科学技術のアネクドート

大台ケ原に樹雨降る


奈良県と三重県にまたがる大台ケ原は、雨の多いところとして有名です。年間4000ミリから5000ミリの雨が降り、これは大阪市や奈良市で降る雨の3倍以上になります。

大台ケ原に振る豪雨は、古くから「背振り」とよばれてきました。太平洋の湿った空気が北上し、大台ケ原ちかくでぶつかります。これが、豪雨のしくみ。山頂にまだ人がほとんど足を踏み入れていなかったころには、「大台ケ原の頂上に池があり、風が吹くと池の水が溢れ出て大雨が降るのでは」と考えられていました。

山頂に池があるわけではありませんが、この考えは大台ケ原に降る雨の特徴をついたものといえるかもしれません。

雨の種類に「樹雨」というものがあります。「きさめ」とよびます。山腹などには、たくさんの木々があります。ここに、雨を降らせるもとになる濃霧が立ちこめてきます。すると、すると葉っぱなどに水滴がつきます。この水滴がかたまって落下すると、大粒の雨が降ったようになります。

台風や前線などの影響で、大台ケ原に風が吹けば、樹雨も木々から舞い上がって、遠くのほうに飛ばされていきます。すると、その水滴が雨によるものなのか、樹雨によるものなのか、見分けがつかなくなるといいます。

大台ケ原にかぎらず、水を含んだ雲が斜面にぶつかることで雨が降るようなところでは、観測された雨量に、樹雨によるものが含まれていることがあるといいます。

山頂に池はないものの、たまった水に風が吹きつけることで、大雨が降るというしくみそのものは、まちがっていないことになります。
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IBM広報誌が「躍進する中国・インド経済」を特集


日本IBMが、広報誌『無限大』の2010年夏号をこのたび出しました。『無限大』は、企業の上級管理職層などを読者の中心にした雑誌。半年に一度、発行されており、今回で127号目となります。

今回の特集の主題は、「躍進する中国・インド経済」。副題には「日本は『真のグローバル時代』の中でどう強みを活かすか」とあります。経済成長のいちじるしい中国やインドに商機を見いだして売りあげを出した企業を紹介したり、中国・インド経済を専門家が解説したりしています。このうち、「『赤ちゃんブランド』は高級路線で大躍進」と「無理して会社を大きくしようとは思わない」という記事の原稿を寄せました。

「赤ちゃんブランド」として知られる日本企業が、ピジョン。日本の赤ちゃん用品市場をかためるかたわらで、2002年以降、中国市場にも本格的に進出しています。

ひとむかし前にあった「日本企業にとっての生産工場としての中国」という位置づけから、「市場としての中国」という位置づけに、いちはやく移行し、日本で売るのと基本的にはかわらない商品を中国の販売代理店などをつうじて売りだしています。

社長の大越昭夫さんは、「育児用品を販売するに当たってありがたいのは、“0歳から24ヵ月まで、赤ちゃんの育ち方は世界共通であるということです。世界で水平展開がしやすいわけです」と、扱う商品の優位性も語ります。しかし、中国で増える中間層に狙いをさだめ、日本とおなじ商品で展開するあたりは戦略的です。

「無理して会社を大きくしようと思わない」と話したのは、アタゴ社長の雨宮秀行さん。アタゴは、果物の糖度や、スープの塩分といった液体の濃度をはかる「屈折計」を戦前よりつくりつづけてきました。雨宮さんは家族経営企業での三代目の社長にあたります。

屈折計の国内シェアは80%。加えて、世界でも30%のシェアがあります。2005年にインドに初の拠点を置き、今年2010年には中国市場にも本格参入する予定。

しかし、いまの雨宮さんの心の中には、世界に進出する企業に見られる、他企業買収や経営多角化といった戦略は、まったくといってよいほどありません。

「“自分は何のために経営をしているのか”という問いが、心の根底に湧き出てくるんです。その答えを言うならば、“社員に幸せになってほしいから”というのが基本にあります。利益がたとえ“腹八分”でも、きちんと出せているのであれば、自分にとってはそれでいいんです」

身の丈以上のことをしても、得られるのは疲弊のみ。雨宮さんは、「無理はしない」ということに積極的ともいえます。

対照的な2社ととれなくもありません。しかし、成長する中国やインドで、商機を見いだして成功を収めている点は共通しています。二つの企業の社長は、かたや哺乳瓶、かたや屈折計という、自社の主力製品に高い品質があることも、記事で語っています。

IBMの『無限大』2010年夏号のおしらせはこちらです。記事をホームページからダウンロードして読むこともできます。
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『Meiji University by AERA 明治大学、わたしのプライド。』発売


このたび、朝日新聞出版が『Meiji University by AERA 明治大学、わたしのプライド。』というアエラムックを出版しました。このムックの理工学部と農学部の研究者を紹介する原稿を寄せました。

明治大学は、来年の2011年で創立から130年をむかえます。1年前となる今年、一般入試の志願者数として過去最多の11万5700人を集め、早稲田大学を抜き日本一になりました。

戦略的広報をうちだして勢いに乗る明治大学と、取材力や表現力のあるアエラ編集部が手を組み、大学紹介ムックにしあげたかたちです。

理工学部や農学部など理系の教育・研究の場は、神奈川県川崎市の生田校舎にあります。

理工学部は、1年や2年の段階での基礎力を重んじます。科学技術の基礎的な素養を身につけてから、それぞれの学生は、教授や准教授たちのいる研究室に入り、専門の道に進むことになります。

基礎的な力を身につけるために用意されている授業のひとつが、ムックでも紹介されている必修の「基礎物理実験」。広い実験室に入学したばかりの理工学部1年生およそ100人が詰めて、「クントの実験」「水素原子のスペクトル」「屈折率」「直流回路」「熱電対の熱起電力」といった実験を各班にわかれて同時進行で行います。

基礎物理実験の授業は、理工学部の前進の工学部時代の「物理実験」という授業を含めると、50年ほどの伝統があります。物理学の基本的な実験を題材に、学生が実験と分析を行います。

各班には、理工学研究科の大学院生が学生に付き、実験の説明や助言などをします。また、天上から吊るされた画面には、実験の要点を動画などで映しだします。このコンテンツは理工学部の教授や大学院生などが企画したもの。

いっぽう、農学部のほうは実践重視。

取材した農学部食料環境政策学科の小田切徳美教授のゼミでは、夏休みを使って過疎化が進む農村に出むき、土地の人びとと膝をあわせて話をする「地域づくりインターン」をしています。ほかにも同学科には農場実習、ファームステイ研修、ゼミごとのフィールドワーク実習などが用意されています。

別冊アエラがひとつの大学をまるごと取り上げて紹介するのは初めて。これまで日経BP系の出版社が、さまざまな大学と手を組んで紹介ムックを数多く出版してきました。朝日新聞出版は写真のビジュアル面の充実や、記事の種類の多様ぶりなどで、大学紹介ムックの独自色をうちだしています。“大学の紹介のしかた”にも影響をあたえることでしょう。

朝日新聞出版による『Meiji University by AERA 明治大学、わたしのプライド。』はこちら。

アマゾンでもお求めいただけます。こちら。
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『9割の高血圧は自分で防げる』が発売


あたらしい本のおしらせです。

東京都健康長寿医療センター副院長の桑島巌さんが、このたび『9割の高血圧は自分で防げる』という書き下ろしの文庫を中経出版から出版しました。

この本の構成と編集を行いました。構成とは、著者の話や原稿などをまとめることです。

桑島さんは高血圧の予防と治療の専門家として、健康長寿医療センターで市民の問診にあたるかたわら、テレビの医学番組への出演や、新聞の健康コラムの連載を行っています。

本のねらいは「自分の血圧を自分でコントロールする」というもの。そのための実践法が、4章にわけて書かれています。

第1章は「高血圧の正体を知る」。目には見えず、肌でも感じられない血圧の正体を解き明かし、高血圧になるとさらにどのような病気になるのかを紹介します。

第2章は「自分の血圧を自分で測って理解する」。「血圧を測る」ということを主題に、自分で血圧を測って把握することの利点や方法、また、1日の血圧の上り下がりからわかる高血圧の危険などを話しています。

第3章は「高血圧を薬でコントロールする」。利尿薬や、血管拡張薬など、降圧薬を分類して、それぞれの効き目のしくみを説きます。また、薬を飲む人自身が工夫できる飲みかたも紹介します。

第4章は「高血圧を自分で防ぐ」。食生活や運動などの生活習慣の改善を中心に、だれでもできる血圧の下げかたを示しています。

桑島さんは、高血圧対策の基本的な考えかたとして、「木を見て森を見ず」にならないことの大切さを強調しています。

高血圧が引き起こすものは、脳や心臓や腎臓などにおける血管の病気。これは最近「血管病」ともよばれています。血管病は、「脳卒中にならないように」や「心臓病にならないように」と、体の一部分のみ心配するものではありません。「どの臓器も血管でつながっている」と考えて、体全体を健康に保とうとすることが大切になります。

また、血管病を引き起こす危険因子も高血圧だけではありません。糖尿病、コレステロール、肥満、たばこなど、生活習慣がもとで血管病になる道筋はいろいろあります。高血圧だけを心配するのでなく、ほかの危険因子も総合的にケアしてくことが大切と桑島さんは話します。

桑島さんは本のはしがきで、こう話しています。

「高齢化社会とはいえ、働き盛りの世代の人にとっては、とりあえず定年まで元気に働き、定年後は旅行や趣味などで元気な生活を楽しみ、80歳をすぎれば家族の世話にならず穏やかで健やかな日常を過ごしたいと願っている人が多いと思います。本書は、そのような方々のために健康を損ねる血管病の最大の敵である、高血圧の怖さを知り、まず自分で管理することから始めていただくために執筆したものです」

『9割の高血圧は自分で防げる』はこちらでどうぞ。
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「花火大会の終了合図」問題


ことし2010年の花火大会は、ややこぢんまりとしたようすです。花火を打ち上げるにはお金が必要ですが、ここ1、2年、景気が悪かったため企業からの協賛金などが多く集まらず、縮小あるいは中止を決める主催者もあります。

