2008.12.31 Wednesday
2008年の画期的科学成果、1位は「細胞の初期化」
2008年も残すところあとわずかになりました。今年の科学界のできごとを、米国の雑誌『サイエンス』が12月18日に発表した「今年の画期的成果」を中心に振りかえります。
同誌が第1位にあげたのは、「細胞の初期化」です。京都大学の山中伸弥教授の研究グループなどが樹立した新型万能細胞「iPS細胞」の研究を指すもの。同誌はこの画期的成果を次のように評しています。
新型細胞は疾病がどのように起こり進行するかを見きわめる道具になるとともに、創薬スクリーニングにも有用となるだろう。もし科学者が細胞の初期化を操れるようになり、明確に効果的に安全に制御することになれば、患者が自分自身の健康な細胞を使って治療を受ける日も来るかもしれない。「創薬スクリーニング」とは、薬として機能する候補化合物を探し出すことです。この「iPS細胞」という名前は山中教授が付けたもの。最初は“Reprogrammed Stem Cell”(初期化された幹細胞)の頭文字をとって「RS細胞」と名付けることも考えていましたが、現象が初期化であるかどうかの確証がまだなかったため、“induced Pluripotent Stem Cell”(人工多能性幹細胞)にしました。
なぜ、「iPS細胞」の1文字目は小文字になっているかというと、アップルコンピュータ社の「i」で始まる音楽プレイヤーの名前を意識したからだそうです。
京都大学は今年10月、iPS細胞研究に関わる基本的な特許を得たことを発表。その後も12月に米国の研究所や中国の北京大学などがラットのiPS細胞づくりに成功するなどしています。
第2位になったのは「系外惑星―見ることは信じること」。地球と同じような惑星は、太陽系の火星などであれば観測は進んでいますが、太陽以外の星を回る惑星の観察は、惑星が小さくて光を放たないため難しいとされています。この画期的成果により、生命が存在する地球に似た星がありそうなのかなども見えてくるかもしれません。
下記の第3位以下は順不同です。当ブログで2008年、話題にしたものといえば、第1位の「細胞の初期化」と、わずかに第2位の「系外惑星」のことに触れた程度となりました。
「がん遺伝子のカタログが開いた」。がんの遺伝子を網羅的に解析した成果です。
「謎の新物質」。高温超伝導物質の“第二ファミリー”に新しい物質が加わりました。銅と酸素の化合物でなく鉄の化合物によるものです。東京工業大学の細野秀雄らが発見しました。
「作用中のタンパク質を観察」。タンパク質が、標的にくっつく瞬間などを観察することに成功しました。
「必要な再生可能エネルギーのために」。余った電力を蓄える新しい触媒の開発です。
「ビデオの胚」。人間の萌芽である胚が発生する様子を撮影することに成功しました。
「“良い”脂肪が照らし出された」。“悪い”白色脂肪を燃やす、“良い”褐色細胞を筋肉に変身させることに成功しました(逆も可能)。
「世界の重さを計算」。陽子などの粒子の質量を精密に計算することができました。
「ゲノム解析をより速く、より安く」。遺伝の全情報(ゲノム)を高速かつ安価に解析する技術が進歩しています。
『サイエンス』誌の「2008年の画期的成果」の発表はこちら(英語です)。
http://www.aaas.org/news/releases/2008/1218breakthrough.shtml
日本全体の科学界は、「画期的成果」でも1位になったiPS細胞の研究が進んだことや、4人の日本人がノーベル賞を受賞したことなど、明るい材料も見られた年でした。いっぽうで、中国産冷凍ギョーザによる食中毒事件や、事故米の不正転売問題など、市民生活に直結する食の問題は昨2007年に引き続き、あいかわらず社会問題になりました。
今年も一年「科学技術のアネクドート」にお付き合いくださり、ありがとうございました。来年もまたすぐに始まりますが、どうぞよいお年をお迎えください。
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