科学技術のアネクドート

「2月から3月」は「1月から2月」より6.5%短い


2012年の2月が終わり、3月がはじまります。

うるう年で1日多いものの、2月は29日分しかありません。ほかの月にくらべて1日から2日、短いことになります。

以前、このブログで「2月の影響を受けるのは3月」という記事がありました。毎月、決められた日にちに決められたことをするような仕事をもっている人には、2月の“つけ”が3月にやってくるという話です。

たとえば、毎月19日に、相手先にものを納品をすることが決まっている製造業では、2月19日から3月19日までの1か月間が、うるう年のない年では28日、うるう年の2012年では29日になります。1月19日から2月19日までの1か月間が31日あるので、3日または2日、短いことになるわけです。

1か月のサイクルが31日分ではなく、29日分になるということは、どういうことでしょうか。

31日分だったひとつきのサイクルが29日分になるということは、2月から3月にかけては6.5%、サイクルの時間が短くなることになります。

もし、おなじ量の仕事を2月から3月にかけてもこなすという場合は、6.5%、効率よく仕事をする必要が出てきそうです。

仮に2月から3月にかけてのひとつきも31日分あると想定して、1日が何時間になるかを計算すると、22時26分となります。6.5%短いということは、1日24時間換算にすると93.6分も短くなります。

もちろん、朝から翌朝までのサイクルで生活している人が多いので、1日を93.6分、切りつめて生活する人は多くはないでしょう。

しかし、2月から3月にかけて、うるう年のことし2012年でも6.5%、サイクルが短くなることに対して、労働者側の注意や雇用者側の配慮があってよいでしょう。
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選ばれし陶磁器135作品「日本陶芸展」


愛知県高浜市青木町のかわら美術館で「第21回日本陶芸展」が開かれています。(2012年)3月25日(日)まで。

日本陶芸展は、陶磁器の作品を対象に開かれる公募展。伝統部門、自由造形部門、実用部門の3部門にわけて、学識経験者などの審査員に選ばれた作品が展示されています。東京、大阪、茨城と巡回して、愛知での開催が最後になります。

大賞・桂宮賜杯に選ばれたのは、京都府京丹波町の石橋裕史さんによる「彩刻磁鉢"瀝瀝"」。


淡い青地の器に細く白い線が繊細に走っていて、青空のなかの筋雲を連想させます。器の底のほうは、一段と深い青が表現されていて、海の青さを連想させます。

石橋さんは、大賞作に対してこうことばを寄せています。

「太陽の光が照らす果てしなく広い空の青 どこまでも深い海の青 そして生み出される命 青への情景が私の存在の刻(とき)を創作へと駆り立てる」

優秀作品賞・文部科学大臣賞に選ばれたのが千葉県松戸市の三崎哲郎さんによる「糸抜き波状紋大鉢」。


口の大きな白い器に、砂浜にできるような若干の起伏があります。さらに器には細い黒線が何本も走っています。近づくと薄灰色に見えますが、近づくとはっきりとした黒線がわかり、そして眼がこの何本もの黒線に引きこまれていきます。


三崎さんは、技法についてことばを寄せています。

「極細の糸状テープを使って遠目には無地、近づけば細かい紋様が浮かぶ江戸の小紋をイメージしたモチーフを模索していた折り、たどり着いたのが『波状紋』だったのでした」

この大賞と優秀賞の作品は伝統部門からのもの。いっぽう、自由造形部門には前衛的な陶磁器の数々が並んでいます。

なかでも、目を引くのが優秀作品賞・毎日新聞社賞に選ばれた岐阜県瑞浪市の高津末央さんによる「そこに棲息する 0903」。


陶磁器ではろくろを回してかたちを整えることがよくなされますが、この作品は「手練り」という手法でかたちづくられたもの。粘土を手で練って陶器をつくっていきます。

高津さんは、自身の陶磁器のつくりかたについて、ことばを寄せています。

「土を一握り千切り、手の中で一本の土の紐を作ります。目の前にある、もう何日も前から格闘している、行き先の判らない形態に、その紐を寄り添わせ、そして形を探りながら積み上げていきます。それが私の制作姿勢です」

この高津さんの作品をたどっていくと、太くて丸みのある飴のようなかたちで始まったラインが、じょじょに先鋭化されていき、最後にはリボンのような形に変わります。その変化は「形を探りながら積み上げて」いった作業の結果として現れたのでしょう。

陶磁器の伝統と実用と前衛に触れることができます。

「第21回日本陶芸展」は高浜市のかわら美術館で3月25日(日)まで。美術館のホームページはこちらです。
主催の毎日新聞社のホームページで、上に紹介した作品を含む入選作の画像を見ることができます。こちら。
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フッ化水素酸の破壊的性質にハステロイが挑む
ものごとをぶちこわしてしまうほどの強力なさまは「破壊的」とよばれます。物質のなかにも“破壊的”なものがあります。

フッ化水素酸という液体があります。フッ素原子(F)と水素原子(H)が結びついたフッ化水素(HF)という刺激臭のある有毒な気体を水に溶かしたもの。フッ化水素酸はフッ酸ともよばれます。


フッ化水素の構造。白が水素原子(H)黄色がフッ素原子(F)

「何々酸」のように「酸」のつく物質は、ものに対して化学反応を起こして、ものを破壊する性質があります。人の胃液にも、強い塩酸が含まれていて、これが食べものについた病原菌などをどんどんぶちこわしていきます。

おなじように「酸」の付いているフッ化水素酸は、さまざまなものを腐食させます。ぶちこわされるものとしてよく知られているのはガラス。ガラス板を、フッ化水素酸の付いたペン先で刻むと、じょじょにガラスが削られていき、文字や模様を描くこともできます。

ガラスの腐食ほど知られていませんが、フッ化水素酸はさまざまな金属も腐食させます。その侵食性は、塩酸や硫酸などとおなじほとといわれています。また、フッ化水素酸の気体であるフッ化水素も、高温になると金属を腐食させる性質があります。

物質のリストにも「ほとんどの金属・硝子を侵す」と書かれてあるフッ化水素。この破壊的物質に対して、なすすべはないのでしょうか。

「盾と矛」ではありませんが、腐食されないことを特徴とする金属もあります。たとえば「ハステロイ」という金属はそのひとつ。

ハステロイは、米国のヘインズ・ステライトという企業が開発した金属。ステンレスの減量になるニッケルを基本にして、そこに硬い金属で知られるモリブデンや、錆びに強いことで知られるクロムといった金属を加えてつくった合金です。

ふつうの鉄板は、フッ化水素やフッ化水素酸の破壊的な性質にやられてしまうものの、ハステロイはある程度、腐食に耐えることができます。ただし、金属疲労などの点ではもろい点もあるため、万能・最強の金属とまではいきません。

参考文献
東横化学「フッ化水素」
化学的腐食
参考映像
科学技術振興機構「フッ化水素酸のガラス腐食 ガラス板」
参考ホームページ
超電導用語解説集「ハステロイ」
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(2012年)3月15日は「3.15 in FUKUSHIMA『いのち』襲う放射能」上映会


催しもののおしらせです。

(2012年)3月15日(木)、東京・内幸町の日本記者クラブで、ドキュメンタリー自主映画「3.15 in FUKUSHIMA『いのち』襲う放射能」の上映会が行われます。

元NHKのプロデューサーで、「NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体」シリーズなどを手がけたことで知られる東京工科大学・メディア学部客員教授の林勝彦さんが監督・製作をした映画です。

東日本巨大地震による福島第一原子力発電所事故で、最大の放射性物質漏れがあったとされる2011年3月15日の放出ルート追跡を通して、汚染された大地、海、動植物や、影響を受けた人たちのいのちを描く、というのが映画の趣旨。

