2011.08.31 Wednesday
ミクロな生物が“石油みたいなもの”をつくる
(2011年)8月26日に国会で成立した再生可能エネルギー促進法案で、固定価格買取の対象のひとつになっているのが、バイオマスです。菅直人元首相も、「(これからは)バイオマスをやっていきたい」と個人的に活動していくことを表明しています。
「バイオマス」には、もともと「生物のすべての量」という意味があります。いまでは、「生物由来のエネルギー源」といった意味で使われています。実際のエネルギーのつくられかたは、いまのところ、木材を燃やして火力を得る「木質バイオマス」と、廃棄物を発酵させて液体燃料などを得る「廃棄物バイオマス」があります。
いっぽう、先端技術の分野では、緑藻などの藻類をバイオマスエネルギーづくりに利用しようという研究開発が進んでいます。
「藻類」は、広い意味では、水のあるところで光合成をしながら生活をする植物たちのことを指します。狭い意味では、このうち、緑藻や、褐藻、紅褐藻などを指します。
注目されつづけている藻類は、「ボトリオコッカス・ブラウニー」と、「シュードコリシスチス・エリプソイディア」という、いずれも緑藻に分類される植物。
ボトリオコッカス・ブラウニーは、淡水に生息する緑色や赤色をした藻で、30マイクロメートルから500マイクロメートルほどの大きさしかありません。
ボトリオコッカス・ブラウニーは、光合成をして二酸化炭素を吸収するとともに、炭化水素という石油の代わりになる物質をつぎつぎとため込んでいきます。かんたんにいえば、藻が「化石資源ではない石油みたいなもの」をつくってくれるわけです。
いっぽう、シュードコリシスチス・エリプソイディアは、2005年に日本人の藏野憲秀たちが発見した藻。大きさは5マイクロメートルほどしかありません。
硝酸、リン酸、カリウムといった藻にとっての栄養を得て大きくなるいっぽうで、これらの栄養がないと、やはり細胞のなかに「化石資源ではない石油みたいなもの」をつくっていきます。エネルギーをいただこうとする人にとってみれば、コントロールしやすい藻といえるでしょう。
これらの藻類が注目されているのは、効率のよさがあるからです。油椰子、菜種、大豆といったバイオマス資源からも燃料はおなじくとれますが、藻類はおなじ面積で栽培したときに、油椰子の2倍から3倍、菜種の10倍から15倍、大豆の27倍から40倍の燃料を得られるといわれています。
すでに米国では、複数の新興企業がこれらの藻類をエネルギー活用するための事業を始めていて、実用化の域に達しています。
いっぽう、日本ではボトリオコッカス・ブラウニーを筑波大学が、シュードコリシスチス・エリプソイディアを慶應義塾大学が研究するなどしており、企業ではデンソーが両方の藻を事業化しようとしています。研究面はともかくとしても、事業面では米国に企業数、進展度とも大きく差を開けられています。
参考文献
渡邉信「藻類バイオマスエネルギー技術の展望」
参考記事
日本経済新聞 2010年6月15日付「高等植物の3〜40倍の『収穫』が可能 最強のバイオ燃料、藻(1)」
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ メタブローグ 2009年7月8日付「研究者インタビュー 先端生命科学研究所伊東卓朗研究員」
| - | 23:59 | comments(0) | -