科学技術のアネクドート

時勢に乗るリチウムイオン電池、正極材は脱コバルト――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(14)

リチウムイオン電池の主要材料の一つである正極材を、どの企業がどうつくっているか、その動向を見てきました。

企業という組織は、「いまは、この事業に力を入れるべきときだ」と判断すると、矢継ぎ早に増強計画を立て、それを実行していきます。電気自動車が普及していくと考えられているいま、充電池の主役となったリチウムイオン電池は、今後、ますます世の中で使われていくと、多くの企業が考えています。

リチウムイオン電池の正極材をつくる企業は、いまがまさに力の入れどきとなっているわけです。

正極材をめぐる大きな潮流としては、「脱コバルト」というものがあります。これまで、正極材には、コバルト酸リチウムという化合物が多く使われてきました。

しかし、コバルトは、可採埋蔵量が限られており、「希少金属(レアメタル)」の代表格です。市場価格が乱高下しやすく、コバルトを材料に正極材をつくるのには危険もともないます。価格が高騰してしまったら、コストが掛かりすぎて利益が出なくなるからです。

コバルトは2008年の上半期に、1キログラムあたり1万2000円に届くかというほどまで高騰しました。そのご、2009年に入ると1キログラムあたり4000円前後まで下がり、2011年下半期には、2500円前後になりました。ピーク時にくらべれば価格は下がっているものの、希少金属の価格がいかに乱高下しやすいかがわかります。

リチウムイオン電池の正極材では、コバルトなどの主要金属の価格が大半を占めます。多くの正極材メーカーは、「脱コバルト」の路線をとる中で、リチウムイオン電池に変わる強力な蓄電池が登場しないかぎり、今後も生産体制を増強していくことでしょう。了。

参考記事
NeoMag 2011年12月8日「液晶TVなど販売不振受け、スマホ使用量少なく」
ダイヤモンドザイオンライン 2009年8月
「リチウムイオン電池の価格を下げる『脱コバルト』レースの勝者は?」
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人口爆発するも地球の水分への影響は皆無


人の体重のうち、6割は水で占められているといいます。つまり人とは、水風船のようなものです。

産業革命以降、地球上での人の数は爆発的に増えていきました。19世紀はじめに10億人だったのが、2011年に70億人になりました。

ということは、このあいだに、地球上の水分のうち、60億人分が、人につぎ込まれたことになります。1人の体重を50キロとすると、1800億キログラム、つまり地球上の水分のうち、1億8000万トンの水があらたに人の体にためこまれたことになります。

地球の水分は、水、氷、水蒸気と、どのような状態でも全体の質量は変わりません。また、宇宙に出ていく水分もごく限られているため、いつのときも地球の水分の総量はほぼ変わらないといえます。

となると、19世紀以降の人口爆発は、地球の水分にとって、どのくらいの影響をおよぼしたのでしょうか。

地球上のすべての水分は、およそ140京トンあるといいます。つまり140京トンのうちの1億8000万トンが、人の体に奪われたことになります。これはどのくらいの比率なのかというと……。

地球のすべての水分のうち、およそ130億分の1が、人の体に奪われたことになります。orz。

ここから実感されることは、水分を奪う主体としては、人口が爆発的に挿花する人間の影響はほぼゼロに等しいということ。そして、地球にはとてつもなく多くの水分があるということです。
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「『食べられない』を『儲かる』に変えたプロジェクト」

日本ビジネスプレスのウェブニュースJBpressで、きょう(2012年)9月28日(金)、「『食べられない』を『儲かる』に変えたプロジェクト」という記事が配信されました。この記事の取材と寄稿をしました。 

「食べられない」というのは、冷凍カツオの赤身以外の部分です。カツオ漁では、釣ったカツオを速くも船のなかで凍らせて、電動ノコギリで切って、赤身だけの状態にすることがあります。

このとき、赤身以外の、皮や骨や血合肉などからなる「削り粉」とよばれる部分は、人に食べられることはほぼなく、たいていはあまり価値の高くない飼料や肥料となっていました。血合肉があっというまに劣化して臭いを発したり、骨や皮がまじって舌ざわりがよくなかったりしていたためです。

その「食べられない」でいた削り粉をすり身にして、人がお金をだして食べるような「儲かる」食品に変えることに挑んだプロジェクトがありました。静岡県水産技術研究所による「カツオ丸ごと食用化プロジェクト」です。

記事では、プロジェクトを推進した開発加工科上席研究員の平塚聖一さんに、売れる食品にするための戦略などを振りかえってもらい、一部始終を語ってもらいました。

食べられなかったカツオの部分から、利益につながる商品を開発して、それが売れれば儲けになります。しかし、地方自治体である静岡県が営利活動をして収入を上げることを目指したわけではありません。「カツオの未利用部分の削り粉で、こんな食品をつくれるんですよ」ということを、企業に知らせることが先決です。

それがうまくいくと、食品メーカーなどは「カツオのすり身も食材になるのか。だったら購入しよう」となります。そうすると、カツオの冷凍加工業者の儲けが増えます。そうすると、加工業者にカツオをより多く買える資金力がつきます。そうすると、日本がより多くのカツオを買えるようになります。

背景には、このところ外国がカツオを買うようになり、日本がカツオを買うシェアが落ちてきたということがあります。このプロジェクトには、広い意味で「日本の食をまもる」という目的があるわけです。

静岡県水産技術研究所は、焼津市にあります。焼津はカツオ水揚の有数の地。なかでも、水揚されるカツオの多くが冷凍カツオです。水産技術研究所は、地元の水産加工業者と連携をとりプロジェクトを進めました。地元の産業を活性化させるという、地域密着型の地方プロジェクトです。

プロジェクトで開発された、「カツオにぎり」「カツオ角煮」「カツオかりんとう」は、静岡県内の高速道路パーキングエリアやスーパーマーケット、エキナカ売店で買うことができます。

「『食べられない」を『儲かる』に変えたプロジェクト 進化を遂げる『カツオ食』(後篇)」はこちらです。
前篇の「カツオを食べる達人だった日本の漁師」はこちらです。
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“夜更けの仕事メール”に賛否その他の受けとめかた

受信時刻が未明の3時台や4時台といった“夜更けの仕事メール”を受信することはあるでしょうか。日本と時差のある国から受信することは当然としても、日本国内にいる仕事の相手先から、夜更けの受信時刻でメールが届くことです。

「日時: 2012年9月26日 3:25:10JST お世話になっています。誰々です。ご連絡いただきました、ご質問の件、下記のとおり返答させていただきます。……」

昼に働いて、夜は休むという生活をしている人からすると、夜更けの時間帯にメールが届くということは異常に思えることでしょう。

多くの人は、夜更けの送信時刻のメールを受信すると、「こんな時間までまだ仕事をしているのか」と感じることでしょう。遅い時間にメールを送信することそのものが、ひとつのメッセージになるわけです。

では、そのメッセージに対してどう人びとが考えるかとなると、それには賛否両論がありそうです。

賛同的に捉える人は、「こんな時間までまだ仕事をしているのか。ほんとうにあの人は仕事をがんばっているのだな、感心してしまう」と思うことでしょう。とくに、「前日中」という仕事のしめきりを守ってくれなかった人から未明の仕事メールが来ると、「しめきりは超えてしまったけれど、そのあともがんばってくれたんだな」と、むしろ好印象になる場合すらあります。

いっぽう、否定的に捉える人は、「こんな時間までまだ仕事をしているのか。あの人は手際が悪いのかな。または仕事中毒なのかな」と思うかもしれません。とくに、夜中まで仕事を引きずるようなことのない人は、信じがたく思えるでしょう。

賛成的や否定的よりももっと多そうなのは、憐憫的に捉える人たちです。「こんな時間までまだ仕事をしているのか。かわいそうに」というものです。

「こんな時間帯まで私は仕事をせざるをえない状況になっているのですよ」と同情を請うメッセージを込めて送信した人が「きのうのメールは夜更けでしたが、遅くまでお仕事たいへんですね」などと憐憫的な返事をもらえれば、すこしは満たされるわけです。

夜更けにメールを書いたとき、すぐに送信ボタンを押すのも、朝の健全な時間帯になってから送信ボタンを押すのも、本人の選択です。ただし、書いたメールをすこし寝かせてから読みなおすと、誤字脱字やあいまいな物言いに気付くとはよくいわれます。
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「コバルト以上」の正極材開発に着手、住友化学――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(13)


リチウムイオン電池の主要な材料である正極材のメーカーとその動向を紹介しています。新しく正極材市場に挑みはじめた企業もあります。住友化学はそのひとつです。

住友化学は、基礎化学、石油化学、情報電子化学、健康・農業事業といった部門をおもな事業部門としているメーカーです。1913年、住友総本店の直営事業として、愛媛県新居浜に肥料製造所が設置されました。これが、住友化学の沿革の端緒です。

2009年12月、住友化学は、リチウムイオン電池の正極材を、情報化学部門の電池部材事業部で取り扱いはじめることを発表しました。

取り扱う正極材の用途は、自動車用や産業機器用のリチウムイオン電池で、希少価値の高いコバルトを用いません。「コバルト系正極材と同等以上のエネルギー密度を維持しつつ、大幅な出力特性の向上を実現した製品」としています。

技術的には、微粒子の材料をナノ寸法で結晶化し、電極の表面積を増やすことで、高い出力と長い寿命を目指しました。

住友化学は、リチウムイオン電池のべつの材料であるセパレータを製造してきました。セパレータ事業との連携により、リチウムイオン電池事業の強化をはかることができそうです。