「今年は花火大会はやりません」ということであれば、河川敷で「あれ、なかなか打ち上がらないなぁ」と思いながらじっと待つ人はいますまい。

いっぽう「今年は花火大会の規模を縮小します」ということになると話はちがってきます。例年、数々の花火を打ち上げるのに1時間かかっていたのが、今年は規模縮小ということになれば、観客は“最後の一発”がどれなのかを把握しづらくなります。

「うわぁ、すごい、きれい!」
……
……
「さっきのが“中締め”だったみたいね」
「後半が始まるまで、ちょっとトイレ行ってくるわ」
……
……
「あれ、なかなか後半が始まらないね……」

けっきょく、“中締め”と思われていた盛り上がりがフィナーレだったわけです。

打ち上げ会場にほどちかい場所であれば、司会の「これが最後です」という声が耳に届くでしょう。しかし、花火は遠くからも楽しめるもの。司会の声が聞こえない人のほうがむしろ多いのです。

大切になるのは「以上で打ち上げは終わりです」ということが、みんなに伝わるような“しかけ”です。

まず、観客の視覚に訴える方法があります。ナイアガラ花火のようなしかけ花火で「END」や「おわり」といった文字絵をつくって知らせるというものがあります。

最近の花火では星形などもあります。打ち上げ花火で「END」といった文字を夜空に描くこともそう遠い技術ではないのでしょう。

しかし、花火大会では、観客が打ち上げ地点を360度にわたり囲むのが基本。位置によっては「END」という文字のかたちに見えず、「なんか、へんなのが打ち上がったね」ということで済まされてしまうこともあるでしょう。

「以上で打ち上げは終わりです」ということを明確に伝えるには、それまで打ち上げられていた花火とは明らかにちがう合図が必要になります。

この方法として花火大会によっては号砲を使う場合があります。つまり、フィナーレの花火が打ち上がったあと、大きな音だけを空に鳴りひびかせるわけです。花火大会の始まりにもおなじ音を鳴らしたり、花火の「どーん」という音と異なる音質にしたりすれば、さらに効果的です。

「花火大会の終了の合図といえばこれ」という、全国で共通する方法がないのが現状。花火大会の規模が縮小ぎみのご時世では、「終了の合図」にもひと工夫が求められます。
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「輸出国」を脱して「排除国」の仲間入りを目指す。


3年前の2007年、春から夏の季節にかけて、10歳台から20歳台の若者のあいだに「はしか」が流行しました。高校や大学などがつぎつぎと休校したことを覚えている人もいるでしょう。

はしかは流行性の感染症です。「麻疹」とも書き、「はしか」とも「ましん」ともよびます。はしかウイルスが原因で、かかると発熱や発疹などがおきます。一度かかれば、免疫を得ることができるため、ほぼ「一生に一度」の病気とされます。

予防の方法としては、はしかワクチン、あるいは麻疹・風疹混合ワクチンの接種があるものの、2000年より以前は接種率が低かったり、1回の接種のみだったりしています。

接種率が低いこともあり、日本ははしかの排除がまだなされていない国というレッテルを貼られています。

国連の世界保健機関(WHO)は、「その地域がはしかを排除しているかどうか」の判断基準として、「1年で100万人あたり1件未満の発症」を示しています。

日本は、いまだこの判断基準を大きく上回っているのです。国立感染症研究所の発表によると、2010年の全国でのはしか報告件数は7月14日までで296件。およそ1億2000万人がいる日本では、120件を超えると「排除しているとはいえない」ということになります。つまり、今年も排除に成功しませんでした。

国立感染症研究所の報告では、2010年のはしかの流行は、関東地方で多く見られます。とくに神奈川県は7月14日までで57件と、人口の多い東京都の50件をも上回っています。2008年も神奈川県では横浜市や横須賀市を中心にはしかが流行。ほかの地域よりも流行する原因の解明と対策が急がれます。

日本人が国外で麻疹ウイルスを感染させる要因になるため、国外から「日本ははしか輸出国」といわれています。国は「2012年にははしかを排除する」という目標を掲げています。

しかし、ワクチン接種にとりくむのは市町村などの地方自治体。とりくみに温度差がでることは否めません。「はしか輸出国」からの脱出には、国と地自体のよりいっそうの連携が求められます。

画像は、国立感染症研究所がデザインした麻疹排除ロゴ。国立感染症研究所「麻疹」のホームページはこちらです。
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地域をまもるために、歩き、集う。

野生動物の観察に長けた人は、「いない」と思い込んでいるから野生動物を見かけないのであって、「いるんだ」と思っていれば見かけるもの、とよくいいます。

強く「いるんだ」と思わなくても、目に入ってくる野生動物もあります。野良猫は、その一例。昼間、街のなかを歩いている人は、おなじく街のなかを歩いている猫を見かけます。

人には、商談に向かう、食事をしに行く、家に帰る、散歩するなどの、街のなかを歩く目的があります。いっぽう、猫には猫なりの、昼間に街のなかを歩く目的があるといいます。

犬とおなじように、猫もそれぞれが縄張りをもって暮らす動物です。動物はおのおのの生存のため、無益な争いごとは避けようとします。縄張りをつくって、その範囲でおのおのが暮らすのも、動物の合理的な集団行動といえるでしょう。

猫が昼間に街のなかを歩いているのは、自分の縄張りに“よそもの”が入ってきていないかなどをパトロールするためといわれています。人が家で飼っている猫にも縄張りの本能はあるため、しばしば家から出ていき、道を歩いたりします。

猫が道ばたを歩いているよりも見かける確率が低いものの、公園や神社などの広場で複数匹の猫が集会を開いているところを見かけることもあります。とくに、夕方から夜にかけてが多いもよう。

猫どうし、一定の距離を保ちながら、じっと座っています。とくに鳴きあうようなようすもなく、また、威嚇したり、じゃれあったりする様子もあまりありません。ただ、複数匹が、そこにじっとして座っているのみ。平和的な集会が開かれています。

この集会も、縄張りと関係しているといわれます。一匹ずつの猫は、縄張りをたがいに守りあうライバル関係です。しかし、より広域的には、一定の地域内の猫どうしが連携をとって、よそ者の侵入を防ぎほうが集団として利があるというもの。そこで、顔なじみの猫が集会を開き、「今日も顔なじみのやつらが揃ったな」と、暗黙のうちに了解をとりあっているといわれています。

人から見れば、猫の集会はふしぎな現象に見えます。しかし、人も共通の趣味をもつ人がイベントごとに顔を見て「あ、あの人また来てる」と、なんとなく確認するもの。人がやって、猫がやらないということはありません。
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(2010年)8月21日(土)は国立天文台野辺山「特別公開2010」


催しもののおしらせです。

長野県南牧村にある「国立天文台野辺山」の2010年の特別公開が、8月21日(土)に行われます。

国立天文台野辺山は、天文観測をおこなう国の天文台の支部。太陽からの電波を観測する「太陽電波観測所」として、1969年に開所しました。その後1982年には、「宇宙電波観測所」も開所。1年前の1981年には、世界最大45メートルの口径がある「ミリ波」電波望遠鏡による観測も始まりました。

ふだん国立天文台野辺山でも、通常の一般公開が行われますが、天文学者などの研究者に使われることが優先されます。8月21日(土)の特別公開では、通常の見学コースのほか、45メートル電波望遠鏡や太陽を観測する電波ヘリオグラフなどの観測制御室を公開する予定です。

特別講演会やライブも実施。午前10時からは、天文台長の観山正見さんが、「天文学最前線 ダークエネルギーから地球外生命の探査まで」という主題で講演をします。

長らく、星と星のあいだは“なにもない空間”と思われてきましたが、天文観測技術により「暗黒物質」とよばれる“なにか”が存在することがわかってきました。また、太陽系以外の銀河でも、地球や火星とおなじような惑星が存在することが、電波望遠鏡による観測でわかってきています。これらの最新の話題が天文台長から紹介されそうです。

14時からは、特別ライブ「星空の時 2010 in Nobeyama 宇宙の声に耳を澄まして」が行われます。山梨県出身のシンガーソングライターで、『月杜の祭』『星空のカノン』『137億年目の誕生日オリジナルサウンドトラック』など宇宙をテーマにしたアルバムを出している清田愛末さんと、『星と星座』『星の地図館』などの共著天文写真集を出している写真家の牛山俊男さんが登場します。

国立天文台野辺山の「特別公開2010」は8月21日(土)。入場は無料で、9時30から3時30分まで。天文台によるおしらせはこちらです。
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永井大さんが尋ねた「ジオパーク」認知度は「0」


(2010年)7月23日(金)の『笑っていいとも!』では、司会の森田和義とゲストが語る「テレホンショッキング」に、俳優の永井大さんが登場しました。

この時間の最後には、いつもゲスト出演者が会場の客100人にその場で質問することになっています。客の1人だけが該当する結果になると、番組特製の携帯ストラップが当たるというおまけつき。

永井さんの出身地は、新潟県糸魚川市。この地は「糸魚川静岡構造線」で有名。日本海側の新潟県から、太平洋側の静岡県までを貫く大断層線が走っているのです。

永井さんは、出身地にちなんで、客100人につぎの質問をしました。

「“ジオパーク”というものを知っている人は……」

糸魚川市は、「ジオパーク」という自然公園に指定されています。「ジオ」(geo-)は、「地球の」とか「土地の」という意味をもたせる接頭辞。これに「パーク」(公園)がついてジオパーク。地質などから地球の活動ぶりがよくわかる見どころが多くある場所のことを指します。

「地球のことがわかる公園」という発想は、2004年にユネスコの支援で立ちあがった世界ジオパークネットワークが始めたもの。日本でも、ジオパークの登録管理や普及を目指して、2008年に日本ジオパークネットワークが立ちあがりました。同ネットワークは、ジオパークをつぎのように説明しています。

「地域の地史や地質現象がよくわかる地質遺産を多数含むだけでなく、考古学的・生態学的もしくは文化的な価値のあるサイトも含む、明瞭に境界を定められた地域である。 公的機関・地域社会ならびに民間団体によるしっかりした運営組織と運営・財政計画を持つ」

糸魚川市には、糸魚川静岡構造線のほかに、多くの海岸、渓谷、溶岩ドーム、火山などが多くあります。北海道の洞爺湖有珠山、兵庫県の山陰海岸、長崎県の島原半島などとともに、ジオパークの会員として登録されています。

