科学技術のアネクドート

じゃんけんで勝つのを見るだけで脳は反応


かつて「アメリカ横断ウルトラクイズ」という番組で、海外へむかう飛行機に乗れる参加者をじゃんけんでしぼるというゲームがありました。成田空港で荷物まで用意しながら、じゃんけんで負けると日本から“お見送り”となります。

自分と相手の勝ち負けを、その場で決めるためのかんたんな方法がじゃんけんです。絶対的な運で勝負が決まるのでなく、絶対的な実力で勝負が決まるのでもない点がこの方法の特徴といえます。

じゃんけんをする本人であれば、多くの場合、勝てばうれしさを、負ければくやしさを感じることになります。いっぽう、じゃんけんする本人でなくても、ただ勝負が決するところを見るだけで、脳は反応してしまうもののようです。

こんな実験結果が報告されています。映像が映しだされる画面で、下からと上から手を映し、このふたつの手がじゃんけんをします。ふだん人が目で見ている視界とおなじように、下の手は“自分の手”、上の手は“相手の手”と見立てているわけです。

映像を見た被験者の脳がどのように活発するかを実験で見ました。脳が活発に反応するかどうかは、しばしばヘモグロビンという物質の量で調べられます。脳の血のなかのヘモグロビンが濃くなるほど、脳は活発に反応していることになります。

実験の結果、下の手が勝ったときは、脳のなかのヘモグロビンという物質の量が脳の血液に多く含まれることになりました。いっぽう、下の手が負けたときは、逆にヘモグロビンの量は下がりました。また、あいこの場合は、脳の血液のなかのヘモグロビンの量は勝ったときと負けたときの中間となりました。

人の脳には、「ミラー細胞」とよばれる細胞があります。相手が泣いたり、笑ったり、怒ったりしている姿を見ると、あたかもそれが自分の身に起きているかのごとく反応する脳の細胞です。

この実験では、じゃんけんで勝つという望ましい状況を見たとき、とくに脳のミラー細胞の動きは活発になるということを示しているようです。

参考文献
阿部良輔ら「他者運動の結果がミラーシステムの活動に与える影響」
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知ることから始める高血圧治療(8)

『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』には、高齢者、女性、小児・青年の高血圧治療についての指針が出ています。

そのむかし、「高齢者の上の血圧は、年齢に90を足した値が最適」といった学説がありました。しかし、この説に根拠はなく、いまでは「高齢者でも血圧は低いほどよい」といった考えかわっています。ガイドライン2009では、「いずれの年齢層でも140/90ミリメートル水銀未満の降圧により予後改善が期待できる」と書いてあります。

治療計画は、高齢者向けのものが用意されています。生活習慣の修正から始まりますが、その後、症状の改善が見られない場合は、1種類の降圧薬から始める第1ステップ、2種類の薬を併用する第2ステップ、3種類の薬を併用する第3ステップへと進んでいくことになります。



女性の血圧の傾向として、40歳代ごろまでは男性よりも齢をとることによる血圧上昇はゆっくりめという点があげられます。これは、女性ホルモンが血圧の上昇を抑えているからといわれます。しかし、更年期を過ぎると、急に血圧は高くなっていき、男性に追いつく傾向もあります。

女性の高血圧についても、ガイドライン2009で指針が示されています。まず、妊娠にみられる高血圧を「特殊な条件下での高血圧と理解する」ように示しています。「妊娠高血圧症候群」ということばを出して、「軽症の妊娠高血の治療は積極的には行わない」「ACE阻害薬とARB(レニン・アンジオテンシン変換酵素阻害薬)は禁忌である」といったことも書かれています。

また、子どもや若者の高血圧は、大半が本態性高血圧であり、肥満とともにおきることが多いとガイドライン2009は示しています。本態性高血圧とは、「塩の摂りすぎが原因かもかもしれないし、肥満が原因かもしれないし、ストレスが原因かもしれない」などのように、原因をつきつめることができない高血圧のことをいいます。

明らかに血圧が高くなったということがあれば、「二次性高血圧を考える」としています。二次性高血圧とは、腎臓の異常など原因がはっきりとわかる高血圧のことです。

『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』に載っている項目も残り少なくなりました。次回で最終回になりそうです。つづく。

参考文献
『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』
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電気自動車が加速させるトヨタとテスラの提携


トヨタ自動車は、米国のテスラモーターズと電気自動車の開発で提携したと、(2010年)5月21日に発表しました。

テスラモーターズは、カリフォルニア州パロアルトにある自動車の新興企業。2003年7月、技術者のマーチン・エバーハード氏とマーク・ターペニング氏により法人化されました。電気自動車の開発では、高速走行ができる「ロードスター」という電気自動車を開発しています。トヨタ自動車の発表によると、これまで北米、欧州、アジアで1000台以上を発売してきました。

今回の提携の背景として指摘されているのが、トヨタ自動車の電気自動車開発への出遅れ感です。「トヨタ」といえば「プリウス」というハイブリッド車があまりに有名です。

しかし、低公害車開発の大きな流れは、走行に化石燃料も使われるハイブリッド車から、電気しか使われない電気自動車へと動きはじめています。トヨタ自動車にとって「プリウスのトヨタ」という大きな看板は、“足かせ”になっていく可能性もありそうです。

日産自動車は、2010年12月、電気自動車「リーフ」を発売する予定です。2010年4月から受け付けを開始。価格は補助金を計算に入れないと376万円。高価ながら、今年度販売目標は6000台ですが、受付から3週間で3745台の受注がありました。

トヨタ自動車は、以前から「2012年までに電気自動車の市場投入を」という計画があると報じられていました。2009年1月のデトロイトでの北米自動車ショーでは,電気自動車の試作車を初公開。超小型車「iQ」をもとにしたもので,1回の充電で80キロメートルの走行が可能としていました。

しかし、超小型車の生産・販売だけでは、他社の電気自動車開発に肩を並べられないと判断したのでしょう。

トヨタ自動車はテスタモーターズとの関係について、「電気自動車とその部品の開発、生産システム及び技術に関する業務提携を実施していく」「両社は、専門チームを組織し、具体的な提携業務の内容や対象範囲等について、検討を開始する」としています。

トヨタ自動車が電気自動車開発に本腰を入れることにより、ハイブリッド車から電気自動車へ、低公害車の主流の移りかわりが加速していきそうです。

トヨタ自動車の2010年5月21日の発表「テスラとトヨタ、電気自動車開発で提携」はこちら。
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知ることから始める高血圧治療(7)

高血圧の合併症とよばれるものは、高血圧が引き起こす脳、心臓、腎臓、大動脈での血管の病気のほか、高血圧とともにこれらの病気を引き起こす病気もあります。糖尿病、脂質異常症、肥満、メタボリックシンドロームなどがあります。

これらの高血圧と並ぶ病気を合併している場合、高血圧の治療はどのようにすればよいのでしょうか。『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』の要旨をまとめてみます。

糖尿病を合併している人は、血圧を上が130ミリメートル水銀、下が80ミリメートル水銀までさげることが目指されます。糖尿病と高血圧を合併している人が血圧を下げると、大小の血管で起きる障害へのリスクが減ることがわかっています。

また、薬はACE阻害薬や、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が第一選択薬としてすすめられています。

脂質異常症は、血液のなかのコレステロールがが多すぎたり少なすぎたりしている状態を指す病気です。「高コレステロール血症」よりも広い意味で使われるようになりました。脂質異常症と高血圧が合併すると、動脈硬化への危険が高くなります。

薬は、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などの脂質代謝改善効果があるものが好ましいとされています。

肥満と高血圧が合併したときは、食事や運動による減量がすすめられます。それとともにアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)やACE阻害薬などの降圧剤がすすめられます。

メタボリックシンドロームは、ガイドラインには、次のように定義されています。

(1)正常高値以上の血圧レベルと(2)腹部肥満(男性の腹囲が85センチ以上、女性の腹囲が90センチ以上)に加え、(3)血糖値以上(空腹時血糖が110〜125mg/dL、かつ/または糖尿病に至らない耐糖能異常)、あるいは(4)脂質異常(HDLコレステロール40mg/dL未満、かつ/またはトリグリセライド150mg/dL以上)のどちらかであること。

メタボリックシンドロームが伴う高血圧では、薬としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)やACE阻害薬がすすめられています。つづく。

参考文献
『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』
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道具の「試金石」はこすられていた


ことばの意味は、ときによって消滅していくものもあれば派生していくものもあります。

スポーツや政治の世界では「試金石」がたびたびもちだされます。「先発投手の座をつかむためには次の登板がいい試金石の場になる」と野球の監督はいいます。「党再生の試金石となる次の選挙で勝利して、政権への道を切り開きたい」と政治家はいいます。

「試金石」を、新聞などのことばで目にすることは多くても、道具としての実物を見たことはないという人も多いことでしょう。

試金石は、上の図のようなかたち、または四角いかたちをした黒い石です。三重県の熊野市付近でとれた那智黒石という石が使われます。石のつぶつぶの向きがおなじほうに揃っているため、緻密さがある石といわれます。

江戸時代の人びとは、この試金石を使って、金といわれているものが、ほんとうに金であるか、また金の純度はどれくらいかを確かめていました。

金を、試金石の上で軽くこすります。すると、石の表面にこすったあとが色で出てきます。おなじく、金の純度を調べる基準になる「手本金」とよばれる金を、試金石の上で軽くこすります。これでこすれたあとの色をくらべてみるわけです。手本金は、金の純度によって何種類もあるので、調べる金の純度がどれくらいかを見ることもできます。

「金」を「試」してみる「石」。なので、試金石。純度がどのくらいかを試しに調べたい金があるとともに、その指標となる手本金もあるわけです。

しかし、いまの世の中で「試金石」がことばとしてもちだされるときは、それほど厳密に使われている様子はありません。辞書の「試金石」の項目も、転じた意味として「価値・力量などを判定する材料となる物事」とだけ書かれています。
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知ることから始める高血圧治療(6)

ある病気にともなうほかの病気を「合併症」といいます。『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』では、合併症をともなう高血圧の治療について、指針が示されています。

