科学技術のアネクドート

「はやぶさ」の名の由来


内幸町の日本プレスセンタービルで行われた、JAXAの宇宙教育センター長・的川泰宣先生の講演会に参加。年末年始に掛けて、新聞各紙の科学技術面や、テレビの科学番組を大いににぎわせた惑星探査機「はやぶさ」の業績などについての報告です。

各報道機関で報じられているので、はやぶさが何をしたかについては他のサイトに譲ります。ただ、的川先生の“自己評価”は、小惑星イトカワの岩石を採取したかについてはまだ結果は出ていないが、その他の新型惑星探査機としての機能という面では、ほぼ金メダル級の役割を果たせたのではないかというものでした。

おもしろかったのは、「はやぶさ」というネーミングが決まるまでの経緯です。

当時の宇宙科学研究所の関係者などでこの探査機にネーミングを付けるにあたって、候補がいくつか出たそうです。で、もっとも人気が高かったのがじつは「はやぶさ」ではなく「アトム」でした。打ち上げの2003年が鉄腕アトムの誕生年に当たっていたことや、地球からの操作が必要ない自律型の探査機であることなどから、アトムの名称はとてもマッチするものでした。

以前、的川先生は、人工衛星に「火の鳥」という名前をつける際、漫画『火の鳥』を書いた手塚治虫のところまで許可を得にいったそうです。そのとき、手塚治虫から「ああ、もうどんどん、私の漫画の名前を使ってください。『鉄腕アトム』とかもね」と言われたそうで、そんなこともあって的川先生自身「アトムで決まりだな」と思っていたそうです。

ところが、名称選考役のある一人が、「アトム。アトムねえ。なんだか、原子爆弾(Atomic Bomb)を連想しちゃうなあ」とぼそっと一言、発しました。これにより急に「アトム」はトーンダウンして、ほぼ決まりかけていた名称はなんとボツになったのです。

そこで浮上したきたのが、第二候補として上がっていた「はやぶさ」でした。鳥のハヤブサのように、衛星イトカワにさっと寄って、ぱっと岩石を採集して帰ってくるその勇姿。また、惑星イトカワの名のもととなった糸川英夫が、太平洋戦争の時期に「隼」という飛行期を開発してたこと。さらには、かつての宇宙科学研究所の若手職員(的川先生を含む)が、東京から鹿児島の内之浦のロケット打ち上げ台まで行くのに、寝台特急「はやぶさ」を使っていたこと。これらのことから、最終的に「はやぶさ」で落ち着いたそうです。

ネーミング一つとっても、なかなか一筋縄で行くものではありません。いまは「はやぶさ」が定着して愛着も沸き、数年後の地球への帰還が待ち望まれています。
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書評『宇宙に取り憑かれた男たち』
明日講演を聞きにいく予定のJAXA(宇宙航空研究開発機構)的川泰宣先生の本を予習がてら読みました。

『宇宙に取り憑かれた男たち』的川泰宣著 講談社プラスアルファ選書 2000年 240p


紹介されているエピソードのそれぞれを順番に並べていき、その出来事の年を付けていったら、それだけで立派な宇宙開発史の年表が出来上がりそうだ。ソ連・ドイツ・米国そして日本のロケット開発、月面有人着陸をゴールテープとした1960年代の米ソのデッドヒート、秋山豊寛氏を筆頭とする日本人の宇宙への歩みなど、テーマは幅広い。宇宙飛行士とはまた別の目線で、宇宙開発をずっと見守りつづけてきた著者も、タイトルにある『宇宙に取り憑かれた男たち』の一人だろう。

有人宇宙開発の黎明期に当たる、アメリカのマーキュリー計画からアポロ計画までのエピソードなどは、純粋に興味の沸くところ。

例えば、アポロ計画で初めて人を乗せて宇宙を飛んだアポロ7号では、宇宙飛行士の3人が本番で風邪を引いて不愉快になり、ヘルメットを付けずに大気圏に再突入してしまった。そのかどで、二度と宇宙に飛び立たせてもらえなかった飛行士もいたらしい。あたえられた計画を忠実に遂行するだけではない、人間味溢れる宇宙飛行士たちばかりだ(NASAにとっては冷や汗ものだろうけれど)。映画『ライトスタッフ』を観たことがある人なら、「あ、あのシーンのことだ」と思い出すところが多いだろう。

けれども、この本の最大の山場は、著者が実際に2年にわたって師事した、糸川英夫のエピソードにあるといってよい。

ある年、広いロケット打ち上げセンターの候補地を探していた糸川は、鹿児島の内之浦を有力候補とする。現地視察のためタクシーを拾ったが、地元の運転手が「内之浦は道が荒れているから」と言って運転しようとしない。挙句の果て、糸川は運転手を助手席に座らせて、自分でタクシーを運転してしまったという。

宇宙開発には直接は関係ない話も多いけれど、いまの宇宙開発にも十分に習うべきマインドがそこにはある。その独創的なアイデアと言動から「マルチ人間」と評された糸川。その糸川をつぶさに見てきた著者は「弟子の私の記憶では、狭い常識にとらわれず、常に新しい課題に飛び込んでいく真の先覚者」だったと評伝する。糸川の名前は、2005年、日本の小惑星探査機「はやぶさ」が着陸した小惑星「イトカワ」にも遺されている。


『宇宙に取り憑かれた男たち』はこちら。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062720248/qid=1141050920/sr=1-1/ref=sr_1_2_1/249-3474436-1822759

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最終目標からさかのぼって考える


めざまし時計の鐘が震えて、その鐘のところに付けておいたひもが揺れて、そのひもの揺れで球コロのストッパーが外れて、球コロが転がって生卵の殻にぶつかり、殻が割れてフライパンに卵が落ち、フライパンで目玉焼きが出来る…といった連鎖反応式の機械を映画とかで見たことがあると思います。NHKの『ピタゴラスイッチ』でもやってますね。

最大労力で最小成果を生むこのマシン。「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」と言います。米国や日本ではなんと、ルーブ・ゴールドバーグ・マシンの大会まで開かれているそうです。

聞いた話、このマシンを最初から最後まで無事に動かして目的を達成させるために、設計者は最終目標からスタートして、その一つ手前の工程を考え、それがうまくいったらもう一つ手前の工程を考えていくそうです。つまり、“あがり”から考えはじめ“ふりだし”に近づいていくという方法。

これにより、目標を達成するためにいまの自分には何が足りなくて、それをどう得ればいいのかが具体的に見えてきそうです。また、そのギャップを埋めるのに必要なアイデアも浮かんでくるかもしれません。

『タイムマシンをつくろう!』という本の中でも、タイムマシン作りのために、最終目標からさかのぼって、どんな材料が必要になるかを導き出したエピソードが載っています。

物理学者でSF作家のカール・セーガンが、彼の小説がもとで作られた映画『コンタクト』を見ました。映画の中で主役のジョディ・フォスターは、地球と26光年離れた星の間を「ワームホール(時空の間に空いた虫食い穴)」によって移動します。セーガンは、このワームホールを使ったワープがどうすれば実現可能になるかを、友人の理論物理学者キップ・ソーンに聞いてみたそうです。

セーガンから質問を受けたソーンは、「リバース・エンジニアリング」という手法を使って答えることにしました。完成品をばらばらにして、使われている技術を分析するというものです。

この場合、完成品は、ジョディ・フォスターのワープを可能にしたワームホール。そのワームホールの条件として、「ジョディが通り抜けられるのに十分な時間、開いたままでなければならない」「ジョディを重力で引きちぎってはならない」などがありました。

これら条件を満たすため、ワームホール作りに必要な物質が何であるかをキップソーンは考えたのです。そして、水やダイヤモンドなどのいまある物質では計算上不可能であることがわかり、そこから「反重力(引力とは逆に、モノをしりぞける力)」が必要であるという答えを導き出しました。

反重力は、存在自体、示唆されてはいます。でも発明はまだされていません。なので、現実身は帯びていませんが、少なくとも理論上は、反重力を使えば、ワームホールの入口と出口を確保することが可能となり、ジョディ・フォスターは映画のとおり26光年をワープすることができるということがわかったのです。

このキップ・ソーンのストラテジーや、ルーブ・ゴールドバーグ・マシンの設計では、達成目標が明確になっているということが共通しています。一般化すれば、ある目的やノルマが明確になっている場合、そこから、いまの現状にいたるまでを少しずつ引き算していけば、各段階でなにが必要であるかがわかり、そのための独創的なアイデアもリアルに浮かんでくるかもしれません(言うは安し、行うは難しですけど…)。

ちなみに。冒頭のルーブ・ゴールドバーグ・マシンを初めて私が知ったのは、鳥山明の『Dr.スランプ』の中でした。ドクターのせんべいさんが、あこがれのみどり先生のスカートをめくるため、綿密な計画を立ててルーブ・ゴールドバーグ・マシンを作ります。果たせるかなせんべいさんの夢…。ついに実行してみると、マシンはすべて完璧に動きました。でもたった一つ、せんべいさんが予想していなかったことのために、夢はもろくも崩れ去りました。その日、みどり先生はスカートではなくパンツルックだったのです。

参考文献
ポール・デイヴィス著 林一訳『タイムマシンをつくろう!』
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アキバ系おでん缶の味くらべ


毎日新聞の2月23日付記事「銚子風おでん アキバで人気」を読んでおでん缶を食べたくなり、秋葉原で買ってきました。

食べ物の味を文章や会話で表すのって、とても難しいと思います。「一見」に対する「百聞」よりも大変なのでは。

でも、私の知るかぎり、それに果敢に挑戦している新聞記者が一人います。

そう、それは東西新聞社の栗田(現・山岡)ゆう子さん!