2012年5月に発表した経営方針では、リチウムイオン電池正極材の「本格普及時期」を、2015年としています。つづく。

参考記事
住友化学 2009年12月1日「リチウムイオン二次電池用部材事業の強化・拡大について」
住友化学 2012年5月11日「2011年度決算説明会 決算・業績予想および経営方針」
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不在市長たち、不在市長市長選びに懸念


「市長が自分が長をつとめる市に住んでいるかどうか」に関わる話題がいくつかあります。

福島市の市長が、大学の教授に「福島市長は、山形市に住んだ上で、公用車で毎朝通っている」と指摘されました。しかし、市長は「自分は福島市に住んでいる。事実無根」としてこの教授に抗議。教授は市長に陳謝することで事は収まりました。

一方、大阪市の市長は、大阪市でなく豊中市に住んでいることを公にしています。また、過去には、奈良県生駒市の市長が奈良市に引っ越しをしたということが話題にのぼりました。市長が自分が長をつとめる市に住んでいなくても、法律に触れることはなんらありません。市民や市議会からの批判を受けることはべつとして。

自分が長をつとめる市に住まない“不在市長”は、ほかの特定の市に住むために批判を受けやすくなるのでしょう。もし、特定の市よりも“中立度の高い市”に住めるようになれば、その批判を受けにくくなるかもしれません。

たとえば、無人島になっている島を「不在市長市」という市にする法律が制定されたとします。この「不在市長市制定特別法」の条文には「不在市長市には、不在市長のみが住み、かつ、すべての不在市長が住むこととする」「不在市長市の制定後、1年以内に市長を決定することとする」とあります。

大阪市長も生駒市長もふくめ、自分が長をつとめる市には住まない“不在市長”のすべてが、この新しい不在市長市に引っ越してきました。そして、不在市長たちはこの不在市長市から、自分が長をつとめる市に通勤することになったのです。

不在市長市の住民、つまり不在市長たちにとって、この市での居住はなかなか居心地のよいもののようです。「大阪市長なのに豊中市に住むとはなにごとだ」「生駒市長なのに奈良市に住むとはけしからん」といった、特定の他市に住むことの批判を免れるのですから。

ところが、不在市長市が制定されてからしばらく経つと、この市民のあいだで大きな問題がささやかれるようになりました。

「われわれの市の長になる人はどこに住めばいいのだろう」

「不在市長市制定特別法」では、不在市長市の制定から1年以内に、不在市長市民である不在市長たちのあいだから「不在市長市長」を決定することになっています。この不在市長市長も市長です。

もし、不在市長市長が当選後も不在市長市に住みつづけるとなると、不在市長市制定特別法違反になってしまいます。なぜなら、不在市長市には、不在市長しか住むことができないと法律で決まっているからです。

では、不在市長市長は、不在市長市以外の市町村に住むべきでしょうか。しかし、それもまた不在市長市制定特別法違反になってしまいます。不在市長市長が不在市長から引っ越せば、この不在市長市長は不在市長になります。法律では「すべての不在市長が不在市長市に住むこととする」とあるため、不在市長市長が不在市長市に住まないとなると、この条文に抵触します。

そこで、不在市長市民である一人の不在市長は考えました。

「不在市長市制定特別法を改正すればいいのだ。『不在市長市長市を制定する。不在市長市長市には、不在市長市長のみが住むことができる。不在市長市長市には、市長を置かないでよいものとする』という条文を加えれば解決しそうだな」

この不在市長は、国政に打って出ることにしたそうです。

参考記事
共同ニュース 2012年4月9日付「福島市長が避難との発言を謝罪 神戸大教授」
参考ホームページ
ウィキペディア「市長のパラドックス」
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国会議員はうなずかず、若手識者はうなずく


テレビの討論番組に、主張の異なる人どうしが登場することがあります。与党と野党の国会議員が出てくる「テレビタックル」や「朝まで生テレビ」などはその典型例です。

ベテラン議員などの討論慣れしている人と、若手学者などの討論慣れしていない人のあいだには、大きなしぐさのちがいが見られます。

それは、対立する人の話に、うなずくかどうか、というもの。

たとえば討論番組で、野党の議員が与党の議員に向かって、「おたくらの政権公約には、消費税は上げないって書いてあったじゃないですか」と発言したとします。野党の議員は与党の議員に対して、“事実”を述べたに過ぎません。

事実であれば、人はうなずいてしまいそうなところ。しかし、討論慣れした議員は、話を聞いているあいだ、微動だにしません。もちろん、うんうんとうなずくこともありません。

いっぽう、討論慣れしていない識者などがこうした討論番組に出演すると、おなじような場面でもうなずきが見られます。

たとえば、国会議員が若手識者に向かって「先生ね、あなたも過去に公聴会で消費税は上げてもしかたがないという発言をされていたではないですか」などと発言したとします。

こうした発言がされている最中、受け手の若手識者はうんうんとうなずくばかり……。

対立する人が発言しているとき、うなずくべきかうなずかないべきか。視聴者や聴衆にあたえる印象としては、うなずかないほうがメリットが多そうです。あるいは、うなずくほうがデメリットが多いといいますか。

うなずきは、相手に同調を示すしるし。対立議員の指摘にうなずけば、対立議員の主張を認める印象をあたえます。うなずかなければ、対立議員の主張を認めない印象をあたえます。

しかし、対立する人どうしという枠を超えて、日本人としてのコミュニケーションのありかたを考えれば、人のしている話が事実であれば、うなずくというのは自然な行為ととることができます。

うなずきというしぐさは日本人特有のものともいいます。たしかにドイツ人や英国人が、うん、うん、とうなずきながら会話している姿を見かけることは多くありません。

うなずく行為をよく行う行為としている日本人にとって、うなずきそうな場面でうなずかなかったり、うなずかなそうな場面でうなずいたりすることには、大きな意味をあたえます。

参考ホームページ
千駄ヶ谷日本語教育研究所「日本語の美しさ」
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震災のりこえ三元系製造設備を増強、JX日鉱日石金属――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(12)



コバルト、ニッケル、マンガンという3種類の元素を使ってリチウムイオン電池の正極材を製造する“三元系”では、メーカーの最新動向も見られます。積極的に発信をしているのはJX日鉱日石です。

JX日鋼日石金属は、資源開発、金属製錬、電材加工、環境リサイクル、技術開発を主な事業内容とする企業。1905年の日立鉱産買収によって久原工業所が設立されたことが、沿革のはじまりとなっています。

その後、社名の変更や分離独立などを経て、1992年に日鉱金属が発足しました。2006年に日鉱金属と、日鉱マテリアルズ、それに日鉱金属加工の3社が経営を統合させて、新日鉱ホールディングスとなりました。さらに、2010年、新日本石油とのあいだで統合持株会社を設立し、JX日鉱日石金属となりました。

リチウムイオン電池の正極材関連事業は、電材加工事業の薄膜材料部門のなかにあります。用途として自動車をあげています。

正極材の生産拠点は、茨城県北茨城市の磯原工場です。2011年3月の東日本大震災では、工場が被災し、停電、設備・建屋の破損などのため一時、操業停止となりました。その後、3月31日までに正極材の製造設備を含む設備の復旧を完了させています。

JX日鉱日石金属は2009年1月、1年に300トンを生産する能力をもつ正極材製造設備を磯原工場に建設することを発表し、正極材市場に参入することを表明しました。この正極材の特徴として、「電池寿命特性の向上」「独自の一貫プロセスによる安全性の向上」「高い品質の安定性」を掲げています。

とくに、寿命特性の向上については、湿式製造法という方法によって、正極材におけるすべての構成元素を同時に析出させるとともに、ナノレベルで分散性をコントロールできる製造プロセスを確立したとしています。既存の正極材を使った電池にくらべて、寿命は2、3割増しともいいます。

2011年1月には、正極材の生産規模の増強を発表していました。92億円を投じ、1年間で5000トンをつくれる規模にするとしていました。

その後、大震災の影響で、当初の予定よりも遅れましたが、2012年9月19日に、磯原工場での5000トン体制の新製造設備を完成。竣工式を行ったことを発表しています。なお、この増強設備の建設は、経済産業省の2010年度「低炭素型雇用創出産業立地推進事業費補助金」の対象にも採択されています。

さらに、海外拠点での正極材生産も視野に入れているもようです。2012年8月に、足立吉正社長は、ロイター通信の取材に対して「将来的にはリチウムイオン電池の正極材工場を米国にも建設する可能性がある」と語ったと報じられました。JX日鉱日石金属は、電材加工事業関連では、JXニッポンマイニング・アンド・マテリアルズ・ユーエスエーというグループ会社を米国アリゾナ州にもっています。

三元系の元素との関連では、コバルト、ニッケル、マンガンや、リチウムそして銅を扱うリサイクルプロセス技術をもっています。

経済産業省からの委託事業「使用済みリチウムイオン電池等からコバルト、ニッケル、マンガンおよびリチウムを回収する実証化試験」を2010年4月から福井県敦賀市の敦賀工場で行ってきており、2011年6月には、レアメタル回収に関する当社の独自技術の有効性を確認したと発表。2012年10月の事業化を目標に、7億円を投じて実証化試験と事業化に向けた検討を進めていくとしています。つづく。

