科学技術のアネクドート

<< 「命の設計図」を報じる(1) | main | 「伝世古」と「土中古」 >>
書評『生命の未来』
選挙の結果、日本の政治の未来はかなり見づらくなったようです。いっぽう、こちらの未来のほうはどうでしょうか。原著は2002年に出版されています。

『生命の未来』エドワード・O・ウィルソン著 山下篤子訳 角川書店 2003年 279ページ


進化の結果、自然の世界ではさまざまな生物が生を営んでいる。生物や遺伝子、生体系の種類がたくさんいる状態を「生物多様性」という。

著者のエドワード・O・ウィルソンは、その生物多様性を大切にしようという主義をもっている。この本で、生命の未来を憂う。

著者に対して理想主義者を描く人も多い。けれども、本を読むかぎりは、まったくの理想主義者というわけではなさそうだ。たとえば安全性が保証されれば遺伝子組み換え技術の利用もいとわない。また、財力のあるNGOが原生林の土地を競売で購入することで自然を守るという案をさしだす。現実的視点に立った目ももっているのだ。

環境問題を話すときには、次のようなふたつの根本的な葛藤があるだろう。この本ではその葛藤に対する著者の答が示唆されている。

ひとつは「環境か経済か」といった優先順位の選択について。つまり「地球の遠い将来を見すえる」といった長い目をもつか、「今日明日の利益を追求する」という短い目をもつかの問題だ。

著者が言うには、地球環境を保全することは結果的に経済をうるおすことになる。たとえば、生物多様性から利益となる資源を求めようとするバイオプロスペクティングという考えがある。米国の国立公園で好熱菌が発見されて莫大な経済的利益がもたらされた。生物多様性が保たれているおかげだ。

もうひとつの葛藤は、生物が一種や二種だけ絶滅したからといって、大勢には影響ないではないかという論だ。自分が選挙で投票したって当選者がかわるわけではないという感覚と似たものかもしれない。

ところが、現実は一種や二種が絶滅するどころの話ではないという。絶滅の危険に晒されている生物の一覧である「レッドリスト」をもとに計算すれば、21世紀中に哺乳動物の4分の1、鳥類種の8分の1が絶滅する見込みだ。年間の絶滅率で計算すると、最悪の場合1000分の1から100分の1種が絶滅するという。ここまで数字が跳ねあがると、「種の絶滅のひとつやふたつ」といった話ももはや成り立たなくなってくる。

環境問題は「なんとなく」関心を持っている人が多い。そうした「なんとなく」関心を持っている人たちを取り込んで世論をつくっていくためには、やっぱりこうした本の存在を知らしめて、じっくりと読んでもらうことが重要なのだろう。

『生命の未来』はこちらで。
http://www.amazon.co.jp/生命の未来-エドワード・オズボーン-ウィルソン/dp/4047914622/ref=sr_1_3/249-7485572-0365152?ie=UTF8&s=books&qid=1185726271&sr=1-3
| - | 23:59 | comments(0) | -
コメント
コメントする









CALENDAR
S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< July 2018 >>
SPONSORED LINKS
RECOMMEND
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで (JUGEMレビュー »)
サイモン シン, Simon Singh, 青木 薫
数学の大難問「フェルマーの最終定理」が世に出されてから解決にいたるまでの350年。数々の数学者の激闘を追ったノンフィクション。
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT TRACKBACK
amazon.co.jp
Billboard by Google
モバイル
qrcode
PROFILE