科学技術のアネクドート

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「代筆」と「代撮」はちがう


写真作者:Willis Lam

「代筆」という作業があります。本をつくるとき、本の表紙に名前の載る著者に代わって、べつの人が原稿を書くようなことをいいます。代筆ににた作業に「ゴースト・ライティング」とよばれるものがあります。ちがいは明確ではありませんが、ゴーストライティングの場合は実際に原稿を書いた人の名前が本のどこにも載らないのに対し、代筆の場合は本の終わりのほうのページに「執筆協力 誰々」や「編集協力 誰々」のように名前が載ることが多いようです。

世に出ている本のかなりのものが、代筆役の人の携わったものといえます。企業の経営者などが著すビジネス書、医師が著す健康書、科学者が著す科学書などには、代筆による本が多くあります。

いわば「書く世界」において代筆がなかばあたりまえのようになっているわけです。では、「撮る世界」においてはどうでしょう。代筆ならぬ代撮の作業は生じるのでしょうか。

ある取材では、こんな場面が見られたといいます。

その記事の撮影担当者である写真家が取材対象者の撮影に臨みました。企業のなかのとても静かな場所でした。大きな声を出すことがはばかられます。取材には写真家の助手も参加しています。

写真家は、取材対象者とカメラの位置を定めます。取材対象者とカメラの距離は20メートルほどと遠いものでした。

写真家は、シャッターを押すごとに取材対象者に「すこしあごを引いてください」「歯を見せてにっこり行きましょう」などと細かい望みを出します。

写真家にとってたいへんだったのは、カメラを置いたところからこれらの望みを伝えられないこと。大きな声になってしまうからです。シャッターを押しては、いちいち取材対象者のところまで走っていき、望みを伝え、またカメラのところに戻ってシャッターを押すのでした。

これだと時間がかかります。

そこでその写真家は、カメラを三脚で固定させて、助手にシャッターを押させることにしました。写真家本人は取材対象者のすぐそばにいます。そして手ぶりで助手に「押して!」と合図を出します。

撮られた写真は、すぐに写真家の手元のタブレット端末で見られるようになっています。

「代撮」は文字どおりに捉えると「代わりに撮る」ことになります。この場合、シャッターを押すという作業は写真家でなく助手がおこないました。ただし、シャッターを押すだけ。「撮る」ことは、位置ぎめ、構図ぎめ、照明準備、取材対象者への指示などもあるため、「シャッターを押すこと」よりもより広い意味があるといえます。そのため、この助手のしたことは「代撮」というよりは「代押し」といえるでしょう。

写真家が「撮影 誰々」とみずからの名前を出しながらも、その撮影をべつの人物がおこなっているという場合は「代撮」といえそうです。しかし、「代筆」にくらべてあまり聞かないことから、代撮がおこなわれることは代筆より明らかにすくなそうです。代筆は許されやすいのに対し、代撮は社会的に許されていないというちがいも背景にはあるのでしょう。

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