今回の作品づくりで、林さんら制作スタッフは、ビデオカメラを持ち、福島第一原発周辺で可能なかぎり中心に近づける地域で取材を重ねてきたとのことです。

林さんはNHK勤務時代、「NHK特集 調査報告 チェルノブイリ原発事故」の制作にも携わってきました。

監修には、サイエンス映像学会会長の養老孟司さん、科学ジャーナリストで元NHK解説委員の小出五郎さん、科学ジャーナリストで元朝日新聞論説委員の柴田鉄治さんが付いています。

日時は(2012年)3月15日(木)18時30分から20時30分。会場は、千代田区内幸町2-2-1日本記者クラブ9階で、入場は無料。問い合わせは、事務局電話番号03-3468-5541、またはメールtoyo@eizou-kaihatu.co.jpまでどうぞ。
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「どう楽しいかをアピールすればいいのに」


自然科学の研究者の“本音”とは、どのようなものでしょう。

西欧での自然科学は、金持ちが趣味あるいは道楽としてはじめた知的探究がはじまりといいます。自然現象や物理について純粋に知りたいことがある人がいた。その人たちには財力があった。そこで、実験に長けている人を雇って、あるいは自分で腕をみがいて知的探究をした。そのコミュニティが『ネイチャー』などの科学雑誌をつくったといいます。

そのころの研究者の心はいまも受け継がれているのでしょう。知的好奇心を探究するのが好きな自然科学の研究者は多くいます。

しかし、ここ20年ほどで、市民の納税意識が高くなりました。おもな研究機関である大学も社会との結びつきを強調するようになりました。そのため研究者たちは、自分のしている研究が「役に立つ自然科学の研究」であることを示さなければ、なかなかやっていけないようになりました。

知的好奇心を研究の原動力とする研究者がいるいっぽうで、世のために役立たせる目的をもって研究をする研究者もいます。たとえば、iPS細胞の研究を牽引している研究者たちには、「難病の患者の病気を治したい」といった強い気持ちが、彼らの研究の原動力にありそうです。

世に役立たせるための研究にとりくんでいる一人の研究者が、こう言いました。「知的好奇心の満足のために研究をしているヤツらが、予算獲得のために『自分の研究はこのように役立つ』と話をつくりあげてアピールしていると腹が立つ」。

役立ちそうもないような研究を「このように役立ちます」と言われれば、自分の研究を世に役立たせようとしている研究者は腹が立つでしょう。

その研究者はさらにこう付け加えます。「知的好奇心の満足のために研究をしているヤツらは、自分の研究がどう役立つのかでなく、自分の研究がどう楽しいかをアピールすればいいのに」。

人間は「役立ちそうなもの」とともに、「おもしろそうなもの」にも飛びつくもの。であれば、知的好奇心探究こそわが研究と思っている研究者は、「この研究は役立ちます」でなく「この研究はおもしろいです」と世に示すべきだ、というわけです。

自分はなにをやりたいのか。本音でそれを人々に示したとき、また新たな社会の展開が起きるのかもしれません。
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「マグロの絶滅を防ぐ『ノアの方舟』作戦」


日本ビジネスプレスのウェブニュース「JBpress」で、きょう(2011年)2月24日(金)、「マグロの絶滅を防ぐ『ノアの方舟』作戦 『代理親魚』が魚の危機を救う(後篇)」という記事が配信されました。記事の取材と執筆をしました。

東京海洋大学准教授の吉崎悟朗さんは、「代理親魚」を使って魚の数を増やすための研究をしています。代理親魚は、まさに読んで字のごとく、代理として親になる魚のことです。

たとえば、これまでの研究成果では「ヤマメにニジマスの卵や精子をつくらせる」ということに成功しています。今回の後編の記事ではその方法とともに、いま吉崎さんがとりくんでいる「サバにマグロの卵や精子をつくらせる」方法の研究の現状も紹介しています。

はじめて「ヤマメでニジマス」「サバでマグロ」と聞くと、「なぜそのようなことを」と疑問に思う人は多いことでしょう。明確な目的があり、このような研究が行われています。

ニジマスもマグロも数が減っていることが心配されている魚。これらの魚を養殖して、数を多くすることもできますが、大きな魚であるため飼育がたいへんです。そこで、ヤマメやサバといった小さな魚の“おなか”を借りて、そこで卵や精子になる細胞を育てて、卵や精子をかえせば、飼育では小さい魚を世話するだけですみます。

吉崎さんの研究の根底にあるのは、これまで見てきた魚たちの棲む環境が失われ、個体数が減っていくという危機をどうにかしたいという思い。「日本人たちが世界中でマグロを買い漁った結果です。あの魚たちを日本人が食べ尽くすのは、どう考えても疑問でした。マグロの数を増やすための研究の原動力になりました」と話しています。

「現実的な方法」として、考え出した研究を吉崎さんは進めているところです。

JBpressの記事「マグロの絶滅を防ぐ『ノアの方舟』作戦 『代理親魚』が魚の危機を救う(後篇)」はこちらです。
魚と日本人の関わりあいかたを追った「挑戦!サバにマグロの子供をつくらせる 『代理親魚』が魚の危機を救う(前篇)」はこちらです。
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絵の撮影「触らぬ神に祟りなし」


「テクニック」というと、いろいろな手を尽くしてむずかしいことをこなすという印象があります。しかし、できるかぎり“手を加えない”ようにするテクニックもあります。

展覧会で掲げられている絵画は、ときどき「撮影可」となっていることがあります。たいていの展覧会ではカメラのフラッシュが絵の褪色に影響するなどの理由から撮影禁止。

しかし、一般市民の入選作を展示するようなときは撮影可のものも。また、「この絵画作品は撮影可」のように限定的に撮影可ということもあります。

絵画を撮影するとき使われる基本的なテクニックが「カメラに触らずに撮影する」というもの。

まず、三脚を用意します。三脚にカメラを付けて、カメラを絵画作品に正対するように向けます。そして、ファインダー内に作品が入るように位置を調整して、ピントも作品に合わせます。

そして、多くのカメラに付いている自動シャッター機能を使います。シャッターボタンを押したら指をカメラから離して、待つこと2秒。

「パシャ」

これで、シャッターボタンに触らずに正面の絵画を撮影することができました。

シャッターボタンを指で押すと、手ぶれの可能性が出ます。「自分はぶれない」と思ってもぶれるもの。また、デジタルカメラを使えば、撮影直後に撮影した画像を画面で見ることはできます。しかし、絵画作品の細線のわずかなぶれを小さな画面で確認するむずかしさはあります。

シャッターボタンに触れることで絵がぶれる可能性が出る。であれば、その可能性をなくすには、シャッターボタンに触れないで撮影すればよい、となります。そのための手段が、三脚にカメラを置き、かつ自動シャッター機能を使うこと。「触らぬ神に祟りなし」というわけです。
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液化天然ガス、石炭、石油で火力発電


日本の原子力発電所が、つぎつぎと稼働を停止しています。(2012年)2月19日の時点で、54基中、稼働しているのは2基のみとなりました。

原子力発電所がつぎつぎと止まると、節電をするか、ほかの発電方法に頼るかしなければならなくなります。

もともと、原子力発電所よりも多く電気をつくっていたのが火力発電です。2010年までの発電量の比率は、原子力3割に対して、火力発電6割といったものでした。

さらに火力発電にも、三つの発電方法があります。

日本の火力発電のなかで、もっとも発電量の比率が高いのが「液化天然ガス」を燃料とするもの。液化天然ガスは、LNG(Liquefied Natural Gas)ともよばれています。天然ガスを加圧して、液体にしたのが液化天然ガス。主成分はメタンです。

日本でも天然ガスはわずかながら採ることができます。しかし、多くは外国からタンカーで輸入されています。火力発電の燃料としてのほか、身近なところでは「都市ガス」としても使われています。

