「なにから手を付けたらよいかわからない」といった状況に陥ることがあります。たとえば、ある会社が会議を開き、顧客満足度をあげるための方策を検討し、よい案を実行しようということになりました。出しをすることになりました。
経営者にとってはよろこばしいことに、会議では、営業、企画、開発、製造といった各部門の担当から、じつにさまざまな案が出されていきました。
しかし、出された案をすべて実行するには予算がかかりすぎてしまいます。この経営者は迷いはじめました。「いったい、なにから手を付けていけばよいのだろう」と。
このような優先順位づけをするときの手法として「ペイオフ・マトリクス」というものがあります。
「ペイオフ」(Payoff)には、「支払い」「結果」「仕返し」「献金」などのさまざまな意味がありますが、ここでは「結果」や「効果」といった意味がしっくりきます。また、「マトリクス」にも「基盤」「母型」「母岩」「行列」などのいろいろな意味がありますが、ここでは「行列」の意味を指します。
なにかの行動を起こすときには、「どのくらい実現しやすいのか」という「実行性」と、「どのくらい効果があるのか」という「実効性」のふたつの尺度で考えることができます。
たとえば、営業担当は「電話受付サービスを朝9時から夜9時までにしているのを、24時間体制にしましょう」という案を出しました。
たしかに、アルバイトを増強させればどうにかなるので実効性はありそうですが、夜中から朝にかけて電話を受けつけたとしても、あまり電話はかかってこなさそうです。「実行性」は高いけれども「実効性」は低い、といった案です。
いっぽう、企画担当は「商品をすべて、“木村拓哉さんご愛用”とか、“ペ・ヨンジュンさんご推薦”とか銘うって、注目度を高めるようにしましょうよ」という案を出しました。
たしかに、広告を打つでもなく有名人が使っていることを紹介できれば、効果は大きそうですが、木村拓哉やペ・ヨンジュンがその商品を知っているかさえもわからない状況においては、絵に描いた餅。「実効性」は高いけれど、「実行性」は低い、といった案です。
ペイオフ・マトリクスでは、このように成果の度合を、実行性と実効性というふたつの軸で考えます。実行性の軸を「高い・中くらい・低い」、実効性の軸を「高い・中くらい・低い」として、出された案がそれぞれどこに位置づけられるかを評価します。
たとえば、「実行性は中くらいだけれど、実効性は高い」といった案は、2点と3点で5点。「実行性は高いけれど、実効性は低い」といった案は、3点と1点で4点となります。あるいは、模造紙に大きな縦横軸の表をつくって、実行性と実効性の度合の交点に印を付けていきます。
こうすることで、実行性と実効性という、成果を占うための重要なふたつの尺度をもとに、優先順位を付けていくことができるわけです。ペイオフ・マトリクスでなにから手を付けるかを決めれば、大事なことから着手するという大義名分がたちます。
また、案を出した人たちに納得してもらいやすい、という効果もあります。点数や視覚といった、だれにとってもわかりやすい尺度で評価がおこなわれるため、「なぜ、自分の案よりほかの人の案が採用されるのか、納得いかない」といった不満を和らげることができるわけです。そのため、会議の場で意見が多く出され、どれを採用すべきか紛糾したときなどにも利用されています。
たんに、「やってみる価値がありそうか」というひとつの軸で優先順位をはかるのでなく、「どのくらい実現しやすいのか」と「どのくらい効果があるのか」というふたつの尺度をもちだすことが、人びとに「この案から始めよう」と決めるときの安心をあたえるのでしょう。
参考ホームページ
Offtheball LLC 代表 竹内仁のブログ「ペイオフマトリクス」
ビジネス・ブレークスルー「触発する、かみ合せる(3)行動を促す」