参考記事
JX日鉱日石金属 2009年1月26日付「車載用リチウムイオン電池用正極材の設備投資について」
JX日鉱日石金属 2011年1月12日付「車載向けリチウムイオン電池用正極材の製造設備の大幅能力増強について」
JX日鉱日石金属 2011年3月31日付 「『東北地方太平洋沖地震』の影響について(第6報)」
JX日鉱日石金属 2012年9月20日付「車載向けリチウムイオン電池用正極材の新製造設備の竣工について」
ロイター通信 2012年8月3日「インタビュー:中国の銅需要は夏過ぎに回復へ JX日鉱日石金属社長」
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働くときは裏が表に、表が裏に

秋らしさの訪れとともに、すこしずつ蚊もすくなくなってきます。ちょうど使い切れそうだという人も、何本も余らせて来年の夏にもちこしという人もいることでしょう。

蚊取り線香でよく話題になるのが、右巻きか左巻きかといったことです。「金鳥」ブランドで知られる大日本除虫菊の蚊取り線香「金鳥の渦巻」は左巻き。いっぽう、アース製薬の「アース渦巻き香」は右巻きといわれています。

実際、大日本除虫菊はホームページに「なぜ、『金鳥の渦巻』は左巻なのでしょうか」といった話題を掲げています。ちなみにその質問に、“工場長”が「同じ頃、他社製品は右巻を作っていたので、他社と区別して『金鳥の渦巻』とわかるように左巻にしました」と正直に答えています。

左巻きか右巻きかという話があるのに対して、「蚊取り線香の表はどちらか」といった話はめったに聞かれません。製造者も消費者も、どちらが表であるかは目に見えてわかることだからです。

蚊取り線香のケースのふたを開けたとき、見える側が表と考えるのがふつう。蚊取り線香は表の顔を消費者に向けているのです。もちろん、大日本除虫菊などの製造者もその認識はおなじようです。

しかし、実際に蚊取り線香を使うときのことを考えると、どちらが表か裏かわからなくなってきます。

蚊取り線香は中央に空いた穴に付属の金具を突きさして使うもの。このとき、表と裏とどちら側の穴に金具をつきやすいかというと、あきらかに表側となります。


表側は、穴のまわりに若干のくぼみがあって、すっとやさしく金具を突きさせるようになっています。

また、ケースのふたを開けたとき表面を向いているということは、手でもってそのまま金具を突きさすのにも好都合です。


いっぽう、裏側は、穴のまわりにくぼみもなく、たんに「―」という穴の細い線があるだけ。裏側に金具を突きさそうとすると、表側ほどはかんたんにはいきません。突きさすのに苦労しているあいだに、蚊に刺されてしまうおそれもあります。

つまり、ふつうに蚊取り線香を使うとき、表側から金具を突きさすため、実際に使っているあいだは、裏側が天井側、表側が床側になるわけです。

道具とは、使われるためにあるもの。蚊取り線香も「使われているときこそ華」と考えると、裏とされているほうが表としたほうが自然かもしれません。

前出の“工場長”によると、蚊取り線香に表と裏があるのは、昭和30年ごろ機械生産に移行したとき型ができ、触ってやわらかみのあるほうが表、角ばっているほうが裏となったようです。

道具にも表向きの顔と、実際に働くときの顔の両方があるといえましょう。もちろん、どちらが表でどちらが裏かを決めるのは人間なのですが……。

参考ホームページ
大日本除虫菊「工場見学 工場長に聞く」
アース製薬「アース渦巻香」
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“科学の終焉”が来ると思っても科学を続ける


朝日新聞出版がこのたび、『京都大学 by AERA』というムックを発売しました。京都大学の先端研究、学生生活、また文化などを紹介したムックです。副題はその名も「知の大山脈、京大。」。このなかの「[京大発]新しい世界に挑むトップランナー10人」という記事の一部を取材・執筆しました。

『AERA』は週刊誌ですが、このところ大学と手を組んで、その大学が伝えたい魅力をムックにして販売することが多くなっています。国立大学では以前、東京大学のムックを発行していました。京大も負けじとAERAムック化を考えたのかもしれません。

「トップランナー10人」に登場する、理学系研究科教授で理論物理学を専攻する川合光さんは「ひも理論」の解明にとりくんでいる研究者の一人です。

ひも理論とは、宇宙のすべてのものの最小単位は、“ひも”状の物質であると考える理論のこと。ひも理論では、万物の最小単位は、鰻のようなかたち、あるいは輪ゴムのようなかたちをしていると考えられてきました。

川合さんは、過去にみずからが打ち立てたべつの物理理論を、ひも理論に当てはめてみたところ、たった1行の単純な式で表現できるかもしれないということに気づきました。いまも、この式が正しいかをほかの研究者とともに検証しているそうです。

理論物理学の分野では「科学の終焉」がささやかれています。物理学では、宇宙を支配する力は「強い力」「弱い力」「電磁力」「重力」の4種類であると考えられています。このうち、重力をのぞく三つの力は、標準モデルとよばれるおなじ理論のなかで説明できるようになっています。もし、ひも理論が完成すると、その理論のなかに重力も矛盾なく加わることになるといいます。

すると、四つの力すべてがひとつの理論に収まることになります。そして、これにより、物理のうちすくなくとも理論で研究する理論物理学のほうは、大きな研究テーマはなくなってしまうといわれています。

ある問題を解決しようとする仕事には、進めれば進めるほど、仕事をなくしてしまうことに近づくという、ある種の矛盾を論理的にははらんでいます。理論物理学者が行っている「ひも理論」の解明にも当てはまるのでしょうか。

川合さん自身はどう考えているかといえば、ひも理論の完成によって理論物理学の終焉がくるということを、けっして否定的には捉えていないようすでした。「基礎の原理を追究する物理学は役目を終えるのかもしれません」と、話しています。

物理学者がそれでも「ひも理論」にとりくむのは、自分で発見をしたり、研究競争に勝ったりしたいという本質的な欲求があるからです。自分やるべき仕事がなくなってしまったときのことを考えるより、自分がやるべきいまの仕事を考えるほうが、いまを生きる人にとってはほとんどの場合しっくりとくるのです。

朝日新聞出版による『京都大学 by AERA』の紹介はこちらです。
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主力は三元系正極材、田中化学研究所――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(11)



リチウムイオン電池の主要材料である正極材には「三元系」とよばれる種類があります。

三元系正極材とは、これまで紹介してきた、コバルト、ニッケル、マンガンという三つの元素を使った正極材をおもにいいます。コバルト酸リチウムのコバルトの一部を、ニッケルとマンガンに置き換えたものです。熱安定性が高いといった特徴がいわれています。

正極材のなかで、おもにこの三元系に力を入れているメーカーもあります。

田中化学研究所は、三元系正極材料、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、また、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケルなどの各種原料・材料を製造するメーカーです。

1956年に、懐中電灯のマグライトを製造する企業として設立しました。その後、フェライト用炭酸マンガンや、ニッケル塩類の製造をしてきたが、1986年に、ニッケルカドミウム用高密度水酸化ニッケルの生産を開始しました。

リチウムイオン電池関連では、1995年に酸化コバルトの生産を開始。その後、2003年に、三元系正極材を開発して、生産を開始しています。リチウムイオン電池を含む二次電池の正極材料が主力で、全売上の9割ほどを占めています。おもな納入先は、三洋電機を含むパナソニック、韓国のLG化学などと考えられます。

2009年4月には、福井大学や福井県と産学官連携で、充電量が1割多い正極材を開発しました。田中化学研究所は、三元系の正極材の開発を担当しています。一般的なコバルトを使った正極材よりも充電容量と安全性を高めることに成功しています。

また、2009年10月には、三元系のリチウム複合酸化物前駆体を得る前駆体製造について、水酸化物ならびにその製造方法に関する特許を米国で取得したと発表しました。

さらに、2012年1月には、水酸化物ならびにその製造方法、およびそれらを前駆体として用いたリチウム複合酸化物、ならびにその電池に関する特許を日本で取得したと発表しています。

コバルト、ニッケル、マンガンからなる三元系の他に、希少性の高いコバルトを含まない正極材の開発も進めています。

2009年8月には「リチウム二次電池用のコバルトを含まない正極材」を開発したと発表しました。これは、産業技術総合研究所ユビキタスエネルギー研究部門、同先進製造プロセス研究部門との共同開発で、酸化物中全遷移金属量の20%に鉄を用いたリチウムイオン二次電池用新規コバルトフリー酸化物正極材料を2種類、開発したもの。製造は、産総研で開発した、共沈工程、水熱工程、焼成工程を経て作成する方法を基本にしています。

田中化学研究所は、「遷移金属イオンの均一な分布を確保しつつ、比較的低い温度で 焼成を行うことが可能となり、結果として高温焼成に伴う粒成長により充放電特性が大幅に劣化する鉄の活用が可能となった」としています。希少性の高いコバルトを含まず、鉄を活用することにより、電動車両用のリチウムイオン二次電池の省資源化・低コスト化が期待されるとしています。

2011年10月には、コバルトとニッケルを含まず、リチウム、鉄、チタン、マンガンからなる酸化物正極材を開発したと発表してもいます。具体的には、鉄置換リチウムマンガン酸化物と、鉄およびチタン置換リチウムマンガン酸化物です。