栗田さんの書いた記事を読んだことはありません。しかし「赤ワインの苦味と酸味が一体となって、口の中でまろやかに広がって行くわ」とか「こんなに芳醇でぷりぷりっとした舌触りの牡蠣は初めてだわ」とか、食べ物の味を語らせたら、栗田さんの右に出るものはなかなかいないと思います。

私も表現力を鍛えるために、人前でなにか新しいものを食べたときは、なるべくその味を表現して共感を得ようとします。そして、(黙って食べろ)と迷惑がられます。orz。

前置きが長くなりました。秋葉原駅周辺で売っていた写真の4缶を食べてみました(価格は税込み)。


「こてんぐ 牛すじ入りおでん」は、チチブデンキの自動販売機と店内で売ってます。アキバ系おでん缶の火付け役となった元祖。「つみれ入り(200円)」「だいこん入り(200円)」「牛すじ入り(250円)」あるうち、チチブデンキの店主いわくいまいちばん売れている「牛すじ入り」を買いました。具は左から順に、牛すじ肉、ちくわ、さつまあげ、こんにゃく、うずら、昆布。 

「コンビニエンスストアのよりもだしが濃厚だ。このだし、口当たりでまず効いたあと、喉を過ぎる頃にさらに甘みが口の中で横に広がって行くな。牛すじは小ぶりだけれど、脂身のところは舌に当たるとすぐにとろけて行く。こんにゃくにもだしの味がしみ込んでるぞ。こんにゃくとだし、それぞれの風味が舌の上で折り重なっていくな。昆布はちょっとぱさぱさしてるなあ。鍋で温めてたら、鍋底にひっついちゃった」



「缶のおでん屋 おてんちゃん(300円)」はラオックスで売ってます。他のと比べてツナ缶のような背の低いおでん缶。具は、黒はんぺん、スジ、こんにゃく、昆布、はんぺん、うずら卵、豚モツ。

「だしのつゆが入っていない分、おてんちゃんは素材の味で勝負してるな。黒はんぺんのところどころかたまりの残った不均一の歯ごたえがいいぞ。こんにゃくにはほんのりとした苦味。昆布はちゃんと巻いてあって、ボリュームがあるな。それぞれの具の味が個性的。ひと缶全体で味のバランスを叶えている感じだなあ」



「静岡(しぞーか)おでん(300円)」は、白地に富士山のシンプルなラベル。あきばお〜各店舗で売っています。具は、糸こんにゃく、うずら卵、黒はんぺん、牛すじ、さつま揚げ、なると巻き。

「醤油ベースの濃い口つゆはやや甘めだな。うずらの白身はちょっと固めだけれど、その分いくらのように、白身がプチッと割れたあとに出てくる、黄味のジューシーさが増幅されてるな。牛すじは弾力が残っていて噛みごたえ十分ありだ。全体的にややしみ込みが足りないかな。まだ、つゆと具の味が完全には一体感を出していないな」



「銚子風ODENKAN(300円)」は冒頭の毎日新聞で紹介された新参者。こちらもあきばお〜各店舗で売っています。具は、こんにゃく、昆布、卵、大根、いわしつみれ、にんじん、ちくわ、さつまあげ。

「うわーどれも具が大きい。だしは、こてんぐのものと近いな。昆布はさすが銚子風。潮の香りとだしが折り重なって、波のように喉元に迫ってくる。うずらでない卵は、さすがに中の黄味までだしはしみ込んでないな。黄味を食べてからだしを後追いさせれば、口の中でうまく混ざるな。カクテルのニコラシカみたいだ。にんじんと大根の野菜は、煮込みが効いていて、ほとんどだしの味だな。野菜組(にんじんと大根)と、練りもの組(ちくわとさつまあげ)の味はおとなしめで個性はあまりないな。具が大きいからインパクトで勝負してるな」

というわけで、私の好みは、1 こてんぐ、2 銚子風、3 おてんちゃん、4 静岡、となりました。

これからも、栗田さん目指して、味の表現を鍛えていきたいと思います(ちなみに声は、よく裏返るので、富井副部長に似てると言われる)。

「こてんぐ おでん」の売っているチチブデンキの場所はこちら。
http://www.chichibu-el.co.jp/image/map.gif
「おてんちゃん」のラオックスの場所はこちら(コンピュータ館で手に入れました)。
http://www.laox.co.jp/images/shop_list/map/akibamap.jpg
「静岡おでん」と「銚子風ODENKAN」のあきばお〜の場所はこちら(壱號店で手に入れました)。
http://www.akibaoo.co.jp/new/img/map.gif
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スベスベマイティマウス


アップルの「Mighty Mouse」を使っていたら不具合発生。工学スクロールボールという突起のボールが下方向に動かなくなってしまいました。

このボール、他のスクロールマウスのスクロール機能と役割は同じ。ただ、Mighty Mouseの場合“ボール”とあるように360度回転します。ボールを左右にカリカリさせると横方向にも画面がスクロールしてくれます。

私のマウス、下方向にスクロールしようとしてもボールが“カリカリ”しません。そのかわりに“スベスベ”します。ボールを指の表面がすべるだけの状態。

同じ不具合で困っている人はけっこういるようで、アップルのMighty Mouseのサイトには「やっぱり!スクロールがダメになってきました」とか「3ケ月くらいでスクロールボールが使用不能になりました」との声が多々。

同じくアップルのサポートページには「工学スクロールボールの掃除のしかた」として「スクロール操作がスムーズにいかなくなった場合は、マウスを裏返して持ち、ボールを強く転がしながら清掃してください」とあります。これも試してみましたが、やっぱり下へのスクロールがうまくいきません。

税込5,670円とやや高めのこのMighty Mouse。でも、スクロール問題が起きる前までは、値段に見合う便利さでした。

いちばん便利に感じていたのは、左右クリックができるようになったこと。これまでワンボタンを貫いてきたアップル社が、このMighty Mouseから方針を大転換。見た目はワンボタンマウスと同じですが、左側をクリックするとこれまでと同じの働きをし、右側をクリックするとcontrolボタンを押したままクリックするのと同じ働きをします。これが便利。

例えば、ディスプレイ上の文字を選んで右クリック。すると「Googleで検索」という欄が出てくるのでそれを選びます。すると、インターネットのブラウザでGoogleが立ち上がってキーワード検索の結果が出てきます。さらに、英字を同じくアクティブにして「辞書で調べる」欄を選ぶと辞書ソフト「Dictionary」が立ち上がって、意味を調べてくれます(英-英辞典)。これらは、MacOS10.4以降の機能です。

また、マウスの底のコロの役割をセンサが果たしていたので、ベッドの上のような柔らかい表面でもマウスパッドなしで操作可能。私のPCはノート型なので、ベッドの脇にPCを置いて布団から顔だけ出し、マウスを握る手はぬくぬくした布団の中なんてこともできました。

夕方、ビックカメラ有楽町店で大型テレビに映し出される荒川静香選手を横目に修理コーナーへ。戻ってくるまでに3週間かかるそう。

最近発売された同じマウスは改善されているのでしょうか。リンゴのマークを付けたスタッフに聞いてみると「そうしたことはないと思います。改善されたものが出荷されたらアップルから発表があるので」とのこと。ついでに「よくこの故障で客は来るんでしょうか」と聞くと「修理担当ではないのでなんとも言えません。でも、私のマウスもそうなりました(笑)」とのこと。orz。

しばらくは、右手の指の指紋がこれ以上磨り減らないことを祈りつつ、タッチパッドで耐え忍びます。

アップルストアのサイト内、「Mighty Mouse」のページはこちら
アップルサポートのサイト内、「Mighty Mouse の清掃方法」はこちら
(ちなみに)スベスベマンジュウガニは、こんなカニ
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書評『知の失敗と社会』
科学書の書評は、どちらかというと本の悪い点よりも良い点を強調します。それは、科学の魅力も問題点も含め、科学を知るということはよく生きることに繋がるという考えがあるからです。

で、今日紹介する本は、ちょっと辛口となりました。ある分野の専門家と、そうでない者(もちろん私もこっち)との間にギャップがあることを感じる本でした。

『知の失敗と社会 科学技術はなぜ社会にとって問題か』松本三和夫著 岩波書店 2002年5月 350p


著者は「誰のせい」と簡単に決め付けられないような微妙な災害を「構造災」と名付ける。たとえば(有害だとは思わず)使っていたフロンガス技術がオゾン層を破壊していたとかそういったものだ。この構造災はしばしば、科学・技術・社会の3つの境目あたりで、想定外のことなどによって引き起こされるという。

こうした構造災から起きる「知の失敗」をなくすためにはどうしたらよいか。それがこの本のテーマ。

なるほど、著者独自の斬新な考えもあった。「専門家は“良い専門家”であるべきと言われてきたけれど、非専門家も“良い非専門家”を目指すべき」とか、「理系と文系の分野の融合などには良いことがある反面、悪いことも複雑に起きるから目を向けないといけない」とか。

けれども、話の筋にどうも納得できないところもあった。例えば、構造災は「人災と天災の間に存在する」らしい。でも原発事故やロケット打ち上げ失敗の話を見るかぎり、天災とは関係なさそう。

もうひとつ。著者は官・学・産・民が科学技術を善悪どう思っているかを調べるため、各分野の論調をインターネットなどから選んで統計をとった。けれども、選びだしには著者の主観が入る。よって結果にも著者の主観が入る。

さて、冒頭のテーマの結論はこうだ。「専門家は専門家で、市民は市民で、自分の良くない点を言いましょう。専門家と市民の距離がより近くなるから」「同じ目的の研究は同じ条件で競わせて結果を出させましょう。微妙な部分も比べられるから」「もっといろんな学会を認めましょう。かたちより中味が大切なんだから」「あることを決定するために専門家と市民が会議をしたら、反対の立場の専門家と市民も“裏会議”を開きましょう。メリット・デメリットが浮かんでくるから」 

結論についても、現実性や有効性に疑問があった。科学技術の分野が細分化されてるいま、同じ条件で比べられる研究なんてあるんだろうか。専門家と市民の“表会議”と“裏会議”をやれば、メリット・デメリットは出るだろうけど、結局それをどうまとめていくのだろうか。そこまでは書かれていない。

難しい文章を前にすると、それを理解できないこっちのほうに非があるのだろうかと不安になる。文章はたとえばこんな感じ。「科学・技術・社会系全体の統治に直接かかわる官セクターの施策を正当化する論理やデータを見いだすことの代名詞に政策研究がなっている状態が存在するのなら、知の世界にゆとりが存在しない状態にそれはかなり近いといえる。」

上に示した結論をこの本に当てはめてみれば、「専門家は、難しいことばを使いすぎる、という自分の良くない点に気づきましょう」となるのだろうか。もっと市民にわかりやすく伝えるか、それができないなら誰かにに分かりやすく伝えてもらうかをすれば、専門家と市民の距離はもっと近くなるのに。

『知の失敗と社会』はこちら。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4000238108/qid=1140688832/sr=1-1/ref=sr_1_10_1/249-3474436-1822759
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「創造力がある人と無い人のたった一つの違い」


『「超」発想法』という本に、「創造力がある人と無い人にはたった一つの違いしかない」と書かれてあります。

その違いとは、「創造的な人は自分が創造的だと思っており、創造的でない人は自分が創造的でないと思っている」ということ。(!)

