2012.01.31 Tuesday
ハイゼンベルクの不等式、改められる――不確定性原理の新展開(3)
理学部のある東北大学青葉山キャンパス
「ハイゼンベルクの不確定性原理に欠陥あり」は、2012年1月に急に言われ出したことではありません。
名古屋大学の数学者である小澤正直さんは、かねてからハイゼンベルクの不確定性原理として示される式を、理論的に改める試みをしてきました。
ハイゼンベルクの不確定性原理は、「物の位置と運動量の両方を正確に得ることはできない」いうもの。これを、式であらわすと、つぎのようになります。
「位置の測定誤差 × 運動量の測定誤差 ≧ プランク定数 / 4π」
この式は、つぎのことを表しています。
位置の測定誤差を小さくすれば、運動量の測定誤差は大きくなってしまう。かといって、運動量の測定誤差を小さくすれば、位置の測定誤差は大きくなってしまう――。
いっぽう、小澤さんは2003年、東北大学にいた当時、このハイゼンベルクの式をつぎのように改めました。
「位置の測定誤差 × 運動量の測定誤差 + 位置の測定誤差 × 運動量の標準偏差 + 運動量の測定誤差 × 位置の標準偏差 ≧ プランク定数 / 4π」
ハイゼンベルクの式とのちがいは、左辺に「位置の測定誤差 × 運動量の標準偏差」と「運動量の測定誤差 × 位置の標準偏差」が加えられたことです。ここに出てくる「標準偏差」というのは、測定をするときの手順とはべつの意味をもつものです。
つまり、この式にしたがえば、条件によって左辺は、もともとハイゼンベルクの示していた「位置の測定誤差 × 運動量の測定誤差」より大きな値が得られることになります。その値が、不等号「≧」があるため、「プランク定数 / 4π」以上になる必要があります。
つまり、「位置の測定誤差 × 運動量の測定誤差」は、考えられていたよりも小さい値で済む場合もあるということ。これをいいかえれば、「ハイゼンベルクによって示されていたほど、位置または運動量に誤差が生じない場合もありうる」ということになります。
小澤さんによってハイゼンベルクの不確定性原理の不等式は改められました。その式は「小澤の不等式」とよばれています。しかし、2003年の時点では、ハイゼンベルクの不等式から小澤の不等式への変更は、まだ理論上の世界でのもの。
小澤の不等式が「本当にそのとおりだ」という確証を得るために、「実験してみたら、やっぱりそうなった」という結果が求められていました。それを実験で証明したのが、ウィーン工科大学の長谷川祐司さんでした。つづく。
参考文献
細谷暁夫「小澤正直氏の受賞に寄せて」