科学技術のアネクドート

四つの主要部材制覇に貢献、三菱化学――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(6)



リチウムイオン電池の正極材としてマンガン系材料に力を入れる企業は日本電工のほかにもあります。

三菱化学は、三菱ケミカルホールディングスに属し、素材などの製造や販売をおもな事業内容にしています。

歴史的には、1934年に日本タールの社名で創設されたのちの三菱化学と、1956年に三菱グループとシェルグループの共同出資で設立した三菱油化が合併し、1994年に三菱化学となりました。

三菱化学が属する三菱ケミカルホールディングスは、よく「リチウムイオン電池の主要四材料をすべて製造している企業」と紹介されます。正極材のほか、負極材、電解液、セパレータという材料の製造もカバーしています。

正極材関連事業の立ち上げは、これらの主要材料のなかでは新しく、2010年、岡山県倉敷市の水島事業所内で正極材製造工場が本格稼働し、量産体制に入りました。それまで三菱化学は、ハイブリッド自動車に適した高出力、かつ低コバルト含有比率の正極材を10年以上にわたり開発しつづけ、香川県坂出市の坂出事業所で量産化が医術の検討をしてきました。

負極材、電解液、セパレータに加えて、正極材の製造も加わったことで、三菱ケミカルホールディングスは、世界でも類のない、リチウムイオン電池の幅広い材料を扱うメーカーとなったのです。つづく。

参考記事
三菱化学 水島製作所 2010年4月「特集 三菱化学電池材料事業紹介」
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汗かき、病気も体質も


暑い日、水を「がぶっ」と飲むと、その1秒後に汗が「どばっ」と吹きでる人がいます。

汗は、皮膚の汗腺とよばれる器官から出てくる分泌液です。99%以上は水ですが、塩、呼吸などに重要な役割をもつピルビン酸、糖を材料につくられる乳酸、それにアンモニアなどをごく微量に含んでいます。

汗の役割のひとつは、体温の調整。熱をもった体に汗が出ると、汗の水が蒸発しますが、そのとき熱が奪われていきます。打ち水とおなじようなことが、からだの表面で行われるわけです。これで、熱くなったからだを冷まします。

「汗をかくように」と指令を出すのは、脳にある視床下部という部分。その指令は、交感神経を伝って、おもに「エクリン腺」というからだにある汗腺まで届きます。それとともに、アセチルコリンという伝達物質も出てきて、エクリン腺の受容体に入りこんでいきます。

こうなると、エクリン腺は、すぐそばを走る血管から血液を汲みとって蒸発させるための液、つまり汗として利用しようとします。しかし、血管には汗として出ていってしまうと体が困る大切な成分も含まれているので、それらの成分を血管へと返します。残った水と、わずかな量の塩やアンモニアなどの物質が混ざったものが、汗として出てくるのです。

人のほかに馬も汗をかきますが、汗をかく動物はめずらしいほう。ほかの動物には汗腺がないものも多く、たとえば犬ははぁはぁと舌を出すことで、ここから水分を出します。

汗が異常なほど出る病気は「多汗症」といい、からだの異常が原因となります。更年期障害により、発汗を抑えるエストロゲンというホルモンの分泌がすくなくなり汗を多くかくようなったり、甲状腺機能亢進症という病気により基礎代謝が活発になり汗が多くなったりすることがあります。

しかし、病気としての多汗症による汗かきはわずかなもので、多くは体質的なものからくる汗かきのようです。緊張しやすい、ストレスを感じやすい、太っているといった要素も、汗かきに関連しているとされます。

参考ホームページ
わきが多汗症研究所「発汗のしくみ」
カラダにe-サイトhealthクリック「気になる汗の話 よい汗と困る汗」
| - | 21:05 | comments(0) | trackbacks(1)
家から近すぎる店に困る


自分の住まいの近くにある店には、「すぐ行ける」という利点があります。家から徒歩10分より、徒歩1分のコンビニエンスストアのほうが、より便利でしょう。すぐ行けるからです。

しかし、ときに、あまりに近すぎる店に行くことが、暮らしのちょっとした妨げになる場合もあるようです。それは「常連になりきれなかった場合」です。

Aさんの住まいから、歩いて30秒のところに理容店ができました。開店から1か月は記念で他の理容店よりも安い価格で調髪してくれます。そこで、Aさんは「近いし、ちょっと行ってみるか」と、開店したばかりの理容店に入ったのでした。

理容店では会話がつきもの。店員とAさんのあいだで「お住まいはこのあたりなんですか」「うん、じつはね、すぐそこなんですよ」などと話がはずみました。

ところが、Aさんにとって残念なことに、この理容店は開店から1か月が経つと、通常料金となりました。そして、その価格は、駅前の理容店よりも3倍も高かったのです。

腕前は近所の理容店も駅前の理容店も甲乙つけがたく。Aさんは、もとどおり、駅前の理容店に通うことに決めました。

困ったのは、毎日のようにこの人が家の近くの理容店の前を通ることです。理容店はガラスばりのため「お住まいはこのあたりなんですか」と話した店員の姿がばっちり見えて、目があうと会釈までしてきます。

近いうちに、Aさんは、駅前の理容店で髪を切ることになりそうです。そして、その切った髪の姿で、家の近くの理容店の前を通りすぎることになりそうです。

腕前がおなじだったらより安い店を選ぶというのは、客にとっては当然のこと。しかし、開店まもなく親しく話してしまったことと、その店が自分の住まいから近すぎることにより、Aさんは、毎日どこか申しわけない気持ちで店の前を通ることになったのでした。

「髪切ったら、しばらく帽子かぶるかな……」。
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マンガン系を主力事業のひとつに、日本電工――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(5)



リチウムイオン電池の正極材づくりに、コバルトよりも安いマンガンが使われるようにもなりました。マンガン酸リチウムという化合物にして使うのです。マンガン酸リチウムには、過充電に強く、過充電対策の保護回路を使わずに済ませられるといった利点もあります。

マンガン系の正極材づくりに力を入れているメーカーもあります。

日本電工は、合金鉄、新素材、化学品などの製造や販売をする企業です。1925年、のちに日本電気冶金となる大垣電気冶金工業の設立が、この企業の沿革の短所になります。2010年には新日本製鉄が日本電工の株の15パーセントを取得しています。

マンガン酸リチウムイオンの商業生産を1997年にはじめました。マンガン酸リチウム関連の事業を、新素材部門に位置づけています。

製造するマンガン酸リチウムの用途には、基本組成が、LiMn2O4である大型、中型、小型の各種リチウムイオン用正極材のほか、基本組成がLi4Mn5O12であるコイン型リチウムイオン電池用正極材もカバーしています。

2010年3月に20億円から30億円規模の投資で年間2700トンを生産できる第1期大型工場を富山県高岡市で稼働させました。加えて、2011年2月には、年間4000トン生産できる第2期大型工場も稼働させました。

リチウムイオン電池正極材関連事業を含む新素材部門は、2010年12月期の営業利益が、前年の7倍となる15億円程度に伸びており、合金鉄事業につぐ収益源となっているようです。2011年2月発表の2013年までの中期経営計画では、マンガン酸リチウムの事業拡大を掲げました。

ただし、2012年8月発表の では、「マンガン酸リチウムは自動車用大型電池向需要拡大が足踏み。需要家での在庫調整の 影響もあり減少」としており、「2013年以降に能力増強投資を延期、市場の需要動向を見極め投資を実行する」と、やや伸長姿勢になっているようです。つづく。

参考記事
日本電工 2012年8月7日付「2012年上半期連結決算概要 及び 下半期見通しと2012年連結業績予想」
2012年2月10日付「2011年連結決算概要及び2012年連結業績予想」
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“ヒトも動物”ゆえに縄張り争い


東シナ海の尖閣諸島や、日本海の竹島をめぐって、日本と外国の政府や国民が「ここは自分たちの国の土地だ」と言いあっています。

「国際的な裁判決着をつけよう」や「もともと領土争いの問題など存在しない」といった話が出ています。「島のまんなかに国境をつくって“島わけ”しよう」「たがいの国の人が訪れることのできる土地にしよう」といった話はあまり出ていません。

そもそも、なぜ人びとは、地政学的にはどちらの国ともとれないような島を、「ここは自分たちの土地だ」と主張するのでしょうか。

その島が自分たちの国のものであると、近くの海底に眠る資源や漁場を確保することができるというのは現実的な利点としてあるでしょう。

また、その島を相手のに国のものであると認めてしまうと、つぎつぎと「ここも自分たちのものだ」と言ってきて、領土侵害がますますひどくなることを恐れるためということもあるでしょう。

より生物学的な視点からいうと「縄張り」という考えかたを人も本来的にもっているから、ということがあります。

「縄張り」とは、人がたてものを建てる土地に縄を張って、たてものの位置を定めることをいいます。しかし、さらに生物に共通した意味での「縄張り」には、動物の一匹や群れが競争相手をなかに入れさせないように独りじめする地域のことをいいます。