つぎに比率が高いのが、石炭を燃料に利用するもの。石炭を燃やすと、温室効果ガスとされる二酸化炭素が多く出ます。二酸化炭素を出す燃料を使うとしても、できるだけクリーンに効率よく使おうという考えのもと、石炭火力発電の技術開発が行なわれています。

たとえば、石炭ガス化複合発電という発電方法が実用化に向けて取り組まれています。これは、石炭からガスをつくり、まずそれを燃料にしてガスタービンを回し、さらにそこで発生した熱を利用して蒸気を発生させて、蒸気タービンも回すというしくみ。

ただし、この石炭ガス化複合発電は、まだ日本で実用化がなされていません。火力の依存度が高まるなか、実用化が急がれます。

いちばん比率が低いのが石油を燃料とする火力発電です。ここ30年ほど、原則として新しい石油火力発電所はつくられていません。

これは、1979年に行なわれた国際エネルギー機関の閣僚理事会で、石油による火力発電所を新しく建てるのは止めようという取り決めを受けてのもの。石油危機を機に、石油はほかのエネルギー利用のために大切に使い、火力発電には石炭などを利用していこうなり、この方針に日本もしたがっているからです。
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にたものどうしで吸いついて字が消える


ちかごろは、字を消せるボールペンがよく使われています。しかし、書いた字を消す王道といえば、鉛筆と消しゴムでしょう。

なぜ、鉛筆で書いた字を消しゴムで消すことができるのでしょう。

鉛筆の芯は、炭素と粘土を混ぜあわせたものでできています。炭素には、いろいろな形がありますが、鉛筆の芯は黒鉛。炭素元素が六角形になって、それが板状にいくつも重なっているようなつくりです。

鉛筆を紙のうえで走らせると、この黒鉛と粘土の混ぜものが、紙の線維のすきまに入り込むのです。紙の線維はざらざらしているので、そこに黒鉛と粘土の混ぜものが引っかかっていくわけです。

ただし、黒鉛と粘土の混ぜものは、紙の表面にひっかかっているだけ。水性ペンなどとちがって液体でなく固体であるため、紙のなかまで染み込むことはありません。

そこで、紙の表面についた黒鉛と粘土の混ぜものを吸いとることができれば、鉛筆で書いた字を消せることになります。ここで登場するのが、消しゴムです。

消しゴムの成分は、おもに塩化ビニル樹脂、可塑剤、セラミックス粉末という三つのものでできています。その量の比率は、およそ2対3対1。

このなかで、可塑剤とよばれる成分が、鉛筆で書いた字を消すのに重要となります。可塑剤は、合成樹脂やゴムなどの物質に変形しやすい性質をあたえるために使われる材料。消しゴムでは、ジオクチルフタレートとジブチルフタレートという可塑剤が使われます。

これら可塑剤には炭素が含まれています。そしてその形は、鉛筆の黒鉛のかたちとよくにています。

鉛筆の字を消しゴムでこするときは、よくにたかたちどうしが触れあうことになります。すると、鉛筆から出た黒鉛が、消しゴムの可塑剤に吸いついていきます。この化学的な作用によって、鉛筆の字は消しゴムによって消えるのです。

参考ホームページ
モノ知り工業博覧会「鉛筆・消しゴムのなぜ」
SEED「どうして消しゴムで字を消せるの?」
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寒いとき「すーーーっ」で体を冷やさない


寒いなか、ずっと待たされているような居たたまれない状況になると、人はつぎのようなしぐさをします。

「すーーーっ」。歯と歯のあいだから音を立てながら息を吸う。声で「すーーーっ」と言うのでなく、歯と舌と唇と肺の連携で「すーーーっ」と音を立てるわけです。

ダイヤの乱れで何分経っても電車が到着しない駅のホームなどで、「すーーーっ」の音としぐさがよく見られます。「すーーーっ」の前には「うーさぶさぶさぶさぶ」と独り言を発する人もいます。「うーさぶさぶさぶさぶすーーーっ」といった具合に。

いったい、なんのためにこのようなしぐさをするのでしょうか。

寒いときのしぐさとして「震える」ということはよくあります。これは、からだを小きざみに動かすことで、からだの熱をつくりだして、からだを温めるためと考えられます。

また、「手のひらにはーっと息を吐く」というしぐさもあります。これは、あきらかに、からだの末端にあり冷えやすい手を、温度の高い息で温めるためのしぐさです。

もし、仮に寒い空気のなかで、深呼吸をしたらどうなるでしょう。冷気が肺のなかにたくさん取り込まれます。これは、からだを冷やすのに“もってこい”のしぐさになります。

体を冷やさずに空気を肺にとりこむためには、外の冷気をどうにか温めてから肺のなかに入れることが大切になります。

外の冷たい空気を、肺に取り込むまでに温かくするのための“関所”になるのが、口の中です。舌や口腔の温度は高いもの。ここで、いったん空気を温めてから肺に入れれば、からだは冷たくなりません。

そこで、深呼吸のように一気に空気を吸い込むのでなく、両唇を半開き状態にして、しかも歯と歯のあいだから空気を入れるぐらいのケチケチさで空気を口の中に入れます。そうすることで、少量の空気を口のなかでじゅうぶんに温めてから、肺に送り込むことができます。

この、体を温めないための合理的な息の吸い込みかたが、表現型としてあらわれたのが「すーーーっ」ではないかと考えられています。

なお、この「すーーーっ」は、人が謝罪するときに行なうと効果的なしぐさでもあります。

参考ホームページ
Yahoo!知恵袋「よく寒い時『スーッ』ってやりますよね。」
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燃やして冷やして跡形なしに
人には、だれにでも「跡形もなくしてしまいたいもの」があるものです。過去の汚点や、離婚した相手との写真などです。

いっぽう、産業の世界では「跡形もなくす」ための現実的対処法として、「炉で燃やして処理する」ということが行なわれます。

たとえば、ごみを燃やせば、多くは灰になって体積が減ります。そこで「火格子」という金属格子状のものを階段状に置き、そこにごみを乗せて焼いていく「ストーカ炉」という炉が多くのごみ焼却場で使われています。

ストーカ炉が奥行きのある炉だとすれば、縦に長いかたちをした炉もあります。それは、「液中燃焼炉」とよばれるもの。この液中燃焼炉も「跡形もなくする」ために使われます。ごみはあまり処理しませんが、空気中に放っておくと問題のある液体を処理するのによく使われます。

液中燃焼炉の大きなしくみは、上に円筒状の炉があり、下に水槽がある、というもの。


液中燃焼炉(環境省資料より)

跡形もなくしたい液体を、円筒状の炉のてっぺんのほうから入れます。まず、円筒内で火を燃えさからせて、加熱して液体やガスをもとの姿でなくしてしまうのです。そのため、液体をよく燃やすための助燃燃料とよばれる成分も、円筒の上のほうから入れます。

円筒状の炉のなかで、液体は大部分、跡形もなくなりました。

しかし、液中燃焼炉が「液中燃焼炉」とよばれるのは、これから先の処理方法が特徴的だからです。

燃焼炉の下に待ち受けているのは水槽です。水槽にはふつうの水がひたひたにはっておきます。炉の底の部分がこの水槽につながっているため、燃えた液体は、この水のなかへと落ちていきます。

このとき、液体が水のなかをくぐることによって、何千度に熱せられていたのが、急に冷やされます。ものを跡形もなくするうえでは、この「一気に冷やす」という方法も大切になります。

さらに、この水槽には泡ぶくがしゅわしゅわと出てくるしくみがあります。跡形もなくしたい液体がこの泡ぶくに触れてもまれることにより、より跡形もなくす効果は増します。

こうして、もともとの液体は、この段階までくるとほぼべつのかたちに変わっています。つまり、跡形もなく処理されたわけです。あとは、跡形なくなった液体と水が混ざったものを処理し、またガスになったものがあればそれを水槽から外に導いて排出すれば、処理完了となります。