これらの開発も、産業技術総合研究所のユビキタスエネルギー研究部門、同先進製造プロセス研究部門との共同開発である。同社は、「高い初回充放電容量を確保しており、既存正極材料並みの性能でかつ希少金属のコバルトやニッケルを含まないため、電気自動車などのリチウムイオン二次電池の省資源化・コスト低減への貢献が期待される」としています。

また、今後の展開について「開発品のさらなる充放電特性改善のため、高容量化やサイクル劣化抑制に取り組む。併せてキログラムオーダー製造技術に取り組み、2013年ごろを目処に電池メーカーなど産業界に提供することを目指す」としています。つづく。

参考記事
田中化学研究所 産業技術総合研究所 2009年8月17日「リチウムイオン二次電池用のコバルトを含まない正極材料を開発」
田中化学研究所 2009年9月10日「『リチウム複合酸化物前駆体』に関する米国での特許取得のお知らせ」
田中化学研究所 産業技術総合研究所 2011年10月12日「安価で高性能なリチウムイオン二次電池正極材料の開発に成功」
田中化学研究所 2012年1月5日「『リチウム複合酸化物』に関する日本での特許取得のお知らせ」
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「チョウとガ」はおなじでちがう傾向、「タカとワシ」はおなじでおなじ傾向
動物には、よび名こそちがっても生物学の分類上、区別を付けられないものがあります。たとえば「チョウとガ」それに「タカとワシ」といった動物たちはその例といわれています。

チョウとガは、羽と体が鱗粉で覆われているのが特徴の、鱗翅類(りんしるい)とよばれる括りのなかにあります。鱗翅類はチョウ目ともよばれます。

チョウとガのちがいを求めていろいろな情報にあたってみると「ガはチョウと形態上の明確な差はない」という記述に出くわすことでしょう。『広辞苑』の「蛾」の項目には、親切にも「……チョウと区別するが、やや便宜的」と書かれてあります。


チョウとガ

タカとワシはどうでしょう。両方とも猛禽類タカ目タカ科とよばれる括りのなかにあるということで共通しています。

しかし、タカとワシにはちがいもあります。タカよりも大きめのものがワシであり、ワシよりも小さめのものがタカであるといいます。では、体長何センチ以上だとワシになり、何センチ以下だとタカになるかといえば、そのような厳密な区別はないもようです。もしあれば、成長するにしたがってタカがワシとよばれることになりますが、そのようにはよばれていません。

つまり、タカとワシには大きさのちがいこそあるものの、形としての区別はつかないわけです。

タカとワシ

さて、チョウとガ、それにタカとワシ。写真を見たり想像したりしたとき、より区別をつけやすいのはどちらでしょうか。鷹匠はともかく、多くの人は「チョウとガ」と答えるのではないでしょうか。

なんとなく、チョウは葉などに止まっているときは羽を立たせているのに対して、ガは羽を寝かせ広げている。チョウは昼間に活動するのに対して、ガは夜に活動する。チョウは華麗な色をしているが、ガは地味な色をしている……。実際、チョウとガではこれらの特徴のちがいはなきにしもあらずのようです。しかし、チョウのような特徴をもつガや、ガのような特徴をもつチョウもあるといいます。

いっぽう、タカとワシは「どちらがタカでどちらがワシか」と問われても、イーグルスとホークスのユニホームのちがいを当てるほどには、「これはワシ」あるいは「これはタカ」と答えることはむずかしいでしょう。

人びとは「イデア」というものをもっているといいます。ギリシャの哲学者プラトンがとなえたもので、「もと、見られたもの・姿・形」といった意味があります。肉眼の目でなく、心の目で見たときの対象になるもの・姿・形とも説明されます。

つまり「チョウ」といわれて大多数の人びとが想像する共通的な形があり、それがチョウのイデアなのです。チョウのイデアとはべつに、大多数の人びとが想像するガの共通の形もおそらくはあります。これはガのイデアです。

人がチョウとガを区別しやすく、タカとワシを区別しにくいとすれば、チョウとガのイデアは明確にちがっていて、タカとワシのイデアはあまり明確にちがわないということもできそうです。

では、その「イデアのちがい」のちがいはどこからくるのかといえば、人はチョウやガの実物を暮らしのなかでよく目にするのに対して、タカやワシの実物をあまり目にしないという点にあるのでしょう。

人びとがタカとワシを目にする機会が多いのテレビや写真を通じて。テレビや写真のフレームのなかに、タカとワシがいっしょに登場することはめったにありません。テレビや写真では、タカとワシそれぞれの大きさの感覚がつかめないというのも、タカとワシのイデアがあまり明確にはちがわないことの要因になっていそうです。

参考文献
『広辞苑第五版』
参考ホームページ
岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)理科教材データベース「昆虫図鑑:チョウ目(鱗翅目)」
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あたりまえでもあたりまえでない

人には“慣れ”というものがあります。はじめのうちはおっかなびっくり物事にとりくんでいても、いつしかなにも考えずにそれができていたり、それをしていたりすることがあります。

その人自身がとりくんできたことがあたりまえのことになりすぎると、あたりまえではない人の感覚を失ってしまうことがあります。

たとえば、日々インターネットを使っている人は、自分がこれだけインターネットを使っているのだから、ほかのひともインターネットを使えてあたりまえという感覚についなってしまいます。

すると、なにか参加者を募集するようなときも、インターネットでそのお知らせを出し、インターネットでその応募を受けるようになります。ここにはもはや「インターネットをうまく使いこなせない」という人の視線や都合がありません。

電車のアナウンスにも、あたりまえになりすぎたことの客にとっての弊害があります。くる日もくる日も、つぎの駅名をアナウンスしてきた車掌は、その情報を発するということに自分のなかで慣れてしまいました。

そしていつの日か、「つぎの駅は、きぁばらー、きぁばらーです」といったアナウンスをするのがあたりまえになってしまいました。「次の駅は秋葉原です」というべきことろを。

電話による勧誘などにも、あたりまえになりすぎたことによる客にとっての弊害があります。インターネット回線を高速回線に切りかえてみてはという勧誘の電話があるとき、勧誘側は「ご主人様の家でお使いになられている回線は、Bフレッツでいらっしゃいますか」などと聞いてきます。

これに対して、電話を受けた側は「Bフレッツ。なんだっけそれ。それに加入していたきもするけれど、どこを見ればわかるの」などと答えてくるかもしれません。

勧誘側にとってどの種類のものを使っているかは、そのものに身近なためだれもが知っていると思ってしまうのです。しかし、勧誘される側は、自分の使っている機械の種類や型番がなんであろうが、どうでもよいわけです。

そのものごとが自分にとって当然のものになると、当然のものと思っていない人の感覚を忘れてしまうもの。ぎゃくに、いつまでも当然と思っていない人の感覚を失わなければ、伝えたいことはけっこう伝えられるのでしょう。
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どす黒く臭いがあっても栄養豊富


赤身の魚には、赤い肉の側に黒ずんだ肉の部分があります。「血合(ちあい)」や「血合肉」とよばれる肉の部分です。

マグロやカツオなどの魚にとって、この血合肉の部分は持久力の源とともいえます。血合肉には、酸素がたくさん取り込まれ、ふつうに遊泳をするのに適しています。いっぽう、人が「赤身」とよんでいる赤い肉の部分は、マグロやカツオなどでは「普通筋」などとよばれ、瞬発力を発揮するときにおもに使われます。

よく、筋肉には色があり、赤い筋肉は持久力を、白い筋肉は瞬発力をつかさどるといわれます。マグロやカツオの場合、赤い筋肉が血合肉で、白い筋肉が赤身の普通筋の部分にあたるのです。

マグロやカツオの血合肉にあまりお目にかかることはありません。加工した刺身などでは、たいてい血合肉が捨てられてしまうためです。刺身にする部分にくらべて生臭いといったことがいわれ、敬遠されるようです。マグロなどの血合肉の多くはキャットフードの缶詰などに加工されます。

しかし、血合筋には栄養が豊富に含まれています。悪玉コレステロールの濃度を下げる効果があるとされるイコサペンタエン酸(EPA:EicosaPentaenoic Acid)や、神経細胞のネットワーク増やすとされるドコサヘキサエン酸(DHA:DocosaHexaenoic acid)などが、赤身の普通筋の部分より多く含まれているといわれます。

そのほかに、鉄分、タウリン、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB6といった栄養素も、普通筋より血合肉のほうが多く含まれています。

カツオを丸ごと買えば、血合筋もまだ付いています。『カツオ・マグロのひみつ』という本を著した東京大学名誉教授の阿部宏喜さんは、本のコラムの中で「血合筋は適当に乱切りにして、せん切りショウガとネギの小口切りを加えて甘く煮れば、いい酒の肴になる」と述べています。

参考文献
阿部宏喜『カツオ・マグロのひみつ』
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「情報」の教育、形式はあるも本腰は入らず

「情報」ということばを定義するには、多くのべつのことばが必要となります。たとえば、国語辞典には「判断を下したり行動を起こしたりするために必要な、種々の媒体を介しての知識」とあります。

あまりにも自分たちの暮らしが情報で囲まれているため、あらためて情報を考えることはむずかしいものがあります。しかし、それだけ身近な情報というものを教育すべき、あるいは学習すべきという気運も高まってきました。

情報を教育するという場合、さまざまな観点の対立軸が考えられます。

対象とするものがハードウェアとソフトウェアにわけられるのはそのひとつでしょう。「ハードウェア」とはもともと「金物」の意味。トランジスタや集積回路から組み立てられた計算機械のことをつぎのこととの対比としていいます。