縄張りは、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類などの背骨をもつ脊柱動物や、昆虫類、甲殻類、クモ類、ムカデ類などの節足動物といった多くの動物が保とうとします。

自分の縄張りがあれば、餌を確保できる、配偶者を確保できる、産卵場所を確保できる、子育の場所を確保できる、といったいろいろな利点があるわけです。そこで、相手を脅して縄張りを守ったり、場合によっては争いをして縄張りを広げたりするわけです。

ヒトもまた動物のひとつ。哺乳類の脊柱動物に属します。むかしからの縄張りへの意識というものは、いまになっても遺伝子のなかに引きつがれているのでしょう。縄張りは、動物が本質的に守るべきものであるために、領土問題はなかなか解決をみません。

参考文献
『広辞苑』第五版
参考ホームページ
コトバンク「なわばり」
| - | 21:06 | comments(0) | trackbacks(0)
よく見る電線の材料は銅とビニル

電気を通す電線は、家のなかにもいろいろなところで使われています。代表的な製品は、「ビニル絶縁電線」とよばれています。

ビニル絶縁電線の別のよびかたは、“IV”。Indoor polyVinyl chloride、つまり室内用ポリ塩化ビニルの“I”と“V”から“IV”とよばれています。

ふだんよく見る、ビニル絶縁電線はなにでできているのでしょう。

まず、電線を通す内側の導線にはおもに銅が使われています。硬い銅の線を加熱してから徐々に冷ましていく「焼きなまし」を行うことで、曲げやすい軟銅線となります。

また、軟銅線に錫のめっきをほどこすこともあります。錫で軟銅線の表面を覆うことで、酸化や錆びを防ぐことができます。

この軟銅線を一本のみ使うこともありますが、何本かを撚りあわせて使うこともあります。

軟銅線のまわりを覆う色つきの樹脂が、ポリ塩化ビニルです。導線を保護するほか、軟銅線を走る電気を絶縁する役目を果たします。

塩化ビニルは無色の気体ですが、分子どうしを結合させることによって樹脂になります。縄跳びの縄、レコード盤、消しゴム、かばんなど、ポリ塩化ビニル樹脂の使い道はさまざまあります。

塩化ビニルの被覆材には、黒、白、赤、緑、黄、青の6色が使われます。一般的に、黒や白は電源線用、また緑はアース用などと色のわけかたが決まっています。

さらに、耐熱性を強化したビニル絶縁電線も開発されており、それはHIV(Heat resistant Indoor polyVinyl chloride)電線などとよばれています。

参考文献
電線総合技術センター「EM電線・光ファイバのデータベース整備研究成果報告書」
参考ホームページ
電気設備の知識と技術「IV電線の概要」
電線ストア.com「電気用銅線・電気用導体」
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中国企業を子会社化、AGCセイミケミカル――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(4)


コバルト系を中心にリチウムイオン電池の正極材をつくってきた企業には、ほかにAGCセイミケミカル、正同化学工業、本荘ケミカルがあります。

AGCセイミケミカルは、旭硝子グループの企業で、1947年に設立されました。化学品、リチウムイオンバッテリー、それに研磨剤などの製造をしています。

リチウムイオン電池の正極材をつくりはじめたのは1995年から。コバルト系から始めて、その後1998年にはニッケル系の正極材の製造も始めました。

2002年には茨城県鹿嶋市の鹿島工場のラインでもリチウムイオン電池正極材の製造を
開始。また、2004年には、コバルト、ニッケル、マンガンを材料に使った三元系正極材の事業化も果たしています。

AGCセイミケミカルは2011年12月、中国の正極材メーカーでKLK社の子会社にあたる無錫通達鋰能科技有限公司を子会社化し、新会社名を「清美通達鋰能科技(無錫)有限公司」として正極材の生産を開始すると旭硝子が発表しました。これにより、旭硝子グループにおける正極材の生産能力は倍増するとしています。

正同化学工業は、無機化学工業薬品のメーカーとして1947年に設立しました。本社は大阪市にあります。

当初から酸化亜鉛の製造をおもな事業としており、リチウムイオン電池の正極材料用として酸化コバルトやリチウムコバルトを製造しています。

2006年頃までは、正極材のシェアで上位に入っていたが、2010年のシェアでは上位5位までには入っていないものと見られます。

本荘ケミカルは、亜鉛、リチウム、ストロンチウム、電池材料、有機スズ加工物、医薬品、医薬品中間体、窒素化合物、ゲルマンガス、マグネシウム、フラーレンやカーボンナノチューブなどのナノテク材料を事業製品とする化学メーカーです。1922年、大阪市福島区で、本荘祐雄氏が本荘亜鉛工業所を創立しました。1955年10月には、リチウム金属の製造販売を始めています。

リチウムイオン電池用の正極材の製造販売は、1992年に開始。正極材として扱っている物質は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、それに三元系など多様です。

とくに力を入れてきたと見られるのがコバルト酸リチウムでしたが、コバルト系に依存する体制の見直しをはかり、ニッケル系などへの多様化をはかってもいます。丸紅と共同出資をして、パシフィックリチウムという高純度炭酸リチウムの生産工場を運営しています。つづく。

参考記事
旭硝子2011年12月15日付「中国にリチウムイオン電池正極材の製造・販売拠点を新設 エネルギー循環型社会実現に大きく貢献する電池材料の事業展開を加速」
参考文献
赤穂市「正同化学工業(株)赤穂工場」
参考ホームページ
本荘ケミカル「電池材料 リチウムイオン二次電池正極材」
本荘ケミカル「パートナーシップ」

| - | 19:16 | comments(0) | trackbacks(0)
「食べものの4分の1が食べずに捨てられる国」


日本ビジネスプレスのウェブニュース「JBpress」で、きょう(2012年)8月24日(金)、「食べものの4分の1が食べずに捨てられる国 学び直しの『消費期限と賞味期限』(前篇)」という記事が配信されました。記事の取材と執筆をしました。

コンビニエンスストアやスーパーマーケットで食品を買おうとする多くの人が、消費期限や賞味期限を見ています。しかし、消費期限と賞味期限のちがいをはっきり知らないで、どちらも期限が来たら食べずに捨ててしまうという人もいるかもしれません。

記事では、東京農業大学客員教授の徳江千代子さんが、消費期限や賞味期限の詳しい意味をこたえています。徳江さんは『賞味期限がわかる本』の著者で、テレビ番組「世界一受けたい授業」でも消費期限と賞味期限の解説をしたことがあります。 

徳江さんによると、消費期限は「おおむね5日以内の、超すと危ないことを意味する期限」のこと。いっぽう賞味期限は「製造メーカーが品質を確実に保証している期限」のこと。消費期限を超えた食べものを食べることは体にとって危険になりますが、賞味期限を超えた食べものは品質の保証がなくなっただけでまだ食べられるものは多くあります。

しかし、日本の食事情は、とかく「早めに処分する」ことに走りがち。つまり食べものを食べずに捨ててしまうわけです。

この状況を表わしているデータを徳江さんは示します。

「日本で1人あたり1日に供給される食品の熱量は2010年度で2458キロカロリーであるのに対し、同じく摂取する熱量は1849キロカロリー。609キロカロリーを捨てていることになります。食料自給率が40%程度と言われているのに、もったいない話です」

1人あたり1日につき2458キロカロリー分のエネルギーを食べものとしてあたえられているのに、実際に食べものとしてからだに摂りこんでいるエネルギーは1849キロカロリー分でしかありません。食べものの摂取量がすくなすぎるというよりも、食べものの供給量が多すぎるといったほうがよいでしょう。

食べものが食べられずに捨てられてしまう背景として、徳江さんはコンビニエンスストア業界が新鮮なものを棚に並べることを重視するあまり、本当はまだ食べられる半分の期間で処分してしまうこともあるようだと指摘しています。

日本の食料自給率が約40%ということは知られてますが、日本の食べもののエネルギーの25%は食べられずに捨てられているということはさほど知られていません。

「食べものの4分の1が食べずに捨てられる国 学び直しの『消費期限と賞味期限』(前篇)」はこちらです。
後篇は8月31日(金)下記のURL内で配信予定です。
| - | 14:30 | comments(0) | trackbacks(0)
親指をすべらせすぎるとメールが吸い込まれてゆく


道具のデザインは、その設計者が何度もためしに使ってみて問題がないことを確かめてから決めることが大切になります。しかし、設計者の試用をかいくぐって使用者の悲劇を招くことになったデザインもあるようです。

ある物書きは、取材をするときの質問内容のメモを、自分のGmailのアドレスに送信して、iPhoneでそのメールを開いて、画面を見ながら質問しているといいます。取材相手には、iPhoneばかり見ていると時刻を気にしているのかなどと気を揉まれるため、「このiPhoneの画面に質問内容がありますので、画面を見ながら質問させていただきます」と断りを入れています。

