2009.05.31 Sunday
既存エネルギー見直しの時代
「生産性新聞」という新聞があります。財団法人の日本生産性本部が発行している新聞で、産業や企業などの生産性向上への取り組みなどを紹介する新聞です。
生産性新聞では、一面に「展望再生可能エネルギー」という連載企画を行っています。米国や日本では、グリーン・ニューディールが国の主導で行われ、エネルギー関連分野への投資が注目されています。その背景や留意点などの課題と展望を探るもの。
この第3回に「既存エネルギー見直しの時代」という記事を寄稿しました。以下に再掲します。
既存エネルギー見直しの時代
各国の資源利用状況を見ると、再生可能エネルギーへの転換は着実にはかられてはいる。だが、再生可能エネルギーが資源利用の主体になるには、まだ時間が掛かる。国際エネルギー機関は、再生可能エネルギーは2030年に向けて導入は進むが主要なエネルギーにはなりえないとの見通しを立てている。来るべき時代を前に“現実的対応”として考えなければならないのが既存エネルギーの積極的見直しだ。私見的展望を述べたい。
温暖化を引き起こす悪者と受けとめられがちな石炭だが、近年、効率的な発電を可能にするクリーン・コール・テクノロジーの技術開発が進んでいる。その主要技術は「石炭ガス化」だ。火力発電所で石炭を燃焼させてタービンを回す既存の発電に加え、炭素と水蒸気を反応させ一酸化炭素と水素の合成ガスを作り、それでタービンを回してさらに電力を得る。欧米では1990年代に石炭ガス化技術を用いた火力発電所4基が建設された。だが、長期連続運転には技術的課題もあり、その後の新規建設は進まない。日本も、効率性の高い石炭ガス化技術の開発を進めているが、実用化まで長期的な目で見守る必要がありそうだ。
新規技術が本格的に実用されるまで歳月が掛かるとすれば、より現実的な対応策として、実績のある技術の見直しが必要となる。各国で“再利用”へと政策転換がはかられているのが、原子力発電だ。
欧州では、スウェーデンが2009年2月に「脱原発撤回」を表明した。1980年の国民投票で2010年までの原発12基全廃を決めていたが、代替エネルギー不足のため原発への回帰がはかられた。イタリアでも2008年5月、新規の原発建設を表明した。背景には、石油依存度や二酸化炭素排出量の高まりがある。また、英国もいち早く2007年に、原子力回帰への政策転換を掲げている。
原子力利用の動向で最も影響力があるとされる米国でも、原発の新規建設計画が相次いでいる。米国は、1970年代の石油危機による電力需要減で100基以上の原発建設計画が中止になったトラウマをもつ。だが、その後も米国の発電企業は原発の安全性や稼働率を上げるといった技術的蓄積をはかってきた。2007年11月にテネシー川流域開発公社(TVA)がワッツーバー2号機の建設を19年ぶりに再開。他に計8基で設計・調達・建設を含む包括契約が締結済みだ。満を持しての再建設が進められようとしている。
日本では、柏崎刈羽原発7号機が2007年7月の中越沖地震以来1年以上にわたり利用できなくなるなど突発的事態はあったものの、脱原発や長期の建設凍結を経験した他国に比べれば、比較的堅実に原発を建設しつづけてきたといえる。自国の原発技術が廃れてしまった国に対する技術移転の商機は高まっている。フランスは英国や中国などに積極的に原発技術を売り込んでいるが、日本は消極的だ。
原子力に代表される既存エネルギーへの回帰が各国で進む背景には、代替エネルギーへの転換が思うように進まない事情が見え隠れする。再生可能エネルギーの重要性が高まるほど、既存エネルギーの価値が見直されるという、皮肉な状況といえる。エネルギー利用の将来性を考える上では、将来どの再生可能エネルギーが主流になるかだけでなく、既存エネルギーも含めた議論の中で、コスト面や効率・環境面などで優位性をどう確保できるかといった視点も必要となる。(了)
生産性新聞のホームページはこちら。
http://www.jpc-sed.or.jp/paper/index.html
記事づくりでは、日本原子力産業協会の発表資料などを参考にしました。同協会のホームページはこちら。
http://www.jaif.or.jp/
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