糸魚川ジオパークのホームページには、「糸魚川はユネスコより早く1991年から『ジオパーク』を名乗っていました 。世界で最初にジオパーク(Geopark)という言葉を使い始めたジオパーク発祥の地です」と、誇っています。

さて、永井さんの「“ジオパーク”というものを知っている人は……」という質問に、「知っている」と答えた人の数は……。

「0人」

客の多くは20歳代から30歳代にかけての女性。「笑っていいとも!」の客層に、ジオパークのことがほとんど知られていないことが、永井さんの質問で明らかになりました。

しかし、多くの人が見るテレビの電波に乗って、ジオパークの存在がすこしでも知られたということでは、ジオパークの認知普及に効果はあったのでしょう。

永井さんの質問を番組で見た、糸魚川市議の古畑浩一さんは、自身のブログでこう綴っています。

「残念だったのが、『ジオパークを知っている人』との問いかけに会場のお客さんは「0」…。(中略)ギャラも発生するでしょうが、認識度ゼロの現状打開をするのなら知名度の高い方々に協力を依頼するのは必要な事だと思います。頭の固い行政のやり方じゃ、全国にジオパークを知ってもらうのに何年かかることやら…です」

「糸魚川ジオパーク」のホームページはこちら。
「日本ジオパークネットワーク」のホームページはこちら。

参考ブログ
古畑浩一の徒然日記「●ジオパーク知ってる人?」
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身をひるがえしてヘアピンカーブを曲がることも可能


坂を登る道に、ヘアピンカーブはつきものです。曲がりかたのかたちが髪どめのヘアピンに似ていることから、そうよばれています。

ヘアピンカーブにさしかかった車は、道なり大きく外にふくらんでから、鋭角のカーブを曲がることになります。

車にかぎらず、人もヘアピンカーブなみに折れた道を曲がることがあります。ビルの階段の踊り場などには、180度の角度でくるっと曲がるところがいくつもあります。百貨店のエスカレーターでも、くるっとヘアピンカーブをして次のエレベータに乗ることになります。

たいていの人の曲がりかたは、車の曲がりかたとおなじ。すこし外側に膨らんで曲がっていきます。しかし、人のヘアピンカーブの曲がりかたの種類は、車の曲がりかたの種類よりも多いようです。

たとえば、こんな曲がりかたもあります。

まず、曲がりかどを目指してとにかく突きすすみます。すると、いよいよ曲がりかどに。

そこで、普通にかどを曲がるのとは逆の方向に身をひるがえします。漢字でいえば「又」の字を描くようなもの。曲がりかどを素直に曲がるとのとは逆方向にステップを踏んで曲がるわけです。

大きくふくらみながら曲がるよりも、身をひるがえして回るほうが歩数は少なくすむことでしょう。足跡を導線で描いても、合計の距離は短くすみそうです。

人の効率的なヘアピンカーブの曲がりかたを考えれば、大きくふくらむより、身をひるがえすほうが効率的といえるわけです。

しかし、階段の踊り場で身をひるがえして曲がる人を見かけることはめったにありません。

考えられる理由はふたつあります。

ひとつは、身をひるがえして曲がったとき、視線が追う景色がかなりきつくなることです。大きくふくらんで180度まわるときは、視線が追う回転景色も180度。いっぽう、身をひるがえしてまわるときの合計角は200度を超えるでしょう。脳にも、三半規管にも、そうとうな負担になります。

しかし、アイススケーターが三回転ジャンプをするのを見ならって、目をつぶりながら身をひるがえせば、ひとつめの問題は解決できるのかもしれません。

となると、ふたつめの問題が大切になります。

身をひるがえして回る人がなかなか現れないもうひとつの理由は、社会的な要因によるもの。

いま、1000人が階段の踊り場を曲がるとすれば、999人あるいは1000人が、大きくふくらんで曲がることでしょう。ほぼすべてのひとが大きくふくらんで曲がっているような社会で、自分だけ身をひるがえして曲がるには大きな勇気が要ります。

しかし。世の中の常識は少数の人の勇気によって覆されていくもの。

「身をひるがえして曲がるほうが楽だ」と気づいた人が、ほかの人に新しい曲がり方を伝えることで、共感の輪は広がるかもしれません。

10年後、身をひるがえして踊り場を回る世の中になっているかどうかは、少数の人の勇気があるかないかにかかっているのかもしれません。
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元五輪競歩選手が語る「がんばりすぎない」有酸素運動

日経BPネットの「『3日坊主』を卒業できる、健康運動生活」というコラムで、「『歩く』から『ジョグ』に緩やかに移行するには? ――まずは理論確認と『意外な』靴選びの『コツ』から」という記事が(2010年7月)21日(水)に配信されました。執筆者は尹雄大さん、撮影は風間仁一郎さん。記事の編集を連結社とともに行いました。

このコラムは、健康を目指して運動を始めるときぶつかる「3日坊主」の壁を乗りこえるため、それぞれの運動の専門家に智恵を授かるというもの。今回は、プロフィットネスコーチの園原健弘さんが「歩く」や「走る」といった運動について、前編と後編にわけてお話します。

園原さんは、バルセロナ五輪の競歩日本代表選手でした。現役引退後も、理論的な運動のしかたを追究し、プロのコーチに。東京・神楽坂のフィットネスクラブ「クイックフィット・ザ・ウォーク神楽坂」の代表として、市民に運動のアドバイスをしてもいます。

「歩く」や「走る」などのような酸素の取りいれを前提とする有酸素運動は、体重を減らす効果があるとされています。有酸素運動をするとき、どのくらいの“きつさ”でからだを動かすかで脂肪の燃え方が変わってくるといいます。

園原さんは、「最大酸素摂取量の60%」の運動を目指すと、効率よく脂肪を燃やすことができると説明しています。最大酸素摂取量とは、一定の時間あたりにその人が取りいれることのできる最大の酸素の量のこと。“めいっぱい”の60%ぐらいで運動することが、脂肪を燃やすためには最も効果的だとうことです。

最大酸素摂取量の60%を超えた運動をすると、脂肪が燃えるかわりにからだの糖が燃えるようになってしまいます。がんばりすぎても脂肪は燃えないというわけです。「60%」の目安を園原さんは「感覚として『ややきつい程度』と覚えておいてください。言い換えると『会話がぎりぎりできる』あたりがマックス。呼吸数が明らかに高くなってくるころがポイントです」と、説明します。

「がんばりすぎない」という理論は、園原さんの話の至るところに見られます。がんばってけがをして、なおもがんばる人に対しては「いったんゼロに戻って再出発したほうが、健康への早道です」とアドバイスしています。

運動のアドバイスとして「がんばりすぎない」はよくいわれるもの。その理由を、園原さんは理論的に話しています。

日経BPネットのコラム「『3日坊主』を卒業できる、健康運動生活」の「『歩く』から『ジョグ』に緩やかに移行するには? ――まずは理論確認と『意外な』靴選びの『コツ』から」はこちら。園原さんが運動の長続きの秘訣を話す後編も、8月に公開の予定です。
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「あなたは大丈夫? 不眠・うつ」

きょう(2010年7月)21日(火)発売の『週刊東洋経済』に、「あなたは大丈夫? 不眠・うつ」という特集が組まれています。この特集の「不眠・睡眠障害」というパートの一部に寄稿しました。

「不眠」と「うつ」が並んでいるのには意味があります。この二つは、“双子の関係”あるいは“同一人物”といえるくらい、深く関係しているのです。

うつ病を患う人の中核的症状として見られるのが不眠です。不眠の症状をもっているうつ病の患者はうつ病患者全体の7〜8割、ほかの睡眠の問題を抱えている人もあわせると9割にのぼるといいます。

ぎゃくに、不眠が続くことで将来的にうつ病になりやすくなるという疫学調査の結果も米国で出ています。このことから、「睡眠とうつの関係は双方向性」ということがいわれるようになっています。

7月1日・2日には、名古屋市で「日本睡眠学会学術集会」が行われました。ここでの専門家の発表内容を記事に盛り込んでいます。学会では、不眠をともなううつ病がさらに二つの側面で危険であるという専門家の発表がありました。

ひとつめは、不眠がうつ病の再発の要因になるということ。うつ病が表面的には治っても、伴っていた不眠の症状が残される場合があります。ある専門家は「不眠が残るかどうかは、うつ病が再び大きく現れるかどうかの予測因子と考えなければならない」と述べます。

ふたつめは、不眠を含む睡眠障害がうつ病の重症化にも関係しているという点。眠りのなかで比較的“浅い”状態とされる「レム睡眠」に関わる問題が大きい人は、入院を必要とするような重症度の高いうつ病の人のあいだに関係性があるという研究論文も発表されています。

将来うつ病にならないためには、不眠を防いでおくことも大切になるわけです。不眠の状態が長びけば、よく眠るための治療に取りくむ必要が出てきます。最近は、睡眠薬を使った治療のほか、薬を使わずに自分の睡眠を改善しようとする「認知行動療法」といった治療が広がりつつあります。

特集では、これらの「不眠・睡眠障害」の話題を皮切りに「うつの基礎・予防」や「うつの治療・社会復帰」のパートへと深まっていきます。

『週刊東洋経済』2010年7月20日発売号のおしらせはこちら。
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32人が描く「生き物のつながり」64作品

横浜市・日本大通の日本新聞博物館で、企画展「一枚マンガのいきもの地球展」が開かれています。(2010年)8月29日(日)まで。主催は東京新聞と日本新聞博物館。

日本で活躍する漫画家やイラストレーター32人が、全64点の“一枚もの”を描きおろしました。

作品の主題は「生き物のつながり」。展覧会のあいさつには、「生物多様性を知るためのヒントとメッセージがつまった作品がずらり並んでいます」とあります。

展示室に入ってすぐに目に留まるのは、河原崎弘司さんの『大漁』(下の絵は模写)。


ペリカンの下嘴には、ペットボトルや布切れなど、人の出したゴミが“大漁”にたまっています。どこか、ペリカンの眼は悲しげです。

河原崎さんは、「利己的なヒトの営みによる環境の激変に、水辺のペリカンも容姿を変えた。収穫はゴミばかり…。毎日が大漁だ。私たちの変貌を進化だなんて言わないでね、ダーウィン」と、メッセージを寄せています。