脳こうそくなどの脳血管障害では、発症3時間の超急性期には、上が185ミリメートル水銀、下が110ミリメートル水銀以下まで血圧を下げることが目指されます。その後、発症1週間から2週間の急性期にかけてじょじょに下げていき、発症1か月以降で上が140ミリメートル水銀未満、下が90ミリメートする水銀未満になることが目指されます。

脳血管疾患とともに知られている高血圧の合併症が、心疾患、つまり心臓の病気です。心臓を取りまく冠動脈という動脈の疾患にかかった場合、上の血圧は140ミリメート水銀未満まで、下は90ミリメートル水銀未満まで下げることが原則です。

また、心臓の一部である心室がリズムよく収縮しなくなる、心室細動という病気も最近ふえてきています。降圧薬のうち、レニン・アンジオテンシン系阻害薬を中心とした薬で血圧を下げることにより、心室細動を防げることがすこしずつわかってきました。

また、腎臓も血管でできた臓器であり、高血圧との関わりは密接です。腎臓は血圧を上げるレニン・アンジオテンシン系とよばれる物質を出すことがしられています。慢性腎臓病にかかった患者には、血圧を下げる、レニン・アンジオテンシン系を抑える、尿蛋白などを減らし正常化させる、といった療法が原則となります。血圧は、上が130ミリメートル水銀未満、下が80ミリメートル水銀未満まで下げることが目標となります。

また、心臓や腎臓といった臓器ではないところの動脈も、高血圧の合併症が起きます。「大動脈解離」がその代表例です。

心臓と体の各部分をつなぐ“幹線道路”である大動脈の血管は、3つの膜が重なるようにできています。大動脈解離はこのうち、まんなかの膜に血液が入りこんでしまい、層が剥がれてしまう病気です。動脈の壁が剥がれてしまうので、とうぜん動脈は脆くなり、最悪の場合は破裂してしまいます。

大動脈解離では、上の血圧を120ミリメートル水銀未満にコントロールすることが目指されます。

脳、心臓、腎臓、大動脈で起きる合併症は、高血圧が引き起こす結果としてのもの。いっぽう、脳、心臓、腎臓、大動脈の病気を、高血圧とともに引き起こす病気があります。糖尿病、脂質異常症、肥満、メタボリックシンドロームなどです。これらの病気が合併したとき、高圧をどうすればよいか、次回で見ていきます。つづく。

参考文献
日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』
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「温暖化」「枯渇」の裏でしのびよる「磁場の減少」


「地球の危機」と聞いて思い浮かぶものというと、「地球温暖化」や「資源の枯渇」といったところをあげる人は多いことでしょう。「絶滅種の増加」をあげる人も増えてくるかもしれません。

これらにくらべて、まだ大々的には伝えられていませんが、これらとは異なるもうひとつの「地球の危機」が迫っているかもしれない、という話があります。

地球をとりまく磁場がいま、かなりの勢いで少なくなってきているというのです。磁場とは、磁石のまわりに目には見えないけれど存在する力の場のこと。地球そのものは大きな磁石であり、地球は大きな磁場をもっています。

北極あたりにS極があり、南極あたりにN極があります。このために、方位磁石が役に立つわけです。しかし、地球のS極とN極があるのは、「北極あたり」「南極あたり」。北極点や南極点とぴたりと一致する性質のものではありません。それどころか、地球のS極とN極は大きな時間軸では、揺れうごいているのです。

いまからは80万年前の地球では、いまとは逆に北極あたりにS極が、南極あたりにN極があったといいます。つまり地球の磁場は、時が経つとともに逆転を繰りかえしているのです。

地球の磁場の逆転は、人が寝て起きたらS極とN極が入れかわっていた、というほどに瞬間的なものではありません。いま、地球の磁場が少なくなっているのは、逆転期に入ったからだと考えられています。あと1000年後に地球の磁場は逆転するという話もあります。

地球の磁場がなくなると、まずいことが起きます。

まず、宇宙線という高いエネルギーを帯びた放射線が地球にじかに降り注いでくることになります。いまは、地球の磁場がいわば宇宙線を“バリア”しているため、人や動物はこの高いエネルギーの放射線にさらされることはほぼありません。しかし、磁場がなくなれば、人や動物は宇宙線に対して野ざらし状態になってしまいます。

過去に起きた生物の大量絶滅は、この地球の磁場の逆転の磁気とも一致しているといいます。750年後には、地球の磁場はいまの半分にもなっているといいます。

100年後、地球温暖化の危機が、各国の二酸化炭素削減の努力か、ほかの理由で回避されているとします。その時代の人々の地球環境への関心は、もはや「地球磁場の維持」に移っているのかもしれません。

参考文献
竹内薫「人類絶滅の危機が、1000年以内に訪れる!?」Web25
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知ることから始める高血圧治療(5)

高血圧の治療では、まずは、食事や運動などによる生活習慣修正から始めます。

しかし、しばらく続けても、高血圧の状態がつづく場合は、薬を飲む治療も始めることになります。なお、(2)で見た「リスクの層別化」で「高リスク」にある人は、ただちに薬による治療を始める必要があります。

血圧を下げるための薬は「降圧薬」といいます。『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』で示されている代表的な降圧薬は、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB、Angiotensin II Receptor Blockers)、ACE阻害薬(Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors)、利尿薬、β遮断薬といったものです。

ガイドラインに示されていませんが、これらの薬は作用のしかたにより、みっつの種類にわけることができます。

ひとつめは、利尿剤とよばれるもので、これは上に挙げられたなかでは利尿薬があてはまります。利尿とはおしっこの通じをよくすること。利尿剤は、高血圧の原因となる塩分と水分をおしっことして排泄するのを促すはたらきがあります。これにより、血圧を下げるのです。

ふたつめは、血管を広げる働きのある薬で、カルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬などがこの類に入ります。血圧が高くなる原因のひとつに、血管が狭くなることがあります。ゴムホースの水をぎゅっと絞るとそこから水の勢いは強くなります。これとおなじように、血管が狭いと血圧は高くなるのです。これらの薬は、方法は異なりますが、いずれも血管を拡張させる働きがあります。

みっつめは、心臓の拍動数を少なくさせる薬です。ベータ遮断薬がこれに当てはまります。血液を送りだす心臓の“どくんどくん”を抑えることで血圧を下げるというわけです。

降圧薬を飲みはじめるときは、医者から処方された一種類の薬をまず飲みはじめるのがふつうです。それでもなかなか血圧が下がらない場合は、ふたつの薬を併用するなどして、薬の種類や量を増やしていきます。


ガイドラインでは、併用するのにふさわしい薬の組み合わせも示されています。中心となるのは、カルシウム拮抗薬と利尿薬。まず、カルシウム拮抗薬は、利尿薬、ARB、ACE阻害薬、β遮断薬のいずれとの併用も奨められています。また、利尿薬は、カルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬との併用が奨められています。

また、体の状態によっては飲まないほうがよい降圧薬もあるため注意が必要です。たとえば、妊娠中の女性は、ARBやACE阻害薬は飲まないようにとされています。β遮断薬にはせきの副作用があるため、喘息もちの人は使わないほうがよいとされています。つづく。

参考文献
『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』
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NEDO「開発プロジェクトのその後を追う!」を公開中


新エネルギー・産業総合開発機構(NEDO)が、「研究開発プロジェクトのその後を追う! NEDOプロジェクト実用化ドキュメント」というホームページを公開しています。

NEDOは、経済産業省系列の独立行政法人。1980年に新エネルギー総合開発機構として立ち上がりました。おもにエネルギー関係の政府予算を預かり、プロジェクトを公募して、企業や大学に研究開発を行わせるための役割があります。企業のみあるいは大学のみの予算では進められないような大型プロジェクトについて、「こんな技術を開発しませんか」とNEDOが提案して、企業や大学がその指に止まる、といったかたちでプロジェクトが行われます。

NEDOのプロジェクトは市民の税金で成りたっているため、そのプロジェクトがどのように市民生活に役立てられているのかを市民に報告するつとめもあります。その一環として、「研究開発プロジェクトのその後を追う!」があるわけです。

NEDOはホームページで、「成果が社会に現れる『上市』までには、プロジェクトに参加した企業や機関のさらなる開発努力があります。NEDOでは、プロジェクト終了後5年間、プロジェクトの「その後」を追い、成果の社会への広がり(新規市場形成・製品化等)を把握する 「追跡調査」を実施しています。この追跡調査によって把握された製品やサービスを中心に、実用化への研究開発ストーリーを順次紹介していきます」と話しています。

2008年度からはじまり、いまは「シリーズ2」を展開中。これまでに紹介してきたプロジェクトの事例は、JFEエンジニアリングが兵庫県東部に建設した広域ごみ焼却施設「国崎クリーンセンター」や、関東電化工業が開発した半導体製造用クリーニングガス「フッ化カルボニル」など。

研究開発者にとって、他の企業や他の大学の研究開発者と手を組んでおこなうプロジェクトは、また別の味がする模様。そうした苦労話も聞くことができます。

NEDO「研究開発プロジェクトのその後を追う! NEDOプロジェクト実用化ドキュメント」2008年度のシリーズ1はこちら。
2009年度のシリーズ2はこちら。
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知ることから始める高血圧治療(4)
知ることから始める高血圧治療(1)

『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』をもとに、これまでの3回の記事では、高血圧かどうかを診断する方法などについて紹介してきました。

では、治療法はどうなっているのでしょう。

まず、高血圧を治療する対象として、「すべての高血圧患者(血圧140/90ミリ水銀以上)であり、糖尿病や慢性腎臓病(CKD)、心筋梗塞患者では130/80ミリ水銀以上が治療の対象となる」としています。

そして、治療の方法は2段階にわかれます。

第一段階は、生活習慣の修正。第二段階は、降圧薬治療つまり薬を飲むことによる治療です。

生活習慣の修正では、さらに6つの項目に細分化されています。「減塩」「食塩以外の栄養素」「減量」「運動」「節酒」「禁煙」です。

減塩目標で定められている基準は、1日食塩6グラム未満。日本人は食塩を多く摂る国民であることが知られていて、平均摂取量は減塩目標の倍の12グラムほどといわれています。

スーパーやコンビニエンスストアで売られている食品の表示には「ナトリウム(Na)」が表示されていて、「ナトリウム量(グラム)×2.5=食塩量(グラム)」という計算をして、食塩摂取量を考える必要があります。

