ダイエットや健康維持のため運動をしている人びとが気にする“単位”といえば、どんなものがあるでしょうか。
真っ先にあがるのが「カロリー」または「キロカロリー」かもしれません。1キロの水を1度高めるのに必要な熱量が「キロカロリー」です。年齢や職業にもよりますが、1日に消費する熱量は、成人男性で約2500キロカロリー、成人女性で約2000キロカロリーといいます。
単位はほかにも、体重をあらわす「キログラム」、走った距離をあらわす「キロメートル」、あるいはわずかな期間しか続かなかったときの運動継続日数を表す「日坊主」などがあげられそうです。
いっぽう、運動に対する国の指針をくまなく目通ししている“指針好き”の方は、「メッツ」や「エクササイズ」という単位を気にかけるかもしれません。
「メッツ」も「エクササイズ」もふだんの会話や放送などではあまり聞かない単位です。これは、厚生労働省の運動所要量・運動指針の策定検討会というグループが、2006年に定めた「身体活動の強さと量を表す」単位。「健康づくりのための運動指針2006」という報告書にもなっています。
まず、メッツは、からだの活動の強さを、安静時を基準に何倍に相当するかで表す単位。座ってじっとしているときの体の活動の強さが1メッツで、ふつうに歩いているときの体の活動の強さは3メッツ。
これをもとに、国立健康・栄養研究所は、さまざまな活動のメッツの値を出しています。たとえばバケツや木材の運搬も含むメープルシロップづくりは、5.5メッツ。イヌへのシャンプーは3.5メッツ。運動では、一般的なジョギングが7.0メッツ、遅いクロールが8.0メッツなどです。
いっぽう、エクササイズは、からだの活動の強さに、その活動を行った時間をかけたもの。「メッツ×時間」なので「メッツ時」ともよびます。つまり、「1エクササイズ=1メッツ時」。
たとえば、メープルシロップづくりを2時間行った場合は、「5.5メッツ×2時間」で、11エクササイズ。ジョギングを30分行った場合は、「7.0メッツ×0.5時間」で、3.5エクササイズ、となります。
そして、エクササイズという単位は、おなじみの「キロカロリー」に計算で置き換えることができます。
エネルギー消費量(キロカロリー)=
1.05×からだの活動の量(エクササイズ)×体重(キログラム)
たとえば、70キロの人が、ジョギングを30分間、行うとします。
エネルギー消費量(キロカロリー)=
1.05×3.5(エクササイズ)×60キログラム
という計算で、エネルギー消費量は「220キロカロリー」となります。
しかしながら、この「健康づくりのための運動指針2006」では、運動の指針に「カロリー」や「キロカロリー」などの単位を使っていません。その理由として次のことが書かれてあります。
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【参考】身体活動の単位に「カロリー(kcal)」を用いていない理由
一般的にエネルギー消費量として用いられる単位「カロリー(kcal)」を用いた場合には、個人の体重によって差が生じてしまいます。例えば、40kgの人と80kgの人とでは、同じ内容の身体活動を行った場合でも消費するエネルギーに2倍の差が生じます。このため、生活習慣病予防のために必要な身体活動量を個人の体重に関係なく示すために、この運動指針では「メッツ」と「エクササイズ」という単位を用いています。
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個人差が反映される「カロリー」より、反映されない「メッツ」と「エクササイズ」を、というわけです。
しかし、この二つの単位はなかなか浸透していません。どの運動がどのくらいのメッツなのか、表を見ないといまひとつぴんとこない、エクササイズを表すメッツ時という単位が頭にすっと入ってこない、など理由はいろいろ考えられそうです。
いつの日か、「いやー課長、きのうは8メッツで皇居を1時間半も走っちゃいました」「おお、12エクササイズか、がんばったねー」といった会話が日常茶飯事になるでしょうか。
単位「メッツ」と「エクササイズ」を提唱している厚生労働省運動所要量・運動指針の策定検討会の報告書「健康づくりのための運動指針2006」はこちら。
国立健康・栄養研究所の「身体活動のメッツ(METs)表」はこちら。