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「伝世古」と「土中古」


古美術品などのような、文化財(文化的にお値打ちがある品々)は、国や地域によって“未来への受けつがれ方”がちがいます。

日本の歴史的な文化財の「宝庫」といえば、奈良・東大寺にある正倉院がまず思い浮かびます。聖武天皇が死んだあと、生前の愛用品などを、この正倉院に収めました。

奈良時代に正倉院の管理をしていた人物は、遺品の数々を大事に扱っていたようです。布で包み、唐櫃(とうひつ)という箱の中に入れ、さらにその櫃が床にじかに着かぬよう、四隅に脚を付けて保管したといいます。くわえて正倉院は高床式。湿気から遺品を守ることもできます。

こうして正倉院の歴史的な文化財は、千年以上ものあいだ、世代から世代へと受け継がれていきました。

いっぽう、中国など大陸の歴史的文化財は、どのように受け継がれているのでしょう。

中国は、全土を支配する“国”がめまぐるしく変わったため、千年以上にわたり人から人へと受け継がれるような歴史的文化財はありません。

よく耳にするのは、「古都の地中から何千、何万の鏡や器が見つかった」という話。秦の始皇帝の墓からは、「明器」とよばれる人とおなじ大きさの人形などが6000体も見つかっています。始皇帝が“あの世”でもおなじ生活を営む、と信じられていたため、おともする人を模した人形を墓のまわりに置いたのです。

日本の正倉院に置かれている遺品ような、人から人へと伝わっていく歴史的文化財を「伝世古」といいます。いっぽう、中国の始皇帝の名器のような、土の中から発掘されるかたちで結果的に伝わっていく歴史的文化財を「土中古」といいます。

「日本のほうが、文化財の扱い方がていねい」。そう思えるかもしれません。

たしかに、その一面はありそうです。けれども、貴重な品々がそれほど多くなかったために、正倉院で大事に保管することができた、という考え方もできるようです。いっぽうの中国では、土に埋めないと保存できないほど、遺品の数も多かったとか。

あなたの家にある“お宝”は、どのように保管しますか。物騒な世の中、いっそのこと未来に「土中古」として発掘されるよう、土に入れておくという手段もありなのかも…。
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