韓国人の漫画家のチョン・インキョンさんは、『人間には用心しなさい』という風刺画を描いています(下の絵は模写)。


地球とおとなりの星である火星がひそひそ話。地球が「人間には用心しなさい」と火星に忠告しています。人類が火星への移住も視野に入れていることを、地球は知っているのでしょう。

インキョンさんは「『火星有人探査』にかける金があれば、地球環境のために使ってほしいものです」というメッセージを寄せています。

「多様性」という点や絵の構図などは似ていながらも、内容の大きく異なる二つの作品も展示されています。

鮎沢まことさんは、『新しいノアの箱舟』という作品をつくりました。

“COP10 NEW NOAH”という名の刻まれた“箱舟”が大地から出航しようとしています。箱舟に乗っているのは、蛇、鹿、熊、パンダ、象、花など。さらに、さまざまな種類のいきものが、えんえんと列をつくり、乗船まちしています。鮎沢さんは、多様な生き物を乗せた「新しい地球号」を表現しています。

いっぽう、左藤正明さんは、『人種の多様性も』という作品を出展しました。こちらも、“NOAH21”と書かれた、新しい箱舟が描かれていますが、乗り込むのは、人。皮膚の色のちがうさまざまな人種が、この船に乗り込もうとしています。

「グローバリゼーションの波は結婚にも及び、混血が進めば数百年後には人類すべて同じような容姿、肌の色に…。それでは非常につまらないので、今のうちに各人種を集めて適当な星に隔離し、人類の保存をします」

“新しいノアの箱舟”に何を乗せているかに、芸術家の個性や思想を見てとることができます。

「一枚マンガのいきもの地球展」は、日本新聞博物館で8月29日(日)まで。東京新聞によるお知らせはこちら。

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新聞のコンピュータ化を先駆けたのは地方紙


日本の新聞社大手といえば、読売、毎日、朝日といった全国紙。紙面づくりの技術開発も、これら大手新聞社が先駆けてきたような印象があります。

しかし、地方紙が技術面で全国紙を引っぱってきた歴史もあります。

新聞紙面づくりにおける大きな技術革新のひとつが、1970年代に本格的に行われた「写真植字」の導入でした。写真植字とは、写真とおなじしくみを使って、印画紙という感光物に文字を露光し現像すること。このようにしてできた「版下」とよばれる印刷前原稿を使って印刷し、新聞ができあがります。

写真植字が使われるよりも前、各新聞社は鉛を使って印刷をしていました。

まず、植字工という職人が、1文字ごとに文字が刻まれた活字を並べていき、それを厚紙に押しつけて紙型をつくります。この紙型に鉛の合金を流し込み、この鉛を冷やして鉛版をつくります。版画とおなじしくみで、鉛版にインキを乗せて、これを紙に印刷していくわけです。

1968年、この鉛版を使った印刷方法を止めて、コンピュータを使った新しい新聞づくりを始めた新聞社があります。九州の一地方紙『佐賀新聞』を発行する佐賀新聞社です。

佐賀新聞社は、この年、「サットン」というコンピュータを内蔵した写真植字機を導入しました。これにより、1分間に1200字分を印画紙に貼付けることができるように。活字を一字ずつ並べていたころとは比べものにならない速度で、文字を組むことができるようになったわけです。

鉛を使った印刷では、鉛を溶かすため熱が要りました。このため、「ホット・タイプ」とよばれます。いっぽう、写真植字機による新聞づくりには、熱が要りません。そのため「コールド・タイプ」あるいは「コールド・タイプ・システム」(CTS:Cold Type System)とよばれています。

ホットからコールドへの転換をいちはやく行ったのが佐賀新聞だったのです。この取りくみの影響を受けて、大手新聞では朝日新聞と日本経済新聞がIBMと写真植字の大型コンピュータシステムを開発することになりました。

1969年、佐賀新聞は「全国初の全面CTS化」という理由で、日本新聞協会賞を受賞しています。

その後も佐賀新聞は新聞のコンピュータ化を進めてきました。1996年、新聞社として全国初のサービスプロバイダ事業を開始。1997年には、過去の記事の無料データベースも公開。無料で長年にわたる過去記事を公開している新聞社は全国でもまれです。2006年には、ソーシャル・ネットワーキング・サービス「ひびの」を開設。一般の新聞がインターネット上にソーシャル・ネットワーキング・サービスを導入するのも全国初です。

日本の新聞といえば、とかく全国紙やブロック紙がよく知られ、話題の対象にもなってきました。いっぽう、各都道府県には地方紙があります。地域に根づいた特色ある記事を伝える役割だけでなく、全国紙にさきがけた新聞づくりの技術も導入しているのです。

参考文献
佐賀新聞社沿革
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クロールの主流は“1軸”から“2軸”へ


かつての水泳の参考書などには、「からだの中心に軸を通したような感覚でクロールをするとよい」といったことが書かれてありました。

これは、「1軸クロール」とよばれる泳ぎ方です。自分のからだの頭のてっぺんから串を刺したかのように“見えない軸”を想定して、その軸を中心に右手でかいたり左手でかいたりして前に進む、という泳ぎ方です。

からだを一個のドリルに見立てて、水の中をがりがりと進んでいくような感覚で泳ぎます。実際に1軸クロールで泳いでみると、腹筋から骨盤にかけてのからだの中心が、扇風機を上から見たように回転します。

しかし、ここ10年ほどで、クロールの泳ぎ方に、もうひとつの方法があらわれてきました。「2軸クロール」とよばれる方法です。

名前のとおり、「2軸クロール」では、からだの軸が2個あるような感覚で泳ぎます。1軸クロールでは、右手でかくときにはお腹の表面も右に、左手でかくときににはお腹の表面も左に向けていました。いっぽう、2軸では、お腹の表面はつねにプールの底に向けていることを意識します。

このようにして泳ぐと、からだの右肩あたりと左肩あたりから、二つ串を刺したかのような感覚で泳ぐことになります。

2軸クロールが取り入れられたのは、2軸のほうがスピードが速いからといわれます。豪州の競泳選手で、五輪で金メダル5個をとったイアン・ソープ選手は、2軸クロールで泳いでいたといいます。いま五輪に出場するような選手の大半が、2軸クロールをするようになりました。

選手だけにかぎらず、市民スイマーにとっても、肩への負担が少ない、あるいは、安定した姿勢で楽に呼吸ができるといった利点が2軸クロールにはあるといいます。

長年、1軸クロールで泳いできた人にとって、2軸クロールにきりかえることは、かなりの練習が必要かもしれません。2軸クロールを紹介する映像では、「とにかくフラットな姿勢を維持することを徹底的に訓練することが早道」とアドバイスしています。

参考映像
Swimnet.jp「2軸クロールは速い」
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“黄色い粉”の知をめぐり、国と国が対立


カレーが黄色いのは、カレーの粉に使われている、「ターメリック」という植物の根っこが黄色いからです。ターメリックは「鬱金」(うこん)ともよばれ、日本の食べものでは沢庵の色づけにも使われています。つまりカレーの黄色と沢庵の黄色のもとはおなじです。

「医食同源」といわれますが、ターメリックは昔から薬草としても使われてきました。血を止めたり、貧血、ぜんそく、糖尿病などを抑える効き目があるとされています。

カレーなどの食べものにも使われ、薬草としての効き目もある鬱金は、健康のシンボルともいえるでしょう。いっぽうで、このターメリックをめぐって、国と国のあいだで健康とはかけはなれた争いごとが起きています。

1995年、米国ミシシッピー大学の医療機関ではたらくインド系米国人の2人が、米国で「ターメリックを患者の傷患部に投与することによって傷の治療を促す方法」という特許をとりました。

しかし、この特許の取得に「ちょっと待った」と声を出したのがインドです。インドは、カレー発祥の地であるとともに、鬱金の原産国でもあります。

インドの科学産業研究評議会という国立機関は、「ターメリックは、わが国でむかしから人の傷や発疹を治す薬として使われてきたものです。昔からその技をわが国はもっていたので、いまさら米国が特許を出すのはおかしな話です」という主旨のことを米国に対して言いました。

特許には、「新しい技術であること」が必要。しかし、ミシシッピー大学の2人が得た特許は、新しいものでなく、インドに伝統的にあるものだというわけです。科学産業研究評議会は、歴史的な資料にもターメリックにより傷を治す方法が書かれてあるとして、古代サンスクリット語の文献ももちだしました。

インド側の主張の結果、1998年に、一度は許可された特許が無効になりました。

この事例は、「遺伝資源」をめぐる問題の一例としてあとあげられることがあります。遺伝資源とは、遺伝といういきものの営みがもとになって得られたもののこと。世界の人びとは、農業でさまざまな生物を用いて品種改良などを行い、植物の恩恵を得てきました。そのように使われきた生物は、すべて「遺伝資源」であるということができます。

ターメリックも大切な遺伝資源のひとつ。この遺伝資源の使い道を、ある一国が特許をたてに独り占めしてもよいのだろうか、という議論が国と国のあいだで起きています。

多くの国が締結している「生物多様性条約」の柱のひとつに「遺伝資源へのアクセスと利益配分」というものがあります。それぞれの国がそれぞれの国の遺伝資源を使うことができ、また、遺伝資源を使った研究で得られた利益は、遺伝資源を提供した国に公平に届くようにしましょう、という原則です。

インドの主張は「ターメリックはわが国の遺伝資源であり、ターメリックについての伝統的な知もわが国でもっていたのだから、勝手に特許で囲い込みをしなさんな」というものです。

この例は一例にすぎません。いま、発展途上国は、みずからの遺伝資源や遺伝資源についての知恵をほかの国に勝手に使われることを問題視しています。ことし(2010年)10月に名古屋で開かれる、生物多様性条約第10回締約国会議でも、遺伝資源をめぐるかけひきが繰り広げられることでしょう。

参考文献
バイオインダストリー協会「生物多様性条約に基づく遺伝資源へのアクセス促進事業 平成17年度報告書」
農業生物資源ジーンバンク「遺伝資源の状況」
梅田慎介「生物多様性条約と途上国特許法~遺伝資源と伝統的知識」薫風国際特許事務所『KUNPU NEWS』2010年3月
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命に関わることだから梅雨にも気づいた


ことし(2010年)は、梅雨前線が活発になり、九州をはじめ西日本などで集中豪雨がありました。「空梅雨」とはぎゃくに、雨が降りすぎるほどの梅雨だったといえそうです。

