2009.01.31 Saturday
つぐ
老舗のうなぎ屋や焼鳥屋には、長年つぎたしている秘伝のたれを、店の売りとしているところがあります。
つぎたしの意味はどこにあるのでしょう。いまも器のなかに残る創業時のたれをお客さんに提供すること、というわけではありますまい。
1000ccのたれの器があるとします。毎日100ccのたれが使われ、100ccのたれがつぎたされるとします。日々10分の1のたれは入れ替わることになります。
創業日の翌日、創業時のたれは1000cc×0.9で900ccになります。翌々日には、900cc×0.9で810ccになります。1か月後には、器に残っている創業日のたれは42cc。1年後には計算上、0.00000000000000002ccとなります。つぎたしが何十年も続けば、お客さんが創業時のたれを口にする機会は、天文学的に小さい確率になります。
「秘伝のたれをつぎたしています」ということを宣伝材料にするというのが目的でなければ、「創業者がつくったたれを心だけでも受け継ごう」ということが、つぎたしの本分になるでしょうか。
そもそも日本人は、継ぐことが好きなのかもしれません。正月に行われる大学駅伝は、国民的行事のひとつになっています。中でも、たすきがつがれる中継所からの実況中継は、首位から最下位の大学まですべて完了するまで行われます。実況担当も「部員のすべての思いが染み込んだたすきが、いま最終走者に引きつがれました」などと、熱をこめて話します。
つぐしくみをつくりだして、それを売りにしている番組もあります。最たる例はフジテレビの「笑っていいとも」です。司会の森田一義と客人が会話する「テレホンショッキング」では、その日の客人が翌日の客人を紹介しつづけることで続いています。「友達の友達はみな友達だ。世界に広げよう友達の輪」という謳い文句もこの番組から生まれました。
また、同じフジテレビの朝の報道番組「めざましテレビ」でも昨2008年、「めざましフラワーロード」という企画を行いました。日本を沖縄から北海道まで、何人もの参加者が1台の自転車を乗りついで、花の種を届けるという企画です。この企画を中心に、番組そのものの主題も「つながり」にしていました。
“つぐ”という行為への情熱がとりわけ日本人に高いのかどうかは、深い調査が必要かもしれません。でも、もし日本人が他の国の人々に比べてつぐことが好きであるとしたら、要因はどこにあるのでしょうか。
可能性として考えられるのは、国そのものが外国に植民地化されることもなく、日本の為政者によってつがれていったということがあるのかもしれません。これを検証するには、植民地支配をうけるなどして、自国の人物や朝廷による統治が分断された国、例えば中国などと比較することでしょう。
そもそも、人は先祖代々からのDNAを受けついでわけです。本質的に“つぐ”という行為の大切さが染み付いているのかもしれません。
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