「科学ジャーナリスト賞2008」では、おととい・きのう紹介した書籍3作品への受賞のほかに、新聞連載とウェブ作品に対しても賞が贈られました。
前朝日新聞論説委員の田辺功さんへの賞は、新聞連載記事『それ本当ですか? ニッポンの科学』をはじめ、長年の科学ジャーナリストとしての活躍に対して。朝日新聞の連載で、巷でいわれているBSEや携帯電話電磁波などの“非科学”的な部分に斬り込みました。
以下は田辺さんの受賞あいさつです。
市川誠さん撮影
本日はありがとうございました。
朝日新聞で40年間、一貫して科学記者あるいは医療記者でした。フリー記者になりましたが、口に悪い元同僚は「田辺さん、前からフリーだったでしょ」と言います。朝日新聞の外のフリーランサーになることになりました。今後ともよろしくお願いします。
科学部は新聞社では少数派で、その科学部でも私は少数派でした。審査員の方に賞に選んでいただき、多数派になった気分です。賞とはまったく無縁でしたし、好き勝手にやっていました。
科学記者あるいは医療記者として、もっとも強く思っていることは「日本はほんとうにに上から下まで非科学の国だ」ということです。朝日新聞への入社面接のとき「科学の記事をどう思うかね」と聞かれました。「惨憺たるひどいものだ。非科学の固まりだ」と思いました。その思いを40年間、伝えたいとやってきました。残念ながらいまも非科学のほうが強い。新聞社の中では限界があります。
政治面や社会面の記者は、科学を知らないことを自慢しています。経済担当も科学的な技術をまったく知らない。経済紙を見て「なるほど」とわかる事態が、今日まで続いているのは嘆かわしいことと思っています。
「それ本当ですか? 日本の科学」は、ほんとうは「日本の科学」でなく「日本の非科学」でした。国の政策自体に非科学的なことがある。科学者がほんとうに科学を理解し、あるいは科学に准じてやっているかといえるか。政治、カネ、絡み合いがあるなかで、科学的エビデンスが歪んでしまっているということが、日本の問題だと思っています。
連載では、BSEや携帯電話の問題をとりあげました。いま、日本でペースメーカーを入れている人の胸に携帯電話をあてて発信しても、それで変調をきたす機種は一機もない。研究者は実際に実験してはいますが、それは90年代以前に作られた、日本でほとんど使われていない機種です。十何年使い続けるなどありえないような条件を与えて「ひょっとしたら人に影響があるかも」という話です。「ペースメーカー友の会」の方々に聞くと「自分も携帯電話を使っている」と言います。国民はああいう車内放送を毎日聞いていると、そう思うようになってしまうんですね。そうした社会になっていると思って、記事を書きました。
読者からはかなりの反響が来ました。むかし、記事を書いたとき、抗議的な資料が高さにして7、80センチ分届きました。「きみ、そういった記事は書いてくれるな」と社内で言われて2、3年まったく書きませんでした。ペースメーカー問題とBSE問題それぞれに対して、今回も30センチ分の抗議が来ました。
しかし、ペースメーカーを入れてゴルフをやっている人が1級(障害者)に認定されている。そんな馬鹿げたことをしている国はありません。巨額の税金がそのために出ている。本当に障害がある人を障害認定することは必要です。しかし、その必要のない人が……。
いろいろ言いたいことはあるのですが、これでやめます。フリー記者として、新聞記者では書けなかったことをこれから書いていきます。みなさんのご支援ご協力をお願いします。どうもありがとうございました。
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古賀祐三さんは、有限会社遊造代表。インターネットで生のオーロラ映像を配信する「LIVE! オーロラ」というサービスなどを行っています。この活動に対して賞が贈られました。古賀さんの受賞あいさつです。
市川誠さん撮影
栄誉な賞をいただきありがとうございます。
受賞のご連絡をアラスカの観測所のメンテナンス中にメールでいただき、非常に驚いたことを覚えています。
せっかくですから、年末テレビ局に取材していただいたときの、オーロラの映像がありますのでご覧ください。
(映像に会場が拍手)
「サイエンスコミュニケーション」には微妙なニュアンスが含まれています。2年前、北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニットの臨時講師によばれたときも、いまも聞かれるのが「どうやって食べていけるか」ということです。私から見ると、どうやって稼ぐかは関係ない。やりたいことに対して食べていける方法を作ればいいという考えです。
サイエンスコミュニケーションと啓蒙活動は、私はまちがいなく異なると思います。現場の人が一般の方々の性格や求めていることを知ることは重要と思います。ブログやメールマガジンでの対話をふくめ、いろんな方々と話すことを重要視しています。実際の声を聞くといろいろなことがわかります。お酒の席で「オーロラに関する仕事をしています」と言うと食いつきがよい。でも、オーロラは思いのほか難しいもので、わかりやすく伝えようとしても、みなさん引いていくんです。この状況はなかなか変わりません。
ただ今回の受賞をきっかけに、多くの方々に活動を知っていただきました。間接的な影響がどれほどあるかわかりませんが、諸先輩方、高名な方々に対しても、何かの役に立てるのかもしれないと思っています。これからもがんばります。ありがとうございました。
各受賞あいさつとも、世間に訴えたい主張が込められていました。受賞者のみなさん、おめでとうございます。
次の科学ジャーナリスト賞は、2008年4月から2009年3月までに発表された作品が対象となる予定です。
日本科学技術ジャーナリスト会議ホームページ「科学ジャーナリスト賞」はこちら。
http://jastj.jp/?p=94