この話の出所が『アイデアのおもちゃ箱』という本だと知り、該当ページを読んでみました。ある大手出版社の経営者が、編集やマーケティング部員に創造性がないことを気にかけ、心理学者に創造的な人と創造的でない人の違いは何なのか、調査依頼したそうです。心理学者が1年にわたって調査して導き出された結論が、上に書いたものだったのです。

私は、この調査でどんな質問をして、どのぐらいの人がどう答えたのか、といった詳細を知りたかったのですが、残念ながらそこまではこの本に載っていません。

その代わり、自分が創造的でないと思っているネガティブな部下の心理と、それを否定するポジティブなボスのコメントが表になっています。例えばこんな感じ。
(ネガティブな部下)「アイデアを提出するのはムダなことである。経営者は私よりずっと経験もあり能力もある、だから、こんなことは前に思いついているだろう」
(ポジティブなボス)「アイデアは必ずしも大きな効果があがるものである必要はない。偉大な結果は小さな始まりからということもある」

(部下)「私が最近出したアイデアは惨めな失敗だった。トムのほうがよかった。次のチャンスに賭けるのが怖い」
(ボス)「かつて、トマス・エディソンは失敗は成功のもとといった。人生における唯一の過ちは試さないことだ。間違いをしないように試さないかわりに、うまくいくよう試してみよう」

(部下)「私はへまをして、惨めに失敗するだろう」
(ボス)「完璧主義になる必要はない。やれば何か得るところはある。最後に完成したらどんな気持ちになるか創造してみることだ」
「ものは考えよう」ということですね(もし部下がポジティブで、ボスがネガティブだったら、出るくいは打たれるなどの新問題は出てくるかもしれませんが…)。

さて。となると、どうやって「自分は創造的だ」と自己肯定するかがポイントになります。スポーツ競技における自信のつけ方が参考になりそうだったので、スポーツ心理学の永幹雄名博士の資料から、創造力にも使えそうなものを抜き出してみました。

まずは「競技に対する認知を変える」こと。勝つことは大事だけれど、もっと大切なことは「ベストを尽くすこと」「実力を出し切ること」という風に、競技に対する考え方を変えるわけです。創造性に当てはめれば、アイデアを実践してみての結果なんてものには恐れるな、ということでしょうか。

また「他者の体験やプレイを見本にする」こと。あいつにできるんだから、自分にできないわけはない、といったことです。たしかに同世代の起業家とか作家とかがアイデアで稼いでいるのを見ると、対抗意識がメラメラ燃えたりします(私だけ?)。

さらには「自己暗示を行なう」というのも。念仏のように唱えましょう。「自分はアイデアマンなんだ。自分はアイデアマンなんだ。自分はアイデアナンマンダ(?)」と。

最後は「自信があるように振る舞う」。とりあえず形から入ったら、いつのまにか中身も変わってたということでしょうか。

どれも、もともと自信がない人がやるとなると、強制的にやることが必要かもしれません。

冒頭の『アイデアのおもちゃ箱』にも、自己肯定の方法が載っています。まず、自分を肯定する成功リストを作ること。次に、「私は○○は創造的な人物である」みたいな肯定的なことを毎日5分書き、ネガティブなことが思いたったらそれも書きとめて、さらにそれを打ち消す肯定的な言葉で追い打ちをかけなさい、とあります。これも「自己暗示」と同じですね。

ちょっとパラドキシカルですが、私は、冒頭の「創造力があると思うか思わないかの違いだけが、創造力があるかないかの違い」ということを知ることが、いちばん自信につながるんじゃないかなと思いました。なんだ、違いはそんな小さなことなのか、と思えたわけですから。

『アイデアのおもちゃ箱』を書いたマイケル・マハルコのサイト『Creative Thinking』はこちら(英文です)。
http://www.creativethinking.net

参考資料
野口悠紀雄著『「超」発想法』
マイケル・マハルコ著『アイデアのおもちゃ箱』
徳永幹雄編『教養としてのスポーツ心理学』
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信州発。チェルノブイリ「20年目の対話」


ちょっと早い話ですが、今年の4月でチェルノブイリ原発事故から20周年になります。おそらく在京テレビ局、大手新聞社などは、こぞってこの4月に合わせて特集企画を組むことでしょう。

そんななか、いち早く、チェルノブイリ原発事故から20年目のいまを特集記事として報じた新聞社があります。長野県の信濃毎日新聞です。


原子力発電所のない長野県とチェルノブイリ原発の関係。通常なかなか結びつかないものです。でも、長野県松本市には、県内病院の名誉院長・鎌田實さんが理事長を務める「日本チェルノブイリ連帯基金」なる団体があったり、信州大学がバックアップをしたりして、チェルノブイリ原発事故の支援をしています。

そうした繋がりもあって、信濃毎日新聞は「20年目の対話」という大型連載企画を開始しました。

都道府県48あるなかの一地方紙が、20年前の海外事故を振り返るというのは、珍しいと思われるかもしれません。けれども、大手マスコミがこれからチェルノブイリ原発の特集を組もうとしているなか、いち早く連載を開始する姿勢は、まさに先見の明あり。地方新聞の独自企画の面目躍如といった感があります。

聞いた話では、長野県民は道理を大切にする県民性があるそうです。そのあたり、長野毎日新聞の科学ジャーナリズムの充実ぶりとも関係しているのかもしれません。

信濃毎日新聞の報道姿勢を如実に表す言葉が、「一点突破全面展開」。つまり小さな糸口を手がかりに、そこから大局的な見方を提供する、といった精神です。

信濃毎日新聞のサイトはこちら。
http://www.shinmai.co.jp/

信濃毎日新聞では、3月11日(土)に、「信毎健康フォーラム」を佐久市で行う予定。テーマは「花粉症」。お知らせはこちらです。
http://www5.shinmai.co.jp/info/2006/02/09_001949.php
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書評『お天気おじさんへの道』
NHKのラジオ深夜便とかで、各地の便りをアナウンサーが読んだあとに「明日から暦のうえでは春。でも各地とも雪の予報で、春は名のみ。『早春賦』の聞こえてきそうな一日となりそうですね」などと歳時記がらみの話をされると、心がほのぼのとしますね(←何歳だっつーの)。

今日の一冊は、そんな味わいがそこここで感じられる本です。

『お天気おじさんへの道』泉麻人著 講談社 2005年12月発行 256p


泉麻人さんが気象予報士の資格を取った。合格率5%の狭き門だ。合格おめでとうございます。

数式を暗記するため伊勢丹で単語帳を買ったら「セイヤング」を聞きながらの試験勉強していたころが甦っただとかが、サラッとした調子で書いてある。

でもたぶん、本の裏側ではその何百倍もの努力もしていたのだろう(あとがきでちょっとだけ勉強の量とかに触れている)。それをあまり感じさせず、たんたんと書くところが泉さんらしさだと思う。

とはいえ、3回目の試験で合格したときはやはり嬉しかったらしく、祝杯の缶ビールをひと息に飲むと「喜びの気流が上昇し、頭の上にポン! と祝砲が上がった」そうだ。

気象予報士を目指す人には、「モチベーションを高めるための本」としてもいいかも。資格を取るまでのおよそ2年間の道のりを振り返ると「未開拓の筋肉を鍛え上げていくような愉しさ」があったそうだ。よく、合格までの道のりは、入門書『百万人の天気教室』から入って、参考書『一般気象学』に移れといった王道が囁かれる。この本が加えれば「気象予報士への道3点セット」だ。

もちろん、たんなる合格までの勉強日記ではないから、泉さんのファンはいわずもがな、気象予報士を目指していない普通の人でも楽しめる。気象庁の食堂のカレーライスの味とか、天気予報と絡めた、またはあまり絡んでいない、食べ物の味、街の風情、人間の表情、虫の音色なんかを味わうことができる。体育会系気象予報士・平井信行さんとかも出てくる。

泉さんが気象予報士に合格したのは50歳目前。自分がオヤジになったということをかなり意識している。けれど20歳台半ばの気象予報士養成講座の受講生たちと徹夜カラオケで互角以上に渡り合って、ケツメイシとかm-floとかを平気で歌えるオヤジはそうはいないと思った。

『お天気おじさんへの道』はこちら。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062132567/qid=1140434338/sr=1-1/ref=sr_1_10_1/249-3474436-1822759


ちなみに私はNHKニュース10の気象情報が好きです。気象予報士・高田斉さんと鎌倉アナの、仲のいい研究者と助手のような掛け合いや、全国の予報のときに流れる小春日和めいたBGMなんかが。あと、ニュース7の畠山アナが、気象予報士・半井小絵さんに「半井さん、花粉症の方々にとってはつらい季節が始まりましたね」などと語りかける姿に、中年男性の淡い恋心を感じてしまいます。
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コンピュータメディアと芸術の融合「transNonFiction」


玉川大学で司書資格の試験を受けた後、町田から横浜線に乗って関内へ。

海岸通の郵船博物館のとなりBankART Studio NYKでやっていたメディアアート展「transNonFiction―臨場する不在―」を観てきました。

この展覧会は、多摩美術大学大学院のサウンド&メディア芸術研究室の企画。テーマはひらたくいえば、コンピュータメディアと芸術の融合といったところでしょうか。この手のテーマ、日本科学未来館などでも積極的に取り組んでいるように、最近ではけっこう見られるようになりました。マサチューセッツ工科大学(MIT)のジョン前田氏東京藝術大学藤幡正樹教授などの名がまっさきに思い浮かびます。

