2008.02.05 Tuesday
ナノテクノロジー信頼崩壊の危機

つみかさねてきた信頼も、ひとつのことであっというまに崩れさってしまう…。
ちかごろの菓子製造業や老舗料亭のできごとからは、そんな世のことわりが感じられますが、科学技術の分野でもおなじことがいえそうです。
ナノテクノロジー(微細加工技術)は、いまのところ日本も力を入れている科学技術の分野。じつはこの分野には、信頼崩壊の世界的な危機がありました。
ドイツで2006年3月、ふろや便器を洗うみがき粉が回収されるさわぎがありました。呼吸器の障害を引きおこしたのです。3月末までに77人が、肺にたくさんの水がたまって呼吸がしにくくなる肺水腫やほかの症状をうったえました。
この商品は「マジックナノ」という商標で知られていました。
“ナノ”とついたみがき粉が呼吸器の障害を引きおこす…。想像できるのは、ナノメートル(10億分の1メートル)寸法の微粒子が肺や気管支に入りこみ、細胞に化学作用を起こすといった光景でしょう。目に見えない世界だけあって、想像がふくらんでしまいます。
「マジックナノ」が健康被害をもたらしたという問題で、世界のナノテクノロジーへの比較的よい心象は一気に崩れようとしていました。しかし、信頼崩壊は、すんでのところで避けられました。
2か月ほどして「マジックナノ」による健康被害は、ナノ粒子のしわざではないということが明らかになったのです。
しかし、世は風評がつきもの。「マジックナノによる被害はナノ粒子のしわざにあらず」とはいっても、ナノテクノロジーへの心象の悪さは、残されてもしかたないところ。
そうならなかった理由を、事情にくわしい研究者は「評価機関の事件後の対応がわりかししっかりしていたから」と分析しています。評価機関とは、なにか事件や問題があったとき原因などをみきわめる第三者の団体のこと。マジックナノ問題では、連邦リスク評価研究所が評価にあたりました(画像は3月末時点での注意よびかけ)。
研究所のレネ・ジマー氏が5月下旬に「(呼吸障害の問題が)ナノ粒子と関わっているという可能性はいっさい考えなくてよい」と宣言。それからも情報をきちんと知らせることで、“火消し”に成功したといいます。
すこしずつ貯めてきた預金も、ひとつのできごとで一気になくなってしまう。“信頼残高”のこわさです。その「ひとつのできごと」が起きないにこしたことはありませんが、起きてからの対応によっても結果はおおきく変わるようです。
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