その対比されるものとは「ソフトウェア」。ソフトウェアはもともとコンピュータに入力されるプログラムを指したことばです。しかし、意味は広がり、情報を表現する媒体との対比として、情報そのものを指すようになりました。

情報のハードについて教育するとなると、コンピュータなどの機械がどのようなしくみで作動するのかといったことが教える対象となります。いっぽう、情報のソフトについて教育するとなると、情報にはどのような目的や種類があるかといったことが教える対象となりそうです。

まだあまり知られていませんが、高校では普通教科として「情報」という科目があります。じつは2003年度より日本の高校では授業が始まっており、2006年から大学の入試科目になっていることもあります。

2007年告示の科目の改訂を受けて、いまのところ科目はふたつ。「社会と情報」と「情報の科学」というものです。

「社会と情報」については、文部科学省の学習指導要領でつぎのような内容を掲げています。

「情報が現代社会に及ぼす影響を理解させるとともに、情報機器等を効果的に活用したコミュニケーション能力や情報の創造力・発信力等を養うなど、情報化の進む社会に積極的に参画することができる能力・態度を育てることに重点を置く」

この科目の具体的な内容としては、情報の活用と表現、情報通信ネットワークとコミュニケーション、情報社会の課題と情報モラル、望ましい情報社会の構築となっています。

いっぽう、「情報の科学」についてはつぎのような内容を掲げています。

「現代社会の基盤を構成している情報にかかわる知識や技術を科学的な見方・考え方で理解し、習得させるとともに、情報機器等を活用して情報に関する科学的思考力・判断力等を養うなど、社会の情報化の進展に主体的に寄与することができる能力・態度を育てることに重点を置く」

この科目の具体的な内容としては、コンピュータと情報通信ネットワーク、問題解決とコンピュータの活用、情報の管理と問題解決、情報技術の進展と情報モラルとなっています。

いっぽう、教師の情報に関する能力はというと、高校にかぎったことではありませんが、まだ改善の余地はありそうです。

文部科学省が実施している、全国の小学校、中学校、高校などの教員を対象とした「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」では、2011年3月現在、「情報モラルなどを指導する能力」は71.4パーセント、「児童・生徒のICT活用を指導する能力」は61.5パーセントでした。

これらの数値は、年度毎に上昇してきてはいるものの、まだなかには教諭より子どもたちのほうが情報についての知識が上回っているといった状況もあるかもしれません。

なお、高校の教科「情報」では、ほかの教科と同様、教員免許が必要です。実情では、数学や理科などの免許をもっている高校の教員が、情報の教員免許を取得して教えている場合が多いようです。

情報について教えることは教育として必要。実際に、カリキュラムとして導入もした。しかし、ほかの数学や英語などの主要科目ほど、本腰はいまだに入っていないというのが実情なのかもしれません。

参考文献
文部科学省 2010年1月「高等学校学習指導要領解説 情報編」
文部科学省 2011年8月「平成22年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」

参考ホームページ
文部科学省「教員免許制度の概要 教員を目指す皆さんへ」
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研究開発企業と共同でリン酸鉄リチウムを開発、電気化学工業――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(10)


リン酸鉄リチウムを用いたリチウムイオン電池正極材の開発・製造に力を入れている企業には、電気化学工業もあります。

電気化学工業は、有機系素材事業、無機系素材事業、電子材料事業、機能・加工製品事業をおもな事業内容としているメーカーです。1915年に、炭化物や切開窒素の製造業として創立されました。

2007年に発表した、2015年に向けた中期経営計画では、事業展開の重点項目として「電子材料および機能・加工製品事業へのより一層の注力」を掲げています。その具体的な戦略推進事業の対象のひとつとしてリチウムイオン電池を掲げています。

2011年4月には、リチウムイオン電池正極材としてリン酸鉄リチウムを開発したと発表しました。これは、三重県津市のエス・イー・アイとの共同開発によるもの。エス・イー・アイは、リチウムイオン電池の各種構成材料を研究開発している企業。両社は、アセチレンブラックおよびカーボンナノファイバーを特殊復号化することにより、導電性を向上させるなどしたとしています。

なお、電気化学工業は、カーボンナノファイバーに関連する事業を三菱マテリアルと共同でおこなっています。2011年4月には、カーボンナノチューブの量産技術を含む技術開発や市場調査を共同でおこなうことを発表しました。

電気化学工業が炭化物をつくるときに副生する一酸化炭素が、三菱ガスによるリチウムイオン電池の正極材や負極材の製造に使われるといった連携がとられているとみられます。つづく。

参考記事
電気化学工業 2011年4月26日「リチウムイオン二次電池用正極複合材料開発について」
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「実は日本だけだった?『餃子と言えば“焼き餃子”』」


日本ビジネスプレスのウェブニュースJBPressで、きょう(2012年)9月14日(金)、「実は日本だけだった?『餃子と言えば“焼き餃子”』」という記事が配信されました。「食の源流探訪」という連載でこの記事の編集をしています。執筆者はライターの澁川祐子さんです。

日本人が召している食の多くは、国外から入ってきて日本独自に発展していったもの。そうした食の“源流”を探っていくのが「食の源流探訪」です。

これまでカレーナポリタン焼きそばなどのテーマにそって、澁川さんが資料を集め、それを“料理”してきました。今回のテーマは餃子。餃子の王将や大阪王将などのチェーン店が拡大して、国民食のひとつになっていますが、本格的に普及したのは戦後ということです。

また、多くの日本人は「餃子」といえば「焼き餃子」を思い浮かべるでしょうが、記事によるとこれは例外的。外国では、むしろ「水餃子」や「蒸し餃子」のほうが普及しているといいます。

では、なぜ日本では「餃子といえば焼き餃子」となったのか。その理由を、昭和のコメディアン古川緑波のエッセイや、雑誌『サライ』といった古今の文献から紐解いていきます。そして、渋谷に最近まであった餃子店が鍵を握っていたことを紹介します。

記事で澁川さんは餃子そのもののルーツまで探っています。新疆ウイグル自治区のアスターナ古墳群からは、なんと餃子それにワンタンの化石が見つかったということです。アスターナ古墳群は、自治区内のトルファンにあるおよそ2000ほどからなる古墳の群で、273年から778年にかけての墓があります。

JBpressの記事では紹介していませんが、化石の写真を掲載しているサイトもあります。たとえばこちらです。たしかに、いまの餃子と通じるようなかたちをしています。

いま、人びとがあたりまえのように召している食には、あたりまえに食べられるようになるまでに至った歴史があるはずです。しかし、普及した歴史が知られていない食は多くあります。

JBpressの連載「食の源流探訪「実は日本だけだった?『餃子と言えば“焼き餃子”』」はこちらです。
| - | 18:30 | comments(0) | trackbacks(0)
仲間を並ばせておいて「長蛇の列」


ニュースや新聞などの報道で、裁判の様子をことこまかに伝えることがあります。なかでも、裁判の注目度の高さを伝えるのに「20席の傍聴券を求め2000人の傍聴希望者が長蛇の列をつくった」といった表現が紋切型になっています。

裁判所には傍聴席という座席があります。裁判の内容や様子を一般の市民が知るためによういされた座席です。しかし、裁判所の傍聴席には数にかぎりがあるため、傍聴席の席数より、傍聴を希望する人の数が多いと、傍聴席に座れる権利は抽選であたえられることになります。裁判が開かれるまえに、この傍聴券を求めて、裁判所の近くに長蛇の列ができるわけです。

この傍聴券を並ぶ列に、だれが並んでいるのでしょう。

もちろん、純粋に裁判の内容を聞きたいと思って並ぶ一般市民もいることでしょう。しかし、並ぶのは市民だけではないようです。とくに注目度の高い裁判では、“報道する会社の従業員”もかなりの数、並んでいるといいます。

裁判所の法廷には、記者席という座席があります。ここに報道関係者が陣どり、ニュースや新聞などで伝えるため裁判の様子を見ます。

しかし、記者席に記者が座るだけでは、裁判の様子を迅速かつ網羅的に伝えることができないおそれがあります。

裁判の様子を迅速かつ網羅的に伝えることをより確かにするにはどうしたらよいか。法廷の傍聴席にも、その報道企業の社員を座らせて、裁判の様子を見させればよいのです。そこで、重要な裁判では、記者席に座るそのニュースの担当記者だけでなく、ほかの従業員も傍聴券を得るために駆り出される場合があるといいます。

こうして市民にまぎれこんで、長蛇の列に報道企業の従業員がならび、傍聴券を引き当てたら、その報道企業は迅速かつ網羅的に伝えるうえでの若干の利点を得ることになるわけです。

報道企業は「20席の傍聴券を求め2000人もの傍聴希望者が長蛇の列をつくった」と表現するとき「傍聴希望者」のなかに報道企業の従業員も含まれていることがあるわけです。自分たちのしわざでおきた出来事を大きく伝えることは「マッチポンプ」とよばれています。
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「ソリューション」問題の解決策は置きかえ


企業が客からお金をもらうために提供するものには、「モノ」や「サービス」があります。もうひとつ、モノとサービスのその中間のようなところに「ソリューション」があります。

「御社ではどのような製品を開発されているのですか」
「製品というよりはソリューションなのですが、クラウドコンピューティングの時代に対応した情報管理ツールです」
「はぁ、要はどんな製品なんですか」
「ですから製品ではなくてソリューションです!」
「はぇ……」