今回の展覧会では5つの作品が展示されていました。とりわけ目を引いたのは、DriftNetという作品(トップの画像)。インターネットを自動的にネットサーフさせて、それの動きから計算された“波”を映像化させます。さらに天井からのカメラで、映像の前に立つ人の動きにより波をうねらせたり大きくさせたりすると、インターネットは他のサイトへとネットサーフしていきます。コンピュータと映像に、人の動きが加わっているわけです。

制作者の平川さんに話を聞くと「ネットサーフィンという言葉から、波を視覚化するこのアイデアを思いついた」とのこと。なるほど。

他にも、GLOBAL BEARINGという作品が目につきました(下の画像)。1.5メートルぐらいの金属スティックを前後左右に動かすとそれに伴い、地球儀をかっこよくさせたような映像が動き、スケールが拡大縮小するといったもの(ランダム性と多動性を兼ねた『パワーズ・オブ・テン』のような感じ)。


両作品とも、人の動きによって映像が移ろっていくというもの。でも、昔ファミコンで右ボタンを押せばマリオが忠実に右に動くように杓子定規に動いたのとはちがい、人が操作を加えてもランダムに動くところ(たぶんそれもアルゴリズムがあるのでしょうが)が、柔らかで芸術っぽさを引き出していました。

芸術と科学の融合というテーマは、科学のもつ芸術的な部分(エレガントさとか、機能性とか、クールさとか)をうまく取りださないと、取って付けたような陳腐なものになってしまうきらいがあると思います。この展覧会、行く前は半分楽しみ、半分不安でした。けれど、上の二つのような作品もあり、期待を裏切らないものでした。

科学と芸術の組み合わせが話題性をもっているという時点で、芸術の中に科学が取り入れられるのはまだこれからといった感をもちます。メディアアートの希少性がある現在の段階では、作品の質も玉石混淆かもしれません。将来「コンピュータ芸術? それだけ?」と言われるくらい融合が当たり前になったときには、芸術性の真価がより問われるようになるのでしょう。

「transNonFiction―臨場する不在―」は今日で日程終了。サイトはこちら。
http://www.idd.tamabi.ac.jp/transNonFiction/index.html
紹介した2作品の制作者・平川道紀さんのサイトはこちら。
http://counteraktiv.com/index_j.html
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科学技術コミュニケーター若手交流会


東京大学で行われた「科学技術コミュニケーター若手交流会」に参加してきました(私が若手かどうかは怪しいところですが、東農大のFさんに学問の世界では40代も若手ですよと励まされて…)。

文部科学省の科学技術コミュニケーター養成ユニット(要は、理科離れを防ぐために、科学技術を市民にわかりやすく伝える人を育成しましょうというプログラム)により発足した、東京大学の科学技術インタープリター養成プログラムや早稲田大学の科学技術ジャーナリスト養成プログラムの代表者がそれぞれの活動内容を発表。

その後、科学技術コミュニケーションをメイン活動としたサークルやベンチャー企業の代表たちがそれぞれの組織をアピールしました。

こうしたイベントはこれが初めての試みだった模様。

始まり当初は、「われこそは」という雰囲気でややぎこちない面も感じましたが、赤門の近くで行われた二次会では、かなり打ち解けました。

2005年は科学技術コミュニケーション元年とされ、サイエンスカフェなどさまざまな活動が各地で始まった時期でもあります。中には「これはサイエンスバブルの始まりなのでは」という厳しい見解も。

以前、編集した本で取材させてもらった東工大の藤田さんなど、懐かしい顔ぶれにもひさびさお会いすることができました。

参加した団体は次のとおり。
東京大学科学技術インタープリター養成プログラム
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/STITP/
早稲田大学科学技術ジャーナリスト養成プログラム
http://www.waseda-stj.jp/index.html
東京工業大学Science-Techno
http://www.keddy.ne.jp/~scitech/
天文学とプラネタリウム
http://www.tenpla.net/
有限会社リヴィールラボラトリ
http://www.reveal-lab.com/
NPOサイエンス・コミュニケーション
http://scicom.jp/
NPO数理の翼
http://www.npo-tsubasa.jp/
NPOサイエンスステーション
http://www.sciencestation.jp/
株式会社リバネス
http://www.leaveanest.com/
お茶の水大学サイエンスコミュニケーション養成プログラム
http://www.cf.ocha.ac.jp/SEC/GPmain.html
大阪大学コミュニケーションデザインセンター
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/
日本科学技術ジャーナリスト会議
http://www.jastj.jp/

みなさん、これからも、よろしくお願いします。
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(3)
「不気味の谷」への探検


先日、科学ジャーナリスト塾の中間報告で、ロボット工学の世界には「不気味の谷」が存在するという話を知りました。こりゃ面白そうと思い、私も調べてみました。

「不気味の谷」は、図のようなグラフで示される曲線の形からこうよばれています。このグラフ、何を表しているかというと…。

横軸は、ロボットの人間への似かよい具合です。右へ行けば行くほど、人とそっくりになるという意味です。

一方の縦軸は、人間がそのロボットに対して愛着がもてるかということ。上がれば上がるほど、ロボットに対して親近感や愛情をもつというものです。

例えば、街で見かけるピクトグラムのサインはほとんど表情無しの世界だけれど、なんとなく親近感を覚えてしまいますね。マンガではバカボンパパとか鉄腕アトムとかも。また、ホンダの人型ロボットASIMOも顔の表情は無いものの、日本人にはとても親しみを持って受け入れられています。

それに対して、東京タワーの蝋人形館の人形とか、『サンダーバード』の乗組員とかって、やけにリアルすぎてちょっと怖いと思ったことはありませんか? 蝋人形は動きませんが、これがロボットとして動いてコミュニケーションをとろうとしたら…。

こうした、やけに人間に似すぎた表情を持つロボットたちこそが、不気味の谷の“住人”です。不気味の谷の理論は、ロボット工学研究者の森政弘博士により1970年に発表されたものです。

一方、「不気味の谷なんて存在しない」と反論する研究者もいます。米国のロボット工学者デビッド・ハンソン博士がその一人。ハンソン博士は、不気味の谷のセオリーは“pseudoscientific(似非科学的)”として、ロボット作りに関わる人は、科学的証明がないセオリーで自分たちの手を縛るべきでないと言っています。

そこでハンソン博士は、自分の手で人間とそっくりな顔のロボットを作ることで、不気味の谷を乗り越えようとしました。なんと、彼の恋人に顔の骨格の測定などに協力してもらい、恋人そっくりの顔かたちや表情をしたロボット“ベラ”を作ってしまいました。

また同じく博士は、映画『ブレードランナー』などで有名なSF作家フィリップ・K・ディックとそっくりの顔ロボットも開発。36の自動修正制御モーターと、人間の皮膚と同じように動くフラッバーという化合物を駆使しています。

私は将来、ロボットと人の境界がなくなる世の中が来るのではとひそかに思っています。ハンソン博士の試みなどを見ていると、ロボットは不気味の谷を超えて、人間と見分けがつかなくなるときが来るように思えてきます。

ただ、ですよ。子ども虐待容疑で告訴された米国のとあるスーパースターの顔やら、現実感の無い連続誘拐犯の表情やらを見ていると、人間自らが不気味の谷に下りて行ってるような…。「ロボットの人間化」だけでなく、「人間のロボット化」も人間とロボットの無境界化に寄与するのでは…。昨今そんなことを考えています。

デビッド・ハンソンのサイト「HANSON ROBOTICS」はこちら(英文です)。
http://www.hansonrobotics.com/
| - | 20:17 | comments(1) | trackbacks(2)
国会図書館公開セミナー「プランゲ文庫をめぐる新展開」


先月のプランゲ文庫についての早稲田大学特別ワークショップに続き、今日は国会図書館の公開セミナー「プランゲ文庫をめぐる新展開」に参加しました。

プランゲ文庫はGHQが占領下の1945年から49年にかけて、日本で発行された新聞・雑誌・書籍・その他ありとあらゆる書物が眠っている文庫。米国メリーランド大学図書館にあります。

講演者は、国会図書館の岡田三夫・主題情報部長、メリーランド大学図書館のヴィゴー博士、早稲田大学の山本武利教授と谷川健司助教授、そして、北星学園大学の谷暎子教授。

児童文学を研究している谷暎子先生は、プランゲ文庫の存在を知るまでは、戦後間もなくは児童書なんて存在すらしなかったものと思い込んでいたと言います。アメリカの文庫に8千点もの児童書が眠っていることを知ったときは、宝の山を見つけた思いだったことでしょう。

戦中の日本軍による検閲以外に、戦後GHQによる検閲があったこと自体、あまり知られていません。どんな検閲がされていたのか、谷先生は紹介していきます。

例えば宮沢賢治の「注文の多い料理店」の冒頭。「すっかりイギリスの兵隊のかたちをして」という部分が削除されました(理由はわかりません)。ただ、おなじ「注文の多い料理店」が載っている本でも、検閲されなかったものも存在するとのこと。

どうやら、当局の民間検閲局(CCD、Civil Censorship Detachment)の検閲官それぞれの性格に左右される、かなりファジーな検閲だったようです。これは別の本ですが、発行禁止の処分がいったん出されたものの、出版社が経営難でしかもすでに本を刷ってしまったことを理由に、「まあ、しかたないか」と、出版オーケーになったなんて例もあったそうです。

「注文の多い料理店」は、検閲制度が終わった49年以降も、冒頭「すっかりイギリスの兵隊のかたちをして」を削ったまま発行し続けた出版社がいくつかあるそうです。谷先生は出版社の倫理性を批判しました。

書きたいことをこうして書くことができます。表現の自由があるということを感じづらい社会になっていると思います。それ自体はいいことです。でもそれを忘れないためにも、プランゲ文庫の資料は貴重です。言論の自由とか検閲とかいったものがどういうものかを知ることができるのも、プランゲ文庫資料の特徴。

