水素と酸素で電気をつくる燃料電池が実用化された例として、「エネファーム」(ENE FARM)という装置があります。
エネファームは、「家庭用燃料電池コージェネレーションシステム」とよばれる装置の愛称。エネルギーや化学関連の各企業が発売する製品の統一名称。いわば「ラガービール」のようなものといえます。
「エネファーム」(新日本石油2009年01月28日報道発表資料より)
燃料電池で電気をつくるには水素と酸素が必要。酸素のほうは、空気中に20%もあるため、わざわざつくる必要はありません。いっぽう、水素のほうは、都市ガスや灯油などから人工的につくりだす必要があります。
こうして水素と酸素によって発電をすると、副産物が生まれます。まず、水素と酸素が結びつくので、水が副産物としてできます。
そのほかに、もうひとつ、熱も副産物として生まれるのです。この発電したときの排熱も、熱エネルギーとして利用することができます。
「コージェネレーション」を英語にすると“cogeneration”。“co-”は「ともに」といった意味の接頭辞。“generation”には「生成」意味があります。
つまり、「熱と電気をともに発生する」という意味になります。エネファームは、熱と電気を同時につくることができるため、「コージェネレーションシステム」とよばれているわけです。
2009年に「エネファーム」という名前での発売が開始となりました。2011年3月現在、エネファームは燃料電池の「PEFC型」という型が採用されています。燃料電池には、いくつかの型があるのです。
エネファームで使われてきたPEFC型は“ Polymer Electrolyte Fuel Cell”の頭文字をとったもので、日本語では「固体高分子形燃料電池」とよばれます。水素イオンを負極から正極まで移動させる電解質に、高分子でできた膜が使われます。
PEFCは、燃料電池の主要な型としてエネファームなどに使われてきました。しかし、課題がないわけではありません。PEFCが水素イオンを移動させるという役割を果たすときの温度は70度から90度。この温度で高分子膜のはたらきを活発にさせるには、いまのところ貴金属の白金が必要なのです。
いっぽう、PEFC型の燃料電池にとって代わると有力視されているのが「SOFC型燃料電池」です。
SOFCは、“Solid Oxide Fuel Cell”の頭文字をとったもの。日本語では「固体酸化物形燃料電池」とよばれています。PEFCとのちがいは電解質にセラミックとよばれる、非金属の無機物質が使われている点。
セラミックを使うと、イオンが負極から正極にうつるための最適温度は、900度から1000度という高温になります。
熱を通しやすい特徴をもつセラミックもあります。とはいえ、温度を900度や1000度まで上げるのは大変なことです。
しかし、SOFC型がPECF型にくらべてまさっているのは、セラミックの電解質をよく働かせるための物質にニッケルなどの安い材料を使えるという点。
燃料電池の代表的な型は、このPEFC型とSOFC型です。ほかにも電解質になにを使うかによって、PAFC型(リン酸型)、MSCF型(溶融炭酸塩型)などがあります。
冒頭のとおり、エネファームで使われてきたのはPEFC型燃料電池。しかし、ここに来てあらたな動きも出てきているのです。つづく。
参考ホームページ
新日本石油2009年1月28日発表「家庭用燃料電池『エネファーム』の販売開始および普及に向けた共同宣言について」
日経BPネット「燃料電池の分類」
IBTimes「低炭素社会への切り札、家庭用燃料電池普及のカギとなるのは?」