ところがある日のこと、取材をしはじめてわずか1分後、その物書きは心のなかで悲鳴を上げました。「ぎゃっ」。

親指で画面を上下にスクロールしながら質問内容を見ていると、親指がすべってメールの画面の下側にある「箱に矢印」の謎のボタンに触れてしまったのです。この謎のボタンに触れると、あっというまにそのメールが吸い込まれていき、見えなくなってしまいます。

残りの59分、取材相手との対話の中で、この物書きは質問内容を見ることなく、記憶だけをたよりに質問をしていかざるをえなくなりました。

この謎のボタンは「アーカイブボタン」といいます。一瞬にしてメールがこのボタンに吸い込まれて、その画面から消えてしまうのですから「削除ボタン」といいかえてもよいでしょう。

アーカイブボタン

iPhoneの画面をスクロールさせるときは、ほかのスマートホンとおなじように、指で画面をなぞります。このとき、親指がちょうど画面の左右まんなかあたりに置かれるため、そのまま下のほうへ親指をすべらすと、謎のボタン「アーカイブボタン」に触ってしまうことがあるのです。

なぜ、削除へまっしぐらの謎のボタンが、これほど押されやすいところに置かれているのでしょう。「まさに謎だ」と、この物書きは嘆きました。

アーカイブボタンを押してしまうと、開いているGmailの画面上ではその吸い込まれたメールを取り戻すことはできません。メールボックスにある「すべてのメール」というところまで戻
ると、吸い込まれたメールも置かれています。

しかし、油断はなりません。画面中央下には、今度は「ゴミ箱」ボタンが置かれているため、まちがって親指をゴミ箱ボタンにすべらせると、このメールもゴミ箱に吸い込まれてしまいます。

「ここには『親指をすべらせすぎても動じないボタン』でも置いておいてくれればいいのになぁ。orz」
| - | 20:24 | comments(0) | trackbacks(0)
情報技術のコンシューマー化が進む


電車に乗っている人びとを見ると、もはや本や新聞を読んでいる人よりもスマートホンなどの携帯通信機器をいじっている人のほうが明らかに多くなりました。7人がけの椅子で5人や6人は、下を向いて機器を見ているといった景色もめずらしくありません。

これほどまで、人びとに携帯電話やスマートホンが浸透したため、これらの機器を使う側にとっては実感しづらい現象があります。「情報技術のコンシューマー化」とよばれる現象です。

コンシューマー化は、ある分野の製品やサービスの対象が、企業などの組織から、一般の個人へと移っていくことをいいます。

はじめはもっている人がほうがすくなかったような製品も、時がたつにつれて「私も買っちゃった」といった具合に普及していき、多くの人に使われるようになることがあります。こうなると、機能や品質やブランド力といった特性があまり意味をなさなくなり、「価格が安いから買う」「量が多いから買う」といったようになるといいます。

その段階まで来ると、だれもがその製品はもっていてあたりまえといったことになります。組織が高いお金を払ってたった1台を買い、それを組織のメンバーが供用するといったことはむかしの話になるわけです。

いま、情報技術の分野で、このコンシューマ化が進んでいるというわけです。2000年以前にも、ノート型コンピュータなどのコンシューマー化は起きていましたが、2000年以降は、携帯電話やスマートホンのコンシューマーかが進みました。

さらに今後は、アプリケーションを動かすデータや、保存したデータは、データセンターという場所に預けられ、人びとはそこからデータを送ってもらうことでコンピュータを操作する「クラウドコンピューティング」に則った機器のコンシューマー化が進んでいくといわれています。

情報技術のコンシューマー化が進んだ末にはどのような状況が待っているのでしょうか。組織が職場にコンピュータ機器を置くこともなくなり、社員ひとりひとりが個人のコンピュータを職場で使うのがあたりまえといった状況まで進むというのは、極端ながらありうるシナリオかもしれません。

参考文献
丸山不二夫「がんばれ日本。がんばれAndroid。オープンな技術とオープンな社会」
参考ホームページ
@IT情報マネジメント「コモディティ化」
| - | 21:30 | comments(0) | trackbacks(0)
日本にも製造拠点、ユミコア――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(3)



リチウムイオン電池の材料メーカーには、前回の日亜化学工業をはじめ日本企業が多く名を連ねています。そのなかで、海外企業が正極材の製造で台頭しています。

ユミコアは、プラチナ、パラジウム、ロジウム、金といった非鉄金属の精錬、加工、リサイクルをおもな事業とする、ベルギーの企業です。

1805年、ジャン・ドニという実業家がベルギー国内のヴィエレ・モンターニュ鉱山の鉱区を得たことが企業創立の端緒とされ、1837年にはこの事業から発展して、ソシエテ・アノニム・デ・マインズ・エ・フォンデリーズ・デ・ジン・デ・ラ・ヴェリエ・モンターニュという組織が発足しました。

ユミコアの源流には、もう一社あります。1906年に発足したユニオン・ミニエレという企業で、ベルギー領コンゴで、銅、コバルト、貴金属などの開発をしてきました。

1989年に、亜鉛を扱っていたヴィエレ・モンターニュ、銅、鉛、コバルト、ゲルマニウム、貴金属類などを扱っていたメタルギエ・ホボケン・オーバーペルト、エンジニアリングを事業としていたメシムがグループ企業として統合しました。この統合会社は、1990年代末ごろから、事業の中心を貴金属や亜鉛製品、それにコバルトやゲルマニウムを用いた機能材料へと移し、鉱山事業は売却を進めました。

そして2001年、いまの「ユミコア」という社名への変更がありました。

ユミコアは、正極材の製造拠点を韓国と中国にもっているようです。韓国のサムスンSDIやLG化学、中国のBYDといったリチウムイオン電池メーカーに正極材を納めていたとみられます。

2011年夏からは、神戸市に建設していた日本工場で正極材の製造を本格的に始めました。テクニカルセンターも設立しており、工場とテクニカルセンターを含めた従業員は40名と見られます。

最高経営責任者のマーク・グリーンバーグ氏は、日本に製造拠点を設立した理由を、日本には有力な電池メーカーがあり、直接やりとりをしながら調査や開発をできるのは、開発コストの面で合理的だからと述べています。

ユミコアが強みとしているのは、原材料調達網が充実している点とリサイクル技術をもっている点です。多種類の非鉄金属を扱っているため、コバルト酸リチウムだけでなく、三元系などの正極材をつくることも可能。また、リサイクルについては、ベルギーのホーボーケンに、コバルトやニッケルの再利用を目的としたリサイクル施設を設立しています。つづく。

参考記事
日経産業新聞 2011年5月25日付「正極材、世界2位のユミコア社、『日本での生産は合理的』――CEOに聞く。」
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“肯定しすぎ”に落とし穴


自分では気づかなくとも、話の“乗り”をとても大切にしている人はいます。なにかの質問をされたとき、自分がどう思っているかはべつにして、期待されている答をとにかくすぐに返すような人です。

スポーツ中継などで、司会者が「今日はあえて四つに組むことを狙っていたのでしょうかね」と振ると、間髪入れず「ですね!」と返す解説者は、その例でしょう。とにかく肯定から入って、自分の話を進めるわけです。

記者が人に話を聞く「取材」でも、乗りをとても大切にする人が現れることがあります。記者が質問することに対して、深く考えこむ時間もすくなめに、とにかく肯定的な答をすぐに返してきます。

しかし、あまりにも取材での話が同調的に進むときは、記者にとって思わぬ落とし穴が待ちうけていることもあるようです。

ある記者が、大学の教授に取材をしたといいます。「その先生は本当にこちらの話に『そうなんだよ』と楽しそうに答えてくれるんだ。だから、こちらも対話に乗ってしまって、どんどん質問がエスカレートしてしまったんだ」。

この取材をした記者と、取材を受けた教授のやりとりは、つぎのような感じだったといいます。

記者「そうですかー。となると、先生の学部では大きな改革が必要そうですねー」
教授「そう! まさに、それ! 早く学部改革を始めなければ、この学部の未来はないと思うよ」

記者「なるほど。ということは、つぎの学部長選挙では、ひょっとするとクビがすげかわる可能性も大ですねー」
教授「そう! 僕はね、そう思うよ。やっぱりトップが代わらないと」

記者「ふんふん。そこから話を発展させますと、大学の学長も、将来はそう長くはないという感じですねー」
教授「そう! そうそう!」

この記者は、教授からの全面肯定的な話を受けて、取材の中味にしたがって記事の原稿を書きました。「○○教授は、学部長、さらには学長の交代もふくめた大学の変革の必要性を強く感じているようだった」と。