国会図書館ではこれまで、新聞と雑誌の全資料をマイクロフィルム化やマイクロフィッシュ化して、館内の憲政資料室で閲覧できるようにしました。今後は2006年度中に、メリーランド大学と協力して、児童書籍8千点をカラーマイクロ化する予定。その後は一般図書のマイクロ化もされていきます。

国会図書館テーマ別調べ方案内「プランゲ文庫」はこちら。
http://www.ndl.go.jp/jp/data/theme/theme_honbun_302016.html

また、早稲田大学では4月9日(日)にプランゲ文庫の雑誌資料検索データベース完成記念の講演会と特別研究発表会を開催する予定です。詳細は下記、20世紀メディア研究所のサイトなどをチェックしてください。
http://www8.ocn.ne.jp/~m20th/
| - | 20:41 | comments(0) | trackbacks(1)
ライブドア・アップ・アンド・ダウンステアーズ・バーチャル・ツアー


東京地検によるライブドア家宅捜索から明日16日で1か月です。

ライブドア本社は六本木ヒルズの森タワー38階にあります。家宅捜索当日、ライブドアもライブドアに隣接する他の企業ももちろん業務中でした。想像するに、テレビニュースで六本木ヒルズからの中継を見ながら「おお、この真上のライブドアに捜査が入ってるよ!」と、固唾を飲んでいた隣接フロアの社員さんも多かったのではないでしょうか。

ヒルズ族などともよばれ、“勝ち組”のシンボルとされている六本木ヒルズの成長企業たち。昨今ライブドアの報道ばかりですが、ライブドアのある38階の上階と下階にはどんな企業が隣接しているのかを知りたくなりました。今日の東京はポカポカ陽気のお出かけ日和。これからツアーに出発したいと思います。

まずは下階の37階から。

「イータイムステクノロジーズ」はアメリカに親会社を持つ、ビデオコミュニケーションをキーワードとしたシステムの企画提案をしています。社員は本場アメリカのITやノウハウを直接吸収することができるとのこと。

「ファンドクリエーション」はアセットマネジメント※事業やインベストメントバンク※事業による、魅力的なファンド※の開発、提供を行っている企業。また、小会社「FCリート・アドバイザーズ」も同居。親会社の不動産アセットマネジメントと金融ソリューションのノウハウを活用した資産運用をしています。

※アセットマネジメント=資産の管理・運用。
※インベストメントバンク=投資目的で設立した銀行。
※ファンド=資産運用の財産。


一方、「グッドウィル・エンジニアリング」は機械やIT・情報システムなどの分野に特化したアウトソーシング※サービス企業。ヒューマニズム※とテクノロジーが共存するエンジニアリングサービスを謳っています。スキルエンリッチメント※プログラムやキャリアプランニングサポートなどのバックアップ制度のサービスクオリティが強みです。

※アウトソーシング=外注。
※ヒューマニズム=人間尊重を基調とする思想態度。
※エンリッチメント=強くすること。


「プロシードアカデミー」は34階にある「プロシード」の研修センター。コールセンターのパフォーマンス※の監査や「COPC-2000」というコンタクトセンター※のオペレーション・マネジメントのグローバルスタンダード※の導入支援など、マネジメントシステムを主な業務としているようです。

※パフォーマンス=仕事ぶり。
※コンタクトセンター=通信網による受付。
※グローバルスタンダード=世界標準。


外資系企業の東京支店も。ドイツ金融機関「ウェストエルビー」の証券と銀行の東京支店があります。グーデンターク。

一方、ライブドアの上階39階には、二つの企業が入っているようです。

「エム・ファクトリー」はブロードバンド・ネットワークに関するシステム・インテグレーション※や、ビジネスコンサルティングなどのトータルソリューション事業をしています。また、ブロードバンド環境を活かしたビデオ・オン・デマンド※の映像配信ソリューションを手がけています。フジテレビとライブドアの買収攻防戦まっただ中に放送された『恋に落ちたら(旧名・ヒルズに恋して)』のロケにも使われていました。ライブドアの天井隔てた真上で撮影されていたとは。

※システム・インテグレーション=単一業者が企業内情報構造の立案から管理にいたるまでを一括提供すること。
※ビデオ・オン・デマンド=見たい番組を見たいときに見ること。


受付案内に表示されていた39階オフィスのもう一つ「LA CACHETTE」は、詳しい情報を得られませんでした。

さて。38階にもたった一企業、ライブドアグループとは別に、案内板が掲げられている企業があります。

「シークエッジ」は、戦略コンサルティング機能を有するブティック型の※投資銀行業務を行うグループ。プリンシパル・インベストメント※、財務・戦略コンサルティングなどの各機能を統合しトータルなサービスを提供。ライブドアグループに囲まれたかたちで孤軍奮闘中! と思ったら、2004年にライブドアと合弁で「ライブドアファクタリング」というローンサービス業を設立してました。

※ブティック型の=専門的な。
※プリンシパル・インベストメント=自己資金での投資。


本日は、外来語のエレクトリカルパレードをご覧いただくツアーとあいなりました(これらは各企業のサイトから拾ったものです)。こんな中で「海山商事」とか「帝国金融」とかいった名の企業が一つくらいあれば希少価値も高いと思ったのですが、実際、企業名は英語&カタカナ率100パーセント。業務内容にも新語で満ちあふれる企業たちが、六本木ヒルズを席巻している模様です。

37階
「イータイムステクノロジーズ」のサイトはこちら(ヒルズ写真あり)。
http://www.etimestech.jp/top.html
「ファンドクリエーション」はこちら(ヒルズ写真あり)。
http://www.fundcreation.co.jp/
「FCリート・アドバイザーズ」はこちら。
http://www.fc-reit.co.jp/
「グッドウィル・エンジニアリング」はこちら。
http://www.gweg.co.jp/
「プロシードアカデミー」はこちら。
http://www.proseed.co.jp/jp/top.html
「ウェストウェルビー」はこちら。
http://www.westlb.de/cms/sitecontent/westlb/westlb_de/en.standard.gid-N2FkNDZmMzU4OWFmYTIyMWM3N2Q2N2Q0YmU1NmI0OGU_.html

38階
「ライブドア(企業案内)」はこちら。
http://corp.livedoor.com/
「シークエッジ」はこちら。
http://www.sequedge.com/

39階
「エム・ファクトリー」はこちら。
http://www.mfactory.tv/
| - | 19:40 | comments(0) | trackbacks(3)
サトウキビからクルマの燃料


テレビ番組『ガイアの夜明け』を視聴。

アサヒビールの研究員が、沖縄・伊江島のサトウキビからエタノール(アルコール)を作るまでの開発物語です。アサヒビールといったら、これまでは家で飲むニッカウヰスキーと、家に帰る前たえきれずに本八幡駅前で飲む本生ゴールドぐらいしか思い浮かびませんでした。アサヒビールがサトウキビからエタノールを作っていたとは…。

で、このエタノールですが、いま高騰している石油に代わり、自動車の燃料にもなるのです。実際、エタノール自動車の先進国ブラジルでは、フレックスカーといって、ガソリンとエタノールの使い分けが可能な自動車が売れているそう。フレックスカーに乗っている人は、市場価格が安いほうの燃料を選べるから、いつも燃料代は安上がりで済むわけです。

日本でも、エタノール燃料車の普及を2010年までに目指しているとのこと。

番組は、新しい技術成果が社会に導入されるまでの流れを捉えていました。それは、官と産学が、同時並行的に新しい流れを切り開いて、導入までの条件づくりをしていくということ。

官のほうは、小泉首相が2004年にブラジルのエタノール工場を視察。その際、エタノール燃料の有用性を(遅まきながら)認識したのです。

一方、産学のほうは、アサヒビールと九州沖縄農業研究センターによる収穫率の高いサトウキビの開発。それに、サトウキビを、砂糖とエタノールに分離する機械の開発でした。これらブレークスルーにより、石油よりも安い原価でエタノールを精製する糸口が見えてきたようです。

じつは、このアサヒビールのサトウキビプロジェクト。先日、ブログでも書いた、手料理の美味かった大学時代の友人Yさんから聞いていました。なんでもYさんの弟さんが、最近プロジェクトメンバーとして加わったそうです。昔、アサヒビールの工場見学をしたとき、ベロンベロンになった私を優しく迎えてくれたのが彼でした。いつか今度は、サトウキビ畑を案内してください!

次回で放送200回。『ガイアの夜明け』のサイトはこちら。
http://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/index.html
アサヒビールのサイト内「高バイオマス量サトウキビを用いたバイオマスエタノール製造の実証研究」はこちら。
http://www.asahibeer.co.jp/aboutus/research/r&d/report/0015/index.html
| - | 23:27 | comments(0) | trackbacks(0)
見逃していました。Google EarthのMac版


Googleの衛生画像サービス“Google Earth”のMac版が、今年の1月上旬からダウンロードを開始していたことに、いまさら気付きました(遅!)。今日さっそく家に帰ってダウンロード。まずは誰もが最初にやる、自分の家の上空を飛んでみました。

去年のWindows版のサービス開始時の衝撃に比べたら劣るものの、自分のパソコンでGoogle Earthができると思うと、やはり嬉しくなるもんですね。

このGoogle Earthを使って、開幕したトリノ・オリンピックの会場をめぐる、「バーチャル・鳥の目・トリノ五輪ツアー」をこのブログで開催しようかと企んでいたのですが、すでにGoogleがサービスをやってました。

企画急遽変更。トリノ五輪の会場に比べたら有用性は皆無に等しいですが、私ゆかりの地を上空からご紹介させていただきます。しかも画像が拡大できずごめんなさい!