ポイントは、焼いて一気に冷やすこと。液中燃焼炉を使えば、跡形もなくしたい液体を跡形もなくすことができます。

参考文献
環境省廃棄物処理基準等専門委員会資料「産業廃棄物焼却処理システムの技術上の基準について(案)」
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漢方薬は薬、サプリメントと健康食品は食品
病院で診療したあと薬局で薬を処方されたり、ドラッグストアで薬を買ったりすることがあります。これらの薬からの関連で思い浮かべられるものとして「漢方薬」「サプリメント」「健康食品」などがあります。それぞれのちがいはどういうものでしょう。

「漢方薬」は、ことばをばらせば「漢方の薬」となります。「漢方」とは「和方」に対することばで「中国から伝来した医術」のことを意味します。中国伝来の医術で使われてきた薬が漢方薬です。


さまざまな漢方薬

漢方薬は、おもに草の根や木の皮などを粉状にしたもの。たとえば、風邪に対しては、葛根をおもな成分として、ほかに麻黄、生姜、桂皮、芍薬などを煎じつめた「葛根湯」があります。また、冷え性に対しては、蒼朮(そうじゅつ)、陳皮、当帰、半夏(はんげ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)などさまざまな成分を混ぜあわせた「五積散(ごしゃくさん)」があります。

経験主義にもとづいているという点は、漢方の西洋医学の薬との大きなちがいといえます。どのようなしくみで薬が効くのかを探るのも大切ですが、服用してたしかに効き目があるということをより重視します。

なお、漢方薬には西洋の薬とおなじように、保険適用を受けているものが多くあります。これは薬として認められていることと、多くの人に対して効果があることを意味しています。

いっぽう「サプリメント」は、もともと「補遺」や「補助」といった意味をもつことばです。いわゆるサプリメントは「健康補助食品」や「栄養補助食品」などと訳されます。

サプリメント

人は、ビタミンやミネラルなどの栄養素を体に摂りいれることにより健康な生活を送ります。それらの栄養素は、野菜や肉や大豆などから得られるものです。しかし、さらに不足がちな栄養素を補給しようとするとき、サプリメントが使われます。

多くの場合、サプリメントは錠剤になっています。その内容は、ビタミン類、亜鉛、カルシウム、鉄分、さらに、アブラナ科の植物で疲労回復に効果があるとされるマカ、興奮を抑えてイライラをしずめる効果があるとされるギャバなどもあります。

薬局で売られているものの、サプリメントは薬ではありません。そのため医療保険の適用も受けません。薬でないという手軽さがサプリメント人気になっている部分もあるでしょう。ただし、食事を摂らずにサプリメントだけを飲むといった偏ったサプリメントの頼りかたは、かえって健康を害することにつながりかねません。

「健康食品」は、「健康のためになる食品」あるいは「健康のためになりそうな食品」全般を指します。きわめて広い意味をもっているといえるでしょう。

サプリメントも、健康を期待して口に入れるという点では健康食品のひとつといえます。また、韃靼そばや納豆なども、血液をさらさらにするという効果が期待されていることから健康食品のひとつといえます。

納豆

これらのものを管理するための法律として、薬事法と食品衛生法があります。漢方薬は薬であるため薬事法の対象になっています。いっぽう、サプリメントと健康食品は薬でなく食品であるため食品衛生法の対象になっています。

参考ホームページ
「漢方の効能ガイド【はじめての漢方薬】」
「おくすり110番 五積散」
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うつ関連たんぱく質とうつ関連遺伝子を別々に発見


2012年2月になり、うつ病に対する新しい知見が日本人研究者によっていくつか明らかになっています。

まず、うつを誘発すると考えられるたんぱく質のひとつが特定されました。「ヒストン脱アセチル化酵素6」(HDAC6)よばれるたんぱく質です。愛知県春日井市の心身障害者コロニー発達研究所と名古屋市立大学の研究グループの成果です。

うつを引き起しそうなこのたんぱく質を抑えるはたらきをする化合物をマウスにあたえると、抗うつ薬をあたえたときとおなじような効果があったといいます。

このたんぱく質は、脳のなかのセロトニンという物質を出す神経細胞に多く含まれていることもわかりました。また、このたんぱく質をなくしたマウスは慣れない環境でも活発に行動して不安や恐怖感がなさそうであることもわかりました。

いっぽう、うつ病の発症に関わる遺伝子も発見されました。「ABCB1」という遺伝子の一部分がその遺伝子にあたります。国立精神・神経医療研究センターの功刀浩さんらによる成果です。

この研究で登場するたんぱく質は「P糖たんぱく質」というもの。このたんぱく質は脳のストレス物質をとりのぞくことが知られています。そして、このP糖たんぱく質の設計図になるのが、DNAの塩基配列のなかにある「ABCB1」という遺伝子。なかでも、P糖たんぱく質の機能を低下させるような部分があり、ここで変異が起きることがうつ病と関連すると突き止められました。

この研究成果は、うつ病患者と健常者の遺伝子を解析することで出されたもの。ふつう、ABCB1遺伝子内の該当する部分の塩基配列の文字が「シトシン」(C)となるところ、うつ病患者では「チミン」(T)になっていることが多かったのです。

うつ病の代表的な症状は、「ゆううつだ」「気が重い」といった抑うつ的な状態がほぼ一日中あり、それが長いこと続くというものです。また、うつ病と似ているものの、うつ状態と逆に気分が高揚する躁状態が繰り返す「躁うつ病」(双極性障害)という別の病気もあります。

参考記事
読売新聞2012年2月17日付「『うつ』誘発、たんぱく質特定…新薬開発に期待」
共同通信2012年2月17日付「うつ関与のタンパク質発見 抗うつ剤の開発期待」
日韓工業新聞2012年2月16日付「国立精神・神経医療研究センター、うつ発症遺伝子を発見」
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“滓”だからこそ“土の多様性”も


前にこのブログで「日本列島の正体は“滓”の集まり」という記事がありました。

太平洋プレートという板が、ベルトコンベヤのように動いていて、そのプレートに乗っかっている堆積物や岩石が日本のあたりに近づいてきてはたまっていきます。こうしてできた“滓”の集まりが、日本列島ということになります。

“滓”というと、よからぬ印象をもたれがちです。しかし、滓でできた列島にも誇るべき点はありそうです。「土の多様性」というのはそのひとつ。

プレートに乗っかっている堆積物や岩石には、さまざまな種類があります。それを日本列島が一手に受けとめることで、滓が集まっていくわけです。つまり、滓の中味はさまざまな粘土や岩石でなりたつことになります。

つまり、日本列島はさまざまな岩石がモザイク状に入り乱れており、「土の多様性」をつくっているわけです。

土の多様性は、そこに住む人びとにどのような恵みをあたえるでしょうか。

衣食住のなかで深く関わるのは、さまざまな農作物を育てることができるということでしょう。イネの栽培に向いている土壌や、イモ類の栽培に向いている土壌など、土の条件はさまざま。その結果、狭い日本のなかでも、いろいろな農作物を収穫することができます。

文化的な面では、土の多様性は焼物の種類の多さをもたらしていそうです。その土地の粘土の特性を活かすべく、焼物の技術は育まれてきました。結果、会津焼、有田焼、伊万里焼、嵯峨焼、信楽焼、瀬戸焼、丹波焼、平戸焼、益子焼、美濃焼などと、さまざまな地名を冠した焼物が生まれました。

いろいろな種類の「多様性」のなかでも「土の多様性」に注目が集まってきています。

参考記事
朝日新聞2011年1月20日付 尾関章「日本列島は大地の博物館」
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「三寒四温」は現象的でなく感覚的