また、野菜や果物、魚を積極的に摂ることも奨められています。

減塩については、ボディ・マス・インデックス(BMI)という指標で出る数値が大切になります。BMIは、「体重(クログラム)÷身長(メートル)÷身長(メートル)」で出る値のこと。これが25未満になることが目標です。ただし、ただ4キログラムや5キログラム下がることでも、血圧が下がることはわかっています。

運動は、ウォーキング、ジョギング、水泳のような息を吸ったり吐いたりしながら行う有酸素運動を中心に、毎日30分以上を目標に行うことが奨められています。

また、お酒は、男性の場合エタノール換算で20ミリリットルから30ミリリットル以下と書かれています。これは、およそ、日本酒1合、またはビール大瓶1本かワイン2杯までといった値。女性はこれより少ない10ミリリットルから20ミリリットル以下に抑えることが書かれています。

喫煙については「心血管病の強力なリスクであり、一部で高血圧への影響も指摘されているので、喫煙(受動喫煙を含む)」の防止に努める」といったほどしか書かれていません。

ほかにも、寒さを防ぐこと、情動ストレスを管理することなどが生活習慣の修正として盛り込まれています。つづく。

参考資料
日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』
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コンペティションの“丸ごと依頼”に葛藤するフリーランス者
 出版や編集の世界には「コンペティション」または「コンペ」とよばれる行事があります。

「こういう分野のこういう広報誌を発刊したいと思っています。興味ある編集プロダクションは名乗り出てください」と、よびかけ者がよびかけ、応募してきた編集プロダクションのなかから、どの集団に委託するかを選ぶといったものです。官公庁、独立行政法人、学校や予備校、一般企業など、さまざまな団体がコンペティションを開いています。

たいていの場合、よびかけ側は「コンペをするにあたり、これこれこういう主題にそって見本記事をつくって、何月何日までに提出してください」と条件を出します。応募してくる編集プロダクションの腕前を見るためです。

ここまではよびかけ側の話。ここからは編集プロダクションの話です。

コンペティションに応募することに決めた編集プロダクションは、見本記事の提出にむけて制作体制を固めます。その編集プロダクションがこれまで手がけてきた分野の記事づくりに取り組むのであれば、多くの場合、そのプロダクション内にいる編集者が編集をし、過去に執筆依頼をしたことのあるフリーランスの記者などに原稿づくりを依頼することになります。

いっぽう、それまであまり手がけてきたことのない分野の記事づくりに取り組まなければなりません。すると、その分野に詳しそうで制作を頼めそうな人物を探すことになります。「エコカー普及という主題の見本記事をつくるように」とよびかけ側から主題が出ていたら、エコカー関連の本や記事をつくったフリーランスの編集者や記者を探して依頼をします。

ここまでは編集プロダクションの話。ここからはフリーランス者の話です。

ある日、編集プロダクションから連絡がきます。「エコカー関連のコンペティションに参加する予定ですが、記事づくりにご協力いただけませんか」と依頼がくるわけです。

フリーランス者がその相談に興味がある場合は、さっそく編集プロダクションに出むいて、コンペティションの内容などを聞き、記事づくりの仕事内容を詰めていきます。

このとき、ごくまれにフリーランス者は編集プロダクションから“丸ごと依頼”を受けることがあります。編集プロダクションが取り組む記事の分野に詳しくないため、フリーランス者に、記事で伝えるメッセージの検討、題材の検討、原稿執筆、レイアウトなどをまるごと記事づくりを依頼するわけです。

この“丸ごと依頼”については、フリーランス者の間では賛否両論あるようです。

「賛」をあげるおもな理由は、記事づくりに自由に取り組めるということ。すべてを自分のやりたいようにやらせてくれるわけです。思い浮かんだ記事のイメージがあれば、ただ単純にそれを目指すこともできます。

いっぽう「否」のほうは、やや複雑です。編集プロダクションの依頼を受けて記事を丸ごとつくるという意義を見失うためです。

「編集プロダクションは、丸ごと依頼をしてきた。どのような記事をつくっても基本的には自由だ。であれば、なぜ自分は編集プロダクションの依頼を受けてやるのだろうか」

フリーランス者も、おなじフリーランスの仲間と即席チームを結成すれば、コンペティションに参加することはできます。となると、編集プロダクションから依頼を受けて記事づくりに取り組むのと、即席チームを自分でつくって記事づくりに取り組むのとでは、その違いを見出しづらくなります。

コンペティションで採用された場合、編集プロダクション経由で制作料や原稿料をもらうより、よびかけ側から直接的に制作費をもらうほうが、金額も高くなるでしょう。

「『編集プロダクションとして、こういう記事の方向性を目指している。その方向性に向けて、自由に取り組んでほしい』ぐらいのことを言われて取り組むのが、やりやすいよね」というフリーランス者の声も聞かれます。
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科学ジャーナリスト賞2010松村さん「科学と短歌の共通点は“センス・オブ・ワンダー”」佐藤さん「伝えるためにおもしろく」
科学ジャーナリスト賞2010では、企業を退職後、フリーの物書きとなった方も受賞しました。

歌人でフリーライターの松村由利子さんは、元毎日新聞科学環境部の記者。科学を詠んだ短歌を紹介する著書『31文字のなかの科学』(NTT出版)に対して、科学ジャーナリスト賞が贈られました。

松村由利子さん

「大きな賞をいただき、嬉しい気持ちと責任を感じています。私は、大学では英文学科でした。これまで受賞なさった方のなかで、最も科学の素養がないのではと思っており、いろいろな仕事をなさっているジャーナリストの方に申しわけないような、気恥ずかしい思いです」

「毎日新聞の科学環境部で5年間、働いてきました。取材やレクチャーでなにを質問すればいいかわからないような不安や戸惑いがあり、失敗も繰り返した記者でした。ですが、辛かったり、厳しいと感じたりしていたかというと、決してそうではありません。日々、新しいことを
取材するのが楽しくてたまりませんでした」

「私は、科学と短歌は大きな共通点があると思います。それは、“センス・オブ・ワンダー”です。優れた科学者は、だれもが見過ごすような小さな点に疑問、不思議、美しさを発見し、それを手がかりに新しい研究を進めていくのだと思います。優れた歌人もまた、道に咲いているありふれた花、ありふれた親子の情、ほのかな恋心などに新しい驚きと感動を覚えて、それを歌にします」

「短歌が、千数百年の歴史をとおして、この時代まで生き残っているのは本当に不思議だと思います。短歌に生命観や世界観を入れられることも、驚きであり、新鮮な感動があります。センス・オブ・ワンダーを扱う科学を題材にして歌にすることには、二重の意味での感動があると思い、多くの人に伝えたいという気持ちで本を書きました」

「本のなかには、細胞について爽やかに教えてくださった女性の先輩が登場します。青野由利さんです。青野さんと同時受賞できたことも、うれしいことのひとつです」

「忘れてはならないことがあります。今回の本は、私一人で書いたものではないということです。本で紹介した歌は、私が歌集や短歌雑誌を読んでいるなかでノートに書き写したものの一部です。科学を題材にたくさんの歌がつくられていることを伝えたいと思いました。数々の歌をつくっていただいた素晴らしい歌人の方々、記者時代あたたかく叱咤・指導をしていただいた毎日新聞科学環境部のみなさんに感謝の気持ちを申しあげます。どうもありがとうございました」

松村さんの著書『31文字のなかの科学』はこちらでどうぞ。


佐藤健太郎さんは、いまは東京大学の広報担当特任助ですが、かつては製薬企業の研究者でした。大学の広報をするかたわら、本を出しています。『医薬品クライシス』(新潮新書)の著作に対して賞が贈られました。

佐藤健太郎さん

「栄えある賞をいただきました。ありがとうございました。3冊目の著書ですが、これまでの2冊は私のホームページをまとめたものなので、今回が初の書き下ろしです」

「『医療品クライシス』というタイトルを付けていただいた点がよかったですし、また(製薬業界の)2010年問題もありタイミング的にもよかったです。いろいろなことに恵まれました」

「私は2007年末に、13年近く勤めていた製薬企業をやめました。ホームページに化学のことを書いているうちに評判がよくなり、『ホームページを見て有機化合物の道を選びました』と言ってくれた学生もいました。化学についての本はなかなか出ていないので、こういうテーマを深く書いてみたいと思いました。無茶とも思いましたが、会社を辞めてサイエンスライターになりました」

「『サイエンスライター』の定義については、あまり深く考えたことはありませんでした。大事なことは、伝えるべきことを伝えることであり、伝えるためにおもしろくないと、読んでくれないと思います。事実を曲げない範囲のなかでおもしろく書けることはたくさんあると思い、今回の本も工夫して書いたつもりです」

「薬にはいろいろと誤解されている点があります。副作用の問題や、作られ方などは知られていないので、それらもテーマにして書き下ろしました。一冊の新書としては詰め込みすぎとも思いましたが、評判よく読んでいただいています」

「いまは、東京大学で広報担当の特任教授をしています。東京大学には広報担当が何人かいますが、才色兼備の素晴らしい女性が多いのです。そのなかで私が広報担当をしています。無茶な人事をする大学だと思いましたが、私を選んでいただいた中村先生に少しだけ恩返しができました」

「次回作も進めています。大学の仕事が忙しくて進みませんが、なんとか書きたいと思っています。ありがとうございました」

佐藤さんの著書『医療品クライシス』はこちらでどうぞ。
http://www.amazon.co.jp/dp/4106103486/

日本科学技術ジャーナリスト「『科学ジャーナリスト賞2010』が決定しました」はこちら。
http://jastj.jp/?p=206

受賞者のみなさま、おめでとうございます。
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科学ジャーナリスト賞2010外岡さん「情報機関の整備が急務」青野さん「緊張関係とともに協力関係」
「科学ジャーナリスト賞2010」では、昨2009年にH1N1型の世界的大流行もあったインフルエンザに関連するテーマの作品に対して、賞がふたつ贈られました。

元・小樽市保健所長で医学博士の外岡立人さんは、ウェブ「鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報集」を主宰し、世界のインフルエンザについての情報を翻訳するなどして、提供しています。このウェブ活動に対して、科学ジャーナリスト賞が贈られました。