いま、この記事を書いているアパートです。


実家です。が、なんと、雲が被っていて、実家を確認できません。orz。


よく行く東京体育館の屋内プールです。


大阪の山奥にある、懐かしのわが母校です。


今日は、タイムリーでもなんでもない、ただダウンロードできて喜んだだけの記事でした(失礼)。

Google Earthは、WindowsXP2000ならびにMac OS10.3.9より上位機種で無料ダウンロードできます。サイトはこちら。トリノ・オリンピックのスペシャルデータも!
http://earth.google.com/
| - | 21:09 | comments(0) | trackbacks(0)
書評『DNA複製の謎に迫る』
生物の授業でもやった、細胞が分裂するときに染色体が2つに分かれるといった、あの話です。

『DNA複製の謎に迫る 正確さといい加減さが共存する不思議ワールド』武村政春著 講談社ブルーバックス 2005年 212p


人は細胞分裂をしながら、母の胎内で大きくなるし、生まれてからは背も伸びていく。細胞分裂をしているとき細胞核の中では、DNAの複製が行われている。このDNAの複製により、体の設計図情報がすべての細胞に遺伝するわけだ。そのDNAの複製のしかたを追ったのがこの本。

DNAポリメラーゼという言葉をどこかで聞いたことがあるかもしれない。このDNAポリメラーゼがDNAの複製を行う。いろんな種類があって、それぞれが複製直前のDNAに寄ってたかって各々の役割を果たす。

例えば、DNAの複製自体を担当する主役DNAポリメラーゼα、δ、εは、DNAポリメラーゼ三姉妹として人に喩えられる。たがいに協力しあいながら複製をしていく姿が描かれる。

また、この3姉妹はけっこういい加減な複製しかしないので、その後始末に、他の脇役DNAポリメラーゼ(η、ι、κ、Rev1など)がミスコピーの部分を修復しようと東奔西走する。

こんな様子を人に喩えるなどして説明していく。

著者は学者の方なので、かなり正確性を求める記述をしている。たとえばDNA複製の全体像のところは、図も使っているけれど一度の読みだけでは理解しづらいかも(これまでの用語把握が必要というしかたのない理由と、謎がいっしょに示されて図がゴチャゴチャしているのが理由)。

でも、その正確性や厳密性がよい結果になっているところも。例えばテロメアの末端複製問題(DNAの端っこがすり減ることが細胞の寿命につながるのではという説)がどのような状況だから起きるのかまで突っ込んで書いてある入門書はそうそうないのでは。

たぶん著者の先生はあーでもない、こーでもないと、比喩をいろいろと考えながら執筆したんだろう。難しい部分もあるけれど、全体としては喩え話がとても効果的に使われていて、DNA複製のことがわかった気になる。読者の立場になった書き方を心がけているところが、素晴らしいところ。

『DNA複製の謎に迫る』はこちら。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062574772/qid=1139752797/sr=1-1/ref=sr_1_2_1/249-3474436-1822759
| - | 23:08 | comments(0) | trackbacks(0)
表参道ヒルズ、オープン。


今日オープンした表参道ヒルズを見に行きました。お上りさんもいいところです…。

建築した安藤忠雄は、同潤会アパートの風景を残すことと、表参道の緩やかな坂道を建物にも取り入れることの2つをコンセプトにしたとのこと。

実際にヒルズの東端には同潤会アパートの一角が復元されており、アトリエなどとして使われています。


また、本館を螺旋状のスロープ構造にして、地上3階から地下3階まで6層を、階段またはエスカレーターを使わないでも移動できるようにしました。これは離れ業です。


安藤建築特有の、打ちっ放しコンクリートももちろん健在。ただ、テナントが華やいでいるため、例えば大阪府茨木市の「光の協会」に感じられるような冷たさはありませんでした。

スロープに見られる斜面と、階段の踊り場のような水平面と、この二つがバッティングする場所でどう折り合いをつけるか。写真のように段差を付け、そこにつまずき防止の縞々を貼っています。完璧性を目指すと言われる安藤忠雄のこと。ここはかなり腐心したかもしれません。


スロープ式建物のため、自分が何階にいるのか把握しづらいなどの難点はありますが、全体的にはそれを補って余りあるくらいの完成度と感じました(居住スペースの住み心地はわかりません)。

今日はその後、大田区の大学時代の同級生の家で、昼間から飲み&食べ。手料理美味し。酒と食が進む! 進む! デザートのプリンの旨かったこと!

で、夕方お暇して、今度は市川市内で職場のメンバーで市川市民の会。昼間の飲み&食べが応えて、こちらではウーロン茶がぶがぶ。

どちらの会合でも、食べ物の写真を撮ったのですが、食べかけのあまりにも汚いヤツなのでアップは止めときます。みなさん、とても楽しかったです。ありがとうございました。

表参道ヒルズのサイトはこちら。
http://www.omotesandohills.com/
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(3)
宇宙飛行士の新しいライト・スタッフ


ここ2、3日、映画『ライト・スタッフ』のビデオを夜更かしして観ました。

この映画を観て、宇宙飛行士を目指した人も多いとか。J-WAVEのDJ・RYUさんも、映画の中の宇宙飛行士をただただかっこよく感じ、一時期自身も宇宙飛行士を目指したとのこと(敬愛する人は毛利衛さんだそうです)。

私の映画の感想はというと…。

主人公で戦闘機パイロットのチャック・イェガーと、ジョン・グレンたち宇宙飛行士の間で、ケンカみたいなものでもあるんかなと思って、そんなシーンをずっと待っていたら、ついにエンドロールが流れはじめました。orz。

イェガーはイェガー、グレンたちはグレンたちで平行線をたどるだけ。私の勘違いが悪いのですが、ちょっと期待外れでした。

映画は、ソ連がスプートニク号を宇宙に打ち上げた後、アメリカがソ連の軍事的・技術的脅威を感じた、いわゆるスプートニク・ショックの時代が舞台。ロケットの乗組員を宇宙飛行士にするかサルにするかで迷っていたなんてシーンも出てきます。当時の宇宙飛行士は、大気圏突入時の重力に耐えられる屈強な肉体と、狭い密閉空間に長く居続けられる忍耐力がとにかく求められていました。

現在のスペースシャトル計画に至っても、基本は地球で練習したことを、忠実に宇宙でアウトプットして帰ってくるというもの。シャトルという狭い空間に長く居続けられるチームワークや船長としてのリーダーシップ、また船員としてのフォロワーシップなどが重要なようです。

今年1月、国際宇宙ステーションの滞在要員として、経験豊富な若田光一さんと、昨年活躍した野口聡一さんが選ばれました。今後、飛行士が宇宙で長期滞在する機会も増えるでしょう。宇宙に行ってから行動計画を立てるなんてこともあるかもしれません。そうなれば、地球とはちがった環境を活かして計画を立てられるような創造力がより求められるでしょう。

体力からチームワークへ、そして創造力へ。宇宙飛行士に求められるライト・スタッフ(正しい資質)も、時代とともに変わっていくようです。

映画『ライトスタッフ』のDVDはこちら。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000BTCMUQ/qid=1139490696/sr=1-2/ref=sr_1_2_2/249-3474436-1822759
| - | 22:04 | comments(0) | trackbacks(2)
サイモン・シンの世界


英国の科学ジャーナリスト、サイモン・シン(まだ30歳台!)には、手放しの賛辞をあたえる人多しですが、私もその一人。

日本では『フェルマーの最終定理』『暗号解読』という2冊の本が出ています。その惹き込まれ方は、他の本とは明らかにちがいます。徹夜で読みふけってしまいました。

出身の英国など英語圏では3作目『Big Bang』が出ています。そのうち日本で翻訳書が出るのは確実でしょう。

Amazonでも50人以上のレビューアーが本を評して、その平均点も5点満点に極めて近いサイモン・シン。いったい、何が読者の心を掴んで離さないのでしょう?

サイモン・シンは、物理学や数学のスペシャリストであり、かつ、科学をわかりやすく伝える心をもったインタープリターでもあると思います。

Ph.D(博士号)の道は、ケンブリッジ大学に籍を置きつつ、欧州粒子物理学センター(CERN)で過ごしました。ここでサイモンは、トップクォークという、当時は理論的な存在だけが確かめられていた粒子を探し出す研究に没頭。「最先端の研究をしたり、宇宙を創る基本的粒子のことを勉強したりして、物理学のジグゾーパズルの残されたピースを発見する作業は、刺激的なものだった」と言っています。

科学を伝えるという点でも素養がありました。子どもの頃からテレビ好きで、ブラウン管に映るカール・セーガンなどの「スター科学者」は、サイモンの理想像だったそうな。学業の後、サイモンはまず国営放送BBCのテレビマンとして、科学ジャーナリストの道を歩み始めたのです。また学生時代、インドを放浪したときに、現地の小学校で臨時教師をした経験が、科学をわかりやすく伝えるマインドをあたえてくれたと言います。

新たな知識を加えるために取材も膨大。1冊の本をつくるまでに集中的に2年間くらいをかけています。ライターが本を中心にやっていくには、最低半年に1冊ぐらいのペースで出していかないと厳しい状況(国によって異なるだろうけど)。でもサイモンに限っては、おそらく今後も「量より質」でやっていき、成功しつづけるのではないでしょうか。

『フェルマーの最終定理』と『暗号解読』を読み返して、読ませる秘訣のティップスがあることを発見しました。でも、それらはたくさんありすぎて、今日のところではここに書ききれません。今後も、それぞれの本の紹介とともに、その素晴らしさを伝えていきたいと思います。

simon singh.netはこちら(読みやすい英文です)。
http://www.simonsingh.net
『フェルマーの最終定理』はこちら。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4105393014/ref=pd_rhf_p_1/249-6724800-9809961
『暗号解読』はこちら。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4105393022/qid=1138325452/sr=1-2/ref=sr_1_10_2/249-6724800-9809961
『Big Bang』はこちら(洋書。翻訳書はまだ)。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0007152523/qid=1138325555/sr=1-3/ref=sr_1_10_3/249-6724800-9809961
| - | 19:46 | comments(0) | trackbacks(0)
国会図書館の攻略法


昼間、著者の原稿執筆のための資料集めに国会図書館へ。

国会図書館は、国内のすべての資料が揃っていることになっているので、資料にたどり着ける確率は街の図書館よりはるかに高いです。最近は検索機能もすごく充実していますし。

でも国会図書館は、街の市立図書館とはちがって閉架式で、かつ、資料の貸出しはしていません。しかも、1回の申し込みで本は3冊、雑誌も3冊までと限られています(ただし、本と雑誌は同時に閲覧できる)。よって「資料を申し込んで、受け取って、その資料の複写を申し込んで、受け取って、資料を返す」というサイクルができます。