2月も立春を過ぎると、すこしずつ冬の天気に変化が見られてきます。

西高東低の冬型の気圧配置が崩れていき、かわって移動性の低気圧が西から東へといくつも日本付近を通っていきます。

この春先の移動性低気圧が、日本海など日本の北側を通ると、低気圧より南に位置する各地で南からの風が吹いてきます。その最初の日に起きる南風は「春一番」ともよばれています。

この南風をもたらす低気圧が自分のところを通りすぎると、また吹きかえしの北風が吹き「寒のもどり」となります。

こうして、暖かさと寒さが繰りかえされていくために、よく日本でも「三寒四温」ということばが使われます。3日ほど寒い日がつづいたあと、4日ほどあたたかい日が続き、これをくりかえすというもの。

しかし、日本では3日寒くて4日暖かいといった現象は、はっきり見られるわけではありません。辞書の「三寒四温」の項目にも「中国北部・朝鮮などで冬季に見られる」とあります。

とはいえ、春と冬が一進一退をくりかえしていき、じょじょに春が強くなっていき暖かくなるという感覚を日本に住む人ももっているのでしょう。

じょじょに、「春は名のみの風の寒さや」から、「春が来た山に来た里に来た野にも来た」へと移っていきます。

参考文献
『サイエンスウィンドウ』2012年春号「いにしえの心」
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細胞を破ってウイルスが体内へ

インフルエンザが流行しています。インフルエンザウイルスが存在することが、インフルエンザの感染が広がるそもそもの原因です。しかし、インフルエンザウイルスがなくなることをねがっても、ウイルスはなくなりません。

ウイルスは、よく細菌と混同されますが、細菌よりはるかに小さいもの。細菌の100分の1から10分の1くらいの大きさしかありません。

また、ウイルスも細菌もデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)という遺伝のしくみをもっています。しかし、細菌は細胞のしくみをもっているのに対し、ウイルスは細胞をもっておらず、DNAやRNAが膜で包まれているのみ。

インフルエンザなどのウイルスの感染はどのように起きるのでしょう。

インフルエンザにかかっている人が、たとえばエレベータのなかで「はくしょん」とくしゃみをします。

これで風邪を引き起こすウイルスが半径1メートルぐらいに飛び散ります。すると、この人物のすぐ横などに立っている人の口や鼻などにウイルスが入ることがあります。

このウイルスは、しばらくしてその人のからだのなかの細胞にある「受容体」という部分にくっつき、さらに細胞の壁を破って内側に侵入していきます。

このあと、ウイルスが増殖を開始。増えたウイルスは細胞を破って外に出てきます。

そして、そのあと、ウイルスはからだじゅうに広まっていきます。この段階で、すでにこの人はインフルエンザを自覚している状態です。

インフルエンザに対しては、オセルタミビル(商品名「タミフル」)や、ザナミビル(商品名「リレンザ」)といった薬が使われます。

細胞内で増えている最中のインフルエンザウイルスを細胞外に出さないように閉じ込めて、体内に広まるのを防ぎます。かかりはじめに薬を処方されることが肝心となります。
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オゾン層を破壊するフロンを破壊


地球の空は、オゾンがたくさん含まれている層があります。地上1万メートルから5万メートルぐらいの層で、なかでも2万5000メートルあたりがもっともオゾンが濃くなっています。

濃いオゾンにじかに触れると眼や肺などによくない影響があるものの、遠くの空にあるオゾンは人をまもってくれます。太陽からの有害な紫外線をオゾン層が吸収してくれるからです。

このオゾン層を破壊する物質として知られるのが、フロン類。フッ素と炭素でできた化合物で、フルオロカーボンともよばれています。

フロンのなかでも、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)の3種類は、かつては冷蔵庫やエアコンの冷媒として、また精密機器の洗浄剤として使われていました。

しかし、このフロン類がオゾン層を破壊する元凶だということがわかりました。1987年には「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」という条約が採択され、フロン類をつくったり使ったりすること規制されました。

オゾン層を破壊するフロン類をこれまでつくりつづけてきた過去があります。これらのつくってしまったフロンを放っておかず処理する必要があります。

フロン類を処理する方法としてあるのが、まず回収すること。フロンが使われていた冷蔵庫やエアコンから、液状のフロンを抜き出します。フロン回収業者もあります。

では回収したフロン類をどうするか。つぎに行われるのが「フロンを破壊する」という作業です。オゾン層を破壊するフロンをさらに破壊するわけです。

フロン類をとても高い温度で熱するとフロン類は分解していきます。この作業が「破壊」とよばれるもの。破壊されたフロンをフッ化カルシウムなどのべつの物質として回収することにより、無害化をはかることができます。

フロンの「回収業者」があるように、フロンの「破壊業者」もいます。フロンに限っていえば、“破壊活動”はおおいにすすめられているところです。

参考文献
新エネルギー・産業技術総合開発機構「京都議定書目標達成計画に対応したフロン類等の削減技術」

参考ホームページ
EICネット「フロン回収・破壊法」
クリーンセンター「フロン回収・処理」
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“魚食の民”は魚をあまり食べていなかった


日本人は「魚を食べてきた国民」とよくいわれます。たしかに、ほかの魚を食べない国民とくらべれば、日本人は魚を多く食べてきたといえるのでしょう。

せまい土地は海に囲まれていて、川も何本も走っています。潮の流れも北からと南からの両方があり、近海を泳ぐ魚の種類も豊富です。

しかし、たとえば江戸時代や明治時代の日本人が、魚をありあまるように食べることができたかというと、そうではなかったようです。

むかしの日本人は魚がきらいだったわけではありません。食べられる鮮度で輸送をする方法がかぎられていたのです。海でとれた新鮮な魚を遠くの街までとどけられるのも、冷凍・冷蔵技術や運送網の発達があるからこそ。

江戸時代、江戸の人びとが食べる魚といえばもっぱらいまの東京湾でとれた“江戸前”が多く、鎌倉の相模湾あたりから船で日本橋の魚河岸まで運ぶのが限界だったといいます。房総半島沖では新鮮な魚を運んでくるのには遠すぎました。

漁獲量についての統計が日本で初めてとられたのは1891(明治24)年。この年の日本での魚の生産量は、人口およそ4000万人に対して100万トンほどだったといいます。

いっぽう、2007年の日本の食用魚介類の供給量は、人口1億2000万人に対して700万トンほど。1人あたりの魚の消費量でいえば、明治中期よりいまのほうが2.3倍、魚をよく食べている計算になります。

もっとも、いちばん漁業・養殖業生産量の多かった1984(昭和59)年にくらべて、2007年は半分にまで落ち込んでいるといいます。日本では魚をとらず、外国から輸入して食べるようになってきたのです。

かぎられた量の魚を地元でとって地元で消費するといった魚と日本人の関係は、もう完全に“いまやむかし”となりました。

参考文献
長崎福三『魚食の民 日本民族と魚』
『サイエンスウィンドウ』2011年春号「いにしえの心」
水産庁「平成22年 水産白書」
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部品の修理交換に店側と客側の溝


コンピュータの修理を依頼しようとるとき、店側と客側のあいだでつぎのようなやりとりがなされます。

店側「では、DVDドライブ修理ということで、1週間ほどコンピュータを預からせていただくことになります」

客側「え、1週間もですか。DVDドライブだけ調子が悪くて、ほかの部分はふつうに使えるのだから、DVDドライブが届いたらまたコンピュータをもってきて即、交換ということでお願いしたいのですが」

店側「もうしわけありませんが、そういう対応はしていないのです」

客側「どうしてですか」

店側「やはり、ほかのお客さまもお待ちいただいており、順番となっておりますので……」

コンピュータは、ディスプレイ、充電池、光学ドライブなど、部品ごとに独立して組み込まれています。ある部品が故障しても、ほかの部分に影響はなく、ひきつづきコンピュータを使える場合があります。

