2010.09.30 Thursday
事業仕分けが“火”を付ける
民主党政権が2009年から始めた“事業仕分け”では、仕分け人から、基礎科学を進める事業に対して、政策効果を明確にできない研究には国費を投入できないなどという厳しい意見が突きつけられ、つぎつぎと予算削減などの評価があたえられました。
具体的なプロジェクト以外でも、基礎研究の推進を鈍らせる仕分けの評価がありました。大学の研究者が研究をするうえでの“軍資金”である「科学研究費補助金」などの研究資金にも、「予算要求の縮減」という評価が打ち出されました。
こうした事業仕分けの結果に、ノーベル賞受賞者などが反対の声を上げたほか、東京大学、京都大学、大阪大学などからなる国立10大学の理学部長会議も2009年に「事業仕分けに際し“短期的研究成果主義”から脱却した判断を望む」という緊急提言をしています。
文部科学省は、財務省に「これだけの予算を基礎研究にあてたいので予算をください」と要求する立場にあります。そこで、2010年9月に「事業仕分け結果・国民から寄せられた意見と今後の取組方針について」というまとめを発表。「国民から寄せられた意見」の一部を紹介しています。
たとえば、科学研究費補助金への評価結果に対しては、「賛成する意見は概ね2割」「反対する意見は概ね7割」などとし、賛否の比率を紹介しています。どの意見も、およそ事業仕分けの結果に反対する、つまり「基礎研究にも予算を」という側の意見のほうが多いようです。
基礎研究のための予算を縮小するという全体的な方針を受けて「意見をください」といわれれば、「それには反対」と考える人びとから多く意見が寄せられるのは、当然のことといえるでしょう。
文部科学省は(2010年)8月に、2011年度予算として財務省に要求する内容(概算要求)を発表。ここでは、基礎研究に対する予算向上の姿勢が見てとれます。
「ライフイノベーションによる健康長寿社会の実現に向けた研究の推進」という項目では、iPS細胞(人工多能性幹細胞)や、脳科学などの基礎研究をすすめるための予算を拡充しています。
「科学技術力による成長力の強化」という枠組みでは、2010年度よりも126億円も要求する予算が減りましたが、この中で、科学研究費補助金の予算は、事業仕分け結果に反して「拡充」、課題解決型の基礎研究を推進する「戦略的創造研究推進事業」に対しても「拡充」をうちだしています。
こうした概算要求の結果を見るかぎり、「基礎研究の予算削減を」という全体的な方針を打ち出した事業仕分けは、市民や文部科学省の反発心に火をつけることに寄与したといえるかもしれません。
参考資料
国立大学法人10大学理学部長会議「緊急提言 事業仕分けに際し“短期的研究成果主義”から脱却した判断を望む」
文部科学省「平成23年度概算要求主要事項」
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