今日は、雑誌資料の複写と、書籍資料の複写の両方をする必要がありました。しかも別件山積で、早く帰社しなければ。

そこで、本と雑誌を同時に閲覧できることを利用した作戦を考えました。その作戦とは、本のサイクルと雑誌のサイクルをちょいずらすこと。図のように、本の複写受け取り待ちの間に、雑誌の資料受け取りや複写申し込みをするというものです。こうして「手持ち無沙汰」の待ちぼうけ時間をなるべく短くしました。

このテク、マニアック過ぎでしょうか…。

ここまでしなくても、国会図書館を効率的に利用するのに重要なのは、得たい情報をあらかじめ特定しておくことだと思います。

また、図のとおり、書籍のほうが閲覧する資料が多い場合は書籍のサイクルから始めること(雑誌のほうが多ければ雑誌から)。これにより、雑誌のサイクルは終了したのに書籍のサイクルは2まわり残ってる、なんて状況を防ぐことができます。

国会図書館のサイトはこちら。
http://www.ndl.go.jp/

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日本記者クラブのサロン


科学ジャーナリスト塾のサポートで、内幸町のプレスセンタービルへ。

塾の母体・科学技術ジャーナリスト会議の事務局長・佐藤さんと、温めている企画のことをうちあわせ。サポーターのリーダー藤田さんと商談、ではなくて談笑。塾生の方からは「ブログ見ましたよ」と声をかけていただき、嬉しかったです。

さて、この塾の会場であるプレスセンタービルは、テレビでたまに映る記者会見場の入っている建てものです。金文字で「JAPAN NATIONAL PRESS CLUB」と刺繍された、緑色の幕をバックに要人が話をしているシーンを見たことがあるでしょうか。社団法人日本記者クラブの会員が、ここにゲストを招いて記者会見をします。

塾が行われている9階には、記者が原稿を書いたり作業をするための筆記机があったり、ジャーナリズム関係の本が置いてある本棚があったり。また、写真のようなラウンジがあります。向こうに見えるのはバー「吉富カクテル」のカウンター。いつも、講演する先生にお水を出してもらってます。塾に行くたびにこのラウンジやバーを見ては、ちょっと高尚そうなサロン的文化を感じています。

さて、塾は今年度あと3回。出席率の低さがやや目立ちます。なかには始まって2〜30分間、塾生さんやアドバイザーの先生1人しか来ていない班も。仕事や学校の合間を縫って出席するのはなかなか難しいようです。

科学ジャーナリスト塾のサイトはこちら。
http://www.jastj.jp/Zyuku/index.htm

日本記者クラブのサイトはこちら。
http://www.jnpc.or.jp/index.html

記者クラブのレストランは記者クラブ会員と会員社の方の専用レストランです。
| - | 23:36 | comments(0) | trackbacks(0)
InDesignの使い勝手はどー?


「自転車は漕ぎはじめの労力はたいへんなものだが、スピードがつけば楽になる」――偉い人の名言(ではありません)。

編集中の本のレイアウトを、InDesignというDTPソフトでやっています。

DTPはDesk Top Publishingのこと。机の上の普通のMacで、本を出版するまでの大半の工程が済むからこう呼ばれます。DTPが導入されるまでの出版工程は、グーテンベルクの活版印刷時代から約500年間、たいした進歩はしていませんでした。

DTPのレイアウトソフトは、Wordなどのワープロソフトに毛が生えたようなもの(と、捉えてます)。例えばWordで文字を打ち込んで、画像を貼り付けて、プリントアウトするように、DTPレイアウトソフトでも、文字を入れて、画像をコピー&ペーストして、最後に出力します(フィルムに出力する場合と、本の用紙に直接印刷する場合がある)。

これまではQuark Xpressというソフトを使っていました。InDesignは使い始めてまだ間もないですが、Quarkに勝るメリットがいろいろと見えてきました。

まず、後発の利は大きいようで、Quarkの使い勝手の悪さをInDesignが解消しています。例えば、図のように縦組みの中に2桁の数字を横に入れたい場合、Quarkだと何段階か手間がかかりましたが、InDesignではボタンを一つチェックするだけで、パッと変えられます。



また同社製品との連携もスムーズ。DTPの世界にも“三種の神器”があって、一つは作図ならおまかせのIllustrator、一つは写真加工ならもってこいのPhotoShop、そして、もう一つがレイアウトに欠かせないQuark Xpressでした。けれどもQuarkだけは他社製品。そこにIllustratorやPhotoshopと同じAdobe社製のInDesignが割り込んできたわけです。

たとえば、画像の左右位置を変えるとき。Quarkだとページの左端が、座標の基準“x=0”とデフォルトでは決まっています。もし画像をページの左右ちょうど真ん中に位置させるとなると、画像のx座標(これも左端が基準)を求めるには、ページの左右中央のx座標を把握して、そこからさらに画像の左右寸法を2で割った長さをマイナスするという、ややこしい計算をしてました。一方、InDesignだと、座標の基準を(左端・中央・右端)×(天・中央・地)の9つ、気軽に変えることができます(図のとおり)。これにより、上のような計算の手間は大幅に短縮されます。この9つの座標基準の機能はIllustratorにも備わっているため、Illustrator慣れしている人には実に便利な機能です。



各雑誌を見ても、機能的にはQuarkとInDesing優劣はつけがたく、少なくともこれからDTPソフトを使い始める方にとって、InDesignを使うことにデメリットはなさそうです。

また、Quarkを使っていた人も、たしかにコンバートは面倒くさいですが、1週間もすれば慣れてきて、その後はInDesignのメリットが感じられるようになると思います。

長年、DTPのレイアウトソフトはQuark Xpressの一人勝ちが続いていましたが、InDesinを作っているAdobe社の2005年10月のセミナー発表によれば、InDesignは確実にシェアを広げているようです。

Adobe社のInDesign紹介サイトはこちら。
http://www.adobe.co.jp/products/indesign/main.html

トップ画像のリンクはMacintosh版の商品です。
| - | 22:27 | comments(0) | trackbacks(2)
書評『不死を売る人びと』
不老不死の科学と倫理をめぐるアメリカのノンフィクションです。以前に紹介した『不老不死は夢か』とかぶる部分もあります。でも規模としては、今日紹介する本のほうがはるかに大きく、実際読む時間も10倍くらい掛かってしまいました。

『不死を売る人びと 「夢の医療」とアメリカの挑戦』スティーヴン・S・ホール著 松浦俊輔訳 阪急コミュニケーションズ 2004年 502ページ


アメリカの抱える生命科学研究のジレンマを追う。

最初はレオナルド・ヘイフリックという博士が中心。ヘイフリック博士は細胞分裂は回数に限りがあるという現在の定説「ヘイフリック限界」を発見した老科学の重鎮。ヘイフリック限界が生命科学のパラダイムに登場したことで、遺伝子やDNAレベルでの老化学におけるブレークスルーがつぎつぎと起きていく。その一例が、「テロメア」とよばれるDNAの末端部分の研究だ。テロメアは細胞分裂のたびにすり減っていき、それが寿命の存在を決定すると言われている。

ただし、ヘイフリック博士は、ある別の登場人物の引き立て役に過ぎない。やがて話は、マイケル・ウエストというバイオベンチャー起業家を軸に展開される。ウエストは、不老学などの生命科学研究者につぎつぎ声をかけ、自分の味方に引き入れようとする。ウエストの起業したジェロン社はテロメアによる不老薬の開発を掲げ、一時期の株暴騰を引き起こした。だが結局このウエストは社内対立から、自分で作ったベンチャーを去る羽目になる。敗れても立ち上がるウエストを魅力的に描いているのは、著者自身もウエストに魅せられたからだろう。

登場人物がたくさんで、誰が誰だったか把握するのが大変だけど(もちろん名前はみなカタカナ)、本の中には大きな対立軸が二つあるから、それを足がかりとして読んでいくといいのかも。ひとつは上に掲げた、テロメアはほんとうに長寿と関係しているのかといったもの。
 
もうひとつの大きな対立軸が、クライマックスにかけての幹細胞研究の是非をめぐる論争だ。

幹細胞とは、成長すると皮膚・筋肉・臓器・骨・神経などに変わっていく能力をもつ細胞。たとえば幹細胞から臓器を作り出せば、いまの臓器移植手術ははるかに楽なものになる。この幹細胞を作るには、体の細胞核と卵子をドッキングさせて胚という未分化細胞を作ることが近道だ。だが、胚にはすでに人間の生命が宿っているといえないだろうか。これこそが、幹細胞研究をめぐる是非であり、また、さまざまな倫理観からなるアメリカの抱える大きなジレンマである。

胚に宿る生命の芽が摘み取られるとして国に研究禁止を求める宗教団体、医療の躍進を盾に幹細胞研究を推進する科学者たち、双方の主張にたじろぐ苦悩のジョージ・ブッシュ。三者の立場を綿密な取材により描き出している。
| - | 14:53 | comments(0) | trackbacks(1)
高校数学の性格1  ルールが厳密


数学には、解答までのアプローチが複数あります。喩えるなら、富士山を静岡側から登っても、山梨側から登っても、頂上につけばそれは富士山登頂だということ。受験数学を教える知り合いの先生も、参考書の回答などに載っている「別解」も役に立ちそうならやっぱり覚えたほうがいいと言ってます。

数学(とくに学校数学)の特徴のひとつに、それぞれの山登りの途中で、一歩も脚を踏み外すことはできないということがあるでしょうか。

たとえば、三角関数の和の加法定理というところでは、次のような式が出てきます。

cos(α+β)=cosαcosβ−sinαsinβ

もしこれが、

cos(α+β)=cosαcosβ+sinαsinβ

のように、たった一本だけ横棒を加えてマイナスをプラスにしたら、目指す頂上にたどり着くことはできません。

誤った公式や定理を使って問題と解くとどうなるか。槍ヶ岳を目指して山登りを始めたものの、森の中に遭難してしまった(答案作成に行き詰まった)、もしくは、頂上までたどり着いたらじつはその山は野口五郎岳だった(不正解だった)、といった状況になります。

この厳密性を英語にあてはめてみると、長文一個のキーワードがわからないために、文章全体の趣旨がぼやけるということと似てますね。でも、それにより正しい答えとはまったく異なる不正解を出してしまうといったことまでは至らないでしょう。他の文脈からリカバリーしたりもできます。

数学だと、公式のマイナスのところをプラスと思い込んでいると(道を踏み外すと)、それが解答プロセスのあとあとまでずっと影響してくるわけです。正しい解答をするうえでは死活問題。このあたりのルールの厳密性は高校数学、そして公式を使った計算が試される高校物理に当てはまる特徴だと思います。
| - | 20:31 | comments(0) | trackbacks(0)
つくばに科学地図を!