たいてい店側に修理を依頼すると、故障した部品が店に届くまでの期間もふくめて、コンピュータを預けなければならない方法になっています。

しかし、客側にとってみれば「ほかの部分はふつうに使えるのだから、店に交換部品が届くまでは使わせておいてよ」となるもの。

預からなければならない理由として、上の店員は「ほかのお客さまもお待ちいただいており、順番となっておりますので……」と対応しています。

しかし、店にコンピュータを預けるか、店に部品が届いたらふたたび店にコンピュータをもっていきその場で部品交換するかを選ぶかを選べるかたちでの順番制にすればよいはず。

一部の家電量販店では、交換部品が店に届いたら、店にコンピュータをもっていって即、交換するという方法をとっているところもあります。その方法をとっている店の店員いわく「部品が店に届いてもお客さんが来てもらえないことがあると、店側は困ってしまうのです」。

この家電量販店は、修理依頼をした客が訪れないというリスクを抱えながらも、客を信頼して「部品が届いたらコンピュータを預かって交換」をしているわけです。

もし、客に来てもらえないリスクが高いのであれば、修理依頼があった時点で修理交換代の一部を払ってもらうという方法も考えられます。

ある部品だけ故障しているのに預からなければ修理しない店側の事情と、ある部品しか故障していないのだから使いつづけたい客側の事情との差は大きなものがあります。
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「社説の要約」で小論文対策


大学院で学ぶ社会人は、5万人以上いるといいます。大学院生のうち20%が社会人という割合。経営学修士(MBA:Master of Business Administration)や経営技術(MOT:Management Of Technogy)といった、ビジネスに役立つコースにたかい求めがあります。

大学院の社会人入試では、多くの場合、研究計画書、小論文、面接が受験科目となります。このなかで、小論文の対策として「新聞の社説の要約」が、大学院合格者や予備校などから奨められています。

要約とは、文章の要点をとりまとめて、短く表現すること。

社説の字数は1本900字ほど。これを200字くらいの短文に要約するのです。新聞には社説が載らない日はないので、要約に毎日とりくむことができます。休刊日でも、社説は1日2本分あることがほとんどなので、前日の社説を要約すればよいことになります。

社会人入試の小論文勉強法として、なぜ社説の要約がおすすめなのでしょう。

ひとつは毎日、短い時間でつづけられるといったことがあるようです。なれてくれば、1本の要約に30分ほど。このくらいの時間であれば、忙しい社会人でもとりくめそうです。

また、社会人入試の小論文で問われそうな時事問題を把握しておくことができます。その大学院コースの入試傾向にもよりますが、「TPP(環太平洋経済協定)に対して賛成か反対か、あなたの意見を述べよ」などといった時事的なテーマが出されることが多くあります。社説の要約にとりくんでいれば、入試本番で自分の知らない時事問題のテーマに直面するといったことも防げるでしょう。

大きなところでは、勉強を積み重ねられるということなのでしょう。新聞は、くる日もくる日もやってきます。くる日もくる日もやってくる球を打ちかえせば、基礎的な力がつきそうです。“継続装置”としても新聞はおあつらえむきなわけです。

参考ホームページ
ナレッジステーション「社会人のための大学院進学ガイド」
読売新聞 教育ワンダーランド「要約のすすめ」
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つい「あと30分で」より「あと20分で」

人には、約束事を破ってしまうことがあります。「約束を破ってしまう」と悟ったとき、人にはある傾向があるのかもしれません。新たな約束について、安全をとるよりも、危険をとるというものです。

ある人が友だちと「梅田駅のビッグマンの前に19時にまちあわせ」という約束をしていたとします。ところが、乗るべき電車に乗りそこねたことから、待ち合わせに遅刻をしてしまうことが確実になってしまいました。

遅刻する時間は、冷静に客観的に考えれば25分。

そんな場合、遅刻することを電話で相手に伝えるのに「ごめんなさい、あと20分で参りますので」と言うことと「ごめんなさい、あと30分ぐらいで参りますので」ということのどちらが多いでしょうか。

多くの人は「つい、あと20分でと言ってしまうんだよね」と言います。

「あと20分で参りますので」と言っておきながら、到着まで25分かかったとすると、厳密にいえば二度目の約束も破ってしまうことになります。

いっぽう、「あと30分で参ります」と言っておけば、実際は25分後に到着した場合、相手に「30分と言っていたけれど早かったな」というよい印象をもたせることができます。

しかし、人は「あと20分で参ります」といってしまいがち。遅刻の幅を過少申告するのは、「なるべく早く到着するようにしないと」といった“もうしわけなさ”がはたらくからでしょう。

遅刻され、さらに5分遅刻された側は、よけいいらいらするかもしれません。そんなときは「さらに5分遅れたのは、もうしわけないという相手の気持ちのあらわれだった」と考えるほうが、あとあとなにかとよさそうです。
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魚類の4分の1が枯渇


人にとって、陸にくらべて海のことはまだわかっていないことが多くあります。しかし、海のいきものの多様性が、陸のいきものの多様性とおなじく減ってきているというのは事実のようです。

国連の提唱で2001年から2005年にかけて行われた「ミレニアム生態系評価」という環境アセスメントは、いきものの絶滅していく速さが、ここ数百年間で1000倍になったという報告を出したことで知られます。それだけでなく、魚についての状況も報告しています。

世界では、中国をはじめいろいろな国が海の魚を多く獲るようになりました。そのため、魚類の4分の1が、乱獲によって著しく枯渇しているといわれています。

とくに、「食う・食われる」の食物連鎖のなかでは、上位にあるクロマグロやタイセヨウマダラなどの大型の魚の数が減っていると考えられています。

日本の近くにすんでいる魚についても、多様性の状況が調べられています。環境省が設置した生物多様性総合評価検討委員会は、2010年5月、「生物多様性総合評価報告」という報告書を出しています。

この報告では、有用魚種の資源の状態について取り上げていています。現在の状態は、生物多様性は4段階のうちの悪いほうから2番目にあたる「損なわれている」とされ、その傾向は4段階のうちの悪いほうから2番目にあたる「損失」にあるとされています。

有用魚種の数が減ってしまう可能性の理由として、魚たちの住みかである藻場や干潟などに人の手が加えられて狭くなることや、回復力を上回る漁獲が行われることなどが上げられています。

今後は、福島第一原子力発電所から海へ放射性物質が流れ出たことの影響なども評価に入ってくるでしょう。すくなくとも、海のいきものの多様性にとってよい方向には向かっていません。

参考資料
環境省「海洋生物多様性保全戦略」
環境省「生物多様性総合評価報告書」
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陶器は土的、磁器はガラス的
「陶磁器」は、よい質の粘土を材料にして、そこに鉱物を混ぜこみ、さらにそれを焼いたものです。ひとえに「陶磁器」といわれますが、「陶器」と「磁器」は異なるものです。

まず、陶器のほうは、「陶土(とうど)」または「陶石(とうせき)」とよばれる粘土に、ガラスの原料にもなる珪石、それに珪酸縁鉱物という種類のひとつである長石などを混ぜこんでつくられます。練って空気を外に出し、ろくろで回して形をつくっていきます。

陶器(薩摩焼)

そして、それを窯で焼いて素焼きというものにします。しかし、この素焼きの状態では、まだ器の“骨格”ができたにすぎません。このままでは、器のなかに水が染みこんでしまいます。

そこで、ここに釉薬(ゆうやく・うわぐすり)とよばれるガラス質の液体を塗って、これをさらに焼きます。こうすることで、表面はつるつるになり、水分が器のなかに染みこまなくなります。飲んでいたら水が漏れてきたといったことを防げます。

