2008.05.31 Saturday
科学ジャーナリスト賞2008授賞式 海堂尊さん 松永和紀さん
科学ジャーナリスト賞2008の受賞者は、きのう紹介した大賞の宮田新平さんのほか、海堂尊さん、松永和紀さん、田辺功さん、古賀祐三さんが「科学ジャーナリスト賞」を受賞しています。
海堂尊さんは、医学博士号をもつ作家。2005年には『チームバチスタの崩壊』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。これは『チームバチスタの栄光』として、本と映画化されました。
今回の受賞作は『死因不明社会』というノンフィクション。日本の解剖率の低さは、犯罪行為や児童虐待すら発見できない問題であるとし、剖検前に画像を撮影するAi(Autopsy imaging)を提唱しました。
以下は、海堂さんのあいさつ。
市川誠さん撮影
賞をいただきありがとうございました。
『死因不明社会』は単純な内容です。遺体を知らなければ医学情報はわからず、死因はわかりません。解剖でしか死因がわかりませんが、現状は実施率1%なので、「死因不明」がほとんどです。これが日本の実体です。ジャーナリストのみなさんに、キャンペーンでこの問題を書いていただけると助かります。
解剖が行える人員は、法医学者が120人、病医院関係者が1000人という現状です。病医院で行われる解剖には、国からの費用が出されず、25万円程度のもちだしになります。費用が付かないということは、人材が育たないということです。巡り巡って市民社会にとってものすごいマイナスになります。
この話がなぜ問題解決に進まないか。デメリットをこうむるのが声を出すことはできない、亡くなった人々だからです。生き残ったご遺族は弱い立場にいるので強い声を出すことができなません。健康な人がしっかり考えるべきと思っています。
日本のシステムは、利権がないと動かないというのが実感です。最たるものが厚生労働省です。また、メディアの方に訴えてもその人には理解してもらえます。でも、記事にするとなると直接聞いていない人が「そんなの記事にならない」と言い出します。
賞をいただいて力づけられました。こういうことを感じ取ってもらう人が多いと感じたからです。
「解剖の代替法として、Aiを導入しましょう」というのが本の趣旨です。国が認めればかんたんに実現します。医療現場は“アイドリング状態”なので、あとは費用をいただくだけです。年間200億円の予算は大きい額に思えますが、全国民が死因を確定できます。安い出費だと思います。国全体で考えればできると思います。
法務省は「裁判員制度にAiが必要」という感じでした。しかし、費用の話になるとうやむやになります。費用を出さないと医療現場がいっそう疲弊します。医療費からこれを出せば医療費増額を、増額できないならきちんとした別の費用を。(経済的な)利益を生まない制度には国家が投資するしかありません。
こうしたことを、ジャーナリストの方に外に向けて発信していただきたいと思います。Aiを日本に根づかせたいと思っている人々の思いが通じたのだと思います。
●
また、科学ライターの松永和紀さんには、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』の著作に対して賞が贈られました。松永さんは仕事で欠席だったため、あいさつが代読されました。
科学ジャーナリスト賞の授与に対し感謝申しあげます。
『メディアバイアス』では、マスメディアの歪んだ報道の現状を書きました。なぜこのような本を書いたかを説明するには、私の新聞記者としての経験を申しあげなければなりません。
科学部に在籍したことがなく、夫ともに九州で子育てをしながら、記者を書いてきました。地方紙の記者は何でもやります。農業、福祉、医療、さまざまな分野を広く浅く取材し、止まり勤務のときは火事場にも事件現場にも駆けつける日々でした。科学知識のない一般読者と接する機会も多くありました。
一般読者にとっては、科学面はそもそも面倒なものです。社会面も経済面、家庭面などで書かれる残留物や食品添加物、環境ホルモンの記事から科学情報を受けとります。
しかし社会部、経済部の記者は「専門知識をもたないのが解」ということを聞きます。その結果、科学的にみれば首を傾げざるをえない記事、主観に満ちた記事ができます。私自身、取材でそんな記事を書いた覚えもあります。
では科学面を読みそうもない普通の人々に基本的な科学技術に関する知識をどう伝えるか、どう私は責任を負うべきなのか。これらは記者時代の大きなテーマとなり、結局は新聞記者をやめフリーの科学ライターになることにしました。
それから9年。メディアバイアスは私の集大成です。
「科学技術に感じる様々な疑問や不安を平易に解き明かしたい。科学への深い関心を、くらしのなかから掘り起こしていきたい。市民自身の努力で培われる目がメディアを育てるのではないか」。そう思いながら書きました。出てきたことは科学的には先端でも高度でもなく、お世辞にもスマートとはいえないことです。
そんな思いをJASTJのみなさんが思いがけなく認めてくださり、科学的読み物として評価してくださいました。望外の喜びです。研究者や企業人、行政万など多くの人々への感謝の気持ちでいっぱいです。地に足をつけて取材していきたいと思います。
私にもバイアスがあります。判断ミスから一面的な報道をしてしまうこともあるでしょう。そんなとき、私を支えてくれた人たち、集まりのみなさん、読者が「ちょっとおかしいよ、こんな見方もあるよ」と指摘くださるとよりよい原稿につながります。それを目指して、まじめな努力を続けたいと思います。ご指導よろしくお願いします。