気象衛星が打ちあげられたりして技術が進んだため、いま人びとは、空もようを空の上から見ることができるようになりました。気象衛星が毎日、撮影する宇宙からの写真を何年分か並べていけば、「この時期は全国的に曇りがち」「この時期は太平洋側では晴れて日本海側では曇りがち」といった傾向を見ることができます。

「梅雨」ということばが使われはじめたころ、人は天よりも上から天気を見ることはできませんでした。つねに、地上から目線で空もようを見ていたわけです。

それでいて、むかしの人びとは、「毎年この時期は曇りがち」といった傾向に気づいていたわけです。

関心をもって記録などを付けなければ、3日前やおとといの天気など忘れてしまう人のほうが多いでしょう。暑さや寒さの記憶はあるとしても、3年前や2年前のいまごろ雨の量はどうだったか、といったことも忘れてしまうほうが多いでしょう。

しかし、「梅雨」という天気のことばはうまれました。むかしの人びとにも、“天気の記憶”があり、それを共有していたわけです。つまり、むかしの人びとも天気に関心があったわけです。さらに、梅雨のまえの「走り梅雨」、梅雨のあとの「戻り梅雨」のような、ことこまかな空もようを表すことばまであります。

この関心ぶりはどこからきたのかといえば、人びとの仕事や生活ということになるのでしょう。

日本人は、古くから稲を育ててそれをおもな食料源にしてきました。また、魚も大切な栄養源のため、船を出して漁にも出ていました。

米づくりは、つねに空もようを眺めながら行われるものです。人びとは、毎年、暑くなる時期に長雨が降って苗を育てるということに気づいたのでしょう。空梅雨で雨が降らなければ、秋の実りはありません。毎年、きまった時期に天の神様が雨を降らせてくれるかは、地上の人々にとって大きな関心事だったのです。

漁をする人びとにとっても、海のしけは命とりになりかねません。梅雨どきにかぎらず、天気の傾向はどうかといったことは、最大の関心事のひとつだったのでしょう。

自分たちの命がかかることに、人は無関心ではいられないもの。それが、「梅雨」といったことばを生みだしたのでしょう。いまの気象情報は、むかしの人びとの経験知を科学的にとらえなおしたものといえます。
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恐竜のいた時代「私たち」は虐げられていた
 学校の夏休みになる季節、毎年のように「恐竜」を題材とした放送特集や展覧会などが開かれます。自由研究の課題がきびしかったころ、「恐竜を見て、それをまとめたみたら」という話になりやすかったのでしょう。

今年2010年の夏は、NHKが恐竜の紹介に力を入れています。7月10日(土)から9月26日(日)まで、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで「地球最古の恐竜展」を主催します。

この展覧会の開催に合わせるように、7月18日(日)と19日(月)の二夜にわたり、「恐竜絶滅 ほ乳類の戦い」という特集番組を放送する予定です。

テレビやインターネットでは、この特集番組の予告篇を流しています。

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太古のむかし、王者恐竜に虐げられていた私たちほ乳類。巨大隕石がその運命を変えました。恐竜絶滅後の世界。しかし、それは、あらたな戦いの幕開けだったのです。「恐竜絶滅 哺乳類の戦い」。2夜連続の放送です。
――――

恐竜の絶滅に巨大隕石の地球衝突が関係していたとする説は、いまの古生物学のパラダイムになっています。この説を、コンピュータグラフィックを駆使して放送するもよう。

サイエンス映像学的には、恐竜の動きや巨大隕石の衝突の場面など、注目すべき点が多いことが、予告篇からもうかがえます。

いっぽう、教育学的には、この予告篇に“注意”しようとする人もいるかもしれません。

予告篇のナレーションには「太古のむかし、王者恐竜に虐げられていた私たちほ乳類」という一文。「私たちほ乳類」ということばが聞かれます。「私たち」と「ほ乳類」が“同格”で使われているわけです。

この一文をかんたんにすると「私たちは恐竜に虐げられていた」という意味になります。

恐竜がいた時代に「私たち」は、「存在していた」ともいえますし、「存在していなかった」ともいえます。ほ乳類と恐竜はおなじ時間を過ごしていたものの、人類と恐竜はおなじ時間を過ごしてはいませんでした。

恐竜の絶滅は白亜紀末期とされ、7000万年前ごろのことになります。いっぽう、人類の祖先がチンパンジーなどの祖先と枝分かれしたのは、それからずっとあとの700万年前ごろ。つまり、恐竜と人間は共存はしていませんでした。

「私たち」が「人間」という意味でなく、「人間の祖先の哺乳類」という意味であり、「恐竜の時代に、私たち人間は虐げられていた」ということではないという点が大切です。

NHKとしては、視聴者である人間と、絶滅してしまった恐竜の距離を近づけたかったのでしょう。もちろん、番組のなかで恐竜と二足歩行をするほ乳類が、おなじ場面にいっしょにあらわれるようなことはなさそうです。

NHKスペシャル「恐竜絶滅 ほ乳類の戦い」の予告篇はこちら。
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“ねじれ”は国会のみならず


第22回参議院選挙の結果、衆議院では与党が議席の過半数を、参議院では野党が議席の過半数を占めることになりました。衆議院で法案が可決されても、参議院で可決されない場合が多くなることを、報道は「ねじれ国会」とよんでいます。

「ねじれ」とは、棒や糸のようなものの両端をつかって、たがいに逆むきの方向にまわすことでおきる状態のこと。衆議院と参議院で法案の採否がべつの方向に進むためにこのようによばれるようになったのでしょう。1989年7月30日の朝日新聞には、「“ねじれ国会”複雑さ増す まず会期で対立か 野党にも衆院の“壁”」という記事が載っています。

ねじれるのは、社会のことだけではありません。自然科学の世界にもさまざまなねじれ現象やそれを応用した技術が見られます。

木材が長年のあいだにねじれていくのを目にする人は多いかもしれません。反りや曲がりとともによく起きる現象です。

木の繊維が木の中心のまわりを旋回するためのもので、エゾマツ、カラマツ、トドマツなどでねじれ具合は大きいとされます。とくに3、4年目にあたる年輪のあたりでねじれが大きくなります。

木材の水分が抜けていくにしたがって変形は大きくなるもの。そのため、木材を乾かすときに、逆向きにねじれの力を加えたり、上から何トンもの重りを乗せておくなどの方法がとられます。

ヒトといういきもののからだにも“ねじれ”が起きます。「腸捻転」とよばれる病気は、腸の管がねじれた状態。大腸のうち、Sの字の曲線を描く「S状結腸」という部分や、大腸より前の段階にある小腸などで、よくねじれます。

腸の管がねじれてしまうということは、腸の管がふさがってしまうということ。そのため腸捻転は「腸閉塞」ともよばれます。つまったところにガスや液が満ちてきて、静脈の流れがふさがれます。その結果、浮腫を起こします。また、管の内側の圧力が高くなり、動脈の流れも悪くします。その結果、壊死を起こします。

腸のねじれは、苦痛を伴うもの。「断腸の思い」といった表現もあります。「腸がねじれるほど笑う」とは苦しくなるほどに笑うという意味なのでしょう。

分子が起こす“ねじれ”は、ディスプレイの液晶の技術に使われています。

ある方向にだけ光を通す「偏光板」という板を2枚用意して、直角にずらします。この状態だと、光は通りません。しかし、この2枚の板のあいだに、ネマティック液晶という状態の液体を満たすと、この液晶分子たちは、1枚目の板から2枚目の板にかけて4分の1回転したようにねじれて並びます。南京玉すだれを90度だけひねったような状態です。

この状態の液晶を通る光は、液晶分子たちの回転にそって回転します。そのため、2枚のずれた板のあいだをネマティック液晶で満たせば、光を通すことができるわけです。電圧をかけないとネマティック液晶はねじれてならび、電圧をかけるとねじれなくなるため、これを液晶表示のオンとオフとして使うわけです。

“ねじれ”という状態は、本来的にはあってほしくない困ったものであるものの、時と場合によっては使いようなのかもしれません。

参考文献
信田聡・菊地伸一「木の良さを生かす使い方」
中嶌厚「カラマツ利用のための乾燥技術」
医療電子教科書「腸捻転症」
シャープ「液晶ディスプレイの原理」
| - | 18:27 | comments(0) | -
漢字広告「中国・英利」のほかに「嘉实多」


サッカーのワールドカップ・南アフリカ大会が終わりました。標高の高いところでの試合、継ぎ目のすくない球の使用、観戦席からのブブゼラの音など、これまでのワールドカップにないことがらがさまざまありました。

競技場での広告にも、変化がありました。「漢字」による広告表現が見られるようになりました。日本の広告ではありません。

「中国・英利」と書かれた広告については、「あれはなんの会社だ」と、新聞などしばしばとりあげられました。広告主は「英利集団」。太陽光発電発電装置の製造業で、今回、稿式スポンサーになりました。「W杯開催前までは中国でもほとんど無名の企業だった。しかし、この2週間で世界中のサッカーファンにその太陽のロゴが知れ渡っただろう」(ロイター通信)などと、広告効果の効果が報じられます。

英利集団ほど目だたなかったものの、決勝戦のテレビ中継などでは、ピッチ脇の広告にべつの漢字も見られました。

緑と白の地に、赤い文字で「嘉实多」。

これは、南アフリカ大会での公式スポンサーのひとつだった「カストロール」の中国語表記です。同社は、英語での「Castrol」という表記の広告とともに、漢字3文字で自社の名前を世界に売りこみました。

カストロールは、自動車や船などの潤滑油のブランド。1899年に英国ロンドンで起業されたウェークフィールド社が起源で、「ひまし油」を意味する「キャスターオイル」からつくられた造語がブランド名になっています。2000年、世界的な石油製造会社BPの傘下に組み込まれました。

カストロールの中国のホームページにも、「2010FIFA南非世界杯」という特設ページをつくってさまざまな情報を提供しています。

中国語ホームページのみではありませんが、ホームページには、大会出場選手の活躍ぶりに応じて「嘉实多指数2010FIFA南非世界杯10大球员」が設けられてあります。「カストロール指数」ともいわれ、貢献度の高い選手を示したもの。スペインのセルジオ・ラモス選手、ジョアン・カプデヴィラ選手、カルロス・プジョル選手が、上位3人。日本では、ゴールキーパー部門3位に川島永嗣選手が入っています。

