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「外野フライ三進」で観客からはため息でなく拍手

写真作者:sunco

野球の試合では、攻撃で「一死二塁」という状況が起きます。攻撃側は三死になるとその回の攻撃は終了となってしまうため、この状況では一死のうちか、せめて二死のときに得点をあげたいところです。

このとき、打者が外野フライを打ったとします。守備側の外野手が球をとると、二塁にいた走者が走って三塁へ進みました。これで、「二死三塁」となりました。

この展開は、野球の試合ではごくふつうにあることです。

では、プロ野球や高校野球などの観客がいる試合で、この展開が起きたときの「攻撃側を応援する観客たちの反応」は、どういったものでしょうか。観客は、打者がヒットを打ったり、凡打に倒れたりするごとに、なにかしら一喜一憂するものです。この「打者が外野フライを打って二死となり、二塁走者が三塁に進んだ」という場面では、攻撃側を応援する観客たちは、喜ぶでしょうか、憂うでしょうか。

たいていの場合、喜びをあらわす観客の反応を見聞きすることができます。つまり、観客席から拍手が起きるわけです。おそらくこの拍手の多くは「二塁走者が三塁に進むことができた」という成果に対するものでしょう。

いっぽう、憂いをあらわす観客の反応はあまり見聞きできません。もし憂いがあるとすれば、それは「一死から二死になってしまった」ことに対してのものでしょうが、すくなくとも観客席全体からため息が聞かれるようなことはありません。拍手にかき消されるということもあるかもしれませんが……。

統計学からすれば、観客にとってこの「一死二塁が二死三塁になる」という展開は「憂うべき」結果だったといえます。このあと得点しそうかを示す確率も、このあと何得点できそうかを示す得点期待値も、大きく下がってしまうからです。

プロ野球などの試合では、1試合ごとに細かく記録がとられているため、統計をとることができます。実際に統計をとっている人たちもいて、10年分ほどから計算した統計結果を公表するなどしています。

それによると、得点確率については、一死二塁のときの39.6パーセント。いっぽう二死三塁のときの得点確率は21.1パーセントに下がります。

また、得点期待値については、一死二塁では0.682点。いっぽう二死三塁では0.349点に下がります。

どの期間を対象にしたかによって値はすこしは異なってきますが、確実にいえるのは「一死二塁から二死三塁になることで、得点確率も、得点期待値も大きく減ってしまう」ということです。

つまり、冒頭の展開では、得点から遠ざかってしまったにもかかわらず、応援する観客たちは拍手をして喜ぶことがあるということになります。

では、拍手をする観客たちは、ほんとうに「一死増えて、二塁走者が三塁に進んだこと」をよろこんでいるのでしょうか。

観客たちにも試合観戦をめぐる習慣や文化はあるものです。「打者が飛球を打って走者が三塁に進む場面では拍手をするものだ」ということが、観客たちのあいだで当たりまえのこととなっているのかもしれません。その背景には「打者が(飛球でなく)犠牲バントを打って、走者が三塁に進む」ことで攻撃側の監督のねらいが成功したときに拍手をすることからきているのでしょう。

さらに、拍手という行為には「ほかの人たちがしているから、自分もしなければならない」という同調圧力があるため、ますます「打者が飛球を打って走者が三塁に進む場面では拍手をする」が当たりまえのことになったのかもしれません。

「一死二塁」の状況で打者が外野フライを打って「二死三塁」となったとき、ため息をついている観客がいれば、かなりの野球通か、同調圧力に屈しないことを強く意識している人かでしょう。

参考資料
Stand for liberty 2017年5月6日付「各シチュエーションごとの得点期待値なんて誰も教えてくれなかった」
http://georgia-yarou.hatenablog.com/entry/2017/05/06/143324
1.02 2016年3月24日付「現在のセイバーメトリクスで基礎的な考え方となっている得点期待値について」
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53003
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