いっぽう、磁器のほうは、陶器にくらべて「焼き締まりがよい」といわれます。ややこしいですが、磁器にも陶土が多くふくまれています。陶土をこまかく砕いて粘土にし、珪石や長石が混ぜこまれます。それを練ってろくろで回して形をつくっていきます。

その後、焼き釜で焼いて素焼きの状態にし、釉薬を塗ってさらに焼きます。この過程は、陶器とほぼいっしょです。

磁器(伊万里焼)

陶器と磁器のちがいに、長石や珪石などの鉱物の含まれ度合があります。陶器のほうには、長石や珪石が50%しか含まれていないのに対し、磁器のほうには長石や珪石が60%ほど含まれています。

ガラスなどに使われる長石や珪石は、粘土である陶土にくらべて硬いのです。硬い長石や珪石が50%しか含まれていない陶器はよりやわらかく、60%含まれている磁器はより硬くなります。

また、釉薬を塗ったあとに焼かれるときの温度も異なります。陶器をつくるときは1200度ほどで焼かれ、磁器をつくるときは1300度ほどで焼かれます。より高い温度で焼かれた磁器のほうは、珪石がとけはじめ、長石と結びついてガラスになります。

そのため磁器のほうが陶器よりも高い音がし、また透明感があるのです。かんたんにいうと、より土っぽいのが陶器で、よりガラスっぽいのが磁器といえます。

参考ホームページ
日本テレビ「知識の宝庫! 目がテン! ライブラリー 第771回」
日本テレビ「知識の宝庫! 目がテン! ライブラリー 第772回」
土岐市「磁器と陶器の違いは」
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ふたつの不確定性原理に区別つく――不確定性原理の新展開 (5)



ウェルナー・ハイゼンベルクの不確定性原理について「かならずしも当てはまらない場合がある」ということが、小澤正直さんの数式と長谷川裕司さんの実験で明らかになりました。

この「不確定性原理に破れ」が発見されたことに、どのような意味があるでしょうか。

2012年1月に、小澤さんや長谷川さんの成果を発表した名古屋大学は、つぎのように述べています。

「この研究成果は、今の物理学の『常識』になっている基本原理を根底から覆すことを意味し、波及効果は基礎科学の発展はもとより、ナノサイエンスの新たな測定技術、重力波の検出、量子暗号の開発への応用が期待できる」

量子暗号とは、量子力学という極微の世界での物理をあつかった理論を使った暗号で、その情報を盗聴しようとすると、それがばれてしまうしくみをもった暗号です。この量子暗号の開発や応用にもつながるといいます。

もうひとつ、このたびの成果をめぐっては、「ふたつの不確定性原理がはっきりと区別された」という点で意味があったといわれています。

ハイゼンベルクが不確定性原理を唱えたとき、ハイゼンベルクは「ものの位置を正確に測ろうとするほど、運動量を正確に測ることができなくなる。ものの運動量を正確に測ろうとするほど、位置を正確に測ることができなくなる」と考えました。これは、ここまでの連載で紹介した原理です。この不確定性原理を、小澤さんと長谷川さんは破ったのです。

いっぽう、ここまで触れませんでしたが、不確定性原理にはもうひとつ「量子の本来的な性質として“揺らぎ”があり、観測をするとばらついた結果になる」といった、似て非なる系統のものがあります。ロバートソンの不等式という数式で表されるもので、こちらの不確定性原理は破られていません。

教育現場やメディアでは、このふたつの不確定性原理がしばしば混同されて捉えられていたといいます。小澤さんも「明確に区別されないまま異なる意味を持つ2つの解釈が混同された」と話しています。

小澤さんは、ふたつの不確定性原理をわけて、ハイゼンベルクが考えたほうの不確定性原理の破れがあることを導きました。これにより「ふたつの不確定性原理」がより明確になることでしょう。

ハイゼンベルクが1927年に提唱してから、ことし2012年で85年。85年間も、物理学の基礎でありつづけてきた原理も破られるのです。しかし、この“原理の破れ”は、物理学の進歩でもあります。了。

参考文献
名古屋大学「現代物理学の根幹である不確定性原理の破れを観測 ナノの世界の深淵を語る基本原理に穴」
参考記事
ウェブ論座 尾関章「教科書だって疑ってかかれ―不確定性原理考」
参考ホームページ
IT用語辞典「量子暗号」
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枯れて腐って積みかさなって湿原に


日本の面積のうち、0.2%ほどを占めている土地が、「湿地」です。湿地は水気の多いじめじめした土地のこと。湿地のなかでも、池や沼のような水域でなく、草や苔に覆われたような陸域は「湿原」とよばれます。

湿原には水気がたくさんあり、木がうっそうと生い茂りそうな環境に思われます。しかし、生えるのは背の低い植物のみ。湿原の土壌はふつうの土よりも栄養が乏しく、大木が育ちづらいからです。

湿原をふくむ湿地は、どのようにできるのでしょうか。

湿原をつくっているものは「泥炭」です。湿原でできる地域にもともとすんでいた植物が枯れて腐っていき、それが積みかさなっていったものが泥炭。

ふつうの土壌では、植物は枯れると微生物によって分解されて土になっていきます。しかし、水分の多いような地域では、植物が枯れて腐っても酸素が多くなく、微生物が活動するほどにはならないのです。そのため、植物はただ枯れては腐り、それが積みかさなっていくのみ。

この泥炭の上に、栄養がすくなくても生えることのできる植物が生えます。こうして湿原はつくられます。

では、水気の多いじめじめした土地はどのように生まれるのでしょうか。たとえば、日本の代表的な湿原である釧路湿原では、海水の出入りが多いに関係していたといわれています。

およそ1万年前から6000年前にかけて、地球は温暖化していたため、海水がいまの海岸線よりもかなり内陸まで入っていました。これは海進とよばれています。

釧路湿原がいまある地域も海水で浸されていました。しかし、その後、温暖化の時代が終わると、すこしずつ海水が引いていきました。

ただし、湾になっていた入口の部分には、京都の天橋立のような砂州という地形がつくられました。その結果、水がすべて出ていかず、湾内は湖のようになりました。

このじめじめした湖のような場所には、じめじめした環境が好きな植物が生えました。また湖のまわりからは土砂が流れてこんできました。こうして、植物は枯れて腐って積みかさなって、泥炭ができていきました。いまのような湿原ができあがったのは、3000年前とされています。

泥炭は、土でなく、植物のなきがらの繊維のようなものでできているため、とても脆いもの。人が立ち入ったり手を加えると、乾いてしまうなどして元に戻りません。

明治・大正のころ、日本に湿原は2110平方キロメートルあったといいます。いまは、全国で820平方キロメートル。琵琶湖の2倍の広さの湿原がなくなった計算になります。

参考ホームページ
会津高原自然学校「湿原のできかた」
環境省 釧路湿原自然再生プロジェクト「湿原のできかた」
国土地理院「日本全国の湿地面積の変化」
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薬物動態研究で創薬の基礎固め


病院や薬局で出される薬が開発されるまでには、いくつもの段階があります。物質に目を向けた基礎的な研究から、人に対して安全性や効き目を調べる臨床的な研究まであります。

基礎的な研究段階で製薬企業が行うことのひとつが、「薬物動態研究」とよばれるものです。

薬は、飲んだり注射したりして体のなかに入ったあと、効き目があらわれるまでにいろいろな過程を踏みます。多くの薬は、成分が肝臓に入っていき、肝臓で酵素という物質によって分解され、血液のなかを通って体をめぐります。そして、その薬が効き目を発揮する体の部分に届くと、いろいろな方法により効くことになります。

また、薬によっては、成分がすぐにおしっこなどとともに体外に出されやすいものもあれば、成分が体のなかに残って、なかなか出ていかないものもあります。

このように、薬には、体に吸収され、分布され、代謝され、そして排泄されるという一連の流れがあります。この各段階で、薬の成分はどのくらいの濃度か、またどのくらいの速度でそこに達するかということを見ていきます。これを薬物動態研究といいます。