カストロールは最近、風力発電施設の潤滑油の供給などもおこなっており、中国のアジア風力エネルギーショーにも出展。自動車も再生可能エネルギーも、中国は拡大市場。ピッチ脇の広告に「Castol」のみならず「嘉实多」と掲げたことに、中国市場への力の入れぶりをうかがわせます。

カストロール中国語版「2010FIFA南非世界杯」のページはこちら。
サッカーのワールドカップ・南アフリカ大会が終わりました。標高の高いところでの試合、継ぎ目のすくない球の使用、観戦席からのブブゼラの音など、これまでのワールドカップにないことがらがさまざまありました。

競技場での広告にも、変化がありました。「漢字」による広告表現が見られるようになりました。日本の広告ではありません。

「中国・英利」と書かれた広告については、「あれはなんの会社だ」と、新聞などしばしばとりあげられました。広告主は「英利集団」。太陽光発電発電装置の製造業で、今回、稿式スポンサーになりました。「W杯開催前までは中国でもほとんど無名の企業だった。しかし、この2週間で世界中のサッカーファンにその太陽のロゴが知れ渡っただろう」(ロイター通信)などと、広告効果の効果が報じられます。

英利集団ほど目だたなかったものの、決勝戦のテレビ中継などでは、ピッチ脇の広告にべつの漢字も見られました。

緑と白の地に、赤い文字で「嘉实多」。

これは、南アフリカ大会での公式スポンサーのひとつだった「カストロール」の中国語表記です。同社は、英語での「Castrol」という表記の広告とともに、漢字3文字で自社の名前を世界に売りこみました。

カストロールは、自動車や船などの潤滑油のブランド。1899年に英国ロンドンで起業されたウェークフィールド社が起源で、「ひまし油」を意味する「キャスターオイル」からつくられた造語がブランド名になっています。2000年、世界的な石油製造会社BPの傘下に組み込まれました。

カストロールの中国のホームページにも、「2010FIFA南非世界杯」という特設ページをつくってさまざまな情報を提供しています。

中国語ホームページのみではありませんが、ホームページには、大会出場選手の活躍ぶりに応じて「嘉实多指数2010FIFA南非世界杯10大球员」が設けられてあります。「カストロール指数」ともいわれ、貢献度の高い選手を示したもの。スペインのセルジオ・ラモス選手、ジョアン・カプデヴィラ選手、カルロス・プジョル選手が、上位3人。日本では、ゴールキーパー部門3位に川島永嗣選手が入っています。

カストロールは最近、風力発電施設の潤滑油の供給などもおこなっており、中国のアジア風力エネルギーショーにも出展。自動車も再生可能エネルギーも、中国は拡大市場。ピッチ脇の広告に「Castol」のみならず「嘉实多」と掲げたことに、中国市場への力の入れぶりをうかがわせます。

カストロール中国語版「2010FIFA南非世界杯」のページはこちら。
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遠近法は人間の発明物


映画『アバター』のヒットなどをきっかけに、実物は立体でないものを立体で見るための道具が普及しつつあります。立体に見るため眼鏡を使う方法もあれば、眼鏡を使わずに立体を見る「インテグラル立体テレビ」といった装置もあります。

とはいえ、むかしから人は、平面に描かれたものを立体として見せたり、立体として見たりすることをしてきました。「遠近法」によってです。

遠近法は、絵画やデザインなどでの表現方法のひとつ。人が眼で見たときとおなじ距離感で平面にものを描く方法です。広告やポスターであまりにあたりまえのように見なれていることもあり、遠近法が“発明”された技術であるとはあまり認識されないようです。

遠近法がはじめに登場したのは、古代ギリシャの装飾画とされます。たてものの天上を描いた模様などには奥行きが表現されていたといいます。さらに、古代ギリシャの数学者ユークリッド(紀元前300年ごろ)は、著書『光学』のなかで、前に向かって進む2本の直線について「右の直線は左に傾き、左の直線は右に傾く」とことばで述べています。

その後、ルネサンス時代に、本格的に遠近法は確立されるようになりました。フィレンツェ出身の建築家フィリッポ・ブルネレスキ(1377-1446)は、大聖堂の正面から入った定位置で、まわりの風景画を描きました。その絵は、見る位置によっては現実の風景のなかにすっぽりとはまっていたといいます。数学的な計算による遠近法が開発されたのです。

遠くの対象を小さく描く遠近法とはことなる方法もあります。「空気遠近法」はそのひとつ。


経験的に、自分の近くにある建物はくっくりと見えるのに対して、はるか遠くにある街並みや山並みはかすんで見えます。3次元の世界で起きるこの現象を、平面の世界で表現したのが空気遠近法です。

3次元の世界を2次元の世界で表現するための技術は昔から追い求められてきました。ホログラムや3次元映像の技術が進む現代は、この技術の大きな飛躍段階にあるといえるのかもしれません。
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「理系と仏教美術の意外な相性」
美術展では、人それぞれ作品を見て歩く速さがことなるため、渋滞ができるときがあります。気に入る作品は人によってちがうもの。ぱっと見たときの印象を大切にするか、じっくりと眺めたときの総合性を大切にするか、といった鑑賞法も人によりけりです。

人によっては、芸術作品を成果物として観ることよりも、材料や過程や技法のほうに興味をもつ人もいます。



現代美術を扱う「小山登美夫ギャラリー」代表の小山登美夫さんは、新著『見た、訊いた、買った古美術』(新潮社)のなかで、銀座のギャラリー「古美術祥雲」の関隆さんと対談をしています。話は、「理系と仏教美術の意外な相性」という主題に。

神奈川県の厚木市で古美術店を営んでいたときのころを関さんは振りかえります。小山さんと関さんで話が一致したのは、理系に美術好きが多いということ。

「厚木ってキヤノンやソニーの工場があって、エンジニア系の人がけっこう美術好きなんです」
――うちのギャラリーでもそうですよ。現代美術も理系に好きな人が多い。
「やっぱり自分が最先端なことをやっていると、先端的な美術にもピンと来るのかな」
――理論的に理解できるってのもありますね。
「そうそう、このやきものは還元焼成だから酸化焼成とは違うなんて説明すると、おおってことになる(笑)」

絵画や彫刻など、“もの”として作品があるかぎり、それぞれには材料があります。カンバスの素材は布か紙か、使う画材は水彩のものか油彩のものかといったちがいで成果物は大きくかわってくるもの。

関さんが話す「還元焼成」は、わざとやきものを不完全燃焼させて、一酸化炭素を生みだすことで淡青色を出す方法。「酸化焼成」は、燃料が完全燃焼するのにじゅうぶんな酸素があるなかでやきものを焼くこと。酸化焼成にすると、黄色や茶色をおびたやきものになります。

芸術家が自分の思いの丈を表現したいという場合、それを満たす手段をどうするかは大切な問題になります。この表現手段に着目する作品の見方があると、美術展の楽しみ方もまた変わってくるもの。成果物から感じられる印象と、その成果物を成り立たせる技法の両方を楽しむこともできます。

小山登美夫さんの著書『見た、訊いた、買った古美術』はこちらでどうぞ。
参考文献
土岐市ホームページ「酸化焼成と還元焼成の違いについて」
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「5合目」を「8合目」と言って、両損す。


サッカーの選手が警告を受けるのは、審判からの「イエローカード」によって。いっぽう、ものかきが警告を受けるのは、編集者からの「進捗うかがい」によって。「原稿の進み具合、いかがですか」は、しめきりが迫っていることの警告です。

何人かのものかきの話を合わせると、ものかきはこの警告に対して、“割増し申告”で編集者におうじる向きがあるようです。

「依頼しています原稿ですが、進み具合はいかがでしょうか」
「え、ええ……。だいたい8合目ぐらいまできています」

この場合、ものかきの原稿の進み具合は、5合目にさしかかった程度。場合によっては、まだ登山口に立ってもいない、つまり原稿に着手していないということもあるようです。

冷めた目でこの状況を観ると、ものかき本人にとっても編集者にとっても、いいことはなにもありません。

ものかきにとっては、自分の首をしめていることになります。ほんとうは「5合目」なのに「8合目です」と返すということは、残りの作業が「あと5割もある」のに「あと2割だけです」と宣言するようなもの。

しかし、編集者に「あと2割まで進んでいるのか」と抱かせた期待どおりにものかきがこたえられることはほとんどありません。編集者は、ものかきが割増し報告していたことにうすうす気づきだします。予定の組みなおしという実際面と、話がちがうではないかという信頼面での再考を迫られることになります。

なぜ、おたがいにとって得することがないにもか関わらず、ものかきは「8合目まで進んでいます」と、割増し報告するのでしょう。

これにも、自分に対する思いと、相手に対する思いの両方があるのかもしれません。

ほんとうは8合目まで登っていなければならない状況だとものかき自身も認識しているにもかかわらず、実際は5合目、あるいは登山口。このとき編集者から進捗状況の確認がくると、つい「自分のあるべき姿」を口走ってしまうことがあるのでしょう。

また、編集者に対しては、急場しのぎとして、怒らせないようにする心理がはたらくのでしょう。「5合目です」と「8合目です」では、「5合目です」のほうが「まだそんな段階ですか」と怒られるおそれは高くなります。

おなじ“虚偽報告”をするのであれば、5合目まで進んだ現状を「まだ2合目までしか進んでいないんです」と答えるほうが、結果的にはものかき・編集者たがいにとって損は少ないはず。

以上のことを総合すると、「ものかきは刹那的に生きている」という仮説を導くことができそうです。
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新型インフルエンザ「総括」は「対策」の始まり


2009年の世界的流行で問題となった「新型インフルエンザ」は、すでに「あの騒動はなんだったのか。問題点を整理しよう」といった段階になっています。

厚生労働省は、(2010年)6月に「新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議 報告書」を発表しました。3月から4か月にわたって研究者、医者、行政担当者などが行ってきた、新型インフルエンザ問題の総括会議のまとめです。

今後おなじような問題が起きたときに向けて、大きな課題を残したのが、ワクチン対策です。

2009年10月、政府は危機管理のためとして、ワクチンが余ることを承知で国民の7700万人が接種できる体制を2009年10月に決めました。しかし、これを満たすには国内製造ワクチンでは足りず、海外ワクチンの輸入を頼りにしなければなりません。