「ところがね、記事が出た日に、教授から電話がかかってきてね。『○○くん、あんな記事を書かれては、僕の大学での居場所がなくなってしまうじゃないか。どうしてくれるよ!』」

実況、取材、商談、交渉……。あまりに肯定的な会話で繰りひろげられる会話では、その会話に携わった人の心のなかで「心の寄りもどしが起きる」「冷静さを取り戻す」「話した内容を忘れている」といったことがのちに起きうることを考えておくのもよさそうです。
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理解度が高まることもあれば、影響を受けすぎることも


人がなにかに取りくもうとするとき、“数値”を使うことがあります。「いつまで」や「いくつ以上」「いくつ以下」など、判断基準や目標になるような数値を考えてそれを自分に課したり、人に示したりするわけです。

多くのものごとによい面と悪い面があるように、数値を示すことにも、その数値の意味によって、よい面と悪い面が出てきます。

数値を示すことのよい面としてあげられるのは、目標や指示が具体的になるため、人がなにをすべきかを理解しやすくなるということです。

たとえば、ある工場で、1時間1000個のペースでネジをつくっているとします。しかし、工場長は「もっとがんばれるはずだ」と考え、目標を上げることにしました。

このとき、「みんなで、いまよりももっともっとがんばってネジをたくさんつくろう」という目標よりも、「生産率を10パーセント高めて、1時間で1100個のネジをつくろう」という目標のほうが、工場長も工員もどれだけがんばればよいか、理解しやすくなります。

ある人からある人への指示でも、「もうすこしだけ多く」とか「気持ち短く」とお願いするより、「もう10個だけ多く」とか「もう1.5mm短く」とお願いしたほうが、感覚のちがいから起きるずれを防ぐことができます。

いっぽう、数字を出すことの悪い面としてあげられるのは、人がその数字に引きずられすぎてしまう場合があるということです。

ものごとの安全性を示すときには、かならずといってよいほど数値が示されます。この数値の存在がしばしば人の考えを固いものにしてしまうことがあります。

たとえば、からだに食べものには、どれだけその物質をからだに摂りこんでもよいかや、いつまでならその食べものをからだに摂りこんでもよいか、といった数値が決められていることが多くあります。

これらの数値は、「より安全なほうへ」という考えかたにのっとって決められることが多いのです。万一、もっと危険であることがわかったとしても、それでもなお安全を確保できるように、という考えかたです。

しかし、あたりまえですが、数値があることにより、その数値を超えてしまったものに「数値を超えてしまった」という事実がつきまとうことになります。その数値が本当のところはなにを意味しているかということはあまり考えられず、数値を超えたことの重大性がより考えられるようになります。

そのため、本当はまだからだには危険とはいえない状態のものでも、からだに入れることを避けようとする心理が人にははたらきます。その心理は感覚的な部分が大きいため、なかなか改めようとしても改まるものではありません。

もちろん目標として示す数値にも、「その数値以上のことはがんばらなくなる」といった負の部分があります。また安全の基準として示す数値にも、「すくなくともこれを守っておけば健康は保たれる」といった正の部分があります。ものは考えようといいますが、数値も“捉えよう”という点を多くふくんでいます。
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世界シェアがトップ、日亜化学工業――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(2)


リチウムイオン電池の正極材メーカーは、さまざまあります。他のリチウムイオン電池の材料にくらべて、電池メーカーの内製や生産委託によることが多く、市場シェアは分散傾向にあるといいます。その分、正極材メーカーは群雄割拠といえるでしょう。

その中でも、コバルトを使った正極材をつくってきた大手のひとつが日亜化学工業です。1956年に設立し、本社は徳島県阿南市。1993年11月には、青色発光ダイオードを製品化しました。現在の主力製品は、やはり青色発光ダイオードと蛍光体を組み合わせた白色発光ダイオードです。

リチウムイオン電池のような充電できる電池は2次電池とよばれます。日亜化学工業は、1996年より2次電池材料の製造を始めました。正極材料の製造については、日亜化学工業が手掛けてきた粉体合成技術を活用しています。

小型モバイル機器やノートパソコン搭載用にコバルト酸リチウムの正極材をつくっています。ほかにも、車載用などの大型リチウムイオン電池の用途に向けて、マンガン酸リチウムによる正極材を、また小型モバイル機器や、ノートパソコン、電子工具、車載用などの大型リチウムイオン電池に向けては、コバルト、ニッケル、マンガンを使った三元系の正極材も製造しています。

2010年までの正極材の世界市場では、日亜化学のシェアがトップとされ、その比率は25%と推定されています。つづく。
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小分けにしてから書いて時間短縮

「2000字で書いてください」や「5000字で書いてください」といったように、書く字数があたえられた文を書くことがあるでしょう。このとき、あまり骨組みを考えずにとにかく書いてから推敲する人と、きちんと骨組みを考えてからそれに沿って書く人います。

自分の趣味として小説を書くといったときは、書く速さを気にする必要はありますまい。ちょっとだけ書いて筆が進まなかったらその日は書くのをやめてもだれにも怒られないからです。

しかし、仕事や試験で“しめきり”をともなった文を書くときには、書く速さを気にする必要が出てきます。

骨組みを考えずにとにかく書くときの危険性は、書き終えてから字数が大幅に足りない、あるいは大幅に過ぎているために、付けたしたり削ったりするおそれがあることです。

いったん書き終えた文に、さらに文を付けたす作業は労力をともないます。とくに、自分では書き切ったつもりで、これ以上なにも加える話がないというときは、新たな話をもってくることがむずかしくなります。

削る場合も、ちまちまと削ってまだ指定の字数を過ぎている、またちまちまと削ってまだ指定の字数を過ぎている、といった作業をくりかえすうちに、とりあえず書いた時間とおなじぐらいの時間を費やしてしまうことさえあります。時間が本当にないときは、大きなブロックをごっそりと削るしかありません。

いっぽう、大幅な文字数の不足や超過を防ぐためには、きちんと骨組みを考えるほうが得策とされます。骨組みを考えるとともに、それぞれの骨に割りあてる字数までも決めてしまうと、文を書き終えたとき過不足がなくなるという技術があるからです。

たとえば、2000字の文を書かなければならいとき、この2000字のなかに、どのような話を盛りこむか、まず計画を立てます。「導入、Aという話題、Bという話題、Cという話題、結論」といった具合です。

すると、盛りこむ話題は導入と結論をふくめて5個になります。あたえられた字数は2000字なので、1個の話題で平均400字を使うことになります。

しかし、じっくりとした説明が必要な話題も、かんたんに済ませられる話題もあるもの。そこで、骨組みをつくるときに、Aという話題を多めに説明する必要があれば、これを600字にして、その分、リードを200字に減らす、といった差し引きの調整をします。

こうして、リードは200字、Aという話題は600字、Bという話題は600字、Cという話題は400字、まとめは200字、といった字数配分をつくります。

あとは、これに沿って書けばいいわけです。書いているとき、思ったより多く字数を要したり、思ったより少ない字数で済んだりすることもありますが、その分はこれから書く次の話題で調整していきます。

この技術では、「だいたい200字というとこのくらいの分量だな」という感覚を身につけておくことが大切といわれます。「まあ、このくらい書けば200字だ」といった感覚があれば、骨組みをつくるときも実際に書くときも、大きなずれは起きないからです。

野口悠紀雄さんも『「超」文章法』で、1ブロックを200字から400字と考えれば、その積み重ねで文章を書くことができるといったことを書いています。

もちろん「2000字で書いてください」といわれて「2000字だったらこのくらいだな」という感覚をもとに、余り骨組みを考えずにぴったり2000字で書き終えることができれば、その人はそれで満ちたりているかもしれません。しかし、その感覚を得ている人はそう多くはありません。

大規模なものや長大なものも、小分けにして考えれば、自分の感覚にとって身近な単位の積みかさねであることを感じることができます。
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コバルトからマンガンやニッケルへ――リチウムイオン電池正極材のメーカー動向(1)

電気自動車やノート型コンピュータなどに使われているリチウムイオン電池は、正極材、負極材、セパレータ、電解質という四つの主な材料によってなりたっています。

なかでも正の電極に使われる正極材の性能はとくに重視されます。これまで、正極に使われる物質には、コバルト酸リチウムが多く使われてきました。コバルト酸リチウムは、酸化コバルトと炭酸コバルトを高温で焼きつけて、さらにリチウムを加工してつくります。

しかし、コバルトは希少金属。相場価格の不安定さが、正極材料を使う点での課題となってきました。そこで、コバルト酸リチウム以外の物質を正極材料に使う動きが出てきています。

たとえば、マンガン酸リチウム。高温のときの耐久性や容量が不足気味といった課題をかかえていましたが、ここにきて使われるようになってきました。また、性能の不安定性や安全性の点で課題のあったニッケル酸リチウムといった物質も開発が進んできています。