外岡立人さん

「このたびこのような賞をいただくことができ、光栄に思います。私を推薦していただいた方がた、審査員の方がたにあつく感謝を申しあげます。また、講評の労をとっていただき、過分なる言葉を頂戴しました白川秀樹先生に厚く御礼を申しあげます」

「医師である私がジャーナリストの分野で賞を受賞したのは、自分自身でも、非常に大きな驚きですが、同時に、自分が行ってきた作業が、自分の目的に沿った結果を得たことと認識しており、二重のよろこびとなっています。危機管理でもっとも重要なのは社会における情報共有と考えています。国、行政、マスコミ、一般市民が情報を共有し、そして危機管理上の各自の機能を果たすのが成熟した社会と考えています」

「私は2005年から、世界の鳥インフルエンザ、また、パンデミックインフルエンザ情報を訳してウェブで紹介してきました。約5年間で取り上げた海外情報は2万件を超えています。そうした流れのなかで、昨年から、新型のH1N1情報も収集の対象に加わりました。インフルエンザの毒性やそれにもとづいた対策などをウェブのなかで提案してきました。多くの自治体関係者や企業関係者の反応をいろいろありましたが、なかでも家庭の一般主婦からの反応がつよく心に刻まれています」

「家庭に小さな子どもと高齢の両親を抱えた主婦の方から、新型インフルエンザが自分たちの周囲に近づくことを怖れ、多くの報道や地域の行政機関の情報から知識を得ようとしてたようです。しかし、報道では怖い話しか得られず、国や行政機関の情報もほとんど頼りにならないということでした。世界や国内の情報に触れることで視野が広がり、安心できたのかなと思います」

「危機管理では、世界全体の情報共有が必須と考えます。インフルエンザの場合、国境はありません。世界における発生状況はそのままわが国の対応にも影響をあたえます。現在、西アフリカの地域、シンガポール、マレーシアなどで、新型インフルエンザが流行しています。しかし、現時点では病原性に変化は出ていません。また冬期間に入る南半球では現時点ではインフルエンザの発生は見られていません。南半球での流行状況は、この冬の北半球での流行状況を予知する上で非常に重要な情報になります」

「また、H5N1鳥インフルエンザはインドネシア、ベトナム、またメキシコでも感染者が出ています。こうしたウイルスが変異して、容易に人に感染するようになった場合、ウイルスは知らないうちに世界に拡大する可能性があります。2009年4月、昨年、WHOは豚インフルエンザが発生し、それがパンデミックになる危険性があると突然に発表しました。3月上旬にメキシコで発生していた豚インフルエンザにWHOは気づいていなかったことになります。感染症、とくにインフルエンザは感染速度が速いため、世界のどこで発生しても、国内で発生しても、判断する必要があります。わが国の情報機関の整備が急務と私は考えています」

「いかに社会全体で情報を共有するか。またその情報は、誰が発信するのか。そうしたシステムをだれが構築するのか。これらが重大な課題となっています。私が主催するウェブは、微力ながらも社会の新型インフルエンザに関する情報発信の役割を担っていることが認められ、今回このような名誉ある賞を受けたことは、今後の私の仕事継続において大きな心のよりどころになると確信しています。本日は本当にありがとうございました」

外岡さんが主宰する「鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報集」はこちらです。


毎日新聞論説委員の青野由利さんは、著書『インフルエンザは征圧できるのか』(新潮社)を2009年に出版。この著書により賞が贈られました。執筆を進めているなかで、昨2009年の新型インフルエンザのパンデミックを迎えることになったそうです。

青野由利さん

「今日は、このような素晴らしい賞をいただき、本当にありがとうございました。審査する労をとっていただいた選考委員の方にも、あらためてお礼もうしあげます」

「この本を書きはじめようと思ったのは、だいぶ前の気がします。当時、『パンデミックはかならずくる』と専門家がおっしゃっていました。その何年か前にも、鳥のH5型インフルエンザが人に感染したことを聞き取材をしていました。かならず来るのであれば、書きたいと思っていました」

「スペインかぜのウイルスを復元するため、アラスカの凍土に埋葬されているスペインかぜの犠牲者の遺体を掘り起こすというきわどい話がありました。そのあたりに、サイエンスのある種のロマンを感じたこともひとつのきっかけだった気がします」

「出版社のあてもない段階から書きはじめました。書きたいという話を聞きつけた新潮社の編集者の秋山さんが『書きませんか』と言ってくださいました。(2009年の)パンデミックが起きる前のことです」

「1年前の4月25日、メキシコで死者が出ているということを知り、『ああ、来た』となりました。しかし、そのインフルエンザは豚由来であり、私がそれまで書いて来たものをどうすればよいか、あきらめようかとも一瞬思いました。しかし、その後、秋山さんと話をして、8月末までにかなりの思いで書きました」

「書き終えましたが、その話は(一連のインフルエンザの経過では)途中までとなります。想像されていたよりは犠牲が少なく、いまは小康状態にありますが、さらに書いていきたいテーマではあります」

「このような本を書きたいと思うようになった背景の一つとして、米国や欧州の科学ジャーナリストが本を出し、翻訳されて日本で売られているということがあります。そこに登場するのは日本の科学者でなく、ほぼ海外の科学者です。日本の科学者のことも本で書きたい、という点がひとつの書く動機になっていました」

「日本に優秀な科学者がいるからこそ、科学ジャーナリストや科学ライターは作品を生むことができると思う部分がありました。日本の研究者はがんばっています。その方々からの話が第一線の情報であるということに、本の書きがいがあります」

「(選考委員の)村上陽一郎先生が言われたように、科学ジャーナリストは科学者と緊張関係にあるとうのはその通りだと思います。いっぽうで、協力関係もあると思っています。たがいに刺激しあう部分があるのではないかと思っています。このような本を書くことが、つたないながらもその一助になればと思っています。本当にありがとうございました」

青野さんの著書『インフルエンザは征圧できるのか』はこちらでどうぞ。

日本科学技術ジャーナリスト「『科学ジャーナリスト賞2010』が決定しました」はこちら。
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科学ジャーナリスト大賞2010井出さん「数学者の畏怖の念を伝える」植松さん「反響の大きさに驚き」


(2010年)5月18日、東京・内幸町の日本記者クラブで、「科学ジャーナリスト賞2010」の授賞式が開かれました。

科学ジャーナリスト賞は、日本科学技術ジャーナリスト会議が、優れた科学ジャーナリストの仕事を顕彰するもの。前年4月から1年間に発表された本や新聞、放送番組、ウェブなどを通じて発表した人が表彰されます。

3日間にわけて、大賞と賞の受賞者による、スピーチの要旨をお届けします。

大賞は、NHKチーフプロデューサーの井手真也さんと、ディレクターの植松秀樹さんに贈られました。数学のリーマン予想を扱った番組『素数の魔力に囚われた人々 リーマン予想・天才たちの150年の闘い』に対して大賞が贈られました。

井手真也さん

「素晴らしい賞をちょうだいして、素直に喜んでいます。ありがとうございました。昨年は、リーマン予想が提出されて150年でした。私たちは(数学の)素人ですので、数学の史上最大の難問についての番組をつくるのには、困難を極めました」

「第一に、私たちが少しでもリーマン予想を理解しないといけません。これは、最初からあきらめていましたが、とはいえ視聴者に伝えなければなりません。何となくでもわかったという気分になってもらわなければと思っていました」

「NHKの企画採択者に説明するのも一苦労でした。『リーマン予想とはなにか』と訊かれ、『史上最大の難問なのでわかりません』と言って切り抜けてきました。根負けした採用者たちが企画を通してくれて、番組の取材がスタートしました」

「奇妙な誤解も局内には蔓延していました。金融危機の番組と勘違いをされ『今度の、リーマンショックの番組ですけどね』という問い合わせもありました。私たちは科学番組をつくるセクションにいないので、それも関係していたかもしれません」

「私はリーマンショックの番組も作っていたので、電話をいただいた方がどっちのリーマンを言っているのかわからないこともありました。『リーマンショックは数学者にあらかじめ予想されていたのですね』と言われたこともありました」

「リーマン予想は私たちにも、視聴者にもなじみのないものです。それをどうにか知的エンタテインメントとしてご覧いただくために、CG(コンピュータ・グラフィック)をかなり使いました。大勢かかわったデザイナーやクリエイターの力があったと思います。素数をどう表すかを放送の直前まで考えました。また、ゼータ関数とはなにかという数学的概念をCGで表現するという苦労をしてくださいました」

「数学者が日々、素数に対して抱く畏怖の念があります。この番組の英語タイトルは『The Cosmic Code Breakers』つまり『宇宙の暗号を解く人』です。創造主の暗号のように感じている数学者たちの畏怖の念をテレビが伝えられるか、スタッフ一同で悩んできました。今回いただいた賞をスタッフ全員でわかちあいたいと思います。ありがとうございました」


植松秀樹さん

「立派で大きな賞をいただき、本当にありがとうございました。NHKに入りディレクターとして10年、賞とは無縁でしたのでたいへんうれしく思っています。選んでいただいた先生のみなさま、ありがとうございました」

「科学ジャーナリストの賞ということに対して、恐縮していますし、気はずかしい思いもあります。私は大学、大学院と理系で、情報処理分野の研究をしてきました。しかし、このままやっていてもものにならないと思い、科学に挑戦することをあきらめたのです。それで、テレビ局に入りましたが、10年後に『科学』が付く賞をいただき、不思議な気がしています」

「2か月ほど、編集室にこもりました。ベルンハルト・リーマンのように無精髭もすごくなりました。何度も逃げだしそうになることがありましたが、このような賞をいただき、がんばってよかったと思っています」

「きょう会場に駆けつけてくださった東京工業大学の黒川信重先生のもとに、何度も私と井出が通い、2、3時間の集中講義をしていただきました。『それは先生、野球に喩えるとどういうことですか』といった、無茶なことばかりを言い、ご迷惑もおかけしました。お知恵をどれほど吸収できたかはわかりませんが、このような番組となりました。この場を借りてお礼もうしあげます」

「番組をご覧になった一般の方からの反響の大きさに驚いています。数学に興味がない方からも『よくわからないけれどおもしろかった』という声がありました。『リーマン予想が解けました』というお便りも5通ほどいただきました」