夕方、筑波大学に行ってきました。著者の先生にゲラ(校正刷り)を渡しに。

この大学、ものすごい広さです。いつも、つくばエキスプレスの終点つくば駅で降りてそこからバスでキャンパス内の目的地まで向かいますが、乗ってる20分のうち15分は大学の敷地内(!)。建物も巨大な段ボール箱みたいなのばかりなので、案内図を見ないと迷子になりそうです。

大学もそうですが、つくば市全体についてもJAXAや防災科学研究所など、科学研究施設が街中にたくさんあります。見学できる施設も多いし、科学施設関連の地図なんてあると便利なのでは…。

と思っていたら、茨城県科学技術振興財団が「つくばサイエンスツアー」というサイトを運営しているのを発見。でも、バス路線のしょぼい地図があるだけ…。orz。

と思っていたら、つくばから北に800キロ。北海道大学の科学技術コミュニケーター養成ユニットが、札幌市内の科学ゆかりの場所を「さっぽろサイエンス観光マップ」として、地図にしていました。

私があるといいなと思っていたのはこれ。まさにこれです。

これまで科学技術と地理を掛け合わせたものがないのが不思議でした。科学技術を時間軸で見るということについては「科学史」という確立された学問分野があります。ところが、科学技術を平面的広がりで見るということについてはほとんど試されたことがないのでは。

「『マンハッタン計画』って、ニューヨークじゃなくてこんな砂漠の中でやってたんだ」とか「ライト兄弟が初めて空を飛んだのはこんなところだったのか」といったところから科学への興味が起きることも考えられます。

また、科学の知識を得るにしても“いつ”、“だれが”、“なにを”、“どうやって”に、“どこで”という次元も加えれば、いまよりも立体的に物事を覚えることができるでしょう。

このアイデア、2、3年前に職場で「sci-tech世界地図」という企画で練っていたのですが、いろいろとわけあってボツに。ま、ライフワークとしてちょっとずつネタを貯めていって、いつかきっと世界篇と日本篇を作りたいなと思っています。

それにしても、つくばの街で見かける人は、みんな科学に詳しそうに見えてしまう。たぶん、本郷三丁目を歩いてる兄ちゃん姉ちゃんがみんな頭よく見えてしまうのと同じなんだろな。

「つくばサイエンスツアー」はこちら。
http://www.i-step.org/tour/bustour/index.htm

「さっぽろサイエンス観光マップ」はこちら。
http://d.hatena.ne.jp/costep_webteam/
| - | 21:55 | comments(0) | trackbacks(0)
フィッシングとファーミング、ネット詐欺比較


六本木の富士ゼロックス・ショウルームDocument Core TOKYOで開催していたApeos & Security Showcase 2006のセミナー「あなたの知らない世界?」に参加。なんだ? このセミナー名は…?

要は、情報家電(ネット接続のデジタルテレビやDVDレコーダなど)に特有の、(たぶん)知られざるセキュリティ問題を知っておきましょうというもの。インターネット協会委員でスパム問題などに詳しい吉田武央さんが講演しました。

世界の流れは“フィッシング詐欺”から“ファーミング詐欺”に移行しつつあるとのことです。よく聞くフィッシング詐欺とまだ聞き慣れないファーミング詐欺。それぞれ何を指しているのでしょう?

フィッシングはもともと「釣り」の意味ですが、ネット詐欺にアナロジーが成り立ちます。釣り人はネット詐欺師、釣られる魚は不特定多数のネット利用者。フィッシングの“現場”は、例えばこんなシチュエーションです。
[1](インターネットで)「ログインのためにIDとパスワードを入れてください」

ログイン名はanecdote(打ち込む)。パスワードはscitech(打ち込む)。

[2]「ログインできませんでした。もう一度IDとパスワードを入れてください」

あれ、おかしいな。ログイン名はanecdote(再度打ち込む)。パスワードはscitech(再度打ち込む)。

[3]「ログインできました。ネットショッピングをお楽しみください」

なんだ、打ちまちがえてたのか。さて、今日はなに買おうかな…。
さて。じつは[2]こそが、利用サイトを巧妙に真似た詐欺師によるサイト表示だったのです! つまり被害者は正規サイトとそっくりの詐欺サイトにIDとパスワードを打ち込んでしまったわけです。その後、[3]以降は正規サイトに再び戻ります。この被害者は、いわばルアーともいうべき詐欺サイトに引っかかってしまったわけです。

ただ吉田さんは、最近の傾向はフィッシングから、もっと悪質な“ファーミング”へと移っていると指摘。

ファーミングも、もともとは「(農夫が家畜を)飼育する」といった意味。で、ネット犯罪でのアナロジーの場合、農夫がネット詐欺師で、飼育される家畜は(またしても)ネット利用者となります。

フィッシングは「誰か釣れんかな」と不特定多数を狙った犯罪でしたが、ファーミングの場合は特定のネット利用者をターゲットに「こいつらを飼育しよう」と狙いを定めます。詐欺師はインターネットプロバイダのDSN(データベースに接続するときのショートカット的な機能)をまるごと(!)乗っ取ってしまいます。こうして、URLもディスプレイ表示もまったく普段と変わらないのに、被害者がアクセスしていたサイトはじつは詐欺サイトだった、なんて状況に陥れるわけです。

被害者には正規サイトと詐欺サイトの違いに気付かないため、普段どおりにIDやパスワードを入力したり、普段どおりにクレジットカード決済をしたりしてしまうわけです。その個人情報や代金は、ハイジャックした詐欺師のもとへとつぎつぎと流れ込んでいくというしくみです。

こうしたフィッシングやファーミングの対策としては、利用者がここは安全と思える金融機関を判断して利用するべし、とのこと。例えば、IDとパスワードの他に、さらに「確認番号」といって、タテ5列×ヨコ5行程度のマトリクスを使って「ア列3行目にある2桁の文字を入れてください」などと念押しのシステムを取り入れているネットバンクなどは比較的安全とのこと。でも正直、なんとも心許ない対策法です。

吉田さんによれば、全米ではフィッシングだけでも年間2600億円相当の被害額が出ているとのこと。日本国内でも、こうしたネット被害に会った場合、損害を保障してもらえるのは、キャッシュカードを使ってATMで引き出したときなど、かなり限られているのが現状です。

財団法人インターネット協会のサイトはこちら。
http://www.iajapan.org/
控えめの宣伝で好感の持てた、富士ゼロックスのネット犯罪対策サービス「Beat」のページはこちら。
http://www.net-beat.com/index.html
| - | 18:38 | comments(0) | trackbacks(8)
本はなぜ古くなる?(情報篇)


前回の科学篇に続いて、今回はハードではなくソフトの面から、本の中の情報の劣化について考えてみます。

本づくりのときに常につきまとうのが、情報の劣化。本は紙に印刷され、そのあと雑誌などよりも長く書店に置かれるから、内容がどんどん古くさいものになっていきます。これを私は「情報が腐る」などと呼んでいます。

情報の劣化具合は本の内容により様々。

局面や情勢が移ろいやすいものは情報の劣化が激しいです。もしいま、韓国ファン・ウソク博士の書いた幹細胞知識の最新刊が出ても、多くの人は書かれてあることには信頼をおかないでしょう。

一方、劣化しにくいテーマもあります。その代表格が数学。数学はいったん証明されると、それはほぼ間違いなく永遠の真実となります。また日々新たな証明が生まれるようなスピードもないので(基礎的な分野はとくに)、何年経っても新鮮な本として読むことができます。数学本は作り方次第ではロングセラーが狙えます。

さて、数学ならばともかく、旬な話題を扱うときに、情報をなるべく劣化させない方法はあるのでしょうか?

すぐ過去になってしまう未来のことを書かなければならないとき、「体言止め」や「体言+です。」を使うことがあります。例えば「2006年2月10日にトリノオリンピックが開幕します。」という文を閉幕後の4月ごろに読めば「古いな」と思われますが、「2006年2月10日、トリノオリンピックの開幕日だ。」などとすれば未来の話にも過去の話にもどちらにもとれ、いくぶん古さは緩和されます。

また、情報の「燻製化」とでもいわんかな、話そのものを物語調に仕立てると、古いと思われなくなる場合があります。例えば、2002年の田中耕一さんのノーベル賞受賞の話をいま報じても「なぜいまごろ?」となりますが「あの瞬間、田中さんはこんなことを考えていた」といったノンフィクションにしてしまえば、あまり古いとは思われなくなります。人は、物語に接するとき、無意識のうちにその枠内の世界に自分を入れ込んでいくのでしょう(山田太一さんが似たことを言ってました)。

さて、情報が古くなるから本が売れなくなるかといったら、そうとも言い切れません。例えば6年前に編集した環境問題の本(環境ホルモンの話が大きく載っている)や最新ニュースを扱った生物学の本などは、いまもちょびちょび売れつづけています。テーマにもよりけりですが、時事問題を扱った本でも「少なくとも5年ぐらいはもつ」というのが実感です。

一方、内容が腐らない数学の本でも、ぱったり売れなくなったものもありますし。

これらから考えると、一気にヒートアップして一気にさめるような流行を追ったテーマでないかぎりは、情報の劣化を気にしすぎる必要はないと思います(そう思うようになりました)。

書籍分野では、情報の劣化はどうしても避けられない宿命といえます。情報が劣化をしてもなお愛される本こそ、ほんとうに質の高い本なのだろうと思います。
| - | 21:53 | comments(0) | trackbacks(0)
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