること、いわき市の新材料研究所と東京都の電池材料技術センターがニーズに合った最適な材料を供給していくこと、などが計画として打ち出されています。つづく。
参考記事
クレハ 2010年7月15日付「リチウムイオン電池用負極材『カーボトロンP』の車載向け採用に伴う設備増強について」
日経産業新聞 2011年10月20日付「クレハ、バインダー ニッチで先行、特性に強み」
参考文献
クレハ 2012年1月23日発表「『新中期経営計画 Grow Globally II』説明資料」