「モノ」や「サービス」とおなじならびで「ソリューション」といった場合、もっとも近いことばは「システム」や「しくみ」となるでしょうか。上の会話の場合、「ソリューション」ということばを使わず「システム」や「しくみ」ということばを使っても会話は通じそうです。

もともと“Solution”とは「解決」あるいは「解決策」といった意味の英単語です。その動詞は“Solve”で「解決する」といった意味になります。

それからすると「ソリューション」を「解決策」と置きかえても通じるはず。しかし「わが社は製品というよりは解決策を提供しています」とはあまり言いません。なにを言っているのかあまり伝わらないからです。しかし、上の会話のように、「ソリューションを提供しています」と言われても、「解決策を提供しています」とおなじくらい、なにを言っているのかわからないと思う人もいるでしょう。

とくに「ソリューション」は情報通信技術の業界で使われています。しかし、ものごとを「解決する」ことが求められる業界は情報通信技術業界だけではありません。太ってしまったので痩せたい人も問題を「解決したい」わけですが、「あなたの体重を減らすためのソリューションを提供します」とわざわざいうダイエット研究家は多くはありますまい。

“Solve”には、もともと「ほどく」や「ゆるめる」といった語感があります。ほどいたり、ゆるめたりするのは、複雑にからまってかたまった糸くずのようなもの。つまり「ソリューション」の対象には「複雑なもの」がくることが語感からは自然なのです。

その点、情報通信技術の業界では、なにかをうまくやろうとするときの複雑なシステムをこしらえなければなりません。そこで、その複雑なシステムを提供しようとする企業が「ソリューション」ということばを使うわけです。

企業が提供するもののひとつを「ソリューション」とよぶことに違和感を覚える人がいるとすれば、「問題を解決する方法」という語感と離れたものも「ソリューション」とよばれるからでしょう。

上の会話のように「ソリューション」では通じないということもありえます。しかし、ことばが通じないという問題に対する解決法はそれほど複雑ではありません。「ソリューション」の代わりに「システム」や「しくみ」を使えばいいのです。
| - | 20:25 | comments(0) | trackbacks(0)
ナノ粒子技術支えにリン酸鉄リチウム事業を拡大、住友大阪セメント――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(9)



リチウムイオン電池の正極材をつくるメーカーのうち、リン酸鉄リチウムを主要材料としている企業を紹介しています。住友大阪セメントも、その一社です。

住友大阪セメントは、セメント、光電子、鉱産品などの事業をおもにしている企業です。1907年に設立された磐城セメントがこの企業の源流にあります。また、もう一つの源流には1916年に大阪窯業のなかで発足したセメント部があります。この部門は後に大阪セメントになりました。そして、磐城セメントと大阪セメントが1994年10月に合併し、住友大阪セメントとなりました。

住友大阪セメントは、1980年代に培ったナノ粒子をつくる技術を活用して、リン酸鉄リチウムの製造法の開発をしてきました。ナノ粒子をつくる技術は、「水熱合成法」とよばれます。これは、原料となる溶液を密閉容器に入れ、高圧の水蒸気の条件で化合物を合成したり、結晶を成長させたりする技術。高い純度で単結晶のナノ粒子を得られ、高い導電性を実現できるとしています。

2007年12月に、千葉県船橋市の船橋事業所で1年に150トン規模の製造ができるリン酸鉄リチウムのパイロットプラントを稼働させ、実証実験をしてきました。2009年5月には、リン酸鉄リチウムでの事業化を推進していることを明らかにしました。用途としてあげられたのは、ハイブリッド自動車、電気自動車、太陽光発電装置での蓄電です。

2010年4月には、リチウムイオン電池の製造するエリーパワー製の大型リチウムイオン電池向けに、住友大阪セメント製のリン酸鉄リチウム正極材が採用されるなどして、神奈川県川崎市の川崎工場で量産体制に入りました。

さらに、住友大阪セメントは2011年1月、「電池性能を大幅に向上するリン酸鉄リチウム」を開発したと発表しました。ナノ粒子をつくる技術とナノ粒子の表面を修飾する技術を駆使して、リン酸鉄リチウム粒子の微細構造を制御することが可能となり、電子伝導性が高まったことなどを明らかにしています。

さらに事業拡大路線はつづきます。2011年6月、ベトナムのフンイエン省イエンミー地区タンロンII工業団地内に、100パーセント出資の子会社エスオーシーベトナムを立ち上げ、リン酸鉄リチウム正極材の事業拡大をはかることを発表しました。2013年に年2000トン規模で生産できる見込みをそのときに発表しています。また、年1万トン規模のまで拡張することも可能といいます。

住友大阪セメントは、リン酸鉄リチウムとはべつに、リン酸鉄マンガンリチウムの開発もしています。構造はリン酸鉄リチウムと同様であるため、リン酸鉄リチウムの製造設備で生産することもできます。2014年春ごろまでに実用化することを目指すとしています。つづく。

参考記事
住友大阪セメント 2009年5月28日「リチウムイオン電池用正極材『リン酸鉄リチウム』の事業化を推進」
住友大阪セメント 2011年1月11日「新規改良型『リン酸鉄リチウム』でリチウムイオン電池正極材の事業拡大を加速」
住友大阪セメント 2011年6月8日「リチウムイオン電池正極材料の本格的事業拡大 ベトナムでの新工場建設について」
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それぞれの理由を抱え、昼も夜も断食


地球上には、「昼間になにも食べない」という生活と、「夜になにも食べない」という生活が同居しています。その対照は鮮やかなまでですが、背景となっているものは、表面的には大きく異なります。

昼間なにも食べない生活があるのは、イスラム圏です。

イスラム教徒の人びとは、だいたい一年に一度の頻度でラマダンとよばれる断食を行います。今年2012年は、西暦でいう7月20日から8月18日まで行われました。ちょうどロンドン五輪と重なっていたため、イスラム圏の国の代表選手は苦戦を強いられたと伝えられます。

いっぽう、夜になにも食べない生活があるのは、日本などの国です。

ダイエットに励んでいる人びとのなかには、“夜断食ダイエット”をおこなっている人もいます。昼間はふつうに食べてもよいけれど、夜になると食べることを絶つ、といったダイエット方法です。

敬虔な宗教の規律からなるラマダンは昼の断食。効果的と口コミで広まったダイエット法は夜の断食。時間帯が対照的であるということのほかに、べつの側面でも対照的な意味をもっていそうです。

むかしから人類は、なるべくエネルギーを自分の体のなかに蓄えて、エネルギーが枯渇したときにも耐えられるように努力してきました。すくないエネルギーでも生きのびるためです。

この点からすると、昼の断食のほうが生きるうえでの利点は多いのかもしれません。夜に食べるほうが脂肪を蓄積しやすいことが、さまざまな学説から支持されています。夜断食ダイエットが効果的であるとする論拠も、夜の食事は太るので避けるべきといったことから来ているようです。

いっぽうで、現在の美容がどこに価値を置いているかという見方からすれば、夜の断食のほうにも利点を見出せそうです。世界全体で見れば、太っている人よりは痩せている人のほうが、魅力的であるという文化が隆盛です。そのため、昼に食事をしないで夜に食事をするのでなく、昼に食事をして夜に食事をしない人がいてもおかしくはありますまい。

宗教的な理由から昼に断食をする人も、美容的な理由から夜に断食をする人も、どちらも人として生きるうえでのまっとうな理由をもっているわけです。人がなぜそれをやるのかの理由はさまざまです。
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「H・E」風力の実情をインフォメーショングラフィックスで紹介


集英社の漫画誌『月刊ジャンプ改』でボウイチさんが連載している「H・E The HUNT for ENERGY」が新展開を見せています。

『H・E』は、漫画としては類まれな、エネルギーを主題にした作品。「日本エネルギーコーポレーション」というエネルギー企業を舞台に、プロジェクトチームの社員たちが、この会社の主力事業だった石油に代わるエネルギー事業を見つけていきます。

主人公が、エネルギーの流れを肉眼で見ることができるといった、漫画ならではのサイエンスフィクション的な設定もあるものの、エネルギー問題を追ったストーリーは現実的。「太陽電池編」につづき、前回9月号からは「風力発電編」に移りました。

プロジェクトチームの社員たちが調査のために訪問したのは、「北島大学」理学部の上山広熊教授。この教授は、日本は「風の国」であるにも関わらず「風力発電の後進国」であると指摘します。風力発電そのものが再生可能エネルギーの潜在力が高いうえに、海に風車を置く洋上風力発電がまだ本格的に着手されていない点を指摘したもの。

こうした日本の現状を、漫画という媒体を使って理解しやすく説明しています。

たとえば、こんなコマが。広大な敷地の左側に置かれているのは、太陽光発電のパネル。8ヘクタールの太陽電池群が2つあります。いっぽう、その敷地で太陽電池群のすぐ右横に建てられているのは風車1台。敷地に埋められた支柱の面積は、0.01ヘクタール以下。

そして、広熊教授はこう解きます。「利用率まで考慮したらこのくらいの面積で……このくらいの規模のメガソーラーと同等の電気を生産できるわけだ」。

おなじエネルギーの量を生みだすにあたって、使う面積に大きな差があるということを視覚的に解いたコマです。

ほかにも、日本の風力発電量が世界の1.2%でしかないことを、ブロック塀のようなタイルの表現で示しています。全体のなかで大きな面積を占めているのは「CHINA」や「USA」「GERMANY」のタイル。日本はというと、タイル1個分あるかないかといったところ。

