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法廷の科学は真実を語るか(6)
法廷の科学は真実を語るか(1)
法廷の科学は真実を語るか(2)
法廷の科学は真実を語るか(3)
法廷の科学は真実を語るか(4)
法廷の科学は真実を語るか(5)



前妻らを殺した容疑で法廷に立ったOJシンプソン。この巨漢の向こう側とこちら側で、検察側と弁護士側が、はげしい法廷あらそいを繰りひろげていました。

しかし、その争いは“がっぷり四つ”のものかといえばそうではありません。殺害現場の血痕からDNA鑑定の結果を陪審員に示そうとした検察側。対して弁護側は「証拠管理の連鎖」という、検察側の証拠品管理体制のずさんさをつこうとしたのです。

「ごみからはごみしか出ない」。法廷でこう述べたのは、弁護側のF・リー・ベイリーです。

検察側のDNA鑑定では、殺害現場の血痕から、DNA鑑定を可能にするために ポリメラーゼ連鎖反応という方法を必要としました。DNAがATGCという4つの単純な文字でできていることを利用した‘DNAの倍々法’とでもいうべきものです。

鑑定に使われるまでに増幅されるDNAも元をたどれば、ごく微量なもの。その微量な量にわずかでも本人以外のDNAが含まれていれば、とうぜん増幅されたDNAも、本人のものかどうか疑わしくなってくるわけです。

弁護士のリーは、ロサンゼルス市警法科学研究所が血痕も含めた証拠品の数々をおなじ部屋で扱っていたこと、証拠品を扱うための手袋を交換しなかったことなどをついてきました。

そこでリーの口から出たことばが上の「ごみからはごみしか出ない」でした。いくらポリメラーゼ連鎖反応でDNAを増幅しても、元が混入物だったら鑑定しても意味がないということです。弁護側は管理の連鎖の落度をここでもついたわけです。

べつの争点として「エチレンジアミン四酢酸の検出」があります。

弁護士側は、現場に残された靴下についた結婚を「OJシンプソンを取り調べたときに採取した血液を“後づけ”したものではないか」と指摘していました。これに対して検察側は「血液を注射で採取するときには、血液が固まらぬようエチレンジアミン四酢酸を使うはずだ。もし、靴下からこの物質が検出されなければ、採取した血液を意図的に靴下に付けたものではないということになる」と対抗したのでした。

靴下は連邦捜査局犯罪科学研究所に送られました。

3日もしないうちに、毒物研究室の担当者が分析結果を発表しました。

「たいへんに微量ながら、エチレンジアミン四酢酸が検出されたといってよいかもしれない」

検察にとっては裏目に出た結果となりました。この分析結果の表現にも「完全に存在しないとはいいきれない」といった、科学特有の慎重な言いまわしが感じられます。“ほぼ皆無”であっても、“ほぼ”がつけば、わずかながら存在するということになります。少なくとも人の印象としては。

検察側は「エチレンジアミン四酢酸は食品保存物としても使われているので、食べ物を食べれば検出されてもおかしくない」と弁解しました。しかし、検察側はふつうの人から検出される量を調べるための対象資料のデータは、コンピュータからすでに消してしまっていたのです。これも、陪審員に不利な印象を与えることになりました。つづく。
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