結果、海外ワクチンの安全性を確認するのに日数がかかり、結局ワクチンの輸入が認められた1月下旬には新型インフルエンザの流行はすでに下火となっていました。

接種回数をめぐっても方針が揺れました。今回とインフルエンザワクチンとおなじ型のワクチンの効き目を調べた過去の研究では、「2回接種が必要」という結論が出ていました。しかし、新型インフルエンザ用ワクチンの効き目を見た2009年9月の試験では、1回接種で効き目があることがわかってきました。

接種を1回にするか2回にすべきかの検討は長引き、2009年12月に、13歳未満を除く大部分の人は1回接種でよいという結論が出されました。

これらの結果、政府は輸入元の企業に対してワクチン輸入契約を解約したり、消費期限切れのワクチンを処分したりすることになりました。

製造するワクチンの容量の議論もありました。

扱いやすい少量の1mlごとにすべきという医療現場側の意見と、生産効率の点から10mlごとにすべきだという企業を中心とする意見が上がりました。いったん、1mlごとと10mlごとを併用することになりましたが、2010年1月からはすべて1mlごとになりました。外国では10mlごとにしていますが、これは集団接種を前提としたもの。集団接種に消極的な日本では10mlごとだと一度に使い切れないという背景があります。

これらの問題や課題を受け、「報告書」では、ワクチン対策の提言が出されました。

体制・制度の点では、「安全保障の観点からも、速やかに国民全員分のワクチンを確保するため、ワクチン製造業者を支援するなどワクチン生産体制を強化すべき」「ワクチン接種に関するガイドラインを早急に策定すべき」「あらかじめ、接種の予約、接種場所、接種の方法など現場において実効性のある体制を計画すべき」「ワクチンによる副反応を、迅速かつ的確に評価できるしくみを検討すべき」というよっつの案が提言されました。

また、運用上の課題では、「ワクチンの接種回数、費用、輸入ワクチン確保などの決定プロセスを明確にすべき」「優先接種者は地域の事情を踏まえ、柔軟に運用すべき」「国、都道府県、関係者が連携してワクチンを迅速かつ円滑に流通できる体制を検討すべき」のみっつが上げられました。

新型インフルエンザの世界的流行と、ワクチン対策では、予期できないできごとも多くあったことでしょう。「報告書」には、「失敗」といったことばは載っていませんが、「失敗学」という学問では、「失敗を今後の糧にする」という考え方があります。

かならずやってくると考えられる、“新しい新型インフルエンザ”の流行に向けた対策の時期は、すでに始まっています。

厚生労働省が2010年6月22日「新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議 報告書」
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利点多い母乳にちょっとした問題


赤ちゃんの栄養源といえば、母乳またはミルク。人工栄養であるミルクに対して母乳はいろいろ利点が多いといわれています。

京都医療センターは「母乳の利点」として、次のような点をあげています。

「母乳には、タンパク質のみならず、脂肪分、乳糖、ビタミン類、ミネラル、塩分、ホルモン、酵素と、赤ちゃんが成長発達していくのに必要なものが全て含まれており、しかも多すぎず少なすぎず実に適量含まれているのです」

子が摂るのに最適な栄養分は、親の体のなかにきちんと含まれているということでしょう。

「出産してから2〜3日の間に分泌される母乳を『初乳』といいます。初乳は、分泌量こそ少ないのですが、その中に免疫グロブリンA(IgA)と呼ばれる免疫物質を多量に含んでいます。このIgAは、胎盤を通じて赤ちゃんに運ばれる抗体とは、全く別のはたらきを持っています」

免疫グロブリンAは、体の外から入ってくるウイルスなどの異物に反応してつくられる抗体のひとつ。とくに細菌やウイルスの感染を防ぐ役割が高いとされます。生まれたばかりの赤ちゃんにはとりわけ母乳をあたえることの利点が大きいわけです。

「母乳を飲んでいる赤ちゃんは、乳首を吸っているのではなく、『噛んで』いるのです。母乳で育ってきている赤ちゃんは、生まれてから数ヶ月間『噛む』練習をしてきていますので、離乳食への移行もスムーズなのです」

哺乳瓶の場合、赤ちゃんは“吸う”のに対して、母乳の場合は“噛む”。このちがいが、赤ちゃんの噛む力を鍛えることになるわけです。

このように母乳の利点はさまざまです。しかし、母乳をあたえるお母さんにとっては、ちょっとした悩みもあるといいます。それは、「赤ちゃんが母乳をどのくらいの量、飲んだのかがわからない」というもの。

哺乳瓶に入ったミルクであれば、目盛もついています。ミルクが減った分だけ、赤ちゃんのお腹に入ったのだとわかります。

いっぽう、母乳の場合、お母さんの体から赤ちゃんの体に直接とりこまれます。どれだけの量が赤ちゃんのお腹に入ったかがわからないのです。

一度ごとの母乳に対して、「この子、ちゃんと飲んでいるのかしら」あるいは「飲みすぎていないかしら」といった心配が生まれます。

なかには、厳密にも、母乳を飲ませる前と飲ませた後の赤ちゃんの体重を測っている家族もいるといいます。いまのところ、赤ちゃんが母乳をどのくらい飲んだかを知る唯一の方法のようです。

この問題は、子育てをしているお母さんが多かれ少なかれ実感するもの。赤ちゃんの体重をいちいち測るよりも簡単な方法で、飲んだ母乳量の計測法がうまれれば、そうとうな名声と利益を得られることでしょう。

参考ホームページ
国立病院機構京都医療センター「母乳の利点」
| - | 23:53 | comments(0) | -
川口淳一郎さん「『はやぶさ』にふるさとを見せたかった」

きのう(2010年7月)5日(月)、東京・内幸町のプレスセンタービルで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所教授の川口淳一郎さんが講演をしました。主催は日本科学技術ジャーナリスト会議。

川口さんは小惑星探査機「はやぶさ」の計画の指揮官。「はやぶさ」は、2006年に小惑星イトカワへの着陸を果たしたあと、およそ3億キロの宇宙空間を飛びつづけ、2010年6月23日に地球へと戻ってきました。イトカワの地質などがわかる試料が入っているかもしれないカプセルを地上に落とし、大気圏で燃えつきました。

2003年の地球出発から7年がかりの運用。計画どおりに進めばこれほどの長丁場になりませんでした。途中で燃料漏れなどがあり、制御不能になったのです。川口さんらは地球から技術のかぎりを尽くして「はやぶさ」を制御可能な状態に戻しました。それにより、地球への帰路へと導くことができました。

はやぶさの計画を進めているなかで、川口さんはことあるごとに歌をつくっていました。「恥ずかしいのですが」と言いつつ、三つの歌を披露しました。

「吾行かん輝き潤む蒼き星 手がかり孵す終のひと駆け」

「はやぶさ」の地球への帰路、エンジンの推進力が残りわずかになったときに詠んだ歌です。涙でにじむ地球に向け、最後の力を振りしぼり科学の手がかりを地球にかえすんだ、という、『はやぶさ』になりかわった心を詠んでいます。むしろ、川口さんの当時の想いだったのでしょう。

「まほろばに身を挺してや宙繚う 産の形見に未来必ず」

川口さんたちの願いがかない、「はやぶさ」は地球の空に戻ってきました。大気圏突入で本体はちりぢりになりながらカプセルを護るはやぶさに、「その成果をかならず未来に届けよう」と伝えました。

「孵りきていにしえ託さん玉手箱 まばゆき出会い七歳一夜」

豪州の荒野に落下したカプセルは空路で日本へ。川口さんもカプセルと対面することになりました。いにしえの手がかりを託そうとする玉手箱のようなカプセルを目にしたとき、眩しさを覚えました。そして、7年間の歳月が、たった一夜のように感じられました。

このブログで(2010年)6月20日、「『はやぶさ』を擬人化できる日本人」という記事で、川口さんが「はやぶさ」帰還直後、新聞社の取材に「はやぶさに助けてここまでこれた
と話したことを伝えました。

披露した歌にも、川口さんの「はやぶさ」を“いきもの”として想う気持ちが表れています。

「はやぶさ」を人格化することについて、講演会の司会からも質問がありました。「はやぶさに助けられたので探査機(という機械)には思えない」と、あらためて明かしました。

「はやぶさ」が地球の大気圏に突入する直前、川口さんは「はやぶさ」の姿勢を、“眼”にあたるカメラが地球を捉える位置にしたそうです。大気圏に散る前に「地球を見せてやりたかったからです」。

宇宙航空研究開発機構は、カプセルに含まれていた微粒子がイトカワのものであるか解析するのと同時に、「はやぶさ2」といえる後継計画を進めていきます。「後継プロジェクトが立ち上がらないと、人が育たない。宇宙開発とは、人を育てるものだと思っています」と、川口さんは話します。「はやぶさ」を人として見る目とはまたちがう“人を見る目”が、川口さんにはありました。
| - | 23:23 | comments(0) | -
人の話を聞いているのかいないのか、「にゃんとも猫だらけ展」


猫に脚光をあてた浮世絵展「にゃんとも猫だらけ展」が、京都JR伊勢丹の「美術館『えき』KYOTO」で開かれています。(2010年)7月11日まで。

いまもそうですが、猫は古くから人にとっての愛玩動物の代表でした。版画のなかにも多くの猫が登場しています。そんな猫が描かれた浮世絵版画120点を集めたのが、この展覧会。

多く出展されているのが、江戸末期の浮世絵師・歌川国芳(1787-1861)による版画。美人画、武者絵、風景画などに長じた人物ですが、愛猫家として知られ、版画のなかに猫を数多く登場させています。

鳥獣戯画で知られている国芳の作品が、「其まゝ地口猫飼好五十三疋」(そのままぢぐちみやうかいこうごじうさんびき)です。日本橋から三条大橋までの東海道五十三次の宿場町の名を、猫と関係のある駄洒落ことばで表現し、それぞれに猫の絵を付けたもの。