「科学技術の発展に、微力でも寄与できればうれしいことはありません。これからも番組づくりに精進していきたいと思っています。今日はありがとうございました」

日本科学技術ジャーナリスト「『科学ジャーナリスト賞2010』が決定しました」はこちら。
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薬の開発は「低分子からバイオへ」


薬の開発の世界では、ゆるやかながらも確かに「低分子からバイオへ」という流れが見られるようになりました。

「低分子」とは低分子化合物のこと。ものは分子と分子や原子と原子が結びついてできていますが、比較的結びつきの短いものを低分子化合物といいます。これまでの薬は低分子化合物でできていたものがほとんどでした。熱を解く薬として19世紀末に発売された「アスピリン」はその代表格です。

1980年代になると、この低分子化合物の薬をつくる流れとはべつに、新しい薬づくりの流れが生まれました。バイオ医薬品です。

「バイオ」は「生命」を意味する接頭辞。化学的に分子と分子を結びつけて薬をつくるのではなく、生命がもともともっている病気を治そうとする力を集めたものがバイオ医薬品といえます。

バイオ医薬品には、たとえば、からだが「自分とは異なるものが入ってきた」と感じたときに反応してつくる抗体という物質をつくるしくみを利用したものがあります。悪性リンパ腫に効くとされるリツキシマブは、その代表例。価格が高いという点もありますが、2008年の世界の医薬品売上高の4位に入っています。

バイオ医薬品が開発されるようになったのは、いろいろな理由があります。細胞を培養する技術が進み、病気に抗う物質を分泌する細胞を人の手でつくりだすことができるようになったことがあります。また、食品には受け入れられていない遺伝子組み換えなどの遺伝子工学も、医薬品づくりには使われています。

これまで低分子の薬をつくってきた企業が、おいそれとバイオの薬をつくるほうに舵を切れるかというと、そう簡単なことではありません。バイオ医薬品は、よく「ウェット」とか「生もの」といった表現で特徴が示されます。生ものを扱うには、生ものを扱うための知識や技をためていく必要があるのです。

いま世界では、バイオベンチャーとよばれる、生命科学関係の事業を手がける新興企業がバイオ医薬品の開発を進めています。バイオベンチャーが育ててつくったバイオ医薬品や企業そのものを、製薬大手が買いとって自分のものにするといった動きが、これからは活発になっていくかもしれません。

参考資料
協和発酵キリンニュースレター「創薬の新しいフェーズ 低分子医療からバイオ医薬へ」
参考ホームページ
関根進「抗体医薬の現状と課題」『科学技術動向』2009年10月号
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知ることから始める高血圧治療(3)

血圧は、1回の拍動ごとにちがってくるもの。人は1日におよそ10万回、脈を打っているといいますから、理論のうえでは1日に10万回の血圧が上と下ではかれるわけです。

近ごろでは、30分ごとに1度などの頻度で血圧をはかれる24時間血圧計が保険の適用を受け、よく使われるようになりました。10万回とはいわないまでも、24時間の血圧のだいたいのかわり具合を調べることができるようになったわけです。

すると、昼間、病院の診察室ではかる血圧だけでは、その人の血圧の傾向がとらえきれない場合があることがわかってきました。こうした現象は「白衣高血圧」と「仮面高血圧」ということばで説明されています。


白衣高血圧は、白衣を着ている医者や看護士の前で血圧を測ると、ふだんより高い血圧が診断されてしまう状態のこと。『高血圧治療ガイドブック2009ダイジェスト』では、白衣高血圧の定義を「診察室の平均が140/90mmHg以上、かつ家庭血圧が135/85mmHg未満または24時間自由行動下血圧測定(ABPM)での平均24時間血圧が130/80mmHg未満のもの」と定義しています。

白衣高血圧の人は高血圧患者の15から30%いるといいます。ほんとうは血圧が正常だけれど、診察室にいるときは血圧が高い、ということなので、次にお話しする仮面高血圧よりは危険度は低いといえます。しかし、持続性の高血圧に移るリスクもあるといいます。

より深刻なのは仮面高血圧です。

白衣高血圧とは逆に、診察室で血圧をはかるときは正常の値が出るものの、ほかの日常生活を送っている場では高血圧である状態のことです。ダイジェストでは、「診察室血圧の平均が140/90mmHg未満、かつ家庭血圧が135/85mmHg以上、24時間血圧計での平均24時間血圧が130/90mmHg以上のもの」としています。

血圧の値が正常とされる人の10から15%は仮面高血圧といわれます。仮面高血圧は、本来は血圧が高いのに、診療室では低く示されるため、医師も本人も高血圧だと気づきづらいわけです。

ガイドラインでは、仮面高血圧を3種類の病態にわけています。とりわけ早朝に血圧が高くなる早朝高血圧、夜に眠っているときの血圧が高い夜間高血圧、それに職場や家庭などでのストレスが原因でふだんの血圧が上がっているストレス下高血圧です。

仮面高血圧の人は、正常の血圧の人に比べて2、3倍、心血管の病気になるリスクが高いとされています。つづく。

参考資料
日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』
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心臓の異常、100人に1人が生まれながらに。


いま、日本で生まれてくる赤ちゃんの数は1年間でおよそ100万人います。このうち100人に1人の赤ちゃんが、生まれながらにもっているものがあります。

心臓の異常です。

おとながかかる心臓病というと、メタボリック症候群、高コレステロール症、高血圧などでおきる心筋梗塞などの生活習慣病が代表的です。いっぽう、子どもがかかる心臓病の多くは生まれながらにしてもっている、先天的なものです。

日本でもっとも多く見られる、子どもの先天的な心臓病が「心室中隔欠損症」というもの。およそ6割をしめるといわれています。心臓は、上側の右左にある右心房と左心房、下側にある右心室と左心室にわかれますが、心室中隔欠損症は、右心室と左心室のあいだに穴が開いている病気。病気の名前が示すとおり、“心室”の“中隔”てる部分が“欠損”してしまう ”症”状です。

心室中隔欠損症のある赤ちゃんのうち、5人に1人は成長とともに穴が自然に塞がっていきます。しかし、塞がらない場合、すでに酸素をもらっている血液が、左心室とつながってしまっている右心室にむかいます。右心室は肺へとつながっているため、酸素をもらっている血液が肺に送られてしまうことに。

酸素をもらっている血液が肺をめぐるという、本来はない現象のため、肺と心臓の両方に負担がかかり、これらの臓器を傷つけることになります。穴をふさぐためには「パッチ」というあて布を穴にあてがうなどの手術が必要です。

生まれながらの心臓病には、ほかに心臓と肺をつなぐ動脈が狭くなっている「肺動脈狭窄」がおよそ10%、また、右心房と左心房のあいだに穴が開いてしまっている「心房中隔欠損症」がおよそ5%といわれます。

生まれながら抱える心臓病とはべつに、子どもがかかりやすい特有の心臓病もあります。代表的なものは川崎病です。1歳を頂点に、4歳までの子どもがかかる急性の発疹性の病気です。日石医療センターの川崎富作博士が1967年に初めて報告しました。

体じゅうの動脈に炎症により、発熱、発疹、眼の充血などが起きるのが川崎病の症状です。さらに病気が進むと、心臓のまわりにある冠動脈に瘤ができる合併症が起きます。ガンマグロブリンというタンパク質をあたえる治療が確立されてはいるものの、およそ15%の患者は効き目が薄いのです。

川崎病には、流行する年があることが知られています。川崎病の発症に関連する遺伝子があることは理化学研究所の研究員により発見されていますが、すくなくとも先天的な原因だけではないことはたしかなようです。

子どもの心臓病は、軽いものから重いものまでさまざま。最近の医療技術では、まだお腹のなかにいる赤ちゃんが心臓病を抱えているかを診断できる率も7割以上となっています。とはいえ、100人に1人がなんらかの心臓の異常を抱えて生まれてくるという率は、赤ちゃんがいかに繊細ないきものであるかということを示しているのかもしれません。

参考ホームページ
日本心臓財団「子どもの心臓病について」
東京大学小児集中治療室「こどもの心臓病について」
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知ることから始める高血圧治療(2)

「高血圧」という言葉があるからには、高血圧ではない血圧もあります。しかし脳卒中や心臓病などになる危険性を考えると、「血圧がこれ以上だと高血圧なので病気になりやすい」といった明確な境界線があるわけではありません。

そのため「高血圧治療ガイドライン2009」では、次のような血圧値の分類をしています。



この表を見ると、収縮期血圧つまり“上”の血圧が130ミリメートル水銀以上または、拡張期血圧つまり“下”の血圧が90以上だと「高血圧」となっています。しかし、それより値の低い「正常」や「至適」とことばがつく領域でも、3段階にわかれているわけです。

これは、血圧が高くなるほど、脳卒中や心臓病などになる危険性が増えるのであり、正常の領域でもその傾向は変わらない、ということを示しています。

今回のガイドラインの特徴として、「リスクの層別化と高血圧管理計画」ということが挙げられています。「正常高値」の値を示した点も「リスクの層別化」のひとつです。

もうひとつ、「血圧以外のリスク要因」から、リスクの層をつくった点も、今回のガイドラインの特徴となっています。


上の表にある「危険因子」とは、65歳以上の高齢であること、喫煙していること、肥満であること、脂質異常症であること、肥満であること、メタボリック症候群であること、50歳未満で心血管病をもっている人の家族にも病歴があること、糖尿病であること、などのリスク因子があげられます。

また、脳、心臓、腎臓、血管、眼底などに臓器障害があることも、リスク因子としてあげられます。脳出血、脳梗塞、左室肥大、狭心症、心筋梗塞、蛋白尿、慢性腎臓病、動脈硬化、高血圧性網膜症などです。

高血圧と、これらのリスク因子が重なると、脳心血管の病気になるリスクが高くなるということです。例えば、正常高値であっても、たばこを吸っていて肥満の人は血圧が正常高値の範囲でも中等レベルのリスクをすでにもっていることになります。ぎゃくに、上が140から159、または下が90から99のI度高血圧の人でも、ほかのリスク因子を抱えていなければ、低リスクとなります。