マンガンは、コバルトやニッケルに比べて価格が安く、材料の低価格競争にも対応しやすい側面があります。また、マンガン酸リチウムを使った正極材は過充電に強く、過充電対策の保護回路を使わずに済ませられるといった利点もあります。

そのため、マンガン酸リチウム単独、またはマンガン酸リチウムとコバルト酸リチウムの併用型での正極材が多くなってきているのです。

ニッケル酸リチウムもまた、コバルトよりも安いという点で、開発が進んでいます。大容量化にも向いているとされています。

さらには、コバルト、ニッケル、マンガンを使った「三元系」とよばれる複合酸化物も使われています。

こうした材料となる物質の幅が広くなり、正極材料メーカーの開発や製造は、群雄割拠状態となってきています。リチウムイオン電池の正極材メーカーの沿革や技術動向などを、何回かにわけて紹介していきます。つづく。
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十人十色の「生物画」に投票


東京・銀座のギャラリー「アート・ポイント」で、「Life 2012 来場者の投票による生物画の大賞展」という絵画展が開かれています。(2012年)8月24日(金)まで。

60人以上の画家が、動物などを描いた「生物画」をこの企画展に寄せました。ギャラリーを訪れた客は、自分の気に入った作品に3点まで投票することができます。

いとのちえさんの「Untitled(無題)」は、白鳥と思われる鳥を描いた作品。

小さな白いカンバスの右下に6羽の白鳥の影を描いています。そして、朝靄があたりをつつむように、白鳥のまわりに黄色い帯をしっとりと置いています。白地と白鳥の影と黄色の帯という単純な絵ながら、情景を連想させています。

真弓俊彦さんの「不死鳥」は黒いカンバスの中に一羽の飛翔する鳥が描かれています。

目に飛び込むのはこの鳥の鮮やかさ。実際の鳥にはない、虹色のマーブル模様で鳥を描いています。さらに、くちばしの先端や、羽根の先端などの鋭角な部分では、色を水平方向に置きながらすこしだけ薄くしており、空を飛翔する印象を強くしています。

Teiさんの「キリン」は題名のとおり、キリンを描いた作品。

キリンの角の一部に暖色が使われているほかはモノクロ。しかし、なにより特徴的なのは、キリンに対する角度の付けかたでしょう。背中のほうからキリンを描いています。しかし、それでもなお眼は絵の中で表現されており、表情が浮かんでいます。やや、うつむきかげんで黙っているキリンの眼には、どこか物悲しさが漂います。

選ぶ動物がさまざまであることもそうですが、動物の描きかたは画家により十人十色です。

「Life 2012 来場者の投票による生物画展」は銀座のアート・ポイントで8月24日(金)まで。アート・ポイントのホームページはこちらです。
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ヤフーヘッド結論有無が混在
インターネットのホームページ「ヤフー」には、画面の中央に「トピックス」「経済」「エンタメ」「スポーツ」「その他」といった分野にわかれたニュースのヘッドラインがあります。

ヤフーのヘッドラインで褒めたたえられるのは短い字数でまとめた見だしです。半角の0.5文字を含め、13.5文字以内に見だしがおさまるように決まっています。「イルカ鳴き声 曲芸精度高める」や「ALSの進行遅らせる遺伝子特定」のように、できるだけ「を」や「が」といった助詞を使わず内容を表わそうとしています。

しかし、いっぽうで、このごろ「ニュースの内容の結論が示されない見だし」が目立つようになったという指摘もあります。「ニュースの内容の結論が示されない見だし」とは、その文字面を読んだだけでは、ニュースの中味や結論がわからない見だしのこと。

たとえば、(2012年)8月14日の「コンピュータ」分野のヘッドラインには、つぎのような見だしが並んでいます。


新iPhone 日本は10月5日出荷?
ドコモ国際通信 すべて復旧
特許侵害 Apple損害25億ドル?
グリー、4-6月期は減収減益
グリー逆転敗訴の判決文解説
Android向けFlash提供終了
五輪「つぶやき」観戦定着
検索1位の選手に内村航平ら

このなかで、ニュースの内容の結論が示されている見だしは「ドコモ国際通信 すべて復旧」「グリー、4-6月期は減収減益」「Android向けFlash提供終了」「五輪『つぶやき』観戦定着」「検索1位の選手に内村航平ら」。

「ドコモ国際通信 すべて復旧」を例にとると、「NTTドコモの国際通信がすべて復旧した」というニュースの内容が、この見だしには凝縮されています。つまり、この見だしは「ニュースの内容の結論が示された見だし」といえます。

いっぽう、「グリー逆転敗訴の判決文解説」という見だしは、「ニュースの内容の結論が示されない見だし」の典型です。この見だしを文章にすると「グリーが裁判で逆転敗訴となった判決文を解説する」といったことになるでしょう。しかし、判決文がどのようなものであるかを、この見だしから読みとることができないため、ニュースの内容の結論がこの見だしからはつかめないことになります。

残る「新iPhone 日本は10月5日出荷?」と「特許侵害 Apple損害25億ドル?」という見だしも、厳密にみると「ニュースの内容の結論が示されていない見だし」に入るとも考えられます。

一番目の見だしの記事の結論は、「米国のメディアは、iphone5の出荷第2弾である海外マーケット向けのリリースがおそらくは10月5日から開始されるという情報も得ている」と伝えている、というもの。

推測の域を超えないため「新iPhone 日本は10月5日出荷?」と、見だしには疑問符を付けたのでしょう。これだと、10月5日に出荷されるのかどうかという結論までは見えてきません。

いっぽう、「新iphone 日本10月5日と米情報」とすれば、「新型iPhoneの発売は日本国内では10月5日になるということを米国の情報筋は伝えている」というニュース内容を凝縮することができます。

このように、いまのヤフーヘッドラインは「ニュースの内容の結論が示される見だし」と「ニュースの内容の結論が示されない見だし」が混ざりあっている状況です。

「ニュースの内容の結論が示されない見だし」を指摘する人は、ニュースは伝わってこそ価値があるという観点からすれば、ヘッドラインも「ニュースの内容の結論が示される見だし」で統一すべきだと主張しています。
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自然での色の移りかわりを人工的に表現

自然界には、ある色からべつの色へとすこしずつ変わっていく現象が見られます。

代表的なものは虹でしょう。空気のなかに浮いている水滴に太陽などの光があたり光が分散することで、赤から紫までの色が見えます。一般的に虹は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7色といわれます。

しかし、それぞれの色と色のあいだには無数の異なる色が詰まっています。たとえば、赤と橙のあいだには、赤と橙の中間の暖色があり、さらに赤とその暖色のあいだには中間の暖色がありと、色が連なっているわけです。


青空にも色の変化が見られます。とくに夕焼けのときは、沈みかけの太陽の光が赤々と反射するため、寒色系から暖色系にかけて鮮やかに色が移りかわっていきます。


空だけではありません。一枚の葉も秋になると、つけねのほうは緑のままながら、先端のほうが赤くなりはじめて、緑から赤にかけての色の変化が見られます。

こうした自然界での色の変化を、いかに印刷物やコンピュータディスプレイの上で再現するか。そのためにグラデーションの技術は高まってきたといってよいのでしょう。

いま、コンピュータでは「24ビットカラー」という色の出しかたにより、1677万7216種類の色を再現することができます。

自然界で見られる虹などでの色の移りかわりにくらべれば、1677万色というのはまだ足りないのかもしれません。しかし、その景色や印刷物を捉える人間の視覚では、もはやそのちがいを感じることはむずかしくなります。

自然のなかの色の移りかわりがまずあり、人がそれに美を感じて再現しようと願うことで、グラデーション、つまり色の階長や濃淡の段階的変化という表現がうまれたのでしょう。

参考ホームページ
ためになるかもしれない!? デジカメ用語集「1677万色」
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金は排泄、銀と銅は蓄積


ロンドン五輪でも、メダルを獲得した日本人選手が表彰式などでメダルを噛む行為をしています。

メダルを噛む行為は、1988年のソウル五輪の水泳男子200メートル自由形で優勝した豪州のダンカン・ジョン・アームストロング選手が始めたとされています。金メダルという勝利の象徴を噛みしめたわけです。

メダルを噛みしめることに対して、ごく少数の人が「健康リスクは高まらないのだろうか」とメダリストを心配するかもしれません。メダルを噛んだとき微量の成分が口から体へと入っていくということへの心配です。

表彰式では、金メダルだけでなく銀メダルや銅メダルを噛む選手も見られます。

金メダルは、実際のところほとんどが銀でできています。しかし6グラムは金でなければならないという決まりごとがあり、金色になっている表面にも金が使われていることが考えられます。その金の部分を、金メダルを獲得した選手たちは噛むわけです。

