科学技術のアネクドート

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ゲームの主人公から遺伝子の名前


「遺伝子」や「DNA」などといった科学のことばは、世の中で「受け継がれていく精神」といった意味合いで使われています。「科学から社会へ」ことばが転じた例といえます。

ぎゃくに、「社会から科学へ」ことばが転じるときもあります。

15年ほどまえ、セガというゲーム会社が、任天堂のマリオ・ブラザーズに対抗するように、ゲームで「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」という主人公を登場させました。「ソニック」は「音速の」という意味。「ヘッジホッグ」は「ハリネズミ」という意味。ハリネズミのようなキャラクターが画面の中を速く走り回る…。『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』はそんなゲームでした。

さて、話はかわって1995年。米国のエリック・ヴィーシャウスとドイツのクリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルトという生物学者が「初期胚発生の遺伝的制御に関する発見」という業績によりノーベル賞を受賞しました。

「胚」とは、精子と卵子が出会って間もない段階の細胞のこと。皮膚や骨や臓器などの、体のいろいろな組織や器官が作り出される前の段階の、枝分かれの源となる細胞です。ふたりは、この胚の枝分かれを制御する遺伝子を見つけたのです。

ノーベル賞をもたらしたその遺伝子は、いくつかの種類があることがわかっていたのですが、それらをまとめて「ヘッジホッグ遺伝子」とよんでいました。機能を果たさなくなると、胚にハリネズミの針のような突起物が生えてくるからです。

ヘッジホッグ遺伝子の研究により、哺乳類には似た3種類の遺伝子があることがわかりました。そして、ハーバード医科大学のロバート・リドルという博士号取得研究者が、ヘッジホッグ遺伝子のうちもっとも胚の枝分かれに影響をあたえる遺伝子を特定。「ナントカ・ヘッジホッグ遺伝子」と名付けていたこれまでの例から、「ソニック・ヘッジホッグ遺伝子」と名付けたのです。

リドル博士が、とりわけ“セガ派”のゲーム好きだったかどうかはわかりません。けれども、この命名に対しては、多くの科学者たちが「崇高なる生物の分子を価値のないものにおとしめるものだ」などと、反対の声を上げたそうです。

ゲノムの読み取りがなされ、「○○に関係する遺伝子」がつぎつぎと見つかる時代。“美名”でも“悪名”でも、人々の記憶に留まる遺伝子の命名法が大切だということでしょうか。
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