科学技術のアネクドート

<< 「取材した人にまた取材することはあまりない」と記者 | main | 感染症対策、子ども界では十分、おとな界では…… >>
「光と影」描いて異彩を放つ
江戸時代につくられた浮世絵にはさまざまな人物が描かれています。浮世絵は「うき世」つまり憂き儚い世の風俗をとりあげたものですから、そこで生きる人物たちが描かれるのももっともなことといえます。

これら浮世絵における人物の描かれかたは、たいてい塗り絵のように色が一面べたに塗られるというもの。背景の空などを描くときに色をだんだん濃くしていく「ぼかし」の技を使うのとはちがい、人物は濃淡や陰影なしに描かれることがほとんどです。

そうしたなかで、人物やそのまわりに陰影をつけた、ひときわ異彩を放つ作品があります。


葛飾応為作「吉原格子先之図」

絵師の葛飾応為(かつしかおうい、生没年不詳)が文政年間(1818-1830)か天保(1830-1844)年間ごろ描いたとされる「吉原格子先之図」では、提灯や行灯、また部屋の灯に照らされた人物たちの姿が、陰影をつけて描かれています。

とくに、妓楼のなかを覗いている見物人たちに当たる光や、提灯の下の地面に当たる光は、明から暗へ、また暗から明へとぼかされていて、夜の遊郭の光景を浮きたたせています。

もともと、浮世絵師たちのあいだには、人物やそのまわりを光と影のぼかしで描くという発想そのものが、ほぼなかったのかもしれません。いっぽうの応為は、光と影を描きました。

応為が光と影を描いたのには、理由があったとされます。

そのひとつとされるのが、応為が西洋画に関心をもっていたというもの。応為が生きていた19世紀前半、すでに西洋画では光と影を描く技法が築かれていました。オランダの画家レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)の作品に見られる明暗はその一例です。応為はこうした西洋画の技法への関心が深かったといわれています。

また、こうした光と影をつけた絵の文化があるオランダ人から依頼されて、応為はこの「吉原格子先之図」を描いたのだという説もあります。応為の父である葛飾北斎(1760-1849)の工房がオランダ商館長から頼まれてつくった水彩画と寸法がおなじであることなどが、その根拠とされます。

ただし、応為が頼まれてつくったほかの絵とちがって、この絵は安物の紙に描かれているため、「吉原格子先之図」は応為がみずから描きたくて描いた絵だという説もあるようです。

「光と影を描く」ということもまた、二次元の神や画布のうえに人物や風景を浮かびあがらせる手法であるということを、この「吉原格子先之図」は直観的に示しています。

参考資料
デジタル版 日本人名大辞典+Plus「葛飾応為」
https://kotobank.jp/word/葛飾応為-1065616
朝日日本歴史人物事典「葛飾応為」
https://kotobank.jp/word/葛飾応為-1065616
太田記念美術館「葛飾応為『吉原格子先之図』 光と影の美」
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/2013_katsushikaoi
Internet Museum 2013年2月1日掲載「葛飾応為『吉原格子先之図』 光と影の美」
https://www.museum.or.jp/report/417
ALG 2015年9月23日付「光と影の幻想を奏でる女性浮世絵師・葛飾応為」
https://alg.jp/blog/light_jp-painting02/
ウィキペディア「葛飾応為」
https://ja.wikipedia.org/wiki/葛飾応為
新潮社「北斎の娘にして『江戸のレンブラント』天才女絵師・葛飾応為の知られざる生涯。」
https://www.shinchosha.co.jp/book/339971/
| - | 12:48 | comments(0) | -
コメント
コメントする









CALENDAR
S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930   
<< September 2020 >>
SPONSORED LINKS
RECOMMEND
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで (JUGEMレビュー »)
サイモン シン, Simon Singh, 青木 薫
数学の大難問「フェルマーの最終定理」が世に出されてから解決にいたるまでの350年。数々の数学者の激闘を追ったノンフィクション。
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
amazon.co.jp
Billboard by Google
モバイル
qrcode
PROFILE