もちろん、帯グラフなどのグラフにしても表現することは可能でしょう。しかし、インフォメーショングラフィックの要素を盛りこんで、漫画のなかの説明として効果的に、再生可能エネルギーの現状を示しています。科学コミュニケーターには参考になるかもしれません。

風力発電の能力を広熊教授が一通り語りおえたところで、主人公の成島ヒロは「風力発電には深刻な問題があります」というセリフ。次号以降で、風力発電の課題も語られていくことでしょう。

11月にはコミック第2巻も発売予定。ボウイチさんの「H・E」は『月刊ジャンプ改』で連載中。ホームページはこちらです。
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直・交に一長一短


電流とは、電気現象を生みだす大元である電荷が流れることをいいます。そして、電流に二つの種類があります。直流と交流です。

直流(DC:Direct Current)は、回路のなかをつねに一定の向きに流れる電流のこと。乾電池や蓄電池などでは、つねにプラス方向へと直流の電流が流れています。

いっぽう交流(AC:Alternating Current)は、一定時間ごとに交互に逆むきに流れる電流のこと。日本の電力会社がめぐらせている電力網は、交流で流れています。

直流と交流にはそれぞれ利点と欠点があります。

直流の利点には、電線のコストがさほどかからないという点があります。たんに一定方向に電流を流すだけなので、複雑な回路にはなりません。また、位相差がないため安定に電気を供給できる点もあげられます。電圧が大きくなると電流が大きくなり、電圧が小さくなると電流も小さくなるということです。

しかし、直流では、電圧を変換することのむずかしさがあります。高い電圧のままの電気は、小規模な電気の利用には適しません。そこで、電流の途中で電圧を落とすひつようがありますが、直流からいったん交流に変換して電圧を落としてから、また直流に変換して電流を流さなければならないのです。これはやっかいです。

また、直流電源ではつねに一定方向へと電流が流れるため、雷などで電源を遮断しなければならないときは、大きな電流が流れているなかで電源を断ち切らなければならず、これにはむずかしさと危険性があります。

交流の利点には、電圧を比較的かんたんに変えられるという点があります。変圧器という装置のなかに、一次側と二次側とよばれる導線が巻かれてあり、この二つの巻かれかたによって電圧を低くすることができます。

しかし、交流にも欠点はあります。熱をつくりづらい点はそのひとつ。交流では、電流の流れが交互になっているため、電流が0になる瞬間もあります。このときは電気で熱をつくることができないため、熱をつくるという点では非効率さがあります。

また、家電製品など多くの電気を使う装置は、最終的に交流で電流が流されるため、直流への変換が必要となります。交流から直流へと電気が変換されるときにもエネルギーの損失があります。コンピュータなどには、直流にかえるACアダプタが付いていますが、このアダプタが熱をもつのはそのエネルギーロスの一例です。

直流の方式は、米国の発明家トマス・エジソン(1847-1931)が考えだし、交流の方式はエジソンの弟子であるクロアチア生まれで米国で活躍した電気工学者ニコラ・テスラ(1857-1943)が考えだしました。一長一短がありながら、いまも両方の方式が使われています。

参考ホームページ
電気設備の知識と技術「直流と交流の違い」
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リン酸鉄リチウム事業で戸田工業と提携、三井造船――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(8)


リチウムイオン電池の正極材には、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウムといった金属化合物のほかに、リン酸鉄リチウムという金属化合物が使われることがあります。

リン酸鉄リチウムは、熱力学的に安定していて、400度ぐらいまで酸素や熱の発生が起きないことや、くりかえしの放充電にも強いこと、またリチウムイオン電池の構成要素である電解液の酸化も起きにくいことなどが特徴としてあげられています。価格も安いため、電気自動車などの大型リチウムイオン電池の正極材としての期待が高まっています。

リン酸鉄リチウムの製造に力を入れているのが、三井造船です。1917年、三井物産造船部として岡山県日比町(いまの玉野市)で創業しました。いまは船舶や海洋のほか、環境リサイクルや社会インフラストラクチャー建設、機械システムなどの事業も行っています。

2008年に発表した2010年度までの中期経営計画では、リチウムイオン電池の正極材の製造を新規事業の一つにしていました。ただし、2011年5月発表の時期中期計画では、新規事業の事業開発の遅れを反省点にしています。そして、2011年に商業プラントを建設し、2012年に年間2000トンの規模で生産を始めることを計画に入れました。

リン酸鉄リチウムの製造について、三井造船は2006年7月に、「安定した性能の製品を産する固相焼成プロセスの開発に成功した」と発表しています。リン酸鉄リチウムが導電性で劣る点に対して、リン酸鉄の粒子を小さくして、電解液が接する表面積を拡大することで、出力を高めることを目指してきました。

生産体制について三井造船は、まず2006年7月、千葉県市原市の次世代リチウムイオン二次電池用正極材製造プラントで量産技術の実証を行うことを発表していました。その後、2009年には、1年に36トン規模で製造できる“セミコマーシャルプラント”を建設しました。

そして、2011年12月になり、戸田工業と共同でリン酸鉄リチウムの生産のため設立したM&Tオリビンという会社を製造・販売会社にして、三井造船の千葉事業所(市原市)に生産設備を建設することを決定したと発表してます。戸田工業は、広島県大竹市に本社のある、tなー材料や着色剤などを製造する化学メーカー。両社が設立する設備は、1年に2100トンを製造できる規模で、2012年に商業運転を開始。M&Tオリビンへの出資の比率は、三井造船が51%、戸田工業が49%です。

早いうちに年5000トン規模の生産能力に引き上げ、2016年度には事業規模100億円を目指しています。つづく。

参考文献
三井造船「2011年度 中期経営計画」
参考記事
日刊工業新聞 2011年12月16日付「三井造と戸田工業、電池正極材用リン酸鉄リチウムのプラント建設」
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屈折する光に浮かす力
光を照らされると、人は「まぶしい」とのけぞったり、「気持ちいい」と笑みを浮かべたり、いろいろな反応を起こします。人を動かす光の力といえるでしょう。

人ほど大きいものは無理ながら、光の光線は物理的に小さなものを動かす力をもっています。かんたんにいうと、条件をさだめて光をあてると、そこにある小さな微粒子がもちあがるのです。

光の現象に「屈折」があります。ガラス塊などに光線を当てると、空気とガラス塊の境目で光線の向きが変わるという現象です。そして、光線がガラス塊から空気へ出ていく境目でも、また光線の向きが変わります。

ガラス塊に斜めに入っていった光線が、ガラス塊のなかで、より斜めになって曲がるのはなぜでしょう。これは、ガラス塊の中を駆け抜ける光の速度が空気のなかでより遅くなることが関係しています。

光線の内側の光のほうがより早い時刻にガラス塊に達するため、ガラス塊のなかで速度が遅くなりはじめる時刻が先になります。いっぽう、光線の外側の光のほうはより遅い時刻にガラス塊に達するため、内側の光がガラス塊のなかに達したとき、まだ速いままです。このおなじ時刻のときの光の内側と外側の速度の差により、光はより内側のほうへと曲がるのです。


上が空気、下がガラス塊

これは、車がカーブするとき、内側の車輪のほうがまわる速度が遅くなっていて、外側の車輪のほうがまわる速度が速くなっているのとおなじようなものです。

光線が空気のなかを通っていたら達していたところと、ガラス塊のなかを通ったために達したところはちがいます。そのため、このちがいを埋めるための力がはたらいているはずです。この力は「光放射圧」といいます。空気から水平に置いたガラス塊に斜めに入っていった光線では、ちょうどガラス塊に入ったところで、垂直上向きに力が出ます。

赤矢印が光放射圧

つまり、ガラス塊に斜めに入った光は、ものを上向きに浮かせる力をもっているわけです。

この光放射圧のしくみを使った道具も開発されています。細胞などの小さなものの位置を光で整える「光ピンセット」はそのひとつ。

また、光の力で球状の微粒子を浮かして、その近くに置いた小さな対象物と接近させ、小さな対象物のかたちを調べる「光放射圧マイクロプローブユニット」にも光放射圧のしくみが大いに使われいます。

参考ホームページ
ニコン「光放射圧マイクロプローブユニット」
東京大学 黒田・志村研究室「光トラップについて」
身近に感じる理科「光の屈折」
| - | 21:46 | comments(0) | trackbacks(0)
“後の混乱期”は戦争後だけにあらず
「戦後の混乱期」ということばがあります。

戦争を終えた国の社会が、戦争の影響を受けて混乱している期間をいいます。日本では、1945年8月の敗戦以降、1952年4月まで連合国軍が日本を占領していた時期を「戦後の混乱期」と指すことが多いようです。この時期、戦争で海外へ行った日本人の引き揚げや、闇市の乱立などがありました。

なにかが終わったあと、しばらく混乱期を迎えるのは、戦争だけではありません。大小さまざまな「何々後の混乱期」があります。

一人規模かつ数十秒程度の小さな混乱期としては「取材後の混乱期」があります。

記事を書くために有識者や当事者などに話を聞くのが取材。部屋のなか行う取材では、よく机を囲んで記者と取材対象者が対話することが多いですが、しばしばさまざまな資料をおたがいが用意しており、それが机のうえにだんだんと積みかさなっていきます。