金は、薬にも毒にもならないといわれています。胃でも腸でも吸収されず、便としてそのまま排泄されます。なお、リウマチの治療薬には、金チオリンゴ酸ナトリウムといった金の有機化合物があります。こちらは、効き目のしくみは未解明ながら、リウマチの腫れや痛みが和らぐといわれています。

銀を噛むときは、金よりも心配の度合がほんのすこしだけ高まります。銀には毒性があるといわれています。

銀は、体のなかで消化管から5%ほどがからだのなかにとどまります。マウスを使った実験では、体重1キログラムあたり50ミリグラムから100ミリグラムをからだのなかに摂りこむと、半数のマウスが死ぬという報告があります。

単純にマウスの数値を人に移行することはできませんが、世界保健機関が示す人が一生涯で銀をとっても問題ないとされる無毒性量は10グラムとなっています。

銀メダルをとりつづける選手が表彰台で銀メダルを噛みつづけても、無毒性量を超えることにはなりますまい。

いっぽう、銅は、人のからだにとってはむしろ必要なものの、過剰に摂取するとやはり毒になります。

銅が欠乏すると、炎症を抑える好中球という白血球が減ったり、貧血が起きたりします。銅を摂取する治療法もあります。しかし、銅の摂取が過ぎると、悪心、嘔吐、下痢などの中毒症状が出ます。

金メダル、銀メダル、銅メダルとも、もし噛みくだいて食べてしまった場合は、からだへの影響が出そうです。しかし、そこまでする選手はいないでしょう。メダルを噛むといった程度にとどめていれば、むしろその行為が喜びの発露となり、健康にとってはプラスになりそうです。

参考ホームページ
デジタル大辞泉「金製剤」
愛知県衛生研究所「暮らしの中の銀・・・小さくなって大活躍」
メルクマニュアルズ「銅」
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「運動後、遅れて痛みがやってくる」しくみは未解明


五輪に出場する選手にはあまり起きないでしょうが、一般人が激しい運動をすると翌日や翌々日に筋肉痛が起きることがあります。

運動をしているときも、たとえば走るのを続けていれば、筋肉や関節が痛くなることがあります。テレビ番組の企画で24時間にわたり走らされる芸能人の足どりが重くなるのも、走っているあいだに痛みがたまるからでしょう。

しかし、走り終えたあと、ふだんの生活に戻ってから、またべつの筋肉痛がやってきます。この痛みには「遅発性筋肉痛」といったよび名までついています。齢をとった人ほど、遅れてやってくるともいわれ、巷ではいつ痛みが来るかが老化の尺度にも考えられています。

なぜ、筋肉痛は遅れてやってくるのでしょうか。

じつは遅発性筋肉痛のはっきりしたしくみは解明されていないといいます。

有力な説としてはあるのは、運動からしばらくしてやってきた白血球が関わるというもの。まず運動をします。すると筋をなす筋繊維が傷つきます。筋繊維そのものには痛みを脳に伝える痛覚がありませんが、しばらくすると傷ついた筋繊維を放っておけないと、白血球が集まってきます。そして、白血球は傷ついた筋繊維を処理していきます。

そのあと、筋繊維の傷ついた部分は元に戻されなければなりません。そこで、からだは細胞を集めるべく、サイトカインという化学物質を出します。このサイトカインが「筋肉をこれ以上は酷使しないでちょうだい」というサインを発します。これが、遅発性筋肉痛の痛みといわれます。

この説では、齢をとるほど痛みの到来が遅くなるのは、老化するほど血のめぐりが悪くなり、白血球の集まりが鈍くなるからとされます。

ほかに、激しい運動によって活性酸素が増えて、この活性酸素が体を傷つけているといった説もあります。

いずれの説であってもいえるのは、この痛みは「これ以上は運動をしないように」というからだからの信号だということです。いくら痛みが遅くやってくる人でも、痛みの頂点は運動から72時間後まで。1週間も経てば完全に痛みはなくなります。痛みがなくなったら、ふたたび運動をするときとなります。

参考文献
神田和江「伸張性運動における遅発性筋肉痛と筋損傷マーカー、炎症関連指標の変動」
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企画に“迎合型”と“創造型”あり
どの分野の仕事でも「企画」はあるでしょう。計画を立てることや、その内容のことをいいます。

雑誌やウェブなどの媒体でも、企画を考えることは重要になります。特集のテーマによって雑誌の売行きは左右されますし、連載のコンセプトによってウェブの閲覧数は左右されます。また、展覧会などの催しものでも、企画がおもしろいと来場者は増えます。

企画に応じて、記事を読んでくれたり、会場に来てくれたりするのは、客たちです。客は「こういった企画があれば記事を読むのに」「こういった企画があれば観にいくのに」といった潜在的な願望があり、その願望に合った企画が出されると「記事を読もう」「観にいこう」となるわけです。

この話を突きつめるとどうなるでしょう。ひとつの結論は、企画者が客の希望する企画を立てるということになります。

たとえば、雑誌社が愛読者アンケートなどに「今後、取りあげてほしい特集のテーマはなんですか」といった質問をふくめるとします。すると、読者から「カレーの特集が読みたい」「うどんの特集が読みたい」といった回答が来ます。

これらの読者の声をもとに企画を立てれば、読者が望んでいるテーマに沿った特集を出すことになります。

しかし、読者の望みに応える企画を出すことをめぐっては、企画会議などの現場で賛否両論となることがあります。

「読者が望むことに応えることが雑誌を出す使命だろ」と考える人がいるいっぽうで、「情報の発信者が企画を立てることを放棄するようなことは論外だろ」と考える人もいます。

この二つの論は、なんのために情報を発信するのか、といった根本的な目的とも関わってくるでしょう。「客の求めに応じるのが発信者の使命」という立場で情報を発信するのか、「客の興味をつくっていくのが発信者の使命」という立場で情報を発信するかのちがいです。

答の出ない話ですが、編集長などの意思決定者がどちらの立場をとるかで、大きく変わってくるものと言えます。
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ほぼこれまでどおりの“新チャッピー”お披露目さる


東京・銀座のポーラミュージアムアネックスで、「groovisions Lessons 2012」という展覧会が開かれています。(2012年)9月9日(日)まで。

グルーヴィジョンズ(groovisions)はデザイン集団。雑誌や広告などのグラフィックデザインや、製品のプロダクトデザインデザインを数多く手がけてきました。

グルーヴィジョンズは、「チャッピー」という人型の絵や人形を象徴的なキャラクターとしてきました。ほほえみのある顔の表情や、すらっと立った体型はまったく変わらない「チャッピー」の原型に、髪型、眼鏡、服装などを変えていき、ファッション、男女の性別、年齢などで多様に富んだ人物像をつくりあげていきます。

チャッピーが、さまざまなファッションで、さまざまな広告に登場してきました。原型に装飾をして表現するという方法の一貫性から、「チャッピー」は「システム」とも「ルール」ともされています。

グルーヴィジョンズは、1994年からチャッピーの造形を変えてきませんでしたが、2012年に初となる改変をしました。改められたチャッピーのお披露目が、今回の展覧会で行われました。

かねてからのチャッピーに慣れ親しんでいた人は、「あの普遍性の象徴でもあったチャッピーが変わってしまうとは、どんな姿になるのか」と心配かもしれません。

しかし、展覧会で見られる新しいチャッピーは、以前のチャッピーとほとんどちがいが見えません。ためしに、プォトショップなどの画像処理ソフトで旧チャッピーと新チャッピーを重ね合わせても一致が見られるほどです。

チャッピーの変更点について、報道では「普通の人が見ても分からないほど細かいもので、小さなこだわりが積み重なっている」と伝えられています。どこがどのように変わったのかが、チャッピー愛好者たちのあいだで話題をよぶかもしれません。

展覧会の期間中、グルーヴィジョンズは“新しいチャッピー”のデザインが施された名刺の受注もしています。新しいチャッピーも増殖を続けていきそうです。

「groovisions Lessons 2012」は、ポーラミュージアムアネックスで9月9日(日)まで。入場無料。展覧会場のホームページはこちらです。
グルーヴィジョンズ公式ホームページのニュースはこちらです。
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書評『Q脳ダイエット』
もし、「なぜなの」「どうしてなの」が口癖の思慮深い人が太ってしまったら……。この本が、自分の体の状態を改善するきっかけになるかもしれません。



ダイエットに勤しんでいる人のなかには、ダイエット本にすがりつく人も多いことだろう。多くのダイエットの本には、「こうすれば体重がみるみる減る」といった甘いことばが書かれてある。

そうした数々のダイエット本があるなかで、本書『Q脳ダイエット』には「体重がみるみる減る」といった甘いことばは見られない。しかし、ほかの多くの本にはない内容が見られる。科学的な理論と、自分の健康をなによりも重視した話だ。

「Q脳」の「Q」とは「クエスト」のこと。人間の脳には、進化の系譜において古くからある「古い脳」がある。著者は「Q脳」を、古い脳の範囲をすこし広めた脳の部分と定義している。

