2011.01.31 Monday
「まだ間に合う!糖尿病」。間に合わなくなるかもしれない日本の研究。
きょう(2011年)1月31日発売の『週刊東洋経済』では、「まだ間に合う!糖尿病」という特集が組まれています。この特集の「薬物療法は選択の時代へ」と「糖尿病克服の日は来るか」という記事に原稿を寄せました。
糖尿病は、膵臓の膵島というところにあるβ細胞からインスリンというホルモンが出にくくなったり、インスリンが血管内で余分な糖を処理しにくくなったりする病気です。血液のなかの糖が処理されないままほおっておくと、神経症、網膜症、腎症や動脈硬化などの合併症が起こります。
糖尿病には、β細胞からインスリンがまったくといってよいほど出なくなる1型と、インスリンの出が悪くなったり効きが悪くなったりする2型に大きくわけられます。今回の特集では、メタボリック症候群や肥満とも関係する2型に焦点が当てられています。
「糖尿病克服の日は来るか」という記事では、東京大学幹細胞治療研究センターの中内啓光教授ら、先端科学の研究者への取材がもとになっています。
中内教授は、ブタの体内で人の膵臓をつくり、患者に本人由来の膵島を移植するという医療をうちたてようとしています。このブログの(2011年)1月3日の記事「“工場”で再生して取りもどす」にある内容です。
この方法で使われようとしているのが、ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)。どちらの細胞にも、目的の種類の細胞に分化する能力があります。
「機能的にはiPS細胞もES細胞もいっしょ」と話す中内教授。しかし、iPS細胞のほうが、倫理的な問題をほぼ解決しているといわれます。ES細胞は人の萌芽ともいえる胚を使うのに対して、iPS細胞は胚を使わなくてもつくることができるからです。
では、iPS細胞が倫理的課題に対しても“万能”なのかといえば、けっしてそうとはいえません。
iPS細胞を使った研究にも、政府が倫理的な理由で歯どめをかける場合があるのです。文部科学省は、ヒト由来の細胞と、動物由来の細胞が混ざった胚を、生物の胎内に入れることを禁止しています。ヒトiPS細胞もこの中に含まれています。
海外に目を向けると、英国では申請をすれば研究の許可が得られる状況。米国でも、少なくとも自費で研究をする分には、完全に研究が許されています。中国に至っては、制度自体が打ちたてられておらず、“研究したい放題”です。
日本の幹細胞研究に対する厳しさは、世界的な研究競争から取りのこされる状況を打ちたてるのかもしれません。そうなってから「あのとき規制を緩めればよかったのに」と言っても間に合いません。
記事で、中内教授はこう語っています。「新しい医療は、当初は受け入れられなくても、理解されることで支持を得ていくもの。科学者のやりたいことが自由にできるようになるべき。ただし、そのために重要なのは研究の透明性を保つこと」。
研究する中での科学的課題とともに、研究する外での制度的課題があるのが、いまの日本の幹細胞研究をめぐる状況です。
『週刊東洋経済』「まだ間にあう!糖尿病」特集号のもくじはこちら。
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