協力的な取材対象者は、「ちょっと待って。そういった資料が書棚にあったと思うから」と言って、本を机にもってきて、つぎつぎと置いていきます。

いっぽう記者側も、ノート、音声録音機、交換した名刺、それに記者側が用意した資料などを机に置くことが多くあります。机の上は、ある種のカオス状態に。

多くの記者は取材中、取材内容に集中するもの。あるいは、はじめて会う取材対象者のまえで緊張するもの。そのため、取材が終わってからの“美しき撤収”まで頭がなかなかまわりません。

取材が終わると、机に置いていた資料や名刺などいっさいがっさいを、とにかく鞄のなかに放りこんでその場を出ようとします。いちいちばらばらになった資料などを再び順番どおりにするようなこともなく……。

しばらくして、鞄のなかに移されたカオス状態を整理するときに、録音機が見あたらない、といったことも。そして、取材対象者のものとおぼしき資料や名刺入れが入っていることも。

「もしもし、先生すいません。さきほどの取材で私、ICレコーダを机に置きわすれてしまったか、と」
「ああ、ここにあるよ。でも、私の名刺入れが見つからんのだよ」
「あっ、私の鞄のなかに入っていました。どうもすいません! いまからもう一度、そちらに参ります」orz

鞄のなかのカオス状態が取材前の状態に戻り、忘れものなどを取り戻すことができたとき、取材後の混乱期は終焉を迎えるといってよいでしょう。

こうした「何々後の混乱期」には、「イベント後の混乱期」「会議後の混乱期」などの類例もあります。
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円盤回転の風圧で浮いて情報保存


デジタル情報を保存する機器はいろいろありますが、ハードディスクドライブは1956年に発売されたもの。フロッピーディスクやMDやMOなどが廃れるなかで、息の長い保存機器といえそうです。

ハードディスクドライブでは、磁気を帯びた金属の円盤の部分に情報が保存されます。高速に回転する円盤の上を、磁気ヘッドがすばやく移動します。磁気ヘッドは電流コイルつながっていて、コイルからの電流によりヘッドがS極になったりN極に反転したりします。

このヘッドで反転するS極とN極の磁力の影響を円盤が受けます。これにより、ハードディスクドライブで、デジタルの保存法の共通原理である“0”と“1”の保存ができるようになります。

ヘッドと回転する円盤が接してしまっては、ヘッドも円盤も傷ついてしまいます。ヘッドと円盤が離れすぎていてはヘッドの磁力を円盤が受けとることができません。ヘッドと円盤の距離は0.01マイクロメートルほど。回転する円盤に風圧が発生するために、ヘッドがこのくらいの高さ浮きあがるのです。

ハードディスクドライブはヘッドが1個で円盤が1枚というかたちが基本です。しかし、ヘッドが何層もあり、おなじ数の円盤があるものもあります。情報を記録する円盤の数が多くなるということは、情報を保存することのできる量も多くなるわけです。

参考ホームページ
ハードディスクの構造と原理
ナノエレクトロニクス「Hard Disk Drive 読み書きの原理」
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コバルトを使わない正極材で材料コスト7分の1、東ソー――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(7)



リチウムイオン電池の正極材としてマンガン系材料に力を入れる企業には、日本電工や三菱化学のほかに、東ソーや三井金属があります。

東ソーは、化学品やセメントなどのクロル・アルカリ事業、オレフィンやポリマーなどの石油化学事業、有機化製品や高機能材料などの機能商品事業をおもに手掛けているメーカーです。

東ソーの「ソー」とは「ソーダ」のこと。1935年に、東洋曹達工業として、山口県周南市に設立しました。1975年には、石油化学メーカーの鐵興社と合併しています。

東ソーは、高純度二酸化マンガンの開発・製造をしてきました。宮崎とギリシャに1年間で合計6万トンをつくれる生産拠点をもち、世界シェアの2割を占める世界最大手とされます。

これまで製造してきた二酸化マンガンは、おもにアルカリ乾電池に使われる正極材dした。しかし、東ソーは、リチウムイオン電池の正極材としても二酸化マンガンに注目しているようです。2009年には、コバルトを使わない正極材の製造技術を開発したといいます。これにより、材料コストを従来の7分の1に抑えることができます。

東ソーはまた、2010年11月に二酸化マンガンの製造時に発生する廃棄物の大型処理場を宮崎県に新設しました。二酸化マンガンを1トンつくるにあたり、1トン以上生まれるという鉱物かすを埋め立てるための新処分場です。容積は120万立方メートルほどで、35年間使用してきた旧処分場が満杯になりました。

リチウムイオン電池の正極材にも二酸化マンガンが使われることを見込んでの処分場新設と考えられます。

いっぽう、三井金属鉱業は、機能材料、金属・資源、電子材料、素材、自動車部品を主な事業としているメーカーです。1874年、三井組が神岡鉱山蛇腹平を取得し、鉱山経営を開始したことが、会社の沿革の端緒となります。

リチウムイオン電池の正極材などの電池材料関連事業は、機能材料事業本部に含まれます。この部門は、リチウムイオン電池の負極材の製造も手掛けています。

正極材については、広島県竹原市の竹原工場で、携帯電話向けのマンガン正極材を、月に80トンの規模で生産してきました。2011年1月には、車載リチウムイオン電池の正極材用に、1年間で1万2000トン規模を生産すると、増強を発表しています。この増強の投資額は約70億円です。

次回からは、おもにリン酸鉄系の正極材を製造する企業の動向を紹介します。つづく。

参考記事
日経産業新聞 2010年11月9日付「リチウムイオン正極材需要に備え、廃棄物処分場を新設、東ソー、十数億円で宮崎に」
三井金属 2011年1月24日付「リチウムイオン二次電池用マンガン系正極材料の生産設備設置について」
参考ホームページ
東ソー「電解二酸化マンガン」
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耐えつづける人も、モードを切りかえる人も
自分の置かれた境遇や、自分の課せられた作業が厳しいものになったとき、人はどのように対処するのでしょう。対処のしかたとして「耐えつづける人」と「モードを切りかえる人」がいそうです。

たとえば、ある会社が「わが社の出社時刻を午前9時から1時間早めて、8時に出社することとする」と突然に通達があったとします。なかば理不尽な要求に対して、社員ははじめ「納得いかない」と思うことでしょう。

そして、午前8時出社の日々が始まりました。ある社員は「8時出社は早すぎる、ああつらいつらい、ぶつぶつ……」と嘆いています。おそらくこの社員は、9時出社のときのモードが抜けきれていないなかで、それと比べて1時間も早い出社を強いられていると感じているため、その境遇に耐えているわけです。

いっぽう、ある社員は、朝8時出社が始まって2、3日もするとそれが普通になったようです。こちらの社員は「朝8時出社になったのだから、それをあたりまえのものにしよう」と、モードの切りかえができたのでしょう。

ダイエットでもおなじことがいえそうです。これまで食べていたうどんやごはんなどのカロリーの高い炭水化物を食べないダイエットをしている人のなかには、それらの食材を食べないことを耐えつづけている人もいることでしょう。いっぽうで、モードを切りかえて、ごはんやうどんなしの食生活を、それはそれとして普通に受けいれる人もいることでしょう。

耐えつづけるか。モードを切りかえるか。表面的には、やっている行為はおなじに見えても、心の負担は大きく異なります。そして、どちらも人がすることのできることです。
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予想到達時刻はわかるが「いまは何時何分なんだ」
きょうは防災の日。前日のきのう(2012年)8月31日(金)、フィリピン東方沖でマグニチュード7.6の地震があり、一時、日本の太平洋沿岸にも津波注意報が発令されました。

テレビの地上波では、民間放送が画面の右下に日本列島とともに津波注意報の地域を黄色で点滅表示させながら、通常の放送をつづけていました。

いっぽう、NHKテレビでは、通常の番組を切りかえて、アナウンサーが「津波注意報が出た地域の皆さんは海岸や川の河口付近から離れ、近づかないで下さい」となんども繰りかえし、注意を促していました。結局、大きな津波は日本沿岸に来ませんでしたが、公共放送としての使命を果たしたといえるでしょう。

NHKテレビでは、アナウンサーが「津波の到達予想時刻は『奄美群島・トカラ列島』と『沖縄本島地方』、『大東島地方』、それに『宮古島・八重山地方』で午後11時半ごろ……」などと、津波の到達予想時刻も伝えていました。

それとともに画面の左下にも「津波到達予想」のテロップを示し「奄美群島・トカラ列島 午後11:30 50cm」「沖縄本島地方 午後11:30 50cm」などと、文字でも津波がいつごろ到達しそうかを知らせていました。

NHKテレビの画面より

しかし、テレビ画面上には、現在の時刻を示していませんでした。何時何分に津波がくるという予想の情報があるのに対して、いまは何時何分であるのかといった情報を画面から得ることはできないわけです。

現在の時刻をあえて画面に示さない理由があるのでしょうか。

NHKに聞いて見ると、「あえて画面に示さない理由も示す理由も、とくにはありませんでした」とのことでした。

アナウンサーも声で「もうまもなく予想到達時刻となります」とは言っていたものの、声ではほかの情報も伝えなければならないためいまの時刻を伝えるのには限界があります。もし、現在の時刻が画面に示されていれば、「自分の街に津波が来るまでにあと何分」という情報を、視聴者は得ることができます。
| - | 09:52 | comments(0) | trackbacks(0)
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