あすは、もう二人の受賞者を紹介します。
海堂尊さんは、医学博士号をもつ作家。2005年には『チームバチスタの崩壊』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。これは『チームバチスタの栄光』として、本と映画化されました。
今回の受賞作は『死因不明社会』というノンフィクション。日本の解剖率の低さは、犯罪行為や児童虐待すら発見できない問題であるとし、剖検前に画像を撮影するAi(Autopsy imaging)を提唱しました。
以下は、海堂さんのあいさつ。
市川誠さん撮影
賞をいただきありがとうございました。
『死因不明社会』は単純な内容です。遺体を知らなければ医学情報はわからず、死因はわかりません。解剖でしか死因がわかりませんが、現状は実施率1%なので、「死因不明」がほとんどです。これが日本の実体です。ジャーナリストのみなさんに、キャンペーンでこの問題を書いていただけると助かります。
解剖が行える人員は、法医学者が120人、病医院関係者が1000人という現状です。病医院で行われる解剖には、国からの費用が出されず、25万円程度のもちだしになります。費用が付かないということは、人材が育たないということです。巡り巡って市民社会にとってものすごいマイナスになります。
この話がなぜ問題解決に進まないか。デメリットをこうむるのが声を出すことはできない、亡くなった人々だからです。生き残ったご遺族は弱い立場にいるので強い声を出すことができなません。健康な人がしっかり考えるべきと思っています。
日本のシステムは、利権がないと動かないというのが実感です。最たるものが厚生労働省です。また、メディアの方に訴えてもその人には理解してもらえます。でも、記事にするとなると直接聞いていない人が「そんなの記事にならない」と言い出します。
賞をいただいて力づけられました。こういうことを感じ取ってもらう人が多いと感じたからです。
「解剖の代替法として、Aiを導入しましょう」というのが本の趣旨です。国が認めればかんたんに実現します。医療現場は“アイドリング状態”なので、あとは費用をいただくだけです。年間200億円の予算は大きい額に思えますが、全国民が死因を確定できます。安い出費だと思います。国全体で考えればできると思います。
法務省は「裁判員制度にAiが必要」という感じでした。しかし、費用の話になるとうやむやになります。費用を出さないと医療現場がいっそう疲弊します。医療費からこれを出せば医療費増額を、増額できないならきちんとした別の費用を。(経済的な)利益を生まない制度には国家が投資するしかありません。
こうしたことを、ジャーナリストの方に外に向けて発信していただきたいと思います。Aiを日本に根づかせたいと思っている人々の思いが通じたのだと思います。
●
また、科学ライターの松永和紀さんには、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』の著作に対して賞が贈られました。松永さんは仕事で欠席だったため、あいさつが代読されました。
科学ジャーナリスト賞の授与に対し感謝申しあげます。
『メディアバイアス』では、マスメディアの歪んだ報道の現状を書きました。なぜこのような本を書いたかを説明するには、私の新聞記者としての経験を申しあげなければなりません。
科学部に在籍したことがなく、夫ともに九州で子育てをしながら、記者を書いてきました。地方紙の記者は何でもやります。農業、福祉、医療、さまざまな分野を広く浅く取材し、止まり勤務のときは火事場にも事件現場にも駆けつける日々でした。科学知識のない一般読者と接する機会も多くありました。
一般読者にとっては、科学面はそもそも面倒なものです。社会面も経済面、家庭面などで書かれる残留物や食品添加物、環境ホルモンの記事から科学情報を受けとります。
しかし社会部、経済部の記者は「専門知識をもたないのが解」ということを聞きます。その結果、科学的にみれば首を傾げざるをえない記事、主観に満ちた記事ができます。私自身、取材でそんな記事を書いた覚えもあります。
では科学面を読みそうもない普通の人々に基本的な科学技術に関する知識をどう伝えるか、どう私は責任を負うべきなのか。これらは記者時代の大きなテーマとなり、結局は新聞記者をやめフリーの科学ライターになることにしました。
それから9年。メディアバイアスは私の集大成です。
「科学技術に感じる様々な疑問や不安を平易に解き明かしたい。科学への深い関心を、くらしのなかから掘り起こしていきたい。市民自身の努力で培われる目がメディアを育てるのではないか」。そう思いながら書きました。出てきたことは科学的には先端でも高度でもなく、お世辞にもスマートとはいえないことです。
そんな思いをJASTJのみなさんが思いがけなく認めてくださり、科学的読み物として評価してくださいました。望外の喜びです。研究者や企業人、行政万など多くの人々への感謝の気持ちでいっぱいです。地に足をつけて取材していきたいと思います。
私にもバイアスがあります。判断ミスから一面的な報道をしてしまうこともあるでしょう。そんなとき、私を支えてくれた人たち、集まりのみなさん、読者が「ちょっとおかしいよ、こんな見方もあるよ」と指摘くださるとよりよい原稿につながります。それを目指して、まじめな努力を続けたいと思います。ご指導よろしくお願いします。
あすは、もう二人の受賞者を紹介します。
| - | 23:59 | comments(0) | -