Q脳はおなかが減れば食べものにありつきたくなるといった、喜怒哀楽に素直な性格をもった脳の部分。お腹が減っていて、そこにおいしそうな食べものがあったら、Q脳を抑制することはできそうもない。

しかし、人の脳にはQ脳とべつに「S脳」もある。こちらの「S」とは「Self」つまり「自分自身」のこと。S脳は、ヒトという種が発達させた、計算、言語、認知などの高度な思考をつかさどる脳の部分だ。

医学博士で、私立の栄養代謝研究所を立ち上げている著者は、ダイエットは「S脳とQ脳の戦い」と説く。Q脳が感情の赴くままに「お腹がすいた。食べよう」とつっ走るのを、S脳が「ここで食べたらまた太る」と抑制する。脳どうしのせめぎあいが繰り広げられるわけだ。

脳というものは、エネルギー資源を多く使うものながら、かなりいいかげんな性質をもっている。端的にいうと、だまされやすいのだ。そこで、Q脳の「お腹がすいた。食べよう」という猪突猛進的な働きをうまくはぐらかすことができれば、ダイエットに成功することができる。また、体重を減らした後にやってくるリバウンドも抑えて、体重維持をすることができる。

このような理論のもとで、この本は展開されていく。

そもそも人は、長い歴史のなかで、つねに飢餓の危機にさらされながら生きてきた。飢餓をしのげるしくみがいまも残るなかで飽食の時代を迎えてしまったため、太りやすいのは当然のことともいえる。しかし、Q脳をコントロールする戦略を立てれば、肥満の危機を乗りこえることもできるかもしれない。

「とにかくこうすれば体重が減る」といった、方法を述べるだけのダイエット本とは対極的な理論満載の内容だ。理論派ダイエッターの興味がわくことだろう。

『Q脳ダイエット』はこちらでどうぞ。
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「真心」が“本心化”、「本心」が“真心化”

「真心」と「本心」はどうちがうのでしょう。

字面だけを見ると、ちがいはあまりなさそうです。「真」には「真実」あるいは「本当」といった語感があるいっぽうで、「本」には「本当」あるいは「真実」といった語感があります。

しかし、「真心」と「本心」ということばをそれぞれ見聞きしたとき、受けとめかたがすこし異なるという人は多いのではないでしょうか。どちらかというと「真心」のほうが愛や優しさに包まれた感じがし、「本心」のほうは腹の内や本音が出てしまう感じがするというものです。

たとえば、新聞記事を見てみると、「真心」と「本音」はつぎのように使われています。

「教室に募金箱、こつこつと 真心の10615円 大月高3年3組、被災孤児へ」

高校のクラスでの募金活動が実を結び、このクラスが10615円を東日本大震災の被災孤児に向けて寄付をしたという話です。心温まる記事として書かれており、その見出しに「真心の10615円」のように「真心」が使われています。もしこれを「こつこつと 本心の10615円」とすると、違和感を覚える読者も出てくることでしょう。

「創っては壊しの『ミスター政局』も近々70歳。『最後のご奉公』で何をしたいのか、その本心を、蓄財術とともに聞いてみたい」

こちらは「天声人語」の文章です。小沢一郎氏のことを指しています。「本心」が「腹の内」あるいは「本当はなにを考えているのか」といった意味で使われています。

あるいは「真心ブラザーズ」というロックバンドがいますが、もしこれが「本心ブラザーズ」だとなにを表現したいのかが見えなくなってきます。

いっぽうで、国語辞典を見ると「真心」と「本心」は、これらの語感とすこし異なる点も見られます。

『広辞苑』では「真心」の項目に「誠の心。いつわりのない真実の心。赤心」とあります。では「誠」とはなにかというと、おなじく「事実の通りであること。うそでないこと。真実。本当」とあります。

これらの辞書的意味からすれば「真心」にはかならずしも愛や優しさが含まれなくてもよいわけです。

いっぽう、「本心」の項目には、最初に「もちまえの正しい心。良心。」と出てきます。つぎに「本気。正気。本性。」とあり、最後に「うわべでない、本当の心。本意。」が出てきます。

「もちまえの正しい心。良心」という第一義からすれば、「本心」は、いまでいう“真心的”な意味をもっているとも捉えられます。

国学者の本居宣長は、「真心」についてこう説明します。

「真心には、智なるもあり、愚なるもあり、巧なるもあり、拙きもあり、良きもあり、悪きもあり、さまざまであって、天下の人は、ことごとく同じものではないので、神代の神たちも、善事にもあれ悪事にもあれ、おのおのその真心によって行いなさったのである」

これからすると、「真心」はかならずしもよい心だけではなかったことがうかがわれます。

「真心」の“本心化”が起こり、「本心」の“真心化”が起こり、いまがあります。

参考文献
『広辞苑』第五版

参考記事
朝日新聞 2012年3月1日付 山梨版「教室に募金箱、こつこつと 真心の10615円 大月高3年3組、被災孤児へ」
朝日新聞 2012年4月27日 天声人語「小沢氏の『ご奉公』」

参考ホームページ
本居宣長研究ノート「大和心とは『「真心(まごころ)」とは』の巻」
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日本人は高くても先発薬を選ぶ傾向


(2012年)8月6日(月)発売の『週刊東洋経済』では、「クスリ全解明」という特集が組まれています。この特集の「高血圧・脂質異常症・糖尿病 治療薬は患者が“選択”する時代へ」という記事の原稿を寄せました。

高血圧、脂質異常症、糖尿病は、いずれもメタボリック症候群の要素となる血管の病気です。これらの病気が進むと、脳卒中や心筋梗塞、慢性腎不全などの重い病気になるおそれが高くなります。そうならないために降圧剤、脂質異常症治療薬、血糖降下薬などの薬を使うわけです。

これらの血管病の治療薬は、いまや患者が”選ぶ”時代となりました。その意味は、特許切れとなった薬の後発品であるジェネリック薬が多く登場したため、選択肢が増えたということ。意思が処方箋の欄に「変更不可欄」にチェックをしないかぎり、患者は薬局でオリジナルの薬かジェネリック薬かを選ぶことができます。

国や企業はジェネリック薬の普及に積極的です。背景には、医療費を抑えたいという事情があります。患者が薬を使えば使うほど、医療保険は多くかかり国や企業の負担も増えます。ジェネリック薬は、先発薬とちがって、莫大な費用を使う研究開発や臨床試験を省けるため、価格が安いのです。価格が安いジェネリック薬を患者が選べば選ぶほど、国や企業の負担は減ることになります。

しかし、日本で薬全体の中でジェネリック薬が使われている率は2011年9月の時点で22.8%。米国では約70%、英国では約60%などといわれており、日本はジェネリック薬後進国といえます。

なぜ、日本でジェネリック薬の普及が遅れているのでしょうか。

取材をした医師のひとりは、「後発品は小規模な製薬企業が製造・販売する場合が多く、企業側から病院側に提供される情報が不足することがある。震災などの有事に安定供給できるのかという不安もある」と、病院側がジェネリック薬の導入をためらう背景を話しています。この病院では、高血圧などの血管病の治療薬にジェネリック薬はまだとりいれていないとのこと。

国民皆保険であることも関係しているでしょう。日本で医療費の自己負担はだいたい3割。国民皆保険ではない米国などでは、より安い薬への求めは強くありそうです。しかし、普及率の高い英国でも国民皆保険であることから、保険制度が大きな要素となっているとはいいきれません。

あるいは、”純製品に対する信頼の高さ”が関係しているのかもしれません。「おなじ買うのであれば新品やオリジナルのものを」といった志向がはたらくといったことです。後発薬は、生物学的動態試験という試験によって、薬の成分がほぼ先発薬と変わらないことが確かめられてはいます。しかし、それでも“本家本元”がつくった品物により高い信頼を置くというのは、薬に限ったことではないのかもしれません。

特集では、この記事のほかに、抗がん剤の新薬開発情報、臨床試験に参加する方法、注目の漢方の大事典、トクホ(特定保健用食品)に対する誤解を知らせるはなしなどが並んでいます。図表も多く、編集担当者のご苦労が垣間見られます。

『週刊東洋経済』「クスリ全解明」特集号の紹介はこちらです。
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
不発四尺玉、時速446キロで落下の可能性も


花火大会が各地で行われています。

花火の玉はだんだんと大きくなってきており、近ごろでは「四尺玉」が打ち上げられています。玉の直径は1メートル20センチほど、重さは420キログラムほどあります。これを800メートルの上空まで打ち上げて、直径800メートルの開花を行うのです。

これほどの大きさになると、花火が不発で終わったときの危険度も高くなります。実際、過去には打ち上がった四尺玉が開花せず、420キログラムの玉のままで地上まで落ちたことがあったといいます。