これらのリスクの層別化は、ただ、高血圧かどうかだけ考えるだけでなく、ほかの病気とのかねあいを見ながら、血管をトータルで治療することの大切さを示しています。つづく。

参考資料
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『歯と脳の最新科学』が発売

新刊のおしらせです。

『東大生の歯医者さんが教える 歯と脳の最新科学』という新書が、このたび出版されました。著者と絵描きは堀凖一さん。編集は井原圭子さん。この本の構成をしました。構成は、著者の談話や過去の雑誌記事原稿などを新しい本の原稿用にまとめなおす作業のことです。

堀さんは、東京・町屋にあるメディウム歯科の院長。それより前は、東京大学の“歯医者さん”でした。東大生や東大教授の健康を管理する東京大学保健センターが「学生診療所」とよばれていたころから、東大生の歯を診てきました。また、駒場キャンパスの教養学部などで講義もしてきました。

堀さんの専門は口腔外科学。口腔外科は、虫歯や歯周病などの歯についてのことのほか、口のなかのけがや病気などを手術や治療で治す方法を研究する学問分野です。

堀さんは、東大で勤務していると“事件簿”とよべるようなさまざまなできごとに出合ったそうです。

あるときは、学生が野球の授業で振ったバットが、べつの学生の口を直撃して前歯がまるごと取れそうになりました。堀さんは決断の末、その学生を病院には向かわせず、その場で自分で治療することにしました。

―――――
唇と顔面の傷口を縫い合わせました。そのうえで、A君の上顎を元に戻すための処置を始めました。取れそうな上顎に付いている6歳臼歯という左右の歯2本に太い針金を結びつけます。
(中略)
ゆっくり引っぱり出したので2時間かかりましたが、内科の先生や看護婦さんの協力もあり、とりあえずA君の上顎はもとの位置にもどりました。
―――――

応急処置をしたあと、堀さんは、けがをした学生の歯が動かないよう、上下の歯に金具をはめて、口が開かないようにしました。完全に固まるまで2か月、食事は歯のすきまにストローを刺して、コンソメスープを注入するというもの。バットが直撃して大けがをした学生も、バットを振った学生も、堀さんの指図を守りとおしたといいます。

こうした経験から、堀さんは「東大生の気質を一括りにすることはできませんが、生真面目で律儀な学生たちの性格が、怪我の治りを完全なものにしたのは確かなことです」と述べています。

第1章では、ほかにも殺人事件や民事裁判で鑑定を引きうけたときの話や、放送局からの依頼で豊臣秀吉のものとされる歯を鑑定したときの話など、口腔外科学者としての逸話が豊富です。

第2章では、歯周病や虫歯のしくみなど歯の基礎知識を説いたうえで、書名にもある「歯と脳」の深い関係を紹介します。「噛む」という行為が、いかに脳を活性化させるかといったことが、最近の科学で明らかになってきました。

第3章では、歯の磨きかた、インプラント治療の受けかた、入れ歯の手入れのしかたなど、歯のメンテナンスの実践法を紹介します。

堀さんは「口腔外科医としての私の願いは、いつまでもみなさんに自分の歯を残して生活を送り続けていただきたいということです。本書をお読みいただくことが、ご自身の歯を見つめなおすきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません」と述べています。

『歯と脳の最新科学』はこちらでどうぞ。
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知ることから始める高血圧治療(1)
日本人の4000万人がかかっている病が高血圧です。

高血圧は、ほかの重い病気につながる入口にある病気です。自覚症状がほとんどなく、生活に悪影響もそれほどありません。そのため、自分自身が高血圧であると判断することがむずかしく、また、治療も効いているのかどうかわかりづらいといった点があります。

高血圧の治療法は、疫学調査や大規模臨床試験で新たなことがわかるたびに変わってきます。そのため、治療法となる指針も時代により変更が重ねられてきました。

日本高血圧学会は、2009年1月『高血圧治療ガイドライン2009』を発行しました。一般の医師むけのガイドラインですが、市民が知識をもっておくことそのものも、高血圧の予防に役立つでしょう。

ガイドラインにはどのようなことが書かれてあるのか、おなじく発行された『高血圧治療ガイドライン2009ダイジェスト』より、要旨を何回かにわけて伝えていきます。



日本での高血圧患者の数自体は、頂点だった1965年から現在にかけて減ってきています。とはいえ、いまでも4000万人が高血圧です。

高血圧になると、脳卒中、心筋梗塞、心疾患、慢性腎臓病などの病気にもかかりやすくなり、またこれらの病気で死ぬ危険性も高くなります。

代表的な高血圧の影響として、脳卒中と心筋梗塞が知られています。脳卒中は脳の血管の破れや詰まりにより意識がなくなったり、体の片側の運動ができなくなったりする病気です。また、心筋梗塞は、心臓をとりまく冠状動脈の詰まりにより心臓の筋肉が壊死して、激しい痛みが起きる病気です。高血圧は、心筋梗塞よりも脳卒中との高い関係がいわれています。

高血圧であるかどうかは、いまや診察室のみでしか判断できない時代ではありません。家庭血圧計が広く使われ、また、体に取りつけて30分ごとなど決まった間隔で自動的に測る24時間血圧計なども開発されています。

そのため、高血圧かどうかの診断も、診察室で測ったとき、家庭で測ったとき、自由行動の状態で測ったとき、にわかれます。


診察室では、収縮期つまり“上”の値が140ミリ水銀以上、拡張期つまり“下”の値が90以上のどちらかだと高血圧となります。家庭で測る場合は、それより低く、上で135以上、または下で85以上だと高血圧。さらに、24時間では上で130以上、下で80以上だと高血圧と診断されます。

高血圧かどうかの境界線が、診察室より家庭で、家庭より24時間で低くなっているのは、これらのうちで診察室で測るという状況がもっとも特殊で受診者が緊張しやすく、24時間いつでも測るという状況がもっとも緊張を強いられない状況だからでしょう。24時間にわたる血圧管理や、家庭血圧の重要性がうたわれていることは、今回のガイドラインの特徴のひとつにもなっています。

次回は、正常な血圧の範囲にも高血圧の範囲にも段階がある点と、糖尿病や腎臓病などのほかの病気をもっている人は高血圧による脳疾患や心疾患に対する危険性が高くなることなどをガイドラインより紹介します。つづく。

参考資料
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牛糞にまみれ死んだギリシャ哲学者


おもに人が死を迎えるとき、その人のありさまは「死に様」とよばれます。古い時代の人物であっても、歴史に名を刻むような人であれば、死に様についても克明に描かれます。しかし、いまの時代から遠ざかるほど、どのような死に様をしていたのか、その描写はさまざまとなります。

ギリシャ時代の哲学者だったヘラクレイトス(紀元前535ごろ-紀元前475ごろ)も、死に様の説が複数あるひとり。

ヘラクレイトスが生きていた時代、哲学者はすべてのものがなにでできているかについて思想をめぐらせていました。ヘラクレイトスは「火が万物の構成要素であり、万物は、火の稀化と濃化によって生じたところの、火の交換物である」と考えたのです。火は濃くなると湿り、さらに凝縮すると水になり、さらに凝縮すると土になると、ヘラクレイトスは考えました。

ギリシャの哲学者というと、弟子とともに思索に耽るアリストテレスや、市民の前で説きふせるソクラテスのような、人と話し合う印象が強いかもしれません。

いっぽう、ヘラクレイトスは、友人が国外追放を受けるなどした経験から、人間不信に陥ったようで、人生の途中から人と接するのをやめ、山のなかで“引きこもり”生活を営んでいたといいます。

ヘラクレイトスは晩年、水腫を患っていたといいます。水腫は、からだの組織の間などにリンパ液などの水がたまる病気で、むくみなども起きます。

水腫に苦しんだヘラクレイトスは、したかなく街に戻り医者にかかることにしました。ヘラクレイトスは医者に「洪水を旱魃に変えることができるか」と、喩え話を使って病気の治療の可能性をたずねたといいます。しかし、そう言われた医者は、ヘラクレイトスがなにを言いたいのか意味がわからなかったようです。

そこで、ヘラクレイトスは医師による治療をあきらめたのでしょう、牛の糞のなかに体を埋めることにしました。糞の温もりで体内の水分が蒸発するとヘラクレイトスは考えていたのだといいます。

しかし、効き目なく、60歳で死んでしまったといいます。

べつの、ヘラクレイトスの死に様の説では、医者から「病を治せない」と言われた後、太陽の下に身を置いて、召使いたちにやはり牛糞を体に塗らせたといいます。

しかし、そのようにして寝そべりはじめた翌日、彼は死んでしまったといいます。

ほかにも、牛の糞を被っていたヘラクレイトスは、人間のかたちであるとは気づかれずに、犬に食べられて死んでしまったという説もあります。

ヘラクレイトスの死に様の描写はさまざまですが、共通点は牛の糞にまみれていたということです。

火を万物の上位概念に考えていたヘラクレイトス。死に際、彼の体にたまった下位概念の水は、蒸発することはなかったようです。

参考文献
ディオゲネス・ラエルティオス著 加水彰俊訳『ギリシア哲学者列伝』(下)
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両手を使う方法を開発する人々


傘は、人が雨や日差しを避けるために使われる道具です。しかし、使っていないものの携えているとき、わずらわしさを感じてしまう人も多いでしょう。

わずらわしさを感じる代表的な場所が電車のなか。とくに座っている人は手で傘をもっていると少なくとも片手は使えなくなるため、本を読むのにも不便となります。

人は、電車のなかで傘を携えながらも両手を使う方法を開発してきました。

7人が座るような長座席の、はしっこの席に座れた人は、脇の金属パイプに傘をひっかければことなきをえます。ただし、金属パイプにもたれかかっている立ち客がいる場合は、ひっかけられない場合もあります。また、そのまま傘を忘れて電車を降りないよう注意も必要です。

長座席のはしっこ以外の席に座ることになった場合、さらに工夫が必要になります。

ある人は、取っ手のついたかばんをひざの上に乗せ、その取っ手を自分のほうでなく、ひざ先のほうに出して、取っ手の“輪”に傘を刺しているといいます。

また、ノート型コンピュータをひざの上にのせて、“車内連絡”している人は、開いたコンピュータの表示側の基板に傘をひっかけて、あとはいつものようにコンピュータを使っているといいます。

