2006.09.30 Saturday
書評『やれば、できる。』
ノーベル物理学賞受賞者・小柴昌俊さんの自伝的エッセイです。研究への厚い志を伝えるその語り口はとてもおおらか。小柴さんの“あの雰囲気”がよく伝わってくる本です。
『やれば、できる。』小柴昌俊著 新潮社 2004年 208p
子ども時代に面倒を見てもらった恩師や、開発したニュートリノ観測装置カミオカンデ・後継のスーパーカミオカンデを舞台に活躍する愛弟子など、著者が出会ってきた人々との思い出を中心に書かれている。
中でも著者の人柄がよくわかるエピソードが、カミオカンデの建設をめぐる、メーカー社長との「交渉」だ。
宇宙から降り注ぐ微粒子であるニュートリノを捕まえるため、光電子倍増管というセンサーの役割を果たす装置が必要になった。ところが、この装置が威力を発揮するには、12.5センチの直径を50センチにしなければならない。いわば電球の化け物のようなものをこしらえることが必要になったのだ。
著者は、発注メーカー浜松ホトニクスの晝馬輝夫社長に試作を依頼するが、社長は「技術的に大変」と首を縦に振らない。3時間の粘り腰の末に、著者は一言。「誕生日はオレのほうが一日早いじゃないか。この国では年長者の言うことは素直に聞くもんだよ」
この一言で社長も決心し、試作品を作ることになったという。
話はそれだけで終わらない。この光電子倍増管が1個30万円もするとわかった著者は、再び晝馬社長とやりあう。今度は値切り交渉だ。「うちの優秀な部下二人を助っ人に送り込んだのだから、開発費は相殺して欲しい」と、掛け合い、1個30万円を12万円にまで下げてしまった。結局、浜松ホトニクスは3億円の赤字を出したという。
なぜ、そこまで値切るのか?
「全てはぼくの貧乏性だから」とは書いているが、もちろんそれだけではない。「国民の税金を使うということが、どうにもぼくの気持ちを重くしていたんです」と著者は述懐する。好奇心を叶えるための純粋な科学を支えているものが税金であるということを強く意識して、装置の発注も値切りに値切ったのである。
科学の知識を純粋に追う研究者のマインドがこの本にはある。
『やれば、できる。』はこちら。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4101070210/sr=1-4/qid=1159601298/ref=sr_1_4/503-7257412-2611120?ie=UTF8&s=books
先日、雑誌の取材で、小柴さんとお話をする機会がありました。小柴さんは(2006年)9月19日で御年80歳になったばかり。取材の最後に元気の秘訣を聞くと、ピシャッと一喝。
「本当に『これをやりたいんだ』と思えることには、疲れも感じないんだよ!」
ノーベル賞の成果を出してもなお、基礎科学の振興に東奔西走する小柴さん。夢を叶え続ける人です。
『やれば、できる。』小柴昌俊著 新潮社 2004年 208p
子ども時代に面倒を見てもらった恩師や、開発したニュートリノ観測装置カミオカンデ・後継のスーパーカミオカンデを舞台に活躍する愛弟子など、著者が出会ってきた人々との思い出を中心に書かれている。
中でも著者の人柄がよくわかるエピソードが、カミオカンデの建設をめぐる、メーカー社長との「交渉」だ。
宇宙から降り注ぐ微粒子であるニュートリノを捕まえるため、光電子倍増管というセンサーの役割を果たす装置が必要になった。ところが、この装置が威力を発揮するには、12.5センチの直径を50センチにしなければならない。いわば電球の化け物のようなものをこしらえることが必要になったのだ。
著者は、発注メーカー浜松ホトニクスの晝馬輝夫社長に試作を依頼するが、社長は「技術的に大変」と首を縦に振らない。3時間の粘り腰の末に、著者は一言。「誕生日はオレのほうが一日早いじゃないか。この国では年長者の言うことは素直に聞くもんだよ」
この一言で社長も決心し、試作品を作ることになったという。
話はそれだけで終わらない。この光電子倍増管が1個30万円もするとわかった著者は、再び晝馬社長とやりあう。今度は値切り交渉だ。「うちの優秀な部下二人を助っ人に送り込んだのだから、開発費は相殺して欲しい」と、掛け合い、1個30万円を12万円にまで下げてしまった。結局、浜松ホトニクスは3億円の赤字を出したという。
なぜ、そこまで値切るのか?
「全てはぼくの貧乏性だから」とは書いているが、もちろんそれだけではない。「国民の税金を使うということが、どうにもぼくの気持ちを重くしていたんです」と著者は述懐する。好奇心を叶えるための純粋な科学を支えているものが税金であるということを強く意識して、装置の発注も値切りに値切ったのである。
科学の知識を純粋に追う研究者のマインドがこの本にはある。
『やれば、できる。』はこちら。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4101070210/sr=1-4/qid=1159601298/ref=sr_1_4/503-7257412-2611120?ie=UTF8&s=books
先日、雑誌の取材で、小柴さんとお話をする機会がありました。小柴さんは(2006年)9月19日で御年80歳になったばかり。取材の最後に元気の秘訣を聞くと、ピシャッと一喝。
「本当に『これをやりたいんだ』と思えることには、疲れも感じないんだよ!」
ノーベル賞の成果を出してもなお、基礎科学の振興に東奔西走する小柴さん。夢を叶え続ける人です。