もし、420キログラムの四尺玉が、800メートルの高さまで上がって、不発のまま地上に落ちてきたときの衝撃はどうなるでしょうか。

計算によると、落下速度は125メートル毎秒。これは時速446キロメートルということになります。リニア新幹線とおなじほどの速度で1メートル20センチの玉が落ちてくるわけです。

そして、そのときのエネルギーはというと、およそ329万5034ジュール。熱量に換算すると787キロカロリーとなります。

実際、花火の不発玉が、観客先で花火見物をしていた観客に当たる事故もありました。2010年に熊本市で起きた事故では、直径9センチの花火が60歳の女性の脚にあたり、大腿部打撲の軽傷を負ったといいます。9センチの玉でも当たればけがをするわけです。

花火の明るさがあるといっても、闇夜のなかから四尺玉がそのまま落ちてきたら、逃げ切れるかどうかわかりません。花火見物にも注意もしくは覚悟が必要です。

月や地球では、隕石の落下によるクレーターが見られます。もし、四尺玉の不発玉が田んぼや畑に落ちたら、それなりの大きさのクレーターができているかもしれません。

参考ホームページ
Ke!san「自由落下のエネルギー計算」
小千谷市「片貝まつり」
参考記事
産經新聞 2010年8月15日付「花火の不発弾落下でけが 熊本市内の花火大会で」

花火の不発弾を見つけた場合は、絶対に触れずに、最寄りのスタッフや警察官に知らせましょう。
| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)
人の水掻き、キャッチ、プル、スカリング

「あひるの水かき」ということばがあります。

池で優雅そうに泳いでいるあひるも、じつは水面下では脚を一生懸命かいているということから、「人は他人の見えないところで苦労をしているものだ」という意味があります。

池で泳ぐあひるでなく、プールで泳ぐ人はどうでしょうか。水泳選手などの泳ぎのうまい人は、やはり水面下でそれなりに体を動かしているようです。

プールの休憩時間などに、監視員がプールに入り、クロール一掻きでかなりの距離を進んでいる光景を目にしたことはあるでしょうか。スイーッ、スイーッ、といった感じです。水面下での動きは、どうなっているのでしょう。

クロールの手の一掻きは、おもにみっつの段階にわけられます。

はじめは「キャッチ」。水のなかに入れた手で、水を“つかむ”わけです。指の間から水が抜けていかないよう、指と指のあいだは閉じます。

つぎに「プル」。ひじを曲げて、前のほうから後のほうへと水を“引きよせて”いきます。ひじを高い位置に保つと、推進力が高まり効率がよくなります。

最後に「スカリング」。これは、もともとボート競技で選手が「スカル」というオールで漕ぐことからくる言葉。掻き終わりの段階で、手を水面下から水上へと抜きます。

過去の一流水泳選手は、このキャッチ、プル、スカリングという一連の動作のなかで、とくにプルの動作を「Sの字」を描くようにするようにといわれてきました。これは「S字プル」といわれ、いまも一般人には通用することです。

いっぽう、ここ数年の一流選手は、プルの動作を「Iの字」のように、ただまっすぐに行うことが主流となっています。こちらは「ストレートプル」といわれます。

S字プルは、たしかに効率よく泳ぐのに最適といわれます。いっぽう、ストレートプルのほうは最大推進力を生み出すのに最適といわれます。一流水泳選手の争いでは、最大推進力を重視するほうが速度が高まることから、ストレートプルで掻いているのです。

参考文献
伊藤慎一郎「手のひらの推進力と身体の抵抗からみた最速の泳法」『科学』2004年6月号
| - | 23:55 | comments(0) | trackbacks(0)
「不純物なし『全透明氷』のつくり方」


日本ビジネスプレスのウェブニュース「JBpress」で、きょう(2012年)8月2日(金)、「不純物なし『全透明氷』のつくり方」という記事が配信されました。この記事の取材と執筆をしました。

氷も、れっきとした食材です。とくに夏場、氷は冷たいために重宝されるもの。とくに電気でものを冷やすことできなかった江戸時代までは、天皇や将軍に献上する賜品として価値の高いものでした。

電気により夏に氷をつくれるようになったのは明治時代。それ以降、昭和時代の後半に至るまで、それほど製氷技術に大きな変革はなかったといいます。

しかし、その後、製氷技術を高めて、より質の高い氷をつくろうとする気運が高まっていきました。記事に登場する、今関冷機製氷販売(茨城県水戸市)を営む今関靖将さんは、製氷技術を高めてきた中心人物の一人。

イマセキ氷技術研究所という私立研究所も立ち上げ、氷の科学を氷づくりの技術にするための研究を続けてきました。記事では、今関さんが開発した「無気泡製氷機」の開発の経緯などを伝えます。

いろいろな媒体から取材を受ける今関さん。多くは「家庭の冷凍庫でできる美味しい氷のつくりかた」を聞かれると言います。今関さんは、家庭の冷凍庫での氷のつくりかたの工夫をつぎのように説明します。

ボウルに水を注ぎ、冷凍庫に入れます。すると、ボウルのなかの水は、ボウルの壁側から、そして水の張った表面から、徐々に内部のほうへと凍っていきます。

そこで、凍りかけの状態の氷に対して、表面に張った氷にフォークかなにかで穴を開けます。すると、まだ凍っていない水がゆっくりと、表面の氷の上に噴きでてきます。

その後も、何度か凍りかけの状態の氷に対して、表面で穴を開けて水を噴きださせます。こうすることで、冷凍庫に付いているブロックトレイでつくる氷にくらべて、氷のなかに不純物が含まれていない氷をつくることができるといいます。

氷は結晶構造がしっかりしているため、不純物を受けつけません。不純物をまだ凍っていない水のほうへと押しやるのです。

通常の凍らせかたでは、表面の氷が厚く凍っていくため、その不純物が氷の内側に閉じこめられてしまいます。そこで、何度か表面に穴を開けて、不純物の多い水を表面から逃がせば、内側に不純物のすくない氷をつくることができるというわけです。

今関さんは、湖に氷が張っていく様子を観察し、氷のできかたやつくりかたを研究してきました。その一部は、研究所のホームページでも紹介しています。こちらです。

JBpress「不純物なし『全透明氷』のつくり方 日本が“氷先進国”に駆け上がるまで(後篇)」はこちらです。
前篇の「はるばる加賀から江戸まで運ばれた『お氷さま』」はこちらです。
| - | 00:30 | comments(0) | trackbacks(0)
見本帳に“実例の見本”と“見本帳のための見本”あり


デザイン分野の本が充実している本屋には、“デザイン見本帳”という類の本が何冊か置かれてあります。

見本とは、ある商品や作品の、品質、デザイン、効果などを知らせるために、一部をとりだして示したもの。デザイン見本帳には、典型的なデザインの例がいろいろと載っているわけです。

デザインにかぎったことではありませんが、なにかを創造するうえでは、“模倣すること”が大切といわれます。よくできた見本を模倣すれば、その見本を超えられるかはべつとしても、それなりによくできた成果物をつくることができます。

デザインの見本帳は、読者が模倣をすることをねらってつくられたもの。模倣だと度がきつければ、参考することをねらってつくられたものです。

デザインの見本帳ではつぎのようなわけかたをすることができます。それは、実際の商品を見本とするか、見本帳のためにつくった作品を見本とするか、というわけかた。

実際の商品とは、世の中に出版された雑誌の誌面や本の装幀などを見本の例のことです。デザインの要点となるテーマごとに、「例えばこんなものです」と示すために実例の見本を並べていくわけです。

いっぽう、見本帳のためにつくった作品とは、世の中に出版されたのではなく、その著者や編集者がその本のために用意した見本の例のこと。こちらも、デザインの要点となるテーマごとに、「例えばこんなものです」と示すために並べていくわけです。

見本を実際の例にするか、見本帳のためにつくった例にするかで、読者にとっての印象は大きくちがってきます。そのちがいを端的にいえば、「本物か偽物か」といったことになるでしょう。

実例としての見本が並んだ見本帳に、生き生き感を覚える読者は多くいそうです。「この見本は本当に世に出されたものなのだ」という実感が、実用書としての印象をよくするのでしょう。

対して、見本帳のためにつくった見本が並んだ見本帳に、実例が並んだ見本帳ほどいきいき感を感じる人は多くはなさそうです。「この見本は本当は世に出されたものではない」という実感が、心にひっかかるのでしょう。

その見本帳で著者が伝えたいことを見本として示すうえで、その伝えたいことに合った例をあらたにつくれば、確実に論として伝えたいことと見本として示したいことの方向性を一致させることはできます。

しかし、それでもなお実例としての見本が並べられてある見本帳仁尾置くの読者が魅力を感じるとすれば、それはなぜなのでしょうか。

きっと読者は、見本帳に対して、論よりも見本を期待しているということなのでしょう。
| - | 23:15 | comments(0) | trackbacks(0)
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