荷物おきの棚の手前を貫いている金属パイプに傘をひっかけて吊るす“離れ業”をしている人も実際にいます。しかし、この場合、顔のまえで傘の先端がぷらぷらと揺れるため、読書に集中するには、“慣れ”または“意地”が必要でしょう。また、傘を使った直後の場合、となりの客に水滴が掛かったり、コンピュータに水が垂れてしまわないよう注意が必要です。

このような、使っていないときの不便さもあり、折り畳み傘が開発されたのでしょう。しかし、ちかごろは100円ショップなどで安いビニール傘などが売られ、長い傘も出まわっています。車内の床に傘の先端が刺さるような丸い穴を座席の前に並べるといった電車の傘おきば対策に取り組む鉄道会社は現れるでしょうか。
| - | 23:59 | comments(0) | -
競争の結果、前へ前へ


平日のテレビ番組表を見ると、夕方のニュース番組の開始時刻は17時の数分前に始まるものが大半です。関東地方の番組では、「ニュース・エブリ」(日本テレビ系)「Nスタ」(TBS系)「スーパーニュース」(フジテレビ系)「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日系)が16時53分に開始。「ニュース・ファイン」(テレビ東京系)が1分早い16時52分に開始となっています。

番組開始時刻がこのように“中途半端”である理由は、視聴率あらそいと関係があることがかんたんに予想できます。「他局は17時に始まっているのであれば、わが局は他局がコマーシャル中の16時59分から始めましょう」ということが、たがいの局でおこり、1分、また1分と開始時刻が早められていくということです。

ぎゃくに、放送開始時刻を1分遅くしたところで、視聴率の観点からは利点はほぼないのでしょう。つまり、ニュース・情報というおなじ趣旨の番組を横並びで放送するにおいて、この局どうし“先手あらそい”は、今後も開始時刻が早まっていくほうに進んでいきそうです。

視聴率獲得が争点となる放送媒体とは異なるものの、これと似た争いの構造をもっている媒体があります。週刊誌です。

あまり気づかれにくいことですが、週刊誌には「各誌とも、この季節にはこの特集が組まれる」といった、時期性や季節性があります。たとえば、経済誌では、10月ごろにこぞって“大学特集”が組まれます。

秋は、大学受験を控えた娘・息子の進路をそろそろ考えなければならない時期でもあり、また、大手総合出版社が「大学見本市」のようなフェアをやる時期でもあります。こうした時宜性に乗って、各経済誌は大学特集を組みはじめたのでしょう。

おたがいがおたがいに、「他誌はにたような特集を今年も組んでくるだろう」という認識あるいは雰囲気はあるわけです。この状況で、競合している雑誌の間での争点は“その特集号をいつ発売するか”となります。

たとえば、A誌が10月第4週に大学特集を組むとします。競合するB誌としては、A誌よりも1週間早い10月第3週に大学特集を発売すれば、“特集の先手”が打てるわけです。毎週かならず買うといった熱心な経済誌購買客でなければ、「あれ。先週A誌で大学特集をやってたのに、今週はB誌も大学特集か。買わなくてもいいや」となる場合がでてきます。

雑誌の“特集の先取”あらそいも、発売時期はどんどん早まる方向で見えざる圧力が掛かっていきます。ただし、B誌に先手はとられたとしても、A誌は“敗戦処理”にまわるかといえばそうとも限りません。A誌の特集の内容が充実していれば、販売部数をのばすことが可能です。

競争が起きている媒体のあいだでは、先取あらそいが今日も繰り広げられています。テレビ番組や週刊誌のほかにも、探せばいろいろ見つかりそうです。
| - | 23:59 | comments(0) | -
“水をさす”で済んだ新型プリウス不具合


トヨタ自動車の2010年4月の米国での新車販売台数が15万7439台となり、2009年4月比で24.4%増えたことがわかりました。米オートデータ社調査を毎日新聞が伝えています。

2008年秋以降の経済不況で、自動車業界は大きな打撃を受けました。ハイブリッド車などの低公害車の売上が頼みだったトヨタ自動車にとって、2010年に米国で起きた新型プリウスのリコール問題は、業績の回復に水をさすできごととなりました。

ただし、トヨタ自動車は、“回復の火を消す”でなく“回復に水をさす”程度で収まったと胸をなでおろしているのかもしれません。

2010年2月、米国の新型プリウス使用者から、ブレーキ不具合の苦情が2月3日までに102件上っていたことが明らかになりました。トヨタ自動車の顧客への対応の遅れなどから、社会的批判も受けることに。その影響もあり、2月の米国でのトヨタ自動車の市場シェアが、前月比1.5%減の12.6%に落ち込むなど、深刻な打撃を受けました。

トヨタ自動車は2月、新型プリウスろリコールすることを決め、その内容を次のように発表しました。

―――――
ABS(アンチロックブレーキシステム)の制御プログラムが不適切なため、ABS作動完了後の制動力が作動直前の制動力より低下することがあります。そのため、ブレーキをかけている途中に凍結や凹凸路面等を通過してABSが作動すると顕著な空走感や制動遅れを感じることがあり、そのまま一定の踏力でブレーキペダルを保持し続けた場合には運転者の予測より制動停止距離が伸びるおそれがあります。
―――――

米国議会で開かれたリコールをめぐる公聴会では、電子制御スロットル・システム(ETCS)というエンジン出力調整装置の誤作動の有無が議論となりました。この異常を実験で再現することはトヨタも第三者も難しく、議会とトヨタの間で議論は平行線をたどり、3月に公聴会は終了しています。

今回の大規模リコール問題で、トヨタ自動車は1800億円規模の関連出費を計上しました。これが“水をさす”を金額で表したときの値段といってもよいでしょう。それ以上の大幅な出費はなく、自体は沈静化の方向に進んでいます。

トヨタ自動車が2010年2月27日に発表した「ご愛用車[プリウス プラグインハイブリッド]のリコールに関するお詫びと修理実施のお願い」はこちら。
http://www.toyota.co.jp/announcement/prius_phv100227.html

参考記事
毎日新聞2010年5月5日「米新車販売台数:トヨタ回復維持 前年比24.4%増 販促が奏功――4月」
時事通信2010年3月4日「特集 トヨタ・リコール問題【4】欠陥の有無、証明は困難か」
| - | 23:59 | comments(0) | -
東京大学が有期の広報員を募集
 人材募集のお知らせです。

東京大学本部の広報室が、特任研究員または特任専門員待遇の特定有期雇用教職員を募集しています。(2010年)5月14日(金)に必要書類を提出することが必要です。

募集要項によると、仕事内容として掲げられているのはふたつ。

「本学の各学部・研究科、研究所等における学術研究成果をとりまとめ、わかりやすく解説・編集し社会へ発信を行う企画・実務を行う(英語による国際的発信を含む)」

「また、科学コミュニケーション分野に関する研究業務に従事する」

工学、理学、医学、農学など、東京大学では理系に類する研究分野が広くあります。

また、応募するにあたっての資格や条件として挙げられているのはみっつ。

「学術研究成果の社会に向けての発信について科学コミュニケーターや科学技術インタプリターとしての専門的な知識、経験を有する者」

「海外へ情報発信するにあたっての必要な英語力を有する者」

「博士の学位を取得していること、もしくはそれに相当の経験があることが望ましい」

科学コミュニケーションなどの知識、英語によるコミュニケーション力、そして、博士相当の学位をもっている点が重視されます。

東京大学の特定有期雇用教職員の就業に関する規程によると、「特任研究員」は「プロジェクト等において、専ら研究に従事する者」。また、「高度の専門的な知識経験又は優れた識見を一定の期間活用し て行うことが特に必要と認める業務に雇用する者」。

提出書類は、履歴書(東京大学の様式をホームページからダウンロードしたもの)1部、業績リストまたはそれに代わるもの(A4判1枚程度)1部、応募にあたっての抱負(A4判2枚以内)1部、となっています。

書類送付先など、詳しい情報は「東京大学本部広報室室員募集要項」に掲載されています。応募の際は、かならず募集要項をご覧のうえ、内容をご確認ください。

「東京大学本部広報室室員募集要項」はこちら。
| - | 23:59 | comments(0) | -
競い合う、未来の“紙”技術(3)


フィリップス系アイレックス社の電子ペーパー「iLiad」

これまでだれも使ってこなかった状況のなかで、なにかの製品をあたりまえのように普及させるには、「すごい便利だから使わないともったいない」とか、「こんなに安い価格なら買わないともったいない」とかいった、普及の引き金となる製品が必要とされます。普及のきっかけとなった製品は、キラーアプリケーションともよばれます。

電子ペーパーは、アマゾン・キンドルのようにすでに発売されていますが、今後、普及にむけて技術的な課題と価格的な課題があると指摘されています。

そして、それらの課題は、電子ペーパーという製品の位置づけから、“ほかのディスプレイとの比較”にくわえて“紙との比較”が大切になります。

技術的な課題として、電子ペーパーは暗いところで見にくい点が指摘されています。文字や色を表現する材料そのものが発光するわけではないため、みずから光る有機ELディスプレイやプラズマディスプレイなどより暗く見えます。電子ペーパーにはバックライトを使うものもありますが、これだと紙のように薄くて曲げられる特徴からは遠ざかることになります。

ただし、外からの光を反射させることで表現するという点では、紙としくみはおなじです。

また、表示書き換えにまだ時間がかかる点は、利用者にとってはストレスとなります。アマゾン・キンドルでは表示書き換えに0.5秒ほどですが、それでもぱらぱらぱらとめくる紙の書籍よりは時間がかかります。2009年に発売されたカラー電子ペーパーでは、4096色を表示する場合、表示書き換えに5秒ほどとなります。

液晶ディスプレイや有機ELディスプレイが、映像や画像を表現する役割が強いのに対して、電子ペーパーは活字を表現する役割が強いとされます。紙をぱらぱらぱらとつぎつぎとめくる感覚にいかに近づけていくかも電子ペーパーの課題となります。

価格面はどうでしょうか。6インチ型のアマゾン・キンドルが、いまアマゾンで259ドル。2万円強という価格です。いっぽう、富士通フロンテックが発売している8インチ型カラー電子ペーパー「フレッピア」は、税込みで9万9750円。ブラザー工業が発売しているSV-100Bという9.7インチ型の電子ペーパーは、直販価格で13万9000円となっています。