たとえば、「藤沢」は「ぶちさば」。ぶちの猫が鯖を食べています。「沼津」は「なまづ」。鯰を食べんとしています。「鞠子」は「はりこ」。はりこの猫が描かれています。

猫だけが出てくる絵画も魅力的ながら、人物画のなかに登場する猫も味わいぶかいものがあります。

国芳が、人の癖48個を描写した美人画「浮世四十八癖」には、「はなしをきゝたがるくせ」という作品があります。女が夢中な表情を浮かべて「へヱとんだねヱ へヱさようふかねヱ」と、絵の枠の外にいる人の話に耳を傾けています。その横には、白と茶の二毛猫が、所在なさそうに舌を出して体をなめています。動物にはない、話を聞きたがる癖が人にあるということを、この猫との対比のなかで表現しているのでしょう。

また、二代目歌川国貞(1823-1880)は、「花盛士農工商」という江戸の人々の職業を描いた浮世絵を遺しています。部屋の中で羽子板づくりに興じている女などが、描かれています。その傍らに猫の姿が。人々の話がわかるのか、わかっていないのか、猫はにんまりとした表情を浮かべています。


ふたたび歌川国芳にもどると、彼のつくった「死絵」も展示されています。歌舞伎役者などの有名人が亡くなったとき、浮世絵師などがその人物の絵画をつくって弔う風習がありました。その絵が死絵です。

スターだった八代目市川団十郎が32歳で自殺したとき、国芳は団十郎の死絵を何枚も描きました。絵のなかには大きな遺影があり、その前で団十郎のをひいきにしていた女たちが多数、おいおいと泣いています。絵の手前をよく見ると、一匹の猫が。


この猫も、片方の手を顔にあてて泣いているようです。団十郎の自殺は、人のみならず、猫さえも泣かすような、悲しいできごとがうかがわれます。

それぞれの浮世絵には、人の営みの瞬間を描きとているなか、絵の調子を引きしめる点として猫が描かれています。人とは異なるもう“ひとつの主体”からの視点を、絵のなかに含ませているわけです。しかし、笑ってたり泣いたりしている猫の表情は、人間の行動と同調しているかのよう。猫のこうした表情を描くことが、人の表情をいきいきとさせる手段にもなっています。

猫という動物の存在をあらためて考えてみる機会にもなりそうです。「にゃんとも猫だらけ展」は、7月11日(日)まで、JR京都駅直結のJR伊勢丹7階「美術館『えき』KYOTO」にて。入場料は一般700円、学生500円などとなっています。美術館の催しもの案内はこちら。
| - | 23:59 | comments(0) | -
出版物の紋切型から脱却をはかる。

『ボヴァリー夫人』などの作品で知られるフランスの小説家ギュスターヴ・フロベール(1821-1880)は、『紋切型辞典』という遺作を世に出しています。

「紋切型(もんきりがた)」は、もともと江戸時代に流行した紙切りで使われていた道具のこと。正方形の紙を折り、「紋切型」とよばれる台紙をあてがって切っていくと、広げたとき紋様ができるというもの。

この「紋切型」から、型どおりの見方や表現をすることを人々は「紋切型」とよぶようになりました。欧米では、紋切型とにた役割をする道具として「ステレオタイプ」という鉛版があり、これから型にはまった形式のことを「ステレオタイプ」とよぶようになりました。

たとえば、フロベールが「卵」というものにあたえた紋切型は、「生物の起源をめぐる科学的な議論の出発点」。当時のフランスにおける人々の“型”を覗くことができます。

紋切型の表現は国や時代により変わっていくとしても、「紋切型が各方面に存在する」という点では変わりません。紋切型を感じることのできる分野の一つが出版物です。

本や雑誌記事のタイトルとしてよく見られるのが「目からウロコの何々」。これは新約聖書の使徒行伝に載っている話がもとになったもの。

目が見えなくなっていたパウロ(生年不明-65)が、キリスト教とによって神のお告げを受けると、目から鱗のようなものが落ちて目が見えるようになったといいます。「一瞬ですべてがわかるようになる」といった意味合いから、「目からウロコの何々」が使われています。「鱗」でなく「ウロコ」と片仮名にする点も紋切型。

広告に見られる「たちまち大増刷!」も紋切型の表現。

増刷は、おなじ本を2度以上、まとめ刷りすること。人気があってどんどん印刷を重ねているというときの表現が「たちまち大増刷!」です。

ただし、本を何部刷るのかは出版社の自由。はじめに100冊だけ刷ってこれを第1刷とし、翌日にまた100冊を刷ってこれを第2刷とするとします。これをくりかえせば、3000冊刷れたころには、1か月後に第30刷。「たちまち大増刷」となります。

出版社は表現の世界で営みつづけるもの。表現にふさわしい業績をしたがえて「たちまち大増刷!」と打つか、小細工をして「たちまち大増刷!」と打つか。出版社の姿勢が問われます。

本の帯に見られる「誰々氏、推薦!」や「誰々氏、絶賛!」も本屋でよく目につきます。

出版社や著者が、その本の分野の著名な人物などに、本を推薦してもらうわけです。

原稿や校正刷を真剣に読んで「これならば、推薦しましょう」と返事をする推薦者もいれば、「原稿を時間がないけど、いいよ」と二つ返事をする推薦者もいます。無償の場合もあれば、名前を出すからにはということでギャランティが支払われる場合もあります。

これらの紋切型をすべて集めると、「たちまち大増刷!『目からウロコのカラオケ上達法!』大木凡人氏推薦!」といったものになります。

しかし、多くの本や雑誌が置かれている書店で、売ろうとする本や雑誌はなにより目立つ存在でなければなりません。広告やタイトルについても、紋切型の表現から、ひねりをきかせた表現に脱却する必要があるかもしれません。

「印刷機が悲鳴をあげる!『ハダシで逃げ出すカラオケ上達法!』大木凡人氏脱帽!」。目に触れた人は「ん……」となるかもしれません。
| - | 20:14 | comments(0) | -
「白黒反転版」で弱視者対策をアピール


(2010年)7月11日(日)に行われる参議院選挙を控え、各政党はホームページに政権公約を掲げています。

政党によっては、「白黒反転版」の政権公約一覧を掲載しています。紙でいう白地の部分を、黒塗りに、ぎゃくに政権公約の書かれている文字の部分を白抜きにしたもの。

自由民主党のホームページの説明によると、「『NPO法人大活字文化普及協会』のみなさまより、加齢や病気により視力が落ちている方をはじめ、すべての方が読みやすい「白黒反転」の自民党マニフェストを作成して下さいました」とあります。

大活字文化普及協会は、福祉団体、医師、民間企業の連携で、大活字本の普及をはかることにより、弱視者の暮らしやすい社会をつくることを目的とした団体。今回の「白黒反転版」については、「当協会では加齢や病気により視力が落ちている方をはじめ、すべての方が読みやすい『白黒反転』のマニフェストを作成し、各政党に寄贈させていただく活動を行っております」とあります。

同協会の白黒反転版を採用した政党は、民主党、自民党、公明党、共産党。社民党も白黒反転のダイジェスト版をホームページに掲げています。

眼だまの内側層にある網膜をつくる錐体という細胞のはたらきが悪かったり、眼の光を調節するはたらきが衰えたりすると、光がまぶしく感じられます。ものを見るためには光が必要ですが、こうした症状の弱視者にとっては、光のまぶしさにより文字を読むことがむずかしくなります。

白と黒をくらべると、黒は光を吸収するのに対して、白は光を吸収しません。感覚的にも、黒は光が少なく、白は光が多いことがわかります。

文字と文字でないところの区別がつくという点では、ふつうの白地に黒文字の読みものも、白黒反転版も、変わりません。弱視者が文字を読めるよう、白黒反転版が用意されたわけです。

テレビの政見放送の手話とならんで、政権公約の白黒反転版は、政策を伝える手段として標準化されていくことでしょう。政党にとっては、白黒反転版を掲げていること自体が、弱視者・非弱視者にかかわらず「弱視者の読みやすさを考えている」という福祉面でのアピールにもなります。

特定非営利活動法人大活字文化普及協会のホームページはこちら。同協会が提供した白黒反転版マニフェストのリンク一覧もあります。

参考文献
中野泰志、小田浩一、中野喜美子「弱視児の見えにくさを考慮した読書環境の整備について」
| - | 19:44 | comments(0) | -
自動販売機で命を救う


日本を訪れた海外の観光客は、街なかに置かれてある自動販売機の多さに驚くといいます。治安があまりよくない国では、自動販売機は破壊される対象。しかし、日本では自動販売機を壊されたという話はあまり聞くことがありません。

日本自動販売機工業会によると、日本の自動販売機の数は2009年末で400万台。人口が倍の米国では750万台といい勝負ですが、人口が4分の3のドイツでははるかに少なく200万台未満といいます。

街にあふれる自動販売機を、ものを売ること以外の目的で使おうとする動きが増えてきています。

災害に役立てられようとしているのが、災害対応型自動販売機や災害対策用自動販売機とよばれるもの。

おもなはたらきがふたつあります。

ひとつは、写真の赤字にあるように、災害が起きたとき、飲みものを無料で飲んでもらうということ。実際、2007年3月に起きた能登半島沖地震では、無料で市民に2,300本の飲みものが提供されました。電気は市役所の小型発電機を使用。役所からの遠隔操作で、自動販売機の鍵を外しました。

もうひとつのはたらきも、遠隔操作で行うもの。電光掲示板のある自動販売機では、災害に関する情報を提供します。日本コカ・コーラによると、「人が多く集まる場所、災害時避難場所に指定されている場所などを中心に設置されています」とのこと。

京都市交通局は、2008年より、市営地下鉄のすべての駅に災害対応型自動販売機が置かれています。1台に600本ほどの飲みものが入るとされています。市民の数にくらべてかぎりがあるものの、給水車などが巡回しだすまでのあいだ、命を救うための水になるかもしれません。

災害が起きたとき、多くの国ではものの略奪や盗難がおきるもの。いっぽう、日本では、阪神淡路大震災のとき、逆に助け合いや譲り合いの場面が多く見られました。

災害対策用自動販売機も、日本人のこうした災害時の行動を前提としている部分は多くあるでしょう。

参考資料
日本自動販売機工業会「自販機普及台数及び年間自販金額」
フジサンケイ ビジネスアイ2009年2月26日「災害対応型自販機 危機意識追い風、増殖中」

参考ホームページ
日本コカ・コーラ「いろいろな自動販売機のご紹介 北陸コカ・コーラボトリング株式会社」
| - | 23:59 | comments(0) | -
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