薬物動態研究をすることにより、効き目が発揮されるべき部位にきちんと成分が届く薬をつくったり、また、体がその薬を異物だと感じて受けつけないことを和らげたりすることができるようになります。

こうした薬物動態を含む薬の基礎的な研究が行われ、「これまでの薬とは異なる効き目が期待できる」と考えられた薬が、臨床研究の候補に上がっていくのです。

参考ホームページ
日本薬学会「薬学用語解説 薬物動態」
武田薬品工業湘南研究所「各研究の概要」
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x成分の誤差はゼロ、y成分の誤差は無限大にあらず――不確定性原理の新展開(4)


2003年、小澤正直さんによりハイゼンベルクの不確定性原理を改める「小澤の不等式」が発表されました。

小澤の不等式で示されるのは、ウェルナー・ハイゼンベルクが言っていた「位置の測定誤差 × 運動量の測定誤差」は考えられていたよりも小さい値で済む場合もある、つまり、測定のときにかならず生じる誤差の量は、不確定性原理で考えられていたより小さい場合がありうるということです。

しかし、これは数式の世界で示されたこと。不確定性原理は、小さな物の位置や運動量を測るという、実際的な問題について述べられたものです。

そのため「不確定性原理には当てはまらない場合がある」ということを示すには、実際に実験で当てはまらないことがあることを示すのがなによりの証明となります。

この実験による証明にとりくんだのが、ウィーン工科大学原子核研究所准教授の長谷川裕司さんです。

長谷川さんは、実験によって「不確定性原理でいわれているほどの誤差は生じさせずに、ものの位置と運動量を測ることができる」ということを証明しようとしました。この実験に浸かったのが、素粒子という小さな粒の一種類である中性子です。

中性子は、自転する性質をもっていますが、この自転には「x成分」と「y成分」という、異なる二つの方向の成分成分があります。この「x成分」と「y成分」の関係は、不確定性原理でよくいわれる「位置」と「運動量」の関係とおなじと考えることができます。

つまり、x成分をについて正確に測ろうとすると、y成分が正確にはかれなくなり、y成分について正確に測ろうとするとx成分が正確に測れなくなる、といった関係があるわけです。

しかし、長谷川さんは、このx成分とy成分についての測定条件をいろいろと変えていきました。

ハイゼンベルクの不確定性原理があてはまらない例は、「x成分の誤差がかぎりなくゼロに近くなった状態」のときに訪れました。不確定性原理が正しければ、x成分の誤差がゼロにかぎりなく近づけば、y成分の誤差のほうはかぎりなく無限大に近づくはずです。ところが、このときのy成分の値は「無限大」でなく「1.5弱」だったといいます。

この結果により、ハイゼンベルクの不確定性原理が、かならずしもあてはまらない場合があるということが、実験により示されたのでした。つづく。

参考文献
名古屋大学「現代物理学の根幹である不確定性原理の破れを観測 ナノの世界の深淵を語る基本原理に穴」

参考記事
きょうの日経サイエンス 2012年1月16日付「ハイゼンベルクの 不確定性原理を破った! 小澤の不等式を実験実証」
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スリーダイヤ、鉛筆にも、サイダーにも


人が「三菱」の製品にはじめて触れあうのは、小学校のときに「三菱鉛筆」を使うことからでしょうか。

六角形の角材にコーティングがされていて、「“MITSU-BISHI”」や「HB」などの文字のほかに「三菱マーク」が刻まれています。鉛筆のおしりがコーティングされていて、「HB」などの硬さの表示のところだけ黒い帯になっている鉛筆も。

おとなになって「三菱グループは鉛筆まで手がけているとは幅広い!」とあらためて考える人も多いでしょう。しかし、この鉛筆をつくっている三菱鉛筆は、いわゆる三菱グループとは関係がありません。

三菱マークのデザインは、三菱グループのホームページによると、三菱財閥の創業者である岩崎家の家紋「三階葵」と、土佐藩主の山内家の家紋「三ツ柏」とを組み合わせてつくられたもの。「後に社名を三菱と定める機縁ともなりました」とも記されています。

いっぽう、三菱鉛筆のホームページにも、三菱鉛筆に使われている三菱マークの経緯が記されています。三菱鉛筆の創業者である眞崎仁六がつくった鉛筆が1901年、通信省(いまの総務省)の「御用品」となりました。

それを機に、眞崎はこの鉛筆を商標登録しました。眞崎家の家紋である「三鱗」(みつうろこ)と、硬さにより3種類の鉛筆があったことからその先端の芯の部分を寄せ合わせたデザインから、三菱マークを考案したといいます。

こうして、三菱グループの三菱マークと、三菱鉛筆の三菱マークができあがったわけです。

三菱マークはこれだけではありません。熊本市に飲料メーカー弘乳舎は「三菱サイダー」という清涼飲料を売っています。この缶に印刷されているのが、三菱マーク。三菱グループや三菱鉛筆の三菱マークと見分けがつきません。

弘乳舎は、1883年に熊本市で創業した会社。三菱グループや三菱鉛筆とは関係がありません。「三菱サイダー」は、1972(昭和47)年より発売され、いまでも南九州でロングセラーとして飲まれつづけています。

2009年からはカロリーゼロの三菱サイダーも。三菱のロゴが堂々となりました。

弘乳舎も、1919(大正8)年に三菱マークと「三菱」のブランドを商標登録しています。ホームページには「大企業グループの三菱グループ各社とは関係無い製品です」との断り書きも。

三菱グループ、三菱鉛筆、三菱サイダーをつくる弘乳舎。それぞれが三菱マークに誇りをもって、それぞれを尊重しあいながら、ここまで歩んできたのでしょう。

参考ホームページ
三菱鉛筆「商標とブランド」
弘乳舎「三菱サイダー350ml」
三菱グループ「三菱マークについて」
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「琉球珈琲館」の古酒仕込み・極上あぐーカレー――カレーまみれのアネクドート(40)


那覇の繁華街といえば、県庁前と牧志をむすぶ国際通り。戦後の焼け野原からの復興を象徴する意味で「奇跡の1マイル」ともよばれています。

この国際通りのちょうどまんなかあたり、みやげもの屋やバーが建ち並ぶなかに、「琉球珈琲館」という喫茶店があります。

たてものの2階へと階段をのぼっていくと、店のなかにはアンティークショップのような雰囲気。お土産用の琉球陶器や泡盛の酒瓶、それに本などが棚に飾られています。窓の外には、国際通りを行き来するタクシーや観光客の姿が見えます。

この琉球珈琲店で食べられるカレーは、「ラフテーカレー」。メニューには「古酒仕込み・極上あぐーカレー」と書かれています。

ラフテーとは沖縄の郷土料理のひとつで、三枚肉を使った豚の角煮。琉球王朝の宮廷料理だったとされます。琉球地方には、肉食の習慣が古くからありました。

おなじく沖縄では名産の鬱金(ターメリック)に染まったライスがこんもりとよそわれています。さらに、ガーリックトーストとローリエ、クリームソース、それにルゥやトーストに散らされた葉の葉が、皿をにぎやかにさせています。

カレーの名にも付いている「あぐー」というのは、豚の品種。琉球の在来豚「アグー」の血を半分以上ついでいる豚が「あぐー」。5粒がごろごろとルゥのなかにひたっています。

スパイスは、これまた琉球名物である古酒(クース)で練り込み熟成させたもの。このスパイスを使ったルゥの味は控えめで、さほど辛くはありません。そのぶん、古酒で仕込んだという「あぐー」に染み込む豚の味がにじみ出てきます。

琉球のカレーを感じられるカレーです。「琉球珈琲館」の食べログ情報はこちら。
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