2012.04.30 Monday
紫外線による“傷”をポリメラーゼ・イータが乗りこえる
問題が起きないように、二重、三重のしくみを備えておく。これは、病気に対するからだのしくみについてもいえます。
がん細胞が生まれるのは、細胞のなかのデオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)に“傷”がつくことが発端。“DNAの傷”とは、細胞分裂にともなってDNAが複製されるとき、正しい塩基対と異なる塩基対がつくられてしまうこと。
A(アデニン)とT(チミン)という種類の塩基どうしは正しい対であり、G(グアニン)とC(シトシン)という種類の塩基どうしも正しい対です。しかし、Aの相手がGになってDNA複製が行なわれたり、Cの相手がTになってDNA複製が行なわれたりすると、そこから細胞のがん化への道が始まります。
これに対して、がん化への道を歩まぬよう、DNAポリメラーゼという物質が“修復”を試みます。
DNAポリメラーゼとは、DNAを合成するときにはたらくさまざまな酵素のこと。DNAを複製することが大きな役割ですが、がん化への道を修復する役割もっているDNAポリメラーゼも多くあります。
まず、からだがDNAの傷あることに気づくと、DNAポリメラーゼの一種は、DNAの傷の部分を切りとって、そこを連結しなおすといった修復方法を試みます。
しかし、それよりあとの、DNAを複製している途中でもDNAの傷がつくられることがあります。この段階でも、DNAの傷を修復するDNAポリメラーゼがあらわれます。
たとえば、「損傷乗りこえ修復型DNAポリメラーゼ」とよばれるDNAポリメラーゼはそのひとつ。
DNAでは、となりあうTとTがくっつくチミン二量体という傷がつくられることが多く、これによりDNAの複製に混乱がおき、ここからがん化への道が進みます。チミン二量体をふくむDNAの傷は、シクロブタン型ピリミジン二量体とよばれます。
DNA複製の途中で、シクロブタン型ピリミジン二量体が生まれてしまった場合、それを“乗りこえて”修復することを可能にするポリメラーゼがあるわけです。これは、「DNAポリメラーゼ・イータ」とよばれる種類。イータは、ギリシャ語のアルファベットで7番目にある「η」のこと。
チミン二量体は、皮膚が紫外線にあたることでよくつくられるもの。日傘をもっていなくても、DNAポリメラーゼ・イータが、がんへの道をまもってくれます。
参考ホームページ
核酸の化学「DNA修復」
参考記事
Science 2007年11月9日付「シスプラチンを用いた抗癌治療において生じたDNA損傷はDNAポリメラーゼηによってバイパスされる」(日本語アブストラクト)
Nature 2010年6月23日付 “The genome's shield from sunlight”