ノート型コンピュータでは5万円台を切っている製品も当たり前になってきたなかで、数万円以上という価格は高めの印象をあたえます。ただし、ノート型コンピュータとおなじように、普及していけばしていくほど価格は安くなっていくもの。「キンドルがただで配られるようになる日も、時間の問題なのでは」(キンドル購入者)といった声も聞かれます。

電子ペーパーの代表的な用途となる書籍の価格が、紙のものよりも割安となるのは、電子ペーパーにとっては追い風になります。紙の書籍では不可能な検索機能などの売りを強調することも、電子ペーパー普及への有効な宣伝文句になりそうです。

これからの1、2年が電子ペーパー普及の加速度を占う大切な年になることでしょう。了。

参考ホームページ
アマゾン「Kindle Wireless Reading Device (6" Display, Global Wireless, Latest Generation)」
富士通フロンテック「フレッピア」
ブラザーダイレクトクラブ「SV-100B」
| - | 18:43 | comments(0) | -
競い合う、未来の“紙”技術(2)



電子ペーパーのしくみはさまざまです。アマゾン・キンドルで採用されている電気泳動方式のほかにも、つぎのような方法があります。

電子ペーパー技術のさきがけとなったのが、「ジリコン」とよばれる電子ペーパーの方式。米国ゼロックスのパロアルト研究所が1980年代初頭に開発した方式です。2000年、ゼロックスから電子ペーパーの製造企業を分離独立させるかたちでジリコン・メディア社が立ち上がりました。

ジリコンには、電気泳動方式とおなじように、小さなカプセルが敷きつめられています。ジリコンでは、カプセルのなかには白と黒の油性の液体で満たされたビーズが入っていて、電圧をかけるとこのビーズが回転します。無数のカプセルがそれぞれ白や黒の点を示すことで、全体として文字や模様を表現します。

また、日本のブリジストンは、電子粉流体という材料を開発し、独自の電子ペーパーをつくりました。電子粉流体は、粒子なのに液体のように振るまう材料。「電子」と名前がついているとおり、電気の影響を受けます。フイルム基板の透明電極をマイナスにすると、プラスを帯びた電子粉流体が寄ってきます。ぎゃくに、透明電極をプラスにすると、マイナスを帯びた電子粉流体が寄ってきます。

プラスの粉流体が寄ってきたときは外からの光を吸収し、ぎゃくにマイナスの粉流体が寄ってきたときは外からの光を反射するようにすれば、それの集合体として文字や模様を表現できるようになります。

電子ペーパーのカラー化も進んでいます。カラー表示するには、少なくとも赤・青・緑のみっつの色を出して、これらを組み合わせる必要があります。

富士通は、「コレテスリック液晶」という材料を使って、カラー電子ペーパーの開発をしています。コレステリック液晶は、らせん構造をもつ液晶。普通の状態では、透明電極と透明電極に挟まれた空間のなかで縦に向いて並んでいます。

さらに高い電圧をかけると、らせん構造がさらに伸びていきますが、ここですぐに電圧をなくすと、液晶の部分が反発して縦に向いて並ぶようになります。

この液晶のしくみをもつ層を、赤・緑・青と3層かさねれば、「赤は吸収するが、緑と青はともに反射するので水色を示せる」「青は吸収するが、赤と緑はともに反射するので黄色を示せる」といったように、さまざまな色を再現することができます。

このように、カラー電子ペーパーでは、赤・緑・青のカラーフィルタを使うことで、カラー化を実現させる方法が主流です。電子粉流体方式を採用しているブリジストンも、赤・緑・青それに白のカラーフィルタを敷きつめることで、カラーを表現した電子ペーパーを開発しています。

では、電子ペーパーが普及するための課題には、どのようなものがあるのでしょうか。つづく。
| - | 23:59 | comments(0) | -
競い合う、未来の“紙”技術(1)


オンライン書店アマゾンが製造・販売する電子ブック端末の「アマゾン・キンドル」は、2007年11月に発売されました。その後、2009年6月に9.7インチの画面を搭載した「キンドルDX」も発売しています。

2010年4月には、アマゾンの最高経営責任者ジェフ・ベゾス氏が、キンドルで読める書籍が50万点を超えたことを発表しました。いまのところ読める書籍は英語のもののみですが、アマゾンは日本を含め世界でキンドルを発売しています。

キンドルで読む書籍は、電子ペーパーという“紙”の表面に表示されるもの。電子ペーパーは、電気的に働きかけることで表示内容を書きかえることができる装置です。

電気的に働きかけることで表示内容を書きかえる、といえば、ほかにもパーソナルコンピュータ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイといった表示装置があります。電子ペーパーの特徴はどのようなものなのでしょうか。

まず、表示の“消えなさ”があげられます。表示内容を切りかえるためには電力が必要ですが、その画面を保ちつづけるために電力は必要としません。表示を構成する材料のひとつひとつが、その状態をずっと覚えているからです。

また、表示が反射型であるという点も、ほかの表示装置にはない特徴です。陽の光や部屋の蛍光灯の光などを受けて、表示表面が反射します。表示の裏側から電気で光らせる必要がないため、薄くしあげることができます。ただし、反射型の表示であるという点は、表示を照らす光が必要になるということにもなります。

また、薄くしあげられることと関連して、曲げられる装置をつくることも技術的に可能となります。この場合、基板にプラスチックを使います。

こうした特徴は、電子ペーパーならではのものといえます。ただし、一口に電子ペーパーといっても、そのしくみはさまざまあります。

アマゾン・キンドルでは、米国の新興企業イーインクが開発した電気泳動方式という方法を採用しています。表示する表面にたくさんの微小で透明なカプセルを並べます。このカプセルには、白と黒の小さな粒子が入っており、カプセル一つひとつへの電気のかけかたによって、このカプセルは白、このカプセルは黒、このカプセルは白と黒の中間の灰色、といった具合に一つひとつのカプセルの表示に変化をつけます。

カプセルひとつの直径は50マイクロメートル、つまり20分の1ミリメートル程度のため、人の眼にはカプセルがぎざぎざに見えるようなことはほぼありません。

この他にも、カラー表示を含めてさまざまなしくみがあります。つづく。

参考記事
Jキャストニュース「米アマゾン好決算『キンドル』の書籍数50万冊超える」2010年4月23日
| - | 23:59 | comments(0) | -
2010年6月12日(土)から「ドラえもんの科学みらい展」


催しもののお知らせです。

東京・青海の日本科学未来館で、2010年6月12日(土)より「ドラえもんの科学みらい展」が開かれます。9月27日(月)まで。

ドラえもんは、22世紀からやってきました。居眠り、あやとり、銃の早撃ち、ピーナッツの投げ食べなど、一部の例外をのぞけばなにをしてもだめな小学生の野比のび太を助けます。

「どこでもドア」や「タケコプター」などの、ドラえもんが使う「ひみつ道具」のかずかずは、22世紀に使われているという設定。100年後の未来には、ドラえもん自身を含め、実用化されている技術成果です。

展覧会では、「ドラえもんのひみつ道具は、現在の科学技術でどこまで実現されているのでしょうか」ということをひとつのテーマに掲げて、現在の科学技術の進歩を紹介する予定です。

展示品の目玉になりそうなのが「GEN H-4」というヘリコプター。頭に直接つけて飛ぶタケコプターほどではありませんが、世界一小さいヘリコプターです。長野県松本市のゲン・コーポレーションが開発したもので、羽根を上段と下段の2段がまえにし、たがいが反対に回転することで、安定して飛ぶことができます。

また、「ほんやくこんにゃく」の機能に近い音声翻訳装置も展示される予定。「しゃべると、ほかの国の言葉になる。マイクに向かってしゃべってみよう」と、展覧会ホームページの展示構成にはあります。

ロボット開発者のなかには、ドラえもんづくりにあこがれて道を志す人もすくなからずいます。理化学研究所バイオ・ミメティックコントロール研究センターが開発している「RI-MAN」という人を抱き上げるロボットなども展示される模様です。

「ドラえもんの科学みらい展」は、2010年6月12日(土)から9月27日(月)まで、東京・青海の日本科学未来館で。この展覧会のみの入場券は大人1000円、18歳以下500円。常設展との共通券は大人1000円、18歳以下600円。日本科学未来館による特設サイトはこちら。
| - | 23:59 | comments(0) | -
毒性は弱かった新型インフルエンザ、死亡率は少なかった日本
 人は“忘れる動物”とよくいわれます。今年2010年の大型連休は比較的のどかな日々が続いています。1年前はどうだったかというと、新型インフルエンザ(H1N1)の拡大が非常に心配され、行楽を控えるといったことがありました。

新型インフルエンザによる死者数は世界で約1万8000人に対して、国内では198人(2010年3月下旬現在)。死亡率は10万人あたり0.15人で、米国の3.96人などに比べ低かったといえます。

例年の日本国内でのインフルエンザによる死者は直接的なもの、間接的なものを含めて1万人から2万人いるとされます。新型インフルエンザでの198人という死亡者数は、これの50分の1から100分の1でとどまっている計算になります。

日本人はマスクの励行などを行った結果が米国などよりもはるかに低い死亡率に結びついたという指摘があります。そして、そもそも、新型インフルエンザ自体が例年のインフルエンザに比べて死亡に至る毒性は小さかったということもいえそうです。

厚生労働省は今年2010年3月31日、最初の流行である「第一波」は「沈静化している」と発表しました。

しかし、インフルエンザには再流行があることが知られていて、厚労省は「流行の落ち着いているこの時期に新型インフルエンザワクチンの接種を受けることは引き続き有効な対策であるとの専門家の意見もあります」として、国としてワクチン接種事業を当面続けることを発表しています。

H1N1型のインフルエンザについて、“次の流行”が起きるのかどうかは見解の分かれるところです。しかし、インフルエンザはH1N1型だけではありません。大量に余ったワクチンの問題なども含め、“次の流行”に向けて、浮かび上がった課題を一つずつ検証・反省し、おなじ結果を起こさないための策を立てることが大切です。

厚生労働省2010年3月22日発表「新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行状況について」はこちら。
| - | 23:59 | comments(0) | -
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